SSA 法による動的機器の診断
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カテゴリ: 第6回
1. はじめに
原子力プラントに特徴的な装置である発電用タービ ンや高圧ポンプについては、その回転に伴う振動を測 定することにより異常の有無を診断する技術が機器故 障の早期発見に大きく貢献している。これらの診断に 置いて測定されるのは横軸を時間とするデータ、いわ ゆる時系列データである。もし、測定された時系列データをもとに、測定され た時刻より少し先の未来の時系列データを予測するこ とができれば、機器故障診断のさらなる発展に貢献す る可能性がある。本研究では、非モデル化予測手法の 1つである Singular Spectral Analysis(SSA 解析) を用い、時系列データの数秒先の未来を予測する手法 の開発するとともに検証を行った。なお今回の研究では、開発した予測システムの検証 に、人間の自由呼吸時における胸部皮膚の動きをレー ザー変位計にて測定した時系列データを用いた。ここ では、その検証結果について紹介する。
2. 計算方法
2.1 SSA 法について * 今回開発するシステムでは、時系列データを解析し 予測データを作成する手法としてSSA (Singular Spectral Analysis2-3)) 法を用いた。 - まず、N 個の時系列データ {x), X2, xx}より、埋 め込み次元 M という任意のパラメータを用いて、(1) 式に示すM行×N-M+1列の埋め込み行列 X を作 成する。IM+1X%3DXN-M+2(L xL x2[XN-M+1])この埋め込み行列 X を用い、(2)式のように自己相関 行列 Y を作成した。ここで行列EはN-M+1行N -M+1列の単位行列であり、Iは N-M+1行1列 の全ての要素が 1 の行列である。- 0-125) 1510-12)YS1. 次に、自己相関行列 Yに対して固有値分解を行い、 M個の固有値 2 (i = 1~M及びそれに対応する固有 ベクトル V』を求めた。そのうち、固有値の大きい方 からr個の V: を用いて、式(3)に示す行列Vasyを作 成した。v -lv v ... vl Vaar =[Y, Y, ... v] (3)さらにここで、時間遅れベクトルXN+1XNA +1 =XN-M+3 (XN-M+2)121を定義する。 Knuは既知の時系列データの最後尾の値であり、Ann はその次のステップで測定される未来の時系列データである。ANAがVMar で張られ る面との距離が最小になるための条件式(5)を解く ことで未知の値Awを求めることができる。(Avan - Yawn. Vary T. Away → min (5) ことで未知の値 ANI を求めることができる。(Awa-Vmway. VW T. Awar → min (5)ここでANAをAnn = xL+Q03の様に既知のデータ部分Q と、未知のデータ部分 Xvi.Lに分けると、(5)式を満たすぶ~」 はの観 てそ 図1_L' VMsVMaT.Q | - 1-LT-VMarVT.Lのように求められる。(1)~(7)式の計算を繰り返すことにより、測定され た{x), x2, .,xx}より先の未来の時系列データ {XN+), XN+ 2, XN43, ... }の予測データを算出した。2.2 リアルタイム変位測定&予測システムの開発 ・ レーザー変位計による変位測定システムと組み 合わせることで、SSA 法に基づいて開発した時系列 データ予測システムを検証した。なお今回の研究で は、人間の自由呼吸時における胸部皮膚の動きをレ ーザー変位計にて測定した時系列データを用いた検 証を行った。 その手順は以下の通りである。キーエンス社のレーザーLK-G30(検出範囲 30 ±5mm 時間精度 50kHz 距離精度±0.05)を用い て呼吸時の体表面位置を補足し、同社の多機能 コントローラ LK-G 3000V 及び PC 収集レコ ーダ NR-500 を介してUSB アウトプットし、PCに取り込む。 取り込んだデータは同社のプログラム WAVELOGGER によって処理し、2秒に一回ず つ位置データを.xdt ファイルとして出力、MATLAB に読み込む。 3 N=180~600、M=N/6~N/3、 r を絞り込む固有値の閾値=5%以上、予想する時間幅=3sec、パラ ・メータの更新間隔=5sec と設定し、MATLABにて呼吸時における体表面の位置を予測する。 描画間隔=1sec、データ描画幅=-3~3mm とし、 測定データと予測データを GUI にて可視化す3.開発したシステムの検証結果・ レーザー変位計を用いて得られた、呼吸時体表面 の観測データ、予測データ、誤差の各データについ」 てそれぞれ青、赤、緑の実線でプロットしたものを 図1~3 に示す。図1はデータ数 N = 231、埋め込み次元 M = 58、 使用する固有値ベクトルの個数 r = 2 の時の、SSA 解 析によって算出した予測データ、さらに双方のデー タ間にある誤差を算出したデータをそれぞれ青、赤、 緑の実線でプロットしたものである。横軸は時間 (秒)、縦軸は値(mm)である。体表面位置データは 246.4 秒間分計測し、それを SSA 解析して 250.4 秒 分の予測データが算出された。