照射による材料劣化現象のマルチスケール的なものの見方と原子炉の保全

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カテゴリ: 第6回
1. はじめに
原子力発電設備の健全性は,原子力の『安全論理』 と『保全論理』の2つにより確保される [1]. 前者が, 深層防護や多重構造の考えを原則として,様々な事故 を想定しながら,安全な原子炉を設計・建設するため のものであるのに対し,後者は,運転開始後の機器・ 系統の機能維持など,原子炉の保全にかかわるもので ある.機器・系統の機能維持の基本は,それを構成す る材料健全性の確保にほかならない. - 原子炉で使われる材料が,他の工業材料と比べて大 きく異なるのは,放射線照射という特殊な環境で使用 される点である.照射を受けた材料中では,原子サイ ズの非平衡な格子欠陥が局所的に高密度に形成し,そ れらが及ぼす効果によって,材料機能が喪失し,特性 が劣化する. このような特殊な環境で使われる材料の 健全性を確保するには,材料が本来もっている構造階 層性と,その中で起こる材料照射損傷プロセスのマル チスケール性(時間的・空間的尺度の階層性)を考慮 しなければならない.本稿は,材料照射損傷プロセスの時間的および空間 的構造に関する以下の種々の関係性について,まず明 らかにする.そのうえでマルチスケール性の観点に立脚した原子炉保全を検討する.材料の空間的階層性,多要素性 照射プロセスの時間・空間的マルチスケール性 照射劣化と照射場の因果性(照射相関) ミクローマクロの関連性をつなぐ微視化と粗視化 自然環境中の物質循環現象との類似性
2.照射プロセスのマルチスケール性
放射線照射によって材料中には,多量のはじき出し 欠陥(原子空孔と格子間原子)や不純物(H, He,核変 換生成物) が生成する. このうち, はじき出し欠陥は, 外部からの高エネルギー粒子が引き起こす標的原子ど うしの衝突連鎖反応(原子球を使ったビリヤード)に よって形成される. これを模式的に図1に示す. 原子 のはじき出し現象そのものは、極めて短時間かつ局所
166的な (10 ピコ秒, ナノメートルオーダー) 現象である. こうした特徴や入射粒子フラックス(たとえば 10-0 n/m/s 程度)を考えると,異なる入射粒子によって引 き起こされる2 つの原子衝突連鎖反応が,この短時間 のうちに相互作用することはない.しかし,こうして 生成したはじき出し欠陥は,通常の使用温度域でじっ としていることはなく,熱活性化過程で材料内部を移 動(拡散)する.そのため,ナノメートル程度の空間 領域に限定されていた照射(原子はじき出し)の影響 は,時間とともに徐々に材料全体に拡がっていく.そ の結果,多くの欠陥どうしが交わって相互作用し,材 料内部に照射欠陥集合体が形成する.そしてミクロ組 織が変化する. このような照射損傷プロセスは,時間 的尺度にせよ,空間的尺度にせよ,多岐のスケールに わたる現象である. これを一般にマルチスケールな現 象とよぶ図2は,時間・空間スケールのそれぞれで どのような現象が起こるかを示している.現象が図の 左下から右上へと流れているのは,欠陥の拡散によっ時間的なスケールふつうの カメラ実験手法 電子たROZMPASIIIE.03オリックowine材料特せてビデオRT・材料高達魔 カメラマイクロ秒ミリ?構造変化計算機シミュレーション | 欠陥集合は ナノ十人形成/“小さな空間スケール,短い時間スケールの解析は,計算機シ はじき出し- KMCS ミュレーションが得意」空間的な大きさのスケール ナノメートルマイクロメートルミリメートル」MD1秒間に 5000コマピコーメートル海?子接図2 マルチスケールな現象である材料照射損傷プロセスて,照射の影響が時間とともに徐々に広がる、 応する. はじき出し欠陥濃度 Cの時間変化は,通常,の影響が時間とともに徐々に広がることに対出し欠陥濃度 Cの時間変化は,通常,dC/dt = P + Dla-c/au)2 K, C-1のように書くただし,ここでは,この方程式を象徴 的に示したに過ぎない、右辺の第1項 Pは照射による 欠陥の「生成」項(dpa/s) であり,第2項は欠陥の「拡 散」項,第3項は「反応」項である.特に第1項は, 極めて短時間かつ微小領域の原子衝突連鎖反応によっ て決まる.また,照射場の状態(入射粒子の種類,エ ネルギー, フラックス)に強く依存する.そのため, たとえば,「まだ存在しない核融合炉の照射下材料挙動 を,既存の核分裂炉照射によって予測する」のに必要 な照射相関の問題に重要である.167第3項の と は, さまざまな欠陥反応が存在すること を意味する.