極低酸素ポテンシャルの気相中におけるNi-Cr 合金の応力下酸化挙動

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
軽水炉構造材料の応力腐食割れ(SCC)は、軽水炉の構 造健全性を確保する上で重要な経年劣化現象の一つで あるが、材料因子、環境因子、力学因子の連成した複 雑な現象であることから、メカニズムには不明な点も 多い。最近の高分解能透過型電子顕微鏡を用いた SCC き裂先端のナノスケール分析などに依れば、BWR 環境 中での低炭素ステンレス鋼から PWR1次系での Ni 基 合金まで、広い環境と材料の組み合わせにおいて、き 裂先端前方での特定合金成分の選択酸化を伴う内方酸 化が共通した特徴として観察されてきており、固相酸 化の主導的関与が示唆されてきている[1]。また、高温 水および過熱水蒸気環境中における 600 合金のSCC試 験結果によると、どちらの環境においても同様の粒界 型応力腐食割れ(IGSCC)挙動を示すことが報告されて おり [2]、過熱水蒸気は高温水中 SCC 評価のための試験 環境として広く受け入れられている[3]。 1. 本研究は、Ni 基合金の SCC を対象とし、SCC 感受 性発現条件を皮膜特性と粒界内方酸化の観点から理解する上での基礎的知見を得ることを目的とした。具体 的には、Ni-Cr 二元系合金について2種類の気相系(不 活性ガス系および過熱水蒸気系)において酸素ポテン シャル、Cr含有量を変数とした応力下酸化試験を行い、 酸化挙動ならびに割れ感受性を評価した。
2. 試験方法
2.1 供試材および試験片 * 供試材には軽水炉構造材として用いられる Alloy600(Ni-14Cr-8Fe)、Alloy690(Ni-30Cr-8Fe)を代表と する Ni基合金の Cr含有量をカバーするよう、Cr含有 量の異なる 3 種類の Ni-Cr 合金(Ni-14Cr、Ni-22Cr、 Ni-30CT)を溶製した。それぞれの化学組成を Table 1 に示す。これらはいずれも、1230°C/10 時間の均質化 熱処理と熱間圧延の後に 1180°C/30 分の容体化処理 が施されている。これらから、2 軸応力を付与でき応 力弛緩が少ない逆 U 曲げ(RUB)試験片を作製し、気相 中における酸化試験に供した。_2232.2 応力下酸化試験試験環境は、酸素ポテンシャルならびに水素(プロ トン) の有無を実験変数とするため、不活性ガス系 (高 純度 Ar (He)ガス+微量酸素圧制御) および過熱水蒸気 系(水素/水蒸気比制御) の2種類の気相系を採用し、 試験温度は 400°C、試験時間は 750 時間とした。設定 する酸化力は、主要合金成分(Cr, Ni)/酸化物の解離 圧を参考にしながら選択した。しかし実際の試験環境 が、想定した条件とは違った酸素ポテンシャルである 可能性も否定できない。そこで本研究では反応容器内 に純金属(Ni, Fe, Cu, Co)を設置し、それぞれの酸化の有 無ならびに酸化物種から実際の酸素ポテンシャルの範 囲をモニターした。3. 結果ならびに考察3.1 試験環境の検証不活性ガス系および過熱水蒸気系における計4回の 試験について、目標とした試験条件および純金属の酸 化物の解離圧に実際の酸素ポテンシャル範囲を加筆し て Fig. 1 に示す。 これから、全ての試験で実際の酸素 ポテンシャルが目標値に比べ低い方向にシフトしてい たが、不活性ガス系では Ni安定域および NiO 安定域、 過熱水蒸気系では NiNi0 解離圧近傍および NiO 安定 域における酸化試験が実現できたと判断された。Inert Gas (Ar/He + O2)Target potentia! Actual potential rangeT=400°C, Poz(atm) Test 2: NIO stableTest 1: Ni stable40-35-30logPo2Fe/Fe,O, Porn4.010Calcoo Pag=1.01075N/NOColCo, Par%22.9-101 HPanactomCucu,oFe,O/Fe, | Pory1.910円Per%3D2.41013Cujo Pop1.7.10.15-40-20logPozPH2/PH200.050.000160.00000063Test 4: NIO stableTest 3: NI/NIO equilibrium Super Heated Steam (H2O/H2)Fig. 1 Validation result of the actual oxygen potential3.2 酸化挙動ならびに割れ感受性 - 不活性ガス系・NiO 安定領域における試験片の表面 および断面方向からの様相を Fig. 2 に示す。 Ni-14CT に おいて長さ数 mm に及ぶ粒界を経路としたき裂が複数 認められ、高い割れ感受性を示した。Ni-22Cr および Ni-30Cr においても長さ数十um の割れが確認されたが、極めて限定的であり、Ni-14CT との間には割れ感受性に 大きな違いがあるものと判断された。一方 Ni 安定領域 (Fig.3)では、全ての試験片で割れは認められなかっ たが、Ni-22CT において皮膜の損傷が顕著であり、Cr 含有量の違いにより形成された酸化物の構造ならびに 保護性が異なることが示唆された。Ni-14CT100mNi-22GNi-300100mm50mlFig. 