浜岡原子力発電所5号機低圧タービン損傷事象の長期的対策
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
中部電力浜岡原子力発電所5号機(以下、「浜岡 5| 号機」)(静岡県御前崎市)は、平成18年6月15日8 時 39 分定格熱出力一定運転中(電気出力 1406MWe)に 低圧タービン(B) 発電機側第12段(下流側から3段目) の動翼1本がフォーク部から脱落し、「タービン振動 過大」によりタービンが自動停止した。調査の結果、同タービンは低負荷時に逆流域が第 12 段まであり、ランダム振動の影響があること、ま た負荷急変時には給水加熱器からの逆流(フラッシュ バック)により、動翼に大きな振動応力が発生するこ とが判明した。特に建設時に実施した 20%負荷しゃ| 断試験(当時2回実施)においては、これらが同時期 に発生することで重畳し、疲労限を超える振動応力が フォーク部に作用することが確認され、本事象の原因 と推定した。長期的対策としては、第 12 段動翼を新 たに設計(以下「新翼」)した上で低圧タービンロー タを取替える計画としている。 * 本報告は、新翼の設計、強度信頼性の検証として実 施した検証試験、およびその結果について述べたもの である。
2. 新翼の設計 - 2.1 基本方針 - 浜岡5号機は既存プラントであるため、タービンの 車室、噴口等の基本形状の変更を要する逆流域の改善 連絡先:河原将志、〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561 中部電力(株)浜岡原子力発電所 保修部保修計画課 電話:0537-86-3481、e-mail: Kawahara. Masashi@chuden.co.jp
およびフラッシュバックの低減は困難なことから、こ れら非同期振動に耐え得る動翼構造による対策を図 ることとした。また、プラント全体の熱サイクルへ影 響を与えないように、設計条件は従来翼採用時と同一 とし、損傷事象が第 12 段特有の事象であったことか ら、その他の段落の動翼については、原設計のまま新 製することとした。 2.2 新翼の構造一般的な設計方針として、非同期振動の対象段落に ついては、動翼に作用する振動応力低減のため、従来 から高減衰の動翼連結構造を採用している。浜岡5号 機についても第 13 段、14 段(下流側から2段)は、 非同期振動の対象段落として従来翼採用時から高減 衰構造としている。第 12 段従来翼では、設計当時の 従来知見より非同期振動の対象段落としていなかっ たことから、剛構造(テノンシュラウドタイプ (図1)) を採用していたが、損傷原因の調査の結果より非同期 振動の対象段落であることが確認できたことから、新 翼は高減衰構造を採用することとした。 高減衰構造はルースタイワイヤタイプと、隣り合う 動翼の先端部カバーが接触する全周 1 リングタイプ (図2)(以下、「CCB (Continuous Cover Blade) タイプ」)があり、浜岡5号機の第 14 段はルースタイ ワイヤタイプ、第 13 段はCCBタイプを採用してい る。減衰効果ではCCBタイプが最も優れており(過 去に実施した試験結果では前者と比較し 2.5 倍以上)、 新翼はCCBタイプを選定した。CCBタイプ採用に 伴い、従来翼比較して動翼の重量が低減したことから フォーク部の平均遠心応力の低下により疲労限が 1.2 倍に向上した。 プと、隣り合う 1 リングタイプ s Cover Blade) 段はルースタイ 1.2 - 441 -- 動翼溝構造については、製作メーカの実績および遠 心強度から従来翼と同じフォークタイプとした。図1 従来翼 (テノンシュラウドタイプ)図2 新翼 (CCBタイプ)3.新翼の強度信頼性検証 3.1 検証新翼の強度信頼性検証は、最新の解析技術、モデル 試験を用いて評価した。モデル試験は、動翼の基本特 性(固有振動数、減衰比等)を検証するための実機大 モデル回転試験、動翼に作用する流体加振力に起因す る振動応力および逆流域を検証する縮小モデル蒸気 試験を実施した。また、縮小モデル蒸気試験について は、新翼の強度信頼性を相対的に評価するため、同一 条件にて従来翼による試験も実施し評価した。 3.2 実機大モデル回転試験 - 実機大モデル回転試験では、新翼の基本特性として 固有振動数を測定し、運転定格回転数において、共振 回避マージンから共振点が離調できていることを確 認した。