オーステナイト系ステンレスの弾性異方性と微視的残留応力
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
運転開始後40年を超える原子力発電設備が増加する 時代を迎え,その高経年化対策が重要な課題となる。そ の中で SCC の研究においては、オーステナイト系ステ ンレスの塑性変形と残留応力についての科学的理解を 築くことが不可欠である. オーステナイト系ステンレ スは弾性異方性を特徴とするので,結晶方位により弾 性定数も塑性変形も異なり,結晶粒ごとの微視的残留 応力が生じる.塑性変形による微視的残留応力の挙動 を知ることは,オーステナイト系ステンレス鋼の残留 応力発生機構の解明として重要である.これまでのオーステナイト系ステンレスの弾・塑性 異方性の研究は、中性子回折を利用して行われてきた, Clausen らは,単軸引張下で中性子回折を利用して各格 子面の間隔を測定し,弾性格子ひずみと負荷応力の関 係を求め、それを多結晶体のセルフコンシステントモ デルによる予測と比較している [1,21. それらの実験結 果では、負荷方向はよい対応を示したが,負荷方向垂直 の応力・ひずみ関係では、よい一致がみられなかった. Lin Peng らは,各負荷における残留ひずみを 200, 220, 311, 222 回折から測定し,各塑性段階の TEM 観察も行っている [3]. これらの一連の研究は,弾性異方性によ る塑性域での負荷応力と弾性ひずみの関係に主眼が置 かれている。しかし, SCCにおける残留応力の役割を考えるとき、 塑性域における弾性ひずみと負荷応力の関係よりも除 荷後の残留応力そのものが重要な意味を持つ,そこで 本研究では,回折面方位による残留応力の値に主眼を 置き,種々の塑性変形を与えられオーステナイト系ステ ンレス鋼の除荷後の残留応力を多数の回折面から測定 し,微視的残留応力の回折面依存性について検討する. 2. 実験方法 2.1 試験片および塑性変形 ・ 本実験の試験片材料として SUS316Lを用いた,本試 験片の形状は,平行部長さ55mm, 幅15mm および板厚 3mm の平板試験片である。試験片は,鍛造された厚板 から放電加工で平板を切り出して,前述の寸法に機械 加工した後、表面をバフ研磨仕上げ、裏面を研削仕上げ のままとした、さらに、機械加工のひずみを除去するた めに,913K,10分間の加熱後,炉冷した。引張試験の 結果では,耐力 0.0.2 = 202MPa, 引張強さ OB = 523MPa, 伸び 81%を得た.なお,実測した試験片の平均結晶粒 径は 55 um であった. 引張試験機により平板試験片に塑性変形を与えた.
Table rays.Table 1; Conditions for stress measurement with laboratory Xrays.Radiations Diffraction Tube voltage Tube current Method Irradiated area Diffraction angle 200 Scanning Scanning step Preset time siny Stress constant K Peak determinationMn-Ka y-Fe,311 30kV10 mA Iso-inclination4x8mm 152.313 deg 149~156 deg 0.1 deg/stepI sec 0.0~0.6,0.1 step-301 MPa/deg | Half value breadthクロスヘッド速度は,準静的引張りとするために 0.2 | mm/min(ひずみ速度 3.64 × 10-3/min) とした,除荷後の 永久変形の伸びから塑性ひずみものを求めた,設定した ED は, 0.2%, 1%, 2%, 5%, 10%, 20% および 55%とし たが,実測した塑性ひずみ とは, それぞれ 0%, 0.23%、 0.99%, 2.13%, 4.98%, 9.25%, 19.00%および 54.75%であった,塑性ひずみ ED が 0.2%, 1%, 2%については,変 一位が小さいので差動トランス式変位計にて標点間変位を測定した,また,塑性ひずみ と が 5%, 10%, 20%お よび 55%については,ひずみゲージ式変位計にて標点 間変位を測定した.なお, Ep = 54.75 %の試験片は破断 試験したもので標点間にくびれた部分が含まれるので, くびれを外して一様に塑性変形した所の標点間を切り 出し,塑性ひずみを求めた。 22 残留応力測定引張試験前後の残留応力については,ラボX線によ り測定した、測定条件は,Mn-Ka, 特性X線による 20 - sin y 法を用いた、詳細な条件を Table 1 に示す.MnKa 特性X線と Y-Fe の 311 回折の組合せが,大きい回 折強度,高回折角の条件を満たすので、精度および測定 効率のよい条件である.