核燃料再処理用機器の予防保全に向けたステンレス鋼の沸騰硝酸中での腐食の統計的検討
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
核燃料再処理施設では、使用済み核燃料から U、Pu の抽出や放射性廃棄物の分離のために、沸騰硝酸溶液 を取り扱うことから、機器材料は厳しい腐食環境下で 使用される。これに対応するため六ヶ所再処理施設で は、極低炭素 304 ステンレス鋼(R-SUS304ULC)等の 耐食性に優れた材料が用いられている [1]。 R-SUS304ULC 鋼の沸騰硝酸溶液中における長期の耐 食安全性については、著者らが平成 13~17 年度に経済 産業省からの委託を受けて検討を進めてきた[2]。具体 的には、R-SUS304ULC 鋼製のサーモサイフォン型酸 回収蒸発缶について、実物大相当のモックアップ試験 装置を用い、実機を模擬した条件で数万時間にわたる 腐食試験を実施し、伝熱管の腐食進展傾向の評価を行 った[3]。腐食形態の詳細観察も実施し、結晶粒界の侵 食が先行して結晶粒の脱落(脱粒)をともないつつ全 面が均一に腐食していくこと、粒界侵食の深さは1結 晶粒程度であり局部的に卓越して進行することがない ことを明らかにした[4]。本報告では、機器の腐食損傷の予防保全や寿命評価において重要となる、腐食進行 に伴う局所的な肉厚減少や粒界侵食の進行による貫通 孔発生の可能性を検討するため、伝熱管の肉厚減少量 や粒界侵食深さの測定結果について統計的手法を用い た腐食進展傾向の解析や極値統計法を用いた最大値の 解析を行った。
2. 試験方法
2.1 モックアップ試験 - 試験は、硝酸ループ設備に設置した R-SUS304ULC 鋼製の酸回収蒸発缶のモックアップ試験体を用いて実 施した。試験に用いた鋼材の化学組成を Table 1 に、モ ックアップ試験体の概要を Fig.1 にそれぞれ示す。試 験体の加熱部には長さ約 5m の伝熱管を7本組み込ん でいるが、このうち 4 本(図中の No.1.3.4.6)を解析 対象にした。試験溶液は、9mol/L 硝酸に、5mg/L の Ru 及び 200mg/L の V の金属イオンのほか、Fe、Cr を 加えたものである。管外面側を約 95°Cの蒸気により加 熱し、内面側は約 70°Cの硝酸の減圧沸騰条件にした。 蒸発缶は、気液分離部と3本の連通管で接続し、気液 分離部にて液面と圧力制御(約 16kPa)を行いながら、硝 酸の供給流量を約 120~150kg/h で運転した。約 8000 時間運転毎に計5回の開放検査を実施し、伝熱管の超405った。総試験時間は 36,414 時間とな音波肉厚測定を行った。総試験時間は 36,414 時間となった。Table 1 Chemical compositions of R-SUS304ULC(mass%) | c | sil Mn | P | s cr| Ni O 0.0120.45 | 1.49 | 0.015 | <0.001 | 18.45 | 10.10 |Horizontal Cross-Section--- 270T Gas OutSolution OutSolution Level--mVertical Cross-SectionSteam In Baffle PlateTube Length: Approx. 5mBoilingSteam flow Solution flowらはNon-boilingSteam Out1 Solution In Fig.1 Outline of mock-up test apparatus2.2 超音波肉厚測定超音波肉厚測定は、5 回の開放検査時に、超音波厚 さ計と本測定専用に製作した測定冶具を用い、水を満 たした伝熱管内にセンサを挿入する水浸法にて行った。 測定位置は、Fig.2 に示した管の鉛直方向と周方向の2 種類で行った。管の周方向は、管の上端から 200mm 間 隔の約 20 箇所の周において、角度 0.1 度刻みで 3600 点の測定を行った。管の鉛直方向は、90 度毎の4ライ ンにおいて、縦方向に 0.1mm 刻みで約 46,000 点の測 定を行った。測定結果は、試験前の測定値からの差分 を計算し、肉厚減少量を求め解析を行った。2.3 粒界侵食深さ測定 1 試験終了後に試験体を解体し、伝熱管 No.6 について、 管の上端から 200. 1400.3600mm の3つの位置の円周Vertical Scanning lines 1270““] [80]270““4.4T. ME200mm 200mmCircumferential Scanning lines1....4-1-1Fig.2Schema of scanning lines for ultrasonic tube wall thickness measurement0° Cross-Section of Tube270-1-41IFRA-90°180°Average Height of Inner SurfaceMaximum Depth of Intergranular PenetrationFig. 