基調講演:「もんじゅ」の現状と保全活動の取組み
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カテゴリ: 第6回
1.緒言
高速増殖原型炉「もんじゅ」は、昭和60年10月に 建設工事に着工、平成3年4月に機器の据付けを完了 し、平成3年5月より試運転を開始した。平成6年4 月5日に初臨界を達成し、平成7年8月 29 日に送電 系統への初送電を行なった。電気出力 40%を達成した 段階で、出力上昇試験及び過渡試験を実施していたが、 平成7年 12月8日に 2次主冷却系ナトリウム(Na)漏 えい事故が発生し、その後原子炉を停止している。現 在、早期の運転再開に向け設備の健全性確認等の様々 な努力を続けているが、運転再開に向けた「もんじゅ」 の現状と保全の取組みについて述べる。 - *高速増殖炉: Fast Breeder Reactor 以下 FBR
2.「もんじゅ」の現状
1 2次主冷却系 Na 漏えい事故発生後、原子力機構(当 時、動燃?サイクル機構)は、徹底した原因究明を行う とともに、「もんじゅ」の安全性及び信頼性のより一層 の向上を図ることを目的とした「安全総点検」を実施 し、改善すべき事項を明らかにするとともに、Na漏え い対策等に係る改善策を策定した。平成14年12月26連絡先:山下卓哉、〒919-1279福井県敦賀市白木1丁目 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 FBRプラント 工学研究センター、電話: 0770-39-1031(内線6811)、 e-mail: yamashita.takuya@jaea.go.jp日に原子炉設置変更許可を受領した後、Na漏えい対策 等の改造工事、改造により影響を受ける可能性のある 設備の機能・性能を確認するため「工事確認試験」を 実施した。また、長期停止設備の健全性を確認するた め、「プラント確認試験」を開始したが、平成 20年9 月に屋外排気ダクトに腐食孔が確認され、「プラント確 認試験」は中断した。屋外排気ダクトの保修工事は、 平成21年5月 27 日に終了し、現在は燃料交換と残り の「プラント確認試験」の実施及び性能試験前準備・ 点検を進めている。一方、「プラント確認試験」期間中の平成 20年3月 に発生した Na 漏えい検出器(CLD)の誤警報発報に関 し、原子力安全・保安院より、「もんじゅ」に係る特別 な保安検査の結果とその改善に向けた行動計画を取り まとめるよう指示があった。原子力機構は、平成 20 年7月 31 日に「特別な保安検査における指摘に対する 改善のための行動計画について」をとりまとめ、現在 改善活動に取組んでいる。3. FBR プラントの特徴3.1 技術的特長Na冷却型 FBR プラントの特徴は、高速中性子を 利用し、冷却材に化学的に活性で不透明な液体金属 Na を使用していることであるが、特に Na取扱技術 を確立することが重要である。FBR は、低圧で運転107されることと構造材料に高温特性と延性に優れたオ ーステナイト系ステンレス鋼を用いていることから、 「疲労やクリープによるき裂が貫通してもすぐに破断に至ることはなく、破断前漏えい(LBB)が成立する。 また、配管の高所引き廻しやガードベッセルの設置 等により、破断時においても安心燃料の崩壊熱除去 に必要な冷却材が確保されるため、Na の漏えいを 検知してからでも安全に原子炉を停止することがで きる。このような特徴から、バウンダリの検査は Na やカバーガスの漏えい監視を主体としている。一方 で、冷却材に液体金属 Na を使用していることから、 カバーガス設備や予熱設備、気密性確保のための設 備、Na の純度管理に必要な設備等、一般のプラン トにはない設備の保全が必要になる。FBR は、運転 実績の豊富な軽水炉と異なり限られた運転実績の中 で、安全かつ信頼性の高い産業として実用化を達成 することが保全活動においても求められる。3.2高速実験炉「常陽」の経験大型ナトリウム機器を改造・修理のため系統外に 取出す場合には、既存プラントの限られたスペース での作業、原子炉に燃料を装荷しナトリウムを充填 した状態での作業、1次冷却系では高放射線環境下 での放射性ナトリウム取扱作業などの FBR 特有の 作業が必要となる。