高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化(3)
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カテゴリ: 第5回
1. はじめに
* 軽水炉の高経年化対策は、今後の保全学の発展を具 体的に示す中核課題の一つであって、複雑な人工物シ ステムにおける設備・機器、技術・情報、組織・人間 と社会・経営要因等の制約条件の時間経過に伴う変化 とそれらの間の相互作用・知識変換過程を含む総合的 な基盤を有すると考えることができる。ここでは、高経年化対策に関する多くの具体的活動 を俯瞰的に総括して、多様な知識基盤の蓄積とその産 官学や国際的な共有化に基づく保全学の発展の方向性 の観点から考察を加える。
2. 新検査制度における高経年化対策
2.1 保全計画の策定と経年劣化管理1) 1. 新しい検査制度においては、機器の経年劣化に関す るデータと知見、トラブル等をふまえた保全方法の継 続的な改善が求められる。 - 点検時の機器状態に基づいた現状保全の妥当性評価 結果とこれをふまえた新たな保全計画を国に届け出て、 保全活動の継続的な改善について国の事前確認が必要 となる。さらに次項で述べるように、劣化監視を行う 時期についても経年劣化事象ごとに規制要求が明確化 されることとなる。
-32.2 高経年化対策の定義と実施基準改定 12. 日本原子力学会標準委員会では、高経年化対策実施 基準の改定が最終段階にある。改定版では、高経年化 対策を、1)運転初期からの経年劣化管理、2)10年 ごとの経年劣化管理、3)高経年化対策検討及び長期 保全計画に基づく保守管理からなる3つカテゴリーの 総称として、定義し直している。 - 高経年化対策上着目すべき経年劣化事象のうち、高 経年化技術評価において取り上げる必要のある事象を 抽出するロジックを明確化している。これらの事象に ついては評価手法を当基準の中で規定することとした。また、これまでの BWR7機、PWR7機の計 14 機の高 経年化技術評価の知見に基づいて、機器ごとに想定さ れる経年劣化事象を「劣化メカニズムまとめ表」とし て整備してきたが、これは(社)日本電気協会の「原 子力発電所の保守管理規程」(JEAC4209-2007)で例示 されている劣化メカニズム整理表に取り込まれるべき ものである。さらに付属書(参考)として、部位ごと の経年劣化事象の抽出方法を辞書的に一覧表にとりま とめている。3. 技術戦略マップとそのローリング- 産官学・学協会によって平成 19年7月にとりまとめ られた「高経年化対応技術戦略マップ 2007」は、産官 学・学協会の役割分担の理念を共有しており、これに 基づいた研究開発等の幅広い活動が進歩しつつある。 技術戦略マップは、その内部に継続的に評価と見直し485を行う仕組み(ローリング)を含んでいる2)。原子力 安全基盤機構の技術情報調整委員会安全研究 WG では、 高経年化対策強化基盤整備事業の総括検討会のもとの 7つの検討会、及び産業界の PLM 研究推進会議とその もとの 10 サブグループと協調して、技術戦略マップの ローリング体制を構築することができた。技術戦略マ ップの基本的な構造は、本年においても大きく変化す るものではないとの認識に基づき、1)外的環境要因 からの全体像の再認識、2) 技術課題ごとの進捗状況 の確認と自己評価、3)新たな技術課題の抽出、4) 原子力安全基盤小委員会における第三者的評価の4つ の観点から、重点的なローリング作業を行い、中越沖 地震をふまえた重点化の方向性等についても見直しを 行っている。この産官学の精力的な作業に基づく「高 経年化対応技術戦略マップ 2008」の中間的とりまとめ 結果については、第9回原子力安全基盤小委員会に報 告している。4. 高経年化対策のための基盤整備平成 18 年度より開始された原子力安全・保安院の 「高経年化対策強化基盤整備事業」4)は、4つの地域 クラスターと7つの検討会による大規模な活動が継続 されている。技術戦略マップの課題を経年劣化事象の みならず検査・保全技術、技術情報基盤の観点から広 く基盤の整備に貢献するとともに、原子力安全基盤機 構や産業界との協調の場として有機的に機能している。 昨年度は平成 20年2月に成果報告会に引き続き、国内 シンポジウムを開催し、若手研究者を含む多くの人材 が貢献する場となっていることが明らかにされた。 - 平成20年7月 23-25 日には本プロジェクトの総括検 討会の主催によって、原子力発電システムの高経年化 対策に関する国際シンポジウム (ISaG 2008 : International Symposium on Ageing Management and Maintenance of Nuclear Power Plants)が東京大学に おいて開催され、研究プロジェクトの進捗のみならず、 米国 NRC を含む各国規制側や事業者からも招待講演等 が行われる予定である。5. 国際的な協調軽水炉の高経年化対策の充実は、国内のみならず国 際的にも関心の高いテーマである。昨年は IAEA の主催によって、高経年化対策に関する国際会議 (PLiM 2007: International Symposium on Nuclear Power Plant Life Management)が、上海において開催され、我が国から 多くの参加があった。