3 Schema of measurement of maximum depth ofintergranular penetration方向断面を光学顕微鏡により観察倍率 200倍で観察し た。この際、侵食された粒界を観察するため、試料の 断面を鏡面に研磨し、エッチングを行わずに観察した。 各位置の断面観察写真(全周約 220 視野)から無作為 に各々20 視野を抽出し、Fig.3 に示すように、各視野 の内表面の凹凸に対して平均的な内表面高さを定め、 これに対する最大の粒界侵食深さを測定した。内表面 高さに対応する減肉量は超音波肉厚測定から得た平均 減肉量とし、上述の最大の粒界侵食深さとの和を、改 めて「最大粒界侵食深さ」と定義した。4062.4 統計解析周方向の肉厚測定結果のばらつきは、正規分布に従 うことがわかったため、平均値と標準偏差で評価した。 5回の開放検査時の測定結果について評価を行い、時 間経過にともなう分布の変化を調べ、腐食進展傾向を 解析した。また、肉厚減少量と粒界侵食深さの最大値は、極値 統計法の一つである Gumbel 分布を用いて推定した[5]。 Gumbel 分布の累積分布関数 F(x)は二重指数関数の式 (1)によって表現される。「() = 0x0-098--273] (0ここで、x は確率変数であり、試験サンプルの各測 定結果の中から最大値を用いた。aは尺度パラメータ、 2は位置パラメータと呼ばれる。これらのパラメータ の推定には、最尤法を用いた。Gumbel 分布への適合 度は、GEV(一般化極値分布)を用いて検定した。こ のように計算した結果は、Gumbel 確率紙にプロットし た。この場合、式(2)で定義される規準化変数yを式(1) に適用し、式(3)のように変形して、横軸に x、縦軸に 式(3)のyを取った。F() = exp) - expl-1-27 )y = (4)()ソニーy = -In[-In{F(x)}] 11-3また、母集団の最大値を推定するために、再帰期間 Tを用いた。このTは式(4)で示される。T=1-F(x)再帰期間 Tは、あるしきい値を超える値を観測する ための観測回数(あるいはサンプル数)の期待値を意 味する。母集団である全観測範囲 S に対して、1 つの 観測範囲s を N 箇所観測する場合、式(5)が成立する条 件では、母集団に含まれる最大値は必ず観測されるの で、Tは式(6)のように N と等しくなる。S =s x N-5T=N=S-6仮に1観測範囲 s の観測回数(サンプリング数)n が n
核燃料再処理施設では、使用済み核燃料から U、Pu の抽出や放射性廃棄物の分離のために、沸騰硝酸溶液 を取り扱うことから、機器材料は厳しい腐食環境下で 使用される。これに対応するため六ヶ所再処理施設で は、極低炭素 304 ステンレス鋼(R-SUS304ULC)等の 耐食性に優れた材料が用いられている [1]。 R-SUS304ULC 鋼の沸騰硝酸溶液中における長期の耐 食安全性については、著者らが平成 13~17 年度に経済 産業省からの委託を受けて検討を進めてきた[2]。具体 的には、R-SUS304ULC 鋼製のサーモサイフォン型酸 回収蒸発缶について、実物大相当のモックアップ試験 装置を用い、実機を模擬した条件で数万時間にわたる 腐食試験を実施し、伝熱管の腐食進展傾向の評価を行 った[3]。腐食形態の詳細観察も実施し、結晶粒界の侵 食が先行して結晶粒の脱落(脱粒)をともないつつ全 面が均一に腐食していくこと、粒界侵食の深さは1結 晶粒程度であり局部的に卓越して進行することがない ことを明らかにした[4]。本報告では、機器の腐食損傷の予防保全や寿命評価において重要となる、腐食進行 に伴う局所的な肉厚減少や粒界侵食の進行による貫通 孔発生の可能性を検討するため、伝熱管の肉厚減少量 や粒界侵食深さの測定結果について統計的手法を用い た腐食進展傾向の解析や極値統計法を用いた最大値の 解析を行った。
2. 試験方法
2.1 モックアップ試験 - 試験は、硝酸ループ設備に設置した R-SUS304ULC 鋼製の酸回収蒸発缶のモックアップ試験体を用いて実 施した。試験に用いた鋼材の化学組成を Table 1 に、モ ックアップ試験体の概要を Fig.1 にそれぞれ示す。試 験体の加熱部には長さ約 5m の伝熱管を7本組み込ん でいるが、このうち 4 本(図中の No.1.3.4.6)を解析 対象にした。試験溶液は、9mol/L 硝酸に、5mg/L の Ru 及び 200mg/L の V の金属イオンのほか、Fe、Cr を 加えたものである。管外面側を約 95°Cの蒸気により加 熱し、内面側は約 70°Cの硝酸の減圧沸騰条件にした。 蒸発缶は、気液分離部と3本の連通管で接続し、気液 分離部にて液面と圧力制御(約 16kPa)を行いながら、硝 酸の供給流量を約 120~150kg/h で運転した。約 8000 時間運転毎に計5回の開放検査を実施し、伝熱管の超405った。