そこでは,比較的短時間で活性化する単 純な欠陥集合体形成の反応から,長い時間かかって初 めて活性化する材料表面形状変化(核融合炉ダイバー タ材料表面で見られる膨れ現象=ブリスタ)などが含 まれる. 核融合炉の場合, こうしたブリスタが剥離し, それがプラズマ領域に侵入することによりプラズマの 状態に影響を与える.それはすなわち、第1項 P(短 時間スケールで支配的であった項)に影響を及ぼすこ とを意味する.こうして短時間スケールの現象の積み 重ねが長時間スケールの現象を誘発し,長時間スケー ルの現象の発生が今度は逆に短時間スケールの現象に 影響を及ぼすことになる.時間的にマルチスケールな現象とは,式(1)の時間ス ケール(dt)の大きさ次第で,右辺の支配的な項が変 化することである.たとえば, dt が 10 ピコ秒なら, 右辺の支配的な項は,原子はじき出し(第1項) で ある.このとき,系の大きさdxはナノメートルオーダ ーになる. このような短い時間スケールにおいては, 欠陥の拡散や反応は起こり得ないので,第 2,3項は無 視してもよいことになる.次に,時間スケール dt がマイクロ秒程度を考える. 系の大きさ dxはマイクロメートル程度になる. さきほ ど支配的とされた第1項(生成項)は,この時間スケ ールでは、“一瞬の出来事” として , デルタ関数で 表現される.このとき,「10 ピコ秒かつナノメートル スケールで起こった多くの原子間衝突連鎖」という事 実は,このデルタ関数の中に押し込められる.そして それは、たったひとつのスカラー量 P(dpa/s)に繰りこ まれる.このとき,ナノメートルの情報は、マイクロ メートル程度の新たな dx の中に平均化・平坦化され, 埋没する. 10 ピコ秒という情報も,新たなマイクロ秒 という時間ステップ dtの中に平均化され、押し込まれる。- このように注目する時間スケールによって,照射損 傷プロセスは多様な姿を見せる.そのため単一の方法 だけでは評価できず,後述のように,複数の手法を活 用する必要が生じてくる.また,小さなスケールから 大きなスケールに情報が橋渡しされる際,上述のよう な平均化(=繰りこみ・押し込み・平坦化・粗視化) の作業が必要とされ,そのとき,曖昧さが発生する. こうして,どのスケールをどのような方法で評価するか,また,異なるスケールどうしを接続するにはどう したらよいのかという問題が生じる.こうした問題を 克服することがマルチスケールモデリングである.3.材料の構造階層性と多要素性照射損傷プロセスは、短時間に生成したはじき出し 欠陥が,拡散によって,時間の増大とともに徐々に材 料全体にひろがっていく現象である.時間的・空間的 マルチスケール性という意味においては,たとえば自 然環境中の物質移行現象にもその類似性がある.いず れの場合も,時間とともに空間スケールはひろがって いき,その結果,空間の不均一性が顕在化する. もし くは、より顕著になる.不均一性の要因は,材料の構 造階層性と多要素性である。前者は,注目の空間スケ ールに応じて,電子・原子,原子集団,連続体などと して表現されるものである.後者は,材料を構成する 最小単位を原子にすると,その空間配列の多様性によ って,結晶粒とか,粒界とか,転位とか,析出物とか, 表面など、多様な材料要素が構成されることを示す.欠陥反応は,一般に材料要素ごとに違ったふるまい をする.そのため,こうした材料の不均一性は、照射 損傷のモデル化を困難にしている.欠陥の「生成」「拡散」「反応(集合化・解離など)」 は,通常, 材料要素ごとに異なる現象である。つまり, それぞれの現象に対して材料要素数分のモデルが必要 になる.しかしながら,材料の不均一性に伴うモデル 化の困難さはそれだけに留まらない.特に, 欠陥の「拡 散」は、時間とともに空間的にひろがる現象であり, それゆえ, 時間の増大とともに,たとえ同じ欠陥でも, いくつもの材料要素間を渡り歩くことになる.そうな ると,たとえばある結晶粒内に生成した欠陥が,隣接 する粒界へと拡散するのか,表面へと拡散するのか, そもそもその結晶粒の隣に表面はあるのか,などが問 題になる.すなわち,隣接する材料要素どうしは,欠 陥の拡散を介して相互作用することになる.要するに, 欠陥の拡散により, 要素分割・還元論が適用できなく なっている. - こうした材料の不均一性は、原理的に,予測を不可 能にする.