アクセス不能構造物における弾性波伝播解析による弾性波強度指標評価の試み
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
本研究は,構造物におけるアクセス不能位置に対す る超音波探傷試験システムの開発を,弾性波伝播解析 により支援することを試み,迅速で合理的な超音波探 傷試験技術の開発に資することを目的とする.アクセス不能位置に対して超音波探傷試験を実施す るためには,そのアクセスできない試験対象位置まで 超音波を伝播させ,そこからの反射波をアクセス可能 位置で受信する必要がある.そのためには,構造物伝 播中の超音波減衰を経て,構造物の形状等により発生 する他の反射波やノイズから識別できるだけの強度の 反射波を与える定量的な超音波入力条件を選定するこ とが必要である.アクセス不能位置に対する超音波探傷試験技術の候 補の一つとして, ガイド波が挙げられる.ガイド波は, 構造物境界面に沿って超音波が伝播するものであり, ガイド波の理論として体系化されてはいるが(4)~(7), 実 機への適用研究(8)~(11)は、配管やレールなど複雑な断面 形状の構造物と想定欠陥に応じて,装置の試作と模擬試験体による実験検証という手法により進められてい るのが現状である.また,一般的な探触子の設計にお いては,扱う超音波モードを限定すれば,単純な音波 としての音場計算(4000(7)(12)-(17)により超音波伝播特性の 評価が可能な場合もある.しかしアクセス不能位置を 探傷とする場合に必要となる材料表面での反射を伴う 伝播現象や欠陥反射波の評価は容易ではない. さらに, 原子力発電所の容器,配管の溶接部を対象とするよう な供用期間中検査(1)~(3)は定型化されており,あらため て入力強度の評価が必要となるようなこともない.このように採用する超音波の種類に応じて,その伝 播理論に基づき,装置の試作と試験体対象構造物のモ ックアップを用いた実験検証がなされているようでは あるが,入力強度を定量的に評価するために,明確な 定量的な目標の下,評価選定が必ずしもなされてはい ないのではないかと考えた. そこで,超音波探傷試験 システム仕様の選定とモックアップを用いた実験検証 を解析により実施し,超音波の入力強度などの仕様検 討を定量的に行うことを考えた.
Specification foulmasonic testing systemFrequency(Period) Ultrasonic waves modeBoundary conditions for specificationFemany(Period) Ultrasonic waves k mode11. Anplitude5AmplitudeBoucary conditionsDuration (Bandwidth)(Bandwidth)Mockup of inspected structureTransducerInputAnalysis model for inspected structureGeometryPropagation distance 1 dimensionPropagation pathFlamintdimasjonPropagailten distance Propagation pathというultrasonic flaw detectorautoutReflection11ModelingRectionReceiving sigmal by transduceRefraction angleMaterial propertysvahuation of ekastic guantityRefraction angle +i Material propertyDerected objectI Detected objectDetecttion of reflected wavesDetecttion of reflected wavesPropagation velocity AttentionPropagation velocity AttentionSimulatedmoise levelMshing determinationSimulation for quantity of elastic wavesExperimentAnalysisFig.1 Ultrasonic testing system development supported by elastic waves analysisFig.1 に超音波探傷試験システム開発支援の概念を 示す.超音波探傷システムにより構造物に入力され, 欠陥において反射し,伝播する弾性波の伝播現象を, 弾性波伝播解析により再現することによって,対象と する欠陥反射波の検出が可能な超音波探傷試験システ ムの仕様を選定することである.そのためには,解析手法とした有限要素解析手法に おいて適切に有効な解析結果を得ることと超音波探触 子計測値に対する弾性波伝播解析における弾性波強度 指標を明らかにすることが必要であると考えた. そこ で,合理的な要素分割選定法を検討し,これを用いた 弾性波伝播解析により弾性波強度と欠陥反射波強度を 定量評価し,欠陥検出可否を予測することによって, 解析による支援を試みるものである. 1. 本報では,まずは平鋼板上の超音波探触子から伝播 する弾性波を例に試みた結果を示す,弾性波伝播解析 により弾性波伝播状況を可視化し,超音波探触子計測 値に対する弾性波伝播解析における弾性波強度指標を 検討する。 * 最後に,欠陥反射波の発生と伝播を弾性波伝播状況 の可視化により確認し,受信位置における欠陥反射波 強度によりその検出可否を推定し,実験により検証する.なお,有限要素解析手法おける要素分割選定法の詳 細は,既報(18)に委ねた.22. 弾性波強度指標の検討2.1 解析モデル平鋼板における弾性波伝播の解析を, Fig.2 によりモ デル化し, 寸法 L=1.0m, W=0.5m, H-40mm の静止状 態にある鋼板において,その表面上の L-40mm, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範囲とし, 時刻 >0 に変位 u()を与えることにより加振されると した.今回の問題では, この u()は, 周波数 f0.3MHz, 振幅 Ao=1.0 x 10““ m, 継続時間 t =2T(=21) s の正弦波状 の SH 波(Shear horizontal waves: SH waves)を対象とした. また,入力範囲において加振振幅は一定とした.板の 材料定数は,ヤング率 E-206 GPa, ポアソン比 v=0.3, 密度 p =7 700 kg/m3 とした. 解析モデルは, 8節点六面 体要素を用い,分割数は IM 法(18)により選定し,総自 由度は 656 760 である.時間増分は,正弦波の時刻に おける離散化において, 正弦波の振幅値を 5%以内の誤 差で再現可能な分割数である T/10 とした.
