回転体への電磁診断技術の適用検討

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
現状、ポンプインペラ、タービン羽根等の回転体 の異常は、回転体の軸受の振動、軸受潤滑油の性状 分析等の2次的なパラメータにより監視されている。一方、浜岡5号機の主タービンで発生した低圧タ ービン羽根の損傷事象では、軸受の振動の監視だけ ではタービン羽根の異常兆候の検知が困難であっ たことから、タービン羽根が損傷に至る前に異常を 検知できる新たな診断技術の検討を行なっていく こととした。このような中、非破壊検査技術として実用化され ているECT (Eddy Current Test)の技術を応用し て、回転機器の内部回転体の状態を、電磁的に診断 する技術の検討が進められてきている。この技術が 実用化できれば、既存設備の大幅な改造を行なうこ と無しに、内部回転体の状態監視精度を向上させる ことが期待できる。本報告は、タービン羽根を含めた内部回転体への 電磁診断技術の適用性検討の第一段階として、ポン プ、ファン等の回転体におけるデータ採取および小 型の空気駆動タービンにおける予備実験の結果に ついて述べたものである。
2. 回転体の電磁診断の基本原理と予備解析 2.1 基本原理ポンプやタービンなどの回転機器において、回転 羽根部の近傍に配置した永久磁石もしくは電磁石 による磁場を、導電性のある回転翼が横切ることに よって、回転翼内に渦電流が発生する。この渦電流 による磁場の乱れは、近傍に配置した誘導検出コイ ルやホール素子などの磁場センサを用いることで 容易に検出できる。回転翼が磁場センサに近づくと、磁場の乱れが大 きくなり、検出信号も大きくなる。検出信号の変化 によって回転翼の通過を検出し、回転機器の運転状 況を把握できる。また、渦電流の流れは翼端部に発 生した傷によって変化し、健全な信号との比較によ り、欠陥の存在を検出することができる。 2.2 簡易モデルの予備解析に示す簡易モデルによる予備解析を実施した。同 図中 (a)は回転羽根、(b) は羽根とその外側に存在す る非回転のケーシングを示す。ケーシングの外面に 永久磁石を取付け、回転羽根の回転方向に垂直に静 磁場が発生させる。回転につれて、回転羽根を貫通 する磁束が変化し、渦電流が発生し磁場の乱れが生 じる。この磁場の乱れは検出コイルの誘起電圧とし て測定できる。回転体の電磁検出センサは永久磁石 とその外側に巻く検出コイルにより構成される。この簡易モデルによる数値解析結果の例を図 2.2-2 に示す。簡易モデルにおける羽根の材質はアルミニウム、 ケーシングの材質は鋳鉄としたが、強力な永久磁石 の影響で飽和磁化されているため、計算上ではステ ンレス鋼と同様、交流比透磁率を1に設定した。こ の条件でケーシングの有無による検出信号の変化 を比較したが、ケーシングの有無にかかわらず、検 出コイルに通る磁束と、それによって誘起される電 圧はほぼ一定という結果が得られた。一般的に、渦電流は表皮効果により導体の表面に ・集中し、深部に浸透できない特性があり、特に磁性 体の場合は、厚いケーシングを通して信号を検出す ることが困難であると考えられている。しかし、本 手法では磁性体ケーシングの外側から、羽根の回転 運動を検出した。主な要因としては、 1)永久磁石の飽和効果で磁性体の交流比透磁率が1になり、渦電流の浸透深さが大きくなること。 2)本手法で得られた渦電流の周波数が 50 Hz ときわ - めて低く、計算上浸透深さが 70 mm 以上となること。の2点が考えられる。この結果から、一般的なポ ンプのケーシングの外側からでも、回転体の動的挙 動を検出できると評価できる。(a) 回転体ケーシング(b) 回転体とケーシング図 2.2-1 簡易モデル羽根に欠陥がある場合を考慮した解析において は、2枚目の羽根表面にスリットを仮定した。また、 羽根の表面に穴が存在する場合、羽根の中段、また は羽根の付け根に欠陥があるという 3 つの場合を 解析した。その結果、スリットがある場合では、羽 根の表面の渦電流分布が大きく変化し、2枚目の羽 根の信号が小さくなる傾向があった。一方、表面に 穴があっても過電流に与える影響が小さく、また羽 根の付け根の近傍は距離の関係で流れる渦電流密 度が小さいため、欠陥の存在による目立った変化は 見られなかった。羽根の中段に設けた欠陥では、検 出した磁束は若干小さくなったが、検出コイルの誘 起電圧に与える影響は小さいと考える。したがって 本手法では、センサに近い回転部位の異常に対して 感度がよく、複数のセンサによって異常部位の特定 に役に立つと考える。しかし、距離の影響が大きく、 接近困難な部位では検出が難いと考えられる。
