高温水中におけるオーステナイト系合金の高応力下酸化ｰ1・Cr 含有量の影響評価
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
軽水炉環境で用いられる合金は Cr を主とする耐食 性向上元素を含有している。高温水中のそれら材料表 面には Cr 主体の酸化皮膜が形成されることで知られ ている。しかしながら、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking ;SCC)機構における Cr の役割については様々 な説があり、その挙動が完全に解明されたわけではな い。これは、近年の研究や実機環境において用いられ る合金が規格化された複雑な組成を有することや、割 れの生じ得る過酷な応力場での挙動が十分に評価され ていないことに起因する。また、酸化皮膜の評価には 一般的に広範囲の平均的な情報である皮膜厚さが用い られるが、SCC に強く関与すると考えられる局所的な 酸化や応力の集中による部分的な皮膜保護性の低下が 割れを導く可能性が高い。このため、局所酸化につい ての評価を実施するはSCCの初期過程における皮膜の 役割を解明することにつながる。そこで本研究では、高温水中酸化挙動における Cr の 役割をより詳細に評価するために Ni-Cr 二元系合金を 供試材とし、高応力を負荷した状態で酸素富化高温高 圧水中にて定応力下酸化試験を実施する。そして、高 応力下における酸化挙動に及ぼす Cr の影響について 調査する。試験片形状は Fig. 1 に示す切欠き丸棒試験片を用い た。この形状は直径1mm の切欠き底部において3軸 応力場による塑性拘束が生じ、全断面降伏を抑制する ため高応力負荷条件に適している。試験片は機械加工 による製作後、notch 部表面を1um のアルミナ粒子を 用いて湿式研磨を行い、表面硬化層の除去を試みた。 試験片は Fig. 2 に示す定応力負荷治具に設置した後、 ばねの圧下によって 147N、127N の荷重を大気中でそ れぞれ負荷した。その後、治具ごと循環型オートクレ ーブ内で酸素富化高温水中(288°C、9MPa、DO:2 ppm、 溶液伝導度: 0.2 μS/cm以下)に 300h 浸漬させた。試験後、試験片表面および集束イオンビーム(FIB; Focused Ion Beam)装置により加工を行って露出させた 断面を走査型電子顕微鏡(SEM; Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。得られた断面像につい て画像解析ソフト「WinROOF」を用いて断面幅 50umの範囲で酸化皮膜/合金界面を約 100nm 間隔でプロ ットし、界面曲線を抽出した。その後、イメージ解析 ソフトウェア「SPP」を用いて酸化前の表面が有する うねりを除くためにガウシアンフィルター処理(カッ トオフ値 = 20 um)を実施した[1]。また、同ソフト上 でうねり除去後の界面曲線に対してラフネス解析を 実施し、アボット曲線を求めた[2]。
Fig. 1 Notched bar specimen3. 結果と考察試験後のNi-Cr二元系合金試験片表面SEM像をFig.3 に示す。応力条件の異なる Ni-14Cr 試験片切欠き底部 において、いずれも針状の酸化物が表面に形成され全 体を被覆している。これらを比較すると、わずかなが ら高応力条件において表面に形成された針状の酸化物 の方がより成長している。低応力、旋削仕上げ条件の 平滑部(試験片の直径 2 mm の部位)においても同様の 傾向が認められる。これら結果から、応力とともに外 層皮膜の成長が促進される可能性が考えられる。一方 で、Ni-22CT および Ni-30CT 合金においては切欠き底部 表面が粒子状の酸化物によって被覆されているが、こ れら合金の平滑部においては針状酸化物と粒子状酸化 物が混在しており、同一組成の合金においても条件に よって外層が異なる形態で形成されていることが分か る。このことから、外層皮膜の成長機構に対して Cr含 有量、応力条件および表面硬化層の影響が読み取れる。 - 試験後のNi-Cr 二元系合金試験片断面反射電子像を Fig.4 に、断面像から得られた内層皮膜厚さとその標準 偏差を Table2 にそれぞれ示す。Table2 における皮膜厚 さはそれぞれ断面幅 50 um の範囲において約1um間 隔で 50 点ずつ計測を行ったものを平均化した値を示 している。Cr含有量が増加するにつれ酸化皮膜厚さが 増加する。この傾向は旋削仕上げの平滑部に関しても同様に認められた。皮膜厚さの標準偏差は高応力条件 の Ni-14Cr と Ni-30Cr において大きな値を示した。 Ni-30CT においては合金表面の凹部で形成された極端 に薄い皮膜がその要因となっているが、酸化皮膜/合 金界面は滑らかな形状である。その一方で Ni-14CT に おいては界面分布のばらつきによって皮膜厚さが位置 ごとに異なり、局所的に合金内方へ皮膜が成長してい る様子が認められる。皮膜厚さを用いての評価ではこ れらの異なった事象を捉えられないことから、以下で 皮膜/合金界面曲線に着目しての評価を実施する。