リスクベースメンテナンスにおける炉管クリープの損傷係数の算出方法

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
11 石油・化学プラント等では、プラントの信頼性・経 済性向上活動のベースとして米国石油協会規格(APN に記載されるリスク低減策の策定を基本とするルーチ ン作業が行われている。この作業は、(1)検査計画策定 (API 510/570/653)、(2)検査活動(API 572/574/575)、(3) 供用適正評価(API 579)、(4)破壊のしやすさとリスクの 評価(API 580/581)、のルーチンを回すことによって行 われる。(4)の評価の技術的方法は API 581 に記載され ており、評価レベルI(定性評価)、評価レベル 2(半 定量評価)及び評価レベル 3(定量評価)のいずれか を選択した後、破損発生のしやすさと影響度を評価し て、5×5のリスクマトリックス上に結果を記載して評 価する。破損発生のしやすさは8種類の破損モードに ついて計算方法が与えられており、炉管(Furnace Tube) のクリープ破断の評価方法がこの中に含まれる。API-581 初版 Appendix J (1) に示される炉管のクリー プ破断のしやすさの評価では時間消耗則が用いられて おり、使用条件からは炉管外径基準の式による円筒に 発生する応力 s と高温使用時間、材料強度として Larson-Miller (LM) パラメータの平均値LM及び平均 値と最小値の差 LMasta を用いて、下に示す損傷係数 Dicによって評価される。DFc=0.5 e13FF ここで、FF は LM パラメータの平均値と運転条件で のLM パラメータの値、及び LMariから求められる 数値である。検査の反映方法は検査有効度減少係数 及び必要に応じてオンラインモニター補正を用いて損 傷係数は修正される。この評価方法は、(1)炉管で用いられている材料が必 ずしも LM パラメータによってクリープの応力依存性 が表されないこと、(2)クリープ破断挙動のばらつきの 評価が明確でないこと、(3)結果として示されている損 傷係数の式と時間消耗則の対応が必ずしもよくないこ とが改良点として挙げられる。そのほか、検査有効度の算定において開放検査にお ける肉厚検査のみが規定されているが、(1)全領域レプ リカ、(2)直径計測、(3)酸化物計測、及び(4)割れ検査に 関する記述がないことが指摘されている。一方欧州においては、API 581 と同様の趣旨で RIMAP の研究が進められ、、EU 規格 EN 12952 として の審議が進められている。RIMAP では石油化学、電力、 鉄鋼業及び化学工業の分野での評価手法の検討が進め られ、電力分野でのクリープ破断の評価例では材料強 度として平均値の80%値が最小クリープ破断時間とし て用いられている。 * 本報は、当該評価方法の破断しやすさの評価方法を 改良して、API 評価体系の枠組みの中で使用できる方 法を示している。API の規格では8種類の破損モード の損傷係数の合計値を用いて破損発生のしやすさを評 価するため、炉管のクリープ破断の損傷係数も整合性 を保っために標準化している。なお、本年発行された API 581 20 ed.では、準備中と して炉管クリープ評価方法は記載されていない。
2. 炉管クリープの損傷係数
2.1 現象の概要 - 直火型で熱吸収型の燃焼室内に設置されて使用され
る加熱管の炉管のクリープに適用される損傷係数を考 える。炉管の材料として、物質・材料研究機構の NRIM クリープ破断データ4が適用できるフェライト鋼(炭素 鋼と 9Crまでの低合金鋼)、オーステナイト系ステンレ ス鋼(304、316、 321、 347)、インコロイ 800、インコ ネル 600、及び高合金鋳造管(HK、HP)とする。炉管では管外面が燃焼ガスによって加熱され、管内 の液体は加熱されて蒸気となり、更に加熱されて過熱 蒸気が製造されることもある。考慮すべき主たる破損 モードは、内圧 p によるクリープ破断である。炉管の肉厚は、外面では熱負荷がかかり燃焼ガスに よる高温酸化などによって、内面では水蒸気酸化など によって、供用期間の経過と共に変化する(図1)。こ れらの酸化による炉管の肉厚減少は設計時に腐れ代と して必要肉厚に考慮されており、又炉管の肉厚初期値 は鋼材メーカーの規格品の中から必要肉厚を上回る製 品が選択されるので、肉厚の初期値はクリープ破断を 防止する観点からは十分厚いものとなる。煙管に使用 される伝熱管は、通常超音波検査による肉厚検査と渦 電流探傷試験などによる内部欠陥検査を受け合格した ものが製品となるため、肉厚の均一性と内部欠陥基点 のクリープき裂の除外が品質保証によって確保される。クリープ破断評価で用いる発生応力の算出は、厚肉 円筒の内面に発生する応力を算出する弾性理論式の近 似式を用いる。外面酸化 外面窒化酸化スケール 内面浸炭おでんスケー熱負荷有た■..無燃焼ガス温度分布過熱蒸气水蒸気 炭化水素図1 現象の説明クリープ破断曲線は、時間・温度パラメータを応力 の関数で表現して用いる。物質・材料研究機構 NRIM クリープ破断データシートでは、管鋼種によって LM パラメータ、Orr-Sherby-Dorn パラメータ及びManson-Haferd パラメータが使い分けられている。確率変数として LM パラメータではなく、クリープ 破断時間を取り扱う。クリープ破断時間の確率分布と して対数正規分布を想定し、中央値を tem とする。