一方,微視的残留応力の回折面依存性を調べるため には,多数の回折面から残留応力を測定しなければな らない、そのために,波長の短い高エネルギーX線を必 要とする.本研究では,大型放射光施設SPring-8のビー ムライン BLO2B1 を利用して,高エネルギーX線によ る残留応力測定を行った. シンクロトロン放射光X線の 条件を Table 2 に示す。 -- 放射光測定においては照射領域が小さいので,回折 の測定に粗大粒の影響が現れやすい. 本研究では、オーTable 2: Conditions for stress measurements, using hard synchrotron X-rays.Beam lineBLO2B1 Wavelength..71.793 keV (17.264 pm) Divergent slit 0.2x2mm),(height x width) Receiving slit 1, 21.0.2x2mm, (height x width) Rotation speed0.5 HzGauge volumeTED x = 0°x = 90°RX-Ray10xGauge volume CO x = 0°4区x = 900-Specimen RotationFig. 1: cos-x method with rotation.ステナイト系ステンレスの粗大粒の対策として,以下 について検討した,1. 高エネルギー放射光X線による強い透過力を利用して透過法にて応力測定を行うこと 2. 回折格子面内の回転揺動法を用いること 3. 無ひずみの格子面間隔do を必要としない方法その結果、新しい応力測定法として cos-x 法を提案す る: cos-x 法の概略を Fig. 1 に示す.この応力測定方法 は、ひずみ測定の原理としては sin'v法の一種であり, 透過型の sin““ v法といえる。ここでは,反射型の sin' y 法と区別するために,以下に説明する方法を cos-x法 と呼ぶ.siny法は反射法であり,応力評価方向に半角 を変化させる。一般に,反射型に試料を設置したとき、 試料面法線と回折格子面法線とのなす角を4角と定義 する図中のxはy 角の補角であり,z = m/2-の 関係にある.これに対してcos““ x 法は,Fig.1 に示すよ うに透過法により低い回折角で測定する.応力を測定 する方向OXに対してど角を変化させる. - sin-v法と比較して cos““ x 法には,次に示す優れた点 がある.* 1. 透過法を用いることで,原理的に cos-x = 0~1の広い範囲を設定できる.354400TTTTTTTT0.1SUS316L y-Fe (311) by Mn-KaArmy TT 9220 -400 --222 1 -420-311 - --422 ・・・・331 --511 |Residual stress og, MPaFWHM, degSUS316L E-71.637key Rotation=0.5HzBefore tensile testO ●After tensile test |0.01 10.01. 11001 1101 Plastic strain e., %1, -40010.11001 . 10 Plastic strain ?., %Fig. 3: Change in FWHM with increase in plastic strainFig. 2: Change in residual stress with increase in plastic strain.2. 単軸応力の場合,回折面内の全周回転の揺動をかけられるので、粗大粒に対して有利である. 3. 透過法は,x 角の変化に対して照射面積が変化しないただし,cosx法は内部の回折格子面を測定しているの で,試験片の応力状態が平面応力を仮定できる場合に 限られる。もし、平面応力が仮定できない場合は、板厚 さ方向のひずみを測定する必要がある.なお,本研究に用いるX線的弾性定数は,すべて Kroner モデルから計算した [41. Kroner モデルは、多 結晶体の母相に球形の単結晶を仮定したモデルであり, 実在の多結晶体のX線的弾性定数に対してよい近似を 与える, SUS316 の Kroner モデルを計算するために, SUS316 の単結晶のステイフネスの値として CI1 - 206 GPa, Cl2 = 133 GPa, C44 = 119 GPaを他の文献から引用 した [5]計算に先立ち, web から単結晶のスティフネ ス c; の値を入力すると Kroner モデルから目的の回折 面のX線的弾性定数と機械的弾性定数を計算するシス テムを構築した [6], 3.実験結果および考察 3. 1残留応力,半価幅および硬さの変化 . 