核燃料物質使用施設の安全評価の取組み
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カテゴリ: 第5回
1.緒言
大洗研究開発センター燃料材料試験部には、高速増 殖炉の高性能燃料及び材料の開発を目的とした 5つ の核燃料物質使用施設(照射後試験施設)がある。これらの施設は昭和40年代から50年代に建設され たもので、運転開始からいずれも 30 年以上経過して いる。そこで、施設の安全確保のため、平成 14 年度 より独自の安全評価に取組んでいる。この取組みは、想定されるリスクを摘出し、未然に 適切な処置を施すなどの対策によりトラブルを防止 しようというものである。その精神は、発電用原子炉等の高経年化対策に適用されている定期安全評価 (Periodic Safety Review: PSR)に学んでいる。評価手法の特徴は、安全に影響する様々な要因を数 値化し、性能劣化監視指標(Performance Indicator :PI) により、適切な保全活動に反映していく点にある。 - 本報では、燃料材料試験部で行っている施設の安全 評価への取組みについて、経緯、評価手法及び保全活 動への展開の状況について報告する。
2.取組みの目的と経緯 - ウランやプルトニウムなどを扱う核燃料物質使用 施設には、核燃料物質を閉じ込め、放射線障害を防止 するための換気設備や廃液設備といった様々な設備 が設置されている。これらの設備の中には、高い放射 線量環境に設置されているものもあり、放射線による 性能劣化の加速といった核燃料物質を取扱う施設の 特徴に配慮しながら安全を確保していく必要がある。388本取組みは、 ・設備の継続的な安全性の確認・より適切な保全活動の展開 を基軸とした、経年化に配慮した核燃料物質使用施設 の安全評価と安全確保を目的としている。平成 14 年に、PSR が研究用原子炉施設で試行され たのを契機として、燃料材料試験部における自主的な 保安活動の一環として核燃料物質使用施設の安全評 価手法の検討を開始した。手法の検討にあたっては、FMEA (Failure Mode and Effect Analysis) や FTA (Fault Tree Analysis) [1] 、 確率論的安全評価といった広く認知されている安全 性解析手法のほか、厚生労働省「化学プラントにかか るセーフティ・アセスメントに関する指針」の平成 12 年度改訂版(通達基発 149 号) [2] などを参考にし た。約1年間に渡る種々の検討の結果、標記目的を満足 し、燃料材料試験部の経営資源に見合った独自の手法 を構築した。施設の安全評価と適切な保全活動による 安全確保の概念を図1に示す。平成 15 年度に試行運用を行い、平成 19 年度現在、 燃料材料試験部内の全 5 施設について本手法を適用 し、毎年度安全評価を実施している。3.安全評価手法の概要独自に構築した、設備の継続的な安全性の確認を行 う手法について述べる。 1安全性の確認にあたっては、まず初めに、放射線に よる影響に配慮しつつ、設備が故障に至るリスク因子 を摘出する。リスク因子は、すでに顕在化しているも のに加え、経年化により予測される潜在化しているも のも想定する。評価手法の中で、リスク因子は補修課 題として扱う。 1 本手法では、1補修課題の危険度を支配的要因とし て、2PI の有効性(故障時期の見極めやすさ)と3 法令等遵守への影響度(コンプライアンスの観点)の 組み合わせにより、設備の継続的な安全性を AA, A,B,B, C,C,Dのフランクに格付けする。以下に1から3の 3 つの評価要因の数値化につい ての概略を説明する。 1補修課題の危険度:0.5~100 点摘出した補修課題について、以下の 1) から 3) の 尺度の積により、危険度を数値化する。これまでの 30 数年の核燃料物質使用施設の運転 保守の経験則をよりどころとして、1) から 3) の各 尺度の配点の定義は、その積により数値化した補修 課題の危険度について、以下の3段階の意味合いを 持つように考慮してある。 