もんじゅのアクシデントマネジメントレビュー
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA という)は、高速増殖炉研究開発センター高速増殖原型 炉もんじゅ原子炉施設(以下、もんじゅという)のアクシ デントマネジメント (炉心損傷頻度 (CDF: Core Damage Frequency)、格納容器損傷頻度 (CFF : Containment Failure Frequency) を低減させるためにとられる措置。 以下、AM という)の整備を推進し、平成 20 年3月に その整備結果を経済産業省に報告した。独立行政法人 原子力安全基盤機構(以下、JNES という)は、原子力安 全・保安院からの指示に基づき、JAEA とは独立に、 JAEA が提出したアクシデントマネジメント整備報告 の妥当性を、以下の(1)~(4)により評価した。 (1) AM 策の基本要件の確認;AM 実施体制、施設・設備類、手順書などの知識ベース、通報連絡及び教育 等の各事項の AM 整備上の基本要件への適合性について確認する。 (2) 事象シーケンスの適切性の確認;AM 策で想定され ている炉心損傷事象が適切に選定されたものである ことを確認する。 (3) 既存の安全機能への影響評価;AM 策が既存の安全 * 機能に悪影響を及ぼさないことを確認する。 (4) AM 策の有効性評価;AM 策の有効性を確率論的安 全評価(以下、PSA という)に基づいて定量的に評価 するとともに、JAEA の PSA を用いて行った AM策の有効性評価の技術的妥当性を確認する。 本報では、もんじゅの AM 策の概要を整理するとと もに、上記の評価の観点のうち、「(3) 既存の安全機能 への影響評価」の内容について述べる。
2. もんじゅのアクシデントマネジメントー
- もんじゅの AM 策については、次の二つに分けるこ とができる。一つは、JAEA が設計段階から PSA によ り得られた知見を設計・運用に反映し、整備を進めて きた設計基準を超える事態へ対応する安全性向上策 (以下、「AM 整備前の安全性向上策」という)であり、 既に採用された方策である。もう一つは、JAEA の自 主的な保安活動の一環として、もんじゅの安全性や設 計基準を超える事態に対応するための緊急時操作手順 の実効性を一層向上させることを目的に、今回新たに 整備された AM 策(以下、「整備した AM 策」という) である。もんじゅの AM 策を、上記の「AM 整備前の安全性 向上策」と「整備した AM 策」で分けて、また、原子 炉の安全確保の基本である「止める」、「冷やす」、「閉 じ込める」に代表される安全機能毎に分類して Table 1 に示す。各 AM策の概要を以下に示す。 - まず、「止める」に対応する原子炉停止機能に関わる 策として、「AM 整備前の安全性向上策」では、原子炉 の自動停止に失敗した場合の「原子炉手動トリップ」、 電源喪失時の原子炉保護系回路に多様性を持たせるた めの「原子炉保護回路の改良」が挙げられている。ま111Table 1 Accident Management Measures for Monju 機能 AM整備前における設計段階の安全性向上策整備したAM策 1. 原子炉停止機能に 1 原子炉手動トリップ1 制御棒保持電源のしゃ断 関わるもの 12 原子炉保護系回路の改良2 制御棒駆動機構駆動軸の挿入 2. 炉心冷却機能に関 13 Arガス系隔離による原子炉容器液位確保操作 3 Arガス系隔離による原子炉容器液位確保操作 わるもの4 中央制御室で1次系MGセット一括CSを「停止」位| 4 1次メンテナンス冷却系サイフォンブレーク 置とする操作5 1次系高温保持操作 5 現場で1次系MGセット発電機界磁しゃ断器を手動 | 6 1次主冷却系サイフォンブレーク で「切」とする操作71次主冷却系ナトリウムの原子炉容器への補給 6 中央制御室での補助冷却設備自然循環移行操作12 SGによる崩壊熱除熱(一括移行スイッチの設置) 1 現場での補助冷却設備自然循環移行操作 2 補助冷却設備空気冷却器出口止め弁バイパス弁を 3系統とも開とする操作9 中央制御室でのメンテナンス冷却系緊急起動操作 3. 