放射光による残留応力測定に先立ち,塑性変形前と 後で M1-K0 特性X線による y-Fe の 311 回折を用い て各試験片の残留応力を測定した,塑性ひずみの増加 による残留応力の変化挙動を Fig. 2 に示す。図中のエ ラーバーは 68.3%信頼限界を示す. ラボ X線による残 留応力測定は, Table 1 に示すように照射領域が大きく, 十分な結晶粒数があるため残留応力の測定精度もよく,Fig. 3: Change in FWHM with increase in plastic strain.粗大粒の影響はなかった。塑性変形を与える前の残留応力は、やや小さい圧縮 となっているが,塑性変形後は,すべて引張り側になっ た. y-Fe の 311 回折の残留応力は,塑性ひずみ Eが 大きくなるに従い増大するが,1%付近を超えると減少 し,破断ひずみに向かい残留応力は小さくなる.この結 果から,塑性ひずみn=1%付近でy-Feの311 回折面に 最も大きな残留応力が生じたことになる.また,塑性ひ ずみが大きくなるに従い,塑性変形前後の残留応力の 差異が小さくなる,このことは,塑性変形初期 Ex = 1% の付近が,最も塑性による粒間ひずみの影響が顕著に 現れることを示唆している.単相材における粒間ひず みは,結降伏点を超えて塑性するときに晶の弾性異方 性により発生する [7]. 大塑性領域では,すべり帯,双 晶変形,結晶の回転, 集合組織の形成などにより、粒間 ひずみが顕著に現れない可能性がある。一方,塑性変形に伴う半価幅の変化を Fig. 3 に示 す。 図は両対数のグラフなので,便宜的に,塑性ひずみ er=0を0.01 の位置にプロットした, 半価幅は,塑性変 形に従い大きくなり,回折線幅が広がる傾向を示す.塑 性に伴い転位やすべり変形により結晶性が悪くなるの で回折線幅が広がる.図をみる限りでは, 半価幅の変化 に明確な回折面依存性は認められない.塑性変形の指 標として回折線幅を利用することは可能であるが,初 期の塑性変形のを回折線幅の変化から評価することは 困難である。同様に各塑性変形させた試験片の硬さの変化を Fig.4 に示す.塑性ひずみの増加とともに硬さも増加するた だし,塑性ひずみ Eが 2%未満では半価幅と同様に顕 著な硬さの明確な増加を示すことは期待できない、硬355、300mm|Trem30011.07SUS316L, P-98N| SUS316L,yFa (400), E.%3D19% | E-371.637 key1500 -0-20 ? HelghtVickers hardness, HvDiffraction angle 20, dogHeight, cpsholeur1000.011000. 11Plastic strain & , %1111.04 . uuuu u m .. 100.10. 20. 30.40.5 0.6 sin(a) sin? y methodFig.4: Relation between plastic strain and Vicker hardness.1750011.07ト SUS316L, yfe (400), =19% |E%3D71.637key | Rotation%3D0.5Hz,-0-20 ? Height宮11.06Diffraction angle 28, degHeight, cps111.04. 10. 50. 60. 70.8 0.91 cos?(b) cos x method. |Fig. 5: Comparison between siny and cos2x method.ついでに。さおよび前述の半価幅の変化から塑性ひずみを予測す るできるのは,塑性ひずみが数%以上の領域である. 3. 2 c03 法高エネルギー放射光X線を用いることで、多数の回 折を利用して残留応力を測定できるほかに,本研究で 発案した透過法による20-c032 x 法が可能となる.従来 の反射法による siny 法と cos-x法とを比較・検討す る。一例として, Y-Fe の 400 回折の結果を Fig. 5 に示 す.. Fig. 5 (a) に示す20-sin'y 線図では、ばらつきが多 く直線性はよくない、この一因は,図 (a)に示すように siny が 0.5 以上で回折強度が得られないことにある. これに対して,Fig. 5 (b) の 20-c032 x 線図はよい直線1日の10 さおよび前述の半価幅の変化から塑性ひずみを予測す るできるのは,塑性ひずみが数%以上の領域である。 3.2 cos x法高エネルギー放射光X線を用いることで,多数の回 折を利用して残留応力を測定できるほかに,本研究で 発案した透過法による20-cos2 .法が可能となる。従来 の反射法による sin'y 法と cos-x法とを比較・検討す る。