A. 継続的な安全性良好。補修課題の危険度は極めて低い。: 4 点以下 B. 継続的な安全性に問題なし。ただし補修課題に留意の必要あり。: 4 点超え 40 点未満 C. 安全性は保たれているが、補修課題に十分注視して対処する必要あり。: 40 点以上 補修課題の危険度は、安全性ランクに直接反映 される。 1) 補修課題により故障する可能性:1~10点補修課題の拡大性、拡大したときに当該設備 が故障に至るおそれの大小など、短期間に故障 する可能性が大きいほど高配点とする。 2) 経年化の度合い:1~10 点設備の経過年数に応じて、長期間であるほど 高配点とする。 3) 事後保全で対処可能か:0.5 点又は1点補修課題について、事後保全で対応可能な場 合は 0.5 点、予防保全が必要な場合は1点とする。 2PI の有効性:1~10点PI の有効性は、設備が故障する時期の見極めや すさを示す尺度となる。PI の概念が適用できるか 否か、定量的か定性(感覚)的か、故障時期の見極 めに必要な熟練度などに応じて有効性が高いほど 高配点とする。 3法令等遵守への影響度:1~10 点顕在化している補修課題が、コンプライアンスに389抵触するおそれがあるか否かを確認する。法令等や地域との協定類のほか、自ら定めている 各種規定やマニュアル等も含めて確認の対象としている。 * 確認の対象に応じて、法令等に抵触するおそれの ある場合を最も高配点とする。 上記の1から3の評価要因の組み合わせと、安全性 ランクとの関係を表1に、安全性ランクの解釈の概要 を表2に示す。表1 評価要因と安全性ランクとの関係 安全性(D補修課題3法令等遵守2PI の有効性 ランク」の危険度への影響度 | AA | 補修課題なし。A 4点以下 * 関連なし B 4点超え 適用可抵触なし B 40点未満 適用不可適用可 40 点以上 C適用不可 関連なし抵触有り表2 安全性ランクの解釈の概要 安全性解釈の概要ランクAA |保全が完了し、補修課題が解消継続的な安全性良好。補修課題の危険度は 極めて低い。継続的な安全性に問題ないが、補修課題の 危険度に留意し、PI に応じた保全を要する。継続的な安全性に問題ないが、故障時期の 見極めが困難なため、補修課題の危険度に 留意し、適切な保全を要する。 安全性は保たれているが、補修課題の危険 度に十分注視し、PI に応じた早めの保全 を要する。安全性は保たれているが、故障時期の見極 めが困難なため、早急に保全を要する。 コンプライアンス上、速やかな保全及び必 要な通報連絡を要する。設備の継続的な安全性の確認に基づく、核燃料物質 使用施設の安全評価は、安全性ランクがB以上であ ることをもって問題なしと判断する。C又はCランクの設備は、評価時点では健全に作 動しているため、直ちに核燃料物質使用施設の安全に 影響を及ぼすことはないものの、継続的な安全確保の 観点から、基本的に当該年度の保全業務に反映して速 やかな対応を図る。様式と評価例を図2に示す。4.保全活動への展開 4.1 より適切な保全活動への反映 保全活動は、安全確保を第一として、 ・日常の保守や部分的な部品交換などにより、性 能劣化を緩和し、機能維持を図るための経過措 置的な予防保全 ・設備更新など、経年化による補修課題を根本的に解消するための本格的な予防保全 を基本的な柱として展開している。設備の安全性のランク付けと PI の設定により、経 過措置的な予防保全の力点を置くべき設備とその性 能劣化の監視項目の明確化が図られ、日常の保守や部 分的な部品交換などの的確性が向上する効果が得ら れている。また、従来の巡視点検のデータも加えて、PI によ り性能劣化を見極めることで、補修課題を解消するた めの本格的な予防保全の適時性が向上している。 - PI は、設備の設計要件や構成機器、不具合の出方 などを熟知した者の意見を尊重し、関係者で良く議論 して監視項目とその頻度を定めている。