また共振応答曲線から算出した減衰比は、従 来翼(実機製作時に測定)と比較して約6~8倍の減 衰比を有していることを確認した。(図3)●:新翼 ■:従来翼(実機製作時に測定)相対減衰比0_ 100 200 300 400振動数 Hz 図3 新翼と従来翼の減衰比比較3.3_縮小モデル蒸気試験 縮小モデル蒸気試験は、従来翼開発時にも実施して いるが、損傷原因に対応した試験を可能とするため、 以下の点を考慮した。の実機との相似性が確保できること。 2フォーク部の振動応力が計測できること。 3低負荷運転が可能なこと。 4フラッシュバック (実機では給水加熱器からタービ トーンへの逆流)が模擬できること。 5負荷しゃ断時のタービン回転数挙動が実機を模擬できること。 ◎逆流域の影響範囲を計測できること。 縮小モデル蒸気試験の結果、低負荷時の逆流域は損 傷事象の原因調査結果(流体解析で究明)と同様、第 12 段まで及んでいることを確認した。またその時の 振動応力は、疲労限の 0.1 倍(従来翼は疲労限の 0.8 倍)、ランダム振動にフラッシュバック振動が重畳し た振動応力は疲労限の 0.2 倍(従来翼は疲労限の 2 倍)であり、新翼の振動応力は疲労限に対して十分裕 度を有していることを確認した。また従来翼と比較し た結果、フォーク部に作用する振動応力は約 1/8 に低 減(図4)しており、十分な減衰を有していることを 確認した。従来翼フォーク部振動応力疲労限の2倍1004060 経過時間(3)新翼フォーク部振動応力疲労限の 0.2倍10060 180 経過時間(S) 図4 フォーク部振動応力波形 (ランダム+フラッシュバック振動応力)4.結言 - 長期的対策としては、今後新翼を採用した低圧ター ビンを製作し、平成 21 年度に実施する定期点検(浜 岡5号機第4回定期点検)に取り替える計画としてい る。新翼の強度信頼性は確保できていると考えるが、 フォーク部の異常兆候を通常の点検で検出すること ができなかったことに鑑み、フォーク部の検査方法、 実機への適用性に係る研究を進めていく。442“ “浜岡原子力発電所5号機低圧タービン損傷事象の長期的対策“ “河原 将志,Masashi KAWAHARA,代田 寿彦,Toshihiko SHIROTA,柴下 直昭,Naoaki SHIBASHITA
中部電力浜岡原子力発電所5号機(以下、「浜岡 5| 号機」)(静岡県御前崎市)は、平成18年6月15日8 時 39 分定格熱出力一定運転中(電気出力 1406MWe)に 低圧タービン(B) 発電機側第12段(下流側から3段目) の動翼1本がフォーク部から脱落し、「タービン振動 過大」によりタービンが自動停止した。調査の結果、同タービンは低負荷時に逆流域が第 12 段まであり、ランダム振動の影響があること、ま た負荷急変時には給水加熱器からの逆流(フラッシュ バック)により、動翼に大きな振動応力が発生するこ とが判明した。特に建設時に実施した 20%負荷しゃ| 断試験(当時2回実施)においては、これらが同時期 に発生することで重畳し、疲労限を超える振動応力が フォーク部に作用することが確認され、本事象の原因 と推定した。長期的対策としては、第 12 段動翼を新 たに設計(以下「新翼」)した上で低圧タービンロー タを取替える計画としている。 * 本報告は、新翼の設計、強度信頼性の検証として実 施した検証試験、およびその結果について述べたもの である。
2. 新翼の設計 - 2.1 基本方針 - 浜岡5号機は既存プラントであるため、タービンの 車室、噴口等の基本形状の変更を要する逆流域の改善 連絡先:河原将志、〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561 中部電力(株)浜岡原子力発電所 保修部保修計画課 電話:0537-86-3481、e-mail: Kawahara. Masashi@chuden.co.jp
