PSAを援用した非常用ディーゼル発電機 機関ターニング操作廃止に関する検討について
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カテゴリ: 第5回
1. はじめに
東海第二発電所は定格電気出力1100MW の BWR5型の 発電所である。外部電源系統へは 275kV系で2回線、 154kV 系で1回線接続しており、外部電源喪失時のバ ックアップとして 3 台の非常用ディーゼル発電機 (DG)を備えている。 - 非常用ディーゼル発電機については1ヵ月に1回 以上定期試験にて健全性を確認することが保安規定 により求められており、定期試験手順書により機関始 動前にはハイドロロック注「防止の為、ターニング操 作を実施することとなっていた。
ターニング操作は約 30 分程度の非常用ディーゼル 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 統を待機除外とみなさないという保安規定の条文に よりターニングの実施は認められていた。 * 但し、ターニングの効果(メリット、デメリット) について、定量的に評価・検討した結果が無く、ハイ ドロロック防止という定性的な理由によりターニン グを実施していた。 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 ング操作の実施可否についての意思決定を行 - 368 -2. ターニングの効果について表 1 に示すようにターニング操作にはプラントの 安全性に対して正負両面の効果があり、定性的な評価 のみでは実施の可否を判断することが難しい。・デメリットメリット機関始動前にハイドロ 約 30 分間の DG 機能ロックの発生を確実に 喪失を伴う。| 予見し、防止できる。主 効果|副次効果定期試験において | 非常時以外の始動にお 機関始動条件を緩 | いて機関摺動部の磨耗 和している。 を極力低減する。表1: ターニング操作の効果について2.1 ターニングのデメリット - 定期試験に伴いターニング操作を実施することの 最大のデメリットは1ヵ月に1回、約 30 分間非常用 ディーゼル発電機が機能喪失することである。また、非常用機器の定期試験という観点から考える と、機関始動前に行うターニング操作は機関摺動部へ の予潤滑行為を含んでおり、機関の始動条件を多少な りとも緩和していることとなる注る。その為、厳密に 非常時を模擬した試験とは言い切れないというデメ リットも含んでいる。注2:但し、機関は非常時には予潤滑をしなくても問 題なく始動するよう設計されている。2.2 ターニングのメリットターニング操作の主たる目的はハイドロロック発 生の防止である。なんらかの原因(不具合)によりシ リンダ内部に侵入した水分、油分を機関始動前に確実 に検知し、それらによって生じるハイドロロックによ るピストン、シリンダ、連接棒、クランクシャフト等 の損傷を未然に防止する役割を担っている。つまり、 非常時以外の始動における機関の損傷確率を低減す る(=非常用機器の信頼性向上)という面からプラン トの安全性向上に貢献していたと考えられる。また、非常時以外の始動時にはターニングにより機 関の予潤滑を行うことにより、摺動部の磨耗を極力低 減することも期待されていた。3. ターニングの効果に関する定量的(半定量的)な評価結果について これまで述べてきたように、ターニング操作には正 負両面の効果があり、定性的な評価のみでは実施の可 否を判断できない。 ・ よって本検討においては PSA を援用することによ り、ターニング操作が炉心損傷頻度 (CDF)をどの程 度増加させているか定量的に評価した。またその結果 と対比させるために、ハイドロロックの発生状況を調 査し、半定量的にハイドロロックの発生確率を求めた。ターニング操作を実施することのリスク (△ CDF) に対するリターン(ハイドロロックの発生を防止=ハ イドロロックの発生確率がゼロ)を数値で比較した。 ・ その結果、支払うリスクに対するリターンが有意で ないことが確認されたため、東海第二発電所ではター ニング操作の廃止を決定した。3.1 ターニングのデメリットに関する定量的な評価結果について3.1.1 PSA 評価モデルについて * 本評価には出力運転時内的事象レベル 1PSA モデル を用いた。このモデルに使用した入力パラメータは、 故障率データについては主として米国データ、起因事 象発生頻度については主として平成 17 年度末国内運 転実績データを用いている。3.1.2 評価パラメータの選定について * 本検討における評価パラメータとして 2 つのパラ メータを選定した。 1条件付炉心損傷確率の増加量(ICCDP)運転管理状態が変更となった期間が継続する間 のリスク増分の積算値。