すなわち,たとえ材料内の欠陥挙動の物理 のすべてが明らかになったとしても,そしてまた,そ168れらを十分な精度で解くことができたとしても,材料 要素(結晶粒,粒界,転位など,原子の配列によって 定義される媒質)が実際にどうなっているのかは一般 には明らかでない,そのような不明瞭な媒質の中で動 く欠陥の挙動をいかに予測すればよいのか?実は同様 の問題は、自然環境中の物質移行現象(原子力施設付 近の放射性同位元素(トリチウムなど)の移行現象と か,自然環境中の CO2 の循環など)のモデル化にも存 在する.4. マルチスケールモデリングさて,こうした時間的・空間的なマルチスケール性 を含む照射損傷プロセスをどのようにモデル化する か?上述のように,時間スケールに応じて注目すべき 空間スケールはほぼ決まる. 欠陥生成なら 10 ピコ秒か つナノメートルスケールである.欠陥の拡散なら Dat/ (dr) ~1程度になる. そのような組(dt, dx) のそHe-bubble migration & microstructural evolution MD + KMC + Rate Equation = AFM + TEM?KMC + Rate equat. by Takahashi, Sharafat et al. (1) Volume diffusion mechanismEnergetics(UCLA), 2006 Absorption & emission4. Evolution or He Bubbles and Pores (MD)To: He bubble ?: Pore ) of vacancy and SIASMigration and He-bubblecoalescence (2) Surface diffusion mechanism(Rate equation Metal atom diffusion on bubble-matrix interface+ KMC)0.53 eV Adatom en (118) wao n direction Hev=1.9.282002Hey%3D00 (vacuum)R 0.420VHe-bubblePosition (angstrom) X-Y projection of trajectories of He-bubble (He/V=1) migration at 1000 K10001 | 1000K Crea 1000K大きいランY (nm)HegoV30160810SEHorg/752514.1.10““He/V=1 T=1000KInternal structure observed by TEMDiffusion coefficient, Doubble (nm2/s)X (nm)Experiment T=1000K | Migration (KMC)Doc1/d4 (a) MD+KMC by K. Morishita, R. Sugano (2006)AFM+TEM by H. Iwakiri, N. Yoshida et al. (Kyushu U.) 図3 種々の計算手法の組み合わせにより再現される表面形状変化TEM500mbubble o 1/040.40.60.817Bubble diameter, d (nm)れぞれに対して,照射材のミクロ組織変化のモデリン グに関して我々は,図2に示す計算機シミュレーショ ンや実験手法の利用を提案している.欠陥生成につい ては分子動力学(MD)法(原子1個1個の挙動を追跡 する方法)を使い、欠陥の拡散や集合体形成について は、キネティックモンテカルロ(KMC)法(欠陥1個1 個を追跡する方法)や,反応速度論解析(RT) (欠陥濃 度の時間変化を追跡する方法)を使う. MD 法の実行に 必要な原子間ポテンシャルの導出には,第一原理 (FP) 計算 (電子・イオンの挙動を解析する方法) を用いる.こうして, FP→MD→KMC→RT という複数のシミュレ ーション手法が必要になる [2-43. ただし,ここで注目 すべきは、FP から順に右に行くにしたがい解析対象 となる系の自由度が小さくなっていることである. 系 の自由度を下げることは,表現の精確さを犠牲にする ことである.しかしながら一方で,取扱い可能な系の169大きさを大きくとれるとか,追跡可能な時間スケール を長く取れるなどの利点が発生する. マルチスケール モデリングは,このようなトレードオフの関係をうま く利用する解析法である.次は,これらの手法によって得られる結果をいかに 接続するかの問題である.時間的な意味でも空間的な 意味でも,多自由度のミクロと少数自由度のマクロの 関連性が問題になる. ミクロの世界は自由度が高く, 多くの情報にあふれている.そこで,一般に,現象の ・メカニズム究明には,ミクロの世界を覗く行為(微視化)が行われる.