一例として, Y-Fe の 400 回折の結果を Fig. 5 に示 す..Fig. 5 (a) に示す20-sin' y 線図では、ばらつきが多 く直線性はよくない. この一因は,図 (a) に示すように sinky が 0.5 以上で回折強度が得られないことにある. これに対して, Fig. 5 (6) の 20-c032 x 線図はよい直線 性が得られた, 20-cos-x法は測定方位の格子面内で回 転させることができるので,揺動効果により cos-x 法 の方が十分なピーク強度を得ることができる. - 以上のことから、オーステナイト系ステンレスなど の粗大粒を測定するには cos x 法による回折面内回転 法が有利であることが実証できた、厚さ方向に応力変 化のない材料で,平面応力状態であれば,cos-x法で精 度よく応力を測定できる. 3.3 塑性変形による微視的残留応力 ・ ラボX線で測定した残留応力の変化を求めた Fig. 2 を参考にすると,残留応力の変化が最も明瞭に現れる 塑性ひずみ eのレベルが1~2%である. ep = 1 およ び2%の試験片に対して,各回折面 (nk1) により測定し た残留応力o/ hkl を「MkI) 方位のヤング率 Enx で整理 した結果をFig.6に示す。図中のデータを直線回帰した 結果と Kroner モデルによる機械的ヤング率 Em の値を それぞれ線で示してある. 一様に塑性変形させ除荷した後は、巨視的残留応力転させることができるので,揺動効果により cos-x 法 の方が十分なピーク強度を得ることができる.以上のことから,オーステナイト系ステンレスなど の粗大粒を測定するには cos x 法による回折面内回転 法が有利であることが実証できた厚さ方向に応力変 化のない材料で,平面応力状態であれば,cos-x法で精 度よく応力を測定できる。 3. 3塑性変形による微視的残留応力ラボX線で測定した残留応力の変化を求めた Fig. 2 を参考にすると,残留応力の変化が最も明瞭に現れる 塑性ひずみ のレベルが1~2%である. ep = 1 およ び2%の試験片に対して,各回折面 (nk1) により測定し た残留応力 o/ hkl を [hkI) 方位のヤング率 Enks で整理 した結果をFig.6に示す。図中のデータを直線回帰した 結果と Kroner モデルによる機械的ヤング率Enの値を それぞれ線で示してある. 一様に塑性変形させ除荷した後は、巨視的残留応力SUS316L, Y - Fe 2 = 71.637 key Rotation = 0.5 Hz 1 cos/ method1-5111311・ Residual stress onkl, MPa4200.0631■ 32%422 220あくまでteallerie-300L~140160 180 200 220° 240Young's modulus Enkle GPaFig. 6: Relation between residual microstress of.SUS316L and Young's modulus by Kroner model,は0であるが,測定された残留応力o/hkl はヤング率 の小さい回折面では引張りが生じ、大きい回折面では 圧縮が生じる関係が得られた.各方位の残留応力を概- 356 -Fig. 6: Relation between residual microstress of. SUS316L and Young's modulus by Kroner model, は0であるが,測定された残留応力o/hkl は、ヤング率 の小さい回折面では引張りが生じ、大きい回折面では! 圧縮が生じる関係が得られた.各方位の残留応力を概観すると,巨視的残留応力としては,ほぼバランスして いる,ヤング率の大きい面は回折格子面内の原子密度 が高く,すべりの生じやすい面になる。一方,ヤング率 の小さい面は面内の原子密度が小さく,すべりが生じ にくい面である.具体的には,Fig. 6 の 400 回折はもっ とも軟らかく,かつすべりにくい (100) 面であり,222 回折はもっとも硬くすべりやすい(111)面に相当し、そ れぞれ両極に位置する. . 結晶ごとの残留応力は,微視的残留応力(第2種応力) といわれる [8],機械的なヤング率に近い 311 回折は、 図からわかるように微視的残留応力が生じにくい回折 であり、硬いまたは軟らかな回折面は、粒間ひずみの影 響を受け微視的残留応力が発生しやすい回折面といえ る,弾性係数の小さいソフトな結晶方位はすべりにく いので、弾性で引張変形を吸収する.他方,弾性定数の 大きいハードな結晶方位はすべりやすいので,塑性で 引張変形を吸収する. 1. 結晶弾性異方性を表現するために, Kroner モデルを 用いて結晶方位のヤング率 Enk を計算し、それを機械 的ヤング率Emで除して無次元化した値を原点からの距 離で表し、それを [hk]] の方位で表した弾性曲面を Fig. 7に示す。図中の... a, b,cは結晶の単位格子の軸を表し ている.