平鋼板における弾性波伝播の実験に用いた試験体を Fig.3 に示す. 試験体は, 厚さ 38mm, 長さ 2.0m, 幅 1.0m の炭素鋼板である.試験体には,欠陥反射波の評価に 使用する欠陥であるくぼみが加工され,これの影響の ない範囲で, Fig.2 の解析モデルに相当する範囲で測定 実験を行った. 測定実験には, 振動子寸法が奥行 40mm ×幅 40mm の SH 波探触子を使用した.弾性波伝播解 析と同じく,周波数は,0.3MHz,公称屈折角は 90 度 である。
Fig.3 A mock-up test assembly for the experiments2.3 弾性波強度の評価 * Fig.4 に示す解析モデルおよび試験体の E-H の xy 表 面上のy=0, 100, 200, x0-900mm の 100mm 毎の点にお ける, W-40mm の場合の弾性波伝播解析による弾性波 強度と超音波探触子の計測値を比較して検討する.Evaluationpoint (C-
Transit (Transmitter) (1,-34.0x10mg(2) Mock-up plate for experiment Fig.4 Evaluation points of elastic waves intensity2.4 弾性波伝播状況の可視化 * 弾性波伝播領域における弾性波の伝播状況を可視化 した. SH 波の伝播は波動方程式における回転により表さ れる. ここでは,後述のように回転 a, と同等の値であるせ ん断ひずみにより,弾性波強度の分布を表示した. Fig.5 に, 解析モデル表面 E-H(加振入力位置のある面) および断面y=0 におけるせん断ひずみの分布の, 時刻 t/T30, 60 の例を示す. せん断ひずみの値について, 加 振入力節点の入力時刻における最大せん断ひずみ)に より規格化した値を区分し表している.
(2) t/T-60 Fig.5 Distribution of shear strain Yxy (z=H, y=0)2.5 弾性波強度の解析と実験の比較 - 弾性波強度として,変位(displacement)u, U, W, 体積ひ ずみ(volumetric strain)e, せん断ひずみ(shear strain)Yay Xpe, Y, 回転(rotation)or, 0, 0, について評価した. それぞ れ,Fig.6, Fig.7, Fig.8 および Fig.9 に, 加振入力位置から の距離 r による変化を, 加振入力位置におけるそれぞれ の値で規格化して示す.なお, 解析値が0であるy=0 にお ける, full, swl, E, Iyal, lo,は, 表示していない. それぞれの 位置における観測値において, Fig.5 において観察され た最も早い時刻に到達する先端の伝播波に相当する時 刻の振幅により算出している.それぞれの図には,超 音波探触子入力位置の計測値により規格化した超音波 探触子計測値も示している. 1. 本研究で例とした平鋼板において伝播する SH 波に 対しては, 超音波探触子による計測値の分布状況は, 0, - 228 -2, sz, 0, 0, が良く対応している.これらの指標は、 加振入力変位 の振動方向であるy方向に関係するも のである.加振入力の振動方向が異なれば,対応する 変位,せん断ひずみ,回転の成分は変化するものと考 えられる。 - これらの指標の中で,差はあるが定量的にも一致す ると言えるものは,u であった. Fig.6 において,解析
(2) 2, Fig.9 Distribution of rotation値は計測値に対して,0.3 - 2.3 倍の差である.さらに,弾性波の強度分布を表す指標以外の指標に おいては,加振入力変位を伝播させようとした方向以 外の方向において,弾性波の広がりや反射によってそ の強度が生じている. このことは,加振入力の振動方 向と伝播方向によって,異なる弾性波強度指標による 評価の可能性または必要性を示唆するものである.
