SUS304鋼におけるクリープ歪と強磁性相の生成
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
原子力プラントでは、原子炉用構造材料として SUS304やSUS316 といったオーステナイト系ステンレ650°C、58.8~196MPa の範囲で行った。 ス鋼が使用されている。このような鋼は 500~650°CにSUS304 おけるクリープ試験により強磁性相 (@相)が析出することが知られている[1]。また、これらのクリープ試 験温度は加工誘起変態温度(Md) より高いため、クリ ープ中に加工誘起変態が生じて強磁性相が生成したと
2.2 組織自由エネルギー評価 は考えにくく、その変態機構は不明な点が多い。しか
1組織自由エネルギーは以下に示す(1)式で表される。 し、強磁性相はクリープ試験片の応力部(ゲージ部) にのみ析出していることから、クリープ歪が強磁性相 Gsys = G, +E surf +Estr の生成に寄与していることは明らかである。このことここで、Gays は組織自由エネルギー、Go は化学的自由 から、強磁性相の析出を定量的に予測することによっエネルギー、Eur は界面エネルギー、Eは弾性歪エネ て材料の損傷の評価につながることが将来的には期待ルギーである。 されている。化学的自由エネルギーの計算には副格子モデルを用 この現象を理解するためには、組織自体のエネルギい、析出相として相、M23Cs、およびo相を考慮した。 ーの変化を明らかにすることが有効であると考えられ析出相の体積率変化は抽出残渣により測定した値を用 る。そこで本研究では、SUS304 鋼のクリープ試験条件 による組織自由エネルギーの変化を計算することによ一方、界面エネルギーの計算には、析出相として り、強磁性相の生成を評価することを目的とする。MasCおよびo相を考慮し、以下の(2)式を用いた。 2. 実験方法E surf = A.ys.Vm(2) 2.1 試験片A:全界面積、y。 : 界面エネルギー密度、 本研究では SUS304 鋼のクリープ試験材を使用した。V: モル体積 その化学組成を Table.1 に示す。クリープ試験は 500~いた。連絡先:白木厚寛、〒464-8603 愛知県名古屋市千種区 不老町、名古屋大学大学院工学研究科、電話: 052-789-5342、e-mail:shiraki@silky.numse.ac.jp- - 503 -650°C、ys : 界面エネルギー密度、teedr-3- 弾性歪エネルギーの評価には析出及び転位と析出物 間の相互作用による歪、転位自身の持っている歪を考 慮した。まず、析出及び転位と析出物間の相互作用に よる歪に関しては先頭転位と析出物間の母相領域につ いて以下の(3)式を用いて評価をした。Err = = Scules + es Yen + ear-3ここで、Crixは弾性定数、は内部応力による歪、 とは外部応力による歪である。次に転位密度pを測定し、それを基に転位自身の持 つ歪として蓄積された歪エネルギーを評価した。全体 的な領域での転位密度については XRD を用いて測定 し、Mr,C,周辺の局所的な領域については TEM 観察か ら得られた組織をメッシュ法により解析して求めた。 求めた転位密度りから弾性歪エネルギーを以下の(4)式 より計算した。(4) ““ | 4m (ro ここで、ルは剛性率、b はバーガースベクトルの大き さであり、ro=5b および R.=10'×b とした。局所的な領域における弾性歪エネルギーの値を破断 時間で規格化した時間に対してプロットした結果を Fig.1 に示す。局所的な領域における弾性歪エネルギー は約 19J/mol であり、これは全体的な領域における値 (2.3J/mol)に比べて極めて大きい値であった。Dislocation density. p/10*xm2Elastic strain energy. E., J. mol'0. 20. 40.60.8 Reduced time, t/t,Fig.1 Strain energy near M23Co carbide3-388601Whaef RinSysten free energy. G_J・Imol““15時3740時間、90-38900-38920・0Reduced time, t/t,Fig.2 Change of system free energy* 以上の計算により算出した組織自由エネルギー変化 を Fig.2 に示す。Fig.2 から全体的な領域における組織 自由エネルギーはクリープの進行とともに減少してい るのがわかる。一方、局所的な領域における組織自由 エネルギーはクリープ初期において増加する領域が見 られる。このようなエネルギー的に不安定な状態が強 磁性相析出の駆動力となっていると考えられる。3. 結言 1) 強磁性相は弾性歪エネルギーの増加により析出する。 2) 転位自身の歪エネルギーは M2sC炭化物析出に伴う 歪や炭化物一転位相互作用によるエネルギーに比べ極めて大きい。 3) 化学的自由エネルギーは強磁性相の析出により大幅に低下する。 4) 局所的には弾性歪エネルギーの増加により、組織自 由エネルギーが増加する領域があり、そのようなエ ネルギー的に不安定な領域から強磁性相が析出す ると考えられる。参考文献 [1] 永江勇二、青砥紀身:材料、54(2005),116-12.504“ “SUS304 鋼におけるクリープ歪と強磁性相の生成“ “白木 厚寛,Atsuhiro SHIRAKI,塚田 祐貴,Yuhki TSUKADA,村田 純教,Yoshinori MURATA,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,小山 敏幸,Toshiyuki KOYAMA
