電子回路信頼性長期化技術 瀧川 憲(横河電機株式会社)
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
電子制御装置の信頼性長期化技術として、電子基板 を洗浄することにより回復する電子回路の信頼性と設 置環境の関係を考察する。保全技術は事後保全、予防保全、保全予防に分類さ れるが、今回のテーマは、保全予防に相当する。装置 の生産性を最大にする意味で、前者2つは保全コスト であるが、保全予防は装置の信頼性を長期化する投資 に相当すると考える。工業用計算機のDCS (Distributed Control System分散 型制御システム)を事例として、安全と安心と確信を実 現する保全技術を以下紹介する。 (1)設置環境と電子回路 の信頼性と電子基板の洗浄について。 (2) オンライン設置 環境診断について。さらに(3)※保全データの信用性を証 明するRFIDを使用した巡視点検支援システムを参考展示する。
2. 電子回路信頼性長期化技術 2.1 設置環境による電子基板の信頼性低下 * 信頼性低下の要因となる設置環境ストレスは4つあ る。1温度、2相対湿度、3塵埃、4腐食性ガス [1]。 ここで1温度は従来から部品の故障と劣化の主たる
要因で、アレニウス則(故障確率 10°C2 倍則)として 周知され、事後保全、予防保全(劣化部品予防交換) の判断基準となってきた。この故障を内部要因故障と し、他の3ストレス要因の故障を外部要因故障とする。一方、弊社は1990年後半から電子基板を純水で洗浄 する保全技術を開発した。これは外部要因故障(部品 の故障と劣化が特定されない原因不明故障)を修復す る電子基板の信頼性を長期化する保全技術である。他 の3つの環境ストレスとの関係を考察し有効性を確認 する。2.1.1 基板洗浄による電子回路の絶縁回復 表1. は外部要因故障をまとめたものである。Fig.1 External stress failure & phenomenon 部品名 状況 原因/ストレス| 現象 |金属主として銀)が、周囲の湿度や不純物 エレクトロケミカルで生成された電解質溶液でイオン化し、絶縁 ICリド端子 マイグレーション物の表面に沿って移行する。 ハンダ付部 |金属折出:ひげ上の結晶が成長してゆく。銀]那??不良 ホイスカ | メッキ材の表面に金属が成長したり、硫化系ガスで硫化銀や硫化銅が粉状に成長す「マイグレーションの一種。硫化系腐食ガスの 基板プリントデンドライト もとでイオン化した金属(主として銅が技 パターン間状の結晶として析出。「硫化系ガスにより肌が腐食し、生成された除 金メッキ銅上)化銅(CuS)は体積が勤加するため、表面の 化学的クリープ 接点・コネクタ金メッキのピンホールからあふれて表面を 覆ってしまう。|鋼触不良 「硫化系、塩素系ガスなどにより金属の表面 ルースィッチ 腐創皮膜が絶縁性の腐食皮膜で覆われる。(注)動作回数有寿命部品が環境ストレスで劣化 外部要因故障の不適合現象は、1電子回路の絶縁不 良と短絡、2コンタクト部の接触不良の2つである。 純水洗浄の対象となる現象は1である。電子回路の絶 縁不良の発生メカニズムは、基本的な理科実験である 「ボルタの電池」に類似している。温度以外の3つの- 311 -ストレスをボルタの実験と比較すると、2相対湿度は 実験用純水、3塵埃はビーカー、4腐食性カガスは電解 質 (HC1やレモン水など)となる。部品下の回路パタ ーンに付着した塵埃内部は、相対湿度が 60%以上にな ると、毛細管凝縮現象により、水蒸気が水分として凝 縮する。腐食性ガスがこの水分に溶けて電離すること で、電子が銅パターン間を移動することで、電子回路 の絶縁が低下する。外部要因故障は、相対湿度(天候、 季節性、空調機運転)の影響を受ける傾向がある。この状態は汚損度(等価塩分量)として定量的に評 価することが出来る [1]。図2は電子回路の稼動年数 に比例して汚損度が増加するデータである。稼動 10年 で汚損度が 0.01(mg/cm2)を超えている。この汚損度値 以上の場合には、純水洗浄することで汚損を洗い流す ことにより外部要因故障を予防することが出来る。 