多機能レーザ溶接ヘッドの開発(第1報)-水中レーザ溶接の基本特性評価-

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
国内の原子力運転プラントは、運転開始後 30 年に達 するものが増えてきており、高稼働率での安全で安定 な運転を行うためには炉内構造物の応力腐食割れ (SCC: Stress Corrosion Cracking)への対策が重要とな ってくる。東芝は、SCC に対する補修工法として水中 レーザ溶接技術[1][2]、予防保全工法としてレーザピー ニング[3]、並びに検査工法としてレーザ超音波探傷技 術[4]をそれぞれ開発し、実用化を進めてきた[5]。水中 レーザ溶接を炉内構造物に対して適用する場合、溶接 面の前処理、溶接、溶接後検査、応力改善処理の一連 のプロセスが必要となるが、これらは基本的にすべて 別々の装置とならざるを得ない。そこで、開発したプ ロセスがすべてレーザ光を用いていることに着目し、 一つの施工ヘッドで検査・溶接補修・予防保全を可能 とする多機能レーザ溶接ヘッドを開発した。本稿では、SCC に対する予防保全及び補修技術に適用可能な水中レーザ溶接技術について、基本的なプロ セスの原理と特徴、ならびに今回開発した多機能レー ザ溶接ヘッドを用いた光伝送試験と水中封止溶接試験 結果について紹介する。
2. 水中レーザ溶接の原理と特徴
水中レーザ溶接は Fig.1 に示すように、シールドガス (Ar)を溶接施工部に供給することによって、局所的 に空洞を形成して、その空洞内でレーザ溶接を行う方 法である。溶接部に耐食性に優れた溶接ワイヤを供給 することによってクラッド層を形成し、SCC の発生を 防止することが可能となる。また、炉内構造物等に発 生したき裂の表面にクラッド層を形成して、き裂を封 止することによって、炉水環境から隔離してき裂の進 展を防止することができる。 Fig.2 に水中クラッド溶接 とき裂封止溶接の外観及び断面マクロ観察の一例を示 す。いずれも、溶接欠陥等は認められず、水中であっ ても健全な溶接が行われることが確認できる。99Shield gas (hr)LitteamCladding layerMolten poolSpecimenFig.1 Schematic of underwater laser weldingBead Cross-sectional appearance macrographClad weld10mmImmSeal weld10mmImmFig.2 Bead appearance and cross-sectionalmacrograph of under water laser welding - 水中レーザ溶接は低入熱溶接が可能で、施工中の被 ばくを低減できる工法であり、炉水を抜かずに施工で きる効率的な溶接方法である。よって、水中レーザ溶 接は原子炉の定期検査中の限られた期間で炉内構造物 等の保全/補修溶接を行う上で非常に有効な工法であ る。3. 多機能レーザ溶接ヘッドの開発3.1 ヘッド開発 - 多機能レーザ溶接ヘッドは東芝がこれまでに開発し てきたレーザピーニング、レーザ超音波探傷技術と水 中レーザ溶接を伝送系も含めて一つの溶接ヘッドで施 工可能としたものである。一般的にレーザ加工は Fig.3 に示すように、パルス幅 とパワー密度によって分類することが可能であり、レ ーザピーニングやレーザ超音波探傷技術は短パルスで 高パワー密度を必要とする。一方、レーザ溶接の場合 長パルス又は連続波でパワー密度は比較的低い。しか し、平均出力はkW級の出力を必要とすることが多く、Electoron ActionPowerLesPoenigePower/2/Laser Cleaning DrillingPulse Time WidthPower Density (W/cm2)Lased phrasonicCutting/ T-Alloying| Welding Thermal ApplicationClad Weld 1010 109106 104ですPulse Width (sec)