特に技術戦略マップについては、 各国から強い関心が寄せられた。この会議では、米国 規制側が 80 年間の運転となる2回目の運転認可更新 に関する準備を進めている等の情報が得られている。IAEA TIZ, Safety Guide DS382 (Ageing Management for Nuclear Power Plants)がとりまとめられつつあ る他、これを技術的に補足するために米国 NRC の GALL report (Generic Aging Lessons Learned; NUREG-1801) の国際版(International GALL) を作成するための会 合が開始された。これは我が国における「劣化メカニ ズムまとめ表」等に基づいた実績と基盤を活かす場で あると考えられる。OECD/NEA においても、我が国の拠出金プロジェクト である SCAP プロジェクト(SCC and Cable Ageing Project)が進んでいる。現在、4年計画のほぼ中間に さしかかっており、詳細なデータベース構造が議論さ れ、その分析に基づいた知識ベース獲得と経年劣化管 理に対する推奨事項(Commendable Practices) を抽出 関する本格的な議論と作業が進もうとしている。6.まとめ複雑な人工物システムとしての軽水炉が、長期間に わたって安全性と信頼性を確保しつつ継続的に運転さ れ、エネルギーの安定供給と安全・安心社会構築の要 請に応えてゆくためには、総合的なシステム造りが要 請される。平成 22 年に始めて運転開始後 40 年を迎え るプラントをはじめとした高経年化対策のみならず、 次世代軽水炉、さらにこれに続く原子力システムへの 貢献が養成される。参考文献 1) 第5回保全セミナー「軽水炉における高経年化対策とその展開」平成20年6月6日 2) 関村直人、日本保全学会第4回学術講演会「高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化(2)」平成19年7月3日 3) 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力安全基盤小委員会(第9回)資料、「高経年 化対応技術戦略マップのローリングについて」、平成20年6月2日 4) http://nisaplm. jp/index.html486“ “高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化(3)“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA
* 軽水炉の高経年化対策は、今後の保全学の発展を具 体的に示す中核課題の一つであって、複雑な人工物シ ステムにおける設備・機器、技術・情報、組織・人間 と社会・経営要因等の制約条件の時間経過に伴う変化 とそれらの間の相互作用・知識変換過程を含む総合的 な基盤を有すると考えることができる。ここでは、高経年化対策に関する多くの具体的活動 を俯瞰的に総括して、多様な知識基盤の蓄積とその産 官学や国際的な共有化に基づく保全学の発展の方向性 の観点から考察を加える。
2. 新検査制度における高経年化対策
2.1 保全計画の策定と経年劣化管理1) 1. 新しい検査制度においては、機器の経年劣化に関す るデータと知見、トラブル等をふまえた保全方法の継 続的な改善が求められる。 - 点検時の機器状態に基づいた現状保全の妥当性評価 結果とこれをふまえた新たな保全計画を国に届け出て、 保全活動の継続的な改善について国の事前確認が必要 となる。さらに次項で述べるように、劣化監視を行う 時期についても経年劣化事象ごとに規制要求が明確化 されることとなる。
-32.2 高経年化対策の定義と実施基準改定 12. 日本原子力学会標準委員会では、高経年化対策実施 基準の改定が最終段階にある。改定版では、高経年化 対策を、1)運転初期からの経年劣化管理、2)10年 ごとの経年劣化管理、3)高経年化対策検討及び長期 保全計画に基づく保守管理からなる3つカテゴリーの 総称として、定義し直している。 - 高経年化対策上着目すべき経年劣化事象のうち、高 経年化技術評価において取り上げる必要のある事象を 抽出するロジックを明確化している。これらの事象に ついては評価手法を当基準の中で規定することとした。また、これまでの BWR7機、PWR7機の計 14 機の高 経年化技術評価の知見に基づいて、機器ごとに想定さ れる経年劣化事象を「劣化メカニズムまとめ表」とし て整備してきたが、これは(社)日本電気協会の「原 子力発電所の保守管理規程」(JEAC4209-2007)で例示 されている劣化メカニズム整理表に取り込まれるべき ものである。さらに付属書(参考)として、部位ごと の経年劣化事象の抽出方法を辞書的に一覧表にとりま とめている。3. 技術戦略マップとそのローリング- 産官学・学協会によって平成 19年7月にとりまとめ られた「高経年化対応技術戦略マップ 2007」は、産官 学・学協会の役割分担の理念を共有しており、これに 基づいた研究開発等の幅広い活動が進歩しつつある。 