3.1解析モデル * Fig2 に示した解析モデルに, Fig.10 に示す円形のく ぼみを欠陥として配置した. z-H の表面上, x 方向位置 L-0.75m の位置を中心とする直径 DI-100mm, 深さ d4-8mm の円柱状のくぼみである.表面上のL-40 mm, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範 囲 (以下,それぞれ入力範囲 S および L とする)とし, その他の解析条件は 2.1 に示したものと同じである. 3.欠陥反射波強度の評価子は,2.2 で述べた1振動子探触子と,その振動子を3個並列に使用して, 寸法が奥行 40mm×幅 120mm相当 3.1解析モデルの探触子を用いた. この2種類の探触子は,解析にお * Fig2 に示した解析モデルに, Fig.10 に示す円形のく ける入力範囲 S およびLに相当する. ぼみを欠陥として配置した. Z-H の表面上, x 方向位置 Lu=0.75m の位置を中心とする直径 DH=100mm, 深さ -3.3 欠陥反射波伝播の可視化 dq=8mm の円柱状のくぼみである.表面上の L=40 mm, Fig.12 に入力範囲 S, Fig.13 に入力範囲Lについての, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範 解析モデル表面 z=Hおよび断面y=0 におけるせん断ひ 囲 (以下,それぞれ入力範囲 S およびL とする)とし, ずみ/ 2.0の分布による,時刻 t/T70 および 120 にお その他の解析条件は 2.1 に示したものと同じである. ける欠陥反射波を示す.
3.2 試験体実験には, Fig.3 に示した試験体を用いた. 欠陥反射 波の評価のための欠陥は,直径 100mm, 最大深さ9.5mm の凹面状の人工のくぼみである. くぼみの位置は,試 験体長手方向の一方の端面からの距離約 400mm の片 側表面上である.Fig.11 に欠陥反射波測定の実験方法を示す.試験体 の小さいくぼみから異なる距離の位置に超音波探触子を配置して,欠陥反射波の測定を行った.超音波探触 1 に欠陥反射波測定の実験方法を示す.試験体 いくぼみから異なる距離の位置に超音波探触子 して,欠陥反射波の測定を行った.超音波探触 3.3 欠陥反射波伝播の可視化Fig.12 に入力範囲 S, Fig.13 に入力範囲Lについての、 解析モデル表面 z-H および断面y=0 におけるせん断ひ Distribution of shear strain Yx (z=0, y=0) (Input area
3.4 欠陥反射波強度の評価Fig.14 に,小さいくぼみからの距離が異なる位置に おける反射波強度の計測値と 0.75m の位置における反 射波強度の解析値の比較を示す. 解析値は, 3.5 におい て強度指標として評価選定した変位 である.計測値 P は超音波探触子入力位置における計測値 Poにより, 解析値は入力変位の振幅 Aoにより,規格化したもの である。 - 解析値は探触子計測値に対して, 探触子(入力範囲) Lの場合には 1.9倍,探触子(入力範囲) S の場合には 1.4 倍の差があるが,加振入力位置における値を基準に 欠陥反射波強度を評価することが可能であると考えら れる.
Fig..14 Comparison between calculation and experiment(reflected waves signals from small hollow)4.結言平鋼板における SH 波の伝播を例に,超音波探触子 計測値を再現するような弾性波伝播解析における弾性 波強度の指標を検討し,弾性波伝播解析において,こ の指標によって実験計測により得られた欠陥反射波強 度の再現を確認した.このような弾性波強度指標による評価は,対象とす る構造物と入力加振方向に応じて行うことが可能であ る。一方,弾性波の伝播に伴い,加振入力の振動方向以 外の方向に係る変位,せん断ひずみ成分および回転成 分の発生が確認された,構造物の形状,超音波探触子 の種類と配置位置,欠陥の形状等によって,計測する べき弾性波強度指標が変化する可能性が考えられる. このことは,弾性波伝播解析により,対象問題における弾性波伝播強度指標を明らかにすることによって, 超音波の送信と受信における最適な振動方向を選定す ることに対しても有効であると考えられる.このよう なことは,実験だけでは解決が困難であり,弾性波伝 播解析によってこそ可能なものであり,解析による支 援が有効,不可欠であると言える.