通 常、設計段階ではクリープ破断の破損モードの生起を 防止するために、tra の 95%信頼性下限値 trugs が材 料強度基準によって与えられ、この値が設計で想定し た運転履歴のうちクリープ温度滞在時間に対するクリ ープ破断防止のための設計許容値となる(図2)。材料試験結果 データのばらつき正規分布log (応力)内圧によって煙管に発生する応カメへlog (クリープ破断時間)10年後クリープ破断確率5年後累積 破断確率現在運転時間 図2 クリープ破断確率の概念供用条件は設計で想定した条件と基本的には同じで あるが、酸化に起因する減肉から評価応力が増加する 場合や、酸化皮膜の生成によって炉管金属温度が上昇 することがある。或いは設計で想定したものとは異な る温度履歴で運転されることがあるかもしれない。従 って、煙管のクリープ破断防止の観点から、 (1) 運転温度履歴の整理・分析 (系統温度計/炉管出入り口温度計、管群間温度差、等) (2) 炉管肉厚の把握(酸化皮膜厚さの計測/推定、炉管温度の計測/推定) が重要である。 2.2 金属材料試験片のクリープ破断時間の特徴338クリープ破断時間 tr は時間と温度のパラメータ (LMパラメータなど)と応力の関数として表現され、 SUS304、SUS316、SUS321 及び 2.25Cr-1Mo 鋼につい て 100 以上のデータが回帰分析された結果、 2.25Cr-1Mo 鋼の標準偏差は 0.176 と小さいが、他の 3 鋼種では 0.24 程度である[5]。SUS304 を例として、 図3に示すように tr の平均時間 truに対する比の常用 対数は正規分布となる。tr/tra を時間係数a(=1/ar) とすると、a=0.1(ag=10)で破損確率 1%以下となる。 炉管設計時の内圧によるクリープ破断に対する設計許 容応力は5%破損確率(95%信頼度)で定められてい ることから、対応する時間係数は 0.4 である(図 4)。 2.25Cr-1Mo 鋼では標準偏差が小さいことから、時間係 数0.4で5%破損確率を定めると実際よりも若干大きめ の破損確率となる。破損確率、時間係数]の組み合わせで、0.05、 0.4] と[0.5、1] を直線で結んで損傷係数を与える 式を策定した。API 581 (2000)では、8種類の破損モ ードに共通して初期状態で損傷係数 1、累積破損確 率 0.5 で損傷係数は 5000 に設定されている。上記以外の鋼種について NRIM クリープ破断デー タを見てみると、鋼種ごとにデータ点数の多少があり、 データの標準偏差と変動係数のばらつきも大きい。ク リープパラメータの統計的性質は SUS304 と同等であ ると仮定して、4 鋼種以外について時間係数を用いて クリープ破断特性の回帰分析を行った結果はないが、 統一して時間係数 0.4 を用いることとする。99.99F no HTTTTTTTTT TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT材料:SUS304累積破損確率 %OL = &dデータ 点数 : 251点 標準偏差: 0.2420.01 0.01 0. 1 110 100 クリープ破断時間の実測値と予測値のた「R11RS 図3 SUS304 のクリープ破断時間の確率評価 5)。304。◆ 316 A-321 --- 2.250r-1Mo管-時間係数設定線。累積破断確率。。。10.20.40.810.6 時間係数図4 時間係数と累積破断確率の関係2.3 クリープを無視できる温度と応力クリープ破断時間は応力が低くなると、また温度が 低くなると急速に長寿命となるので、実質的にはクリ ープを考慮しなくても良い温度と応力の目安値の規定 が不要とも考えられるが、クリープ破断評価者の便宜 を考えて、API-581 等に記載されるクリープを無視で きる温度と応力で、損傷計算に入る前にスクリーニン グをすることによって評価の効率化が図れる。2.4 損傷係数の計算 a) 炉管の材料温度 (TM) - 運転中の管材料の平均温度を温度記録計か表面熱電 対の測定値から決定する。TMの測定値が得られない場 合は、系統の出口温度を参考に TMを決定するものとすb) 腐食速度決定 1) 平均腐食速度は炉管検査を行い、肉厚データから計算する。 2) 1)に代えて、減肉速度の推定値をそれぞれの減肉 の損傷係数に基づいて決定してもよい。減肉の破損 モード評価においてどの減肉メカニズムを使うか を決めた後、これら減肉速度を加えて総合減肉速度を求める。 c) 現在の肉厚の決定 1) 前回の検査から求めた肉厚と腐食速度を用いて現在の肉厚を求めるものとする。 2) 過去に検査が行われていない場合は、設計時の管 肉厚を用い、全供用期間と前項から決定される推定 腐食速度を用いて現在の肉厚を推定する方法が考えられる。 d) 応力計算339Sる。P-T(TM,S)管の応力 S を、現在の肉厚(T)、運転圧力(p)、管外 h) オンラインモニター係数による損傷係数の修正 径(DD)を使ってクリープ温度領域の実験式である下式 API 581 では管表面熱電対設置による温度の常時モ から計算する。ニタリング、連続目視モニター、バーナー芯位置モニ ターなどの組合せによる、予想外の高腐食速度や不均 一加熱による炉管寿命のモニタリング手段に言及している。このようなオンラインモニターによって、問題 e) クリープ損傷の計算が発見されることによって対策がとられることを前提 運転履歴から、(温度 Tu 、圧力 p 、継続時間 1 ) にして、炉管の破断のしやすさの評価値の信頼性が高 の組み合わせi を求める。