保安規定で運転上の制限 が課されている機器の許容待機除外時間(AOT)中 のリスク増加量を評価する場合などに用いられる。本検討ではターニング操作 1 回当たり、つまり 30 分間の DG の機能喪失による ICCDP を評価した。1901/01/03ICCDP = A CDF × (OT/365) [-] △ CDF = CDF - CDFRAse[/ 炉年] CDF : 運転管理状態に変更があった場合の CDF CDFRAse: 通常プラント運転状態における CDFOT:運転管理状態変更継続期間 [日] 2年間の炉心損傷頻度増分(△ CDF)本検討では A CDF として上記1で求めたICCDP に ついての DG 3台、12 ヶ月間の積算値として用い た。つまりターニング操作を 1 運転サイクル継続 した際のA CDF として評価した。ACDF =Poc ×12ヶ月 [/炉年]3.1.3 評価結果について - 東海第二発電所の通常運転状態での CDF(CDFRAS)は 上記モデルにより以下のように評価されている。CDFRAse = 2.8 × 10-*[/炉年](点推定値) 本検討では3台の DG それぞれについて 3.1.2 で述 べた1、2のパラメータに関する評価を行ったが、1 の ICCDP については代表的に最も影響の大きかった ものを表2に示す。 | ICCDP | 1.7 X 10-11 [/1回] |A CDF | 4.2 × 10-10 [/炉年] 表 2 : DG ターニング操作に関する PSA の結果3.1.4 評価結果の規制への適合性について - 参考として、3.1.3 のターニング操作のリスクに関 する PSA の結果について、現在規制側で検討中のリス ク許容基準値案への適合性を確認した。「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまと め」(平成 15 年 12月、原子力安全委員会安全目標専 門部会) 及び「発電用軽水型原子炉施設の性能目標に ついて一安全目標案に対応する性能目標について一」 (平成18年3月 28 日、原子力安全委員会安全目標専 門部会)によると発電炉における安全目標及び性能目 標について以下のように評価すべき項目と定量的な 評価基準の案が示されている。施設の敷地境界付近の公衆の個100/年 安人の平均急性死亡リスク程度未満 全 | 放射線被ばくによって生じ得るがんによる、施設からある範囲の | 10°/年 距離にある公衆の個人平均死亡程度 未満 リスク104/年 CDF(炉心損傷頻度)程度未満105/年 CFF(格納容器機能喪失頻度)程度未満 表3:リスクの低減目標値全目標一性能目標表 3 の CDF、CFF の性能目標を同時に満たすことが 発電炉に対する性能目標の適用条件となっている。また「原子力発電所の安全規制における『リスク情 報』活用の基本ガイドライン(試行版)」(平成 18 年 4月、原子力安全・保安院)によるとリスクの変化量 及び変化割合については“リスクが有意に増加しない ことを原則とする”という表現にとどまっており、更 に“その抑制水準については、安全規制への「リスク 情報」の活用経験等を踏まえて定めることとする“と なっている。 更に「保安規定記載事項の妥当性評価に関する報告 書」(平成19年2月、原子力安全基盤機構)によると、 我が国でのリスク許容基準の検討例として・待機除外1回当たりのリスク暫定抑制水準:条件付炉心損傷確率増分(ICCDP)・年間の許容リスク増分:年間の炉心損傷頻度の増分(△ CDF) が示されており、具体的な基準値として表4のように記載されている。 | ICCDP。 | 5 × 107 [/1回]A CDF 1 x 10-6 [/炉年] 表 4:リスク許容基準値の検討例本検討では一つの検討対象として表 4 のリスク許 容基準値への適合性を確認した。1901/01/04ラメー東海第二発電所に 評価パ 規制側許容基準値 | おける DG ターニン (案)グ操作のリスクに関する PSA 結果 5 × 1071.7 × 10-11 ICCDP [/1回][/1回] 1 × 1004.2 × 10-10 [/炉年][/炉年] 表 5 :PSA 結果の規制への適合性確認結果A CDFその結果、表5に示す通り ICCDP、A CDF それぞれ について表 4 の基準値を大幅に下回る値であり、無視 し得る程度のリスク上昇であるとの結論を得た。3.2 ターニングのメリットに関する半定量的な評価結果について ハイドロロックの発生確率を半定量的に評価する 為、国内プラントのハイドロロックの発生事例を調査 した。その結果、表6の2件の事例が確認された。