Fig.2. P.C.B. contamination (equivalent salinity)& running time1861グラフ3は、電子基板を2年周期(1999 年と 2000 年)で洗浄した結果、翌 2001 年には外部要因故障がゼ ロになった事例である。Fig.3. failure trend after washing0.70.6制御ステーション 汚れ原因」0.50 .40故障頻度0.30.20.101997年1998年1999年2000年2001 年写真4は、電子基板の洗浄前後を示す。エアークリ ーニングとの違いは、部品下部の銅パターン部の汚損 を洗浄できることである。 Fig.4. Before-and-after washing with deionized water写真5は基板洗浄機材を搭載した専用自動車である。 これによりお客様の事業所内で洗浄ができるため即日 洗浄基板を納品することが可能となった。Fig.5. a dedicated equipped automobile2.1.2 オンライン設置環境診断 - 保全計画作成に設置環境ストレスを正確に把握する ことは重要である。ODU (Online Diagnosis Unit)オンラ イン診断ユニットについて説明する。 Fig.6. ODU6つのセンサーを搭載 している。1温度、 2相対湿度、3塵埃、 4腐食度、5絶縁抵 抗、6接触抵抗。特に1から4までは 蓄積性環境ストレスとして保全計画に必要なデータで ある。データの収集方法は、DCS システムのネットワ ーク経由とPCで直接収集する2種類がある。弊社DCS 設置時は1年間無償で診断を提供している。3. 結言 1) 電子機器の信頼性は設置環境ストレスの影響を受けるため、このデータを長期間収集監視し、保全計 画に活用することは重要であることを確認した。 2) 外部要因故(不再現故障)は電子回路の絶縁劣化が 要因であるので、純水で洗い流し汚損度を低下する ことで信頼性を回復できることを確認した。「謝辞 基板洗浄は多数のお客様の実績で有効性が証明された。参考文献 [1] 産業用情報処理・制御機器設置環境基準電子情報技術産業協会、pp81-84312“ “電子回路信賴性長期化技術“ “瀧川 憲,Akira TAKIKAWA
電子制御装置の信頼性長期化技術として、電子基板 を洗浄することにより回復する電子回路の信頼性と設 置環境の関係を考察する。保全技術は事後保全、予防保全、保全予防に分類さ れるが、今回のテーマは、保全予防に相当する。装置 の生産性を最大にする意味で、前者2つは保全コスト であるが、保全予防は装置の信頼性を長期化する投資 に相当すると考える。工業用計算機のDCS (Distributed Control System分散 型制御システム)を事例として、安全と安心と確信を実 現する保全技術を以下紹介する。 (1)設置環境と電子回路 の信頼性と電子基板の洗浄について。 (2) オンライン設置 環境診断について。さらに(3)※保全データの信用性を証 明するRFIDを使用した巡視点検支援システムを参考展示する。
2. 電子回路信頼性長期化技術 2.1 設置環境による電子基板の信頼性低下 * 信頼性低下の要因となる設置環境ストレスは4つあ る。1温度、2相対湿度、3塵埃、4腐食性ガス [1]。 ここで1温度は従来から部品の故障と劣化の主たる
要因で、アレニウス則(故障確率 10°C2 倍則)として 周知され、事後保全、予防保全(劣化部品予防交換) の判断基準となってきた。この故障を内部要因故障と し、他の3ストレス要因の故障を外部要因故障とする。一方、弊社は1990年後半から電子基板を純水で洗浄 する保全技術を開発した。これは外部要因故障(部品 の故障と劣化が特定されない原因不明故障)を修復す る電子基板の信頼性を長期化する保全技術である。他 の3つの環境ストレスとの関係を考察し有効性を確認 する。2.1.1 基板洗浄による電子回路の絶縁回復 表1. は外部要因故障をまとめたものである。Fig.1 External stress failure & phenomenon 部品名 状況 原因/ストレス| 現象 |金属主として銀)が、周囲の湿度や不純物 エレクトロケミカルで生成された電解質溶液でイオン化し、絶縁 ICリド端子 マイグレーション物の表面に沿って移行する。 