JRR-4 反射体要素の割れ事象の発生及び今後の保全
公開日:
カテゴリ: 第6回
1. 緒言
JRR-4 (Japan Research Reactor No.4)において、平 成19年(2007 年)12月28日に、1体の反射体要素の 溶接部に割れが確認された。このため、JRR-4 では平 成20年(2008 年)1月8日から予定していた運転を延 期して、割れの原因調査を行った。割れの原因調査の 進歩により、内蔵された黒鉛反射材が設計段階の予想 を上回り膨張したことが、割れの主たる要因と推定さ れたため、割れの生じていない他の反射体要素につい て放射線透過試験を実施し、その結果を今後の反射体 に関する保全に反映させることとした。 1. 本報告は、JRR-4 反射体要素の割れ事象の原因調査と、今後の反射体要素における管理についてまとめた ものである。
2.概要
2.1 JRR-4 の概要JRR-4 は、濃縮ウラン軽水減速冷却スイミングプー ル型の熱出力 3,500kW の研究用原子炉である。JRR-4連絡先:坂田茉美、〒319-1112 茨城県那珂郡東海村 白方白根 2-4、日本原子力研究開発機構、電話: 029-282-6517, e-mail : sakata. mami@jaea. go.jpは、中出力炉の特性を活かした小回りの利くディリー 運転形態(1日の中で起動・停止を行う運転)とし、 広範囲な利用に対応している。主な利用目的として、 医療照射、原子炉技術者養成、放射化分析、ラジオア イソトープの製造等が挙げられる。原子炉の炉心部は、炉心ブリッジから吊り下げられ た炉心タンク内に納められ、水深約 9.8m のプール中に 置かれている。炉心部は燃料要素、反射体要素、格子 板、制御棒等から構成され、反射体領域には照射筒が 設置されている。図1 に JRR-4 の炉心配置図を示す。12345678燃料要素制御棒照射筒HTT普通反射体要素るし大型反射体要素1型大型反射体要素1型HOTAAA特殊反射体要素1型特殊反射体要素II型特殊反射体要素II型割れの生じた反射体要素図1 JRR-4 炉心配置図2752.2 反射体要素JRR-4 では、36 体の反射体要素を使用している。反 射体要素は、材質で分類すれば、黒鉛をアルミニウム 合金で被覆したもの及びアルミニウム合金のみからな るものの2種類がある。形状で分類すれば、普通反射 体要素、大型反射体要素I型、大型反射体要素II型、 特殊反射体要素I型、特殊反射体要素III型及び特殊反 射体要素II型(中性子源)の6種類に分けられる。割れが生じた反射体要素(SD-86-04)は普通反射体 要素であり、被覆材ケース、吊手部、継手部及びプラ グ部からなり、黒鉛反射材を内蔵する構造である。被 覆材ケースの材質は、A6063S-T5 であり、吊手部、継 手部及びプラグ部の材質は、A5052 である。被覆材ケ ースと継手部の溶接には、溶加棒として A4043 を使用 している。反射材である黒鉛には、等方性黒鉛 IG-110 を用いている。反射体要素の組立寸法は、1025×80×80 mm、被覆材ケースの寸法は、695×74×74mm、黒鉛反射 材の寸法は 691×72×72mm であり、黒鉛反射材と被覆 材ケースのギャップは、上部で 4mm、側面で 1mm、下部 は、被覆材ケースと黒鉛反射材が接している構造であ る。図2に普通反射体要素の概略図を示す。吊手部 -溶接部黒鉛反射材部H025mmアルミニウム 被覆(厚さ 3mm) NY80mm 80mmプラグ部図2 普通反射体要素概略図3.割れが生じた反射体要素に係る調査 3.1 破断部の調査 - 破断部分の調査として、被覆材ケースを切断し、破 断面の腐食、損傷等の状況を目視観察した。