図(a)に示すように,アルミニウム (AI)は等方 性が高く球形に近い形をしている同様に,オーステナ イト系ステンレス (SUS310)の計算結果をFig.7(b)に示 す。 [111]方位がヤング率が最も大きく,[100]方位が最 も小さいその比は 1.64にもなり、図(a)の AI と比較す ると SUS316は弾性異方性が大きい, Al と SUS316は同Applied strainApplied strainiiiPlastic strainPlastic strain1+Lattice strainApplied strainApplied strainApplied strainHard Mechanical SoftPlastic straPlastic strainLattice strain*20+.0+Lattice st(a) Elastic strain(b) Small plastic strain(c) Large plastic strainFig. 8: Inducing mechanism of residual microstress with plastic deformation..(a) Al(6) SUS316Fig. 7: Elasitic anisotropy.じfcc の結晶系を持つが,弾性異方性は大きく異なる。結晶の弾性異方性を表すものとして弾性異方性パラ メータAがある、立方晶の弾性異方性パラメータ A は、 単結晶のスティフネス ci」 から2044/01/01* CIT-C12 で定義される [9]. AI の C から計算された弾性異方性 パラメータ A の値は 1.23 であるが [10], SUS316 は 3.26 となる [5]. 弾性異方性がない材料では A = 1 とな る、オーステナイト系ステンレスは弾性異方性が大き く、他の材料と比較して塑性変形による微視的残留応 力が生じやすい特徴がある. - 残留応力の回折面依存性が塑性変形により発生する メカニズムについて説明する。弾性域および塑性域に おける格子ひずみと機械的ひずみの関係を Fig. 8 に示 す。 X線で測定されるひずみは格子ひずみ,すなわち弾 性ひずみである. Fig. 8 (a) のように,ハードおよびソ フトな結晶粒がともに弾性変形内であれば、除荷後も357各格子ひずみは生じない.まず,Fig. 8 (6) ではハード な結晶方位を持つ粒で降伏が始まる.その結果、ソフト な結晶方位の粒は, ハードな結晶粒が受け持っていた負 荷応力を負担するので,よりソフトな応力-ひずみ関係 になる.塑性が開始すると機械的ひずみは増加するが, 格子ひずみは弾性ひずみを表すので増加しない。それ が除荷されると,各結晶粒は弾性除荷直線に沿って直線 的に戻るが,力学的バランスを維持しながら戻るので, 機械的格子ひずみが零になるところで除荷が完了する。 その結果, ハードな結晶粒には圧縮, ソフトな結晶粒に は引張りの格子ひずみが残留する.さらに,引張塑性変形が大きくなりソフトな格子面 も塑性変形すると Fig. 8 (C) のようになる. ソフトな結 晶粒も塑性すべりを起こし、格子ひずみ一定のまま壇 性加工が進行する.除荷については Fig. 8 (1) と同じメ カニズムとなる.図 (c) をみてもわかるように,塑性変 形が大きくなっても,回折面依存性による微視的残留応 力は,むやみに大きくならず上限があることも予想で きる.本実験においても,塑性ひずみ p = 1~2%にお いて塑性変形による残留応力の回折面依存性が明瞭に 現れたのは、この理由による.以上のことから,結晶粒間の回折面依存性による残 留応力は,弾性異方性を持つ材料において塑性初期の 弾塑性混在域で発生し,除荷後に微視的残留応力とし て分布する. オーステナイト系ステンレスにおいては, 巨視的残留応力に加えて,微視的残留応力を考慮する ことも大切である。 4.結言SUS316L に引張塑性変形を与え除荷した後に,各結 晶方位ごとの残留応力を評価した,本研究をまとめる と,以下のごとくである。1. 本研究で提案した cos-x 法は,粗大粒をもつオー *ステナイト系ステンレスの残留応力測定に有効であった. 2. 塑性変形を与えた試料の残留応力を多数の回折面 を用いて評価すると,回折面に依存した微視的残留応力が生じた, 3. 塑性による残留応力を Kroner モデルに基づき計算 したヤング率で整理すると,結晶粒間の残留応力の回折面依存性が整理できた, 4. 回折面依存性による残留応力は,弾性異方性を持つ材料において塑性初期の弾塑性混在域で発生し, 除荷後に微視的残留応力として分布する.5. 塑性ひずみ数%以上については,回折線幅および ビッカース硬さとよい対応を示した.謝辞本研究の一部は,平成20年度高経年化対策強化基盤 整備事業の支援を受けた.