再処理設備の設計・維持に係る規格化の状況
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カテゴリ: 第6回
1.はじめに
* 日本原燃株が青森県六ヶ所村で試運転中の再処理設 備は、国内初の商業プラントである。再処理設備は、 原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理し、再 び原子燃料として利用できるようにウランとプルトニ ウムを取り出す。このことから、再処理設備は核燃料 サイクルを確立するための要となっている。再処理設備は設計、建設を経て試運転を終えようと しているが、それぞれのフェーズで法律に基づき指定、 認可を受け商業運転に向け着実に進歩を遂げている。 このうち、建設段階における設計及び工事の方法は、 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する 法律(法律第166号)」及び「再処理施設の設計及び 工事の方法の技術基準に関する規則(総理府令第12 号)」に基づき、具体的な認可基準は、「使用済燃料の 再処理の事業に関する規則(総理府令第10)」に記載 され、事業者が申請する設計及び工事の方法の認可申請書(以下「許認可」と称する)の中で審議され、こ れに従い設計が行なわれている(表1参照)。なお、運転段階における故障部位の検査・評価・補 修方法の基準については、法律にはなっていない。一方、発電用原子力設備では建設段階における設計 及び工事の方法は、「電気事業法(法律第170号)」 及び「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省 令(通商産業省令第62号)」に基づき、具体的な認可 基準は、学協会規格である「発電用原子力設備規格(設 計・建設規格、材料規格)*」で定められており、これ に従い設計が行なわれている(表1参照)。また、運転段階における故障部位の検査・評価・補 修方法の基準については、設計段階と同じ体系となっ ており、具体的な基準として学協会規格である「発電 用原子力設備規格 (維持規格) *」が用いられている(表 1参照)。 * 再処理設備の設計及び工事は、ほぼ終了し試運転中 であるが、操業開始後も経年変化等に対応した設備の 取替工事や新増設工事を予定している。このことから、学協会規格として再処理設備の「設 計規格」を整備することにより、規格に従った設計を 行なうことで設計の合理化や効率化が図られ、更に最 新知見の反映による規格の高度化が進められる。
また、将来的には次世代再処理設備の設計・建設に 資することも可能となる。 * 再処理設備は操業を目前として、発電用原子力設備 と同様に安全で安定した運転を維持する必要性がある ことから、「維持規格(検査・評価・補修)」を策定し、 整備することが不可欠である。 *以上のような経緯を踏まえ、再処理設備の「設計規 格」、「維持規格(検査・評価・補修)」の策定は、日本 機械学会の発電用設備規格委員会/原子力専門委員会 の下に設置された再処理設備分科会において、協議及 び審議を進めている。なお、最終的にこれら規格については、発電用原子 力設備と同様に、規制当局の技術評価を受け適用され ることが重要と考えられる。 - *:日本機械学会規格(JSME)表 1 発電用原子力設備と再処理設備の現状比較 区 分 「発電用原子力設備 | 再処理設備 法令、 技術基準技術基準 要求 (省令 62号) | (府令 12号) 建設 設計・建設規格許認可 詳細 材料規格(事業者) (機械学会) 法令 技術基準要求 (省令 62号) 運転維持規格 (機械学会)詳細2. 設計・維持規格 2.1 設計規格「設計規格」は、最新の発電用原子力設備規格(設 計・建設規格、材料規格)と考え方が同等であるこ と、並びに JIS 等の最新版を反映し策定を進めている。具体的には、再処理設備の設計実績を基に、許認 可で示した設計基本方針に、再処理設備の特有事項 としてあげられる耐食設計に係わる考え方を加え策 定を進めている。再処理設備は、放射性物質を取扱うことから、機 器等の閉じ込め機能には高い信頼性が要求されるた め、「設計規格」では放射性物質等を内包する主要な 容器及び管並びにそれらを支持する構造物に使用する材料及び構造を適用範囲としている。