クリープパラメータ P を下くなることを反映して損傷係数を修正することができ 式によって計算する。 Lite(TM,S)3. 炉管クリープ...計算例 ここでtr; は炉管材料のクリープ破断時間であり、 API 581(2000)の炉管クリープの評価(Appendix ) NRIM のクリープ破断式を用いる。において損傷メカニズムとして炉管の酸化などによ (1) 損傷係数の計算る減肉を評価し、破損モードとして内圧による炉管の - 損傷係数を下式によって計算する。ただし、計算結 破断を評価する方法を示していたが、2009年版では削 果が 1.0 以下になる場合は損傷係数=1 とする。除され、現在準備中とされている。この破損モードに 損傷係数 = 5000 - 4772 (1 - P)対して本報告では、図5に示すように、減肉に伴う周方向膜応力の増加に伴って、クリープ破断の可能性が g) 検査有効度のランク増加する評価法として、NRIM クリープ破断データを 1. 使われた検査手法や検査手法の組合せに対する検査用いた方法案を示した。 有効度は、現行検査手法に対応している必要があるが、 長期クリープに関して、API 581 の計算式の根拠が プラントごとに多様である。API 581 では定期検査にお不明であるため、物質材料研究機構の HP で公表され ける開放検査を想定した炉管の検査有効度ガイドライている材料毎の寿命を用いて温度とその温度での運転 ンが示されている。そこでは検査有効度を選定した後、 時間の組み合わせからクリープ破断時間を算出し、破 対応する検査有効度減少件数を定め、上で得られた損 断確率 5%で損傷係数=1 とし、破断確率 50%で損傷 傷係数を補正する評価の流れとなっている。係数=5000 となるように損傷係数の計算式を定めた。0.6 (1-P)材料試験片のクリープ破断強度も上, 内圧によって発生する炉管の周方向膜応力 S, or 炉管の肉厚tc0.95ープ破断強度も初期材料強度,0.05炉管の周方向膜応力S初期発生応力」2T肉厚T (文献或いは計測結果からの推定値)初期肉厚-::-:-・時間t確率密度関数時間t破断確率 Pro図5 炉管の発生応力と破断確率の増加340、例として、SUS304 製の炉管が 600°Cで10年間運転 された場合の損傷係数を計算した。当該材料のクリー プ破断式は NRIM クリープデータシートでは Manson -Haferd 型で表されている。表1に示すように、クリー プパラメータは0.674 であり、損傷係数は2,284 となる。表1 損傷係数の例題 応力 | クリープ | 1年間 | 10年間 | クリープ S;破断時間 | 使用時間 | 使用時間 | パラメータ to hthPiMPa904960001000000.20210,000 5,000100165000500000.3031501420024024000.169 EP;=0.674損傷係数 - 5,000 - 1/(1-EP) - 2,284本研究は、(社)高圧力技術協会 RBM 研究専門委員会 WG2 の活動の中で実施された。有益な助言を頂いたワ ーキンググループ 2の委員の方々に感謝する。謝辞本研究は、(社)高圧力技術協会 RBM 研究専門委員会 WG2 の活動の中で実施された。有益な助言を頂いたワ ーキンググループ 2の委員の方々に感謝する。参考文献[1] API Publication 581 “Risk-Based Inspection BaseResource Document”, 1st ed. 2000 [2] S.A. Noori and J.W.H. Price, Case study of the use ofAPI 581 on HK and HP material furnace tubes, Journalof Pressure Vessel Technology 127 Feb. 49/54 2005 [3] A. Jovanovic, Risk analysis of a high-temperaturecomponents in a power plant ? application of RIMAP approach, PVRC Int. Conf. on Decision Making for RiskManagement of Process and Power Plants, 2005 of Pressure Vessel Technology 127 Feb. 49/54 2005A. Jovanovic, Risk analysis of a high-temperature components in a power plant ? application of RIMAP approach, PVRC Int. Conf. on Decision Making for Risk Management of Process and Power Plants, 2005物質・材料研究機構 HP http ://tsuge.nims.go.jp/top/creep_jp.html 和田、高速炉材料強度基準と安全裕度、日本溶接協 会第18回シンポジウム資料集 58/107 1996-341“ “リスクベースメンテナンスにおける炉管クリープの損傷係数の算出方法“ “渡士 克己,Katsumi WATASHI
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