表 6 の国内での現在までのハイドロロック発生状 況を考えると、表 2 で示した東海第二発電所における ターニング操作のリスクについての PSA 結果に対し てハイドロロックの発生確率は同程度かそれ以下の発生事象| ハイドロロックターニング時にインジケータコックより油排出確認原因| 製造時のキリ穴加工ミスにより、一部「注油ポンプ出口鋼球(逆止弁)及びシート部に異物 薄くなっていた箇所から漏えい 混入し、油が連続注入されていた ・連接棒曲がり、なし ・シリンダーライナー割れ(始動前に発見した為)被害処置連接棒、シリンダーの交換異物除去ターニング | の実施状況表 6 : 国内プラントのハイドロロック発生事例水準であると考えられる。また、原因まで考慮すると東海第二発電所の DG は キリ穴加工構造ではないので、キリ穴加工ミスによる ハイドロロックは発生しない。更に表6の2件ともヒ ューマンエラーに起因するハイドロロック事例であ るため、異物混入防止の徹底、作業の品質向上等の努 力により当該ヒューマンエラーの発生を抑制するこ とが可能であり、同時にハイドロロックの発生確率を 低減することが可能であると考えられる。4. ターニング操作以外のハイドロロック防止策について 機関始動前にハイドロロックの予兆を発見し、未然 に防止するにはターニング操作を実施することが一 番確実な方法である。 _ しかし、ターニング操作以外にもシリンダ内に液体 が漏れこんでいないか確認する方法が表 7 の通りあ り、以前から実施されていた。また、保全技術の向上ともあいまってターニング操 作を廃止しても、ハイドロロックが起きる可能性はき わめて低いと考えられる。1901/01/05| ハイドロロック防止策。確認頻度確認し易さ検知の確実性0| ターニング操作1回/1ヵ月インジケータコックからの「同左 (定期試験)排出により確認 但し、非常時以外の機関始 動前には常時実施常時警報発報にて確認シリンダ 浸水警報ピストンの位置により検知 性能が変化 (上死点にあるピストンは 検知しずらい)注油装置 鋼球位置1回/1日 (巡視)o 目視により確認潤滑油以外の漏えいには無表 7 :ハイドロロック防止策について 表7:ハイドロロック防止策について5. ターニング廃止に伴う影響について。 や所内電源系がクリティカル工程となるような定期 - 東海第二発電所ではターニング操作廃止後、1運転 検査時には、ターニング操作廃止が定検短縮にも微力 サイクル未満しか経過しておらず、今後ターニング操 ながら貢献するものと考えられる。よってターニング 作廃止による機関への影響について状態監視保全等 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から により機関摺動部の劣化速度をはじめとするパラメ も非常に有用であると考えられる。 ータを注意深く監視していくことが必要である。また 監視により劣化速度の上昇等、有意な変化が見られた - 6. まとめ 場合には速やかにその変化がプラントの安全性に与 12 東海第二発電所では非常用ディーゼル発電機のタ える影響を定量(半定量)評価し、再度ターニングの ーニング操作について支払うリスク (炉心損傷頻度の 実施可否に関する意思決定を行うことが肝要である 上昇)に対して、得られる効果(ハイドロロックによ と考える。る DG の損傷を防止=非常用機器の信頼性向上)が有 また、本論とは少しそれる話ではあるが、東海第二 意でないとの判断からターニング操作の廃止を決定 発電所ではターニング操作に関するヒューマンエラ した。 ーにより過去に数回の非常用ディーゼル発電機の待 本検討では操作廃止という結論に至ったが、最も重 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。ター 要な点は正負両面の影響をもたらす運転操作、作業等 ニング操作は夏場には室温が 40°Cを超えるような劣 について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ 悪な環境下で行う作業であり、また繰り返し作業も多 たという点であると考える。 いことからヒューマンエラーの発生し易い操作でり、以上 潜在的に DG の信頼性を低下させる可能性があった。更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 ディーゼル発電機の試運転時、DG 総合性能試験時 (LOCAFLONPA 信号を同時に投入し、DG 起動後の各負 荷が自動起動していく状態を確認する試験)にも機関 始動前にターニング操作を行っていたことから、DG 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。 更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ - 372 -“ “?PSA を援用した非常用ディーゼル発電機 機関ターニング操作廃止に関する検討について“ “矢吹 健太郎,Kentaro YABUKI