0.486111111111111(1) Ni-14Cr, notch (187MPa, Polished)(2) Ni-14Cr, notch (162MPa, Polished)10m10m(3)Ni-22Cr, notch (187MPa, Polished)(4) Ni-30Cr, notch (187MPa, Polished)10 um(5) Ni-14Cr, flat (47MPa, As lathed)(6) Ni-14Cr, flat (41MPa, As lathed)10m100m(7)Ni-22Cr, flat(8) Ni-30Cr, flat (47MPa, As lathed) (47MPa, As lathed) Fig.3 SEM images of the surface of Ni-Cr specimens343こうし(1) Ni-14Cr, notch (187 MPa, Polished)um(2) Ni-22Cr, notch (187 MPa, Polished)100Asce.anten-00340SE(3) Ni-30Cr, notch (187 MPa, Polished)Lum(4) Ni-14Cr, notch (167 MPa, Polished) Fig.4 Backscattered electron images of the cross section ofNi-Cr specimens Table 2 Thickness of the inner oxide layer and standard deviation of Ni-Cr specimensAverage Standard thicknessdeviation (nm)(nm) 14Cr, 187MPa, Polished194.9 58.63 22Cr, 187MPa, Polished366.3 22.08 30Cr, 187MPa, Polished 388.8 67.58 14Cr, 162MPa, Polished233.5 64.76Ni-14Cr 合金切欠き底部断面における皮膜/合金界 面情報を Fig.5 に示す。断面を観察した反射電子像を結 合することで得たFig.5 (1)図において、皮膜/合金界面 を平面座標の二値計測で幅約 100mm 間隔でプロットし て得た界面曲線が Fig.5 (2)である。局所的な酸化に関し ての詳細な評価のために 3 次の近似曲線を用いて界面 曲線のうねりを除去したものが Fig.5 (3)である。Fig.6 に他の条件について同様に界面を抽出し、うねり除去 を行った界面曲線を示す。Ni-22CrやNi-30Cr 試験片切 欠き底部の界面曲線は比較的滑らかであり、近似曲線 からのずれの範囲は±0.1 um 程度に収まっている。一 方で Ni-14CT においては界面位置の近似曲線からのず れが±0.3um を超える箇所が存在し、断面観察の結果 得られた部分的に合金内方へ皮膜が成長している様子 を再現できている。しかしながら、旋削仕上げの試験 片平滑部においては酸化前の合金界面粗さの影響が十 分には除かれておらず、SEM像における局所酸化部位と界面位置の低い部位は一致していなかった。よって、 今回用いたガウシアンフィルター処理条件は比較的滑 らかな表面においてのみ有効であることを示している。 今後、新たなうねり除去方法について検討する必要が ある。以上のように得られた各界面曲線に基づき得られた アボット曲線を Fig.7 に示す。アボット曲線は界面粗さ 曲線に対して仮想剛体を上方より降下させて押し当て ていった際に接触した面積の百分率 (%) を横軸に、最 深部高さを基準とした時の界面高さ (um) を縦軸に取 った曲線である。この図から鏡面仕上げ条件において はいずれも接触面積が 20%から80%程度の範囲におい て界面位置が直線的な関係で存在するプラトー領域を 形成しており、かつその傾きに大きな差は見られない。 これは、いずれの界面曲線も近似曲線近傍における界 面位置分布のばらつきが同程度であることを示してい る。しかしながら、接触面積が 100 %近傍における傾 きの絶対値は Ni-14Cr のみ大きい値を示している。こ のことは、Ni-14CT において酸化皮膜が合金内方へ比較 的鋭い形状で成長していることを示している。さらに その傾向は Ni-14Ch 合金の 167MPa 負荷の条件におい てより大きいことが読み取れる。Table 2 で示された皮 膜厚さでは 167MPa 負荷の条件では 187MPa のそれと 同等であり、応力の効果は主として拡散の促進により 界面の不均な分布を平坦化させるものと考えられる。 同条件では針状形態の酸化物を最外表面に生じており、 他の合金とは異なった酸化物の形成が期待され、表面 酸化機構においては酸化皮膜外層および内層のいずれ においても応力負荷により酸化が加速されると結論づ けられる。一方、高Cr材では比較的均一な厚さで皮膜 が形成されていたことから、表面近傍における Cr の枯 渇が皮膜の局所的な成長に寄与している可能性が高い。酸化の加速化や局在化が皮膜保護性を支配するとす れば、上述の Cr含有量が 14%と 22%の間で皮膜形態が 大きく異なることに併せ、これらの間にしきい条件が 存在していると考えられる。加えて高Cr材にて表面酸 化物の形態が応力、表面仕上げ条件により異なってい たことから、このしきい条件はこれらの影響を受ける と考えられる。今後は表面酸化機構における Cr の挙動 を明らかにすべく、表面近傍の元素移動や結晶性と局 所酸化の関係を調査する。また、より Cr含有量の間隔 を狭めた Ni-Cr 二元系合金を用いて応力や表面仕上げ 条件を加味した系統的な評価を計画している。344morementencan(1) Backscattered electron image of cross section- Location of alloy/inner oxide interfaceGaussian convolutionLocation (um)N-14CrNotch 1187MPa Polished11020304050Position (um) (2) Interface curve between oxide film and alloy 1.0 0.5FMmmmylalatt-0.5FN-14C1, Notch 187MPa, Polished~1.01105020 11 1 30 40Position (um) (3) Interface curve after removing wave undulation4.結言-1Backscattered electron image of cross sectionLocation of alloy/inner oxide interface Gaussian convolutionLocation (um)N-14Cr Notch 187MPa PolishedCr 含有量の異なる Ni-Cr 二元系合金を用いて高温水 中定応力下酸化試験を行った。その結果、以下の知見 が得られた。110 120304050Position (um) (2) Interface curve between oxide film and alloy1) 高温水中において Cr 含有量、応力および表面仕上 げ条件の影響により、材料表面で異なる酸化挙動を 示すことを確認した。Height (um)15LN-1401、Notch187MPa, Polished _1010201304050Position (um) (3) Interface curve after removing wave undulation2) 試験片切欠き底部、平滑部のいずれにおいても Cr 含有量が増加するにつれて酸化皮膜が厚く成長す る傾向が認められた。Fig.5 Interface between oxide film and alloyof Ni-14Cr notch part (187MPa, Polished)3) 各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、Ni-22Cr および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において0.5OO- Height (um)-0.5, -10L1871MP3, Patshed0.0-*-0.5122C1Hote 187MPS, Porshed-1.0E109020 130 Position (um)| 結言 Cr含有量の異なる Ni-Cr 二元系合金を用いて高温水 定応力下酸化試験を行った。その結果、以下の知見 得られた。高温水中において Cr 含有量、応力および表面仕上 げ条件の影響により、材料表面で異なる酸化挙動を 示すことを確認した。試験片切欠き底部、平滑部のいずれにおいても Cr 含有量が増加するにつれて酸化皮膜が厚く成長す る傾向が認められた。各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、 Ni-22CT および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において は酸化皮膜が合金内方へ成長している様子が認め られた。このことから、酸化皮膜の局所的な成長に 関する Cr含有量のしきい条件の存在が示唆された。SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評 価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 /合金界面に着目した評価の有用性を示した。本研究の一部は、「革新的実用原子力技術開発費補助 業(経済産業省)」によるものであることを付記する。参考文献 ] JIS B0671-1 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価一 第1部:フィルタ処理及び測定条件1 JIS B0671-2 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価 一第2部:線形表現の負荷曲線による高さの特性 評価(1) Ni-22Cr notch part (187MPa, Polished) 1.00 051 0.05????????????????????????? -0.5 Ni-300r, Notch187MPa, Polished -1.010 203014050Position (um) (2) Ni-30Cr notch part (187MPa, Polished)1.0F0.5100.06 -0.5 Ni-1401.Notch -1.0-162MPa, Polished20 11 30 4050Position (um) (3) Ni-14Cr notch part (167MPa, Polished) Fig.6 Interface curve after removing wave undulation--- 14Cr, 187MPa, Polished -- 22Cr, 187MPa, Polished ---30Cr, 187MPa, Polished --14CT, 167MPa, Polished0_20401 6080 100-- 22Cr, 187MPa, Polished ---30Cr, 187MPa, Polished .... 14Cr, 167MPa, Polished参考文献[1] JIS B06状:輪 第1部たので・・m・[2] JIS BOG状:輪 一第21 評価10_20406080100Bealing area (%)-7 Bearing area curve of interface roughness curves- 345 - Fig. 7 Bearing area curve of interface roughness curves各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、 Ni-22Cr および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において は酸化皮膜が合金内方へ成長している様子が認め られた。このことから、酸化皮膜の局所的な成長に 関するCr含有量のしきい条件の存在が示唆された。 4) SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら - れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評 価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 /合金界面に着目した評価の有用性を示した。 謝辞本研究の一部は、「革新的実用原子力技術開発費補助 事業(経済産業省)」によるものであることを付記する。 S B0671-1 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性 :輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価一 1部:フィルタ処理及び測定条件 IS B0671-2 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性 状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価 一第2部:線形表現の負荷曲線による高さの特性 評価“ “?高温水中におけるオーステナイト系合金の高応力下酸化-1Cr含有量の影響評価“ “佐藤 崇之,Takayuki SATO,竹田 陽一,Yoichi TAKEDA,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI,大地 昭生,Akio OHJI
軽水炉環境で用いられる合金は Cr を主とする耐食 性向上元素を含有している。高温水中のそれら材料表 面には Cr 主体の酸化皮膜が形成されることで知られ ている。しかしながら、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking ;SCC)機構における Cr の役割については様々 な説があり、その挙動が完全に解明されたわけではな い。これは、近年の研究や実機環境において用いられ る合金が規格化された複雑な組成を有することや、割 れの生じ得る過酷な応力場での挙動が十分に評価され ていないことに起因する。また、酸化皮膜の評価には 一般的に広範囲の平均的な情報である皮膜厚さが用い られるが、SCC に強く関与すると考えられる局所的な 酸化や応力の集中による部分的な皮膜保護性の低下が 割れを導く可能性が高い。このため、局所酸化につい ての評価を実施するはSCCの初期過程における皮膜の 役割を解明することにつながる。そこで本研究では、高温水中酸化挙動における Cr の 役割をより詳細に評価するために Ni-Cr 二元系合金を 供試材とし、高応力を負荷した状態で酸素富化高温高 圧水中にて定応力下酸化試験を実施する。そして、高 応力下における酸化挙動に及ぼす Cr の影響について 調査する。試験片形状は Fig. 1 に示す切欠き丸棒試験片を用い た。この形状は直径1mm の切欠き底部において3軸 応力場による塑性拘束が生じ、全断面降伏を抑制する ため高応力負荷条件に適している。試験片は機械加工 による製作後、notch 部表面を1um のアルミナ粒子を 用いて湿式研磨を行い、表面硬化層の除去を試みた。 試験片は Fig. 2 に示す定応力負荷治具に設置した後、 ばねの圧下によって 147N、127N の荷重を大気中でそ れぞれ負荷した。その後、治具ごと循環型オートクレ ーブ内で酸素富化高温水中(288°C、9MPa、DO:2 ppm、 溶液伝導度: 0.2 μS/cm以下)に 300h 浸漬させた。試験後、試験片表面および集束イオンビーム(FIB; Focused Ion Beam)装置により加工を行って露出させた 断面を走査型電子顕微鏡(SEM; Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。得られた断面像につい て画像解析ソフト「WinROOF」を用いて断面幅 50umの範囲で酸化皮膜/合金界面を約 100nm 間隔でプロ ットし、界面曲線を抽出した。その後、イメージ解析 ソフトウェア「SPP」を用いて酸化前の表面が有する うねりを除くためにガウシアンフィルター処理(カッ トオフ値 = 20 um)を実施した[1]。また、同ソフト上 でうねり除去後の界面曲線に対してラフネス解析を 実施し、アボット曲線を求めた[2]。
