PSAを援用した非常用ディーゼル発電機 機関ターニング操作廃止に関する検討について

公開日:
カテゴリ: 第5回
1. はじめに
東海第二発電所は定格電気出力1100MW の BWR5型の 発電所である。外部電源系統へは 275kV系で2回線、 154kV 系で1回線接続しており、外部電源喪失時のバ ックアップとして 3 台の非常用ディーゼル発電機 (DG)を備えている。 - 非常用ディーゼル発電機については1ヵ月に1回 以上定期試験にて健全性を確認することが保安規定 により求められており、定期試験手順書により機関始 動前にはハイドロロック注「防止の為、ターニング操 作を実施することとなっていた。
ターニング操作は約 30 分程度の非常用ディーゼル 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 統を待機除外とみなさないという保安規定の条文に よりターニングの実施は認められていた。 * 但し、ターニングの効果(メリット、デメリット) について、定量的に評価・検討した結果が無く、ハイ ドロロック防止という定性的な理由によりターニン グを実施していた。 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 ング操作の実施可否についての意思決定を行 - 368 -2. ターニングの効果について表 1 に示すようにターニング操作にはプラントの 安全性に対して正負両面の効果があり、定性的な評価 のみでは実施の可否を判断することが難しい。・デメリットメリット機関始動前にハイドロ 約 30 分間の DG 機能ロックの発生を確実に 喪失を伴う。| 予見し、防止できる。主 効果|副次効果定期試験において | 非常時以外の始動にお 機関始動条件を緩 | いて機関摺動部の磨耗 和している。 を極力低減する。表1: ターニング操作の効果について2.1 ターニングのデメリット - 定期試験に伴いターニング操作を実施することの 最大のデメリットは1ヵ月に1回、約 30 分間非常用 ディーゼル発電機が機能喪失することである。また、非常用機器の定期試験という観点から考える と、機関始動前に行うターニング操作は機関摺動部へ の予潤滑行為を含んでおり、機関の始動条件を多少な りとも緩和していることとなる注る。その為、厳密に 非常時を模擬した試験とは言い切れないというデメ リットも含んでいる。注2:但し、機関は非常時には予潤滑をしなくても問 題なく始動するよう設計されている。2.2 ターニングのメリットターニング操作の主たる目的はハイドロロック発 生の防止である。なんらかの原因(不具合)によりシ リンダ内部に侵入した水分、油分を機関始動前に確実 に検知し、それらによって生じるハイドロロックによ るピストン、シリンダ、連接棒、クランクシャフト等 の損傷を未然に防止する役割を担っている。つまり、 非常時以外の始動における機関の損傷確率を低減す る(=非常用機器の信頼性向上)という面からプラン トの安全性向上に貢献していたと考えられる。また、非常時以外の始動時にはターニングにより機 関の予潤滑を行うことにより、摺動部の磨耗を極力低 減することも期待されていた。3. ターニングの効果に関する定量的(半定量的)な評価結果について これまで述べてきたように、ターニング操作には正 負両面の効果があり、定性的な評価のみでは実施の可 否を判断できない。 ・ よって本検討においては PSA を援用することによ り、ターニング操作が炉心損傷頻度 (CDF)をどの程 度増加させているか定量的に評価した。またその結果 と対比させるために、ハイドロロックの発生状況を調 査し、半定量的にハイドロロックの発生確率を求めた。ターニング操作を実施することのリスク (△ CDF) に対するリターン(ハイドロロックの発生を防止=ハ イドロロックの発生確率がゼロ)を数値で比較した。 ・ その結果、支払うリスクに対するリターンが有意で ないことが確認されたため、東海第二発電所ではター ニング操作の廃止を決定した。3.1 ターニングのデメリットに関する定量的な評価結果について3.1.1 PSA 評価モデルについて * 本評価には出力運転時内的事象レベル 1PSA モデル を用いた。このモデルに使用した入力パラメータは、 故障率データについては主として米国データ、起因事 象発生頻度については主として平成 17 年度末国内運 転実績データを用いている。3.1.2 評価パラメータの選定について * 本検討における評価パラメータとして 2 つのパラ メータを選定した。 1条件付炉心損傷確率の増加量(ICCDP)運転管理状態が変更となった期間が継続する間 のリスク増分の積算値。保安規定で運転上の制限 が課されている機器の許容待機除外時間(AOT)中 のリスク増加量を評価する場合などに用いられる。