原子力と報道のあり方

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カテゴリ: 第5回
1. 前文
「原子力と報道のあり方」が社会問題となってきてい る。従来、この問題は原子力サイドに問題化すること にメリットなしとの判断があったように思える状況だ ったのだが、最近の傾向として放置は結局、問題の解 決にならないとい意識が高まり、具体的な発言、行動 等が目立つようになってきたものと思われる。ここで はこうした動きに合わせて、体験的な観点から改めて 原子力問題と報道の関わりについて、試小論という形 で考えてみた。
2. 本文原子力関係者の報道、メディアに対する不満は以前 から根強くあったのだが、その不満は従来、第四の権 力ともされるメディアに対し、「長いものには巻かれ ろ」あるいは「泣く子と地頭には勝てぬ」というよう に極めて消極的、かつ受容的な対応になっていた。一 種の諦めともいえるのかもしれない。この流れが変化 したのが、昨年夏の中越沖地震とそれに伴う柏崎刈羽 原子力発電所の被害、結果としての全面ストップとい う事態だった。内容的に言えば、原子力災害とは無縁 だった変圧器の火災、ならびにごく微量の放射性物質 の漏洩ということだったのだが、結果として大きな風 評被害を招いてしまった。この風評被害の原因として メディアの過剰なあるいは意図的な報道が指摘され、 社会的な問題ともいえるところまでに至った。メディ ア批判の小論が雑誌などに目だって展開され、かつて なく「原子力と報道」がさまざまな側面から議論されることとなった。個人的にはひとつの大きな転換点だ ったと考えている。 _ しかし、それが好ましい報道の改善の方向を向いて いるか、というと残念ながらそう簡単な問題とは到底 考えられない。基本構造はそう大きくは変わっていな いからであり、原子力関係者はこの点、十分に留意す べきと考える。まず指摘したいのは、原子力問題は大胆に言ってし まえば理解されない問題ということであるということ だ。一歩譲っても、極めて理解困難な問題としてもい い。ここのところを関係者はまず肝に銘ずべきだろう。 「原子力と報道」に関わる根幹の問題といってもいい ように思える。その構造を説明する。 1. 豊富な知識を持つ原子力関係者とその一方にほとん ど知識皆無に近き一般国民、そしてその中間にあるメ ディア。三階層になってこの問題に関わる。そして重 要なことは原子力関係者と国民の間には直接の接点は なく、介在するのがメディアということになる。従っ てこのメディアがいかに報道するかによって、国民の 受け止め方大きく作用されることになる。それも面倒なことに国民は原子力に対する豊富とは いえない知識で、メディアの情報を判断することを強 いられるわけであるから、勢いその報道の感情的、感 覚的側面から事態を受け止める結果にならざるを得な い。ここが大きなネックであり、まさに原子力と報道 の健全な関係が求められる所以でもある。さらに言え ば、ここから知識による原子力理解よりも感情的な受 け入れか、拒否かの姿勢を国民は求められるわけで、
どうして「信頼」「不信」という科学的な判断を度外視 した視点に結びつくことになってしまう。俗な表現を すれば「分からないんだから任せているのに改竄やら 隠蔽やらの問題がどうして出てくるのか」という批判 となってくる。その中身がどういう問題であるかとい うこと以上に社会的な判断要素である「改竄」「隠蔽」 ということが大きな問題になってしまうということで あり、ここのところも原子力関係者が十分留意すべき 点だ。分かりやすく例を挙げるとすれば高度な脳外科 手術を受ける患者の立場が国民と言えるかもしれない。 一般的な患者は手術の説明を受けても正確な理解は無 理だろう。むしろ、ここでは医学的な判断よりも医者 への信頼が重要な決断要素になる可能性が高いことが 想像される。これを原子力に置き換えれば、国民は原 子力関係者が信頼できるかどうかを最大の判断要素と しているといえる。そこでメディアがこの信頼醸成にどう関わるかとい うことだが、ここでまた大きな問題が発生する。メデ ィアと言ったが新聞、テレビ、雑誌など、具体的メデ ィアに沿った議論が必要となるが、ここでは新聞を中 心に考えよう。その新聞だが、これも全国紙と地方紙 に分けなければならないが、影響力の広さから全国紙 を対象とすると発信する部は原子力に関連しては少な くとも四つの部署が関係してくる。事故・トラブル関係ではまず立地点の関係で地方部、 そして本社の社会部、科学部となる。地方部は簡単に 言えば原子力立地点にある出先機関ということで、そ の内容次第で社会部、科学部が関与する。