原子力発電所の機器等の地震安全に関する技術課題の抽出と研究・開発ロードマップの提案

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カテゴリ: 第5回
1.はじめに
平成 19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震に おいて、震央から約 16km に位置する東京電力(株) 柏崎刈羽原子力発電所においては、設計時の想定を超 える地震動が観測された。原子炉の安全停止と炉心冷 却という基本的な安全機能は確保されたものの、巨大 地震動における原子力発電所の安全確保に関し多くの 知見を得た。日本機械学会動力エネルギーシステム部門では、本 発電所の被害と現状について、公開されている情報を 元に、技術的な立場から中立的な評価を行うことを目 的として「中越沖地震の柏崎原子力発電所の影響評価 研究分科会」を立ち上げている。一方、日本原子力学 会では、原子力発電所の地震に対する「原子力安全」 の確保に関してロードマップを作成し、「原子力安全」 の観点よりその見解を社会に発信するため、「原子力発 電所地震安全特別専門委員会」が発足している。この様な動きの中、日本機械学会の研究分科会、か」 つ、原子力学会の特別専門委員会の下部組織として、 機器等の耐震設計上の技術課題について抽出、検討す るために構造 WG を設置した。具体的には、原子力発 電所の機器等の地震安全に関する課題を検討評価し、 研究・開発のロードマップの原案をとりまとめている。本報告は構造 WG の活動の中間報告として 2008 年 春の現況を取りまとめたものである。
2. 構造 WGの活動状況
構造 WG は、学識経験者、(独立行政法人)原子力 安全基盤機構、(有限責任中間法人) 日本原子力技術協 会、電気事業者、企業にて委員を構成している。2008 年前半には一旦課題の選定及びロードマップ 案を作成し、それ以降他組織の研究計画との整合を行 う計画である。構造 WG においては、これまで4回の会合をもち、 そのなかで課題の抽出及び各課題に対するロードマッ プ案作成や内容を検討してきている。3. 構造 WG の検討内容 3.1 耐震設計の概要 原子力発電所の耐震設計には、ベースマットを含め た建屋構造の耐震、機器・配管の耐震などの設計があ る。この中で耐震解析による評価と同時に設計を行う もの(建屋構造や機器の固定部、配管の支持構造、格 納容器など)以外の多くの構造物は、構造設計を行っ た後に耐震解析を行っている。このときの耐震設計と は基本的に耐震解析による構造設計の確認となってい る。耐震設計の基本手敷地条件プラント基本計画 (配置計画機器配管システム計画、 配管基本計画基準地震動SS 弾性設計用地買Sd「射假重要度 分類」・機器設計設計用地震力荷重の組合せ許容限界NO では、耐震性評価---EYES ---Fig.1 耐震設計の基本手順と構造 WG の検討範囲耐震設計の基本的手順と構造 WG の検討範囲は Fig. 1に示すようになる。 1. 発生地震動の大きさを定め、解放基盤面における設計用地震動を作成する。 2. それを用いて解放基盤位置から原子力発電所の設置地盤位置への伝播解析を行う。 3. 発電所のベースマット位置へ伝播した地震動を用いて発電所の建屋全体の応答解析を行う。 4. 建屋の各フロア、床の振動応答を用いて機器・配管の応答解析を行う。 5. 応答解析に基づく地震荷重に他の荷重を組み合わせて応力解析・強度評価を行う。 それぞれの解析の過程では保守性を保つように設計 されている。従って、それぞれの持つ保守性は集積さ れ総合的に大きな裕度を有することになる。構造 WG では、地震安全の観点から、耐震設計にお いて機器・配管の応答解析から強度評価までの手順の 範囲を対象として、次節に述べるように今後の耐震設 計のあり方(高度化)や地震後の健全性評価の標準化 及び高度化に関連する技術的課題を中心に議論を行っ ている。3.2 課題の抽出ここでは、国、学協会等で進められている研究もあ るが、今後必要となる機器等の地震安全に関する技術 課題を個々に抽出し、研究・開発のロードマップの検 討を行うとともに課題を分類した。以下に個々の課題 の概要を示す。(1) 地震時の安全裕度の定量化これまでの国、学協会等の検討を参考に地震時に設 備がもつ実際の裕度がどれだれあるのか、耐震設計手 法に内在する裕度や荷重等の因子のばらつきを考慮し 把握する。これをもとに各種基準等の検討も踏まえ、 構造規準の高度化を目指す。(2) 機器・配管系の減衰定数 - 機器・配管系の減衰定数は振動試験結果に基づくデ ータの下限値に保守性を持ちつつ設定している。海外 では地震力に応じた減衰定数を設定しているところも あり、海外調査及び既往の振動試験結果に基づく適正 な減衰定数の設定を目指す。