RBM評価を用いた原子力空調設備の保全計画方法の確立

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
現在、国内の原子力発電所は、55 基が稼動しており、 総発電電力量の約3分の1を占める基幹電源として重 要な役割を果たしている。2030 年以後も総発電電力量 の30~40%程度以上を原子力発電が担うことを求めら れており、現在稼働中の原子力発電所を安定的に運転 するための適切な検査や保修が不可欠である[1]。そこで、2008 年度から経済産業省管轄にて新検査制 度が施行されることとなり、事業者は、プラント毎の 特性を踏まえて保全計画を策定し、検査も一律の検査 からプラント毎の特性に応じたきめ細かい検査等によ って保全活動の充実を図ることが必要となった [2]。 * 本研究では、原子力発電所空調設備の機器点検・保 修計画・施工・履歴管理の一連の保守点検業務を行う 包括維持管理業務の高度化を目的に、静的機器保修工 事計画の優先順位を決定する方法として、機器が故障 した際のリスクの大きさを指標とした RBM(Risk Based Maintenance)を利用した保全計画方法を確立し た。
2. 本研究の課題2.1 原子力発電所空調設備と維持管理業務 原子力発電所空調設備は建屋別、主機の構成別等 により多数の系統が存在する。原子炉建屋およびタ ービン建屋の換気空調系からなる原子力発電所空 調設備の構成例を図1に示す。空調設備は、外気を 取り入れ、給気処理装置で除塵・冷却加熱し、建屋 内各エリアへ送風し、排気処理装置でエリアを通過 した際の塵埃等の除去処理を行った後、大気に戻す。 空調設備の機器は、主に送風機・ポンプなどの回転 機器とダクト・ダンパー等の静的機器に分けられる。給気処理装置 ダクト系機器(ダンパ類含む)お子は、排気処理装置 主排気塔 ポンプ 送風機排風機・ 冷凍機原子炉建屋内 各エリアY主排気ダクト 絵気処理装置 ダクト系機器(ダンパ類含む)ダクト系機器(ダンパ類含む) 外気:静的機器 ポンプ 送風機:回転機器 排風機 冷凍機タービン建屋内各エリア 図1 原子力発電所空調設備の構成例保全方式の分類を図2に示す[4]。保全方式は機器が故 障する前に行う予防保全と、機器が故障してから行う 事後保全に大別される。さらに、予防保全は予定した 時期に行う時間計画保全と、監視機器の状態を基に行 う状態監視保全に分かれる。また、事後保全は優先順396位の低い機器に対する計画事後保全と優先順位の高い 機器に対する緊急保全とに分類される。緊急保全が起きると原子力発電所の信頼性・安全性 に大きな影響を与えるため、緊急保全が起きないよう、 適切な保全計画を立案することが重要である。4時間計画保全」 予防保全(一定時間毎に保全)-状態監視保全| (故障発生前に保全) 保全方式平(機器の状態を監視する)已計画事後保全」 |事後保全(優先順位低) (故障発生後に保全)工緊急保全(優先順位高) 図2 保全方式の分類空調設備機器毎の現状の保全方法と新検査制度へ の対応を Table1 に示す。回転機器は重要機器であるた め、保守点検基準に基づき、一定期間ごとに状態監視 データを取得し、部品交換等を行う。一方、静的機器 は、現状チェックシートに基づき、目視点検を実施し ている。しかし、回転機器のように定量的な状態監視 データはなく、工事の優先順位を現場技術者の判断に 頼って決定していた。Tablel Redaction of inspection system 保全業務 従来方法新検査制度への対応 機器分類 「保全業務、保全方式 回転機器定期点検|時間計画保全状態監視保全への対応 (ファン・ポンプ) 静的機器 |状態監視保全定量的な評価に基づく保修工事 L(ダクト・コイル)| 事後保全 | 保修工事計画2.2 RBM 概要と適用課題工事の優先順位を明確にするために、静的機器を対 象に機器が故障した際のリスクを定量的に評価し、故 障リスクの高い機器から保修工事を立案する RBM を 適用した。RBM の概念を図3に示す[5]。RBM は、評 価対象機器が故障した場合の被害の大きさと対象機器 の劣化度の2軸からなるリスクマトリックスで機器の リスクレベルを分別する(例ではI~IV)手法である。 リスクマトリックスの右上に行くほどリスクが高く、 保修工事を優先して行う必要がある。機器毎の被害の 大きさと劣化度からリスクレベルが判定され、優先順 位を客観的に示せるようになる。ここで、RBM を適用する際は、被害の大きさと劣化 一度の数値化が必要である。