保全活動に係る技術の適用プロセスについて

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カテゴリ: 第5回
1. はじめに
近年の環境問題等により原子力発電に対する期待が 高まる一方で、原子力発電設備の高経年化に伴い、発 電設備に対する保全活動の重要性が認識されてきてい る。経年変化を踏まえた保全計画に基づく保全活動が 求められており、その柱としてより高度な検査(非破 壊試験)及び補修技術の適用が求められる。これらの 技術は基本的には既に開発され製造時あるいは供用期 間中検査に適用されているものが用いられることにな るが、高線量下など運転プラントでの制約や、新たに 認められる経年変化事象の発生などにより、新たに開 発された技術を適用する必要がある場合が生じる。と くに経年変化による損傷が懸念される部位に対する予 防保全措置の適用、経年変化による損傷が顕在化され た場合の補修においてはその技術開発から実際に適用 されるまでの迅速性が求められる。開発技術の実機への適用にあたって、その技術の、 妥当性、有効性、適用による構造物の健全性などの確 認が事前に必要となるが、現時点では実際に迅速性の 観点から必ずしも十分と思えない場合もある。以下に 技術の妥当性などの確認を中心とした適用プロセスに おける課題とその対応について考察を述べる。
2.開発された技術の適用プロセス
2.1 基本的適用プロセス ・ 溶接などの施工プロセスあるいは非破壊試験などの 技術が新たに開発された場合、基本的に図1に示すよ うなプロセスにより、その技術は実機へ適用される。 まず、その開発技術について、開発者により適用部位連絡先:小山幸司、〒654-8585 神戸市兵庫区和田崎 町 1-1-1、三菱重工業(株)神戸造船所原子力機器設計部、 電話: 078-672-5842、e-mail : koji_koyama@mhi.co.jpの目的とする機能に対する有効性、実機施工時の主要 な管理項目、施工の妥当性確認方法、運転後の確認方 法等が示される。ここで、現在設備の維持(保全)に ついては基本的に事業者が一義的な責任を持つとの考 えから、実機適用に当たっては事業者によりこれらの 内容が確認(実証)される。また、この技術の適用に 関する説明性などの観点から、規格策定機関(学協会) での審議を通じて民間規格化がはかられる。さらに国 の規制要求があるものについては規制要求事項に対す る適合性を事業者が示し(申請)、それを規制当局が確 認(認可)するというプロセスが採られる。規制要求 のうち技術的要求は(国の)技術基準に示されるもの であり、これは現在では性能規定化され、その具体的 な詳細仕様を規定する事例として機械学会の発電用原 子力設備規格、電気協会の技術規程等の民間規格が国 による技術評価を受けたうえで使用されている。従っ て、基本的には民間規格の規定への適合性が示される ことにより、規制要求への適合性が示されることにな る。そして必要な許認可手続きを経て、開発技術は実 機に適用される。 _ しかし、民間規格策定にあたっては、現状では民間 規格策定機関での審議などで時間を要するため、検査 において経年変化事象によるひびが認められた場合な ど、民間規格策定(あるいは技術評価)以前に開発技 術を適用する必要が生じる場合がある。この場合、上 記の通常のプロセスをとることは困難であるため、技 術開発以降のプロセスについては民間規格を使用する 場合とは別のものとしなければならないが、このプロ セスについては現時点では明確になっているとは言え ないと考えられる。このため、実際に開発技術を適用548する場合に、特に技術基準適合の確認など規制当局の 判断が必要な場合(適合の確認の要否の判断も含む) には、どのようなプロセスをとるかなどの議論に時間 を要することもあるのが実情である。技術開発| 実証(確性試験)民間規格規制要求 (技術基準)規格の策定・改訂技術評価適合性確認許認可許認可実機適用図1 実機適用までのプロセス2.2 技術開発新たな技術が開発された場合は、開発技術に関して、 適用目的に応じた機能に対する有効性、機能達成のた めの施工に係る影響因子、その因子に影響をあたえる 実施工時の主要な管理項目、非破壊試験、破壊試験な どの施工の妥当性確認方法、運転後の確認方法等が示 され、これらは規格策定審議にも用いられることが可 能である。