この PI の設 定、監視及び傾向評価のプロセスにおいて、熟練者か ら次の世代を担う者への各設備固有の技術技能の伝 承といった副次的効果も得ている。3904.2 保全計画への反映 1 安全の確保のためには、適切な保全活動の基礎とな る保全計画の優先順位付けの信頼性向上も大切であ る。そこで、以下に示す当該設備が故障した際の影響 度から、予め設備機器影響度を(ア+イ+ウ+エ)× オメカ×キにより数値化する。ア 従業員障害影響度:1~5 点 イ. 照射後試験影響度:1~3 点 ウ. 施設保安影響度 :1~5点 工, 衛生環境影響度 : 1~5点 才. 公衆環境影響度 :1~10 点 カ. 故障した際の法令等遵守への影響度:1~10 点 キ 代替えの有無 :0.5 点又は1点 オ. 公衆環境影響度及びカ.故障した際の法令等遵 守への影響度については、掛け算として重要視してい る。また、影響度の重み付けを考慮して最大点数に差 を設けている。さらに、設備機器影響度 (最大 1800 点)、前項で示 した◎補修課題の危険度 (最大 100 点) 及び2PI の有 効性 (最大 10 点) の3要因に基づき、総合リスクポイ ントを、 (設備機器影響度/1800+1補修課題の危険度1100+2PI の有効性の逆数) ×100 により算出する。 - 総合リスクポイントは、設備が重要で、補修課題の 危険度が高く、PI の有効性が低いほど点数が高く、 最大で 300 点となる。高点数ほど保全優先度が高いこ とを意味する。数値化した総合リスクポイントをより どころとすることで、信頼性の高い保全計画が策定で き、より適切な保全活動を下支えしている。5.安全評価と保全活動の実績 - 平成 15 年度の試行運用を含め、これまでに計5回 の安全評価を実施し、5施設合計で約 230 設備の安全 性を毎年度確認してきた。Dランクに該当する設備は 生じていない。 これまでの安全評価に基づいて、Cランクを主体に5 施設合計で 72 設備について適切に予防保全し、補 修課題を解消してきた。その他の安全性ランクの設備については、PI 監視 を継続し、的確な経過措置を施しながら設備を健全に 維持している。具体例としては、計装用空気圧縮機のリスク因子に モーターベアリングの磨耗固着を摘出し、その PI に 熟練者の聴音による回転音の変化の確認を設定して 的確に部品交換を行えるようにした事があげられる。ベアリングの磨耗進行は、一般にモーター負荷電流 の増加に現れ難く、騒音の中で回転音の微かな変化と して捉えることも困難であるが、熟練者による聴音と いう PI の設定により、性能劣化を見極めて適切に措 置する仕組みが有効に働き、核燃料物質を閉じ込める ための施設内の負圧制御に不可欠な圧縮空気を安定 供給してトラブルを防止し、安全を確保している。ま た、回転音の微かな変化を聞き分ける OJT により、 次の世代を担う者のスキルアップも図っている。このように、人材の育成を考慮しながら、部品交換 などの的確性や予防保全の適時性が向上した精度の 高い保全活動を展開している。6.結言 1. 本取組みにより、核燃料物質使用施設の特徴を踏ま えた独自の安全評価手法の構築と毎年度の安全評価 によって、より適切な保全活動が展開でき、施設の安 全確保に役立っている。今後も本取組みを継続するとともに、実績を積み重 ねながら評価手法等を改善し、施設の安全確保に努め ていく。