高速実験炉「常陽」は、昭和 52 年の初臨界以来、32年間の運転の中で、1次主冷却 系の主循環ポンプ分解点検・再組立、主中間熱交換 器の交換等の作業を通して、これらナトリウム機器 取り扱いに係る作業管理・プラント管理の経験・知 見を蓄積してきている 1-2)。これらの経験・知見は、 「もんじゅ」及び実用化を目指した保全技術の確立 のために活用していく。4. 運転再開に向けた保全活動・「もんじゅ」の Na漏えい対策等に係る工事は、平 成17年9月より本体工事に着手し、1) 2次冷却系温度 計の交換・撤去工事、2) Na 漏えいに対する改善工事、 3)蒸発器ブローダウン性能の改善工事を実施し、平成 19年5月 23 日に終了した。 -- 平成18年 12月18日から平成 19年8月30日の約 8ヶ月間に亘って工事確認試験を行い、1)交換・撤去 した2次冷却系温度計(14本/ループ)の指示値のばらつきを評価し、運転に支障がないことを確認した。 また、2) Na 漏えいに対する改善工事については、総 合漏えい監視システムの機能試験、2次主冷却系 Na 緊急ドレンの模擬試験、窒素ガス注入設備の機能試験 を実施し、それぞれが問題なく機能することを確認し た。3)蒸発器ブローダウン性能の改善工事については、 水漏えい模擬信号を入力することにより、水漏えい発 生時の動作が計画通り進行することを確認した。「プラント確認試験」は、改造設備を除いた停止中 設備、運転中設備の系統レベルの機能・性能を確認す る試験及び改造設備も含めたプラントレベルの機能・ 性能を確認するための試験であり、平成 19年8月31 日より開始した。「プラント確認試験」の項目は、プラ ントを安全に運転するという視点から選定し、1)燃料 を安全に取扱う機能の確認 20 項目、2)原子炉を安全・ 安定に制御する機能の確認 55 項目、3)原子炉を冷却す る機能の確認 31 項目、4)蒸気発生器の安全性及び安全 を監視する機能の確認 8 項目、5)放射性物質を閉じ込 める機能の確認 12 項目、6)非常用電源設備の電源供給 機能の確認 2 項目、7)放射線監視及び管理する機能の 確認 13 項目の全試験項目 141 項目を実施した。保全プログラム(保全計画)については、「常陽」の運 転・保守経験、海外 FBR・国内軽水炉の運転経験及びト ラブル事例等の知見を基に、「もんじゅ」の運転・保守 実績を考慮し策定した社内基準及びメーカ基準に基づ き、炉心確認試験終了までの保全計画を平成 21 年 1 月1日に策定した。運用に当り、より実効性を持った 保全活動とするために、CLD や屋外排気ダクトのトラ ブル事例を基に、点検時期、頻度の見直しを行ってい - る。引続き、「もんじゅ」特有の設備の点検実績、設備 健全性確認結果を反映した保全計画の見直しを行う。 また、今後も計画的に点検を行い、結果の確認・評価や 有効性評価を行い、保全計画の改善を継続して進める。平成 18年9月の「発電用原子炉施設に関する耐震設 計審査指針」の改定に伴い、より詳細な地質調査、断 層の評価を実施するとともに新潟県中越沖地震の知見 を反映して「もんじゅ」の耐震安全性評価を実施し、 基準地震動 Ss=600 ガルで安全上重要な施設の耐震安 全性が確保されることを確認した。更に、保安院の審 議状況を踏まえて、基準地震動を 760 ガルに見直し、 安全上重要な主要機器の耐震安全性が確保されること を確認した。一方、裕度向上のための工事を計画的に 進めている。108、・「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)は、検査機器開 発の成果を取り入れ計画的に行うこととされており、 安全上特に重要な(1)原子炉容器廻り検査装置、(2)蒸気 発生器伝熱管検査装置、(3) 1 次主冷却系配管検査装置 については、昭和 40 年代前半から開発・整備を進め、 平成3年に行われた総合機能試験に適用し、当初の要 求性能を満たすことを確認した。その後も、検査性能 と検査効率の向上を図るべく ISI 装置の高度化を続け ている 3。現在までに進めてきた「もんじゅ」の ISI 装置高度化の概要を以下に示す。 