安全機能のサポー100電源復旧(外部電源の復旧、非常用DGの手動起19 空調用冷水の融通による電源確保 ト機能に関わるもの | 動) 4. 放射性物質閉じ込) 1 格納容器遠隔隔離操作1 空調用冷水の融通による電源確保 め機能に関わるもの10 格納容器の現場での手動隔離操作 た、『整備した AM 策』では、原子炉の自動停止及びそ 「1次系高温保持操作」、「1次主冷却系ナトリウムの の後の手動停止に失敗した場合に、制御棒を落下によ原子炉容器への補給」が、また、補助冷却系及びメン り挿入させるための「制御棒保持電源のしゃ断」、これ テナンス冷却系による除熱機能が喪失した場合に、SG に失敗した場合の「制御棒駆動機構駆動軸の挿入」に予熱ラインを用いて補助蒸気による崩壊熱の除去を行 より制御棒を1本ずつ挿入する操作が挙げられている。 う「SGによる崩壊熱除熱」が挙げられている。次に、「冷やす」に対応する炉心冷却機能に関わる策 1 安全機能のサポート機能に関わる策として、『設計段 として、「AM 整備前の安全性向上策」では、1次冷却 階の安全性向上策』では、外部電源喪失及び非常用デ 材の漏えい継続を停止し原子炉の液位を保持する手段ィーゼル発電機の起動に失敗した場合に、復旧可能に として、「Ar ガス系隔離による原子炉容器液位確保操 なったものから復旧する「電源復旧(外部電源の復旧、 作」、「中央制御室で1次系 MG セット一括 CS(コント 非常用 DG の手動起動)」操作が挙げられている。また、 ロールスイッチ)を「停止」位置とする操作」、「現場で 『整備した AM 策』では、「空調用冷水の融通による電 1次系 MG セット発電機界磁しゃ断器を手動で「切」 源確保」が挙げられている。 とする操作」が、また、原子炉停止後の補助冷却設備 最後に、「閉じ込める」に対応する放射性物質閉じ込 による強制循環除熱に失敗した場合の策として、「中央め機能に関わる策として、『設計段階の安全性向上策』 制御室での補助冷却設備自然循環移行操作」、「現場ででは、格納容器隔離信号発信による自動の格納容器隔 の補助冷却設備自然循環移行操作」、「補助冷却設備空 離失敗時に、手動で格納容器隔離信号を送る「格納容 気冷却器出口止め弁バイパス弁を3系統とも開とする器遠隔隔離操作」が挙げられている。また、『整備した 操作」が、さらに補助冷却設備による冷却が全ループ AM 策』では、手動信号による格納容器隔離にも失敗 で不可能な場合の「中央制御室でメンテナンス冷却系 した場合の「格納容器の現場での手動隔離操作」と、 緊急起動操作」が挙げられている。また、『整備した。 非常用電源喪失による格納容器隔離失敗に対する「空 AM策』では、1次冷却材の漏えい継続の停止等により 調用冷水の融通による電源確保」が挙げられている。 原子炉の液位を保持する手段として、中央制御室から 格納容器内のアルゴンガス系弁の閉止操作を行う「Ar ガス系隔離による原子炉容器液位確保操作」、漏えい 所と原子炉容器をしゃ断するための「1次メンテナン3.既存の安全機能への影響評価 ス冷却系サイフォンブレーク」と「1次主冷却系サイ Table 1 に整理したもんじゅのAM策の妥当性評価の フォンブレーク」、原子炉の液位低下を緩和するための一環として、これらの AM 策が既存の安全機能に影響112、しないものであることを以下により評価した。 (1) 基準・指針類への適合性評価 (2) 既存の安全設備に対する影響評価 (3) 安全評価に対する影響確認 また、設計段階の安全性向上策については、対策策定 後にナトリウム漏えい対策工事等の改造工事を行って いるため、次の(4)も評価の観点として追加した。 (4) 設計段階の安全性向上策に対する改造工事の影響確認 3.1 基準・指針類への適合性評価Table 1 に示したもんじゅの AM策のうち、設備の改 造を伴うものは、いずれも「AM 整備前における設計 段階の安全性向上策」に分類される以下の3項目のみ である。 ・原子炉保護系回路の改良 ・中央制御室での補助冷却設備自然循環移行操作 ・中央制御室でのメンテナンス冷却系緊急起動操作 上記以外の AM 策は、設備改造を伴わず、既存の設 備を用いて実施するものであることから、基準・指針 類への適合性に関しては、設置許可申請や設工認申請 により確認済みであるため、ここでは、設備改造を伴 う上記の3つの AM策について、関連する安全設計指 針を摘出し、指針への適合性が設備改造によって損な われないものであることを確認した。 3.2 既存の安全設備に対する影響評価 * AM 策による既存の安全設備に対する影響評価とし て、以下の確認を行った。 ・安全設備の多重性、独立性を阻害しないこと ・原子炉冷却材バウンダリの隔離機能を阻害しない こと ・格納容器の隔離機能を阻害しないこと ・既存設備の安全機能を阻害しないこと 設備改造を伴わない AM策と設備改造を伴う AM策 では、上記の影響評価の観点は異なったものとなる。 すなわち、前者については、AM 策は運転・操作によ るものであるため、運転時に誤って AM策を行った場 合の既存の安全機能への影響評価となるのに対し、後 者の場合は、これに加え、設備改造による既存の安全 機能への影響評価を行う必要がある。3.1 で挙げた設備改造を伴う AM策については、設備 改造によって上記の安全機能を阻害することはなく、 また、他の AM 策を含め、誤操作によって、運転時に * AM 策を適用した場合にも、上記の安全機能に悪影響を及ぼすことがないことが確認できており、もんじゅ の AM 策は、既存の安全設備の機能を損なう恐れのな いものであると評価する。 3.3 安全評価に対する影響確認 - もんじゅの AM 策は、設計段階の安全性向上策、整 備した AM策ともに、設計基準を超える状態において 実施するものであるため、設計基準事象について評価 した既存の安全評価の条件及び結果に影響を与えるこ とはない。 3.4 設計段階の安全性向上策に対する改造工事の影響確認 - AM 策のうち、設計段階の安全性向上策は、ナトリ ウム漏えい対策工事等の改造工事以前に立案されたも のであることから、改造工事によって AM 策に影響が 生じないこと、もしくは、影響がある場合には、その 対応が図られている必要がある。全11 項目の設計段階の安全性向上策について、改造 工事の影響について確認した結果、補助冷却設備によ る自然循環除熱流路確保のための現場での弁手動操作 に関し、当該弁の駆動部が保温材で覆われ、手動ハン ドルが取り外されていることについて、運転手順書に 手動ハンドル取付に必要な手順が記載され、対処可能 な状況になっていること、残りの AM 策については、 改造工事後の現状の設備に適用可能なことを確認した。4.結言JNES は、原子力安全・保安院からの指示に基づき、 JAEA の整備した「もんじゅ」の AM の妥当性につい て評価した。評価の観点は、冒頭述べたように、「AM 策の基本要件の確認」、「事象シーケンスの適切性の確 認」、「既存の安全機能への影響評価」及び「AM 策の 有効性評価」の4点であるが、このうち、「既存の安全 機能への影響評価」について、本報告で述べたように、 設計段階の安全性向上策、整備した AM 策のいずれに おいても、技術的には問題のないものであることを確 認した。今後、もんじゅの運転再開後の運用に際しては、AM 策に関連する設備の保全について、保全プログラムに おいて、リスク重要度に応じた適切な対応が図られる 必要があると考える。今後、整備した AM策が適切に運用できるように教 育・訓練計画を具体的に立案し、確実に実施すること が望まれる。113“ “もんじゅのアクシデントマネジメントレビュー“ “井上 正明,Masaaki INOUE,遠藤 寛,Hiroshi ENDO,伊東 智道,Tomomichi ITO