測定値と予測値との 誤差の時間平均の最小値は 0.111582 であった。図2は、図1の測定データのうち、比較的ノイズ の少ない時間 t = 85~110sec の部分を対象にSSA法 による予測解析を行った結果である。予測データの周 期や凹凸が実際のデータにほぼ一致し、誤差が平均 1mm 以下の小さな値となるものの、振幅に誤差が残 るため、今後は振幅補正など改良の余地がある。また図3は、図1の測定データのうち、比較的ノ イズの少ない時間 t = 150~175sec の部分を対象にS SA法による予測解析を行った結果である。この図の ようにノイズを多く含むデータに対しては予測デー タの誤差も増大してしまうことから、測定された時 系列データから如何にノイズを除去するかも、必要 な課題であることが分かる。122観測したデータ及び予測データ元データ 予測データLALA250.78472222222222275175225250(ww)DAV女 32101233210123。(uu)無碼1001 125 :150時間(s) 誤差一誤差WITHIN,175200 31 225-25025 \ 50 8757 1002125 -150時間(s)図1 時系列データの測定値(青)と SSA 解析による予測値(赤)、および両者の誤差(緑)観測したデータ及び予測データ元データ 予測データ体表面位置(mm)Louno-3269095100105時間(6) ※誤差-------誤差...-----(ww州熱| 3210129095100105110時間(s)時系列データのうちノイズの少ない部分(t = 85 ~ 110sec)の測定値(青)、予測値(赤)、誤差(緑)観測したデータ及び予測データ元データ 予測データ体表面位置(mm) NO-NW1551601651701175時間(s) 誤差誤差(ww州熱 3210121155160165170175時間(s)時系列データのうちノイズの多い部分(t = 150 ~ 175sec)の測定値(青)、予測値(赤)、誤差(緑)図2(緑)123 4.結論と今後の課題1. 本研究では、動的機器の振動測定など、観測された 時系列データをもとに、その観測時刻より少し先の未 来の時系列データを予測することも目標として、非モ デル化予測手法の1つである Singular Spectral Analysis(SSA 解析)による未来予測手法の開発と検証 を行った。検証用データとしては、人間の自由呼吸時 における胸部皮膚の動きをレーザー変位計にて測定し た時系列データを用いた。 * 検証の結果、実際の体表面位置と誤差が 1mm 以 下の極めて正確な予測システムを開発することに成 来の時系列データを予測することも目標として デル化予測手法の1つである Singular Sp Analysis(SSA 解析)による未来予測手法の開発 を行った。検証用データとしては、人間の自由 における胸部皮膚の動きをレーザー変位計にて た時系列データを用いた。 * 検証の結果、実際の体表面位置と誤差が 11 下の極めて正確な予測システムを開発するこ 功した。4. 今後の課題今後はデータの補正、ノ 今後はデータの補正、ノイズの除去といった予測 システムの改善や、実際の動的機器への適用のため の予測システムの検証などが課題として挙げられる。 参考文献 [1] Shir Shirato, H., Takamura, A., Tomita, M., Suzuki, K., Nishioka, T., Isu, T., Kato, T., Sawamura, Y., Miyamachi, K., Abe, H., Miyasaka, K.Stereotactic irradiation without whole-brain Radiat. Oncol. Biol. Phys. 37:385-391, 1997.Cacciabue, P.C., 38[1], 91 (1992). Golyandina, N.E., Nekrutkin, V.V., Zhigljavsky, A.A. (2001) “Analysis of TimeSeries Structure. SSA and Related Techniques”, Chapmap &irradiation for single brainmetastasis. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 37:385-391,1997.Cacciabue, P.C., 38[1], 91 (1992). [2] Golyandina, N.E., Nekrutkin, V.V., Zhigljavsky,A.A. (2001) “Analysis of TimeSeries Structure. SSA and Related Techniques”, Chapmap &Hall/CRC. [3] Th.Alexandrov, N.Golyandina, “Automaticextraction and forecast of time series cycliccomponents within the framework of SSA” - 124 -“ “SSA 法による動的機器の診断 “ “出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,水口 明,Akira MIZUGUCHI