原子炉容器廻り検査装置については、従来のファイ バースコープに代えて、CCD カメラを搭載し肉眼試験 時の視認性の向上と視野の拡大を図った。また、研究 開発の位置付けで搭載を検討している電磁超音波探傷 器(EMAT)の改良を行い、従来の 2 倍の検出感度向上 と 1/4 の重量軽減を達成した。蒸気発生器伝熱管検査 装置については、渦電流を励起するコイルを2個搭載 した双方向励磁型リモートフィールド ECT の採用と プローブ構造の見直し等により、欠陥検出性能の向上 とノイズレベルの低減を達成した。1次主冷却系配管 検査装置については、タイヤ型の超音波探傷プローブ の超音波媒体であるゴムの幅の最適化により、従来の 1.5倍の検出感度向上を図った。なお、蒸気発生器伝熱 管検査装置については、「プラント確認試験」において 蒸気発生器伝熱管の全数検査に適用し、問題となるよ うな減肉や欠陥が無いことを確認している。5. 実用化に向けた保全技術開発 実用化段階の FBR は、供用期間中の保守・補修性に 十分配慮した設計を行うことにより、安全性・信頼性の 向上と供用期間全体の運転・保守に掛かるコストの低 減を目指している。 - 実用化段階の FBR は、原子炉容器が大型化し炉内に ある炉心支持スカートが溶接構造になるため、「もん じゅ」にはないNa中の溶接構造の検査が必要となる。 また、ポンプ組込型 IHX や逆L字配管の採用等により、 ・機器の小型化や機器配置が接近するのに加えて、安全 上の配慮から容器、配管が2重化されるなど、検査・ 補修部位へのアクセス性が悪くなる傾向がある。この ため、設計段階で機器へのアクセス性を考慮するとと もに、人がアクセスしなくても行える遠隔での検査・ 補修技術やモニタリング技術の開発が望まれる。更に、実用化段階の FBR は、新しい構造材料の採用に伴い 「もんじゅ」よりも高温化を図るとともに設計寿命を 2倍の60年に設定している。このため、高温で長時間 使用する機器の劣化や損傷を適切に検出・診断する技 術やその後の劣化・損傷の進展を予測して補修の必要 性や時期を評価する技術に加え、劣化の予防技術、更 に損傷の補修・修理技術の開発も重要になる。現在進め ている実用化に向けた保全技術開発の例を以下に示す。 - Na中の検査技術については、超音波を使って機器の 変形、破損、脱落やき裂の検査が可能な目視検査用の センサ 4-5)と検査部位にアクセスするための搬送装置 (Na 中遊泳ビークル)の開発を進めている。 - 実用化段階の蒸気発生器伝熱管は、改良9Cr鋼製の 直管型2重伝熱管であり、「もんじゅ」に比べて伝熱管 本数が大幅に増えるため、検査精度の向上に加え検査 速度の向上が望まれる。このため、検出性能の良い超 音波探傷プローブとマルチコイル型の渦流探傷プロー ブの開発とともに、飛躍的な探傷速度の向上が可能な ガイドウェーブプローブの開発を進めている。更に、 補修が可能な段階の微小欠陥を検出するためのマルチ コイル型の渦流探傷プローブと検出した欠陥を補修す るためのレーザー加工ヘッドを組合わせた伝熱管の検 査補修装置の開発を進めている 6-7)。「もんじゅ」の検査装置の開発経験や「もんじゅ」 の運転を通して得られる運転・保守の経験を反映し FBR の合理的な保全計画の策定と運用に必要な保全 技術を確立するために、平成 21年4月に「もんじゅ」 サイトに隣接する白木地区に「FBR プラント工学研究 センター」を設置した。「FBR プラント工学研究セン ター」は、FBR の機器・設備の保全に必要な検査・モニ タリング技術や補修・修理技術の開発に加え、高温・長 寿命化した機器の損傷評価手法及び材料劣化防止技術 等の基礎研究を行う。併せて、保全管理に必要な各種 . 評価手法の開発を目指している。「FBR プラント工学 研究センター」は、福井県の原子力開発拠点化の一環 として設立された「福井大学付属国際原子力工学研究 所」と協力して、長期間に亘る FBR の保全技術開発に 取り組んでいく予定である。6. 社会の中の FBR 保全- リスクコミュニケーションの一環として、改造工事 で想定される事故・トラブル等をまとめた「改造工事に109おける事故・トラブル事例集」と本格的な運転段階で想 定される事故・トラブル等の事例とその対応方法につ いてまとめた「もんじゅの本格運転に関する事例集」 を作成した。