独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA という)は、高速増殖炉研究開発センター高速増殖原型 炉もんじゅ原子炉施設(以下、もんじゅという)のアクシ デントマネジメント (炉心損傷頻度 (CDF: Core Damage Frequency)、格納容器損傷頻度 (CFF : Containment Failure Frequency) を低減させるためにとられる措置。 以下、AM という)の整備を推進し、平成 20 年3月に その整備結果を経済産業省に報告した。独立行政法人 原子力安全基盤機構(以下、JNES という)は、原子力安 全・保安院からの指示に基づき、JAEA とは独立に、 JAEA が提出したアクシデントマネジメント整備報告 の妥当性を、以下の(1)~(4)により評価した。 (1) AM 策の基本要件の確認;AM 実施体制、施設・設備類、手順書などの知識ベース、通報連絡及び教育 等の各事項の AM 整備上の基本要件への適合性について確認する。 (2) 事象シーケンスの適切性の確認;AM 策で想定され ている炉心損傷事象が適切に選定されたものである ことを確認する。 (3) 既存の安全機能への影響評価;AM 策が既存の安全 * 機能に悪影響を及ぼさないことを確認する。 (4) AM 策の有効性評価;AM 策の有効性を確率論的安 全評価(以下、PSA という)に基づいて定量的に評価 するとともに、JAEA の PSA を用いて行った AM策の有効性評価の技術的妥当性を確認する。 本報では、もんじゅの AM 策の概要を整理するとと もに、上記の評価の観点のうち、「(3) 既存の安全機能 への影響評価」の内容について述べる。
2. もんじゅのアクシデントマネジメントー
- もんじゅの AM 策については、次の二つに分けるこ とができる。一つは、JAEA が設計段階から PSA によ り得られた知見を設計・運用に反映し、整備を進めて きた設計基準を超える事態へ対応する安全性向上策 (以下、「AM 整備前の安全性向上策」という)であり、 既に採用された方策である。もう一つは、JAEA の自 主的な保安活動の一環として、もんじゅの安全性や設 計基準を超える事態に対応するための緊急時操作手順 の実効性を一層向上させることを目的に、今回新たに 整備された AM 策(以下、「整備した AM 策」という) である。もんじゅの AM 策を、上記の「AM 整備前の安全性 向上策」と「整備した AM 策」で分けて、また、原子 炉の安全確保の基本である「止める」、「冷やす」、「閉 じ込める」に代表される安全機能毎に分類して Table 1 に示す。各 AM策の概要を以下に示す。 - まず、「止める」に対応する原子炉停止機能に関わる 策として、「AM 整備前の安全性向上策」では、原子炉 の自動停止に失敗した場合の「原子炉手動トリップ」、 電源喪失時の原子炉保護系回路に多様性を持たせるた めの「原子炉保護回路の改良」が挙げられている。ま111Table 1 Accident Management Measures for Monju 機能 AM整備前における設計段階の安全性向上策整備したAM策 1. 原子炉停止機能に 1 原子炉手動トリップ1 制御棒保持電源のしゃ断 関わるもの 12 原子炉保護系回路の改良2 制御棒駆動機構駆動軸の挿入 2. 炉心冷却機能に関 13 Arガス系隔離による原子炉容器液位確保操作 3 Arガス系隔離による原子炉容器液位確保操作 わるもの4 中央制御室で1次系MGセット一括CSを「停止」位| 4 1次メンテナンス冷却系サイフォンブレーク 置とする操作5 1次系高温保持操作 5 現場で1次系MGセット発電機界磁しゃ断器を手動 | 6 1次主冷却系サイフォンブレーク で「切」とする操作71次主冷却系ナトリウムの原子炉容器への補給 6 中央制御室での補助冷却設備自然循環移行操作12 SGによる崩壊熱除熱(一括移行スイッチの設置) 1 現場での補助冷却設備自然循環移行操作 2 補助冷却設備空気冷却器出口止め弁バイパス弁を 3系統とも開とする操作9 中央制御室でのメンテナンス冷却系緊急起動操作 3. 