これは,たとえば照射材料の内部を 電子顕微鏡で観察し,照射による硬化要因を欠陥集合 体の形成にあるとする作業である。あるいはまた,従 来,透過型電子顕微鏡観察実験や反応速度論解析によ ってモデル化されてきた欠陥集合体の形成プロセスを、 原子レベルの MD 法で調べることにより,従来では得ら れなかった知見を取得することである. このアプロー チにより,我々は,(1) ヘリウムキャビティ(ヘリウ ムと原子空孔の欠陥集合体;ヘリウムバブル)等の欠 陥集合体の熱的安定性の詳細を調べ, (2)その集合体の 核生成・成長のモデル化に成功した.また,(3) 欠陥集 合体の熱的安定性は,そのサイズと内部の欠陥組成に より決まることを示した.さらには, (4) バブルの熱 的安定性をヘリウムが異常に大きく引き上げる結果, 他の欠陥集合体の場合には見られなかった核生成メカ ニズムが働くことを示した.そして,(5)従来,ヘリウ ム濃度の大小によって別々に扱われてきたヘリウムバ ブルの成長理論(核融合ダイバータ材料のモデル化に は Wolfer の理論,核融合第一壁材料のモデル化には Mansur 理論)を統合することに成功した.こうしたミクロを覗く(時間スケール dt や空間スケ ール dx を小さくする)行為,すなわち微視化に対し, その逆が粗視化である. 未来予測はdtを大きくする行 為にほかならないから,したがって,材料の未来を予 測するには、粗視化の作業が必要になる(図2にある ように,微視化と粗視化の方向は逆である.ゆえに, メカニズム究明のための微視化の作業が,即,未来予 測につながるわけではないことになる).上記で,ヘリウムバブルの核生成・成長モデルにつ いて述べたが,このとき, バブルの「集合体としての 拡散係数」も求めたところ, バブル径の4乗に反比例することがわかった. バブルの拡散係数とは、バブル 近傍に存在するすべての点欠陥の挙動を粗視化し,そ れらをたったひとつのパラメータの中に押し込んだ (繰りこんだ)ものである.こうしてバブルの拡散係 数がわかると,今度は,先の無数の点欠陥挙動につい ては忘れることにして,拡散係数のみを使った KMC 解 析を行う。すると,より長時間のバブル挙動が明らか になる.その結果,図3にあるように,照射表面近傍 にスポンジ構造が出現する.これは,He 照射した材料 を電子顕微鏡観察することにより (SPM, TEM)得られ る構造によく似ていることが分かる.こうして短時 間・小空間スケールの挙動の粗視化により,時間・空 間スケールを伸ばすことが可能になる.こうして実験 事実を再現することができるようになる.ただしこうした粗視化は,自由度を下げる行為であ る.そのため,粗視化の際に様々な曖昧さ(系の記述 のイイカゲンさ)が入ることに注意すべきである.た とえば,照射量の単位である dpa は、照射場の状態 (入 射粒子の種類,エネルギー, フラックス)や欠陥生成 に関与する多くの原子の情報を,たったひとつのパラ メータに押し込んだ(粗視化)ものである. できれば こうしたパラメータを使って未来を予測したいのだが, 果たして、照射場の状態が大きく異なる場合(たとえ ば、核分裂炉照射 100dpa のデータを使って,核融合炉 照射 100dpa における材料挙動を予測する)でも予測可 能であろうか?粗視化に伴って発生した曖昧さが,未 来予測を不可能にしてないか?あるいはまた,そのような曖昧さを避けるために, 粗視化せずに未来予測をすることを考える.たとえば 系を電子・原子の集合体として扱ったまま,30 年間照 射した材料の挙動を調査する.図2からもわかるよう に,系を電子・原子の集まりとして表現することは, 少なくともフェムト秒の時間刻みを考えることである. したがって,30 年は無限大の時間ステップ数を意味す る.当然,30 年に対応する空間の広がりも,電子・原 子が占有する空間スケールからすれば無限大である. こうして時間的にも空間的にも無限を対象にすること になる.こうした問題を解くことは現実的でない.や はり,注目する時間・空間スケールごとに適切な系の 取り方(自由度の数)というものがあるのだ.170をとク5. 原子炉保全に関わるマルチスケール性話しを保全に戻す.材料学の観点からの原子炉保全 を「照射を受けている材料がいつ壊れるかを予測し, 事前に. 合理的な措置を講じること」であるとすれば, まず,材料の照射損傷をいかに予測するかが問題にな る。そこで,損傷予測の第一歩として,材料中で起こっ ている劣化現象のメカニズムを知る必要が出てくる. これは,図2 で見たように,微視化によって系の自由 度を増やす行為, ミクロの世界を覗くこと,すなわち, 図2の左下の方の情報を取得する行為である.