Fig. 1 Notched bar specimen3. 結果と考察試験後のNi-Cr二元系合金試験片表面SEM像をFig.3 に示す。応力条件の異なる Ni-14Cr 試験片切欠き底部 において、いずれも針状の酸化物が表面に形成され全 体を被覆している。これらを比較すると、わずかなが ら高応力条件において表面に形成された針状の酸化物 の方がより成長している。低応力、旋削仕上げ条件の 平滑部(試験片の直径 2 mm の部位)においても同様の 傾向が認められる。これら結果から、応力とともに外 層皮膜の成長が促進される可能性が考えられる。一方 で、Ni-22CT および Ni-30CT 合金においては切欠き底部 表面が粒子状の酸化物によって被覆されているが、こ れら合金の平滑部においては針状酸化物と粒子状酸化 物が混在しており、同一組成の合金においても条件に よって外層が異なる形態で形成されていることが分か る。このことから、外層皮膜の成長機構に対して Cr含 有量、応力条件および表面硬化層の影響が読み取れる。 - 試験後のNi-Cr 二元系合金試験片断面反射電子像を Fig.4 に、断面像から得られた内層皮膜厚さとその標準 偏差を Table2 にそれぞれ示す。Table2 における皮膜厚 さはそれぞれ断面幅 50 um の範囲において約1um間 隔で 50 点ずつ計測を行ったものを平均化した値を示 している。Cr含有量が増加するにつれ酸化皮膜厚さが 増加する。この傾向は旋削仕上げの平滑部に関しても同様に認められた。皮膜厚さの標準偏差は高応力条件 の Ni-14Cr と Ni-30Cr において大きな値を示した。 Ni-30CT においては合金表面の凹部で形成された極端 に薄い皮膜がその要因となっているが、酸化皮膜/合 金界面は滑らかな形状である。その一方で Ni-14CT に おいては界面分布のばらつきによって皮膜厚さが位置 ごとに異なり、局所的に合金内方へ皮膜が成長してい る様子が認められる。皮膜厚さを用いての評価ではこ れらの異なった事象を捉えられないことから、以下で 皮膜/合金界面曲線に着目しての評価を実施する。0.486111111111111(1) Ni-14Cr, notch (187MPa, Polished)(2) Ni-14Cr, notch (162MPa, Polished)10m10m(3)Ni-22Cr, notch (187MPa, Polished)(4) Ni-30Cr, notch (187MPa, Polished)10 um(5) Ni-14Cr, flat (47MPa, As lathed)(6) Ni-14Cr, flat (41MPa, As lathed)10m100m(7)Ni-22Cr, flat(8) Ni-30Cr, flat (47MPa, As lathed) (47MPa, As lathed) Fig.3 SEM images of the surface of Ni-Cr specimens343こうし(1) Ni-14Cr, notch (187 MPa, Polished)um(2) Ni-22Cr, notch (187 MPa, Polished)100Asce.anten-00340SE(3) Ni-30Cr, notch (187 MPa, Polished)Lum(4) Ni-14Cr, notch (167 MPa, Polished) Fig.4 Backscattered electron images of the cross section ofNi-Cr specimens Table 2 Thickness of the inner oxide layer and standard deviation of Ni-Cr specimensAverage Standard thicknessdeviation (nm)(nm) 14Cr, 187MPa, Polished194.9 58.63 22Cr, 187MPa, Polished366.3 22.08 30Cr, 187MPa, Polished 388.8 67.58 14Cr, 162MPa, Polished233.5 64.76Ni-14Cr 合金切欠き底部断面における皮膜/合金界 面情報を Fig.5 に示す。断面を観察した反射電子像を結 合することで得たFig.5 (1)図において、皮膜/合金界面 を平面座標の二値計測で幅約 100mm 間隔でプロットし て得た界面曲線が Fig.5 (2)である。局所的な酸化に関し ての詳細な評価のために 3 次の近似曲線を用いて界面 曲線のうねりを除去したものが Fig.5 (3)である。Fig.6 に他の条件について同様に界面を抽出し、うねり除去 を行った界面曲線を示す。Ni-22CrやNi-30Cr 試験片切 欠き底部の界面曲線は比較的滑らかであり、近似曲線 からのずれの範囲は±0.1 um 程度に収まっている。一 方で Ni-14CT においては界面位置の近似曲線からのず れが±0.3um を超える箇所が存在し、断面観察の結果 得られた部分的に合金内方へ皮膜が成長している様子 を再現できている。しかしながら、旋削仕上げの試験 片平滑部においては酸化前の合金界面粗さの影響が十 分には除かれておらず、SEM像における局所酸化部位と界面位置の低い部位は一致していなかった。よって、 今回用いたガウシアンフィルター処理条件は比較的滑 らかな表面においてのみ有効であることを示している。 今後、新たなうねり除去方法について検討する必要が ある。以上のように得られた各界面曲線に基づき得られた アボット曲線を Fig.7 に示す。アボット曲線は界面粗さ 曲線に対して仮想剛体を上方より降下させて押し当て ていった際に接触した面積の百分率 (%) を横軸に、最 深部高さを基準とした時の界面高さ (um) を縦軸に取 った曲線である。この図から鏡面仕上げ条件において はいずれも接触面積が 20%から80%程度の範囲におい て界面位置が直線的な関係で存在するプラトー領域を 形成しており、かつその傾きに大きな差は見られない。 これは、いずれの界面曲線も近似曲線近傍における界 面位置分布のばらつきが同程度であることを示してい る。しかしながら、接触面積が 100 %近傍における傾 きの絶対値は Ni-14Cr のみ大きい値を示している。こ のことは、Ni-14CT において酸化皮膜が合金内方へ比較 的鋭い形状で成長していることを示している。さらに その傾向は Ni-14Ch 合金の 167MPa 負荷の条件におい てより大きいことが読み取れる。Table 2 で示された皮 膜厚さでは 167MPa 負荷の条件では 187MPa のそれと 同等であり、応力の効果は主として拡散の促進により 界面の不均な分布を平坦化させるものと考えられる。 同条件では針状形態の酸化物を最外表面に生じており、 他の合金とは異なった酸化物の形成が期待され、表面 酸化機構においては酸化皮膜外層および内層のいずれ においても応力負荷により酸化が加速されると結論づ けられる。一方、高Cr材では比較的均一な厚さで皮膜 が形成されていたことから、表面近傍における Cr の枯 渇が皮膜の局所的な成長に寄与している可能性が高い。酸化の加速化や局在化が皮膜保護性を支配するとす れば、上述の Cr含有量が 14%と 22%の間で皮膜形態が 大きく異なることに併せ、これらの間にしきい条件が 存在していると考えられる。加えて高Cr材にて表面酸 化物の形態が応力、表面仕上げ条件により異なってい たことから、このしきい条件はこれらの影響を受ける と考えられる。今後は表面酸化機構における Cr の挙動 を明らかにすべく、表面近傍の元素移動や結晶性と局 所酸化の関係を調査する。また、より Cr含有量の間隔 を狭めた Ni-Cr 二元系合金を用いて応力や表面仕上げ 条件を加味した系統的な評価を計画している。344morementencan(1) Backscattered electron image of cross section- Location of alloy/inner oxide interfaceGaussian convolutionLocation (um)N-14CrNotch 1187MPa Polished11020304050Position (um) (2) Interface curve between oxide film and alloy 1.0 0.5FMmmmylalatt-0.5FN-14C1, Notch 187MPa, Polished~1.01105020 11 1 30 40Position (um) (3) Interface curve after removing wave undulation4.結言-1Backscattered electron image of cross sectionLocation of alloy/inner oxide interface Gaussian convolutionLocation (um)N-14Cr Notch 187MPa PolishedCr 含有量の異なる Ni-Cr 二元系合金を用いて高温水 中定応力下酸化試験を行った。その結果、以下の知見 が得られた。110 120304050Position (um) (2) Interface curve between oxide film and alloy1) 高温水中において Cr 含有量、応力および表面仕上 げ条件の影響により、材料表面で異なる酸化挙動を 示すことを確認した。Height (um)15LN-1401、Notch187MPa, Polished _1010201304050Position (um) (3) Interface curve after removing wave undulation2) 試験片切欠き底部、平滑部のいずれにおいても Cr 含有量が増加するにつれて酸化皮膜が厚く成長す る傾向が認められた。Fig.5 Interface between oxide film and alloyof Ni-14Cr notch part (187MPa, Polished)3) 各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、Ni-22Cr および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において0.5OO- Height (um)-0.5, -10L1871MP3, Patshed0.0-*-0.5122C1Hote 187MPS, Porshed-1.0E109020 130 Position (um)| 結言 Cr含有量の異なる Ni-Cr 二元系合金を用いて高温水 定応力下酸化試験を行った。