(2)高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化:国際的展開の状況

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カテゴリ: 第6回
1. はじめに
1 巨大複雑系社会経済システムとしての軽水炉の高経 年化対策は、今後の体系的な保全学の発展における中 核課題の一つであって、人工物システムにおける設 備・機器、技術・情報、組織・人間と社会・経営要因 等の制約条件の時間経過に伴う変化とそれらの間の相 互作用・知識変換過程を含む総合的な基盤を形成する ものと考えられる。本稿では、原子力安全に関連する 多様な知識基盤の蓄積とその活用に関する具体的活動 を俯瞰的に総括するとともに、我が国がリードしてい る国際的な活動について議論する。
2. 新検査制度における高経年化対策原子力安全・保安院(NISA)は、新しい検査制度に との整合を図るべく高経年化対策に係るガイドライン の改定を行っており、これに対応した標準審査要領と ともに規制要求の明確化、充実化を図っている。また 原子力安全基盤機構(JNES)は、高経年化技術評価審 査マニュアルを公表するとともに最新知見反映のため にこれらの改訂を進めてきている。 11 (社)日本原子力学会標準委員会では昨年度にシス テム安全専門部会を設置し、新検査制度への対応とガ イドライン等を念頭に「原子力発電所の高経年化対策 実施基準」改定に関する審議を行い、本年2月に AESJ-SC-P005:2008 として発刊した(以下、PLM 標準と
呼ぶ)。PLM 標準では、14 基の原子力発電所における高 経年化技術評価の知見を基に、構成機器毎に想定され る経年劣化事象を 1,000 ページ以上にわたる「経年劣 化メカニズムまとめ表」として取りまとめた。また、 運転初期からの経年劣化管理、10年毎、及び運転開始 30年以降の高経年化技術評価等の運転期間に応じた経 年劣化事象に対する活動内容を整理し、高経年化対策 をより広く定義づけることによって、保全プログラム と連携した実施内容とするように規定している。なお PLM 標準は、日本原子力学会が制定した標準として初 めてNISA の技術評価を受けている。(社)日本電気協会の原子力規格委員会は、「原子力 発電所の保守管理規程」(JEAC 4209-2007)を発行し、 「保全活動管理指標の設定・監視」、「保全の有効性評 価」を新しく設けて、事業者が行う保全活動の実績を 自ら監視し、客観的な評価を行い、継続的な改善を行 うようプログラムを充実させ、今後の保全プログラム に基づいた保守管理が行えるように規定している。JEAC4209で例示されている「劣化メカニズム整理表」 の基盤となる知見が、PLM 標準で示された「劣化メカ ニズムまとめ表」であり、日本原子力学会は今後とも 最新の知見を追補の形で取り込むこととしている。3.技術戦略マップとそのローリングJNES に置かれている技術情報調整委員会安全研究 wG では、「高経年化対策強化基盤整備事業」の総括検討会のもとの7つの検討会、JNES の各検討会、及び産 業界の PLM 研究推進会議とそのもとの 10 サブグループ と協調して、技術戦略マップのローリング体制を構築 しており、本年7月には最新版の「高経年化対応技術 戦略マップ 2009」がとりまとめられている。高経年化対応技術戦略マップは、その内部に継続的 に評価と見直しを行う仕組み(ローリング)を含んで いる。1)外的環境要因からの全体像の再認識、2) 技術課題ごとの進捗状況の確認と自己評価、3)新た な技術課題の抽出、4)原子力安全基盤小委員会等に おける第三者的評価の4つの観点からローリング作業 が行われるとともに、今回は、運転開始後 40年目を迎 えるプラントが出るまでの第I期の総括としての自己 評価が実施され、第II期への主要課題に関する検討も 進められた。この中での技術課題の検討に基づいて、技術戦略マ ップの全体像を俯瞰的に表現するための大項目として、 「技術情報基盤の整備」、「安全基盤研究の推進」、「規 格基準類の整備」に加えて、「国際協力の推進」を取り 上げることとした。