具体的 には,電子顕微鏡などで、材料の微細構造を観察し, 劣化の要因を突き止める行為である.しかしながら一 方で,そのような行為は,より小さな空間スケールを 対象にする行為であるから,自らの視野を狭めること になる.はたして電子顕微鏡によって観察されたミク ロ組織変化が本当に照射脆化の要因なのか?顕微鏡で 観察していない部位とか,観察できないくらい小さな 組織変化が要因になっているということはないのか? たまたま見えたものだけで話しを進めてもよいのか? などの疑問はいつまでも残る.それでも因果関係をな んとか明らかにできたとしても,今度は、なぜ(why) そのようなミクロ組織変化が生じたのか?という疑問 が発生する. こうして、ついには、プラント内の 1082 個以上の原子・電子の状態を知りたくなる.原子・電 子を扱うことはより正確な情報を得ることではあるが, 上述のように,空間的にも時間的にも無限大の自由度 を扱うことになる.実際には解けない.そこで,微視化作業をほどほどにして,材料劣化の 未来予測(粗視化)を考える.図2 でも議論したよう に,未来予測は,微視化とは逆の向きであり,そのと き,系の自由度を絞り込む必要が生じる.時間的にも 空間的もマクロなスケールに必要な自由度は少数だか らである.これは,原子・電子の世界の実質無限大の 自由度を, 有限のパラメータに落とし込む作業である. 具体的には、莫大な数の原子の速度分布から温度と呼 ばれるひとつのパラメータを抽出したり, 10 ピコ秒か つナノメートル領域に発生する多くの原子のはじき出 し状態を dpa と呼ばれるひとつのパラメータに表現し たりする行為である.ただし,自由度の減らし方(絞り方)は、目的に応じて幾通りも存在するので,自由 度をいかに(how) 減らすかは難しい問題である(たと えば先の温度というマクロパラメータも,熱平衡とい う状態でないと意味がない).また, それとも関連して, 上述のように,このような粗視化(平均化,平坦化) にあたっては,自由度を減じる際に多くの曖昧さが発 生する.その曖昧さゆえに,いくらでも粗視化を行う わけにはいかなくなる.そこで,たとえば時間を区切 って,その限定された時間の中で予測を行うことにな る.原子炉保全に関わる予測時間の最大値は,こうし て, 定期検査から次の定期検査までということになる. このような意味合いからすると,人間が制御しうる時 間スケールから見て,事実上無限とも思える時間スケ ールを想定しなくてはならない放射性廃棄物の保管・ 制御に関する予測は、ここでの「保全論理」とは別の 論理が必要になる.6.まとめ供用中の原子炉の材料劣化に重要な照射損傷プロセ スに関して,種々の関係性(階層性,多要素性, マル チスケール性,因果性,ミクロ・マクロの関連性をつ なぐ微視化・粗視化,類似性)に留意しながら,その モデル化について検討した.さらに,そこで検討され たマルチスケール的なものの見方に立脚しながら,原 子炉の保全について議論した.参考文献 [1] 保全学会原子力論点評価会議,“原子力発電設備の「新検査制度」に関する論点評価(概要)”,保全学 Vol.7, No.4(2009)pp. 23-26. [2] Shahram Sharafat, 森下和功,“今,核融合炉の壁が熱い! -数値モデリングでチャレンジ 第6回 VI-1. 壁の中は傷まないか”, 日本原子力学会誌 Vol.50, No. 11 (2008) pp. 724-729. 1 [3] 森下和功, Shahram Sharafat, “今,核融合炉の壁が熱い! -数値モデリングでチャレンジ 第7回 VI-2. 壁の中は傷まないか”, 日本原子力学会誌 Vol.50, No. 12 (2008) pp. 803-808. [4] 森下和功,“マルチスケールでのプラズマ・壁相互作用の理解の現状 5-2 核融合材料のマルチス ケールモデリング”, プラズマ・核融合学会誌 Vol. 84, No. 12 (2008) pp. 941-945.171“ “?照射による材料劣化現象のマルチスケール的なものの見方と原子炉の保全“ “森下 和功,Kazunori MORISHITA,吉松 潤一,Jun-ichi YOSHIMATSU,山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,渡辺 淑之,Yoshiyuki WATANABE
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