ベイズ更新による故障データの収集・整備と保全合理化
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
る様子であるが、残念ながら、故障分布関数のパラメ * 現在、高経年化対策とも絡んで、日本の原子力プラ ータについてはほとんど整備が進んでいない。 ントの保全のあり方が幅広く議論されている。保全の故障データとして集められた生データは、分析を経 合理化には、法的な話や定検の短縮、状態基準保全のて解析に使えるデータへと整備される必要がある。こ 導入、保全方式の合理化等といった大きな話題から、 のための手法として、頻度論に準拠した従来の統計学 保全合理化の数理的手法の開発等々、様々なレベルで とベイズ統計学が使われている。特に数少ない故障デ の研究・検討が行われている。ここでは、機器/部品類 ータからでも、最尤推定法やベイズ推定法等により、 の取替周期の適正化を念頭に置いた数理的な保全合理故障率や故障分布関数のパラメータを推測できること 化について取り上げる。が示されているが[1]、ベイズ推定法は、一貫したデー - 機器の劣化や損耗に対して適切で経済的な対応を取タセットを収集する事が難しい状況でも、社内試験や ろうとすると、機器の故障に伴うリスクや機器の重要 異なるプラントあるいは異なる種類のプラント等にお 度を考慮した科学的アプローチ、科学的データと定量 けるデータをベースに、少ない実プラントにおけるデ 的な解析に基づいた意志決定等が必要になる。機器や ータと統合することができるという利点を持っている 部品等の適正な点検/取替周期を決める問題では、点 [2]。しかし、こうした推定にも誤差が付きのもで、こ 検/取替周期を延長する事によるリスクの増加と、点 の誤差を適切に考慮して最適化を図る必要がある。ベ 検/取替周期を短縮する事による保全コストの増加とイズ統計では、事後分布という形で故障分布関数など のバランスを考慮する必要がある。こうしたリスク評 のパラメータの確率密度関数(これを確信度と呼ぶ)を 価は、基本的には信頼性工学をベースとして解析可能得ることが出来、これを用いる事により、こういった であるが、機器の故障や劣化に関するデータの整備が 誤差を考慮することができる[2]。この点も、ベイズ手 前提となる。法の持つ利点の1つであろう。一方、従来統計手法で - 保全の合理化には、単なる故障率データの他に、故 は故障率や故障分布関数のパラメータに関する確率密 障の特性を表現する故障分布関数のパラメータの推定度関数は得られないが、信頼区間推定法がある。ここでは、従来の統計手法[3]とベイズ統計手法によ 連絡先:笠井雅夫、〒015-0055 秋田県由利本荘市土谷る点推定値および区間推定値を比較し、こうした区間 字海老の日 84-4、秋田県立大学電子情報システム学科推定値を考慮した最適化手法を検討する。 電話: 0184-27-2094、e-mail:kasai@akita-pu.ac.jp
2. 故障分布関数のパラメータの区間推定劣化特性を分析できる実故障データを入手する事は 困難なため、ここでは、乱数発生により故障データを 作成する事とする。 1. 手順は、先ずパラメータ m、t を仮定し、その故障 分布関数(以降、基準関数)から、乱数により故障時刻を 求め、そのデータを基に頻度論に基づく方法とベイズ 推定法により m と T の点推定値と区間推定値を求め、 それらの解の妥当性を検討する事とした。 - 基準関数のワイブル分布パラメータを m = 2.0、 t=150kh と設定する。また、機器の取替周期 T(作動 時間)については、40kh から 120kh まで変化させ、区間 推定値を評価した。ワイブル分布の場合、2つのパラメータ m、の両 方とも未知の場合、両者の区間推定値を求めるのは難 しい。ここでは、m の点推定値が分かっているとして、 Tの区間推定を求めた場合の結果を示す[3]。 (1)式の統 計量を考えると、2S, / ““ が自由度 2r の x 分布に従 う。即ち、TM の信頼係数1-a の両側信頼区間は(2)式 で表される。 S = ““ + (n-ry““-1-2( 28,2S, _) lx^(2r; a/2)““ x (2r;1 - al2)) 一方、ベイズ統計に基づいた区間推定については、 ベイズ更新で得られた事後分布を用いて、次の2つの 方法で推定した。 (1) 推定法1 -m との事後分布 f(m, ) を、 m と rで積分した下 記の2つの密度関数を用いて、(5)式、(6)式を満たす範 囲[m,,m,]、[Tってみ]を、パラメータ m およびれの区間 推定値とする。fn(m) = S. fn,t)dr f(x) = Sofn,t)dm P(m