Fig.3 Classification of laser application 炭酸ガスレーザ、Nd:YAG レーザ及びファイバレーザ が使用される。また、レーザピーニングとレーザ超音 波探傷では Nd : YAG レーザの第2高調波を使用して おり、波長は 532nm であるのに対して、水中レーザ溶 接は大出力のファイバレーザを用いており、その波長 は 1060nm である。今回開発した多機能レーザ溶接へ ッドは、以上のような異なる特性を有するレーザを用 いる各アプリケーションを一つのヘッドで適用可能と した。Fig.4 に多機能レーザ溶接ヘッドの外観を示す。ヘッ ドは光学系、シールドカバー、フィラーワイヤチップ、 レーザ超音波検査ユニットから構成されている。また、 シールドカバー内に溶接時は Ar ガスを、レーザピーニ ング時には水を供給するためのノズルが設けられてい る。ヘッドサイズは高さ約 85mm、幅約 85mm、奥行き 約 45mm で非常にコンパクトであり、炉内での狭隘部 へのアクセスが可能な大きさに設計されている。Fiber connectorShield coverInspection units- Optical unitLaserFiller wire tipFig.4 Multifunction laser welding head1003.2 光伝送試験3.3 水中レーザ溶接試験 多機能レーザ溶接ヘッドと光ファイバ伝送系に溶接 1 水中レーザ溶接時は Fig.7 に示すように、シールドカ に必要なレーザ出力が伝送可能であることを確認する バー内に Ar ガスを供給して、局部的な気相空間を形成 ため、光伝送試験を実施した。 Fig.5 に試験時の装置構し、その中でデフォーカスビームを照射して溶接を行 成を示す。レーザはレンズで集光されてファイバに入う。また、溶接方向前方から溶接ワイヤを供給して溶 射され、2 本のファイバで伝送された後、多機能レー着させる。Fig.8 に水中レーザ溶接装置の構成を示す。 ザ溶接ヘッドから出射される。出射されたレーザをパレーザ発振器から出射されたレーザをファイバに入射 ワープローブに照射して、その出力を測定する。入射 して伝送した後、多機能レーザ溶接ヘッドを介して試 レーザの出力を変化させて、溶接ヘッドがから出射さ 験体に照射される。そして、試験体を NC 加工機で移 れる出力を測定した結果を Fig.6 に示す。光ファイバ及 動させて溶接を行う。1パス溶接完了後、次の位置へ び溶接ヘッドでの伝送ロスは約 18%であり、異常な出 移動して次のパスを溶接し、この動作を繰り返すこと 力低下は認められなかった。また、2000W 近い出力をで一定面積の溶接部を形成する。 伝送しても溶接ヘッド及び伝送系に損傷は認められず、 溶接に必要なレーザ出力を伝送可能であることが確認Laser welding /laser peening unit 3.2 光伝送試験 多機能レーザ溶接ヘッドと光ファイバ伝送系に溶接 に必要なレーザ出力が伝送可能であることを確認する ため、光伝送試験を実施した。Fig.5 に試験時の装置構 成を示す。レーザはレンズで集光されてファイバに入 射され、2 本のファイバで伝送された後、多機能レー ザ溶接ヘッドから出射される。出射されたレーザをパ ワープローブに照射して、その出力を測定する。入射 レーザの出力を変化させて、溶接ヘッドがから出射さ れる出力を測定した結果を Fig.6 に示す。光ファイバ及 成を示す。レーザはレンズで集光されてファイバに入 射され、2 本のファイバで伝送された後、多機能レー」 ザ溶接ヘッドから出射される。出射されたレーザをパ ワープローブに照射して、その出力を測定する。入射 レーザの出力を変化させて、溶接ヘッドがから出射さ れる出力を測定した結果を Fig.6 に示す。光ファイバ及 び溶接ヘッドでの伝送ロスは約 18%であり、異常な出 力低下は認められなかった。また、2000W 近い出力を 伝送しても溶接ヘッド及び伝送系に損傷は認められず、 溶接に必要なレーザ出力を伝送可能であることが確認 できた。Fig. 5 Experimental setup for laser transmission test3000,バー内に Ar ガスを供給して、局部的な気相空間を形成 し、その中でデフォーカスビームを照射して溶接を行 う。また、溶接方向前方から溶接ワイヤを供給して溶 着させる。Fig.8 に水中レーザ溶接装置の構成を示す。 レーザ発振器から出射されたレーザをファイバに入射 して伝送した後、多機能レーザ溶接ヘッドを介して試 験体に照射される。そして、試験体を NC 加工機で移 動させて溶接を行う。1パス溶接完了後、次の位置へ 移動して次のパスを溶接し、この動作を繰り返すこと で一定面積の溶接部を形成する。