これらの事例集は、平成 20年2月から9 月にかけて福井県内全市町村を対象とした住民説明会 や、企業及び婦人会等各種団体に出向き情報交換等を 行う「さいくるミーティング」などで活用している。7.結言・「もんじゅ」は、FBR によるプルトニウム技術を確 立するうえでの中核的プラントとして、わが国の自主 開発により建設され、設計・建設・試運転・運転・保 守を通して FBR 実用化に向けた技術を実証する使命 を担っている。「もんじゅ」は、この目的を達成する ために実効的な保全活動を進め、十分な安全確認と地 元の理解を得たうえで早期に運転を再開し、発電炉と しての信頼性/ Na 技術の確立を目指す。参考文献1)実験炉部,““特集「常陽」20周年IV.高速炉の運転管理 及び保守技術の開発”,動燃技報 No.104, pp.43~58, 1997 2)礒崎他, ““プラント改造設計と冷却系機器の交換”サイ クル機構技報 No.21, pp.49~61, 2003 3)上田他,“もんじゅ用 ISI 装置の開発(1)~(33)““,原子力 学会 2003年春の年会~2006年秋の大会 4)山下他, “Na 中目視検査用リアルタイムセンサの要素 試験結果(2)““,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B32 5)田川他, ““Na 中目視検査用高解像度センサの要素試験 結果(2)““,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B31 6)山口他, “伝熱管内壁検査補修技術開発(1)微小欠陥の 検査機能向上に関する技術開発について”,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B38 7)西村他,“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要““,保全 学会第5回学術講演会要旨集 pp.139-141, 2008110“ “「もんじゅ」の現状と保全活動の取組み“ “一宮 正和,Masakazu ICHIMIYA,山下 卓哉,Takuya YAMASHITA
高速増殖原型炉「もんじゅ」は、昭和60年10月に 建設工事に着工、平成3年4月に機器の据付けを完了 し、平成3年5月より試運転を開始した。平成6年4 月5日に初臨界を達成し、平成7年8月 29 日に送電 系統への初送電を行なった。電気出力 40%を達成した 段階で、出力上昇試験及び過渡試験を実施していたが、 平成7年 12月8日に 2次主冷却系ナトリウム(Na)漏 えい事故が発生し、その後原子炉を停止している。現 在、早期の運転再開に向け設備の健全性確認等の様々 な努力を続けているが、運転再開に向けた「もんじゅ」 の現状と保全の取組みについて述べる。 - *高速増殖炉: Fast Breeder Reactor 以下 FBR
2.「もんじゅ」の現状
1 2次主冷却系 Na 漏えい事故発生後、原子力機構(当 時、動燃?サイクル機構)は、徹底した原因究明を行う とともに、「もんじゅ」の安全性及び信頼性のより一層 の向上を図ることを目的とした「安全総点検」を実施 し、改善すべき事項を明らかにするとともに、Na漏え い対策等に係る改善策を策定した。平成14年12月26連絡先:山下卓哉、〒919-1279福井県敦賀市白木1丁目 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 FBRプラント 工学研究センター、電話: 0770-39-1031(内線6811)、 e-mail: yamashita.takuya@jaea.go.jp日に原子炉設置変更許可を受領した後、Na漏えい対策 等の改造工事、改造により影響を受ける可能性のある 設備の機能・性能を確認するため「工事確認試験」を 実施した。また、長期停止設備の健全性を確認するた め、「プラント確認試験」を開始したが、平成 20年9 月に屋外排気ダクトに腐食孔が確認され、「プラント確 認試験」は中断した。屋外排気ダクトの保修工事は、 平成21年5月 27 日に終了し、現在は燃料交換と残り の「プラント確認試験」の実施及び性能試験前準備・ 点検を進めている。