小口径配管溶接部に対するSonic-IR 法の適用性評価
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
アクティブ赤外線サーモグラフィ法の1つに、試験 対象物を超音波で加振させた場合の発熱検知に基づく 手法があり、Sonic-IR などと呼ばれている[1]-[4]。手法 の提案は 1970 年代まで遡るが、近年の赤外線サーモグ ラフィの高精度化により、微小な温度上昇が検知でき るようになり、最近再び注目を集めている。Sonic-IR 法の特長の1つとして、閉じたき裂を高感度に検出で きる可能性があることが挙げられる。これまでの研究 では、閉じたき裂を形成するため、他の非破壊検査で は検出困難な場合が生じる、応力腐食割れ(SCC)に 対する適用性の基礎検討を行い、ハンディタイプの非 冷却型赤外線サーモグラフィを用いて、平板試験片に 付与した SCC が検出可能であることを確認している [5-6]。Sonic-IR 法は、検査部位に対して超音波を入射 するわずかな接触面積しか必要としないことから、超 音波検査(UT)や渦電流検査(ECT)で用いられるセ ンサの近接が困難な複雑部位に対する適用も可能であ る。そこで、本研究では UTやECT の適用が困難な小 口径配管溶接部に対する Sonic-IR 法の適用性について 評価した。
2. Sonic-IR 法* Sonic-IR 法の原理を図1に示す。超音波加振器で発 生した超音波は、試験体に接触させたホーンを介して 試験体に入射され、試験体内を伝播する。き裂面では、 面同士を振動させるため、き裂面が接触していれば、 その部分で摩擦熱が発生する。赤外線サーモグラフィ により試験体表面温度を測定することで、摩擦熱の発 生を検知できるため、き裂の検知が可能である。き裂 が表面に到達していれば、摩擦熱の発生による顕著な 温度変化を検知できるため、高感度に検出することが できる。また、摩擦熱の発生が表面下に内在している 場合にも、熱伝導により表面に温度変化が現れれば、 き裂の検出はある程度可能であると考えられる。赤外 線サーモグラフィカメラは検査対象物に非接触で温度 変化を測定できるため、超音波を入射するホーン先端 のわずかな接触面積のみで検査が可能である。超音波ホーン赤外線 サーモグラフィ図1 Sonic-IR 法の原理
3.実験装置 * 本実験では、現場で作業者がハンドヘルドで試験す ることを想定し、超音波発振器として、比較的低出力 のハンディタイプ(超音波工業 USWP-200Z28S-U、周 波数 28kHz、出力 200W)を選定した。また、ハンドへ ルドによる加振時の接触性を考慮し、先端形状を R30mm の球面形状とした超音波ホーンを製作した。赤外線サーモグラフィとしては、検出波長帯 8~14μ m の2次元アレイセンサを搭載したハンディタイプの 非冷却型赤外線サーモグラフィ(NEC/Avio 赤外線テ クノロジー TH9260)を用いた。試験状況を図 2 に示 す。超音波ホーン試驗体加振器赤外線サーモグラフィ図2 Sonic-IR 法の試験状況4. 測定試験結果 1. 本研究では UTやECT の適用が困難な小口径配管溶 接部の割れを測定対象とした。試験体例を図3に示す。 SUS 製の平板とか27mm(肉厚 3mm)の配管を溶接割 れが入るよう意図的に溶接したものであり、全6体の 試験体に対して、それぞれ2 箇所の溶接割れを付与し ている。 - 試験体に対する Sonic-IR 法の適用結果例を図4に 示す。ホーンの押し付け位置にもよるが、超音波加 振時に溶接部における割れ位置での発熱が確認出来 る。試験体6体(割れ 12個)に対して測定を行った 結果、全ての割れを検出することが出来た。比較の ため、配管外面からUT(横波 45 度)による測定も 行ったが、配管の曲率によるカップリング不足や超 音波の複雑な反射・散乱などにより、割れを検出す るのは困難であった。SUS配管 外径:027mm 肉厚:3mm(a) 可視画像SUS 平板 寸法:100×100mm 厚さ:14mm(b) PT *図3 試験体例(a)加振前割れ (発熱量:2.7 度)(b)加振時 図4 熱画像例2555. まとめUT や ECT などの既存の非破壊検査手法の適用が困 難である小口径配管溶接部に対して、ハンディタイプ の赤外線サーモグラフィを用いた Sonic-IR 法を適用し た結果、全ての溶接割れを検出することが出来た。し かし、割れ位置での発熱の有無や発熱温度は、試験体 の固定状況や加振位置によって大きく異なっていた。 