これまでに、RBM の基礎検討として、熟練技術者の判断を基に、官能検査、新製品開発、デザイン評価な どで用いられる階層化意思決定手法(AHP: Analytic Hierarchy Process) [6]によって、「被害の大きさ」を定量 化する手法を構築した[7]。 * 本研究では、以下の 2 つの検討対象に取り組み、 RBM を用いた保修工事計画方法を確立することとし た。 (1)RBM の実機適用と実用化検証 (2)RBM を用いた長期保修工事計画作成方法の確立(1)に関しては、実機適用にあたり、耐用年数の変動 要素を整理して、劣化度の評価精度を向上した。(2)に関しては、RBM のリスク経時変化の推測方法と、 RBM を反映した保修工事計画方法を構築した。・リスクマトリックスによる評価高リスク |I|I|I|R |n| KIDSLINE劣化度低リスク 被害の大きさ・リスクレベルに基づく補修優先順位 IV>I>III図3 RBM の概念 3. RBM を用いた保全計画立案手法の確立 3.1 RBMの実用化検証耐用年数の変動要因を Table2に示す。基礎検討では、 劣化度を設計時の耐用年数から経過年数を差し引いて 算出した。今回、実機適用に当たり、機器の故障事象、 使用条件、設計条件を耐用年数に反映して評価した。Table2 Change factor of expected lifetime 「耐用年数の変動要因細目 主たる故障事象(腐食・疲労など) 故障事象、故障事象に対する使用実績(年数)製品材質(SUS,鋼板など) 設計条件機器型式(新型・旧型など) 設置位置(外気にさらされるか)風速(高低) 使用条件内圧(高低) 定期作動(有無)397RBM 評価と熟練者の計画・実績を図4に示す。リス クマトリックスの中にプロットした機器を、熟練技術 者の判断によって保修計画・実績がある機器と計画・ 実績のない機器に分類した。一部、 RBM 評価では保 修工事計画対象ではなく熟練技術者の判断では保修工 事計画・実績の有る機器や、RBM 評価では保修工事計 画対象であり熟練技術者の判断では保修工事計画・実 績が無い機器もあるが、 RBM による保修工事計画対 象と熟練技術者判断とが概ね一致している。保修工事計画対象一劣化度(-)熟練者の判断 ◇計画・実績あり ・計画・実績なし RBMの評価 高リスク部分10.2 被害の大きさ(-) 2008 図4 RBM 評価と熟練者の計画・実績各プラントの熟練技術者の判断と RBM 評価との比較 を Table3 に示す。各プラントで熟練技術者の判断と RBM 評価とが一致する点と不一致の点のプロット数 を集計した。いずれのプラントにおいても RBM によ る評価は、熟練技術者判断と 80%程度の一致を確認で きた。Table3 RBM for each plantプラント熟練技術者の判断と RBM評価の比較 (プロットの数)一致割合 (%)65 1086.4一致 |不一致一致 |不一致7483156378.5不一致20不一致部分に関して、RBM 評価では保修工事計 画対象だが熟練技術者の判断では、保修工事計画・ 実績がない機器は、機器の稼動割合が低い、または 予測ほど実際の劣化が進行していないという理由 であった。これらについては、RBM は傾向管理で あることから、RBM 評価実施後、機器の実態を把 握することで、運用上問題は無いと考える。 また、RBM 評価では保修工事計画対象外であるが機器は、劣化の進行が激しく、故障状態にあった という理由であった。これについては、RBM 評価 ではリスクレベルII の状態監視しながら利用する ことになっているため、日常点検によって対応可能 と考える。従って、不一致項目についても、運用上 対応は可能であり、RBM の妥当性は充分と考える。3.2 RBM を用いた保全計画立案手順の構築 RBM が妥当であることを確認できたため、これを用 いて工事計画作成フローを検討した。 - RBM を用いた保修工事計画作成フローを図5に示す。 先ず、機器のリスクの経時変化を予測し、保修計画対 象となる機器を RBM から求めた保修期間内に収まる 様、工事計画を立てる。次に、同時期に保修すると効 率の良い機器の保修工事計画をまとめる。同じ系統に 属する機器は、同時に保修すると効率の良い機器が多 いため、ここでは機器の系統に関する情報を参照し、 同じ系統の機器は同時期に保修する様、計画する。さ らに、定期点検の工程内に保修すべき機器を、定期点 検計画を参照し、定期点検の工程内に納まる様、調整 する。最後に、作成した保修工事計画による保修工事 コストを年度毎に算出し、予算の平準化等を考慮して、 適正な保修工事計画を立案する。