ハンダ付部 |金属折出:ひげ上の結晶が成長してゆく。銀]那??不良 ホイスカ | メッキ材の表面に金属が成長したり、硫化系ガスで硫化銀や硫化銅が粉状に成長す「マイグレーションの一種。硫化系腐食ガスの 基板プリントデンドライト もとでイオン化した金属(主として銅が技 パターン間状の結晶として析出。「硫化系ガスにより肌が腐食し、生成された除 金メッキ銅上)化銅(CuS)は体積が勤加するため、表面の 化学的クリープ 接点・コネクタ金メッキのピンホールからあふれて表面を 覆ってしまう。|鋼触不良 「硫化系、塩素系ガスなどにより金属の表面 ルースィッチ 腐創皮膜が絶縁性の腐食皮膜で覆われる。(注)動作回数有寿命部品が環境ストレスで劣化 外部要因故障の不適合現象は、1電子回路の絶縁不 良と短絡、2コンタクト部の接触不良の2つである。 純水洗浄の対象となる現象は1である。電子回路の絶 縁不良の発生メカニズムは、基本的な理科実験である 「ボルタの電池」に類似している。温度以外の3つの- 311 -ストレスをボルタの実験と比較すると、2相対湿度は 実験用純水、3塵埃はビーカー、4腐食性カガスは電解 質 (HC1やレモン水など)となる。部品下の回路パタ ーンに付着した塵埃内部は、相対湿度が 60%以上にな ると、毛細管凝縮現象により、水蒸気が水分として凝 縮する。腐食性ガスがこの水分に溶けて電離すること で、電子が銅パターン間を移動することで、電子回路 の絶縁が低下する。外部要因故障は、相対湿度(天候、 季節性、空調機運転)の影響を受ける傾向がある。この状態は汚損度(等価塩分量)として定量的に評 価することが出来る [1]。図2は電子回路の稼動年数 に比例して汚損度が増加するデータである。稼動 10年 で汚損度が 0.01(mg/cm2)を超えている。この汚損度値 以上の場合には、純水洗浄することで汚損を洗い流す ことにより外部要因故障を予防することが出来る。 Fig.2. P.C.B. contamination (equivalent salinity)& running time1861グラフ3は、電子基板を2年周期(1999 年と 2000 年)で洗浄した結果、翌 2001 年には外部要因故障がゼ ロになった事例である。Fig.3. failure trend after washing0.70.6制御ステーション 汚れ原因」0.50 .40故障頻度0.30.20.101997年1998年1999年2000年2001 年写真4は、電子基板の洗浄前後を示す。エアークリ ーニングとの違いは、部品下部の銅パターン部の汚損 を洗浄できることである。 Fig.4. Before-and-after washing with deionized water写真5は基板洗浄機材を搭載した専用自動車である。 これによりお客様の事業所内で洗浄ができるため即日 洗浄基板を納品することが可能となった。Fig.5. a dedicated equipped automobile2.1.2 オンライン設置環境診断 - 保全計画作成に設置環境ストレスを正確に把握する ことは重要である。ODU (Online Diagnosis Unit)オンラ イン診断ユニットについて説明する。 Fig.6. ODU6つのセンサーを搭載 している。1温度、 2相対湿度、3塵埃、 4腐食度、5絶縁抵 抗、6接触抵抗。特に1から4までは 蓄積性環境ストレスとして保全計画に必要なデータで ある。データの収集方法は、DCS システムのネットワ ーク経由とPCで直接収集する2種類がある。弊社DCS 設置時は1年間無償で診断を提供している。3. 結言 1) 電子機器の信頼性は設置環境ストレスの影響を受けるため、このデータを長期間収集監視し、保全計 画に活用することは重要であることを確認した。 2) 外部要因故(不再現故障)は電子回路の絶縁劣化が 要因であるので、純水で洗い流し汚損度を低下する ことで信頼性を回復できることを確認した。「謝辞 基板洗浄は多数のお客様の実績で有効性が証明された。参考文献 [1] 産業用情報処理・制御機器設置環境基準