計器のオンライン状態監視技術
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カテゴリ: 第5回
1.緒言
2008 年度より新検査制度が導入され、適切な状態監 視保全を行うことで原子力発電プラントの長期サイク ル運転が可能となる。計器の状態として重要な点は、 計測値の精度であり、そのためには、計測値の要求精 度範囲を超えるドリフトが起こっていないことを担保 することが重要である。 1 計器精度を保証するため、従来は定検時に毎回計器 を校正するとともに、運転期間に起こり得るドリフト の大きさを予測し、精度を管理してきた。長期サイク ル運転では、従来に比べ長期間に亘り計器の精度を保 つことが要求される。従来は、計器ドリフトを検出す るためには現場で計器を直接調べるよりなく、運転中 のプラントでは難しかった。そこで、計測値に統計的 仮説検定を適用することで、運転中のプラントの計器 ドリフトを検出する手法を開発した。
2. 課題計器ドリフトを計測値から検出するために、以下の 二つが課題として挙げられる: (1)計測値のしきい値を計器毎に用いないこと計測値のしきい値を計器毎に設定し、しきい値を超 えた時ドリフトと判定する方法は直感的で分かりやす い。しかしながら、計測値の揺らぎによってしきい値 を超えたと判定する恐れがある。 (2) 計器ドリフトによる計測値の変動とプロセスの変 化による計測値の変動との区別運転中のプラントでは、プロセスが変化すればプロ セス値そのものが変動し、計測値も変動する。ドリフ トによる変動をプロセスの変化に起因する計測値の変 動から如何に区別するかが重要である。3. ドリフト検出* 上記の二つの課題を解決するため、基準となる値か らの計測値の変動を対数尤度比を用いた統計的検定に より検出する技術を開発した。なお、プロセス変動の 少ない計測値と、プロセス変動のある計測値とでは、88統計的検定の適用方法が多少異なる。ここでは初めに前処理による BG成分低減統計的手法による 監視(変動検出)NO..........2 * すなわち、(k)はk番目の計測値 y (k)と、一つ前の(k-1)から逐次的に計算される。これは、オンラインで データを収集するアプリケーションに関して、SPRT 法 の持つ優れた特質である。 -- 監視期間では、2(0)=0 として判定が開始され、20k) が以下に定義されるAを超えるか、Bを下回るまで20k) を逐次計算する。一般に A は正、Bは負である。A =log1-B....(3)B=10g 8B = log-B1-aここで、 a:変動を誤検出する確率 B:変動の検出に失敗する確率 本研究では a, Bは共に 0.001 とした。 2(k)が A を超えた時、変動ありと判定し、B を下回 った時、変動なしと判定する。Fig.3 は、原子炉狭帯域水位計のデータに対してドリ フトを模擬する変化を与えた時の、データの変化(上) と、データに対応する対数尤度比の変化(下)を示す。 Fig.3 における水位信号は4で説明するように、起動試1250Level (mm)這1200[3020F101?-2010 100 200300 400 500 600 700Time (Hour) Fig. 3 Drift Simulated Reactor Level Signal and Corresponding Log-Likelihood Values験中に収集された水位信号を基にしたものである。(3) 変動の連続検出回数の評価 - SRPT 法による判定は(2)の段階で終了する。しかし ながら、実プラントの計測データを用いて検討した結 果、(2)の段階で変動が判定されることはかなり多い。 これはプロセスの一過性の変動によるもので、計器の ドリフトを検出するためにスクリーニングする必要が ある。スクリーニングのため、変動を連続検出した回数が 予め定めた数 N 以上となった時、次の段階の判定に進 む。(4)プロセス変化に起因する変動の区別 - 計器ドリフトに起因する計測値の変動とプロセス変 化に起因する計測値の変動とを区別するため、当該計 器と相関の強い計器の計測値を、確認用計測値として (1)から(3)と同様の方法で変動を検出する。そして、確 認用計測値と異なる変動、例えば確認用計測値に減少 が検出され時に、当該計測値に増加が検出された時、 計器ドリフトが発生したと判定する。3.1 プロセス変動のある計測値 1. 次にプロセス変動のある計測値に適用する場合の変 更点について説明する。ここでプロセス変動とは、計 器の計測する真の値が変動することを指す。BWR型原 子力発電プラントでは、ドライウェル(D/W)内部と外部 の差圧を複数の差圧計により、D/W 圧力として計測す る。D/W 圧力は外気圧との差であるから、外気圧の変DIW Pressure (kPa)D/W圧力(A) D/W圧力(B) D/W圧力(C) D/WED (D)--1。 ――200600800200400Time (Hour) Fig.4 Trend Graphs of four D/W Pressure Readings90化により変動する。Fig.4 に起動試験中に実プラントで 計測された D/W 圧力の変化を示す。D/W 圧力は、A, B, C,および D の4つの差圧計で計測されている。D/W 圧力の要求精度は計器のフルスパンの 0.7%であるが、 実際には peak-to-peak でその十倍以上の変動がある。 __ しかしながら、同時に4つの D/W 圧力がほぼ同じ変 化を示すため、グラフ上では重なっていることも見て 取れる。