(b)ケーシングのあり、付根欠陥あり図 2.2-2 予備解析結果の例3.実機ポンプのインペラの電磁診断 * 中部電力(株) 浜岡原子力発電所の研修センター に設置された、実機と同仕様のポンプを実際に運転 し、電磁診断手法による測定・データ採取を行なう
とともに、当該ポンプのモデル化及び同モデルを使 った解析を行ない実際の測定データとの比較から 評価を行なった。 3.1 ポンプインペラ部のモデル化 - 解析の対象となるポンプは、研修センターに設置さ れている正常ポンプと異常ポンプで、同一仕様・構造 で、違いは片方のポンプのインペラには異常を模擬す るために、アンバランス用重りが取り付けられている ことだけである。ポンプのインペラの外形図及びメッ シュを図 3. 1-1 に示す。また、インペラの解析結果の 例を図 3. 1-2 に示す。ン
される(a)実機インペラの外形図と寸法(6) インペラと螺旋状羽根のメッシュ 図 3. 1-1 インペラの外形図及びメッシュ
図 3.1-2 インペラ解析結果の例- 実機と同仕様のポンプをモデル化し、インペラの動 的挙動の電磁診断の解析を行った結果、以下の点が分 かった。 1)センサの置く位置が軸から離れる距離が大きいほ ー ど検出信号が大きくなる。 2) ケーシングの磁性が強くなると検出信号が小さく なり、インペラの磁性が強いほど検出信号が大き くなる。 3) ケーシングに発生した渦電流の遮蔽効果が原因で 内部のインペラを測定し難くなるが、厚さ10mm程 度であればケースの影響は小さい。 4)異常ポンプの解析では、重りの影響で異常の位置の信号が正常より大きい。 3.2 実機ポンプ実験実際の測定は、電磁センサを対象物である回転体の 回転部付近に配置し、アンプを用いて検出コイルに誘 導される電圧を 100 倍に拡大し、その電圧を AD 変換 によってパソコンに取り込んだ。電磁センサについて は計算の検討結果を考慮し、より感度が良い直径 30mm の磁石を使用した。実験用電磁センサを図 3. 2-1 に示す。また計測システムのブロック図を図 3. 2-2 に 示す。センサが回転部に近ければ近いほどより強い信 号を得ることができるが、ポンプの回転部は厚いケー シングに覆われており、またその形も一様ではない。よってこの試験は、対象とする回転機に対して、励 磁磁石と検出コイルからの磁場を一定に保った状態 で、測定におけるパラメータを変化させることによっ て、どの程度回転体に関する情報が明瞭に測定信号に 反映されるかの知見を得ることを目的に行った。また 得られた測定結果を分析し、どのような情報が得られ るかを検討した。図 3.2-1 実験用電磁センサAnalogDigitalDigitalPCProbeDC AmplifierPCAVD Converter図 3.2-2 計測システムのブロック図85測定の結果、横置きポンプ(正常)の測定において は、インペラの羽根の正確な情報を含んだ信号を採取 することができ、5つの羽根の周期、振幅ともに実際 の形状と符合した。ベアリングの測定に関しては、玉 の信号が検出できなかったが、信号の周波数性成分か ら、ベアリングの欠陥に結びつく信号は見当たらず、 ベアリングの状態が正常であることが確認できた。 - 横置きポンプ(異常)の測定においては、センサを アンバランスネジの近隣に配置した場合、それに符合 する信号を検出することができた。検出されたアンバ ランスネジからの信号は比較的大きく、異常インペラ と正常インペラの差は歴然であった。欠陥のあるベア リングについての測定では、ベアリングの固有振動数 成分が大きく、ベアリングの異常を検出した。また、 内輪の欠陥を示した 144. 4Hz 成分が大きく、初期的 な解析では内輪欠陥であると判断した。回転周波数と その高調波成分が大きくなったので、アンバランスや センターリング不良などの問題が存在する可能性が あると考えられた。 4. 空力タービンの予備実験タービンで発生した羽根の損傷事故を受け、タービ ン羽根の異常兆候を、早急かつ的確に検知できる技術 の適用について検討を行うため、(株)日立製作所所 有の空力タービンを用いて、予備実験を実施した 4.1 予備的検討 - 空力タービンの寸法を計測した結果に基づいてメ ッシュを作成し、解析を行なった。電磁センサは、車 室に配置することとし、数値計算は、図 4. 1-1 に示し た位置で実施したが、実際ではタービン組立ての問題 で、予定より左寄り(羽根から離れる方向)に配置す ることになった。