一方、「プラント確認試験」期間中の平成 20年3月 に発生した Na 漏えい検出器(CLD)の誤警報発報に関 し、原子力安全・保安院より、「もんじゅ」に係る特別 な保安検査の結果とその改善に向けた行動計画を取り まとめるよう指示があった。原子力機構は、平成 20 年7月 31 日に「特別な保安検査における指摘に対する 改善のための行動計画について」をとりまとめ、現在 改善活動に取組んでいる。3. FBR プラントの特徴3.1 技術的特長Na冷却型 FBR プラントの特徴は、高速中性子を 利用し、冷却材に化学的に活性で不透明な液体金属 Na を使用していることであるが、特に Na取扱技術 を確立することが重要である。FBR は、低圧で運転107されることと構造材料に高温特性と延性に優れたオ ーステナイト系ステンレス鋼を用いていることから、 「疲労やクリープによるき裂が貫通してもすぐに破断に至ることはなく、破断前漏えい(LBB)が成立する。 また、配管の高所引き廻しやガードベッセルの設置 等により、破断時においても安心燃料の崩壊熱除去 に必要な冷却材が確保されるため、Na の漏えいを 検知してからでも安全に原子炉を停止することがで きる。このような特徴から、バウンダリの検査は Na やカバーガスの漏えい監視を主体としている。一方 で、冷却材に液体金属 Na を使用していることから、 カバーガス設備や予熱設備、気密性確保のための設 備、Na の純度管理に必要な設備等、一般のプラン トにはない設備の保全が必要になる。FBR は、運転 実績の豊富な軽水炉と異なり限られた運転実績の中 で、安全かつ信頼性の高い産業として実用化を達成 することが保全活動においても求められる。3.2高速実験炉「常陽」の経験大型ナトリウム機器を改造・修理のため系統外に 取出す場合には、既存プラントの限られたスペース での作業、原子炉に燃料を装荷しナトリウムを充填 した状態での作業、1次冷却系では高放射線環境下 での放射性ナトリウム取扱作業などの FBR 特有の 作業が必要となる。高速実験炉「常陽」は、昭和 52 年の初臨界以来、32年間の運転の中で、1次主冷却 系の主循環ポンプ分解点検・再組立、主中間熱交換 器の交換等の作業を通して、これらナトリウム機器 取り扱いに係る作業管理・プラント管理の経験・知 見を蓄積してきている 1-2)。これらの経験・知見は、 「もんじゅ」及び実用化を目指した保全技術の確立 のために活用していく。4. 運転再開に向けた保全活動・「もんじゅ」の Na漏えい対策等に係る工事は、平 成17年9月より本体工事に着手し、1) 2次冷却系温度 計の交換・撤去工事、2) Na 漏えいに対する改善工事、 3)蒸発器ブローダウン性能の改善工事を実施し、平成 19年5月 23 日に終了した。 -- 平成18年 12月18日から平成 19年8月30日の約 8ヶ月間に亘って工事確認試験を行い、1)交換・撤去 した2次冷却系温度計(14本/ループ)の指示値のばらつきを評価し、運転に支障がないことを確認した。 また、2) Na 漏えいに対する改善工事については、総 合漏えい監視システムの機能試験、2次主冷却系 Na 緊急ドレンの模擬試験、窒素ガス注入設備の機能試験 を実施し、それぞれが問題なく機能することを確認し た。3)蒸発器ブローダウン性能の改善工事については、 水漏えい模擬信号を入力することにより、水漏えい発 生時の動作が計画通り進行することを確認した。「プラント確認試験」は、改造設備を除いた停止中 設備、運転中設備の系統レベルの機能・性能を確認す る試験及び改造設備も含めたプラントレベルの機能・ 性能を確認するための試験であり、平成 19年8月31 日より開始した。「プラント確認試験」の項目は、プラ ントを安全に運転するという視点から選定し、1)燃料 を安全に取扱う機能の確認 20 項目、2)原子炉を安全・ 安定に制御する機能の確認 55 項目、3)原子炉を冷却す る機能の確認 31 項目、4)蒸気発生器の安全性及び安全 を監視する機能の確認 8 項目、5)放射性物質を閉じ込 める機能の確認 12 項目、6)非常用電源設備の電源供給 機能の確認 2 項目、7)放射線監視及び管理する機能の 確認 13 項目の全試験項目 141 項目を実施した。