ここに記して謝意を表する 参考文献 [1] B, Clausen, T. Lorentzen and T. Leffers, ““Selfconsistent model of the plastic deformation of f.c.c. polycrystals and its implications for diffraction measurements of internal stresses““, Acta Metalludica, Vol.46, pp. 3087-3098 (1998). [2] B. Clausen, T. Lorentzen, M.A.M. Brourke and M.R.Daymond, ““Lattice strain evolution during uniaxial tensile loading of strainless steel”, Meterial Science & Engineering, A259, pp. 17-24 (1999). [3] R. Lin Peng, M.Dden, Y.D. Wang and S. Johansson,““Intergranular strains and plastic deformation of an austenitic stainless steel”, Material Science & Engineering, A334, pp. 215-222 (2002). [4] E. Kroner, Berechnung der elastischen Konstantendes Vierkristalls aus den Konstanten des Einkristalls,Zeiteschrift Physik, Vol. 151, pp. 504-518 (1958). [5] H.M. Ledbetter, ““Predicted single-crystal elastic constants of stainless-steel 316““, British Journal of NDT,Vol. 23, pp. 286-287 (1981). [6] http://x-ray.ed.niigata-u.ac.jp/xdatabase/Kroner_model/kroner_c.html [7]T.M. Holden,”Intergranular stress““, J. Neutron - Research, Vol.7, pp. 291-317 (1999). [8] 田中啓介,鈴木賢治,秋庭義明,残留応力のX線評価基礎と応用, p. 187 (2006), 養賢堂. [9]田中啓介,鈴木賢治,秋庭義明,残留応力のX線評価―基礎と応用, p. 257 (2006), 養賢堂. [10] G.N. Kamn and G.A. Alers, ““Low-temerature elasticmoduli of aluminum”, Journal of Physics and Chemistry of Solids, Vol. 35, pp. 327-330 (1964).358“ “オーステナイト系ステンレスの弾性異方性と微視的残留応力“ “鈴木 賢治,Kenji SUZUKI,菖蒲 敬久,Takahisa SHOBU
運転開始後40年を超える原子力発電設備が増加する 時代を迎え,その高経年化対策が重要な課題となる。そ の中で SCC の研究においては、オーステナイト系ステ ンレスの塑性変形と残留応力についての科学的理解を 築くことが不可欠である. オーステナイト系ステンレ スは弾性異方性を特徴とするので,結晶方位により弾 性定数も塑性変形も異なり,結晶粒ごとの微視的残留 応力が生じる.塑性変形による微視的残留応力の挙動 を知ることは,オーステナイト系ステンレス鋼の残留 応力発生機構の解明として重要である.これまでのオーステナイト系ステンレスの弾・塑性 異方性の研究は、中性子回折を利用して行われてきた, Clausen らは,単軸引張下で中性子回折を利用して各格 子面の間隔を測定し,弾性格子ひずみと負荷応力の関 係を求め、それを多結晶体のセルフコンシステントモ デルによる予測と比較している [1,21. それらの実験結 果では、負荷方向はよい対応を示したが,負荷方向垂直 の応力・ひずみ関係では、よい一致がみられなかった. Lin Peng らは,各負荷における残留ひずみを 200, 220, 311, 222 回折から測定し,各塑性段階の TEM 観察も行っている [3]. これらの一連の研究は,弾性異方性によ る塑性域での負荷応力と弾性ひずみの関係に主眼が置 かれている。しかし, SCCにおける残留応力の役割を考えるとき、 塑性域における弾性ひずみと負荷応力の関係よりも除 荷後の残留応力そのものが重要な意味を持つ,そこで 本研究では,回折面方位による残留応力の値に主眼を 置き,種々の塑性変形を与えられオーステナイト系ステ ンレス鋼の除荷後の残留応力を多数の回折面から測定 し,微視的残留応力の回折面依存性について検討する. 2. 実験方法 2.1 試験片および塑性変形 ・ 本実験の試験片材料として SUS316Lを用いた,本試 験片の形状は,平行部長さ55mm, 幅15mm および板厚 3mm の平板試験片である。試験片は,鍛造された厚板 から放電加工で平板を切り出して,前述の寸法に機械 加工した後、表面をバフ研磨仕上げ、裏面を研削仕上げ のままとした、さらに、機械加工のひずみを除去するた めに,913K,10分間の加熱後,炉冷した。引張試験の 結果では,耐力 0.0.2 = 202MPa, 引張強さ OB = 523MPa, 伸び 81%を得た.なお,実測した試験片の平均結晶粒 径は 55 um であった. 引張試験機により平板試験片に塑性変形を与えた.
Table rays.Table 1; Conditions for stress measurement with laboratory Xrays.Radiations Diffraction Tube voltage Tube current Method Irradiated area Diffraction angle 200 Scanning Scanning step Preset time siny Stress constant K Peak determinationMn-Ka y-Fe,311 30kV10 mA Iso-inclination4x8mm 152.313 deg 149~156 deg 0.1 deg/stepI sec 0.0~0.6,0.1 step-301 MPa/deg | Half value breadthクロスヘッド速度は,準静的引張りとするために 0.2 | mm/min(ひずみ速度 3.64 × 10-3/min) とした,除荷後の 永久変形の伸びから塑性ひずみものを求めた,設定した ED は, 0.2%, 1%, 2%, 5%, 10%, 20% および 55%とし たが,実測した塑性ひずみ とは, それぞれ 0%, 0.23%、 0.99%, 2.13%, 4.98%, 9.25%, 19.00%および 54.75%であった,塑性ひずみ ED が 0.2%, 1%, 2%については,変 一位が小さいので差動トランス式変位計にて標点間変位を測定した,また,塑性ひずみ と が 5%, 10%, 20%お よび 55%については,ひずみゲージ式変位計にて標点 間変位を測定した.なお, Ep = 54.75 %の試験片は破断 試験したもので標点間にくびれた部分が含まれるので, くびれを外して一様に塑性変形した所の標点間を切り 出し,塑性ひずみを求めた。 22 残留応力測定引張試験前後の残留応力については,ラボX線によ り測定した、測定条件は,Mn-Ka, 特性X線による 20 - sin y 法を用いた、詳細な条件を Table 1 に示す.MnKa 特性X線と Y-Fe の 311 回折の組合せが,大きい回 折強度,高回折角の条件を満たすので、精度および測定 効率のよい条件である.一方,微視的残留応力の回折面依存性を調べるため には,多数の回折面から残留応力を測定しなければな らない、そのために,波長の短い高エネルギーX線を必 要とする.本研究では,大型放射光施設SPring-8のビー ムライン BLO2B1 を利用して,高エネルギーX線によ る残留応力測定を行った. シンクロトロン放射光X線の 条件を Table 2 に示す。 -- 放射光測定においては照射領域が小さいので,回折 の測定に粗大粒の影響が現れやすい. 本研究では、オーTable 2: Conditions for stress measurements, using hard synchrotron X-rays.Beam lineBLO2B1 Wavelength..71.793 keV (17.264 pm) Divergent slit 0.2x2mm),(height x width) Receiving slit 1, 21.0.2x2mm, (height x width) Rotation speed0.5 HzGauge volumeTED x = 0°x = 90°RX-Ray10xGauge volume CO x = 0°4区x = 900-Specimen RotationFig. 1: cos-x method with rotation.ステナイト系ステンレスの粗大粒の対策として,以下 について検討した,1. 高エネルギー放射光X線による強い透過力を利用して透過法にて応力測定を行うこと 2. 回折格子面内の回転揺動法を用いること 3. 無ひずみの格子面間隔do を必要としない方法その結果、新しい応力測定法として cos-x 法を提案す る: cos-x 法の概略を Fig. 1 に示す.この応力測定方法 は、ひずみ測定の原理としては sin'v法の一種であり, 透過型の sin““ v法といえる。