東海第二発電所は定格電気出力1100MW の BWR5型の 発電所である。外部電源系統へは 275kV系で2回線、 154kV 系で1回線接続しており、外部電源喪失時のバ ックアップとして 3 台の非常用ディーゼル発電機 (DG)を備えている。 - 非常用ディーゼル発電機については1ヵ月に1回 以上定期試験にて健全性を確認することが保安規定 により求められており、定期試験手順書により機関始 動前にはハイドロロック注「防止の為、ターニング操 作を実施することとなっていた。
ターニング操作は約 30 分程度の非常用ディーゼル 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 統を待機除外とみなさないという保安規定の条文に よりターニングの実施は認められていた。 * 但し、ターニングの効果(メリット、デメリット) について、定量的に評価・検討した結果が無く、ハイ ドロロック防止という定性的な理由によりターニン グを実施していた。 発電機の機能喪失を伴うが、定期試験実施中は当該系 ング操作の実施可否についての意思決定を行 - 368 -2. ターニングの効果について表 1 に示すようにターニング操作にはプラントの 安全性に対して正負両面の効果があり、定性的な評価 のみでは実施の可否を判断することが難しい。・デメリットメリット機関始動前にハイドロ 約 30 分間の DG 機能ロックの発生を確実に 喪失を伴う。| 予見し、防止できる。主 効果|副次効果定期試験において | 非常時以外の始動にお 機関始動条件を緩 | いて機関摺動部の磨耗 和している。 を極力低減する。表1: ターニング操作の効果について2.1 ターニングのデメリット - 定期試験に伴いターニング操作を実施することの 最大のデメリットは1ヵ月に1回、約 30 分間非常用 ディーゼル発電機が機能喪失することである。また、非常用機器の定期試験という観点から考える と、機関始動前に行うターニング操作は機関摺動部へ の予潤滑行為を含んでおり、機関の始動条件を多少な りとも緩和していることとなる注る。その為、厳密に 非常時を模擬した試験とは言い切れないというデメ リットも含んでいる。注2:但し、機関は非常時には予潤滑をしなくても問 題なく始動するよう設計されている。2.2 ターニングのメリットターニング操作の主たる目的はハイドロロック発 生の防止である。なんらかの原因(不具合)によりシ リンダ内部に侵入した水分、油分を機関始動前に確実 に検知し、それらによって生じるハイドロロックによ るピストン、シリンダ、連接棒、クランクシャフト等 の損傷を未然に防止する役割を担っている。つまり、 非常時以外の始動における機関の損傷確率を低減す る(=非常用機器の信頼性向上)という面からプラン トの安全性向上に貢献していたと考えられる。また、非常時以外の始動時にはターニングにより機 関の予潤滑を行うことにより、摺動部の磨耗を極力低 減することも期待されていた。3. ターニングの効果に関する定量的(半定量的)な評価結果について これまで述べてきたように、ターニング操作には正 負両面の効果があり、定性的な評価のみでは実施の可 否を判断できない。 ・ よって本検討においては PSA を援用することによ り、ターニング操作が炉心損傷頻度 (CDF)をどの程 度増加させているか定量的に評価した。またその結果 と対比させるために、ハイドロロックの発生状況を調 査し、半定量的にハイドロロックの発生確率を求めた。ターニング操作を実施することのリスク (△ CDF) に対するリターン(ハイドロロックの発生を防止=ハ イドロロックの発生確率がゼロ)を数値で比較した。 ・ その結果、支払うリスクに対するリターンが有意で ないことが確認されたため、東海第二発電所ではター ニング操作の廃止を決定した。3.1 ターニングのデメリットに関する定量的な評価結果について3.1.1 PSA 評価モデルについて * 本評価には出力運転時内的事象レベル 1PSA モデル を用いた。このモデルに使用した入力パラメータは、 故障率データについては主として米国データ、起因事 象発生頻度については主として平成 17 年度末国内運 転実績データを用いている。3.1.2 評価パラメータの選定について * 本検討における評価パラメータとして 2 つのパラ メータを選定した。 1条件付炉心損傷確率の増加量(ICCDP)運転管理状態が変更となった期間が継続する間 のリスク増分の積算値。保安規定で運転上の制限 が課されている機器の許容待機除外時間(AOT)中 のリスク増加量を評価する場合などに用いられる。