高温水中におけるオーステナイト系合金の高応力下酸化-2 表面硬化層の影響評価

公開日:
カテゴリ: 第6回
1. 緒言
原子力発電プラントにおいては応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking ;SCC)の発生が稼働率低下の一因と なっている。このため、プラント健全性維持の観点か ら基礎的な酸化則や元素移動等の動力学に立脚した SCC機構の理論的な構築が求められている。これまで の研究の成果より提案されている SCC 発生・進展モデ ルでは応力ならびに材料/環境界面における酸化が強 く影響している。しかし、従来の実験的手法の多くは 酸化皮膜の特性ならびに組成のみに着目したものが多 く、応力が酸化挙動に及ぼす影響を加味した研究は少 ない。また、過去の SCC 事例で割れの発生部位であっ た Cr 欠乏層や表面硬化層における酸化は SCC 発生の 前兆的な挙動を示す可能性が高く、その加速酸化機構 が解明されれば非破壊検査の分野において大きく貢献 することが期待される。 1. 本研究では、材料表面の酸化挙動が SCC 感受性に大 きく影響を及ぼすと考え、オーステナイト系ステンレ ス鋼を供試材とし、高応力負荷条件に適する切欠き丸 棒形状の試験片を用いた定応力下酸化試験を酸素富化 高温純水中で行う。そして、各条件下における表面酸 化に及ぼす応力ならびに表面硬化層の影響を調べる。
2. 供試材および実験方法
供試材として 316L ステンレス鋼 (以下、316L) お よび 304 ステンレス鋼に対して 620°C、27 時間の熱鋭 敏化処理を施した鋭敏化 304 ステンレス鋼(以下、 304) を用いた。これらの化学組成を Table 1 に示す。 本試験で適用した荷重ならびに表面仕上げ条件を Table 2 に示す。 Table 1 Chemical compositions of materials (wt %)clsi | Mn | P | Ni | Cr | Mo 316L 10.01210.69 | 1.39 10.013 13.9116.4 | 2.18 304 | 0.06 10.41 | 0.88 | 0.03 | 8.3 | 18.3 | -(kg)Table 2 The conditions of tensile load and surface finishingTensile load | Surface finishing numberof notch part 30polished | b | 26polished | c | 30As lathed試験片形状は Fig. 1 に示す切欠き丸棒試験片とし、 ●旋盤による製作後、試験片aおよびb は 1 um のアルミナ粒子を用いて硬化層除去のために切欠き底部を 研磨した。試験片は Fig. 2 に示す定応力負荷治具によ って荷重を大気中でそれぞれ負荷後、循環型オートク-215レーブ内で酸素富化高温水中(288°C、9MPa、DO:2 ppm、溶液伝導度:0.2 μS/cm 以下)に 300h 浸漬させた。 試験後、試験片表面および集束イオンビーム(FIB; Focused lon Beam)装置により加工を行い、露出した断 面を走査型電子顕微鏡(SEM; Scanning Electron Microscope)にて観察した。得られた断面像を基に幅 50um 以上の範囲で酸化皮膜/合金界面位置座標を抽 出し、界面曲線を作成した。その後、イメージ解析ソ フトウェア「SPIP」上にて酸化前の表面におけるうね りの影響を除くためにガウシアンフィルター処理(カ ットオフ値=20 um)を実施した。うねり除去後の界面 曲線に基づきアボット曲線および突出谷部深さ(Rvk) を求めた。今回実施した皮膜/合金界面粗さ評価は、 「JIS B0671-1 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性 状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価一第 1部:フィルタ処理及び測定条件」、および「JIS B0671-2 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性状:輪郭 曲線方式; プラトー構造表面の特性評価一第2部:線 形表現の負荷曲線による高さの特性評価」に基づいて いる。AM2×0.35ROSFig. 1 Notched bar specimenFig. 2 Test jig3. 結果および考察3.1 皮膜性状および割れの形態 試験後の 316L 試験片切欠き底部表面の SEM 画像を Fig.3 に断面平均応力とともに示す。観察の結果、いず れもその表面は酸化皮膜外層と考えられる平均直径約 0.3um 粒子状の酸化物によって被覆されている。また、 部分的に平均直径約 0.5um の比較的大きな外層粒子の 存在が認められ、より高応力を負荷した試験片 a にお いて多数存在している。このことから、皮膜外層の酸 化物生成速度は高応力負荷下においてより大きい値を 示すと考えられる。試験後の 316L 試験片切欠き底部断面反射電子像を Fig.4 に示す。鏡面に仕上げた試験片 a においては酸化ROS皮膜が薄く、その全厚さは 200 nm 程度でほぼ均一に形 成されている。一方で、機械加工による旋削仕上げの 試験片 c においては皮膜厚さに 200 nm から 800 mm 程 度のばらつきがある。また内層皮膜のみに着目しても 部分的に厚く成長している傾向が認められる。これら 結果より、機械加工により生じた硬化層の影響で材料 表面における酸化速度が場所毎に異なることが期待さ れる。 - 試験後の鋭敏化 304 試験片断面反射電子像を Fig.5 に示す。切欠き底部においては同条件の 316L 試験片と 比較して皮膜厚さの場所毎の違いがより大きく見られ た。内層と思われる領域は明確ではないが、316L 鋼と ほぼ同様の厚みを持って形成されている。しかし、外 層として形成している粒子状酸化物は 316L 鋼と比較 して数倍大きいことが明確である。合金/皮膜界面も 比較してわずかながらであるが凹凸があり、局所的に 酸化が進行していることが伺える。しかしながら、旋 削仕上げの表面では、平滑部(直径2mm の部位)におい ても負荷応力値が切欠き底部に比べて十分低いにも関 わらず皮膜が鏡面仕上げの高応力条件での表面より厚 く成長していた。10pm10m(1) a, notch(2) b, notch (374MPa, Polished) (324MPa, Polished) Fig. 3 SEM images of the surface of 316L specimensI umum (1) a, notch(2) c, notch (374MPa, Polished) (374MPa, As lathed) Fig.4 Reflection electron images of the cross section of316L specimens1 um1m (1) a, notch(2) a, flat (374MPa, Polished) (94MPa, Polished) Fig.5 Reflection electron images of the cross section of304 specimens-216また旋削仕上げの条件では酸化が 1um 以上に渡り、 入りくんで進行している部位が観察された。これらの 酸化の侵入部位は Sum から 50um 程度の間隔で分布し ていた。また、この侵入の形態として、(1)開口して内 部に酸化、(2)幅が 100mm 程度の線状で侵入、(3)1 と 2 の複合の3つのケースに区分することが可能であった。 Fig.6 に上述のケース(3)における形態の一例として鋭 敏化 304 鋼の旋削仕上げ平滑部から得られた部位を示 す。き裂開口部周辺において観察される酸化皮膜は周 囲と同等かもしくはそれ以上の大きさで存在している。 Fig.6(3)の反射イオン像より、表面硬化層と推定される 層内でのみ入りくんだ酸化が存在していることが分か った。以上より、表面硬化層がとりわけ酸化感受性お よび割れ感受性を高める要因であることが推察される。 これらの入りくんだ酸化部位と粒界との位置対応を調 べる必要がある。加えて、透過型電子顕微鏡等により 近傍の元素移動について詳細に評価する必要がある。3 um500 nmd(1) SEM image(2) Reflection electron image(3) Reflection ion image Fig.6 The crack of flat part of 304 specimen* 3.2 酸化皮膜/合金界面曲線の解析試験片断面における皮膜/合金界面位置を Fig.7 に 示す。断面を観察した反射電子像を結合することで得 た Fig.7 (1)図において、皮膜/合金界面を平面座標の 二値計測で幅約 100 nm 間隔でプロットして得た界面 曲線が Fig.7 (2)である。さらに3次の近似曲線を用い て界面曲線のうねりを除去したものが Fig.7(3)である。 界面曲線は滑らかではなく、粗さもって存在すること が分かる。得られた他条件の界面についても同様な処 理を行い、Fig.8 から Fig.10 に示す。研磨で表面硬化層を取り除いた試験片(Fig.7 および Fig.9)では界面位置の振れ幅が小さいのに対し、硬化層 を有する試験片(Fig. 8 および Fig.10)では界面位置が場所ごとに大きく異なっている。旋削加工により酸化前 表面が元々荒さを持っていることもあるが、うねりの 除去後の界面からは数百 nm 単位で局所的に入りくん でおり、またそれらは鋭い形状を示していることが読 み取れる。このことから、硬化層の存在しない合金表 面においては一様に保護性の良好な皮膜が形成されて おり、その一方で硬化層上に形成される酸化皮膜にお いては場所毎の酸化速度が異なることが想定される。 特に結晶粒径よりも小さな寸法範囲で存在する材料的 な因子により比較的内方酸化を生じやすい箇所が存在 しうることが推定できる。 - 各界面曲線から得られたアボット曲線を Fig.11 に示 す。いずれの曲線においても接触面積が 20%から 80% まで直線的に急増しており、継続的にこの位置(プラト ー部分)に存在する界面が多数を占めていることを示 している。旋削仕上げ条件の試験片では X=100 近傍で の傾きの絶対値が大きく、合金内側に入り込んだ酸化 部が鋭く成長していることが伺える。各界面曲線から求めた突出谷部深さ(Rvk)を Table 3 に示す。突出谷部深さは、界面分布の大部分を占める プラトー部分に従い全位置が分布すると仮定した場合 に、その分布から外れる入り込み部の深さおよびその 分布の程度を示す値である。この結果から旋削仕上げ 条件や鋭敏化 304 鋼では顕著に入り込んだ酸化が進行 していることが分かる。一方で、304 鋼平滑部におい ては SEM 観察では入り込んだ酸化箇所が多数観察さ れたにも関わらず Rvk は小さい値を示した。これはう ねりを完全に除去できていないことが原因として考え られる。酸化皮膜/合金界面位置分布の数値化により、旋削 仕上げの試験片において合金側への不均質な酸化進行 が認められた。機械加工により生じた表面硬化層は粒 が微細化することが知られており、結晶粒界密度が比 較的大きいことが知られている。