なお、再処理設備のポンプや弁は、容易に保守が できる配置設計となっており、JIS 等の一般規格に準 拠して設計が行なわれるため「設計規格」の対象外 としている。2.2 維持規格(検査・評価・補修)「設計規格」は設計条件下で機器の健全性を確保 することに対し、「維持規格」は使用条件下で機器の 健全性を確保することを主眼に策定を進めている。再処理設備の使用環境は、低温・低圧・高腐食環 境であることから、再処理設備の使用条件下で考慮 すべき経年変化事象としては、硝酸等の薬品による 腐食減肉、特に機器の全面または表面の大部分が均 一に腐食する全面腐食減肉がある。そのため、「設計規格」では、腐食を考慮する必要 のある機器については、腐食環境に応じた適切な材 料を選定し、適切な腐食代を設ける等、設計・製作 により耐食性を確保することとしており、全面腐食 減肉の進展により、漏えいに至るおそれは小さいと 考えられる。しかしながら、腐食減肉の進展は使用 条件下の腐食環境に大きく影響されると考えられる ため、腐食環境に応じた適切な維持管理を行うこと が重要である。再処理設備の主要な系統及び機器は、換気設備に より負圧に維持されたセル等に設置されている。万一、一次閉じ込めを担う機器から漏えいが生じ ても、セル等に設置された漏えい液の回収・移送設 備や建屋内を常時負圧に維持する換気設備等の閉じ 込めのための多重の設備により、放射性物質の過度 の放出がないようにしている。したがって、使用条件下における再処理設備の維 持管理では、万一、一次閉じ込めを担う機器から漏 えいが生じても、著しい漏えいに至らなければ、再 処理設備の健全性は維持できることを考慮し、万一 の漏えいを早期に検出するための検査と、全面腐食 減肉の進展が速い一部の機器に対するその進展度合 を確認するための検査を実施することを基本として いる。それらの検査結果を評価し、運転継続または 補修・取替により適切な維持管理を行うことを基本 としている。195「設計規格」では、再処理設備が放射性物質を取 扱うことから、機器等の閉じ込め機能には高い信 頼性が要求されるため、放射性物質等を内包する 主要な容器及び管並びにそれらを支持する構造物 に使用する材料及び構造を適用範囲とし、最新の 発電用原子力設備規格(設計・建設規格、材料規」 格)と考え方が同等であること、並びに JIS 等の 最新版を反映し策定を進めている。 「維持規格」では、万一の漏えいを早期に検出す るための検査と、全面腐食減肉の進展が速い一部 の機器に対するその進展度合を確認するための検 査を実施・評価し、運転継続または補修・取替に 3.まとめ「設計規格」では、再処理設備が放射性物質を取 扱うことから、機器等の閉じ込め機能には高い信 頼性が要求されるため、放射性物質等を内包する 主要な容器及び管並びにそれらを支持する構造物 に使用する材料及び構造を適用範囲とし、最新の 発電用原子力設備規格(設計・建設規格、材料規 格)と考え方が同等であること、並びに JIS 等の 最新版を反映し策定を進めている。 2) 「維持規格」では、万一の漏えいを早期に検出するための検査と、全面腐食減肉の進展が速い一部 の機器に対するその進展度合を確認するための検 査を実施・評価し、運転継続または補修・取替に より適切な維持管理を行うことを基本とし、策定を進めている。 3) 再処理設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」の他に、今後、再処理設備として規格 のニーズがあるものについても(例:耐震設計な ど)積極的に規格の整備を推進していく。謝辞本内容は、日本機械学会で策定を進めている再処理 設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」 の内容を紹介したものである。本策定に対して、日本機械学会及び策定に携わる関 係者の方々に深く感謝の意を表します。本内容は、日本機械学会で策定を進めている再処理 設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」 の内容を紹介したものである。本策定に対して、日本機械学会及び策定に携わる関 係者の方々に深く感謝の意を表します。- 196 -“ “再処理設備の設計・維持に係わる規格化の状況“ “大枝 郁,Kaoru OEDA,加納 洋一,Youichi KANO,浜田 泰充,Yasumitsu HAMADA,高坂 充,Makoto KOUSAKA
* 日本原燃株が青森県六ヶ所村で試運転中の再処理設 備は、国内初の商業プラントである。再処理設備は、 原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理し、再 び原子燃料として利用できるようにウランとプルトニ ウムを取り出す。このことから、再処理設備は核燃料 サイクルを確立するための要となっている。再処理設備は設計、建設を経て試運転を終えようと しているが、それぞれのフェーズで法律に基づき指定、 認可を受け商業運転に向け着実に進歩を遂げている。 このうち、建設段階における設計及び工事の方法は、 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する 法律(法律第166号)」及び「再処理施設の設計及び 工事の方法の技術基準に関する規則(総理府令第12 号)」に基づき、具体的な認可基準は、「使用済燃料の 再処理の事業に関する規則(総理府令第10)」に記載 され、事業者が申請する設計及び工事の方法の認可申請書(以下「許認可」と称する)の中で審議され、こ れに従い設計が行なわれている(表1参照)。なお、運転段階における故障部位の検査・評価・補 修方法の基準については、法律にはなっていない。一方、発電用原子力設備では建設段階における設計 及び工事の方法は、「電気事業法(法律第170号)」 及び「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省 令(通商産業省令第62号)」に基づき、具体的な認可 基準は、学協会規格である「発電用原子力設備規格(設 計・建設規格、材料規格)*」で定められており、これ に従い設計が行なわれている(表1参照)。また、運転段階における故障部位の検査・評価・補 修方法の基準については、設計段階と同じ体系となっ ており、具体的な基準として学協会規格である「発電 用原子力設備規格 (維持規格) *」が用いられている(表 1参照)。 * 再処理設備の設計及び工事は、ほぼ終了し試運転中 であるが、操業開始後も経年変化等に対応した設備の 取替工事や新増設工事を予定している。このことから、学協会規格として再処理設備の「設 計規格」を整備することにより、規格に従った設計を 行なうことで設計の合理化や効率化が図られ、更に最 新知見の反映による規格の高度化が進められる。
また、将来的には次世代再処理設備の設計・建設に 資することも可能となる。 * 再処理設備は操業を目前として、発電用原子力設備 と同様に安全で安定した運転を維持する必要性がある ことから、「維持規格(検査・評価・補修)」を策定し、 整備することが不可欠である。 *以上のような経緯を踏まえ、再処理設備の「設計規 格」、「維持規格(検査・評価・補修)」の策定は、日本 機械学会の発電用設備規格委員会/原子力専門委員会 の下に設置された再処理設備分科会において、協議及 び審議を進めている。なお、最終的にこれら規格については、発電用原子 力設備と同様に、規制当局の技術評価を受け適用され ることが重要と考えられる。 - *:日本機械学会規格(JSME)表 1 発電用原子力設備と再処理設備の現状比較 区 分 「発電用原子力設備 | 再処理設備 法令、 技術基準技術基準 要求 (省令 62号) | (府令 12号) 建設 設計・建設規格許認可 詳細 材料規格(事業者) (機械学会) 法令 技術基準要求 (省令 62号) 運転維持規格 (機械学会)詳細2. 設計・維持規格 2.1 設計規格「設計規格」は、最新の発電用原子力設備規格(設 計・建設規格、材料規格)と考え方が同等であるこ と、並びに JIS 等の最新版を反映し策定を進めている。具体的には、再処理設備の設計実績を基に、許認 可で示した設計基本方針に、再処理設備の特有事項 としてあげられる耐食設計に係わる考え方を加え策 定を進めている。再処理設備は、放射性物質を取扱うことから、機 器等の閉じ込め機能には高い信頼性が要求されるた め、「設計規格」では放射性物質等を内包する主要な 容器及び管並びにそれらを支持する構造物に使用する材料及び構造を適用範囲としている。なお、再処理設備のポンプや弁は、容易に保守が できる配置設計となっており、JIS 等の一般規格に準 拠して設計が行なわれるため「設計規格」の対象外 としている。2.2 維持規格(検査・評価・補修)「設計規格」は設計条件下で機器の健全性を確保 することに対し、「維持規格」は使用条件下で機器の 健全性を確保することを主眼に策定を進めている。再処理設備の使用環境は、低温・低圧・高腐食環 境であることから、再処理設備の使用条件下で考慮 すべき経年変化事象としては、硝酸等の薬品による 腐食減肉、特に機器の全面または表面の大部分が均 一に腐食する全面腐食減肉がある。そのため、「設計規格」では、腐食を考慮する必要 のある機器については、腐食環境に応じた適切な材 料を選定し、適切な腐食代を設ける等、設計・製作 により耐食性を確保することとしており、全面腐食 減肉の進展により、漏えいに至るおそれは小さいと 考えられる。しかしながら、腐食減肉の進展は使用 条件下の腐食環境に大きく影響されると考えられる ため、腐食環境に応じた適切な維持管理を行うこと が重要である。再処理設備の主要な系統及び機器は、換気設備に より負圧に維持されたセル等に設置されている。万一、一次閉じ込めを担う機器から漏えいが生じ ても、セル等に設置された漏えい液の回収・移送設 備や建屋内を常時負圧に維持する換気設備等の閉じ 込めのための多重の設備により、放射性物質の過度 の放出がないようにしている。したがって、使用条件下における再処理設備の維 持管理では、万一、一次閉じ込めを担う機器から漏 えいが生じても、著しい漏えいに至らなければ、再 処理設備の健全性は維持できることを考慮し、万一 の漏えいを早期に検出するための検査と、全面腐食 減肉の進展が速い一部の機器に対するその進展度合 を確認するための検査を実施することを基本として いる。それらの検査結果を評価し、運転継続または 補修・取替により適切な維持管理を行うことを基本 としている。195「設計規格」では、再処理設備が放射性物質を取 扱うことから、機器等の閉じ込め機能には高い信 頼性が要求されるため、放射性物質等を内包する 主要な容器及び管並びにそれらを支持する構造物 に使用する材料及び構造を適用範囲とし、最新の 発電用原子力設備規格(設計・建設規格、材料規」 格)と考え方が同等であること、並びに JIS 等の 最新版を反映し策定を進めている。 「維持規格」では、万一の漏えいを早期に検出す るための検査と、全面腐食減肉の進展が速い一部 の機器に対するその進展度合を確認するための検 査を実施・評価し、運転継続または補修・取替に 3.まとめ「設計規格」では、再処理設備が放射性物質を取 扱うことから、機器等の閉じ込め機能には高い信 頼性が要求されるため、放射性物質等を内包する 主要な容器及び管並びにそれらを支持する構造物 に使用する材料及び構造を適用範囲とし、最新の 発電用原子力設備規格(設計・建設規格、材料規 格)と考え方が同等であること、並びに JIS 等の 最新版を反映し策定を進めている。 2) 「維持規格」では、万一の漏えいを早期に検出するための検査と、全面腐食減肉の進展が速い一部 の機器に対するその進展度合を確認するための検 査を実施・評価し、運転継続または補修・取替に より適切な維持管理を行うことを基本とし、策定を進めている。 3) 再処理設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」の他に、今後、再処理設備として規格 のニーズがあるものについても(例:耐震設計な ど)積極的に規格の整備を推進していく。謝辞本内容は、日本機械学会で策定を進めている再処理 設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」 の内容を紹介したものである。本策定に対して、日本機械学会及び策定に携わる関 係者の方々に深く感謝の意を表します。本内容は、日本機械学会で策定を進めている再処理 設備の「設計規格」、「維持規格(検査・評価・補修)」 の内容を紹介したものである。本策定に対して、日本機械学会及び策定に携わる関 係者の方々に深く感謝の意を表します。- 196 -“ “再処理設備の設計・維持に係わる規格化の状況“ “大枝 郁,Kaoru OEDA,加納 洋一,Youichi KANO,浜田 泰充,Yasumitsu HAMADA,高坂 充,Makoto KOUSAKA