この原因については、詳細な検討が必要であるが、き 裂の閉口度や深さ、試験体内での超音波挙動の違いが 発熱に影響しているものと推測される。 今後は、以下の項目について検討予定である。 ・ 割れの破壊観察 ・ 動画測定を用いた加振条件(ホーンの押付け位置、加振時間など)の影響評価 ・ 加振装置(周波数、出力)の最適化 ・ シミュレーションによる超音波挙動の解析6. 参考文献[1] L.D. Favro et.al., “Sonic IR Imaging of Cracks andDelaminations”, Analytical Sciences, Vol.17, April 2001,pp.s451-5453. [2] M.W. Burke and W.O. Miller, “Status of VibroIR atLawrence Livermore National Laboratory”, Proc. ofSPIE, Vol.5405, 2004, pp.313-321. [3] D. Mayton and F. Spencer, “A Design of ExperimentsApproach to Characterizing the Effects of Sonic IRVariables““, Proc. of SPIE, Vol.5405, 2004, pp.322-331. [4] S.M. Shepard, T. Ahmed and J.R. Lhota, “ExperimentalConsiderations in Vibrothermography”, Proc. of SPIE,Vol.5405, 2004, pp.332-335. [5] 松本善博、阪上隆英他、“Sonic-IR 法による応力腐食割れ検出技術”、日本保全学会第 4 回学術講演会要旨集、2007、pp.305-306 [6] 勝又陵介、松本善博他、“Sonic-IR 法による平板SCC の検出性評価”、日本保全学会第5回学術講演 会要旨集、2008、pp.243-245256“ “小口径配管溶接部に対する Sonic-IR 法の適用性評価“ “勝又 陵介,Ryosuke KATSUMATA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA,坂上 隆英,Takahide SAKAGAMI,久保 司郎,Shiro KUBO
アクティブ赤外線サーモグラフィ法の1つに、試験 対象物を超音波で加振させた場合の発熱検知に基づく 手法があり、Sonic-IR などと呼ばれている[1]-[4]。手法 の提案は 1970 年代まで遡るが、近年の赤外線サーモグ ラフィの高精度化により、微小な温度上昇が検知でき るようになり、最近再び注目を集めている。Sonic-IR 法の特長の1つとして、閉じたき裂を高感度に検出で きる可能性があることが挙げられる。これまでの研究 では、閉じたき裂を形成するため、他の非破壊検査で は検出困難な場合が生じる、応力腐食割れ(SCC)に 対する適用性の基礎検討を行い、ハンディタイプの非 冷却型赤外線サーモグラフィを用いて、平板試験片に 付与した SCC が検出可能であることを確認している [5-6]。Sonic-IR 法は、検査部位に対して超音波を入射 するわずかな接触面積しか必要としないことから、超 音波検査(UT)や渦電流検査(ECT)で用いられるセ ンサの近接が困難な複雑部位に対する適用も可能であ る。そこで、本研究では UTやECT の適用が困難な小 口径配管溶接部に対する Sonic-IR 法の適用性について 評価した。
2. Sonic-IR 法* Sonic-IR 法の原理を図1に示す。超音波加振器で発 生した超音波は、試験体に接触させたホーンを介して 試験体に入射され、試験体内を伝播する。き裂面では、 面同士を振動させるため、き裂面が接触していれば、 その部分で摩擦熱が発生する。赤外線サーモグラフィ により試験体表面温度を測定することで、摩擦熱の発 生を検知できるため、き裂の検知が可能である。き裂 が表面に到達していれば、摩擦熱の発生による顕著な 温度変化を検知できるため、高感度に検出することが できる。また、摩擦熱の発生が表面下に内在している 場合にも、熱伝導により表面に温度変化が現れれば、 き裂の検出はある程度可能であると考えられる。赤外 線サーモグラフィカメラは検査対象物に非接触で温度 変化を測定できるため、超音波を入射するホーン先端 のわずかな接触面積のみで検査が可能である。超音波ホーン赤外線 サーモグラフィ図1 Sonic-IR 法の原理