Laser welding /laser peening unitnspection unitAr gasko oShield coverMolten pool/Welding wireFig. 7 Schematic of under water laser welding withmultifunction laser welding head- 101 -- Fig.9 に示すように水中溶接は横向き姿勢で実施し た。レーザ加工点出力は 1100W、溶接速度は 40cm/min とし、溶接ワイヤにはインコネル 82 を使用した。母材 には SUS316L 平板材を使用したが、き裂を模擬したス リットを放電加工で施した。スリットの大きさは幅 0.3 ~0.4mm、長さ 10mm、深さ 3mm である。このスリッ ト上に多パス施工を行い、封止溶接を水中で実施した。 1. 溶接方向に対して、異なる方向のスリットの封止溶 接試験結果を Fig.10 に示す。溶接部の外観は金属光沢 を呈しており、十分なシールドが形成されていたと考WaterBase met:Multifunction laser weldinFig. 9 Under water laser welding withmultifunction laser welding headんまWelding directionEDM slitWelding directionEDM slittaarFig. 10 Appearance of under water seal weld withmultifunction laser welding headえられる。また、いずれのスリットに対しても溶着金 属で封止されており、良好な封止溶接が可能であった。 溶接中の溶接ヘッドの温度上昇は約 10°Cであり、溶接 部からの反射光による異常な温度上昇は認められなか った。これは水中での水冷効果が十分に利いていたた めと考えられる。4.結言 - 水中レーザ溶接を炉内構造物に対して適用する際に、 一つの施工ヘッドで検査・溶接補修・予防保全を可能 とする多機能レーザ溶接ヘッドを開発した。本溶接へ ッドを用いた光伝送試験では溶接に必要なレーザ出力 を伝送可能であることを確認した。さらに、水中封止 溶接試験では2方向の模擬き裂に対して良好な封止溶 接が可能であることを確認した。以上の結果より、本ヘッドにおいて基本的な水中溶 接性を確認することができた。今後は、遠隔作業ロボ ットへの融合を進め、様々な形状で構成されている炉 内構造物を対象として、検査から補修・保全まで対応 可能なシステム開発を進めていく。参考文献[1] M. Tamura, et al., Development of Underwater LaserCladding and Underwater Laser Seal Welding Techniques for Reactor Components, Proceedings of 13th International Conference on Nuclear Engineering,ICONE13-50141 [2] 金澤ら、「水中レーザ溶接技術」、東芝レビュー、p.36-39、Vol.60、No.10 (2005). [3] Y. Sano et al., Residual Stress Improvement in MetalSurface by Underwater Laser Irradiation, Nucl. Instrum.Methods Phys. Res. B 121, 432(1997) [4] M. Ochiai, et al., Laser-ultrasonic study of micro cracksizing and its application to nuclear reactor internals,全学誌, 4(4), pp.41 (2006) [S] 佐伯綾--他, レーザを応用した炉内保全技術とそのPWR への適用,日本保全学会第2回学術講演会要 旨集, p.191102“ “?多機能レーザ溶接ヘッドの開発 (第1報) 1 - 水中レーザ溶接の基本特性評価 -“ “河野 渉,Wataru KONO,千田 格,Itaru CHIDA,三浦 崇広,Takahiro MIURA,依田 正樹,Masaki YODA,牧野 吉延,Yoshinobu MAKINO,日野 武久,Takehisa HINO
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