また従来四大項目の一つとしてい た「保全高度化の推進」は、「技術情報基盤の整備」の 中で、劣化メカニズム整理表等に関する電力共通技術 基盤を含め総合的に取り上げることとしている。4. 高経年化対策の基盤整備と国際展開原子力安全基盤小委員会のもとに設置された国際原 子力安全 WG は、本年2月にとりまとめた報告書の中で、 我が国の優位性を発揮した国際安全活動を、国内の安 全規制の高度化と一体的・有機的に推進すべきとして おり、原子力発電主要国との関係における活動に加え、 国際機関における活動並びに原子力発電新興国等との 関係における活動において、基本的方針と具体的取り 組みを示した。本報告書では経年劣化に関する国際的 なデータベースに基づく知識抽出の重要性が例示され、 より積極的な国際協力によって効率的・効果的な研究 展開を目指すべきであるとされている。IAEA では、本年2月に Safety Guide NS-G-2.12 Ageing Management for Nuclear Power Plants] Di 発刊された。本 Safety Guide では「経年劣化の理解に 基づく PDCAサイクル」が、高経年化対策の体系的なア プローチの基本に据えられ、プロアクティブな経年劣 化管理が設計段階、製造・建設段階、供用開始段階、継続的な運転段階、さらに廃止措置段階に渡る各々の 段階で要求されている。 - 本 Safety Guide を技術的に補足するため、IAEA で は国際版経年劣化管理プログラム策定が開始されてい る。この活動は国際的な経年劣化に関する知見を集積 し、米国で運転認可更新プロセスのガイダンスとして 利用されている GALL (Generic Aging Lessons Learned) 報告書(NUREG-1801)と同様の国際版の一般経年管理 教訓書 (International GALL)を策定して、機器毎、 部位毎に想定される経年劣化事象の抽出とその対策 (点検方法・頻度、予防保全・補修法等)の国際標準 化を図ろうとするものである。我が国における「劣化 メカニズムまとめ表」等に基づいた高経年化対策の基 盤と実績を活かす場であり、既に専門家会合や正式会 合への積極参加を通じリーダーシップを発揮している。OECD/NEA においても、NISA の拠出金プロジェクトで ある SCAP(SCC and Cable Ageing Project)が進んで いる。当プロジェクトでは、応力腐食割れ及びケーブ ル絶縁低下に関連する経年劣化事象データベースの構 築に加え、収集したデータや情報を体系的に整理・評 価した知識ベースの構築、及びこれらの評価結果に基 づき経年劣化管理を強化するため規制者や事業者の手 助けとなる推奨実務の提示を行うことを目的としてお り、米国、フランスなど計 14 カ国の参加を得ている。 現在、詳細なデータベース構造が定められ、データの 充実化と評価が進められるとともに、その分析に基づ いた知識ベース獲得と経年劣化管理に対する推奨実務 抽出に関する議論と作業が進捗している。 1. 本年で4年目となる原子力安全・保安院直轄の産官 学による「高経年化対策強化基盤整備事業」では、総 括検討会の主催により「原子力発電システムの高経年 化対策に関する国際シンポジウム:ISaG」を毎年開催 してきており、本年 10月にも各国からの招待者を交え て ISaG 2009 が東京大学において開催される。明年 2010年5月 25~28 日には、上記の SCAP の成果 を国際的に共有する OECD/NEA ワークショップと ISaG 2010 を、東京においての4日間に渡り開催することが 決定された。我が国における高経年化対策と保全高度 化に関連する成果を国際的に共有するとともに、原子 力安全に関する今後の展望を議論するまたとない機会 になると考えている。広く関係各位のご参加とご支援 をお願いしたい。“ “高経年化対策基盤強化のための研究開発と保全高度化- 国際的展開の状況 -“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA
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