本検討ではターニング操作 1 回当たり、つまり 30 分間の DG の機能喪失による ICCDP を評価した。1901/01/03ICCDP = A CDF × (OT/365) [-] △ CDF = CDF - CDFRAse[/ 炉年] CDF : 運転管理状態に変更があった場合の CDF CDFRAse: 通常プラント運転状態における CDFOT:運転管理状態変更継続期間 [日] 2年間の炉心損傷頻度増分(△ CDF)本検討では A CDF として上記1で求めたICCDP に ついての DG 3台、12 ヶ月間の積算値として用い た。つまりターニング操作を 1 運転サイクル継続 した際のA CDF として評価した。ACDF =Poc ×12ヶ月 [/炉年]3.1.3 評価結果について - 東海第二発電所の通常運転状態での CDF(CDFRAS)は 上記モデルにより以下のように評価されている。CDFRAse = 2.8 × 10-*[/炉年](点推定値) 本検討では3台の DG それぞれについて 3.1.2 で述 べた1、2のパラメータに関する評価を行ったが、1 の ICCDP については代表的に最も影響の大きかった ものを表2に示す。 | ICCDP | 1.7 X 10-11 [/1回] |A CDF | 4.2 × 10-10 [/炉年] 表 2 : DG ターニング操作に関する PSA の結果3.1.4 評価結果の規制への適合性について - 参考として、3.1.3 のターニング操作のリスクに関 する PSA の結果について、現在規制側で検討中のリス ク許容基準値案への適合性を確認した。「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまと め」(平成 15 年 12月、原子力安全委員会安全目標専 門部会) 及び「発電用軽水型原子炉施設の性能目標に ついて一安全目標案に対応する性能目標について一」 (平成18年3月 28 日、原子力安全委員会安全目標専 門部会)によると発電炉における安全目標及び性能目 標について以下のように評価すべき項目と定量的な 評価基準の案が示されている。施設の敷地境界付近の公衆の個100/年 安人の平均急性死亡リスク程度未満 全 | 放射線被ばくによって生じ得るがんによる、施設からある範囲の | 10°/年 距離にある公衆の個人平均死亡程度 未満 リスク104/年 CDF(炉心損傷頻度)程度未満105/年 CFF(格納容器機能喪失頻度)程度未満 表3:リスクの低減目標値全目標一性能目標表 3 の CDF、CFF の性能目標を同時に満たすことが 発電炉に対する性能目標の適用条件となっている。また「原子力発電所の安全規制における『リスク情 報』活用の基本ガイドライン(試行版)」(平成 18 年 4月、原子力安全・保安院)によるとリスクの変化量 及び変化割合については“リスクが有意に増加しない ことを原則とする”という表現にとどまっており、更 に“その抑制水準については、安全規制への「リスク 情報」の活用経験等を踏まえて定めることとする“と なっている。 更に「保安規定記載事項の妥当性評価に関する報告 書」(平成19年2月、原子力安全基盤機構)によると、 我が国でのリスク許容基準の検討例として・待機除外1回当たりのリスク暫定抑制水準:条件付炉心損傷確率増分(ICCDP)・年間の許容リスク増分:年間の炉心損傷頻度の増分(△ CDF) が示されており、具体的な基準値として表4のように記載されている。 | ICCDP。 | 5 × 107 [/1回]A CDF 1 x 10-6 [/炉年] 表 4:リスク許容基準値の検討例本検討では一つの検討対象として表 4 のリスク許 容基準値への適合性を確認した。1901/01/04ラメー東海第二発電所に 評価パ 規制側許容基準値 | おける DG ターニン (案)グ操作のリスクに関する PSA 結果 5 × 1071.7 × 10-11 ICCDP [/1回][/1回] 1 × 1004.2 × 10-10 [/炉年][/炉年] 表 5 :PSA 結果の規制への適合性確認結果A CDFその結果、表5に示す通り ICCDP、A CDF それぞれ について表 4 の基準値を大幅に下回る値であり、無視 し得る程度のリスク上昇であるとの結論を得た。3.2 ターニングのメリットに関する半定量的な評価結果について ハイドロロックの発生確率を半定量的に評価する 為、国内プラントのハイドロロックの発生事例を調査 した。その結果、表6の2件の事例が確認された。表 6 の国内での現在までのハイドロロック発生状 況を考えると、表 2 で示した東海第二発電所における ターニング操作のリスクについての PSA 結果に対し てハイドロロックの発生確率は同程度かそれ以下の発生事象| ハイドロロックターニング時にインジケータコックより油排出確認原因| 製造時のキリ穴加工ミスにより、一部「注油ポンプ出口鋼球(逆止弁)及びシート部に異物 薄くなっていた箇所から漏えい 混入し、油が連続注入されていた ・連接棒曲がり、なし ・シリンダーライナー割れ(始動前に発見した為)被害処置連接棒、シリンダーの交換異物除去ターニング | の実施状況表 6 : 国内プラントのハイドロロック発生事例水準であると考えられる。また、原因まで考慮すると東海第二発電所の DG は キリ穴加工構造ではないので、キリ穴加工ミスによる ハイドロロックは発生しない。更に表6の2件ともヒ ューマンエラーに起因するハイドロロック事例であ るため、異物混入防止の徹底、作業の品質向上等の努 力により当該ヒューマンエラーの発生を抑制するこ とが可能であり、同時にハイドロロックの発生確率を 低減することが可能であると考えられる。4. ターニング操作以外のハイドロロック防止策について 機関始動前にハイドロロックの予兆を発見し、未然 に防止するにはターニング操作を実施することが一 番確実な方法である。 _ しかし、ターニング操作以外にもシリンダ内に液体 が漏れこんでいないか確認する方法が表 7 の通りあ り、以前から実施されていた。また、保全技術の向上ともあいまってターニング操 作を廃止しても、ハイドロロックが起きる可能性はき わめて低いと考えられる。1901/01/05| ハイドロロック防止策。確認頻度確認し易さ検知の確実性0| ターニング操作1回/1ヵ月インジケータコックからの「同左 (定期試験)排出により確認 但し、非常時以外の機関始 動前には常時実施常時警報発報にて確認シリンダ 浸水警報ピストンの位置により検知 性能が変化 (上死点にあるピストンは 検知しずらい)注油装置 鋼球位置1回/1日 (巡視)o 目視により確認潤滑油以外の漏えいには無表 7 :ハイドロロック防止策について 表7:ハイドロロック防止策について5. ターニング廃止に伴う影響について。 や所内電源系がクリティカル工程となるような定期 - 東海第二発電所ではターニング操作廃止後、1運転 検査時には、ターニング操作廃止が定検短縮にも微力 サイクル未満しか経過しておらず、今後ターニング操 ながら貢献するものと考えられる。よってターニング 作廃止による機関への影響について状態監視保全等 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から により機関摺動部の劣化速度をはじめとするパラメ も非常に有用であると考えられる。 ータを注意深く監視していくことが必要である。また 監視により劣化速度の上昇等、有意な変化が見られた - 6. まとめ 場合には速やかにその変化がプラントの安全性に与 12 東海第二発電所では非常用ディーゼル発電機のタ える影響を定量(半定量)評価し、再度ターニングの ーニング操作について支払うリスク (炉心損傷頻度の 実施可否に関する意思決定を行うことが肝要である 上昇)に対して、得られる効果(ハイドロロックによ と考える。る DG の損傷を防止=非常用機器の信頼性向上)が有 また、本論とは少しそれる話ではあるが、東海第二 意でないとの判断からターニング操作の廃止を決定 発電所ではターニング操作に関するヒューマンエラ した。 ーにより過去に数回の非常用ディーゼル発電機の待 本検討では操作廃止という結論に至ったが、最も重 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。ター 要な点は正負両面の影響をもたらす運転操作、作業等 ニング操作は夏場には室温が 40°Cを超えるような劣 について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ 悪な環境下で行う作業であり、また繰り返し作業も多 たという点であると考える。 いことからヒューマンエラーの発生し易い操作でり、以上 潜在的に DG の信頼性を低下させる可能性があった。更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 ディーゼル発電機の試運転時、DG 総合性能試験時 (LOCAFLONPA 信号を同時に投入し、DG 起動後の各負 荷が自動起動していく状態を確認する試験)にも機関 始動前にターニング操作を行っていたことから、DG 機除外による運転上の制限逸脱を経験している。 更に定期検査時には所内電源切替操作時や非常用 操作の廃止は発電所の業務負荷低減という観点から について定量的な検討結果に基づき意思決定を行っ - 372 -“ “?PSA を援用した非常用ディーゼル発電機 機関ターニング操作廃止に関する検討について“ “矢吹 健太郎,Kentaro YABUKI