ここは問題 の中身によって異なるが、最近で事故関連に科学部の 関与度が高まってきているのがひとつの特徴だろう。 ・ しかし、一報ベースで地方部が第一発信者となる。 現地にいるので当然だが、ここでも問題が発生する恐 れがある。その時の事情にもよるのだが、地方支局は 記者養成的な側面を持つ。記者は若い場合が多く、経 験が浅い。原子力に対する深い理解を求めにくいとい うのが一般的な状況だ。そのうえ異動が激しい。必要 な知識を得ることができた段階で異動というケースも 少なくない。知識の集積ができない。新しい担当は初 めから勉強ということになる。これだけでも問題が発 生しやすい体制であることが分かるはずだ。原子力関係者には記者は専門的であるのでないか、 というのは誤解の場合が多い。原子力関係者のなかで 報道サイドと多少とも具体的な接触があれば、このあたりの事情を理解可能だが、一般的に報道とに接触の ない原子力関係者はこうしたメディアの知識の底の浅 さに苛立ちを感じることになるようだ。このため、時 にそうした視点からのメディア批判を見かけるが、こ れは逆に原子力関係者のメディアの実際の状況に対す る理解ないし勉強不足だ。その是非を別にメディアの あり方をしっかり押さえておくことが重要だ。幻想の 相手に注文を付けても成果があがるはずがない。社会部の原子力担当も多くは同様で、むろん、これ は記者個人の資質の問題となるが、原子力の事故トラ ブルはそう多いわけでなく、専門的になる必然性はあ まりなく、一時的な担当とみておいて余り間違いない。 科学部は上記二部と多少異なる。科学部記者は「科学」 という分野で専門的であり、原子力により密接してい る。領域が狭い分、知識の蓄積も一定度進む。最近の 傾向としては事故トラブルも科学部の関与度がかなり 高くなってきているといえる。これは情動的な報道に なりがちな地方部、社会部の報道に比べて、相対的に 冷静ということができるだろう。全体的な評価として は好ましい傾向と考えられる。 * 最後に経済部というセクションがある。当方もこの 分野から例外的なエネルギー記者としてこの問題に関 与してきたわけだが、経済部の原子力問題へのアプロ ーチは二つ。原子力政策的な側面から経済産業省など を担当、それに原子力発電事業者を担当するというこ とからの側面だ。さらに言えば原子力産業・メーカー という対象と「経済」にまつわっての原子力問題に関 係してくる。もちろん科学部には文部科学省担当とい う側面もある。原子力委員会なども同様だ。頂上にあるのは原子力なのだが、そこへのアプロー チが部署によって相当違うという認識が必要となる。 具体的には原子力の記事とはいえ、新聞社内でその発 信地が違うということであり、自ずと内容にも違いを 生じる可能性が高いということだ。こうしたある意味で混沌とした状況からニュースが 発信される。また、それに必要な情報が様々な原子力 サイドから提供される。出てくるニュースに多様性が 出てくるのはやはり一種の必然ということになる。「メ ディアはもっと勉強をせよ」とよく言われるし、それ は正しい意見でもあるのだが、そうするシステムはほ ぼない。日本的ともいえる現象で記者はゼネラリスト を求められ、スペシャリストを余り求められていない。 簡単にいえば新聞社には原子力の知識を集積していく
だけの人的な余裕がないということかもしれない レビとなると皆無といえるだろう。* 「記者は担当になれば三ヶ月で専門記者」という言 葉が新聞界にあるが、必ずしも冗談とはいえない。し かし、それであっても原子力の高度の知識の読者、国 民への伝播者はこの記者群という現実がある。簡単に は変えることができない。加えて記者の上部構造とし ての社論というものが原子力に関連しては圧し掛かる。 これが問題をさらに複雑化してしまう。報道の自由は 必ずしも記者の報道の自由にならないという側面もあ るということになる。3. まとめ今回論点会議で議論されたことがどうメディアに受 け止められるのか、どう報道されていくのか、正直の ところ予想が難しいというのが実情だ。社会部、科学 部、あるいは経済部のどこが関心を示すかだが、それ によってニュースという情報の形が変わってきそうだ。 社会部的にはこの新制度の問題点が全面に出るだろう と想像されるし、科学部であれば技術的な側面を軸に して問題点指摘、また経済部であればその経済的効果 という点に注目するのかもしれない。問題は重要なの だが、ニュース性は薄いとされてしまうかもしれない。 原子力と報道の問題は面妖というのが結論となる。“ “原子力と報道のあり方“ “新井 光雄,Mitsuo ARAI
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