3.実験装置 * 本実験では、現場で作業者がハンドヘルドで試験す ることを想定し、超音波発振器として、比較的低出力 のハンディタイプ(超音波工業 USWP-200Z28S-U、周 波数 28kHz、出力 200W)を選定した。また、ハンドへ ルドによる加振時の接触性を考慮し、先端形状を R30mm の球面形状とした超音波ホーンを製作した。赤外線サーモグラフィとしては、検出波長帯 8~14μ m の2次元アレイセンサを搭載したハンディタイプの 非冷却型赤外線サーモグラフィ(NEC/Avio 赤外線テ クノロジー TH9260)を用いた。試験状況を図 2 に示 す。超音波ホーン試驗体加振器赤外線サーモグラフィ図2 Sonic-IR 法の試験状況4. 測定試験結果 1. 本研究では UTやECT の適用が困難な小口径配管溶 接部の割れを測定対象とした。試験体例を図3に示す。 SUS 製の平板とか27mm(肉厚 3mm)の配管を溶接割 れが入るよう意図的に溶接したものであり、全6体の 試験体に対して、それぞれ2 箇所の溶接割れを付与し ている。 - 試験体に対する Sonic-IR 法の適用結果例を図4に 示す。ホーンの押し付け位置にもよるが、超音波加 振時に溶接部における割れ位置での発熱が確認出来 る。試験体6体(割れ 12個)に対して測定を行った 結果、全ての割れを検出することが出来た。比較の ため、配管外面からUT(横波 45 度)による測定も 行ったが、配管の曲率によるカップリング不足や超 音波の複雑な反射・散乱などにより、割れを検出す るのは困難であった。SUS配管 外径:027mm 肉厚:3mm(a) 可視画像SUS 平板 寸法:100×100mm 厚さ:14mm(b) PT *図3 試験体例(a)加振前割れ (発熱量:2.7 度)(b)加振時 図4 熱画像例2555. まとめUT や ECT などの既存の非破壊検査手法の適用が困 難である小口径配管溶接部に対して、ハンディタイプ の赤外線サーモグラフィを用いた Sonic-IR 法を適用し た結果、全ての溶接割れを検出することが出来た。し かし、割れ位置での発熱の有無や発熱温度は、試験体 の固定状況や加振位置によって大きく異なっていた。 この原因については、詳細な検討が必要であるが、き 裂の閉口度や深さ、試験体内での超音波挙動の違いが 発熱に影響しているものと推測される。 今後は、以下の項目について検討予定である。 ・ 割れの破壊観察 ・ 動画測定を用いた加振条件(ホーンの押付け位置、加振時間など)の影響評価 ・ 加振装置(周波数、出力)の最適化 ・ シミュレーションによる超音波挙動の解析6. 参考文献[1] L.D. Favro et.al., “Sonic IR Imaging of Cracks andDelaminations”, Analytical Sciences, Vol.17, April 2001,pp.s451-5453. [2] M.W. Burke and W.O. Miller, “Status of VibroIR atLawrence Livermore National Laboratory”, Proc. ofSPIE, Vol.5405, 2004, pp.313-321. [3] D. Mayton and F. Spencer, “A Design of ExperimentsApproach to Characterizing the Effects of Sonic IRVariables““, Proc. of SPIE, Vol.5405, 2004, pp.322-331. [4] S.M. Shepard, T. Ahmed and J.R. Lhota, “ExperimentalConsiderations in Vibrothermography”, Proc. of SPIE,Vol.5405, 2004, pp.332-335. [5] 松本善博、阪上隆英他、“Sonic-IR 法による応力腐食割れ検出技術”、日本保全学会第 4 回学術講演会要旨集、2007、pp.305-306 [6] 勝又陵介、松本善博他、“Sonic-IR 法による平板SCC の検出性評価”、日本保全学会第5回学術講演 会要旨集、2008、pp.243-245256“ “小口径配管溶接部に対する Sonic-IR 法の適用性評価“ “勝又 陵介,Ryosuke KATSUMATA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA,坂上 隆英,Takahide SAKAGAMI,久保 司郎,Shiro KUBO