よく分かる我が国のエネルギー戦略(環境問題とエネルギー供給確保)

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カテゴリ: 第5回
1.はじめに
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、昨年発行した第4次評価報告書において、20世紀 半ば以降の全球平均気温の上昇は人為起源の大気中温室効果ガス濃度の増加によって生じた 可能性が非常に高いとした上で、平均気温の上昇に伴い、水資源、生態系、食料、沿岸、人 の健康に様々な影響が現れることを予測し、これらの影響を削減し、遅らせ、回避するため に達成を目指すべき温室効果ガスの大気中濃度の安定化レベルを複数示した。例えば、全球 平均の気温上昇を産業革命以前比で2-2.4°Cに抑えるにはこの濃度を445-490ppm (二酸化炭素 換算)に安定化させる必要があり、そのためには世界の温室効果ガス排出量を10-15年以内に 減少に転じさせ、2050年頃には2000年の排出量の半分以下にする必要があるとしている。 - 各国が今後とも経済発展を追求しながら世界全体として 2050 年頃までに温室効果ガス排 出量を半減させることは極めて困難であり、これを実現するためには、世界のエネルギーシ ステムを早急かつ大幅に変革せねばならない。国際エネルギー機関(IEA)は、上に言及した安 定化レベルの達成のために必要となる対策について試算を行い (World Energy Outlook 2007、 450 安定化ケース)、そのためには、2030 年には世界の電力需要を現状の約 1.6倍にとどめる 一方、水力発電を約 2.3倍、バイオマス発電を約 2.3倍、風力発電を約9倍、太陽光発電を 約 135 倍、原子力を約2.4倍にする必要があるとしている。我が国では、エネルギーの需給に関する政策は、「安定供給の確保」、「環境への適合」及び これらを十分考慮した上で「市場原理を活用すること」を基本方針として定めること等を内 容とする「エネルギー政策基本法」が 2002年6月に制定され、これに基づき、エネルギーの 需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るための「エネルギー基本計画」 が 2003 年 10 月に策定(2007年3月に見直し)されている。そこで、本講演では、エネルギー基本計画等に示される、こうした状況における我が国の エネルギー戦略の概要及び原子力がそこで果たす役割について解説する。2. 我が国のエネルギー戦略の基本方針 * 昨今、中国やインドを始めとするアジア諸国が高い経済成長を背景にエネルギー需要を急 増させているなかで、引き続き世界のエネルギー供給の中心であると予想される石油の中東 依存度が更に高まる可能性が指摘されており、同地域の不安定な国際情勢を背景に石油価格 が高騰する中で、石油等のエネルギー資源の獲得に向けた各国の動きが活発化しつつある。 そこで、我が国は、いかにしてエネルギー供給リスクを低減させ、その安定供給を確保して いくかが、従来にも増して重要な課題となってきている。そこで、エネルギー基本計画では、エネルギーの安定供給確保のための施策を、当面、つ ぎの基本方針に従って推進することとしている。その第1は、民生、運輸、産業すべての分 野における新技術の導入や省エネルギー努力を促進するための環境整備を通じ、世界最先端 の省エネルギー社会の構築を目指すこと、第2は、供給途絶リスクの小さいエネルギーを中 心にエネルギー源の多様化を図ることであり、その一環として、準国産エネルギーである原 子力を将来にわたる基幹電源に位置付け、核燃料サイクルを含め着実に推進すること、また、 その多くが国産エネルギーである新エネルギー等の開発、導入及び利用も着実に推進するこ と、ほぼ 100%を石油に依存する運輸部門においては、燃料の多様化を図ること。第3は、 石油・石炭・天然ガス・ウラン等の安定供給確保を目指し、資源産出国との総合的な関係強 化や資源開発企業に対する支援の強化を通じた自主開発の推進等を戦略的・総合的に推進す ること、第4は、中東からの輸入依存度の高い石油とLPガスについて、国内に適正な水準 の備蓄を確保するとともに、備蓄制度の更なる機能強化などを図ること、第5は、需要に見 合った信頼性の高い安定したエネルギー供給システムを国内に着実に構築し、事故その他の 原因によってその安定供給が阻害されるリスクを最小限にとどめることである。