2 NiO stable-Inert Gas: Appearance andcross-sectional view of RUB specimenNi-14CrNi-22Cr100um100mNi-30CT100umFig. 3 Ni stable-Inert Gas: Appearance of RUB specimen次に、過熱水蒸気系・NiNi0 解離圧近傍における試 験片の様相を Fig. 4 に示す。全ての試験片において明 確な粒界割れが確認された。割れの密度ならびにき裂 の開口幅から、Cr 含有量の増加と共に割れ感受性が低 下していると考えられる。一方、上記条件に比べ高い 酸素ポテンシャルであった NiO 安定域(Fig. 5)では、 全ての試験片で損傷は一切認められなかった。 -- 以上の結果をまとめて Table 2 に示す。極低酸素ポテ ンシャル下の水分子が存在しない不活性ガス中におい て、Ni-Cr 合金は粒界割れ感受性を示すことが明らかに なった。また、2 種類の気相系において割れ感受性を 示す酸素ポテンシャルの範囲が異なることが示唆され224た。これらの特徴は、試験片表面に形成された酸化皮膜 の構造の観点から説明できると考えられ、今後詳細な 酸化皮膜分析を行う予定である。Ni-14CrNi-14CrNi-1402000[Ni-220Ni-220Ni-22G200m100m60mNi-300r[Ni-300Ni-30010mFig. 4 Ni/NiO equilibrium-Dry Steam: Appearance andcross-sectional view of RUB specimen| Ni-14cr| Ni-22Crあ第100um050umiNi-30Cr100um Fig. 5 Nio stable-Dry Steam: Appearance of RUBspecimenTable 2 Summary of Cracking SusceptibilityMaterialsEnvironmentNi-14crNi-30CrNo CrackNo CrackNo CrackInert GasNi stable (log Pozz3-35 ~ -29)Inert GasNiO stable (log Por%3D-19 -15)Cracked>Cracked%3D CrackedDry Steam NI/NIO equilibrium (log Por= -29 ~ -28)Cracked>Cracked>CrackedDry SteamNio stable (log Por= -25 ~ -19)No CrackNo CrackNo CrackMaterialsEnvironmentNi-14CrNi-22CrInert GasNi stable (log Por%3-35 -29)No CrackNo CrackInert Gas (Ar + 02)Inert GasNiO stable (log Pan%3D-19 -15)Cracked>CrackedDry Steam Ni/NiO equilibrium (log Por= -29 ~ -28)Cracked>CrackedSteamDry SteamNiO stable (log Por= -25 ~ -19)No CrackNo Crack4.結言Ni-Cr 二元系合金について2種類の気相系 (不活性ガ ス系および過熱水蒸気系) において酸素ポテンシャル、 Cr含有量を変数とした応力下酸化試験を行い、酸化挙 動ならびに割れ感受性を評価した。得られた結果を以 下に記す。 (1) 400°Cの過熱水蒸気に加え、水分子を含まない不活性ガス環境においても、酸素ポテンシャルの範囲によっては割れ感受性を示した。 (2) 不活性ガス系において、NiO 安定域で割れ感受性を示し、Ni 安定域では一切割れを生じなかった。 一方過熱水蒸気系では、NiNiO 解離圧近傍で割れ 感受性を示したのに対し、NiO 安定域では試験片 表面にき裂は確認されなかった。それぞれの気相 系で、割れ感受性を示す酸素ポテンシャルの範囲が異なることが示唆された。 (3) 割れを生じた条件下では、割れ感受性が Cr含有量と共に低下したが、Ni-30CT においても明確な割 れ感受性が認められた。謝辞本研究の一部は、「革新的実用原子力技術開発費補助 事業(経済産業省)」によるものであることを付記する。参考文献[1] 例えば、L.E. Thomas, S.M. Bruemmer, Proc. 13““ Int.Symp. On Environmental Degradation of Materials inNuclear Power Systems-Water Reactors [2] G. Economy, R.J. Jacko, and F.W. Pement, Corrosion,vol.43, 1987, pp.727-734 [3] B.M. Capell and G.S. Was, Metall. Mater. Trans. A,Vol.38A, 2007, pp.1244-12591900/08/12
“ “極低酸素ポテンシャルの気相中における Ni-Cr 合金の応力下酸化挙動“ “阿部 博志,Hiroshi ABE,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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