(3) 材料強度に及ぼす動的ひずみの影響一般建築鉄骨構造物では動的繰り返し変形による脆 性破壊がみられる。原子力機器・構造物では、地震に よる動的ひずみの影響は小さいと想定されるが、その 影響度を調査・評価して規格・基準の妥当性を確認し、 必要に応じて反映する。(4) 健全性評価基準 ・ 地震の影響を受けた機器の健全性について、解析結 果と設備の点検結果を独立に捉えるのでなく、相互に 関連づけて解析の結果に応じて重点的な点検を実施す る等、解析及び点検の目的、評価を整理して体系的か つ標準化された評価が可能となるような健全性評基準 を策定する。(5) 点検項目の策定と点検方法の高度化 ・ 地震後の設備点検の基本的な考え方をもとに、点検 項目に応じた高精度かつ効果的な点検方法を検討する。 なお、開発にあっては損傷モードに応じた点検項目を 策定し、適切な点検方法を目指す。(6) 弾塑性解析手法の適用弾塑性解析による強度評価手法を適用する場合の設 計裕度の検証を実施するとともに、弾塑性解析におけ る地震荷重の取扱いを明確化することにより、地震荷 重評価における過度な保守性を排除できる合理的評価 手法を検討する。(7) 動的応答評価モデル建屋耐震壁の復元力特性を考慮した解析のように、 対象施設の実況に即した非線形性を考慮するなどして、 より適正な地震応答を評価する解析モデル、解析手法 を策定する。(8) プラントデータ採取地震時に受けた機器等の応答データが直接取得出来 れば、設計時点での応答と直接比較することで、早期 のプラント起動が可能となること及び耐震設計の高度 化が期待される。このため機器応答データを計測する システムの構築を検討する。(9) 建屋免震技術の原子力施設への適用 * 原子力分野以外では免震技術の適用例が拡大してき ているが、軽水炉建屋への適用に際しては、長周期地 震動への対応など安全性確保の面から更に各種の検証 が必要と考えられ、それに向けた実証、確認解析計画 を策定する。(10) 地震動指標の検討地震動として加速度等とは別に、米国の地震対応指 針で用いられている CAV(地盤加速度の積分値)等、 地震力を受けた施設の安全性を適切に説明出来る指標 の調査及びそれらの適用による過去の被害や実験結果 を整理し、具体化を図る。具体的檢討項目 課題分類11「安全裕度の定量化」 ・安全裕度(設計裕度)の把握 立2「減衰定数」■3.「動的ひずみ」 | ・健全性評価手法・検査手法 4.「健全性評価基準」5「点検項目策定と点検方法の高度化」」 「・耐震設計の高度化6.「弾塑性解析手法の適用」7.「動的応答評価モデル」 ・影響の指標化8.「プラントデータ採取」 9免震技術の適用」 10. 「地震動指標の検討」11.規格基準への反映Fig.2 課題分類と具体的検討項目3.3 課題の分類個々の技術課題については、大綱、Fig. 2 に示すよ うに4分類されると考えられるが、複数の分類にまだ がっている項目が多く、今後、さらに分類又は検討方 針を整理していくこととする。さらに、個々の技術課題について、研究内容、実施 機関、研究期間、想定実施金額を織り込んだロードマ ップを検討した。4.まとめ耐震設計の過程では、それぞれの過程における設計 の考え方や実態としての裕度が含まれ、発電所全体と しての総合的な裕度となっている。国、学協会、民間 での地震安全に関わる構造分野では、これらの裕度に ついての検討が進められており、地震後の健全性を評 価する際にも、設計時の裕度を考慮した解析評価や解 新結果に応じて重点的な点検を実施する等、設備点検 と相互に関連づけた検討が行われている[1]。構造 WGではこれらの検討状況も参考としながら研 究・開発のロードマップの検討を行ってきているとこ ろであり、現在の活動を今後の耐震設計のあり方(高 度化)や地震後の健全性評価の標準化及び高度化に繋 げていくために ・安全裕度(設計裕度)の把握 ・健全性評価手法・検査手法 ・耐震設計の高度化 に関連する検討項目を改めて課題として抽出した。 また、当学会としての社会的責務を果たしていくた め「影響の指標化(地震動指標の検討)」については、 今後、取り組んでいくべき課題と考える。参考文献1] 原子力安全・保安院, 「東京電力株式会社柏崎刈羽 原子力発電所第7号機の設備健全性評価に係る中間報 告」2008.4.16 attp://www.nisa.meti.go.jp/00000004/giji/y0000002/report/ chukan.pdf“ “原子力発電所の機器等の地震安全に関する技術課題の抽出と研究・開発ロードマップの提案“ “岡本 孝司,Koji OKAMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI
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