安全機能のサポー100電源復旧(外部電源の復旧、非常用DGの手動起19 空調用冷水の融通による電源確保 ト機能に関わるもの | 動) 4. 放射性物質閉じ込) 1 格納容器遠隔隔離操作1 空調用冷水の融通による電源確保 め機能に関わるもの10 格納容器の現場での手動隔離操作 た、『整備した AM 策』では、原子炉の自動停止及びそ 「1次系高温保持操作」、「1次主冷却系ナトリウムの の後の手動停止に失敗した場合に、制御棒を落下によ原子炉容器への補給」が、また、補助冷却系及びメン り挿入させるための「制御棒保持電源のしゃ断」、これ テナンス冷却系による除熱機能が喪失した場合に、SG に失敗した場合の「制御棒駆動機構駆動軸の挿入」に予熱ラインを用いて補助蒸気による崩壊熱の除去を行 より制御棒を1本ずつ挿入する操作が挙げられている。 う「SGによる崩壊熱除熱」が挙げられている。次に、「冷やす」に対応する炉心冷却機能に関わる策 1 安全機能のサポート機能に関わる策として、『設計段 として、「AM 整備前の安全性向上策」では、1次冷却 階の安全性向上策』では、外部電源喪失及び非常用デ 材の漏えい継続を停止し原子炉の液位を保持する手段ィーゼル発電機の起動に失敗した場合に、復旧可能に として、「Ar ガス系隔離による原子炉容器液位確保操 なったものから復旧する「電源復旧(外部電源の復旧、 作」、「中央制御室で1次系 MG セット一括 CS(コント 非常用 DG の手動起動)」操作が挙げられている。また、 ロールスイッチ)を「停止」位置とする操作」、「現場で 『整備した AM 策』では、「空調用冷水の融通による電 1次系 MG セット発電機界磁しゃ断器を手動で「切」 源確保」が挙げられている。 とする操作」が、また、原子炉停止後の補助冷却設備 最後に、「閉じ込める」に対応する放射性物質閉じ込 による強制循環除熱に失敗した場合の策として、「中央め機能に関わる策として、『設計段階の安全性向上策』 制御室での補助冷却設備自然循環移行操作」、「現場ででは、格納容器隔離信号発信による自動の格納容器隔 の補助冷却設備自然循環移行操作」、「補助冷却設備空 離失敗時に、手動で格納容器隔離信号を送る「格納容 気冷却器出口止め弁バイパス弁を3系統とも開とする器遠隔隔離操作」が挙げられている。また、『整備した 操作」が、さらに補助冷却設備による冷却が全ループ AM 策』では、手動信号による格納容器隔離にも失敗 で不可能な場合の「中央制御室でメンテナンス冷却系 した場合の「格納容器の現場での手動隔離操作」と、 緊急起動操作」が挙げられている。また、『整備した。 非常用電源喪失による格納容器隔離失敗に対する「空 AM策』では、1次冷却材の漏えい継続の停止等により 調用冷水の融通による電源確保」が挙げられている。 原子炉の液位を保持する手段として、中央制御室から 格納容器内のアルゴンガス系弁の閉止操作を行う「Ar ガス系隔離による原子炉容器液位確保操作」、漏えい 所と原子炉容器をしゃ断するための「1次メンテナン3.既存の安全機能への影響評価 ス冷却系サイフォンブレーク」と「1次主冷却系サイ Table 1 に整理したもんじゅのAM策の妥当性評価の フォンブレーク」、原子炉の液位低下を緩和するための一環として、これらの AM 策が既存の安全機能に影響112、しないものであることを以下により評価した。 (1) 基準・指針類への適合性評価 (2) 既存の安全設備に対する影響評価 (3) 安全評価に対する影響確認 また、設計段階の安全性向上策については、対策策定 後にナトリウム漏えい対策工事等の改造工事を行って いるため、次の(4)も評価の観点として追加した。 (4) 設計段階の安全性向上策に対する改造工事の影響確認 3.1 基準・指針類への適合性評価Table 1 に示したもんじゅの AM策のうち、設備の改 造を伴うものは、いずれも「AM 整備前における設計 段階の安全性向上策」に分類される以下の3項目のみ である。 ・原子炉保護系回路の改良 ・中央制御室での補助冷却設備自然循環移行操作 ・中央制御室でのメンテナンス冷却系緊急起動操作 上記以外の AM 策は、設備改造を伴わず、既存の設 備を用いて実施するものであることから、基準・指針 類への適合性に関しては、設置許可申請や設工認申請 により確認済みであるため、ここでは、設備改造を伴 う上記の3つの AM策について、関連する安全設計指 針を摘出し、指針への適合性が設備改造によって損な われないものであることを確認した。 3.2 既存の安全設備に対する影響評価 * AM 策による既存の安全設備に対する影響評価とし て、以下の確認を行った。 ・安全設備の多重性、独立性を阻害しないこと ・原子炉冷却材バウンダリの隔離機能を阻害しない こと ・格納容器の隔離機能を阻害しないこと ・既存設備の安全機能を阻害しないこと 設備改造を伴わない AM策と設備改造を伴う AM策 では、上記の影響評価の観点は異なったものとなる。 すなわち、前者については、AM 策は運転・操作によ るものであるため、運転時に誤って AM策を行った場 合の既存の安全機能への影響評価となるのに対し、後 者の場合は、これに加え、設備改造による既存の安全 機能への影響評価を行う必要がある。3.1 で挙げた設備改造を伴う AM策については、設備 改造によって上記の安全機能を阻害することはなく、 また、他の AM 策を含め、誤操作によって、運転時に * AM 策を適用した場合にも、上記の安全機能に悪影響を及ぼすことがないことが確認できており、もんじゅ の AM 策は、既存の安全設備の機能を損なう恐れのな いものであると評価する。 3.3 安全評価に対する影響確認 - もんじゅの AM 策は、設計段階の安全性向上策、整 備した AM策ともに、設計基準を超える状態において 実施するものであるため、設計基準事象について評価 した既存の安全評価の条件及び結果に影響を与えるこ とはない。 3.4 設計段階の安全性向上策に対する改造工事の影響確認 - AM 策のうち、設計段階の安全性向上策は、ナトリ ウム漏えい対策工事等の改造工事以前に立案されたも のであることから、改造工事によって AM 策に影響が 生じないこと、もしくは、影響がある場合には、その 対応が図られている必要がある。全11 項目の設計段階の安全性向上策について、改造 工事の影響について確認した結果、補助冷却設備によ る自然循環除熱流路確保のための現場での弁手動操作 に関し、当該弁の駆動部が保温材で覆われ、手動ハン ドルが取り外されていることについて、運転手順書に 手動ハンドル取付に必要な手順が記載され、対処可能 な状況になっていること、残りの AM 策については、 改造工事後の現状の設備に適用可能なことを確認した。4.結言JNES は、原子力安全・保安院からの指示に基づき、 JAEA の整備した「もんじゅ」の AM の妥当性につい て評価した。評価の観点は、冒頭述べたように、「AM 策の基本要件の確認」、「事象シーケンスの適切性の確 認」、「既存の安全機能への影響評価」及び「AM 策の 有効性評価」の4点であるが、このうち、「既存の安全 機能への影響評価」について、本報告で述べたように、 設計段階の安全性向上策、整備した AM 策のいずれに おいても、技術的には問題のないものであることを確 認した。今後、もんじゅの運転再開後の運用に際しては、AM 策に関連する設備の保全について、保全プログラムに おいて、リスク重要度に応じた適切な対応が図られる 必要があると考える。今後、整備した AM策が適切に運用できるように教 育・訓練計画を具体的に立案し、確実に実施すること が望まれる。113“ “もんじゅのアクシデントマネジメントレビュー“ “井上 正明,Masaaki INOUE,遠藤 寛,Hiroshi ENDO,伊東 智道,Tomomichi ITO