原子炉出力向上が経年劣化へ与える影響の評価と対応
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
原子炉出力向上(以下「出力向上」)を実施すると、 原子炉熱出力増加に伴う崩壊熱の増加、プロセス流体 温度/圧力/流量の変化、電気出力増加による電流の変 化等により、プラントの運転状態や主要機器の使用状 態が変化する。このため、出力向上により影響を受け る機器は、経年劣化事象が加速する可能性が考えられる。- 出力向上条件での経年劣化評価は、出力向上運転条 件において考慮すべき経年劣化事象について進展評価 を行い、従来より進展速度が増加すると予測される機 器については、従来の保全に加えて事前点検等、適切 な対応をとる必要がある。このため、評価手法を開発 した。 2. 評価手順開発した評価手法に基づく出力向上条件での経年劣 化評価手順を図1に示す。
2.1 評価対象機器の抽出 - まず出力向上に影響を受ける系統及び機器を抽出す る。ここで、出力向上運転により、各系統の冷却材温 度、圧力、流量あるいは電気設備の電流値などの運転 パラメータ(運転状態)が変化する範囲(直接影響) と、その二次的な影響として雰囲気線量、雰囲気温度 等の環境条件が変化する範囲(間接影響)をその対象 範囲とする。
なお、出力向上による直接影響と間接影響がそれぞ れ単独で機器に及ぶ場合や、両方が重畳して機器に及 ぶ場合があるため、直接影響と間接影響とを区別して、
評価対象機器リストを整理する。また、抽出された評 価対象主要機器に付属系統(封水、潤滑油、冷却水等) がある場合は、同様な手法で評価対象機器を抽出する とともに、抽出された機器を駆動する電動機の単線結 線図を用いて電源設備への影響範囲の機器も抽出する。出力向上運転により運転 評価対象機器の抽出状態、環境条件が変わる 機器を抽出
評価対象機器の類似性の高い機器をグル ープ化抽出
経年劣化事象の抽出: 出力向上時の運転状態・ 環境条件の変化に影響さ れる事象を抽出健全性評価 給合評而・機器の健全性と現状保 全の適切性を評価 (海外トラブルを考慮)
保全対応事項の抽出: 現状の保全に追加すべ この事項を抽出図1 出力向上運転下での経年劣化評価の流れ2.2 詳細評価機器の抽出抽出された評価対象機器を型式・材質・流体等のパ ラメータで整理して類似性の高いものをグループ化し、 各グループから詳細評価対象機器を選定する。詳細評 価対象機器はグループ内で最も厳しい運転状態あるい は環境条件にある機器だけでなく、出力向上後の運転 状態または環境条件の変化量が最も大きく、従来の保 全では対応できない可能性のあるものを抽出する。
2.3 経年劣化事象の抽出高経年化技術評価(以下、PLM評価)で整理した 工学的に想定される経年劣化事象をもとに、出力向上 運転で想定すべき経年劣化事象を抽出する。2.4 健全性評価/総合評価詳細評価対象の機器毎に評価すべき部位における経 年劣化事象の進展を評価するとともに、現状保全(点 検方法、頻度等)の適切性を評価する。なお、その際、 海外の出力向上プラントのトラブル事例を考慮する。 ここで、出力向上運転開始後のトラブル発生防止の観 点から比較的経年劣化進展速度の速い事象/機器に対 する評価が重要となる。2.5 保全対応事項の抽出 * 前節の評価結果に基づき詳細評価対象機器について どのような保全対応をとればよいか、検討・評価し、 表1に示すように区分してまとめる。この結果を踏ま えて、グループ内機器に対する保全対応を検討する。 なお、経年劣化進展速度の比較的遅い事象/機器につ いては、通常の保全活動及びPLM評価活動を通じて 点検計画や長期保全計画を適正化し実施すれば、対応 可能である。 - 表1 出力向上影響評価に基づく保全対応事項保全対応事項 事前対応 |・事前点検(劣化状態把握)・事前対策(取替・改造) 短期的対応 ・試運転時巡視点検計画策定| ・危機管理計画策定 中期的対応 ・次回、次々回定検点検計画策定・運転中機器の監視計画策定 | 長期的対応 | PLM評価への反映事項整理3. 高経年化技術評価との違い原子炉出力向上が経年劣化へ与える影響を評価する 上でPLM評価手法は参考になるが、PLM評価と出 力向上影響評価の間には相違点がある。