参考文献 [1] (財)日本科学技術連盟:“信頼性技法実践講座FMEA・FTA テキスト ““, 2000 年度版 [2] 厚生労働省安全課編:“化学プラントのセーフティ・アセスメント-指針と解説 ““““, 200101.1391核燃料物質使用施設の安全評価の取組み(施設の安全評価と適切な保全活動による安全確保の概念)施設の安全評価 (設備の継続的な安全性の確認)適切な保全活動 (トラブルの防止)532PIMATAROPANYOYOKO-----1 補修課題の危険性を支配的要因として2 PI指標の有効性と3現状 の法律等遵守への影響度の組み合わせにより、安全性ランクを AA,A, B,B-, C, C-,Dに格付け-PIによる ・性能劣化の監視強化 ・性能劣化の緩和などの経過措置の的確性向上 ・本格的予防保全の適時性の向上 ・技術技能の伝承--------補修課題の摘出(潜在化しているリスク含)(放射線による性能劣化に配慮)-設備機器影響度最大1800点--当該設備が故障した場合の様々な影響度 = (ア+イ+ウ+エ)×オメカ×キ----1 補修課題の危険性 = 11 ×2)×3) 最大100点---ア従業員障害影響度:1~5点 イ. 照射後試験等影響度:1~3点 ウ. 施設保安影響度:1~5点 エ. 衛生環境影響度:1~5点 オ.公衆環境影響度:1~10点 カ故障した際の法令等遵守への影響度:1~10点 キ代替え設備・機器の有無:0.5点又は1点1) 補修課題要因により故障する可能性:1~10点 2) 経年化の度合:1~10点 3)事後保全で対処可能か否か:0.5点又は1点---------2 PI指標の有効性:1~10点(故障時期の見極めやすさ)--総合リスクボイント。 (設備機器影響度/1800+1補修課題の危険性/100+2PIの有効性の逆数) × 100----最高で300点、基本的に高い点数ほど保全優先度が高い--3 現状の法令等遵守への影響度:1~10点 (コンプライアンスの観点)---保全計画、予算要求への反映----(C, C-, Dランクは、基本的に当該年度の保全業務に反映)図1 施設の安全評価と適切な保全活動による安全確保の概念設備の継続的な安全性の確認設備・機器の影響度福修課題の管理1 故障時期の!見極めやすさ1 補修課題の危険性PI指標設借名歓動ア. 従業員障害影響度イ. 照射後試験等影響度 ウ. 施設保安影響度工衛生環境影響度、公衆環境影響度 カ故障した際の法令等遵守への影響度 キ代替え設備・機器の有無課題抽出年月ポイント根修課題、福修想、経過措置 解消策(リスク因子)課題解消年月2 PI指標の有効性3 法令等遵守への影響度 3) 事後保全で対処可能か? 1) 補修課題により故障する可能性2) 経年化の度合総合リスクポイント1 補修課題の危険性安全性ランク安全性の確認結果・指操頻度JOO設備 | 3|3|5|1|4|7|1336.0AA補修課題等は解消され、保 安は確保されている|ムム設備 | 3|3|3|1|4|7|1280.070| 1.0 | 1.02「継続的な安全性良好。補修| 1. 02.0|AI課題の危険度は極めて低い00設備 | 1|33|1|4|7|1|224.041.0| 1.0602012.0|日継続的な安全性に問題ない が、補修課題の危険度に留 意し、PIに応じた保全を要す設備の特徴や補修課題に応じて、 詳細におよぶため記載省略|☆☆設備 | 1|3|5|11|7|1| 70.0継続的な安全性に問題ないが、故障時期の見極めが困 10|10| 10 | 8.0 | 20 | 16.0 B-「難なため、補修課題の危険 | 120度に留意し、適切な保全を 要する|●●設備 | 1|2| 1|3|1| 1| 1| 7.040 | 1.0 | 10 | 10.0 | 4.0 | 400| c安全性は保たれているが、 補修課題の危険度に十分注 視し、PIに応じた早めの保全] を要する|1|2|1|3|1|1170安全性は保たれているが、 | 10|1. 01.0 | 10. 04.0|40. 0c- 故障時期の見極めが困難な140ため、早急に保全を要する園調設備|1|33|14 |7|1|224.04. 07.01.0 6.0コンブライアンス上、速やか 2.0|12.0 D な保全及び必要な通報連絡を要する図2 様式と評価例392“ “?核燃料物質使用施設の安全評価の取組み“ “藤島 雅継,Tadatsune FUJISHIMA,坂本 直樹,Naoki SAKAMOTO,水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,雨谷 富男,Tomio AMAGAI,大森 雄,Tsuyoshi OHMORI
大洗研究開発センター燃料材料試験部には、高速増 殖炉の高性能燃料及び材料の開発を目的とした 5つ の核燃料物質使用施設(照射後試験施設)がある。これらの施設は昭和40年代から50年代に建設され たもので、運転開始からいずれも 30 年以上経過して いる。そこで、施設の安全確保のため、平成 14 年度 より独自の安全評価に取組んでいる。この取組みは、想定されるリスクを摘出し、未然に 適切な処置を施すなどの対策によりトラブルを防止 しようというものである。その精神は、発電用原子炉等の高経年化対策に適用されている定期安全評価 (Periodic Safety Review: PSR)に学んでいる。評価手法の特徴は、安全に影響する様々な要因を数 値化し、性能劣化監視指標(Performance Indicator :PI) により、適切な保全活動に反映していく点にある。 - 本報では、燃料材料試験部で行っている施設の安全 評価への取組みについて、経緯、評価手法及び保全活 動への展開の状況について報告する。
2.取組みの目的と経緯 - ウランやプルトニウムなどを扱う核燃料物質使用 施設には、核燃料物質を閉じ込め、放射線障害を防止 するための換気設備や廃液設備といった様々な設備 が設置されている。これらの設備の中には、高い放射 線量環境に設置されているものもあり、放射線による 性能劣化の加速といった核燃料物質を取扱う施設の 特徴に配慮しながら安全を確保していく必要がある。388本取組みは、 ・設備の継続的な安全性の確認・より適切な保全活動の展開 を基軸とした、経年化に配慮した核燃料物質使用施設 の安全評価と安全確保を目的としている。平成 14 年に、PSR が研究用原子炉施設で試行され たのを契機として、燃料材料試験部における自主的な 保安活動の一環として核燃料物質使用施設の安全評 価手法の検討を開始した。手法の検討にあたっては、FMEA (Failure Mode and Effect Analysis) や FTA (Fault Tree Analysis) [1] 、 確率論的安全評価といった広く認知されている安全 性解析手法のほか、厚生労働省「化学プラントにかか るセーフティ・アセスメントに関する指針」の平成 12 年度改訂版(通達基発 149 号) [2] などを参考にし た。約1年間に渡る種々の検討の結果、標記目的を満足 し、燃料材料試験部の経営資源に見合った独自の手法 を構築した。施設の安全評価と適切な保全活動による 安全確保の概念を図1に示す。平成 15 年度に試行運用を行い、平成 19 年度現在、 燃料材料試験部内の全 5 施設について本手法を適用 し、毎年度安全評価を実施している。3.安全評価手法の概要独自に構築した、設備の継続的な安全性の確認を行 う手法について述べる。 1安全性の確認にあたっては、まず初めに、放射線に よる影響に配慮しつつ、設備が故障に至るリスク因子 を摘出する。リスク因子は、すでに顕在化しているも のに加え、経年化により予測される潜在化しているも のも想定する。評価手法の中で、リスク因子は補修課 題として扱う。 1 本手法では、1補修課題の危険度を支配的要因とし て、2PI の有効性(故障時期の見極めやすさ)と3 法令等遵守への影響度(コンプライアンスの観点)の 組み合わせにより、設備の継続的な安全性を AA, A,B,B, C,C,Dのフランクに格付けする。以下に1から3の 3 つの評価要因の数値化につい ての概略を説明する。 1補修課題の危険度:0.5~100 点摘出した補修課題について、以下の 1) から 3) の 尺度の積により、危険度を数値化する。これまでの 30 数年の核燃料物質使用施設の運転 保守の経験則をよりどころとして、1) から 3) の各 尺度の配点の定義は、その積により数値化した補修 課題の危険度について、以下の3段階の意味合いを 持つように考慮してある。 A. 