また、被 覆材ケースを 13 分割して破断部ミクロ観察用の試験 片を作製し、13 個の試験片について走査型電子顕微鏡光学を用いた破断部のミクロ観察を行った。さらに、光学 顕微鏡を用いて破断面金属組織観察を行った。破断部の観察結果から、破断の主原因は、過大な応 力による延性破断と判断した。3.2 黒鉛反射材の調査 黒鉛反射材の調査として、始めに寸法測定を行った。 測定は黒鉛反射材の全長 (691mm)及び黒鉛反射材幅 (72mm)について行った。また、割れの生じた反射体 要素の内部には、水が入っていたことから、割れの発 生に対する水の影響を調べるために、比較用反射体要 素として外観上健全な特殊反射体要素 I型 (RR-85) を 切断し、内部の黒鉛反射材の寸法測定を行った。 - 割れが生じた反射体要素の黒鉛反射材に対する寸法 測定の結果、黒鉛反射材は、軸方向に約 7mm、径方向 に最大 2. 1mm 伸びていることが明らかとなった。高速 中性子(>0.183MeV) 照射量と寸法変化率の関係を調 べたところ、高速中性子照射量の増加とともに黒鉛反 射材の寸法変化率が大きくなっており、黒鉛反射材の 成長は高速中性子の照射による影響と判断した。比較 用に解体した特殊反射体要素 I型の黒鉛反射材の寸法 測定からも同様の結果が得られた。なお、特殊反射体 要素I型は平成 19 年(2007 年)に使用を終了して取 出し保管していた反射体要素である。図3に高速中性 子照射による黒鉛の寸法変化率を示す。●SD-86-04 ORR-85ト - - - ----+---+---+------------黒鉛反射材寸法変化率(%)Lilli Dril - -ートMTT---T---------+-----+----------T11--11234567高速中性子照射量(×10^n/m)高速中性子> 0.183MeV図3 高速中性子照射による黒鉛の寸法変化率2764.他の反射体要素に係る調査4.1 放射線透過試験 反射体要素溶接部の割れは、黒鉛反射材の照射成長 によるものと推定されたことから、保管品を含め継続 使用を予定していた黒鉛反射材を内蔵する反射体要素 33 体について放射線透過試験を実施し、黒鉛反射材上 面と被覆材ケース上面のギャップを測定することによ り、中性子照射量と黒鉛反射材の成長量の関係を調査 した。図4に放射線透過試験装置を示す。反射体要素X線強度調整用アルミ板X線発生器反射体ガイド鉛遮へいシート鉛シャッターフィルムケースガイド1時間制御器フィルムケースRT装置架台 Y耐放射線カメラ水準器位置決め用レーザーポインタ図4 放射線透過試験装置33 体の黒鉛反射材はすべて照射成長が認められた。 このうち 15 体の黒鉛反射材については、照射成長によ り反射体要素内の軸方向に設けられた初期ギャップが 無くなっていた。調査により照射量が 概ね 1.5×10-4 [n/m2]を超えると上部ギャップがなくなるこ とが分かった。ギャップのない反射体要素に関しては、 ギャップ量を超えて黒鉛が成長し、溶接部には応力が かかっていると推測できる。図5に反射体要素の高速 中性子照射量及び放射線透過試験で得られた黒鉛反射 材上面と被覆材ケースとのギャップ測定値の関係の調 査結果を示す。なお、高速中性子照射量の計算には汎 用核計算コードシステム(SRAC)を使用し、高速中性 子のエネルギー範囲を 0. 183MeV~10MeV として計算を した。|溶接部に割れのあった反射体要素※ グラフ上の数値は黒鉛反射材上面とアルミ 製被覆ケース内部上面とのギャップの測定値 (mm)を示す。グラフ上の×印はギャップなしを示す。