耐熱FBG を用いた高速炉プラント健全性監視システムの開発:耐熱FBG のひずみ計測性能評価

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
1. 近年、原子力発電においては、機器の劣化状態に基 づいて科学的かつ合理的に保全を行う状態基準保全の 重要性が指摘されており[1]、これを実現すための基盤 技術として、ひずみや温度を計測しプラントの健全性 を監視するシステムの開発が重要課題になっている。 すでに軽水炉プラントでは、光ファイバセンサの1つ である FBG (fiber Bragg grating)センサを利用した健全 性監視システムが提案されている[2, 3]。 FBG センサは、 ゲルマニウムが添加された光ファイバのコアに紫外線 レーザを照射して、長手方向に周期的な屈折率分布を 作り回折格子を形成したもので、光を伝播させると格 子間隔とコアの実効屈折率で決まる特定の波長を持っ た光(Bragg 波長)が反射される。熱や機械的な力が 加わると、格子間隔と実効屈折率が変化し、それに応 じて Bragg 波長も変化するため、その変化量からひず みや温度を計測することができる。 - 光ファイバセンサは、熱電対などの従来のセンサに はない耐電磁誘導性や耐久性などの特徴から、高い信 頼性が求められる原子力分野での利用に有効である。特に FBG センサは、計測点の多点化や波長分割多重化 が可能であることから経済性に優れており、またひず みや温度以外にも振動や圧力など、原子力プラントに おける様々な物理量の計測に応用できるため、健全性 監視システムに用いるセンサとして極めて有望である。 その一方で、500°C を超える高温環境となる高速炉プ ラントでFBG センサを使用するには、その耐熱性が問 題になる。高速実験炉「常陽」において、FBG センサ を用いた変位・振動計測が報告されているが、実際、 耐熱性の問題から、FBGセンサは1次主冷却系配管の サポート部など、温度が 100°C以下である部位に設置 されている[4]。 - 現在、一般的に利用されている紫外線レーザによっ て書き込まれた FBGセンサは、本質的に屈折率構造の 熱安定性が低く [5]、耐熱性を持つポリイミドを FBG センサ表面にコーティングした場合でも、300°C 程度 の耐熱性しか得られていない。また、フェムト秒レー ザによって石英ガラスに永続的な屈折率変化を誘起で きることが報告されているが[6]、この現象を利用した 耐熱性を有する FBG センサについては、分光特性など の基礎的な研究が現在行われている[7-9]。筆者らは、500°C を超える高温環境においても使用 可能な耐熱 FBG の開発とそれを利用した高速炉プラ ントの健全性監視システムの開発を行っている[10]。 筆者らは、これまでにフェムト秒レーザを用いて光フ ァイバのコアに FBG を形成し、加熱試験によって 600°Cの耐熱性を有することを確認した[11]。本稿では、 製作した耐熱 FBG のひずみ計測性能について報告す る。
2.実験 2.1 実験装置 - 耐熱 FBG を取り付ける試験片には、SUS304 の金属 片を用いた。大きさは 500 mm x 25 mm x 2 mm で ある。図1に示すように耐熱 FBG は、金属片の中央部 分に、金属片の長手方向の軸と平行に取り付けてある。 耐熱 FBG の固定には一般の工作用接着剤を使用して いる。金属片に発生するひずみは、耐熱 FBG と平行に 取り付けたひずみゲージによって計測する。図2に実験装置を示す。金属片への負荷は、4点曲 げ法によって与える。図に示すように、金属片は、耐 熱 FBG が取り付けてある面を上に向け、金属片の中心 が点A、A及び点 B、B'から等距離になるように設置 する。金属片は点B、B'で支えられており、両端の点 A、A'に鉛直下向きに、同じ大きさの力が加えられる。 力の大きさは、ねじの移動量で調整する。4点曲げ法 では、区間 BB'が純曲げになるため、この区間では一 様な曲げモーメントのみが発生する。したがって、区 間 BB'には一様なひずみ分布が形成されるため、耐熱 FBG とひずみゲージには、同じ大きさのひずみが加わ ることになる。 - 光源には 1528 - 1564 nm の赤外光を出す広帯域光源 を用いた。光源から出た光は耐熱 FBG に入射し、反射 された光が FBG スペクトラムアナライザで計測され る。2.2 実験方法 - ねじによって金属片を 0.2 mm 間隔で押し下げてい き、耐熱 FBG からの反射スペクトラムを計測する。同 時に、ひずみゲージで金属片に生じているひずみを計 測する。計測した反射スペクトラムから Bragg 波長を 求め、波長シフトとひずみの関係を得る。比較のため、 同様の実験を紫外線レーザによって製作された市販のAdhesiveThermal-resistant FBGVIXITEITITIZ VWZZZ.ニーーーーーーーーーStrain gaugeSUS304 beam (500 mm x 25 mm x2 mm)Fig. 1. Geometry of the thermal-resistant FBG and the strain gauge.ScrewScrewwwwwwwwwwThermal-resistantFBGStrain gaugeStrain gaugeamplifier90FBG spectrumanalyzerBroadband light sourceFig. 2. Schematic diagram of the experimental setup.常温用 FBG についても行う2.3 Bragg 波長決定アルゴリズム理論上、Bragg 波長は、FBG の反射スペクトラムに おいて最大強度によって特定することができる。しか しながら、実際には Bragg 波長の半値幅の広がりや、 光検出器の標本化誤差、量子化誤差などの影響により、 必ずしも最大強度だけでBragg 波長を決めることは適 当ではない。そこで本実験では、Bragg 波長のスペク トラムが対称性を持つことに着目し、スペクトラム強 度を重み付けに利用して Bragg 波長を求めた。