このことから、硬化 層においては粒界を経路とした拡散が生じやすいこと や粒界近傍におけるひずみの集中箇所増加等の要因に よって局所的な酸化速度増加が見込まれる。一方で、 加古らによって行われた結晶粒径に着目した高温純水 中定ひずみ試験においては、結晶粒径が大きいほど SCC 感受性が高くなるという結果を得ており、粒界密 度が小さいほどひずみが粒界に集中しやすいため SCC が生じやすくなると考察している[1]。しかしながら、 Wang らによって行われた高応力下酸化試験ではひず217みの集中によって生じたと考えられるすべり変形部に おいて局所酸化やき裂発生を確認していない[2]。今回 の試験においては粒界位置の特定は行っていないが、 硬化層を有する試験片での合金側への不均質な酸化進 行位置と粒界位置との対応が得られれば、割れの前駆 過程としての酸化局在化の役割をさらに明確にするこ とが可能であると思われる。今後は試験時間をパラメ ータとした試験を実施し、局所的な内方酸化の発生・ 進行の時間依存性を調査する予定である。また、界面 粗さ評価手法におけるうねり除去も課題として捉えて いる。(1) Reflection electron images of cross section-Location of alloy/inner oxide interface Gaussian convolutionLocation (um) ONADO375MPa, Polished405020130Position (um) (2) Interface curve between oxide film and alloy0.5Height (um)・ ・・・ 316L OS 334MPa, Selfahs121日1020400.0 F ramのいないのですが ・・ ・ ・ -0.5F -1.0E11 30Position (nm) (3) Interface curve after removing wave undulationFig. 7 Interface between oxide film and alloyof 316L notch part (374MPa, Polished)Height (pm)0.03 -0.5274MPa. As fathered1040-1.05 203050 Position (im) Fig. 8 Interface curve between oxide film and alloy of 316L notch part after removing wave undulation(374MPa, As lathed)1.0 0.5 0.05 -0.5 -1.0E““メット Sena.304 374MPa, Polishes101020 30 Position (urn)4050Fig. 9 Interface curve between oxide film and alloy of 304 notch part after removing wave undulation(374MPa, Polished)Height (um)1.04 0.50.04.1-0.5| Sens.304 -1.05936MPa Ashes100130 20 14050Position (um) Fig.10 Interface curve between oxide film and alloy of 304 flat part after removing wave undulation(93.6MPa, Polished)-316L Polished, 374MPa- 316L As lathed, 374MPa . .Sens, 304 Polished, 374MPa --- Sens. 304 As lathed, 93.6MPaHeight (um)020406080 100Bearing area (%)Fig.11 Abbott bearing curveTable 3 Reduced valley height (Rvk)| Ryk (nm) | 316L a, notch (Polished, 374MPa)23.70 | 316L c, notch (As lathed, 374MPa)93.81 304 a, notch (Polished, 374MPa)63.95 | 304 a, flat (As lathed, 93.6MPa) | 48.163.結言 _1) 316L ステンレス鋼においてより高い応力もしくは表面硬化層を有する条件で酸化皮膜が厚く成長することが認められた。 2) 鋭敏化 304 ステンレス鋼において表面硬化層と思われる範囲内で入りくんだ形態の酸化が認められた。 3) 皮膜/合金界面曲線に対して粗さ解析を行うこと で硬化層を有する条件や鋭敏化材では顕著に内方 酸化が進行していることを定量的に示した。謝辞本報告は経済産業省 原子力安全保安院 高経年化 対策強化基盤整備事業(経年劣化事象の解明等)の 成果の一部を含む。参考文献 [1] 加古謙司ら,電力中央研究所報告, (2008), Q07020 [2] S. Wang, et. al., Corrosion 62,8(2006): p.651_1900/08/05“ “?高温水中におけるオーステナイト系合金の高応力下酸化-2表面硬化層の影響評価“ “竹田 陽一,Yoichi TAKEDA,佐藤 崇之,Takayuki SATO,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI,大地 昭生,Akio OHJI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)