XXsanneーーーー_ g0 x高速中性子照射量(×0.3S0日10.51901/08/232.1 01.2 10.9 10.7 11.380 80|一月2.202.2 G- 55.2G-1反射体要素(炉心挿入位置)図5 反射体要素の高速中性子量とギャップ寸法4.2 黒鉛の照射成長挙動JRR-4 照射環境下における黒鉛 IG-110 の照射成長挙 動を明確にするため、これまで使用してきた反射体要 素 13 体をさらに分解し、黒鉛反射材の寸法変化と高速 中性子照射量の関係について詳細に調査した。本調査により、特に黒鉛長手方向の寸法が被覆材ケ ース内寸法の 695mm より大幅に成長していなかった反 射体要素の場合、黒鉛反射材の寸法変化率は、高速中 性子照射量の増大とともに線形的に大きくなることを 確認できた。また、黒鉛長手方向の成長が 695mm より 大きかったものほど、黒鉛の寸法変化率と高速中性子 照射量の関係にバラツキが多かった。この原因として、 黒鉛反射材とアルミ被覆ケースが接触することにより、 黒鉛の寸法変化が抑制されたものと考える。図6に高 速中性子照射による黒鉛の寸法変化率を示す。原子炉級黒鉛は、600°C以上の照射温度場において中 性子照射量の増加とともに収縮することが示されてい るが[1]、JRR-4 のような低温照射環境において黒鉛反 射材は顕著な膨張を示した。黒鉛の寸法変化率と高速 中性子照射量の関係を評価した結果、高速中性子照射 量 2.5×101n/m2 以下において、照射成長係数(単位高 速中性子照射量あたりの寸法変化率)は最大 7.13 × 10-25%m/n、最低 4. 21 × 10-25%m/n、平均 5.71×10~25%m/n であった。277B(×1025%ml/n): 7.131.5鉛寸法変化率(%)OSD-85-01 ASD-86-01 OSD-86-02SD-86-03 ×SD-86-05 x SD-86-07 + SD-86-09 ・SD-97-3 ASD-97-4 ■SD-97-5SD-97-6 #GI-86-02 0A-3B:照射成長係数高速中性子照射量(×100/m2 図6 高速中性子照射による黒鉛の寸法変化率5. 反射体の管理 5.1 今までの保全JRR-4 では、原子炉の中性子束と運転時間からの照 射量によって反射体要素の管理が行われてきた。従来の反射体要素の設計にあたっては、黒鉛反射材 の成長は、ほとんどないものとして製作されていた。 そのため、反射体要素の管理は、起動前点検に行う炉 心タンク上からの目視点検や、施設定期検査ごとに行 う外観検査によって管理されてきた。また、黒鉛に高速中性子を照射することで生じる、 照射欠陥によるエネルギーの蓄積を考慮した照射量制 限値(1×1025n/m2以下)で反射対要素を交換してきた。5.2 今後の保全今回の調査により、当初の知見よりも低温である照 射場において、高速中性子の照射量の増大とともに黒 鉛反射材が膨張することが分かった。よって、JRR-4 では、原子炉の安全安定運転の観点から、本新知見を 反映した反射体要素の設計変更を行うこととした。設 計にあたっては、1反射体要素の組立寸法を変更しな いこと、2原子炉の照射性能を維持すること、3可能 な限り反射体要素交換時期を延長すること、等を念頭 に置き、4.2 項で述べた照射係数の最大値である 7.13 × 10~25%m/n を用いて、黒鉛の寸法を決定した。その結 果、上面ギャップを 15mm に広げるとともに、中性子束 の分布の差から生じる反りも考慮して、側面ギャップ を広げ、かつ、反転ができるものについては、反射体 要素の構造を変更させることとした。表1に変更前後 のギャップ寸法を示す。