FBG スペクトラムアナライザで計測された反射ス ペクトラムはディジタル化されている。離散化された 波長及び強度をそれぞれ、2 、I(a)で表す。はじめに、 あらかじめ予想される Bragg 波長のシフト範囲内の反 射スペクトラムを切り出し、最大強度を検出する。 次に閾値ン1 (0 / In } を作る。この集合 に対し、強度を重みとして、次式により重み付き平均 を計算することにより Bragg 波長いのを決定する。-1LES4-2100) 1 = 2 (2)本アルゴリズムでは、平均を計算することにより FBG220スペクトラムアナライザの波長分解能未満の値が補間 されるため、標本化誤差の影響を低減することができ る。実験では、閾値として y = 0.1 を用いた。3. 実験結果と考察図3に耐熱 FBG(実線)と常温用 FBG(破線)の反 射スペクトラムを示す。スペクトラムは、両 FBG とも に金属片に取り付けていない自然の状態で計測してお り、それぞれ最大値が1になるように規格化してある。 常温用 FBG のスペクトラムを見てみると、Bragg 波長 である 1530.4 mm の位置に急峻な単一のピークが現れ ている。半値幅は 0.23 nm である。1558 mm を中心に 緩やかに広がる領域がみられるが、これは光ファイバ 端面からの Fresnel 反射光に起因している。一方、耐熱 FBG の反射スペクトラムを見てみると、Bragg 波長の 設計値は 1554.3 nm であるが、この波長以外にも複数 のピークが現れているのがわかる。半値幅も 0.8 nm 程 度の広がりがあり、常温用 FBG のような、単一ピーク の鋭い反射スペクトラムは得られていない。 - 図4、図5に、常温用 FBG 及び耐熱 FBG の Bragg 波長) の変化を、ひずみ?の関数としてそれぞれ示す。 直線は、最小2乗法で求めた実験値の1次フィットで ある。また、A1とA2は、それぞれ直線に対する 実験値の最大誤差と標準偏差である。単位ひずみ量に 対する Bragg 波長の変化量をひずみ感度と定義すると、 直線の傾きから常温用 FBG のひずみ感度は、約 1.2 pm/ue である。一方、耐熱 FBG のひずみ感度は約 0.34 pm/us であり、常温用 FBG の感度に比べて約 1/4 の値 になっており、感度が低いことがわかる。これは、Bragg 波長の半値幅が広いことが主な原因と考えられる。一 一方、誤差を比較してみると、耐熱 FBG のほうが小さくなっていることに気づく。これは、耐熱 FBG の場合、 図3からわかるように反射スペクトラムに複数のピー クがあるため、集合 S に含まれるデータ点数が常温用 FBG の場合よりも多くなり、結果として平均演算によ る補間効果が高まったためと解釈できる。標準偏差を ひずみ感度で割り、ひずみ計測精度を推定すると、常 温用 FBG の場合は+2uE 、 耐熱 FBG では±3ue とな り、今回の実験で用いた耐熱 FBG でも常温用 FBG と 同程度のひずみ計測精度を期待できることがわかる。 ひずみ感度が小さい場合、Bragg 波長のシフト量が小 さくなるために標本化誤差の影響を受け易くなるが、Normalized intensity (arb. unit)エスベースNWKベンベル0.0 1525 1530 1535 1540 1545 1550 1555 1560 1565 1570Wavelength (nm) Fig. 3. Reflection spectra of the thermal-resistant FBG (solid curve) and the conventional FBG (broken curve).0.001216e+ Experiment(wu) Sy1530.7-1530.65 E0.0012166 + 1530.426 Experiment?1530.6(uu) v1530.551530.51530.45Slope = 1.2 pm/us a1max = 4.9 pm 32 2.2 pm1530.4501502001001 e (ue)Fig. 4. Bragg wavelength of the conventional FBG as a function of strain.50(uu) By1554.87 1554.86 1554.85-0.000336 + 1554.791 Experiment1554.841554.83(uu) v1554.82 1554.81 E 1554.80 1554.79 1554.780_Slope = 0.34 pm/ue a2max = 2.0 pm A2 = 1.0 pm50150200100(ue)Fig. 5. Bragg wavelength of the thermal-resistant FBG as a function of strain.50-221本研究では、スペクトラム強度を重みとして重み付き 平均を計算したことにより、効果的な補間が行われた 結果、標本化誤差の影響が低下し高いひずみ計測精度 が得られたと言える。図6は、図4で用いた常温用 FBG の反射スペクトラムに対して、yの値を変えて Bragg 波長を計算した結果である。補間が行われない y=1 では、FBG スペクトラムアナライザの標本化誤差 のため、Bragg 波長が階段状に変化しているが、y = 0.1 ではひずみの増加に対して Bragg 波長は線形的に変化 しており、本アルゴリズムによって効果的に補間が行 われていることがわかる。(uu) v]1530.71530.65 E- 0.001216 e + 1530.426 ・.y=1A y = 0.6 o y = 0.11530.61530.55 E151530.453/1530.40 E.050100150200e (ue)g. 6. Interpolation accuracy for several values of y.Fig. 6.4.結言フェムト秒レーザで製作した耐熱 FBG のひずみ計 測性能を評価した。今回の実験に用いた耐熱 FBG のひ ずみ感度は、約 0.34 pm/ue であり、市販されている常 温用 FBG の感度と比べると、約 1/4 の値になっており 低感度であった。