-231“ “?アクセス不能構造物における弾性波伝播解析による弾性波強度指標評価の試み“ “石田 仁志,Hitoshi ISHIDA,飯井 俊行,Toshiyuki MESHII
本研究は,構造物におけるアクセス不能位置に対す る超音波探傷試験システムの開発を,弾性波伝播解析 により支援することを試み,迅速で合理的な超音波探 傷試験技術の開発に資することを目的とする.アクセス不能位置に対して超音波探傷試験を実施す るためには,そのアクセスできない試験対象位置まで 超音波を伝播させ,そこからの反射波をアクセス可能 位置で受信する必要がある.そのためには,構造物伝 播中の超音波減衰を経て,構造物の形状等により発生 する他の反射波やノイズから識別できるだけの強度の 反射波を与える定量的な超音波入力条件を選定するこ とが必要である.アクセス不能位置に対する超音波探傷試験技術の候 補の一つとして, ガイド波が挙げられる.ガイド波は, 構造物境界面に沿って超音波が伝播するものであり, ガイド波の理論として体系化されてはいるが(4)~(7), 実 機への適用研究(8)~(11)は、配管やレールなど複雑な断面 形状の構造物と想定欠陥に応じて,装置の試作と模擬試験体による実験検証という手法により進められてい るのが現状である.また,一般的な探触子の設計にお いては,扱う超音波モードを限定すれば,単純な音波 としての音場計算(4000(7)(12)-(17)により超音波伝播特性の 評価が可能な場合もある.しかしアクセス不能位置を 探傷とする場合に必要となる材料表面での反射を伴う 伝播現象や欠陥反射波の評価は容易ではない. さらに, 原子力発電所の容器,配管の溶接部を対象とするよう な供用期間中検査(1)~(3)は定型化されており,あらため て入力強度の評価が必要となるようなこともない.このように採用する超音波の種類に応じて,その伝 播理論に基づき,装置の試作と試験体対象構造物のモ ックアップを用いた実験検証がなされているようでは あるが,入力強度を定量的に評価するために,明確な 定量的な目標の下,評価選定が必ずしもなされてはい ないのではないかと考えた. そこで,超音波探傷試験 システム仕様の選定とモックアップを用いた実験検証 を解析により実施し,超音波の入力強度などの仕様検 討を定量的に行うことを考えた.
Specification foulmasonic testing systemFrequency(Period) Ultrasonic waves modeBoundary conditions for specificationFemany(Period) Ultrasonic waves k mode11. Anplitude5AmplitudeBoucary conditionsDuration (Bandwidth)(Bandwidth)Mockup of inspected structureTransducerInputAnalysis model for inspected structureGeometryPropagation distance 1 dimensionPropagation pathFlamintdimasjonPropagailten distance Propagation pathというultrasonic flaw detectorautoutReflection11ModelingRectionReceiving sigmal by transduceRefraction angleMaterial propertysvahuation of ekastic guantityRefraction angle +i Material propertyDerected objectI Detected objectDetecttion of reflected wavesDetecttion of reflected wavesPropagation velocity AttentionPropagation velocity AttentionSimulatedmoise levelMshing determinationSimulation for quantity of elastic wavesExperimentAnalysisFig.1 Ultrasonic testing system development supported by elastic waves analysisFig.1 に超音波探傷試験システム開発支援の概念を 示す.超音波探傷システムにより構造物に入力され, 欠陥において反射し,伝播する弾性波の伝播現象を, 弾性波伝播解析により再現することによって,対象と する欠陥反射波の検出が可能な超音波探傷試験システ ムの仕様を選定することである.そのためには,解析手法とした有限要素解析手法に おいて適切に有効な解析結果を得ることと超音波探触 子計測値に対する弾性波伝播解析における弾性波強度 指標を明らかにすることが必要であると考えた. そこ で,合理的な要素分割選定法を検討し,これを用いた 弾性波伝播解析により弾性波強度と欠陥反射波強度を 定量評価し,欠陥検出可否を予測することによって, 解析による支援を試みるものである. 1. 本報では,まずは平鋼板上の超音波探触子から伝播 する弾性波を例に試みた結果を示す,弾性波伝播解析 により弾性波伝播状況を可視化し,超音波探触子計測 値に対する弾性波伝播解析における弾性波強度指標を 検討する。 * 最後に,欠陥反射波の発生と伝播を弾性波伝播状況 の可視化により確認し,受信位置における欠陥反射波 強度によりその検出可否を推定し,実験により検証する.なお,有限要素解析手法おける要素分割選定法の詳 細は,既報(18)に委ねた.22. 弾性波強度指標の検討2.1 解析モデル平鋼板における弾性波伝播の解析を, Fig.2 によりモ デル化し, 寸法 L=1.0m, W=0.5m, H-40mm の静止状 態にある鋼板において,その表面上の L-40mm, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範囲とし, 時刻 >0 に変位 u()を与えることにより加振されると した.今回の問題では, この u()は, 周波数 f0.3MHz, 振幅 Ao=1.0 x 10““ m, 継続時間 t =2T(=21) s の正弦波状 の SH 波(Shear horizontal waves: SH waves)を対象とした. また,入力範囲において加振振幅は一定とした.板の 材料定数は,ヤング率 E-206 GPa, ポアソン比 v=0.3, 密度 p =7 700 kg/m3 とした. 解析モデルは, 8節点六面 体要素を用い,分割数は IM 法(18)により選定し,総自 由度は 656 760 である.時間増分は,正弦波の時刻に おける離散化において, 正弦波の振幅値を 5%以内の誤 差で再現可能な分割数である T/10 とした.