本検討ではターニング操作 1 回当たり、つまり 30 分間の DG の機能喪失による ICCDP を評価した。1901/01/03ICCDP = A CDF × (OT/365) [-] △ CDF = CDF - CDFRAse[/ 炉年] CDF : 運転管理状態に変更があった場合の CDF CDFRAse: 通常プラント運転状態における CDFOT:運転管理状態変更継続期間 [日] 2年間の炉心損傷頻度増分(△ CDF)本検討では A CDF として上記1で求めたICCDP に ついての DG 3台、12 ヶ月間の積算値として用い た。つまりターニング操作を 1 運転サイクル継続 した際のA CDF として評価した。ACDF =Poc ×12ヶ月 [/炉年]3.1.3 評価結果について - 東海第二発電所の通常運転状態での CDF(CDFRAS)は 上記モデルにより以下のように評価されている。CDFRAse = 2.8 × 10-*[/炉年](点推定値) 本検討では3台の DG それぞれについて 3.1.2 で述 べた1、2のパラメータに関する評価を行ったが、1 の ICCDP については代表的に最も影響の大きかった ものを表2に示す。 | ICCDP | 1.7 X 10-11 [/1回] |A CDF | 4.2 × 10-10 [/炉年] 表 2 : DG ターニング操作に関する PSA の結果3.1.4 評価結果の規制への適合性について - 参考として、3.1.3 のターニング操作のリスクに関 する PSA の結果について、現在規制側で検討中のリス ク許容基準値案への適合性を確認した。「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまと め」(平成 15 年 12月、原子力安全委員会安全目標専 門部会) 及び「発電用軽水型原子炉施設の性能目標に ついて一安全目標案に対応する性能目標について一」 (平成18年3月 28 日、原子力安全委員会安全目標専 門部会)によると発電炉における安全目標及び性能目 標について以下のように評価すべき項目と定量的な 評価基準の案が示されている。施設の敷地境界付近の公衆の個100/年 安人の平均急性死亡リスク程度未満 全 | 放射線被ばくによって生じ得るがんによる、施設からある範囲の | 10°/年 距離にある公衆の個人平均死亡程度 未満 リスク104/年 CDF(炉心損傷頻度)程度未満105/年 CFF(格納容器機能喪失頻度)程度未満 表3:リスクの低減目標値全目標一性能目標表 3 の CDF、CFF の性能目標を同時に満たすことが 発電炉に対する性能目標の適用条件となっている。また「原子力発電所の安全規制における『リスク情 報』活用の基本ガイドライン(試行版)」(平成 18 年 4月、原子力安全・保安院)によるとリスクの変化量 及び変化割合については“リスクが有意に増加しない ことを原則とする”という表現にとどまっており、更 に“その抑制水準については、安全規制への「リスク 情報」の活用経験等を踏まえて定めることとする“と なっている。 更に「保安規定記載事項の妥当性評価に関する報告 書」(平成19年2月、原子力安全基盤機構)によると、 我が国でのリスク許容基準の検討例として・待機除外1回当たりのリスク暫定抑制水準:条件付炉心損傷確率増分(ICCDP)・年間の許容リスク増分:年間の炉心損傷頻度の増分(△ CDF) が示されており、具体的な基準値として表4のように記載されている。 | ICCDP。 | 5 × 107 [/1回]A CDF 1 x 10-6 [/炉年] 表 4:リスク許容基準値の検討例本検討では一つの検討対象として表 4 のリスク許 容基準値への適合性を確認した。1901/01/04ラメー東海第二発電所に 評価パ 規制側許容基準値 | おける DG ターニン (案)グ操作のリスクに関する PSA 結果 5 × 1071.7 × 10-11 ICCDP [/1回][/1回] 1 × 1004.2 × 10-10 [/炉年][/炉年] 表 5 :PSA 結果の規制への適合性確認結果A CDFその結果、表5に示す通り ICCDP、A CDF それぞれ について表 4 の基準値を大幅に下回る値であり、無視 し得る程度のリスク上昇であるとの結論を得た。3.2 ターニングのメリットに関する半定量的な評価結果について ハイドロロックの発生確率を半定量的に評価する 為、国内プラントのハイドロロックの発生事例を調査 した。その結果、表6の2件の事例が確認された。