表1 変更前後のギャップ寸法ギャップ (num)反射体要素名側面上面燃料側燃料反対側横側普通反射体要素14→151→2特殊反射体要素I型 14→151.5→2特殊反射体要素II型 | 4→1512特殊反射体要素III型 | 5→151.5→2大型反射体要素I型 | 5→15 | 1.5→41.5→2 大型反射体要素II型 | 5→15 | 1.5→4 | 1.5-2 | 1.5→3 (従前のギャップ)→(今回のギャップ)また、黒鉛反射材の蓄積エネルギーについては、 JRR-4 での使用環境下において、エネルギー蓄積量が 多い反射体要素の炉心挿入位置を、照射温度がより高 温となる位置に変更した場合、変更前の挿入位置にお ける照射温度より 50°C以上に加熱されると、蓄積エネ ルギーが放出され、自己過熱を生じる可能性がある。 照射温度以上の加熱による蓄積エネルギーの放出を防 止するため、初期挿入位置から、より高温となる挿入 位置への移動は行わないこととする。これらの設計変更のもと、反射体要素の今後の管理 としては、従来どおりの検査を実施するとともに、今 回新たに反射体要素毎に定めた照射成長に関する照射 量制限値に基づき交換計画を計る。さらに、定期的に 放射線透過試験を行い、ギャップの有無により反射体 要素の健全性を確認するとともに、今後の取り扱いに 資するため照射成長の度合いも確認する。6.結言割れが生じた反射体要素の原因調査の結果、黒鉛反 射材の高速中性子照射による照射成長により、被覆材 ケースに応力がかかり、溶接部において延性破断が発 生した。設計段階では考えていなかった黒鉛の照射成 長が原因であるため、設計を変更するとともに、今ま での管理手法を変更する必要性が生じた。今後の保全としては、黒鉛反射材の照射成長という、 新たな技術的知見を反映した取り替え用反射体要素を 製作し、黒鉛の照射成長の健全性を確認するため、定 期的に放射線透過試験を行っていくこととする。参考文献 [1] 高温ガス炉炉心黒鉛構造物の構造設計指針:平成 12年 12月科学技術庁原子力安全局278“ “?JRR-4 反射体要素の割れ事象の発生及び今後の保全“ “坂田 茉美,Mami SAKATA,八木 理公,Masahiro YAGI,堀口 洋徳,Hironori HORIGUCHI,平根 伸彦,Nobuhiko HIRANE
JRR-4 (Japan Research Reactor No.4)において、平 成19年(2007 年)12月28日に、1体の反射体要素の 溶接部に割れが確認された。このため、JRR-4 では平 成20年(2008 年)1月8日から予定していた運転を延 期して、割れの原因調査を行った。割れの原因調査の 進歩により、内蔵された黒鉛反射材が設計段階の予想 を上回り膨張したことが、割れの主たる要因と推定さ れたため、割れの生じていない他の反射体要素につい て放射線透過試験を実施し、その結果を今後の反射体 に関する保全に反映させることとした。 1. 本報告は、JRR-4 反射体要素の割れ事象の原因調査と、今後の反射体要素における管理についてまとめた ものである。
2.概要
2.1 JRR-4 の概要JRR-4 は、濃縮ウラン軽水減速冷却スイミングプー ル型の熱出力 3,500kW の研究用原子炉である。JRR-4連絡先:坂田茉美、〒319-1112 茨城県那珂郡東海村 白方白根 2-4、日本原子力研究開発機構、電話: 029-282-6517, e-mail : sakata. mami@jaea. go.jpは、中出力炉の特性を活かした小回りの利くディリー 運転形態(1日の中で起動・停止を行う運転)とし、 広範囲な利用に対応している。主な利用目的として、 医療照射、原子炉技術者養成、放射化分析、ラジオア イソトープの製造等が挙げられる。原子炉の炉心部は、炉心ブリッジから吊り下げられ た炉心タンク内に納められ、水深約 9.8m のプール中に 置かれている。炉心部は燃料要素、反射体要素、格子 板、制御棒等から構成され、反射体領域には照射筒が 設置されている。図1 に JRR-4 の炉心配置図を示す。