( STARTRBMから求められた 保修期間内に計画を立てる参照して機器毎のリスク経時変化参照機器情報同時期に保修すると効率の 良い機器の計画をまとめる定期点検計画定期点検計画に収まるか?NoYes参照<予算を平準化できているか?>機器毎の保修コストNoYesEND図5 RBM を用いた保修工事計画作成フロー リスクの経時変化の概念を図6に示す。RBMにおい て、縦軸の劣化度は、耐用年数に対する経過年数の割 合で算出することから、時間の経過に従って上昇する。 リスクの経時変化を予測し、保修工事計画の対象とな る機器を把握することで、工事計画対象の年度別の工 事量などが把握できるようになる。例えば、機器 E に 関して、2008 年の段階では、保修工事計画対象ではな398かったが、2010 年には劣化度の上昇によって、保修工 事計画の対象となる。同様に 2012 年までリスクの経時 変化を予測すると、2008年では機器 A と機器 C のみで あった保修工事計画対象が、2012 年には機器 A、B、C、 Dの4機器となる。 2008年 2009年2010年(DIB)DB V図6 リスク経時変化の概念 保修工事計画作成例を図7に示す。工事件名の一覧 には、図6のリスク経時変化に示した 2012 年度までの 保修工事計画対象機器を抽出している。これらの機器 に対して、先ず、ORBM 評価に基づいた保修計画を実 施するために、RBM の保修推奨期間(リスクレベル IV : 2 年以内、リスクレベルIII:5 年以内)を表示し、 推奨期間内に保修工事計画を立案すべきことを分かる ようにする。次に、2同時期に保修すると効率の良い機器の計画 をまとめる。さらに、3定期点検の計画に収まるかの 判断のために、最上部の定期点検工程を参照しながら、 保修工事を計画する。 * 最後に、4保修工事計画に基づいて、保修工事費用 を年度毎に集計する。年度ごとの予算の平準化が達成 できている場合は、計画作成を終了し、達成できない 場合は、再度、保修工事計画を立てる。このように、RBM による長期保修工事計画作成方法 では、リスク経時変化段階で抽出した保修計画機器に 対して、精度が高く、かつ保修期間・効率化・定期点 検の工程を考慮した保修スケジュールの作成によって、 予算を平準化した効率的な保修工事計画が可能となる。ORBMに基づく 工事年度 2008 | 2009 | 2010 | 保修工事計画 ---:2年以内1 定期点検(主要工程)口 15::5年以内(B)保修工事2作業効率を 考慮した計画(C) (D)300 2003定期点検 工程を考慮 した計画1年度ごとの 予算平準化100 FALDBI0200820092010;図7 保修工事計画作成例以上の検討により構築した手法を、図8に示すリス ク・コストシミュレーションシステムに実装し、実際 の保修工事計画へ適用を可能とした。1リスクシミュレーション17010年0のリスクにチームします.ARCK14015 Oat.wea14: 3 4:17コーン! 14作や 、東ントであっ た 。HAIRAにき日記。2コストシミュレーションKENTENTYTWTTTTTTCA36S図 8 リスク・コストシミュレーションシステム4.結言原子力発電所空調設備の保全業務において、信頼性 向上とコスト低減を目的として、RBM を用いた保全計 画作成方法を検討し、以下の結論を得た。 (1) RBM の検証を行った結果、80%程度の機器が熟練技術者の判断と一致することを確認し、RBM実用化の見通しを得た。 (2) RBMから求めた補修工事計画期間、定期点検工程、作業効率、及び年度毎の保全費用を考慮した補修工 事計画手順を確立した。5.参考文献 [1] 経済産業省“原子力立国計画”、2006 [2] 資源エネルギー庁“ポスト「原子力立国計画」 この行動計画”、2007 [3] 久保保雄“原子力施設のメンテナンスと特殊性”設備と管理、Vol.17、(13)、pp95~98、1983 [4] 大島栄次監修“設備管理技術事典““産業技術 ・サービスセンター、2003 [5] 木原重光、富士彰夫“RBI/RBM 入門““JIPM ソリューション、2002 [6] 刀根薫、眞鍋龍太郎“AHP 事例集,日科技連、1990 [7] 森優介ほか3名“RBM を用いた空調設備内静的機器管理方法の基礎検討”、日本保全学会第4 会学術講演会要旨集、pp185-pp187、2007399“ “?RBM 評価を用いた原子力空調設備の保全計画方法の確立 “ “森 優介,Yusuke MORI,池原 徳彦,Norihiko IKEHARA,国安 英一,Hidekazu KUNIYASU,足立 真也,Shinya ADACHI
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