保全プログラム(保全計画)については、「常陽」の運 転・保守経験、海外 FBR・国内軽水炉の運転経験及びト ラブル事例等の知見を基に、「もんじゅ」の運転・保守 実績を考慮し策定した社内基準及びメーカ基準に基づ き、炉心確認試験終了までの保全計画を平成 21 年 1 月1日に策定した。運用に当り、より実効性を持った 保全活動とするために、CLD や屋外排気ダクトのトラ ブル事例を基に、点検時期、頻度の見直しを行ってい - る。引続き、「もんじゅ」特有の設備の点検実績、設備 健全性確認結果を反映した保全計画の見直しを行う。 また、今後も計画的に点検を行い、結果の確認・評価や 有効性評価を行い、保全計画の改善を継続して進める。平成 18年9月の「発電用原子炉施設に関する耐震設 計審査指針」の改定に伴い、より詳細な地質調査、断 層の評価を実施するとともに新潟県中越沖地震の知見 を反映して「もんじゅ」の耐震安全性評価を実施し、 基準地震動 Ss=600 ガルで安全上重要な施設の耐震安 全性が確保されることを確認した。更に、保安院の審 議状況を踏まえて、基準地震動を 760 ガルに見直し、 安全上重要な主要機器の耐震安全性が確保されること を確認した。一方、裕度向上のための工事を計画的に 進めている。108、・「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)は、検査機器開 発の成果を取り入れ計画的に行うこととされており、 安全上特に重要な(1)原子炉容器廻り検査装置、(2)蒸気 発生器伝熱管検査装置、(3) 1 次主冷却系配管検査装置 については、昭和 40 年代前半から開発・整備を進め、 平成3年に行われた総合機能試験に適用し、当初の要 求性能を満たすことを確認した。その後も、検査性能 と検査効率の向上を図るべく ISI 装置の高度化を続け ている 3。現在までに進めてきた「もんじゅ」の ISI 装置高度化の概要を以下に示す。 原子炉容器廻り検査装置については、従来のファイ バースコープに代えて、CCD カメラを搭載し肉眼試験 時の視認性の向上と視野の拡大を図った。また、研究 開発の位置付けで搭載を検討している電磁超音波探傷 器(EMAT)の改良を行い、従来の 2 倍の検出感度向上 と 1/4 の重量軽減を達成した。蒸気発生器伝熱管検査 装置については、渦電流を励起するコイルを2個搭載 した双方向励磁型リモートフィールド ECT の採用と プローブ構造の見直し等により、欠陥検出性能の向上 とノイズレベルの低減を達成した。1次主冷却系配管 検査装置については、タイヤ型の超音波探傷プローブ の超音波媒体であるゴムの幅の最適化により、従来の 1.5倍の検出感度向上を図った。なお、蒸気発生器伝熱 管検査装置については、「プラント確認試験」において 蒸気発生器伝熱管の全数検査に適用し、問題となるよ うな減肉や欠陥が無いことを確認している。5. 実用化に向けた保全技術開発 実用化段階の FBR は、供用期間中の保守・補修性に 十分配慮した設計を行うことにより、安全性・信頼性の 向上と供用期間全体の運転・保守に掛かるコストの低 減を目指している。 - 実用化段階の FBR は、原子炉容器が大型化し炉内に ある炉心支持スカートが溶接構造になるため、「もん じゅ」にはないNa中の溶接構造の検査が必要となる。 また、ポンプ組込型 IHX や逆L字配管の採用等により、 ・機器の小型化や機器配置が接近するのに加えて、安全 上の配慮から容器、配管が2重化されるなど、検査・ 補修部位へのアクセス性が悪くなる傾向がある。この ため、設計段階で機器へのアクセス性を考慮するとと もに、人がアクセスしなくても行える遠隔での検査・ 補修技術やモニタリング技術の開発が望まれる。更に、実用化段階の FBR は、新しい構造材料の採用に伴い 「もんじゅ」よりも高温化を図るとともに設計寿命を 2倍の60年に設定している。このため、高温で長時間 使用する機器の劣化や損傷を適切に検出・診断する技 術やその後の劣化・損傷の進展を予測して補修の必要 性や時期を評価する技術に加え、劣化の予防技術、更 に損傷の補修・修理技術の開発も重要になる。現在進め ている実用化に向けた保全技術開発の例を以下に示す。 - Na中の検査技術については、超音波を使って機器の 変形、破損、脱落やき裂の検査が可能な目視検査用の センサ 4-5)と検査部位にアクセスするための搬送装置 (Na 中遊泳ビークル)の開発を進めている。 - 実用化段階の蒸気発生器伝熱管は、改良9Cr鋼製の 直管型2重伝熱管であり、「もんじゅ」に比べて伝熱管 本数が大幅に増えるため、検査精度の向上に加え検査 速度の向上が望まれる。このため、検出性能の良い超 音波探傷プローブとマルチコイル型の渦流探傷プロー ブの開発とともに、飛躍的な探傷速度の向上が可能な ガイドウェーブプローブの開発を進めている。更に、 補修が可能な段階の微小欠陥を検出するためのマルチ コイル型の渦流探傷プローブと検出した欠陥を補修す るためのレーザー加工ヘッドを組合わせた伝熱管の検 査補修装置の開発を進めている 6-7)。「もんじゅ」の検査装置の開発経験や「もんじゅ」 の運転を通して得られる運転・保守の経験を反映し FBR の合理的な保全計画の策定と運用に必要な保全 技術を確立するために、平成 21年4月に「もんじゅ」 サイトに隣接する白木地区に「FBR プラント工学研究 センター」を設置した。「FBR プラント工学研究セン ター」は、FBR の機器・設備の保全に必要な検査・モニ タリング技術や補修・修理技術の開発に加え、高温・長 寿命化した機器の損傷評価手法及び材料劣化防止技術 等の基礎研究を行う。併せて、保全管理に必要な各種 . 評価手法の開発を目指している。「FBR プラント工学 研究センター」は、福井県の原子力開発拠点化の一環 として設立された「福井大学付属国際原子力工学研究 所」と協力して、長期間に亘る FBR の保全技術開発に 取り組んでいく予定である。6. 社会の中の FBR 保全- リスクコミュニケーションの一環として、改造工事 で想定される事故・トラブル等をまとめた「改造工事に109おける事故・トラブル事例集」と本格的な運転段階で想 定される事故・トラブル等の事例とその対応方法につ いてまとめた「もんじゅの本格運転に関する事例集」 を作成した。これらの事例集は、平成 20年2月から9 月にかけて福井県内全市町村を対象とした住民説明会 や、企業及び婦人会等各種団体に出向き情報交換等を 行う「さいくるミーティング」などで活用している。7.結言・「もんじゅ」は、FBR によるプルトニウム技術を確 立するうえでの中核的プラントとして、わが国の自主 開発により建設され、設計・建設・試運転・運転・保 守を通して FBR 実用化に向けた技術を実証する使命 を担っている。「もんじゅ」は、この目的を達成する ために実効的な保全活動を進め、十分な安全確認と地 元の理解を得たうえで早期に運転を再開し、発電炉と しての信頼性/ Na 技術の確立を目指す。参考文献1)実験炉部,““特集「常陽」20周年IV.高速炉の運転管理 及び保守技術の開発”,動燃技報 No.104, pp.43~58, 1997 2)礒崎他, ““プラント改造設計と冷却系機器の交換”サイ クル機構技報 No.21, pp.49~61, 2003 3)上田他,“もんじゅ用 ISI 装置の開発(1)~(33)““,原子力 学会 2003年春の年会~2006年秋の大会 4)山下他, “Na 中目視検査用リアルタイムセンサの要素 試験結果(2)““,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B32 5)田川他, ““Na 中目視検査用高解像度センサの要素試験 結果(2)““,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B31 6)山口他, “伝熱管内壁検査補修技術開発(1)微小欠陥の 検査機能向上に関する技術開発について”,原子力学会 2008年秋の大会予稿集 B38 7)西村他,“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要““,保全 学会第5回学術講演会要旨集 pp.139-141, 2008110“ “「もんじゅ」の現状と保全活動の取組み“ “一宮 正和,Masakazu ICHIMIYA,山下 卓哉,Takuya YAMASHITA