12345678燃料要素制御棒照射筒HTT普通反射体要素るし大型反射体要素1型大型反射体要素1型HOTAAA特殊反射体要素1型特殊反射体要素II型特殊反射体要素II型割れの生じた反射体要素図1 JRR-4 炉心配置図2752.2 反射体要素JRR-4 では、36 体の反射体要素を使用している。反 射体要素は、材質で分類すれば、黒鉛をアルミニウム 合金で被覆したもの及びアルミニウム合金のみからな るものの2種類がある。形状で分類すれば、普通反射 体要素、大型反射体要素I型、大型反射体要素II型、 特殊反射体要素I型、特殊反射体要素III型及び特殊反 射体要素II型(中性子源)の6種類に分けられる。割れが生じた反射体要素(SD-86-04)は普通反射体 要素であり、被覆材ケース、吊手部、継手部及びプラ グ部からなり、黒鉛反射材を内蔵する構造である。被 覆材ケースの材質は、A6063S-T5 であり、吊手部、継 手部及びプラグ部の材質は、A5052 である。被覆材ケ ースと継手部の溶接には、溶加棒として A4043 を使用 している。反射材である黒鉛には、等方性黒鉛 IG-110 を用いている。反射体要素の組立寸法は、1025×80×80 mm、被覆材ケースの寸法は、695×74×74mm、黒鉛反射 材の寸法は 691×72×72mm であり、黒鉛反射材と被覆 材ケースのギャップは、上部で 4mm、側面で 1mm、下部 は、被覆材ケースと黒鉛反射材が接している構造であ る。図2に普通反射体要素の概略図を示す。吊手部 -溶接部黒鉛反射材部H025mmアルミニウム 被覆(厚さ 3mm) NY80mm 80mmプラグ部図2 普通反射体要素概略図3.割れが生じた反射体要素に係る調査 3.1 破断部の調査 - 破断部分の調査として、被覆材ケースを切断し、破 断面の腐食、損傷等の状況を目視観察した。また、被 覆材ケースを 13 分割して破断部ミクロ観察用の試験 片を作製し、13 個の試験片について走査型電子顕微鏡光学を用いた破断部のミクロ観察を行った。さらに、光学 顕微鏡を用いて破断面金属組織観察を行った。破断部の観察結果から、破断の主原因は、過大な応 力による延性破断と判断した。3.2 黒鉛反射材の調査 黒鉛反射材の調査として、始めに寸法測定を行った。 測定は黒鉛反射材の全長 (691mm)及び黒鉛反射材幅 (72mm)について行った。また、割れの生じた反射体 要素の内部には、水が入っていたことから、割れの発 生に対する水の影響を調べるために、比較用反射体要 素として外観上健全な特殊反射体要素 I型 (RR-85) を 切断し、内部の黒鉛反射材の寸法測定を行った。 - 割れが生じた反射体要素の黒鉛反射材に対する寸法 測定の結果、黒鉛反射材は、軸方向に約 7mm、径方向 に最大 2. 1mm 伸びていることが明らかとなった。高速 中性子(>0.183MeV) 照射量と寸法変化率の関係を調 べたところ、高速中性子照射量の増加とともに黒鉛反 射材の寸法変化率が大きくなっており、黒鉛反射材の 成長は高速中性子の照射による影響と判断した。比較 用に解体した特殊反射体要素 I型の黒鉛反射材の寸法 測定からも同様の結果が得られた。なお、特殊反射体 要素I型は平成 19 年(2007 年)に使用を終了して取 出し保管していた反射体要素である。図3に高速中性 子照射による黒鉛の寸法変化率を示す。●SD-86-04 ORR-85ト - - - ----+---+---+------------黒鉛反射材寸法変化率(%)Lilli Dril - -ートMTT---T---------+-----+----------T11--11234567高速中性子照射量(×10^n/m)高速中性子> 0.183MeV図3 高速中性子照射による黒鉛の寸法変化率2764.