機能に対する有効性としては、例えば発生したひび の進展抑止対策の技術であれば、そのひびが発生した 原因に対して開発技術が明確な発生抑止効果を持つこ とを具体的なデータで示すなど、施工後の対象部位に 求められる機能に対して施工が満足することを示す。 また、施工にかかわる影響因子は、たとえば溶接技術 の場合の「確認項目」に相当するものであり、これを 要求機能達成に必要な因子を特定することにより施工 法確認に相当する事前の工法確認が可能となり、規格 基準化にも有用となる。さらに、開発技術の施工後に 運転に入った部位に対して必要と考える供用期間中試 験などの健全性確認方法についても明確にされる。さらにこの技術の適用に伴い施工部の材料、構造が 施工前の状態から変わる場合には変更後の材料、構造 の求められる機能が達成されることを明確にされる。規格策定審議の際の技術的妥当性の根拠については、 その信頼性の一般への説明性の点から、この公知化さ れる開発技術の妥当性については、多くの場合その技 術的な検証(いわゆる確性試験)が開発者、使用者以 外に中立的な第3者も含めて行われる。2.3規格基準化 開発された技術が、材料、構造、溶接等に関する民間 規格に規定されている内容と異なる場合には、新たな 規定を設けるため規格の改訂、あるいは事例規格の策 定を行うことになる。材料・構造に関しては日本機械 学会(JSME)の「設計・建設規格」[1]、溶接に関 してはJSME「溶接規格」[2]が主に関係する規格で ある。これらの規格では基本的には具体的な仕様ある いはその達成確認方法が規定されている。なお、「設 計・建設規格」、「溶接規格」の規定の改訂には適当で ない場合には技術評価 (後述)が未了ではあるものの JSME「維持規格」[3]の補修章の改訂、あるいは事 例規格の策定を行うことになる。 - 日本機械学会等の規格策定学協会では、公正性、中 立性、公開性のある体制のもとに規格の審議を行い規 格の発行を行っている。通常規格策定機関そのもので は、独自に試験等による妥当性確認は行われないこと から、技術開発段階における論文、研究報告書などか らの既知情報に基づいて検討・審議が行われる。2.4 規制要求への適合確認溶接のように、規制当局により規制の技術基準への 適合が求められているもの、あるいは施工部の材料、 構造が施工前の状態から変わる技術については、その 技術が規制要求(技術基準)に適合するものであるこ とが求められる。技術基準は性能規定化されているが、 開発された技術が民間規格に適合していることを示す ことにより技術基準への適合は確認される。技術開発 に伴いJSME「設計・建設規格」や「溶接規格」の 改訂、あるいは事例規格の策定により新たに規定され た要求事項については、規制当局により技術評価が行 われ、規制当局の技術基準で規定される要求性能を達 成可能かどうかが確認される。このように開発技術の 規制要求への適合性は、技術評価が行われた民間規格549への適合性を示すことにより確認できるが、民間規格 化されていない場合、あるいは技術評価を受けていな い場合には、個別の開発技術について規制要求への適 合性の確認が行われることになる。具体的には規制要求事項に対する適合性を事業者が 示し(申請)、それを規制当局が確認(認可)するとい うプロセスが採られる。3. 適用プロセスの課題と対応3.1 技術開発開発技術を実際に適用される場合には前述のような 規格基準化、規制要求への適合性確認と許認可のプロ セスが必要であることから、この観点での検討もその 技術を信頼性の高いものにするための純技術的な検討 とともに重要である。しかし、これら技術開発より後のプロセスにおいて、 規格化及び規制要求適合性確認のためにあらかじめ明 確にしておくべき技術情報(項目)が明確でなく、開 発は終えたものの、後段プロセスにおいて必要な技術 情報が準備されておらず、追加的な時間や労力を要す る場合がある。このため、確性試験では、技術的な成 立性の検証だけでなく、後段のプロセスについて必要 となる以下のような確認事項に対する検討結果を明確 にし、公知化しておく必要があるものと考える。 ・適用目的に応じた機能に対する有効性と限界 ・機能達成のための施工に係る影響因子 ・機能達成方法とその妥当性 ・実施工時の主要な管理項目 ・施工の妥当性確認方法(非破壊試験、破壊試験等) ・材料・構造上の機能の達成の確認 ・運転後の確認方法(ISI要求等)寺また、後段のプロセスでの検討・確認が必要な技術 内容の公正性、中立性の観点から確性試験には中立的 な第3者の技術専門家が参加し、検証が行われること が必要であり、この確性試験に対する第3者性などの 要件が規格策定機関、規制当局により明確にされてお く必要があろう。3.2 規格基準化規格策定学協会では、公正性、中立性、公開性の観 点から階層的な組織のもとに審議が行われ、最終的に は公衆審査を数ヶ月にわたって行っているため、規格案策定から規格発行までには少なくとも1年近い期間 を要している。規格策定学協会においてより効率的な 審議方法の検討を行うとともに、開発技術の規格化及 び規制要求適合性確認に必要な技術確認事項に関する ガイドラインを整備するなどにより技術開発段階で考 <慮すべき規格化及び規制要求適合性確認のための要件 を明確にすることも有効となろう。また、規格策定機関での検討・審議に用いられる開 発技術の妥当性を示す技術情報には、規格策定に必要 な前述の事項が含まれており、公正性、中立性、公開 性の観点からこれらの検討が中立的な第3者により確 認され、公知化されていることが重要と考えられる。しかし、経年変化事象によるひびが認められた場合 など、緊急性を要する場合には規格基準化プロセスは 時間が掛かりすぎ、発電設備の効率的利用の観点から 問題であり、このような場合には規格化を経ないプロ セスが必要になる。3.3 規制要求への適合確認 規制要求への適合は、民間規格が技術評価されてい る場合には民間規格への適合性を示すことにより確認 が可能である。しかしこの確認段階で、規格の規定内 容の解釈が事業者 - 規制当局間で異なる場合があり、 規制側の判断までに時間を要する場合がある。双方の 利用者の規格の規定内容の一層の理解は必要ではある が、解釈に差が出ないよう規格をより明解にするとと もに、例えば「解説」の充実をはかるなどの解釈を助 ける方策を検討する努力が必要であろう。一方、民間規格が技術評価されていない場合には、 規制要求に対して開発技術が適合していることを示さ なければならないが、技術基準が性能規定化されてい るため、民間規格以外に適合性の判断を行うためのよ りどころないため、規制当局の判断に要する時間が民 間規格への適合性を示すプロセスに比べ長くなり、実 施工が遅れ、場合によっては運転停止期間が長くなる ことも考えられる。 - 技術開発段階で前述のように確性試験の要件が規制 当局により明確にされ、確性試験がその要件に合致し ていることが確認できれば、少なくとも技術的な検証 内容については確性試験の内容を尊重し、活用するこ とができるものと考える。さらに技術開発段階のとこ ころで述べたように、規制要求への適合確認段階で必要 となる確認事項に対する検討結果が明確にされ、公知550化されていれば、規制当局が技術的な判断をするうえ で有効であろう。4. おわりに原子力発電設備の保全活動に用いる新たに開発され る技術の実機への迅速な適用にあたって、適用までの プロセスを通して考えた場合、規格化及び規制要求へ の適合性確認段階での効率的な対応のためには、それ ぞれの段階で確認・検討すべき事項の明確化、関係者 間の共有がまず必要であり、それを技術開発段階で後 段のプロセスを考慮して確認・検討事項を準備しておくこと、さらにその確認検討事項を活用することが重 要であると考える。参考文献[1] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 設計建設規格(2005 年版)第I編 軽水炉規格」、JSMES-NC1-2005 [2] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 溶接規・ 格(2007年版)」、JSME S-NB1-2007 [3] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2004 年版)」、JSME S-NA1-2004- 551 -“ “保全活動に係る技術の適用プロセスについて“ “小山 幸司,Koji KOYAMA
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