総試験時間は 36,414 時間とな音波肉厚測定を行った。総試験時間は 36,414 時間となった。Table 1 Chemical compositions of R-SUS304ULC(mass%) | c | sil Mn | P | s cr| Ni O 0.0120.45 | 1.49 | 0.015 | <0.001 | 18.45 | 10.10 |Horizontal Cross-Section--- 270T Gas OutSolution OutSolution Level--mVertical Cross-SectionSteam In Baffle PlateTube Length: Approx. 5mBoilingSteam flow Solution flowらはNon-boilingSteam Out1 Solution In Fig.1 Outline of mock-up test apparatus2.2 超音波肉厚測定超音波肉厚測定は、5 回の開放検査時に、超音波厚 さ計と本測定専用に製作した測定冶具を用い、水を満 たした伝熱管内にセンサを挿入する水浸法にて行った。 測定位置は、Fig.2 に示した管の鉛直方向と周方向の2 種類で行った。管の周方向は、管の上端から 200mm 間 隔の約 20 箇所の周において、角度 0.1 度刻みで 3600 点の測定を行った。管の鉛直方向は、90 度毎の4ライ ンにおいて、縦方向に 0.1mm 刻みで約 46,000 点の測 定を行った。測定結果は、試験前の測定値からの差分 を計算し、肉厚減少量を求め解析を行った。2.3 粒界侵食深さ測定 1 試験終了後に試験体を解体し、伝熱管 No.6 について、 管の上端から 200. 1400.3600mm の3つの位置の円周Vertical Scanning lines 1270““] [80]270““4.4T. ME200mm 200mmCircumferential Scanning lines1....4-1-1Fig.2Schema of scanning lines for ultrasonic tube wall thickness measurement0° Cross-Section of Tube270-1-41IFRA-90°180°Average Height of Inner SurfaceMaximum Depth of Intergranular PenetrationFig. 3 Schema of measurement of maximum depth ofintergranular penetration方向断面を光学顕微鏡により観察倍率 200倍で観察し た。この際、侵食された粒界を観察するため、試料の 断面を鏡面に研磨し、エッチングを行わずに観察した。 各位置の断面観察写真(全周約 220 視野)から無作為 に各々20 視野を抽出し、Fig.3 に示すように、各視野 の内表面の凹凸に対して平均的な内表面高さを定め、 これに対する最大の粒界侵食深さを測定した。内表面 高さに対応する減肉量は超音波肉厚測定から得た平均 減肉量とし、上述の最大の粒界侵食深さとの和を、改 めて「最大粒界侵食深さ」と定義した。4062.4 統計解析周方向の肉厚測定結果のばらつきは、正規分布に従 うことがわかったため、平均値と標準偏差で評価した。 5回の開放検査時の測定結果について評価を行い、時 間経過にともなう分布の変化を調べ、腐食進展傾向を 解析した。また、肉厚減少量と粒界侵食深さの最大値は、極値 統計法の一つである Gumbel 分布を用いて推定した[5]。 Gumbel 分布の累積分布関数 F(x)は二重指数関数の式 (1)によって表現される。「() = 0x0-098--273] (0ここで、x は確率変数であり、試験サンプルの各測 定結果の中から最大値を用いた。aは尺度パラメータ、 2は位置パラメータと呼ばれる。これらのパラメータ の推定には、最尤法を用いた。Gumbel 分布への適合 度は、GEV(一般化極値分布)を用いて検定した。こ のように計算した結果は、Gumbel 確率紙にプロットし た。この場合、式(2)で定義される規準化変数yを式(1) に適用し、式(3)のように変形して、横軸に x、縦軸に 式(3)のyを取った。F() = exp) - expl-1-27 )y = (4)()ソニーy = -In[-In{F(x)}] 11-3また、母集団の最大値を推定するために、再帰期間 Tを用いた。このTは式(4)で示される。T=1-F(x)再帰期間 Tは、あるしきい値を超える値を観測する ための観測回数(あるいはサンプル数)の期待値を意 味する。母集団である全観測範囲 S に対して、1 つの 観測範囲s を N 箇所観測する場合、式(5)が成立する条 件では、母集団に含まれる最大値は必ず観測されるの で、Tは式(6)のように N と等しくなる。S =s x N-5T=N=S-6仮に1観測範囲 s の観測回数(サンプリング数)n が n