計算は実物の六分の一 (60度) モデルで行ったが、 構造が複雑で、メッシュ数が大きくなるため、計算の収束性まで考慮することが困難であ った。車室の材料は強磁性だが、このメッシュでの計 算では非磁性材料しか収束しないため、非磁性材料で 計算した。その結果、大体+16mv の信号を検出でき ると分かった。また、実際の羽根の形状が複雑で薄い ため、羽根の部分を測定して細かくメッシュを作った。 このメッシュで計算した結果約±8mv の信号を検出 できると分かった。ミリボルト単位の信号では、ノイ ズの影響を受けない場合に限り、測定が可能であり、 感度の良いセンサの開発が必要と考える。(a) 空カタービンのメッシュ(羽根、車室)外部ケース、回転羽根センサの設道予 定場所 (実際は左 寄りに設置こた)(b) 空力タービンのメッシュ(羽根、車室) 図 4.1-1 空 カタービンメッシュと センサ取付位置4.2実験結果予備実験では、羽根の明瞭な信号を検出することが できなかった。原因として、以下の項目が挙げられる。 1)センサの設計が最適ではなかった。 2) センサの設置位置が最も理想な位置には設置することができなかった。 3)センサ自身のノイズ要因が影響する。 4)外部のノイズ要因が影響する。 5)センサとインペラの距離が大きい。 6)強磁性体ケースでの磁気遮断効果が大きい。 * 以上の原因に踏まえて、タービン羽根を測定するた め以下の対策を検討した。 1)ケースの外形に合わせた表面形状を持ち、且つ周 一方向が長く(磁力を強くする)、径方向が若干短い(理想な位置に設置できる)センサの製作
2)磁石の形状を変更し、できるだけ動翼に近い位置 1 に設置 3)センサの巻き線を固め、ステンレスのケースに収 - める等リード線などの動くものを極端的に短くにし、減らすこと。 4) 可能な限り、車室に点溶接するか、しっかり固定 ・ する。また、最近では、測定物のケースに接地さ ・ せることで、ノイズの低減を図る。 5.結言2)磁石の形状を変更し、できるだけ動翼に近い位置に設置 3)センサの巻き線を固め、ステンレスのケースに収 める等リード線などの動くものを極端的に短くにし、減らすこと。 4) 可能な限り、車室に点溶接するか、しっかり固定 する。また、最近では、測定物のケースに接地さ せることで、ノイズの低減を図る。 5.結言 * これまでの解析と測定の結果から、回転体への電磁 診断技術の適用の可能性は高く有効な手法であるこ とが確認できたが、まだ解決すべき課題も多いため、 今後の課題とそれを解決するための方向性について 以下にまとめた。 1) タービン測定ためのセンサの設計・製作 1電磁診断技術をタービンの羽根実験に適用するた めには、検出信号の増強と同時にノイズ要因の削減が 必要である。対象とするタービンの構造にあわせて、 センサの設計を最適化し、更に高い感度を持つセンサ を開発する。また、ノイズとなる要因を分析し、セン サの構造や取付け方法にも工夫する必要がある。 2) タービンのフィールドデータ採取タービンのフィールドデータ採取については、まず 対象とするタービンを検討する必要がある。電磁診断 技術は、近くにセンサを設置できれば必ず信号を検出 できる。ケースの材料やケースの有無などの電磁診断 技術に適用し易いタービンを選択し信号を確認する ことが第一歩である。また、フィールドデータに向け て、計測装置の準備、ノイズ要因と除去手法を検討す る必要がある。 3) 信号処理及び評価技術の研究実機適用する場合、現場のノイズは必ず存在し、物 理的にノイズを削減する手段を講じても残留ノイズ がある。信号処理手法でノイズを除去することが重要 で 120 ある。また、信号からいかなる情報を取り出せ るかの信号評価技術の開発も必要となる。不具合の状 態と信号の関係を実験と解析方法で解明し、逆に信号 を得られた時にどのような不具合が発生したかを定 量評価する方法を検討する必要がある。 ービンを選択し信号を確認する 。また、フィールドデータに向け ノイズ要因と除去手法を検討す価技術の研究 現場のノイズは必ず存在し、物 する手段を講じても残留ノイズ 土でノイズを除土オスレが重更* 本研究に対して多大なご協力と助言を頂いた、日本 保全学会、株式会社IIU並びに株式会社日立製作所 の関係諸氏に心から感謝いたします。“ “?回転体への電磁診断技術の適用検討“ “清水 高,Takashi SHIMIZU,塚本 透,Toru TSUKAMOTO,柴下 直昭,Naoaki SHIBASHITA,黄 皓宇,Haoyu HUANG
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