平鋼板における弾性波伝播の実験に用いた試験体を Fig.3 に示す. 試験体は, 厚さ 38mm, 長さ 2.0m, 幅 1.0m の炭素鋼板である.試験体には,欠陥反射波の評価に 使用する欠陥であるくぼみが加工され,これの影響の ない範囲で, Fig.2 の解析モデルに相当する範囲で測定 実験を行った. 測定実験には, 振動子寸法が奥行 40mm ×幅 40mm の SH 波探触子を使用した.弾性波伝播解 析と同じく,周波数は,0.3MHz,公称屈折角は 90 度 である。
Fig.3 A mock-up test assembly for the experiments2.3 弾性波強度の評価 * Fig.4 に示す解析モデルおよび試験体の E-H の xy 表 面上のy=0, 100, 200, x0-900mm の 100mm 毎の点にお ける, W-40mm の場合の弾性波伝播解析による弾性波 強度と超音波探触子の計測値を比較して検討する.Evaluationpoint (C-
Transit (Transmitter) (1,-34.0x10mg(2) Mock-up plate for experiment Fig.4 Evaluation points of elastic waves intensity2.4 弾性波伝播状況の可視化 * 弾性波伝播領域における弾性波の伝播状況を可視化 した. SH 波の伝播は波動方程式における回転により表さ れる. ここでは,後述のように回転 a, と同等の値であるせ ん断ひずみにより,弾性波強度の分布を表示した. Fig.5 に, 解析モデル表面 E-H(加振入力位置のある面) および断面y=0 におけるせん断ひずみの分布の, 時刻 t/T30, 60 の例を示す. せん断ひずみの値について, 加 振入力節点の入力時刻における最大せん断ひずみ)に より規格化した値を区分し表している.
(2) t/T-60 Fig.5 Distribution of shear strain Yxy (z=H, y=0)2.5 弾性波強度の解析と実験の比較 - 弾性波強度として,変位(displacement)u, U, W, 体積ひ ずみ(volumetric strain)e, せん断ひずみ(shear strain)Yay Xpe, Y, 回転(rotation)or, 0, 0, について評価した. それぞ れ,Fig.6, Fig.7, Fig.8 および Fig.9 に, 加振入力位置から の距離 r による変化を, 加振入力位置におけるそれぞれ の値で規格化して示す.なお, 解析値が0であるy=0 にお ける, full, swl, E, Iyal, lo,は, 表示していない. それぞれの 位置における観測値において, Fig.5 において観察され た最も早い時刻に到達する先端の伝播波に相当する時 刻の振幅により算出している.それぞれの図には,超 音波探触子入力位置の計測値により規格化した超音波 探触子計測値も示している. 1. 本研究で例とした平鋼板において伝播する SH 波に 対しては, 超音波探触子による計測値の分布状況は, 0, - 228 -2, sz, 0, 0, が良く対応している.これらの指標は、 加振入力変位 の振動方向であるy方向に関係するも のである.加振入力の振動方向が異なれば,対応する 変位,せん断ひずみ,回転の成分は変化するものと考 えられる。 - これらの指標の中で,差はあるが定量的にも一致す ると言えるものは,u であった. Fig.6 において,解析
(2) 2, Fig.9 Distribution of rotation値は計測値に対して,0.3 - 2.3 倍の差である.さらに,弾性波の強度分布を表す指標以外の指標に おいては,加振入力変位を伝播させようとした方向以 外の方向において,弾性波の広がりや反射によってそ の強度が生じている. このことは,加振入力の振動方 向と伝播方向によって,異なる弾性波強度指標による 評価の可能性または必要性を示唆するものである.