表 6 の国内での現在までのハイドロロック発生状 況を考えると、表 2 で示した東海第二発電所における ターニング操作のリスクについての PSA 結果に対し てハイドロロックの発生確率は同程度かそれ以下の発生事象| ハイドロロックターニング時にインジケータコックより油排出確認原因| 製造時のキリ穴加工ミスにより、一部「注油ポンプ出口鋼球(逆止弁)及びシート部に異物 薄くなっていた箇所から漏えい 混入し、油が連続注入されていた ・連接棒曲がり、なし ・シリンダーライナー割れ(始動前に発見した為)被害処置連接棒、シリンダーの交換異物除去ターニング | の実施状況表 6 : 国内プラントのハイドロロック発生事例水準であると考えられる。また、原因まで考慮すると東海第二発電所の DG は キリ穴加工構造ではないので、キリ穴加工ミスによる ハイドロロックは発生しない。更に表6の2件ともヒ ューマンエラーに起因するハイドロロック事例であ るため、異物混入防止の徹底、作業の品質向上等の努 力により当該ヒューマンエラーの発生を抑制するこ とが可能であり、同時にハイドロロックの発生確率を 低減することが可能であると考えられる。4. ターニング操作以外のハイドロロック防止策について 機関始動前にハイドロロックの予兆を発見し、未然 に防止するにはターニング操作を実施することが一 番確実な方法である。 _ しかし、ターニング操作以外にもシリンダ内に液体 が漏れこんでいないか確認する方法が表 7 の通りあ り、以前から実施されていた。また、保全技術の向上ともあいまってターニング操 作を廃止しても、ハイドロロックが起きる可能性はき わめて低いと考えられる。1901/01/05| ハイドロロック防止策。確認頻度確認し易さ検知の確実性0| ターニング操作1回/1ヵ月インジケータコックからの「同左 (定期試験)排出により確認 但し、非常時以外の機関始 動前には常時実施常時警報発報にて確認シリンダ 浸水警報ピストンの位置により検知 性能が変化 (上死点にあるピストンは 検知しずらい)注油装置 鋼球位置1回/1日 (巡視)o 目視により確認潤滑油以外の漏えいには無表 7 :ハイドロロック防止策について 表7:ハイドロロック防止策について5. ターニング廃止に伴う影響について。 や所内電源系がクリティカル工程となるような定期 - 東海第二発電所ではターニング操作廃止後、1運転 検査時には、ターニング操作廃止が定検短縮にも微力 サイクル未満しか経過しておらず、今後ターニング操 ながら貢献するものと考えられる。よってターニング 作廃止による機関への影響について状態監視保全等 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から により機関摺動部の劣化速度をはじめとするパラメ も非常に有用であると考えられる。 ータを注意深く監視していくことが必要である。また 監視により劣化速度の上昇等、有意な変化が見られた - 6. まとめ 場合には速やかにその変化がプラントの安全性に与 12 東海第二発電所では非常用ディーゼル発電機のタ える影響を定量(半定量)評価し、再度ターニングの ーニング操作について支払うリスク (炉心損傷頻度の 実施可否に関する意思決定を行うことが肝要である 上昇)に対して、得られる効果(ハイドロロックによ と考える。る DG の損傷を防止=非常用機器の信頼性向上)が有 また、本論とは少しそれる話ではあるが、東海第二 意でないとの判断からターニング操作の廃止を決定 発電所ではターニング操作に関するヒューマンエラ した。 ーにより過去に数回の非常用ディーゼル発電機の待 本検討では操作廃止という結論に至ったが、最も重 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。ター 要な点は正負両面の影響をもたらす運転操作、作業等 ニング操作は夏場には室温が 40°Cを超えるような劣 について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ 悪な環境下で行う作業であり、また繰り返し作業も多 たという点であると考える。 いことからヒューマンエラーの発生し易い操作でり、以上 潜在的に DG の信頼性を低下させる可能性があった。更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 ディーゼル発電機の試運転時、DG 総合性能試験時 (LOCAFLONPA 信号を同時に投入し、DG 起動後の各負 荷が自動起動していく状態を確認する試験)にも機関 始動前にターニング操作を行っていたことから、DG 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。 更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ - 372 -“ “?PSA を援用した非常用ディーゼル発電機 機関ターニング操作廃止に関する検討について“ “矢吹 健太郎,Kentaro YABUKI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)