また、地球温暖化問題への対応を始め、環境負荷の低減に向けた社会的・国際的要請の高 まりを踏まえ、エネルギー分野における環境への適合を図る施策の実施が重要になってきて いることから、第1に、省エネルギーを通じてできる限り効用を変えない範囲で最大限のエ ネルギー消費量の抑制を図ること、第2に、供給安定性に優れ、かつ、発電過程において二 酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源である原子力発電を、安全の確保を大前提に、 核燃料サイクルを含めて着実に推進すること、第3に、太陽光、風力、バイオマス等の再生 可能エネルギーの開発・利用や、中長期的な化石燃料に依存しない水素エネルギー開発等の 取組を進めること、第4に、化石燃料の中では二酸化炭素排出量のより少ないエネルギー、 特にガス体エネルギーへの転換を進めるとともに、石油や石炭等についてより効率の高い利 用技術の開発・導入を進めること、を基本にこれを進めることとしている。なお、ごく最近に至り、我が国は、「美しい星 50 (クールアース 50)」にて 2050 年までの 世界の温室効果ガスの半減を提案し、本年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に おいて、その実現のために、今後 10 年から 20 年で地球全体の温室効果ガスをピークアウト させるポスト京都フレームワーク、省エネルギー取組の国際展開及び新たな資金メカニズム (クールアースパートナーシップ)などの国際環境協力、低炭素社会への転換のための革新 的技術開発(イノベーション)の三点を「クールアース推進構想」として提示している。その上で、国内の取組として低炭素社会の実現を目指して必要な取組の検討を行い、2050 年には炭酸ガス排出量を 60-80%削減すること、2030 年には総発電量に占める非化石燃料に 基づく発電量の割合を 50%にするまでに原子力や再生可能エネルギーの寄与を増大し、電力 需要を抑制できること等を目指して、技術開発の推進、国民の努力を求めるための炭素税(環 境税)の導入、排出権取引(キャップアンドトレード)制度の導入などの方策が検討されて
いる。また、京都議定書以後の国際的枠組みの作り方に関して、それに多くの国が参加でき るように、国別総量目標をトップダウンで決めるのではなく、セクター別の積み上げ方式で 決めることも提案されている。3. 原子力政策における重要な取組み我が国においては、2007 年末時点で 55 基の原子力発電所が運転中であり、日本の総発電 電力量の約1/3を担って、エネルギー自給率を4%から 18%に押し上げている。わが国の 原子力の研究、開発及び利用に関する施策の基本的方針は原子力委員会が 2005 年 10 月に取 りまとめた「原子力政策大綱」に示されている。 * 大綱は、第1に、原子力発電の発電量に占める割合を 2030 年以降も現在の 30-40%という 水準あるいはそれ以上にしていくことを目指すべきであり、第2に、使用済み燃料は再処理 してウラン、プルトニウムを回収し、プルトニウムについては当面は軽水炉において利用す る一方、この過程で発生する高レベル放射性廃棄物は地層処分することを目指すべきであり、 第3に、将来に向けて、燃料の利用効率が軽水炉に比べてはるかに高い高速増殖炉とその燃 料サイクル技術の実現を目指すべきであるとしている。そして、平和利用の担保、安全やセ キュリティの確保、人材育成、地域社会との共生、国際協力と国際貢献といった原子力利用 推進の基盤的取組の着実な推進と併せて、これらを目指す様々な取組を、既存資源を最大限 に有効活用する短期的取組、既存資源の陳腐化に備え、新規市場の獲得を目指す中期的取組 み、新たな飛躍や市場の開拓に寄与できる可能性のある取組の候補を探索する長期的取組み に分類し、これらを適宜見直しつつ並行して推進していくべきとしている。基盤的取組のうち、安全の確保については、新潟県中越沖地震の際、柏崎・刈羽原子力発 電所で基準地震動を超える地震動が観測され、原子力発電所の耐震安全性がクローズアップ されている。調査の結果、この超過が断層から発した地震波がこの地域の地下構造によって 強く収束・増幅されたために発生したことが判明したことから、地下特性を考慮に入れるこ とも求めている原子力安全委員会の新しい耐震審査指針を踏まえて、現在、すべてのプラン トの耐震安全性の再評価が行われている段階にある。高経年化対策も重要な課題であり、委員会としては、先般原子力安全基盤機構(JNES)が 策定した高経年化対応技術戦略マップ(技術情報基盤の整備、安全基盤研究の推進、企画基 準類の整備、保全高度化の推進、の4つの技術戦略のロードマップ)に従い、戦略的知識管 理活動、産官学による情報共有化、次期プラントへの反映、国際協力などが着実に推進され ることを期待している。団塊の世代の退職期を踏まえ、人材の育成・確保に向けた取組も重要性を増してきている。 そこで、小、中、高の公教育におけるエネルギー教材の整備及び大学等における一般教育な らびに専門教育における原子力教育の維持を図る一方、展示施設等の充実・専業主婦層の生 涯学習環境における原子力に関する学習コース等の充実を図る等、原子力に係る国民の学習