表2にその相 違点を示す。4.結言今回開発した手法を用いて東海第二発電所出力向 上条件で実機の経年劣化評価を進めている。今後も最 新知見を随時反映するとともに、保全計画への反映を 行い、安全・安定運転の確保と信頼性の確保に努める。4表2 高経年化技術評価と出力向上影響評価の違い 項目相違点 目的「PLM評価」は、長期的展望に立っ て検討評価した知見を現状の保全に反 映し、安全確保に万全を期そうとする もの。これに対し、「出力向上影響評価」 は、トラブル発生防止が目的であるの で、主として出力向上運転開始後の比較的短期間に重点を置いている。 評価対象機器|「出力向上影響評価」は、出力向上に の抽出 よるトラブルの発生防止等を目的としているので、出力向上の影響を受ける 機器はもちろんのこと、消耗品や比較的短期で取り替えるものも含まれる。 |評価対象機器」「出力向上影響評価」では、「PLM評 のグループ化 「価」の機種分類を採用した。 詳細評価対象 | グループ内機器の中から最も条件の厳 機器の抽出 しい機器だけでなく、出力向上前後の条件変化が最も大きい箇所も抽出し、詳細評価対象とする。 想定される経」「出力向上影響評価」では、消耗品も 年劣化事象の「評価対象であるので消耗品の経年劣化 選定及び評価 | 事象が追加となる。 すべき経年劣 化事象の抽出 健全性評価/」「出力向上影響評価」は、比較的進展 | 総合評価 の速い経年劣化事象に伴うトラブル発生防止が目的なので、比較的精度の高 い評価が求められる。これに対し、「P LM評価」では長期的な観点から経年劣化評価を実施している。 保全対応事項 「出力向上影響評価」は、「PLM評価」 の抽出と同様、経年劣化評価等に基づく保全 対応事項を抽出するほか、事前の点検 調査やプロアクティブな対策に関する 検討が必要である。参考文献(1) 電力共同研究「原子炉出力向上に関する技術評価手法等の標準化研究」報告書,平成 20年3月 (1) - 499 -“ “原子炉出力向上が経年劣化へ与える影響の評価と対応“ “小野瀬 鉄也,Testuya ONOSE,青木 孝行,Takayuki AOKI
原子炉出力向上(以下「出力向上」)を実施すると、 原子炉熱出力増加に伴う崩壊熱の増加、プロセス流体 温度/圧力/流量の変化、電気出力増加による電流の変 化等により、プラントの運転状態や主要機器の使用状 態が変化する。このため、出力向上により影響を受け る機器は、経年劣化事象が加速する可能性が考えられる。- 出力向上条件での経年劣化評価は、出力向上運転条 件において考慮すべき経年劣化事象について進展評価 を行い、従来より進展速度が増加すると予測される機 器については、従来の保全に加えて事前点検等、適切 な対応をとる必要がある。このため、評価手法を開発 した。 2. 評価手順開発した評価手法に基づく出力向上条件での経年劣 化評価手順を図1に示す。
2.1 評価対象機器の抽出 - まず出力向上に影響を受ける系統及び機器を抽出す る。ここで、出力向上運転により、各系統の冷却材温 度、圧力、流量あるいは電気設備の電流値などの運転 パラメータ(運転状態)が変化する範囲(直接影響) と、その二次的な影響として雰囲気線量、雰囲気温度 等の環境条件が変化する範囲(間接影響)をその対象 範囲とする。
なお、出力向上による直接影響と間接影響がそれぞ れ単独で機器に及ぶ場合や、両方が重畳して機器に及 ぶ場合があるため、直接影響と間接影響とを区別して、
評価対象機器リストを整理する。また、抽出された評 価対象主要機器に付属系統(封水、潤滑油、冷却水等) がある場合は、同様な手法で評価対象機器を抽出する とともに、抽出された機器を駆動する電動機の単線結 線図を用いて電源設備への影響範囲の機器も抽出する。出力向上運転により運転 評価対象機器の抽出状態、環境条件が変わる 機器を抽出
評価対象機器の類似性の高い機器をグル ープ化抽出
経年劣化事象の抽出: 出力向上時の運転状態・ 環境条件の変化に影響さ れる事象を抽出健全性評価 給合評而・機器の健全性と現状保 全の適切性を評価 (海外トラブルを考慮)