継続的な安全性良好。補修課題の危険度は極めて低い。: 4 点以下 B. 継続的な安全性に問題なし。ただし補修課題に留意の必要あり。: 4 点超え 40 点未満 C. 安全性は保たれているが、補修課題に十分注視して対処する必要あり。: 40 点以上 補修課題の危険度は、安全性ランクに直接反映 される。 1) 補修課題により故障する可能性:1~10点補修課題の拡大性、拡大したときに当該設備 が故障に至るおそれの大小など、短期間に故障 する可能性が大きいほど高配点とする。 2) 経年化の度合い:1~10 点設備の経過年数に応じて、長期間であるほど 高配点とする。 3) 事後保全で対処可能か:0.5 点又は1点補修課題について、事後保全で対応可能な場 合は 0.5 点、予防保全が必要な場合は1点とする。 2PI の有効性:1~10点PI の有効性は、設備が故障する時期の見極めや すさを示す尺度となる。PI の概念が適用できるか 否か、定量的か定性(感覚)的か、故障時期の見極 めに必要な熟練度などに応じて有効性が高いほど 高配点とする。 3法令等遵守への影響度:1~10 点顕在化している補修課題が、コンプライアンスに389抵触するおそれがあるか否かを確認する。法令等や地域との協定類のほか、自ら定めている 各種規定やマニュアル等も含めて確認の対象としている。 * 確認の対象に応じて、法令等に抵触するおそれの ある場合を最も高配点とする。 上記の1から3の評価要因の組み合わせと、安全性 ランクとの関係を表1に、安全性ランクの解釈の概要 を表2に示す。表1 評価要因と安全性ランクとの関係 安全性(D補修課題3法令等遵守2PI の有効性 ランク」の危険度への影響度 | AA | 補修課題なし。A 4点以下 * 関連なし B 4点超え 適用可抵触なし B 40点未満 適用不可適用可 40 点以上 C適用不可 関連なし抵触有り表2 安全性ランクの解釈の概要 安全性解釈の概要ランクAA |保全が完了し、補修課題が解消継続的な安全性良好。補修課題の危険度は 極めて低い。継続的な安全性に問題ないが、補修課題の 危険度に留意し、PI に応じた保全を要する。継続的な安全性に問題ないが、故障時期の 見極めが困難なため、補修課題の危険度に 留意し、適切な保全を要する。 安全性は保たれているが、補修課題の危険 度に十分注視し、PI に応じた早めの保全 を要する。安全性は保たれているが、故障時期の見極 めが困難なため、早急に保全を要する。 コンプライアンス上、速やかな保全及び必 要な通報連絡を要する。設備の継続的な安全性の確認に基づく、核燃料物質 使用施設の安全評価は、安全性ランクがB以上であ ることをもって問題なしと判断する。C又はCランクの設備は、評価時点では健全に作 動しているため、直ちに核燃料物質使用施設の安全に 影響を及ぼすことはないものの、継続的な安全確保の 観点から、基本的に当該年度の保全業務に反映して速 やかな対応を図る。様式と評価例を図2に示す。4.保全活動への展開 4.1 より適切な保全活動への反映 保全活動は、安全確保を第一として、 ・日常の保守や部分的な部品交換などにより、性 能劣化を緩和し、機能維持を図るための経過措 置的な予防保全 ・設備更新など、経年化による補修課題を根本的に解消するための本格的な予防保全 を基本的な柱として展開している。設備の安全性のランク付けと PI の設定により、経 過措置的な予防保全の力点を置くべき設備とその性 能劣化の監視項目の明確化が図られ、日常の保守や部 分的な部品交換などの的確性が向上する効果が得ら れている。また、従来の巡視点検のデータも加えて、PI によ り性能劣化を見極めることで、補修課題を解消するた めの本格的な予防保全の適時性が向上している。 - PI は、設備の設計要件や構成機器、不具合の出方 などを熟知した者の意見を尊重し、関係者で良く議論 して監視項目とその頻度を定めている。この PI の設 定、監視及び傾向評価のプロセスにおいて、熟練者か ら次の世代を担う者への各設備固有の技術技能の伝 承といった副次的効果も得ている。