他の反射体要素に係る調査4.1 放射線透過試験 反射体要素溶接部の割れは、黒鉛反射材の照射成長 によるものと推定されたことから、保管品を含め継続 使用を予定していた黒鉛反射材を内蔵する反射体要素 33 体について放射線透過試験を実施し、黒鉛反射材上 面と被覆材ケース上面のギャップを測定することによ り、中性子照射量と黒鉛反射材の成長量の関係を調査 した。図4に放射線透過試験装置を示す。反射体要素X線強度調整用アルミ板X線発生器反射体ガイド鉛遮へいシート鉛シャッターフィルムケースガイド1時間制御器フィルムケースRT装置架台 Y耐放射線カメラ水準器位置決め用レーザーポインタ図4 放射線透過試験装置33 体の黒鉛反射材はすべて照射成長が認められた。 このうち 15 体の黒鉛反射材については、照射成長によ り反射体要素内の軸方向に設けられた初期ギャップが 無くなっていた。調査により照射量が 概ね 1.5×10-4 [n/m2]を超えると上部ギャップがなくなるこ とが分かった。ギャップのない反射体要素に関しては、 ギャップ量を超えて黒鉛が成長し、溶接部には応力が かかっていると推測できる。図5に反射体要素の高速 中性子照射量及び放射線透過試験で得られた黒鉛反射 材上面と被覆材ケースとのギャップ測定値の関係の調 査結果を示す。なお、高速中性子照射量の計算には汎 用核計算コードシステム(SRAC)を使用し、高速中性 子のエネルギー範囲を 0. 183MeV~10MeV として計算を した。|溶接部に割れのあった反射体要素※ グラフ上の数値は黒鉛反射材上面とアルミ 製被覆ケース内部上面とのギャップの測定値 (mm)を示す。グラフ上の×印はギャップなしを示す。XXsanneーーーー_ g0 x高速中性子照射量(×0.3S0日10.51901/08/232.1 01.2 10.9 10.7 11.380 80|一月2.202.2 G- 55.2G-1反射体要素(炉心挿入位置)図5 反射体要素の高速中性子量とギャップ寸法4.2 黒鉛の照射成長挙動JRR-4 照射環境下における黒鉛 IG-110 の照射成長挙 動を明確にするため、これまで使用してきた反射体要 素 13 体をさらに分解し、黒鉛反射材の寸法変化と高速 中性子照射量の関係について詳細に調査した。本調査により、特に黒鉛長手方向の寸法が被覆材ケ ース内寸法の 695mm より大幅に成長していなかった反 射体要素の場合、黒鉛反射材の寸法変化率は、高速中 性子照射量の増大とともに線形的に大きくなることを 確認できた。また、黒鉛長手方向の成長が 695mm より 大きかったものほど、黒鉛の寸法変化率と高速中性子 照射量の関係にバラツキが多かった。この原因として、 黒鉛反射材とアルミ被覆ケースが接触することにより、 黒鉛の寸法変化が抑制されたものと考える。図6に高 速中性子照射による黒鉛の寸法変化率を示す。原子炉級黒鉛は、600°C以上の照射温度場において中 性子照射量の増加とともに収縮することが示されてい るが[1]、JRR-4 のような低温照射環境において黒鉛反 射材は顕著な膨張を示した。黒鉛の寸法変化率と高速 中性子照射量の関係を評価した結果、高速中性子照射 量 2.5×101n/m2 以下において、照射成長係数(単位高 速中性子照射量あたりの寸法変化率)は最大 7.13 × 10-25%m/n、最低 4. 21 × 10-25%m/n、平均 5.71×10~25%m/n であった。277B(×1025%ml/n): 7.131.5鉛寸法変化率(%)OSD-85-01 ASD-86-01 OSD-86-02SD-86-03 ×SD-86-05 x SD-86-07 + SD-86-09 ・SD-97-3 ASD-97-4 ■SD-97-5SD-97-6 #GI-86-02 0A-3B:照射成長係数高速中性子照射量(×100/m2 図6 高速中性子照射による黒鉛の寸法変化率5. 