保全対応事項の抽出: 現状の保全に追加すべ この事項を抽出図1 出力向上運転下での経年劣化評価の流れ2.2 詳細評価機器の抽出抽出された評価対象機器を型式・材質・流体等のパ ラメータで整理して類似性の高いものをグループ化し、 各グループから詳細評価対象機器を選定する。詳細評 価対象機器はグループ内で最も厳しい運転状態あるい は環境条件にある機器だけでなく、出力向上後の運転 状態または環境条件の変化量が最も大きく、従来の保 全では対応できない可能性のあるものを抽出する。
2.3 経年劣化事象の抽出高経年化技術評価(以下、PLM評価)で整理した 工学的に想定される経年劣化事象をもとに、出力向上 運転で想定すべき経年劣化事象を抽出する。2.4 健全性評価/総合評価詳細評価対象の機器毎に評価すべき部位における経 年劣化事象の進展を評価するとともに、現状保全(点 検方法、頻度等)の適切性を評価する。なお、その際、 海外の出力向上プラントのトラブル事例を考慮する。 ここで、出力向上運転開始後のトラブル発生防止の観 点から比較的経年劣化進展速度の速い事象/機器に対 する評価が重要となる。2.5 保全対応事項の抽出 * 前節の評価結果に基づき詳細評価対象機器について どのような保全対応をとればよいか、検討・評価し、 表1に示すように区分してまとめる。この結果を踏ま えて、グループ内機器に対する保全対応を検討する。 なお、経年劣化進展速度の比較的遅い事象/機器につ いては、通常の保全活動及びPLM評価活動を通じて 点検計画や長期保全計画を適正化し実施すれば、対応 可能である。 - 表1 出力向上影響評価に基づく保全対応事項保全対応事項 事前対応 |・事前点検(劣化状態把握)・事前対策(取替・改造) 短期的対応 ・試運転時巡視点検計画策定| ・危機管理計画策定 中期的対応 ・次回、次々回定検点検計画策定・運転中機器の監視計画策定 | 長期的対応 | PLM評価への反映事項整理3. 高経年化技術評価との違い原子炉出力向上が経年劣化へ与える影響を評価する 上でPLM評価手法は参考になるが、PLM評価と出 力向上影響評価の間には相違点がある。表2にその相 違点を示す。4.結言今回開発した手法を用いて東海第二発電所出力向 上条件で実機の経年劣化評価を進めている。今後も最 新知見を随時反映するとともに、保全計画への反映を 行い、安全・安定運転の確保と信頼性の確保に努める。4表2 高経年化技術評価と出力向上影響評価の違い 項目相違点 目的「PLM評価」は、長期的展望に立っ て検討評価した知見を現状の保全に反 映し、安全確保に万全を期そうとする もの。これに対し、「出力向上影響評価」 は、トラブル発生防止が目的であるの で、主として出力向上運転開始後の比較的短期間に重点を置いている。 評価対象機器|「出力向上影響評価」は、出力向上に の抽出 よるトラブルの発生防止等を目的としているので、出力向上の影響を受ける 機器はもちろんのこと、消耗品や比較的短期で取り替えるものも含まれる。 |評価対象機器」「出力向上影響評価」では、「PLM評 のグループ化 「価」の機種分類を採用した。 詳細評価対象 | グループ内機器の中から最も条件の厳 機器の抽出 しい機器だけでなく、出力向上前後の条件変化が最も大きい箇所も抽出し、詳細評価対象とする。 想定される経」「出力向上影響評価」では、消耗品も 年劣化事象の「評価対象であるので消耗品の経年劣化 選定及び評価 | 事象が追加となる。 すべき経年劣 化事象の抽出 健全性評価/」「出力向上影響評価」は、比較的進展 | 総合評価 の速い経年劣化事象に伴うトラブル発生防止が目的なので、比較的精度の高 い評価が求められる。これに対し、「P LM評価」では長期的な観点から経年劣化評価を実施している。 保全対応事項 「出力向上影響評価」は、「PLM評価」 の抽出と同様、経年劣化評価等に基づく保全 対応事項を抽出するほか、事前の点検 調査やプロアクティブな対策に関する 検討が必要である。参考文献(1) 電力共同研究「原子炉出力向上に関する技術評価手法等の標準化研究」報告書,平成 20年3月 (1) - 499 -“ “原子炉出力向上が経年劣化へ与える影響の評価と対応“ “小野瀬 鉄也,Testuya ONOSE,青木 孝行,Takayuki AOKI