3904.2 保全計画への反映 1 安全の確保のためには、適切な保全活動の基礎とな る保全計画の優先順位付けの信頼性向上も大切であ る。そこで、以下に示す当該設備が故障した際の影響 度から、予め設備機器影響度を(ア+イ+ウ+エ)× オメカ×キにより数値化する。ア 従業員障害影響度:1~5 点 イ. 照射後試験影響度:1~3 点 ウ. 施設保安影響度 :1~5点 工, 衛生環境影響度 : 1~5点 才. 公衆環境影響度 :1~10 点 カ. 故障した際の法令等遵守への影響度:1~10 点 キ 代替えの有無 :0.5 点又は1点 オ. 公衆環境影響度及びカ.故障した際の法令等遵 守への影響度については、掛け算として重要視してい る。また、影響度の重み付けを考慮して最大点数に差 を設けている。さらに、設備機器影響度 (最大 1800 点)、前項で示 した◎補修課題の危険度 (最大 100 点) 及び2PI の有 効性 (最大 10 点) の3要因に基づき、総合リスクポイ ントを、 (設備機器影響度/1800+1補修課題の危険度1100+2PI の有効性の逆数) ×100 により算出する。 - 総合リスクポイントは、設備が重要で、補修課題の 危険度が高く、PI の有効性が低いほど点数が高く、 最大で 300 点となる。高点数ほど保全優先度が高いこ とを意味する。数値化した総合リスクポイントをより どころとすることで、信頼性の高い保全計画が策定で き、より適切な保全活動を下支えしている。5.安全評価と保全活動の実績 - 平成 15 年度の試行運用を含め、これまでに計5回 の安全評価を実施し、5施設合計で約 230 設備の安全 性を毎年度確認してきた。Dランクに該当する設備は 生じていない。 これまでの安全評価に基づいて、Cランクを主体に5 施設合計で 72 設備について適切に予防保全し、補 修課題を解消してきた。その他の安全性ランクの設備については、PI 監視 を継続し、的確な経過措置を施しながら設備を健全に 維持している。具体例としては、計装用空気圧縮機のリスク因子に モーターベアリングの磨耗固着を摘出し、その PI に 熟練者の聴音による回転音の変化の確認を設定して 的確に部品交換を行えるようにした事があげられる。ベアリングの磨耗進行は、一般にモーター負荷電流 の増加に現れ難く、騒音の中で回転音の微かな変化と して捉えることも困難であるが、熟練者による聴音と いう PI の設定により、性能劣化を見極めて適切に措 置する仕組みが有効に働き、核燃料物質を閉じ込める ための施設内の負圧制御に不可欠な圧縮空気を安定 供給してトラブルを防止し、安全を確保している。ま た、回転音の微かな変化を聞き分ける OJT により、 次の世代を担う者のスキルアップも図っている。このように、人材の育成を考慮しながら、部品交換 などの的確性や予防保全の適時性が向上した精度の 高い保全活動を展開している。6.結言 1. 本取組みにより、核燃料物質使用施設の特徴を踏ま えた独自の安全評価手法の構築と毎年度の安全評価 によって、より適切な保全活動が展開でき、施設の安 全確保に役立っている。今後も本取組みを継続するとともに、実績を積み重 ねながら評価手法等を改善し、施設の安全確保に努め ていく。参考文献 [1] (財)日本科学技術連盟:“信頼性技法実践講座FMEA・FTA テキスト ““, 2000 年度版 [2] 厚生労働省安全課編:“化学プラントのセーフティ・アセスメント-指針と解説 ““““, 200101.1391核燃料物質使用施設の安全評価の取組み(施設の安全評価と適切な保全活動による安全確保の概念)施設の安全評価 (設備の継続的な安全性の確認)適切な保全活動 (トラブルの防止)532PIMATAROPANYOYOKO-----1 補修課題の危険性を支配的要因として2 PI指標の有効性と3現状 の法律等遵守への影響度の組み合わせにより、安全性ランクを AA,A, B,B-, C, C-,Dに格付け-PIによる ・性能劣化の監視強化 ・性能劣化の緩和などの経過措置の的確性向上 ・本格的予防保全の適時性の向上 ・技術技能の伝承--------補修課題の摘出(潜在化しているリスク含)(放射線による性能劣化に配慮)-設備機器影響度最大1800点--当該設備が故障した場合の様々な影響度 = (ア+イ+ウ+エ)×オメカ×キ----1 補修課題の危険性 = 11 ×2)×3) 最大100点---ア従業員障害影響度:1~5点 イ. 