およびフラッシュバックの低減は困難なことから、こ れら非同期振動に耐え得る動翼構造による対策を図 ることとした。また、プラント全体の熱サイクルへ影 響を与えないように、設計条件は従来翼採用時と同一 とし、損傷事象が第 12 段特有の事象であったことか ら、その他の段落の動翼については、原設計のまま新 製することとした。 2.2 新翼の構造一般的な設計方針として、非同期振動の対象段落に ついては、動翼に作用する振動応力低減のため、従来 から高減衰の動翼連結構造を採用している。浜岡5号 機についても第 13 段、14 段(下流側から2段)は、 非同期振動の対象段落として従来翼採用時から高減 衰構造としている。第 12 段従来翼では、設計当時の 従来知見より非同期振動の対象段落としていなかっ たことから、剛構造(テノンシュラウドタイプ (図1)) を採用していたが、損傷原因の調査の結果より非同期 振動の対象段落であることが確認できたことから、新 翼は高減衰構造を採用することとした。 高減衰構造はルースタイワイヤタイプと、隣り合う 動翼の先端部カバーが接触する全周 1 リングタイプ (図2)(以下、「CCB (Continuous Cover Blade) タイプ」)があり、浜岡5号機の第 14 段はルースタイ ワイヤタイプ、第 13 段はCCBタイプを採用してい る。減衰効果ではCCBタイプが最も優れており(過 去に実施した試験結果では前者と比較し 2.5 倍以上)、 新翼はCCBタイプを選定した。CCBタイプ採用に 伴い、従来翼比較して動翼の重量が低減したことから フォーク部の平均遠心応力の低下により疲労限が 1.2 倍に向上した。 プと、隣り合う 1 リングタイプ s Cover Blade) 段はルースタイ 1.2 - 441 -- 動翼溝構造については、製作メーカの実績および遠 心強度から従来翼と同じフォークタイプとした。図1 従来翼 (テノンシュラウドタイプ)図2 新翼 (CCBタイプ)3.新翼の強度信頼性検証 3.1 検証新翼の強度信頼性検証は、最新の解析技術、モデル 試験を用いて評価した。モデル試験は、動翼の基本特 性(固有振動数、減衰比等)を検証するための実機大 モデル回転試験、動翼に作用する流体加振力に起因す る振動応力および逆流域を検証する縮小モデル蒸気 試験を実施した。また、縮小モデル蒸気試験について は、新翼の強度信頼性を相対的に評価するため、同一 条件にて従来翼による試験も実施し評価した。 3.2 実機大モデル回転試験 - 実機大モデル回転試験では、新翼の基本特性として 固有振動数を測定し、運転定格回転数において、共振 回避マージンから共振点が離調できていることを確 認した。また共振応答曲線から算出した減衰比は、従 来翼(実機製作時に測定)と比較して約6~8倍の減 衰比を有していることを確認した。(図3)●:新翼 ■:従来翼(実機製作時に測定)相対減衰比0_ 100 200 300 400振動数 Hz 図3 新翼と従来翼の減衰比比較3.3_縮小モデル蒸気試験 縮小モデル蒸気試験は、従来翼開発時にも実施して いるが、損傷原因に対応した試験を可能とするため、 以下の点を考慮した。の実機との相似性が確保できること。 2フォーク部の振動応力が計測できること。 3低負荷運転が可能なこと。 4フラッシュバック (実機では給水加熱器からタービ トーンへの逆流)が模擬できること。 5負荷しゃ断時のタービン回転数挙動が実機を模擬できること。 ◎逆流域の影響範囲を計測できること。 縮小モデル蒸気試験の結果、低負荷時の逆流域は損 傷事象の原因調査結果(流体解析で究明)と同様、第 12 段まで及んでいることを確認した。またその時の 振動応力は、疲労限の 0.1 倍(従来翼は疲労限の 0.8 倍)、ランダム振動にフラッシュバック振動が重畳し た振動応力は疲労限の 0.2 倍(従来翼は疲労限の 2 倍)であり、新翼の振動応力は疲労限に対して十分裕 度を有していることを確認した。また従来翼と比較し た結果、フォーク部に作用する振動応力は約 1/8 に低 減(図4)しており、十分な減衰を有していることを 確認した。従来翼フォーク部振動応力疲労限の2倍1004060 経過時間(3)新翼フォーク部振動応力疲労限の 0.2倍10060 180 経過時間(S) 図4 フォーク部振動応力波形 (ランダム+フラッシュバック振動応力)4.結言 - 長期的対策としては、今後新翼を採用した低圧ター ビンを製作し、平成 21 年度に実施する定期点検(浜 岡5号機第4回定期点検)に取り替える計画としてい る。新翼の強度信頼性は確保できていると考えるが、 フォーク部の異常兆候を通常の点検で検出すること ができなかったことに鑑み、フォーク部の検査方法、 実機への適用性に係る研究を進めていく。442“ “浜岡原子力発電所5号機低圧タービン損傷事象の長期的対策“ “河原 将志,Masashi KAWAHARA,代田 寿彦,Toshihiko SHIROTA,柴下 直昭,Naoaki SHIBASHITA