その結果、以下の知見 得られた。高温水中において Cr 含有量、応力および表面仕上 げ条件の影響により、材料表面で異なる酸化挙動を 示すことを確認した。試験片切欠き底部、平滑部のいずれにおいても Cr 含有量が増加するにつれて酸化皮膜が厚く成長す る傾向が認められた。各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、 Ni-22CT および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において は酸化皮膜が合金内方へ成長している様子が認め られた。このことから、酸化皮膜の局所的な成長に 関する Cr含有量のしきい条件の存在が示唆された。SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評 価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 /合金界面に着目した評価の有用性を示した。本研究の一部は、「革新的実用原子力技術開発費補助 業(経済産業省)」によるものであることを付記する。参考文献 ] JIS B0671-1 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価一 第1部:フィルタ処理及び測定条件1 JIS B0671-2 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価 一第2部:線形表現の負荷曲線による高さの特性 評価(1) Ni-22Cr notch part (187MPa, Polished) 1.00 051 0.05????????????????????????? -0.5 Ni-300r, Notch187MPa, Polished -1.010 203014050Position (um) (2) Ni-30Cr notch part (187MPa, Polished)1.0F0.5100.06 -0.5 Ni-1401.Notch -1.0-162MPa, Polished20 11 30 4050Position (um) (3) Ni-14Cr notch part (167MPa, Polished) Fig.6 Interface curve after removing wave undulation--- 14Cr, 187MPa, Polished -- 22Cr, 187MPa, Polished ---30Cr, 187MPa, Polished --14CT, 167MPa, Polished0_20401 6080 100-- 22Cr, 187MPa, Polished ---30Cr, 187MPa, Polished .... 14Cr, 167MPa, Polished参考文献[1] JIS B06状:輪 第1部たので・・m・[2] JIS BOG状:輪 一第21 評価10_20406080100Bealing area (%)-7 Bearing area curve of interface roughness curves- 345 - Fig. 7 Bearing area curve of interface roughness curves各試験片の酸化皮膜/合金界面を抽出した結果、 Ni-22Cr および Ni-30Cr 試験片の高応力部において、 酸化皮膜/合金界面位置は比較的滑らかな分布を 示した。その一方で、より低 Cr の Ni-14CT において は酸化皮膜が合金内方へ成長している様子が認め られた。このことから、酸化皮膜の局所的な成長に 関するCr含有量のしきい条件の存在が示唆された。 4) SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら - れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 SCC 発生過程において重要な役割を及ぼすと考えら れる局所的な酸化について、酸化皮膜厚さによる評 価では現象把握に不十分であることから、酸化皮膜 /合金界面に着目した評価の有用性を示した。 謝辞本研究の一部は、「革新的実用原子力技術開発費補助 事業(経済産業省)」によるものであることを付記する。 S B0671-1 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性 :輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価一 1部:フィルタ処理及び測定条件 IS B0671-2 製品の幾何特製仕様(GPS) 一表面性 状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価 一第2部:線形表現の負荷曲線による高さの特性 評価“ “?高温水中におけるオーステナイト系合金の高応力下酸化-1Cr含有量の影響評価“ “佐藤 崇之,Takayuki SATO,竹田 陽一,Yoichi TAKEDA,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI,大地 昭生,Akio OHJI