しかしながら、反射スペクトラム強 度を重みとして用いた重み付き平均によって Bragg 波 長を求めることにより、実験値の標準偏差から推定さ れるひずみ計測精度は約±3ue となり、常温用 FBG の 計測精度 ±2.us と同程度の精度が達成可能であること が示された。今後は、耐熱 FBG のセンサ性能の向上を図ると共に、 実装方法など高速炉プラントへの適用に向けた研究を 実施していく。また、実時間多点計測が可能である FBG 計測方式[12]についての検討を行い、健全性監視 システムとしての開発を進めていく。参考文献[1] 原子力安全・保安院,“原子力発電施設に対する検査制度の改善について, 原子力安全・保安院報告書, 2006. [2] R. Arai, A. Sumita, S. Makino, and T. Maekawa,“Large-scale hybrid monitoring system for temperature, strain and vibration using fiber Bragggrating sensors,““ Proc. SPIE 4920, 62-72 (2002). [3] R. Arai, A. Sumita, T. Maekawa, and H. Namihira,“Condition and health monitoring system for a nuclear power plant with fiber Bragg grating sensors,” Proc. 6th Int. Conf. Nuclear Thermal Hydraulics, Operationsand Safety, 2004, Paper ID. N6P020. [4] K. Matsuba, C. Ito, H. Kawahara, and T. Aoyama,“Development of fast reactor structural integrity monitoring technology using optical fiber sensors,” J.Power Energy Syst. 2, 545-556 (2008). [5] S. R. Baker, H. N. Rourke, V. Baker, and D.Goodchild, “Thermal decay of fibre Bragg gratings written in boron and germanium codoped silica fiber,““J. Lightwave Technol. 15, 1470-1477 (1997). [6] K. M. Davis, K. Miura, N. Sugimoto, and K. Hirao,“Writing waveguides in glass with a femtosecondlaser,““ Opt. Lett. 21, 1729-1731 (1996). [7] D. Grobnic, C. W. Smelser, S. J. Mihailov, and R. B.Walker, “Long-term thermal stability tests at 1000°C of silica fibre Bragg gratings made with ultrafast laserradiation,““ Meas. Sci. Technol. 17, 1009-1013 (2006). [8] Y. Shen, J. He, Y. Qiu, W. Zhao, S. Chen, T. Sun, andK. T. V. Grattan, “Thermal decay characteristics of strong fiber Bragg gratings showing high-temperaturesustainability,““ J. Opt. Soc. Am. B 24, 430-438 (2007). [9] Y. Li, C. R. Liao, D. N. Wang, T. Sun, and K. T. V.Grattan, “Study of spectral and annealing properties of fiber Bragg gratings written in H2-free and H -loaded fibers by use of femtosecond laser pulses,” Opt.Express 16,21239-21247 (2008). [10] 増住,月森, 島田, 西村, “高速炉高温構造物の健全性モニタリングのための耐熱 FBG センサの開 発,““ 日本保全学会第5回学術講演会要旨集, 2008,pp. 133-138. [11] 島田,西村, 増住, 月森, 吉川, 小林, “耐熱 FBGによる高温構造物の振動変形モニタリング技術 の開発(2) 製作した FBG の波長特性測定と高 温試験,““原子力学会 2008 年秋の年会予稿集,2008,C47. [12] T. Kobayashi, Y. Enami, and H. Iwashima, “Highlyaccurate fiber strain sensor based on low reflective fiber Bragg gratings and fiber Fabry-Perot cavities,” Optical Fiber Sensors, OSA Technical Digest (CD) (Optical Society of America, 2006), paper TuE12.1900/08/09“ “?耐熱 FBG を用いた高速炉プラント健全性監視システムの開発一耐熱 FBG のひずみ計測性能評価一“ “猿田 晃一,Koichi SARUTA,月森 和之,Kazuyuki TSUKIMORI,島田 幸洋,Yukihiro SHIMADA,西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,小林 喬郎,Takao KOBAYASHI
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