3.1解析モデル * Fig2 に示した解析モデルに, Fig.10 に示す円形のく ぼみを欠陥として配置した. z-H の表面上, x 方向位置 L-0.75m の位置を中心とする直径 DI-100mm, 深さ d4-8mm の円柱状のくぼみである.表面上のL-40 mm, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範 囲 (以下,それぞれ入力範囲 S および L とする)とし, その他の解析条件は 2.1 に示したものと同じである. 3.欠陥反射波強度の評価子は,2.2 で述べた1振動子探触子と,その振動子を3個並列に使用して, 寸法が奥行 40mm×幅 120mm相当 3.1解析モデルの探触子を用いた. この2種類の探触子は,解析にお * Fig2 に示した解析モデルに, Fig.10 に示す円形のく ける入力範囲 S およびLに相当する. ぼみを欠陥として配置した. Z-H の表面上, x 方向位置 Lu=0.75m の位置を中心とする直径 DH=100mm, 深さ -3.3 欠陥反射波伝播の可視化 dq=8mm の円柱状のくぼみである.表面上の L=40 mm, Fig.12 に入力範囲 S, Fig.13 に入力範囲Lについての, W=40, 120mm を探触子の配置領域に相当する入力範 解析モデル表面 z=Hおよび断面y=0 におけるせん断ひ 囲 (以下,それぞれ入力範囲 S およびL とする)とし, ずみ/ 2.0の分布による,時刻 t/T70 および 120 にお その他の解析条件は 2.1 に示したものと同じである. ける欠陥反射波を示す.
3.2 試験体実験には, Fig.3 に示した試験体を用いた. 欠陥反射 波の評価のための欠陥は,直径 100mm, 最大深さ9.5mm の凹面状の人工のくぼみである. くぼみの位置は,試 験体長手方向の一方の端面からの距離約 400mm の片 側表面上である.Fig.11 に欠陥反射波測定の実験方法を示す.試験体 の小さいくぼみから異なる距離の位置に超音波探触子を配置して,欠陥反射波の測定を行った.超音波探触 1 に欠陥反射波測定の実験方法を示す.試験体 いくぼみから異なる距離の位置に超音波探触子 して,欠陥反射波の測定を行った.超音波探触 3.3 欠陥反射波伝播の可視化Fig.12 に入力範囲 S, Fig.13 に入力範囲Lについての、 解析モデル表面 z-H および断面y=0 におけるせん断ひ Distribution of shear strain Yx (z=0, y=0) (Input area
3.4 欠陥反射波強度の評価Fig.14 に,小さいくぼみからの距離が異なる位置に おける反射波強度の計測値と 0.75m の位置における反 射波強度の解析値の比較を示す. 解析値は, 3.5 におい て強度指標として評価選定した変位 である.計測値 P は超音波探触子入力位置における計測値 Poにより, 解析値は入力変位の振幅 Aoにより,規格化したもの である。 - 解析値は探触子計測値に対して, 探触子(入力範囲) Lの場合には 1.9倍,探触子(入力範囲) S の場合には 1.4 倍の差があるが,加振入力位置における値を基準に 欠陥反射波強度を評価することが可能であると考えら れる.
Fig..14 Comparison between calculation and experiment(reflected waves signals from small hollow)4.結言平鋼板における SH 波の伝播を例に,超音波探触子 計測値を再現するような弾性波伝播解析における弾性 波強度の指標を検討し,弾性波伝播解析において,こ の指標によって実験計測により得られた欠陥反射波強 度の再現を確認した.このような弾性波強度指標による評価は,対象とす る構造物と入力加振方向に応じて行うことが可能であ る。一方,弾性波の伝播に伴い,加振入力の振動方向以 外の方向に係る変位,せん断ひずみ成分および回転成 分の発生が確認された,構造物の形状,超音波探触子 の種類と配置位置,欠陥の形状等によって,計測する べき弾性波強度指標が変化する可能性が考えられる. このことは,弾性波伝播解析により,対象問題における弾性波伝播強度指標を明らかにすることによって, 超音波の送信と受信における最適な振動方向を選定す ることに対しても有効であると考えられる.このよう なことは,実験だけでは解決が困難であり,弾性波伝 播解析によってこそ可能なものであり,解析による支 援が有効,不可欠であると言える.
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