る様子であるが、残念ながら、故障分布関数のパラメ * 現在、高経年化対策とも絡んで、日本の原子力プラ ータについてはほとんど整備が進んでいない。 ントの保全のあり方が幅広く議論されている。保全の故障データとして集められた生データは、分析を経 合理化には、法的な話や定検の短縮、状態基準保全のて解析に使えるデータへと整備される必要がある。こ 導入、保全方式の合理化等といった大きな話題から、 のための手法として、頻度論に準拠した従来の統計学 保全合理化の数理的手法の開発等々、様々なレベルで とベイズ統計学が使われている。特に数少ない故障デ の研究・検討が行われている。ここでは、機器/部品類 ータからでも、最尤推定法やベイズ推定法等により、 の取替周期の適正化を念頭に置いた数理的な保全合理故障率や故障分布関数のパラメータを推測できること 化について取り上げる。が示されているが[1]、ベイズ推定法は、一貫したデー - 機器の劣化や損耗に対して適切で経済的な対応を取タセットを収集する事が難しい状況でも、社内試験や ろうとすると、機器の故障に伴うリスクや機器の重要 異なるプラントあるいは異なる種類のプラント等にお 度を考慮した科学的アプローチ、科学的データと定量 けるデータをベースに、少ない実プラントにおけるデ 的な解析に基づいた意志決定等が必要になる。機器や ータと統合することができるという利点を持っている 部品等の適正な点検/取替周期を決める問題では、点 [2]。しかし、こうした推定にも誤差が付きのもで、こ 検/取替周期を延長する事によるリスクの増加と、点 の誤差を適切に考慮して最適化を図る必要がある。ベ 検/取替周期を短縮する事による保全コストの増加とイズ統計では、事後分布という形で故障分布関数など のバランスを考慮する必要がある。こうしたリスク評 のパラメータの確率密度関数(これを確信度と呼ぶ)を 価は、基本的には信頼性工学をベースとして解析可能得ることが出来、これを用いる事により、こういった であるが、機器の故障や劣化に関するデータの整備が 誤差を考慮することができる[2]。この点も、ベイズ手 前提となる。法の持つ利点の1つであろう。一方、従来統計手法で - 保全の合理化には、単なる故障率データの他に、故 は故障率や故障分布関数のパラメータに関する確率密 障の特性を表現する故障分布関数のパラメータの推定度関数は得られないが、信頼区間推定法がある。ここでは、従来の統計手法[3]とベイズ統計手法によ 連絡先:笠井雅夫、〒015-0055 秋田県由利本荘市土谷る点推定値および区間推定値を比較し、こうした区間 字海老の日 84-4、秋田県立大学電子情報システム学科推定値を考慮した最適化手法を検討する。 電話: 0184-27-2094、e-mail:kasai@akita-pu.ac.jp
2. 故障分布関数のパラメータの区間推定劣化特性を分析できる実故障データを入手する事は 困難なため、ここでは、乱数発生により故障データを 作成する事とする。 1. 手順は、先ずパラメータ m、t を仮定し、その故障 分布関数(以降、基準関数)から、乱数により故障時刻を 求め、そのデータを基に頻度論に基づく方法とベイズ 推定法により m と T の点推定値と区間推定値を求め、 それらの解の妥当性を検討する事とした。 - 基準関数のワイブル分布パラメータを m = 2.0、 t=150kh と設定する。また、機器の取替周期 T(作動 時間)については、40kh から 120kh まで変化させ、区間 推定値を評価した。ワイブル分布の場合、2つのパラメータ m、の両 方とも未知の場合、両者の区間推定値を求めるのは難 しい。ここでは、m の点推定値が分かっているとして、 Tの区間推定を求めた場合の結果を示す[3]。 (1)式の統 計量を考えると、2S, / ““ が自由度 2r の x 分布に従 う。即ち、TM の信頼係数1-a の両側信頼区間は(2)式 で表される。 S = ““ + (n-ry““-1-2( 28,2S, _) lx^(2r; a/2)““ x (2r;1 - al2)) 一方、ベイズ統計に基づいた区間推定については、 ベイズ更新で得られた事後分布を用いて、次の2つの 方法で推定した。 (1) 推定法1 -m との事後分布 f(m, ) を、 m と rで積分した下 記の2つの密度関数を用いて、(5)式、(6)式を満たす範 囲[m,,m,]、[Tってみ]を、パラメータ m およびれの区間 推定値とする。fn(m) = S. fn,t)dr f(x) = Sofn,t)dm P(m