技術戦略マップは、その内部に継続的に評価と見直し485を行う仕組み(ローリング)を含んでいる2)。原子力 安全基盤機構の技術情報調整委員会安全研究 WG では、 高経年化対策強化基盤整備事業の総括検討会のもとの 7つの検討会、及び産業界の PLM 研究推進会議とその もとの 10 サブグループと協調して、技術戦略マップの ローリング体制を構築することができた。技術戦略マ ップの基本的な構造は、本年においても大きく変化す るものではないとの認識に基づき、1)外的環境要因 からの全体像の再認識、2) 技術課題ごとの進捗状況 の確認と自己評価、3)新たな技術課題の抽出、4) 原子力安全基盤小委員会における第三者的評価の4つ の観点から、重点的なローリング作業を行い、中越沖 地震をふまえた重点化の方向性等についても見直しを 行っている。この産官学の精力的な作業に基づく「高 経年化対応技術戦略マップ 2008」の中間的とりまとめ 結果については、第9回原子力安全基盤小委員会に報 告している。4. 高経年化対策のための基盤整備平成 18 年度より開始された原子力安全・保安院の 「高経年化対策強化基盤整備事業」4)は、4つの地域 クラスターと7つの検討会による大規模な活動が継続 されている。技術戦略マップの課題を経年劣化事象の みならず検査・保全技術、技術情報基盤の観点から広 く基盤の整備に貢献するとともに、原子力安全基盤機 構や産業界との協調の場として有機的に機能している。 昨年度は平成 20年2月に成果報告会に引き続き、国内 シンポジウムを開催し、若手研究者を含む多くの人材 が貢献する場となっていることが明らかにされた。 - 平成20年7月 23-25 日には本プロジェクトの総括検 討会の主催によって、原子力発電システムの高経年化 対策に関する国際シンポジウム (ISaG 2008 : International Symposium on Ageing Management and Maintenance of Nuclear Power Plants)が東京大学に おいて開催され、研究プロジェクトの進捗のみならず、 米国 NRC を含む各国規制側や事業者からも招待講演等 が行われる予定である。5. 国際的な協調軽水炉の高経年化対策の充実は、国内のみならず国 際的にも関心の高いテーマである。昨年は IAEA の主催によって、高経年化対策に関する国際会議 (PLiM 2007: International Symposium on Nuclear Power Plant Life Management)が、上海において開催され、我が国から 多くの参加があった。特に技術戦略マップについては、 各国から強い関心が寄せられた。この会議では、米国 規制側が 80 年間の運転となる2回目の運転認可更新 に関する準備を進めている等の情報が得られている。IAEA TIZ, Safety Guide DS382 (Ageing Management for Nuclear Power Plants)がとりまとめられつつあ る他、これを技術的に補足するために米国 NRC の GALL report (Generic Aging Lessons Learned; NUREG-1801) の国際版(International GALL) を作成するための会 合が開始された。これは我が国における「劣化メカニ ズムまとめ表」等に基づいた実績と基盤を活かす場で あると考えられる。OECD/NEA においても、我が国の拠出金プロジェクト である SCAP プロジェクト(SCC and Cable Ageing Project)が進んでいる。現在、4年計画のほぼ中間に さしかかっており、詳細なデータベース構造が議論さ れ、その分析に基づいた知識ベース獲得と経年劣化管 理に対する推奨事項(Commendable Practices) を抽出 関する本格的な議論と作業が進もうとしている。6.まとめ複雑な人工物システムとしての軽水炉が、長期間に わたって安全性と信頼性を確保しつつ継続的に運転さ れ、エネルギーの安定供給と安全・安心社会構築の要 請に応えてゆくためには、総合的なシステム造りが要 請される。平成 22 年に始めて運転開始後 40 年を迎え るプラントをはじめとした高経年化対策のみならず、 次世代軽水炉、さらにこれに続く原子力システムへの 貢献が養成される。参考文献 1) 第5回保全セミナー「軽水炉における高経年化対策とその展開」平成20年6月6日 2) 関村直人、日本保全学会第4回学術講演会「高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化(2)」平成19年7月3日 3) 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力安全基盤小委員会(第9回)資料、「高経年 化対応技術戦略マップのローリングについて」、平成20年6月2日 4) http://nisaplm. jp/index.html486“ “高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化(3)“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA