表面処理方法がステンレス材料の表面組織に与える影響

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
近年、BWRの炉内構造物に使用される表面処理 を受けたステンレス材料の炉水環境における応力腐 食割れ(SCC)への感受性についての検討が進め られている 。高温純水下でのオーステナイト系ス テンレス鋼において、SCC感受性は塑性変形や冷 間加工により増大し、その原因として表面への冷間 加工により形成される微細結晶層や塑性変形帯がS CCの発生起点やSCC進展パスとなると考えられす ている。一方で、残留応力の改善がSCC発生抑制 に効果があり、フラップホイール(FW) 研磨、ク リーンNストリップ(CNS)研磨、ウォータージ) ェットピーニング(WJP)、ショットピーニング(S ) P)等の様々な表面処理方法が炉内構造物へ適用さ れている。 - SCC発生に及ぼす表面処理の影響の議論が残留 応力や表面の硬さなどの観点から行われてきたが、 表面処理がSCC発生要因となる可能性のある表面 層の特性にどのような影響を与えているのかはよく 分かっていない。本研究では、オーステナイト系ス テンレス鋼における、FW研磨、CNS研磨、WJP、SPが行われた冷間加工表面の特性の調査結果 を示すとともに、表面層に及ぼす表面処理の効果に ついて述べる。
2. 試験方法
2.1 試験片の作成 - 各々の表面処理方法単独での材料表面への影響 を評価するため、ステンレス鋼材(SUS316L) 製の寸法 200×200×20mm の試験体に対し、固溶化 熱処理及び残留応力低減のための焼きなまし処理を 実施、その後酸化膜をCNS研磨により除去し、さ らに深さ約 400 μmの電解研磨を施し、材料表面の 加工層を完全に除去した。除去後の試験体表面に対 し、それぞれFW研磨、CNS研磨、WJP、SP を実施した。次に、実機製作過程を模擬し、表面に冷間強加工 層を形成した状態で各々の表面処理方法を施した場 合の材料表面への影響を評価するため、上記と同様 に材料表面の加工層を完全に除去した試験体に対し、 機械加工を実施した。その後、機械加工後の表面に 対し、FW研磨、FW研磨を行いその後CNS研磨、 FW研磨を行いその後WJP、WJPを実施した。 - 表1に各々の試験体に対する表面施工の手順を 示す。表1 試験体に対する表面施工の手順験体では300HV以上の硬さとなっており硬化層 「評?象 施工手順は約200μmであった。 単独施工|電解研磨※1表層域における微細結晶層をTEMにより観察し 電解研磨「+フラップホイル(FW) 研磨 電解研磨※「+クリーンNストリップ(CNS)研磨た結果を図3に示す。FW研磨、CNS研磨、SP 電解研磨※「+ウォータージェットピーニング(W.JP)では、微細結晶層や塑性変形帯が観察されたのに対 電解研磨+ショットピーニング(SP)し、WJPではそれらのいずれも見られずに転位の 機械加工機械加工 後施工 機械加工+FW研磨蓄積が観察された。 |機械加工+WJP図4に残留応力測定結果を示す。いずれの手法に 機械加工+FW研磨+CNS研磨 |機械加工+FW研磨+W.JPおいても表層には圧縮残留応力が付与され、その値 ※1: 固溶化熱処理、焼きなまし処理、CNS 研磨後に電解研磨を実施。 はSP、WJP、CNS研磨、FW研磨の順で大き 2.2 表面加工層の評価方法かった。 各々の表面処理を実施した試験体から試験片を3.2 機械加工後に表面処理を行う場合の影響 採取し、断面硬さ測定、EBSD(Electron Back 図5に機械加工後に、各種表面処理を施した試験 Scattering Diffraction)分析、断面TEM観察、残留 体断面のIQマップを示す。機械加工後の試験体表 応力測定を実施した。断面硬さ測定は、マイクロビ 面には高ひずみ部位が見られ、また塑性変形領域は ッカース硬さ測定法により試験力 245, 2mN(25gf)で 約250μmであった。機械加工+FW研磨による 表面から1mmの深さまで実施した。EBSDデー 試験体でも塑性変形領域が観察されたが、FW研磨 タは約 300×400 μmの断面に対し1umステップで により表面層が約100μm除去されており塑性変 観察を行ったものである。EBSDでは、塑性変形 形領域の深さは約150μmに減少していた。機械 によりひずみの高い領域が黒く表示されるIQ加工+FW研磨+CNSもしくはWJPによる試験 (Image Quality)マップにより塑性変形帯の深さを評体では、機械加工+FW研磨の場合と同様の塑性変 価した。FIB(Focused lon Beam) 加工により表面形領域が見られた。従って、WJPとCNS研磨の からTEM試験片を採取し、表面から深さ約10μ_表面除去効果は僅かであるものと考えられる。 mまでの微細組織を透過電子顕微鏡(TEM)を用硬さ分布測定結果を図6に示す。機械加工後の試 いて観察した。残留応力は、X線回折法により表面 験体の硬さは350HV以上あり、硬化層の深さは と平行な2方向について測定を実施した。さらに、 約400μmであった。機械加工+FW研磨による 表面からの所定の厚みを電解研磨により取り除いた。 試験体では、最大硬さが300HV以下に減少し、 後に残留応力を測定し、深さ方向の残留応力分布を 硬化層の深さも機械加工のみの場合よりも減少して 調査した。いた。機械加工+FW研磨+CNS研磨もしくはWJPによる試験体では、機械加工+FW研磨の場合 3.試験結果と同様の硬さ分布を示した。機械加工後にWJPを 3.1 表面処理方法単独での材料表面への影響 実施した試験体では、硬さ分布は機械加工を実施し図1に電解研磨を行った後に、それぞれFW研磨、 た試験体と同様であり、最大硬さは350HVであ CNS研磨、WJP及びSPを行った試験体断面のった。 IQマップを示す。電解研磨のみを実施した試験体 表層域における微細結晶層をTEMにより観察し では、塑性ひずみがないため表層域でのコントラス た結果を図7に示す。機械加工後の試験体には約1 トの変化が観察されない。一方でごく薄い塑性ひず0μmの深さまで微細結晶層が観察された。機械加 みが、FW研磨、CNS研磨、WJPによる表層部工+FW研磨による試験体では、約1μmの微細結 に観察された。SPではIQマップ上に暗い領域が晶層やそれより深い領域に塑性変形帯および双晶が 観察され、表層に高い塑性ひずみが存在しているこ 見られた。機械加工+FW研磨+CNS研磨もしく とがわかる。はWJPを実施した試験片では、機械加工+FW研 - 硬さ分布測定結果を図2に示す。電解研磨による 磨の場合と同じであった。一方で、機械加工後にW 試験体は深さ方向に渡り概ね140HVの一定の硬JPを実施した試験体では、微細結晶層は約5um さであった。WJP試験片では、僅かな硬度増加が まで観察され、塑性変形帯も見られた。 200μmまでの深さにわたり観察された。SP試図8に残留応力測定結果を示す。機械加工後の試- 208 -験体表面には約200MPaの引張残留応力が発生 種表面施工を施した場合、機械加工により形成 していた。機械加工+FW研磨を実施した場合、表 された加工層が残留しており、FW研磨による 面残留応力は0MPa以下となり残留応力が改善さ 表面除去効果により加工層厚さが低減された。 れていた。CNS研磨を追加して実施した場合は、 CNS研磨の表面除去効果はFW研磨より小 表面残留応力は、-100MPa以下となった。一 さく、僅かであった。 一方で、機械加工+FW研磨後にWJPを実施した場 (2)表面残留応力低減効果は、SP、WJP、CN 合と機械加工+WJPを実施した場合は、残留応力 S研磨、FW研磨の順で大きく、圧縮残留応力 が-300MPa以下に改善された。化が期待される。4.結言謝辞以上の結果をまとめて以下に示す。本報告は、東京電力、東北電力、中部電力、北陸 (1) 機械加工、FW研磨、CNS研磨、SPの単独電力、中国電力、日本原子力発電、電源開発、東芝、施工では表面層に微細結晶層と塑性変形帯が日立GEニュークリア・エナジーによる共同研究の 形成された。また、加工層形成に伴い表面層の一部であり、有益なご討論をいただいたことに感謝 硬さが上昇した。一方、WJP単独では微細結。 いたします。 晶層および塑性変形帯は形成されず、転位組織参考文献 が認められるのみであり、表面層の硬さ上昇は 小さかった。単独施工による加工影響は、機械1)橘内裕寿, 児玉光弘:第 52 回材料と環境討論会講演 加工、SP、FW研磨、CNS研磨、WJPの集, B-212, (2005) 順で大きくなると考えられる。機械加工後に各| 100Lm 電解研磨のみ電解研磨+FW 研磨、電解研磨+CNS 研磨 電解研磨+W.JP電解研磨+SP 図1 電解研磨及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面の EBSD 分析結果(Image Quality)試験力 245.2mN (25gf)ニトーーーーーーー・電解研磨+SP|||||ーーーーーーーーーー----------電解研磨+WJPビッカース硬さ HV0.025ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー電解研磨+FW研磨 ---- C級弘磨 42 4.9算席 -----+-----+1電解研磨のみ6001902/09/26200_ 400800 最表面からの深さ (μm) 図2 電解研磨及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面の硬さ分布測定結果- 209 -表面微細結晶層微細結晶層位領域塑性変形帯1 um塑性変形帯電解研磨のみ電解研磨+FW 研磨電解研磨+CNS 研磨電解研磨+WJP電解研磨+SP図3 電解研磨及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層面断のTEM観察結果電解研磨のみ 1- -- - +電解研磨+FW研磨 ト ----+--+--+---+---+I-T1-|T--残留応力(MPa)----残留応力(MPa)-------|+---- ---+---- ------1899/12/310 _200400 600深さ(m)8001902/09/2610_200400 600深さ(m)8001902/09/26「電解研磨+CNS研磨。●OX電解研磨+SP階----電解研磨+WJP | ----------|1899/12/3111------oy---|T残留応力(MPa)104--|+残留応力(MPa)CT-1残留応力(MPa)--|+IT----+11T-+-||-----X-----600。200400 600深さ(m)80010000_200400 600深さ(μm)80010000_200400 600深さ(μm)8001000図4 電解研磨及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面の残留応力測定結果210100um機械加工のみ機械加工+FW研磨 機械加工+FW 研磨+CNS 研磨 機械加工+FW 研磨+WJP成加工+WJP図5 機械加工及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面の EBSD 分析結果(Image Quality)図5 機械加工及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層Sコ層断面の EBSD 分析結果(Image Quality)-211表面微細結晶層微細結晶層微細結晶層微細結晶塑性変形帯塑性変形,羽性変形芸塑性変形帯14m機械加工のみ 機械加工のみ機械加工+FW 研磨 機械加工+FW 研磨+CNS 研磨 機械加工+FW 研磨+WJP 機械加工+FW 研磨 機械加工+FW 研磨+CNS 研磨 機械加工+FW 研磨+WJP機械加工+WJP 機械加工+WJP図7 機械加工及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面のTEM観察結果ト 機械加工のみ機械加工+FW研磨OX|1|||||- -残留応力(MPa)||||||TI残留応力(MPa) Residual Stress (MPa)凪--------|||----||--L||10_200400 600深さ(m)80010002008001000400 600 深さ(m)|- 機械加工+FW研磨+WJP機械加工+FW研磨+CNS研磨- --機械加工+WJP |- - -4----+-「メが--ory]---------残留応力(MPa)残留応力(MPa)+------残留応力(MPa)----- ----|-|-|-||------------------------10 _200400 600深さ(m)800-600 10000-600 10000800_200400 600深さ(m)200400 600深さ(um)8001000図8 機械加工及び各種表面加工法を施した SUS316L 表面層断面の残留応力測定結果400機械加工+WJP | 200 --- ---+--+--tory]-機械加工+FW研磨+WJP | -----+●OX-----+-残留応力(MPa)----|||||t11残留応力(MPa)T------||1|-1|+--T11|-|----L_--10200400 600深さ(m)8001000_0_200400 600深さ(m)8001000- 212 -“ “?表面処理方法がステンレス材料の表面組織に与える影響“ “馬渕 靖宏,玉古 博朗,金田 潤也,山下 理道,宮川 雅彦
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