機会を整備すること、さらに施設運営に係る協力企業の世代交代も進行中のところ、立地地 域における保安業務従事者の育成機能の充実を求めているところである。 - 高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地を着実に進めることも基盤的取組として重要である。現在は、国・電力・原子力発電環境整備機構(NUMO)が共同して、地下研究施設等を整備しつつこの処分が安全を確保できるものであることをより確かにするための研究開発を推進する一方、その安全性と必要性に関して国民との相互理解活動を進めてきている。なお、 昨年の東洋町における挫折を踏まえ、これまでの取組の課題を検討した結果、公募方式は維 持しながらも、地域の意向を尊重した国による文献調査実施の申入れを追加したところである。短期的取組は、細部にわたって最新の注意を払って進めるべきものであり、現在は、既設の原子力発電所を安全の確保を大前提に最大限に活用するため、設備の信頼性管理の観点から合理的な定期検査制度を整備すること、欧州においては長い歴史のあるプルサーマルの取組に我が国社会ではいまなお不安が表明される現実を踏まえて、関係者が十分な説明の機会 を持つ努力を行ってこれを着実に推進していくこと、アクティブ試験中の六ヶ所再処理工場 を本格稼動させ、ここで回収されるプルトニウムを当面プルサーマルに利用していく一方、 これで再処理できない使用済燃料は当面貯蔵することとし、このためのMOX燃料工場及び 使用済燃料の中間貯蔵施設の整備を着実に進めていくこと等が主要課題である。中期的取組では、まず、2030 年代に始まると予想される既存設備のリタイヤに伴っての交 替ユニットの新設ラッシュに備えることがある。2007年9月に経済産業省・電気事業連合会・ 日本電機工業会が連名で発表した次世代軽水炉開発プロジェクトは、国内のこうしたリプレ ース需要のみならず、海外市場も対象とした、世界標準を獲得し得る原子炉を開発するとし ており、そのために高燃焼度化や免震技術の採用、メンテナンス時の被ばく低減を目指した 新素材開発など、様々な革新的基盤技術が採用される予定である。また、燃料であるウランの確保は安定供給の基盤になることから、着実な取組が重要であ る。ウランのスポット価格は長期にわたって低迷していたが、近年に至り、核兵器解体に伴 う二次供給も終わりに近づく一方で、原子力発電の見直しにより新規需要が増大することが 予想されて一時 130 ドル/ポンドまで急騰したことも、この取組の重要性を示している。高速増殖炉の研究開発は長期的観点からの主要な取組である。現在はこれまでの研究成果 を評価した上で、持続的発展に貢献し、将来市場において競合可能な性能を有する技術シス テムを 2050 年頃に実用化させることを目指し、2030 年までには実証炉を運転開始できる研 究開発計画を 2015 年までに準備することになっている。この過程では、実用化に至るステッ プの刻み方、地層処分場の容量を大きくでき、潜在毒性がウラン鉱石なみになる時間(現在 のガラス固化体の場合には 10,000 年程度) が 1,000 年以下になるような燃料サイクル技術の 採用にどれだけ意義があるのか、その際、核拡散抵抗性の確保の観点からプルトニウムにマ イナーアクチニドをどれだけ混ぜればよいのか(発熱量が高くなる)、等について、技術的困
難度と実現した場合の利益の大きさの関係を踏まえつつ、検討を深めていく必要があると考 えている。その他、核融合エネルギー、原子力の非電力利用技術の開発にも長期的視点に立 って着実に取り組むべきは言うまでもない。4.結論 * 以上のように、我が国のエネルギー戦略において、原子力は、「安定供給の確保」「環境へ の適合」を両立するエネルギー源として非常に重要な位置付けを担い続ける。ただし、原子 力は、特徴のある社会との関わり合いを有する技術であり、現代社会においては、国民の信 頼なくてしてはいかなる事業もなし得ないことから、様々な政策課題について広聴による国 民の関心の把握とそれに基づく相互理解活動、政策策定過程への国民参加や決定した政策の 実施に係る評価をめぐる相互理解活動は、行政の信認リスクを低く管理する観点から絶えず 推進することが必須である。他方、ここでは触れないが、世界で有数の原子力大国として、 国際社会の持続的発展に貢献する観点から、様々な知的ネットワークによる地球規模の連帯 と相互学習を大事にして、原子力の研究、開発、利用に係る進取の精神に富んだ国際的取組 を設計・推進することにも積極的であるべきであり、原子力委員会は、関係者によるこうし た取組の進展にも役立ちたいと考えている。“ “よく分かる我が国のエネルギー戦略(環境問題とエネルギー供給確保)“ “近藤 駿介
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