原子力プラントに特徴的な装置である発電用タービ ンや高圧ポンプについては、その回転に伴う振動を測 定することにより異常の有無を診断する技術が機器故 障の早期発見に大きく貢献している。これらの診断に 置いて測定されるのは横軸を時間とするデータ、いわ ゆる時系列データである。もし、測定された時系列データをもとに、測定され た時刻より少し先の未来の時系列データを予測するこ とができれば、機器故障診断のさらなる発展に貢献す る可能性がある。本研究では、非モデル化予測手法の 1つである Singular Spectral Analysis(SSA 解析) を用い、時系列データの数秒先の未来を予測する手法 の開発するとともに検証を行った。なお今回の研究では、開発した予測システムの検証 に、人間の自由呼吸時における胸部皮膚の動きをレー ザー変位計にて測定した時系列データを用いた。ここ では、その検証結果について紹介する。
2. 計算方法
2.1 SSA 法について * 今回開発するシステムでは、時系列データを解析し 予測データを作成する手法としてSSA (Singular Spectral Analysis2-3)) 法を用いた。 - まず、N 個の時系列データ {x), X2, xx}より、埋 め込み次元 M という任意のパラメータを用いて、(1) 式に示すM行×N-M+1列の埋め込み行列 X を作 成する。IM+1X%3DXN-M+2(L xL x2[XN-M+1])この埋め込み行列 X を用い、(2)式のように自己相関 行列 Y を作成した。ここで行列EはN-M+1行N -M+1列の単位行列であり、Iは N-M+1行1列 の全ての要素が 1 の行列である。- 0-125) 1510-12)YS1. 次に、自己相関行列 Yに対して固有値分解を行い、 M個の固有値 2 (i = 1~M及びそれに対応する固有 ベクトル V』を求めた。そのうち、固有値の大きい方 からr個の V: を用いて、式(3)に示す行列Vasyを作 成した。v -lv v ... vl Vaar =[Y, Y, ... v] (3)さらにここで、時間遅れベクトルXN+1XNA +1 =XN-M+3 (XN-M+2)121を定義する。 Knuは既知の時系列データの最後尾の値であり、Ann はその次のステップで測定される未来の時系列データである。ANAがVMar で張られ る面との距離が最小になるための条件式(5)を解く ことで未知の値Awを求めることができる。(Avan - Yawn. Vary T. Away → min (5) ことで未知の値 ANI を求めることができる。(Awa-Vmway. VW T. Awar → min (5)ここでANAをAnn = xL+Q03の様に既知のデータ部分Q と、未知のデータ部分 Xvi.Lに分けると、(5)式を満たすぶ~」 はの観 てそ 図1_L' VMsVMaT.Q | - 1-LT-VMarVT.Lのように求められる。(1)~(7)式の計算を繰り返すことにより、測定され た{x), x2, .,xx}より先の未来の時系列データ {XN+), XN+ 2, XN43, ... }の予測データを算出した。2.2 リアルタイム変位測定&予測システムの開発 ・ レーザー変位計による変位測定システムと組み 合わせることで、SSA 法に基づいて開発した時系列 データ予測システムを検証した。なお今回の研究で は、人間の自由呼吸時における胸部皮膚の動きをレ ーザー変位計にて測定した時系列データを用いた検 証を行った。 その手順は以下の通りである。キーエンス社のレーザーLK-G30(検出範囲 30 ±5mm 時間精度 50kHz 距離精度±0.05)を用い て呼吸時の体表面位置を補足し、同社の多機能 コントローラ LK-G 3000V 及び PC 収集レコ ーダ NR-500 を介してUSB アウトプットし、PCに取り込む。 取り込んだデータは同社のプログラム WAVELOGGER によって処理し、2秒に一回ず つ位置データを.xdt ファイルとして出力、MATLAB に読み込む。 3 N=180~600、M=N/6~N/3、 r を絞り込む固有値の閾値=5%以上、予想する時間幅=3sec、パラ ・メータの更新間隔=5sec と設定し、MATLABにて呼吸時における体表面の位置を予測する。 描画間隔=1sec、データ描画幅=-3~3mm とし、 測定データと予測データを GUI にて可視化す3.開発したシステムの検証結果・ レーザー変位計を用いて得られた、呼吸時体表面 の観測データ、予測データ、誤差の各データについ」 てそれぞれ青、赤、緑の実線でプロットしたものを 図1~3 に示す。図1はデータ数 N = 231、埋め込み次元 M = 58、 使用する固有値ベクトルの個数 r = 2 の時の、SSA 解 析によって算出した予測データ、さらに双方のデー タ間にある誤差を算出したデータをそれぞれ青、赤、 緑の実線でプロットしたものである。横軸は時間 (秒)、縦軸は値(mm)である。体表面位置データは 246.4 秒間分計測し、それを SSA 解析して 250.4 秒 分の予測データが算出された。測定値と予測値との 誤差の時間平均の最小値は 0.111582 であった。