照射後試験等影響度:1~3点 ウ. 施設保安影響度:1~5点 エ. 衛生環境影響度:1~5点 オ.公衆環境影響度:1~10点 カ故障した際の法令等遵守への影響度:1~10点 キ代替え設備・機器の有無:0.5点又は1点1) 補修課題要因により故障する可能性:1~10点 2) 経年化の度合:1~10点 3)事後保全で対処可能か否か:0.5点又は1点---------2 PI指標の有効性:1~10点(故障時期の見極めやすさ)--総合リスクボイント。 (設備機器影響度/1800+1補修課題の危険性/100+2PIの有効性の逆数) × 100----最高で300点、基本的に高い点数ほど保全優先度が高い--3 現状の法令等遵守への影響度:1~10点 (コンプライアンスの観点)---保全計画、予算要求への反映----(C, C-, Dランクは、基本的に当該年度の保全業務に反映)図1 施設の安全評価と適切な保全活動による安全確保の概念設備の継続的な安全性の確認設備・機器の影響度福修課題の管理1 故障時期の!見極めやすさ1 補修課題の危険性PI指標設借名歓動ア. 従業員障害影響度イ. 照射後試験等影響度 ウ. 施設保安影響度工衛生環境影響度、公衆環境影響度 カ故障した際の法令等遵守への影響度 キ代替え設備・機器の有無課題抽出年月ポイント根修課題、福修想、経過措置 解消策(リスク因子)課題解消年月2 PI指標の有効性3 法令等遵守への影響度 3) 事後保全で対処可能か? 1) 補修課題により故障する可能性2) 経年化の度合総合リスクポイント1 補修課題の危険性安全性ランク安全性の確認結果・指操頻度JOO設備 | 3|3|5|1|4|7|1336.0AA補修課題等は解消され、保 安は確保されている|ムム設備 | 3|3|3|1|4|7|1280.070| 1.0 | 1.02「継続的な安全性良好。補修| 1. 02.0|AI課題の危険度は極めて低い00設備 | 1|33|1|4|7|1|224.041.0| 1.0602012.0|日継続的な安全性に問題ない が、補修課題の危険度に留 意し、PIに応じた保全を要す設備の特徴や補修課題に応じて、 詳細におよぶため記載省略|☆☆設備 | 1|3|5|11|7|1| 70.0継続的な安全性に問題ないが、故障時期の見極めが困 10|10| 10 | 8.0 | 20 | 16.0 B-「難なため、補修課題の危険 | 120度に留意し、適切な保全を 要する|●●設備 | 1|2| 1|3|1| 1| 1| 7.040 | 1.0 | 10 | 10.0 | 4.0 | 400| c安全性は保たれているが、 補修課題の危険度に十分注 視し、PIに応じた早めの保全] を要する|1|2|1|3|1|1170安全性は保たれているが、 | 10|1. 01.0 | 10. 04.0|40. 0c- 故障時期の見極めが困難な140ため、早急に保全を要する園調設備|1|33|14 |7|1|224.04. 07.01.0 6.0コンブライアンス上、速やか 2.0|12.0 D な保全及び必要な通報連絡を要する図2 様式と評価例392“ “?核燃料物質使用施設の安全評価の取組み“ “藤島 雅継,Tadatsune FUJISHIMA,坂本 直樹,Naoki SAKAMOTO,水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,雨谷 富男,Tomio AMAGAI,大森 雄,Tsuyoshi OHMORI