反射体の管理 5.1 今までの保全JRR-4 では、原子炉の中性子束と運転時間からの照 射量によって反射体要素の管理が行われてきた。従来の反射体要素の設計にあたっては、黒鉛反射材 の成長は、ほとんどないものとして製作されていた。 そのため、反射体要素の管理は、起動前点検に行う炉 心タンク上からの目視点検や、施設定期検査ごとに行 う外観検査によって管理されてきた。また、黒鉛に高速中性子を照射することで生じる、 照射欠陥によるエネルギーの蓄積を考慮した照射量制 限値(1×1025n/m2以下)で反射対要素を交換してきた。5.2 今後の保全今回の調査により、当初の知見よりも低温である照 射場において、高速中性子の照射量の増大とともに黒 鉛反射材が膨張することが分かった。よって、JRR-4 では、原子炉の安全安定運転の観点から、本新知見を 反映した反射体要素の設計変更を行うこととした。設 計にあたっては、1反射体要素の組立寸法を変更しな いこと、2原子炉の照射性能を維持すること、3可能 な限り反射体要素交換時期を延長すること、等を念頭 に置き、4.2 項で述べた照射係数の最大値である 7.13 × 10~25%m/n を用いて、黒鉛の寸法を決定した。その結 果、上面ギャップを 15mm に広げるとともに、中性子束 の分布の差から生じる反りも考慮して、側面ギャップ を広げ、かつ、反転ができるものについては、反射体 要素の構造を変更させることとした。表1に変更前後 のギャップ寸法を示す。表1 変更前後のギャップ寸法ギャップ (num)反射体要素名側面上面燃料側燃料反対側横側普通反射体要素14→151→2特殊反射体要素I型 14→151.5→2特殊反射体要素II型 | 4→1512特殊反射体要素III型 | 5→151.5→2大型反射体要素I型 | 5→15 | 1.5→41.5→2 大型反射体要素II型 | 5→15 | 1.5→4 | 1.5-2 | 1.5→3 (従前のギャップ)→(今回のギャップ)また、黒鉛反射材の蓄積エネルギーについては、 JRR-4 での使用環境下において、エネルギー蓄積量が 多い反射体要素の炉心挿入位置を、照射温度がより高 温となる位置に変更した場合、変更前の挿入位置にお ける照射温度より 50°C以上に加熱されると、蓄積エネ ルギーが放出され、自己過熱を生じる可能性がある。 照射温度以上の加熱による蓄積エネルギーの放出を防 止するため、初期挿入位置から、より高温となる挿入 位置への移動は行わないこととする。これらの設計変更のもと、反射体要素の今後の管理 としては、従来どおりの検査を実施するとともに、今 回新たに反射体要素毎に定めた照射成長に関する照射 量制限値に基づき交換計画を計る。さらに、定期的に 放射線透過試験を行い、ギャップの有無により反射体 要素の健全性を確認するとともに、今後の取り扱いに 資するため照射成長の度合いも確認する。6.結言割れが生じた反射体要素の原因調査の結果、黒鉛反 射材の高速中性子照射による照射成長により、被覆材 ケースに応力がかかり、溶接部において延性破断が発 生した。設計段階では考えていなかった黒鉛の照射成 長が原因であるため、設計を変更するとともに、今ま での管理手法を変更する必要性が生じた。今後の保全としては、黒鉛反射材の照射成長という、 新たな技術的知見を反映した取り替え用反射体要素を 製作し、黒鉛の照射成長の健全性を確認するため、定 期的に放射線透過試験を行っていくこととする。参考文献 [1] 高温ガス炉炉心黒鉛構造物の構造設計指針:平成 12年 12月科学技術庁原子力安全局278“ “?JRR-4 反射体要素の割れ事象の発生及び今後の保全“ “坂田 茉美,Mami SAKATA,八木 理公,Masahiro YAGI,堀口 洋徳,Hironori HORIGUCHI,平根 伸彦,Nobuhiko HIRANE