図2は、図1の測定データのうち、比較的ノイズ の少ない時間 t = 85~110sec の部分を対象にSSA法 による予測解析を行った結果である。予測データの周 期や凹凸が実際のデータにほぼ一致し、誤差が平均 1mm 以下の小さな値となるものの、振幅に誤差が残 るため、今後は振幅補正など改良の余地がある。また図3は、図1の測定データのうち、比較的ノ イズの少ない時間 t = 150~175sec の部分を対象にS SA法による予測解析を行った結果である。この図の ようにノイズを多く含むデータに対しては予測デー タの誤差も増大してしまうことから、測定された時 系列データから如何にノイズを除去するかも、必要 な課題であることが分かる。122観測したデータ及び予測データ元データ 予測データLALA250.78472222222222275175225250(ww)DAV女 32101233210123。(uu)無碼1001 125 :150時間(s) 誤差一誤差WITHIN,175200 31 225-25025 \ 50 8757 1002125 -150時間(s)図1 時系列データの測定値(青)と SSA 解析による予測値(赤)、および両者の誤差(緑)観測したデータ及び予測データ元データ 予測データ体表面位置(mm)Louno-3269095100105時間(6) ※誤差-------誤差...-----(ww州熱| 3210129095100105110時間(s)時系列データのうちノイズの少ない部分(t = 85 ~ 110sec)の測定値(青)、予測値(赤)、誤差(緑)観測したデータ及び予測データ元データ 予測データ体表面位置(mm) NO-NW1551601651701175時間(s) 誤差誤差(ww州熱 3210121155160165170175時間(s)時系列データのうちノイズの多い部分(t = 150 ~ 175sec)の測定値(青)、予測値(赤)、誤差(緑)図2(緑)123 4.結論と今後の課題1. 本研究では、動的機器の振動測定など、観測された 時系列データをもとに、その観測時刻より少し先の未 来の時系列データを予測することも目標として、非モ デル化予測手法の1つである Singular Spectral Analysis(SSA 解析)による未来予測手法の開発と検証 を行った。検証用データとしては、人間の自由呼吸時 における胸部皮膚の動きをレーザー変位計にて測定し た時系列データを用いた。 * 検証の結果、実際の体表面位置と誤差が 1mm 以 下の極めて正確な予測システムを開発することに成 来の時系列データを予測することも目標として デル化予測手法の1つである Singular Sp Analysis(SSA 解析)による未来予測手法の開発 を行った。検証用データとしては、人間の自由 における胸部皮膚の動きをレーザー変位計にて た時系列データを用いた。 * 検証の結果、実際の体表面位置と誤差が 11 下の極めて正確な予測システムを開発するこ 功した。4. 今後の課題今後はデータの補正、ノ 今後はデータの補正、ノイズの除去といった予測 システムの改善や、実際の動的機器への適用のため の予測システムの検証などが課題として挙げられる。 参考文献 [1] Shir Shirato, H., Takamura, A., Tomita, M., Suzuki, K., Nishioka, T., Isu, T., Kato, T., Sawamura, Y., Miyamachi, K., Abe, H., Miyasaka, K.Stereotactic irradiation without whole-brain Radiat. Oncol. Biol. Phys. 37:385-391, 1997.Cacciabue, P.C., 38[1], 91 (1992). Golyandina, N.E., Nekrutkin, V.V., Zhigljavsky, A.A. (2001) “Analysis of TimeSeries Structure. SSA and Related Techniques”, Chapmap &irradiation for single brainmetastasis. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 37:385-391,1997.Cacciabue, P.C., 38[1], 91 (1992). [2] Golyandina, N.E., Nekrutkin, V.V., Zhigljavsky,A.A. (2001) “Analysis of TimeSeries Structure. SSA and Related Techniques”, Chapmap &Hall/CRC. [3] Th.Alexandrov, N.Golyandina, “Automaticextraction and forecast of time series cycliccomponents within the framework of SSA” - 124 -“ “SSA 法による動的機器の診断 “ “出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,水口 明,Akira MIZUGUCHI