そこでこのケースに対しては、(2)対数尤度比 による変動の検出を、計測値そのものではなく、監視 対象となる計器の計測値と、他の三つの計器の計測値 の平均との差に対して適用する。D/W圧力に関しては、 差圧計 A の計測値と、差圧系 B, C, および D の計測値 の平均値との差である。 また、計器が多重化されていない場合は、相関の高 い計測値からのモデル推定値を計算し、これと計測値 の差に対して変動を検出する。4. 評価開発した技術の有効性を確認するため、BWR型原子 力発電プラントの起動試験中にプロセス計算機が収集 した実プラントの計測データを用いた評価を行った。 計測データには、原子炉、タービンの主要系に加え補 器系が含まれる。対象となる計器の種類は、流量計、 圧力計、および温度計を含む。4.1 評価方法起動試験中のデータは、1585 個の計器に関するもの で、約1ヶ月間に亘り、10分周期で収集されたもので ある。計器は校正されており、また期間も1ヶ月と短 いため、収集された実プラントデータでは、計器ドリ フトの心配はない。そこで、実プラントデータに計器 ドリフトを模擬した変化を加え、本技術を適用した場 合に検知できるドリフトの大きさを評価した。4.2 評価結果評価した 1585 個の計器のデータ中で 1584 個につい」 て要求精度範囲を超える計器ドリフトを検出できた。 例として、原子炉水位に対しては、フルスケールの 0.35%のドリフトを検出できた。4.3 考察 1-3で説明したように、変動の大きな計器に対しては、 計器ドリフトに起因する計測値の変動とプロセス変化 に起因する変動の区別が重要である。どの程度区別で きるかは、対象となる計器の計測値と、確認用に使用 される計器の計測値との相関の強さに依存する。 - 実プラントデータによる評価は、可能な限り相関の 高い確認用計器を探し出して行なった。重要度の高い プロセス値は、複数の冗長化された計器によって計測 される。冗長化された計器の計測値は互いに相関が高 いため、確認用計器として使うことで、計器ドリフト に起因する計測値の変動とプロセス変化に起因する変 動を適切に区別できる。計器ドリフトの検出が出来なかった1個の計器は、 確認用の適当な計器が見つからない、系統の中で孤立 した計器であった。この信号についても、必要に応じ て確認用の計器を設置すれば、要求精度範囲を超える 計器ドリフトの検出が可能となると考えられる。5.結言1. 本報告では、計器の計測値から統計的な手法の一つ である SPRT 法を用いて計器の状態を監視し、ドリフ トを検出する技術について説明した。起動試験中にプ ロセス計算機が収集した実プラントデータに計器ドリ フトを模擬した変化を加え、検出できるドリフトの大 きさを評価した結果、要求精度範囲を超える計器ドリ フトはほぼ全て検出できることを確認した。 - 今後、実用化に向け、実機データを用いたより広い 検証を行ないたいと考えている。参考文献 [1] NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods,http://www.itl.nist.gov/div898/handbook/, May,2008. [2] 中溝高好、秋月影雄、添田喬、“システムの統計的故障検知法”、計測と制御、Vol.18, No.6, 1979, pp.471-480.“ “?計器のオンライン状態監視技術“ “林 俊文,Toshifumi HAYASHI,玉置 哲男,Tetsuo TAMAOKI,廣瀬 行徳,Yukinori HIROSE,榎本 光広,Mitsuhiro ENOMOTO,前川 立行,Tatsuyuki MAEKAWA,真杉 剛,Tsuyoshi MASUGI,清水 俊一,Shunichi SHIMIZU
2008 年度より新検査制度が導入され、適切な状態監 視保全を行うことで原子力発電プラントの長期サイク ル運転が可能となる。計器の状態として重要な点は、 計測値の精度であり、そのためには、計測値の要求精 度範囲を超えるドリフトが起こっていないことを担保 することが重要である。 1 計器精度を保証するため、従来は定検時に毎回計器 を校正するとともに、運転期間に起こり得るドリフト の大きさを予測し、精度を管理してきた。長期サイク ル運転では、従来に比べ長期間に亘り計器の精度を保 つことが要求される。従来は、計器ドリフトを検出す るためには現場で計器を直接調べるよりなく、運転中 のプラントでは難しかった。そこで、計測値に統計的 仮説検定を適用することで、運転中のプラントの計器 ドリフトを検出する手法を開発した。
2. 課題計器ドリフトを計測値から検出するために、以下の 二つが課題として挙げられる: (1)計測値のしきい値を計器毎に用いないこと計測値のしきい値を計器毎に設定し、しきい値を超 えた時ドリフトと判定する方法は直感的で分かりやす い。しかしながら、計測値の揺らぎによってしきい値 を超えたと判定する恐れがある。 (2) 計器ドリフトによる計測値の変動とプロセスの変 化による計測値の変動との区別運転中のプラントでは、プロセスが変化すればプロ セス値そのものが変動し、計測値も変動する。ドリフ トによる変動をプロセスの変化に起因する計測値の変 動から如何に区別するかが重要である。3. ドリフト検出* 上記の二つの課題を解決するため、基準となる値か らの計測値の変動を対数尤度比を用いた統計的検定に より検出する技術を開発した。なお、プロセス変動の 少ない計測値と、プロセス変動のある計測値とでは、88統計的検定の適用方法が多少異なる。ここでは初めに前処理による BG成分低減統計的手法による 監視(変動検出)NO