原子力プラントでは、原子炉用構造材料として SUS304やSUS316 といったオーステナイト系ステンレ650°C、58.8~196MPa の範囲で行った。 ス鋼が使用されている。このような鋼は 500~650°CにSUS304 おけるクリープ試験により強磁性相 (@相)が析出することが知られている[1]。また、これらのクリープ試 験温度は加工誘起変態温度(Md) より高いため、クリ ープ中に加工誘起変態が生じて強磁性相が生成したと
2.2 組織自由エネルギー評価 は考えにくく、その変態機構は不明な点が多い。しか
1組織自由エネルギーは以下に示す(1)式で表される。 し、強磁性相はクリープ試験片の応力部(ゲージ部) にのみ析出していることから、クリープ歪が強磁性相 Gsys = G, +E surf +Estr の生成に寄与していることは明らかである。このことここで、Gays は組織自由エネルギー、Go は化学的自由 から、強磁性相の析出を定量的に予測することによっエネルギー、Eur は界面エネルギー、Eは弾性歪エネ て材料の損傷の評価につながることが将来的には期待ルギーである。 されている。化学的自由エネルギーの計算には副格子モデルを用 この現象を理解するためには、組織自体のエネルギい、析出相として相、M23Cs、およびo相を考慮した。 ーの変化を明らかにすることが有効であると考えられ析出相の体積率変化は抽出残渣により測定した値を用 る。そこで本研究では、SUS304 鋼のクリープ試験条件 による組織自由エネルギーの変化を計算することによ一方、界面エネルギーの計算には、析出相として り、強磁性相の生成を評価することを目的とする。MasCおよびo相を考慮し、以下の(2)式を用いた。 2. 実験方法E surf = A.ys.Vm(2) 2.1 試験片A:全界面積、y。 : 界面エネルギー密度、 本研究では SUS304 鋼のクリープ試験材を使用した。V: モル体積 その化学組成を Table.1 に示す。クリープ試験は 500~いた。連絡先:白木厚寛、〒464-8603 愛知県名古屋市千種区 不老町、名古屋大学大学院工学研究科、電話: 052-789-5342、e-mail:shiraki@silky.numse.ac.jp- - 503 -650°C、ys : 界面エネルギー密度、teedr-3- 弾性歪エネルギーの評価には析出及び転位と析出物 間の相互作用による歪、転位自身の持っている歪を考 慮した。まず、析出及び転位と析出物間の相互作用に よる歪に関しては先頭転位と析出物間の母相領域につ いて以下の(3)式を用いて評価をした。Err = = Scules + es Yen + ear-3ここで、Crixは弾性定数、は内部応力による歪、 とは外部応力による歪である。次に転位密度pを測定し、それを基に転位自身の持 つ歪として蓄積された歪エネルギーを評価した。全体 的な領域での転位密度については XRD を用いて測定 し、Mr,C,周辺の局所的な領域については TEM 観察か ら得られた組織をメッシュ法により解析して求めた。 求めた転位密度りから弾性歪エネルギーを以下の(4)式 より計算した。(4) ““ | 4m (ro ここで、ルは剛性率、b はバーガースベクトルの大き さであり、ro=5b および R.=10'×b とした。局所的な領域における弾性歪エネルギーの値を破断 時間で規格化した時間に対してプロットした結果を Fig.1 に示す。局所的な領域における弾性歪エネルギー は約 19J/mol であり、これは全体的な領域における値 (2.3J/mol)に比べて極めて大きい値であった。Dislocation density. p/10*xm2Elastic strain energy. E., J. mol'0. 20. 40.60.8 Reduced time, t/t,Fig.1 Strain energy near M23Co carbide3-388601Whaef RinSysten free energy. G_J・Imol““15時3740時間、90-38900-38920・0Reduced time, t/t,Fig.2 Change of system free energy* 以上の計算により算出した組織自由エネルギー変化 を Fig.2 に示す。Fig.2 から全体的な領域における組織 自由エネルギーはクリープの進行とともに減少してい るのがわかる。一方、局所的な領域における組織自由 エネルギーはクリープ初期において増加する領域が見 られる。このようなエネルギー的に不安定な状態が強 磁性相析出の駆動力となっていると考えられる。3. 結言 1) 強磁性相は弾性歪エネルギーの増加により析出する。 2) 転位自身の歪エネルギーは M2sC炭化物析出に伴う 歪や炭化物一転位相互作用によるエネルギーに比べ極めて大きい。 3) 化学的自由エネルギーは強磁性相の析出により大幅に低下する。 4) 局所的には弾性歪エネルギーの増加により、組織自 由エネルギーが増加する領域があり、そのようなエ ネルギー的に不安定な領域から強磁性相が析出す ると考えられる。参考文献 [1] 永江勇二、青砥紀身:材料、54(2005),116-12.504“ “SUS304 鋼におけるクリープ歪と強磁性相の生成“ “白木 厚寛,Atsuhiro SHIRAKI,塚田 祐貴,Yuhki TSUKADA,村田 純教,Yoshinori MURATA,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,小山 敏幸,Toshiyuki KOYAMA