ここでは,反射型の sin' y 法と区別するために,以下に説明する方法を cos-x法 と呼ぶ.siny法は反射法であり,応力評価方向に半角 を変化させる。一般に,反射型に試料を設置したとき、 試料面法線と回折格子面法線とのなす角を4角と定義 する図中のxはy 角の補角であり,z = m/2-の 関係にある.これに対してcos““ x 法は,Fig.1 に示すよ うに透過法により低い回折角で測定する.応力を測定 する方向OXに対してど角を変化させる. - sin-v法と比較して cos““ x 法には,次に示す優れた点 がある.* 1. 透過法を用いることで,原理的に cos-x = 0~1の広い範囲を設定できる.354400TTTTTTTT0.1SUS316L y-Fe (311) by Mn-KaArmy TT 9220 -400 --222 1 -420-311 - --422 ・・・・331 --511 |Residual stress og, MPaFWHM, degSUS316L E-71.637key Rotation=0.5HzBefore tensile testO ●After tensile test |0.01 10.01. 11001 1101 Plastic strain e., %1, -40010.11001 . 10 Plastic strain ?., %Fig. 3: Change in FWHM with increase in plastic strainFig. 2: Change in residual stress with increase in plastic strain.2. 単軸応力の場合,回折面内の全周回転の揺動をかけられるので、粗大粒に対して有利である. 3. 透過法は,x 角の変化に対して照射面積が変化しないただし,cosx法は内部の回折格子面を測定しているの で,試験片の応力状態が平面応力を仮定できる場合に 限られる。もし、平面応力が仮定できない場合は、板厚 さ方向のひずみを測定する必要がある.なお,本研究に用いるX線的弾性定数は,すべて Kroner モデルから計算した [41. Kroner モデルは、多 結晶体の母相に球形の単結晶を仮定したモデルであり, 実在の多結晶体のX線的弾性定数に対してよい近似を 与える, SUS316 の Kroner モデルを計算するために, SUS316 の単結晶のステイフネスの値として CI1 - 206 GPa, Cl2 = 133 GPa, C44 = 119 GPaを他の文献から引用 した [5]計算に先立ち, web から単結晶のスティフネ ス c; の値を入力すると Kroner モデルから目的の回折 面のX線的弾性定数と機械的弾性定数を計算するシス テムを構築した [6], 3.実験結果および考察 3. 1残留応力,半価幅および硬さの変化 . 放射光による残留応力測定に先立ち,塑性変形前と 後で M1-K0 特性X線による y-Fe の 311 回折を用い て各試験片の残留応力を測定した,塑性ひずみの増加 による残留応力の変化挙動を Fig. 2 に示す。図中のエ ラーバーは 68.3%信頼限界を示す. ラボ X線による残 留応力測定は, Table 1 に示すように照射領域が大きく, 十分な結晶粒数があるため残留応力の測定精度もよく,Fig. 3: Change in FWHM with increase in plastic strain.粗大粒の影響はなかった。塑性変形を与える前の残留応力は、やや小さい圧縮 となっているが,塑性変形後は,すべて引張り側になっ た. y-Fe の 311 回折の残留応力は,塑性ひずみ Eが 大きくなるに従い増大するが,1%付近を超えると減少 し,破断ひずみに向かい残留応力は小さくなる.この結 果から,塑性ひずみn=1%付近でy-Feの311 回折面に 最も大きな残留応力が生じたことになる.また,塑性ひ ずみが大きくなるに従い,塑性変形前後の残留応力の 差異が小さくなる,このことは,塑性変形初期 Ex = 1% の付近が,最も塑性による粒間ひずみの影響が顕著に 現れることを示唆している.単相材における粒間ひず みは,結降伏点を超えて塑性するときに晶の弾性異方 性により発生する [7]. 大塑性領域では,すべり帯,双 晶変形,結晶の回転, 集合組織の形成などにより、粒間 ひずみが顕著に現れない可能性がある。一方,塑性変形に伴う半価幅の変化を Fig. 3 に示 す。 図は両対数のグラフなので,便宜的に,塑性ひずみ er=0を0.01 の位置にプロットした, 半価幅は,塑性変 形に従い大きくなり,回折線幅が広がる傾向を示す.塑 性に伴い転位やすべり変形により結晶性が悪くなるの で回折線幅が広がる.図をみる限りでは, 半価幅の変化 に明確な回折面依存性は認められない.塑性変形の指 標として回折線幅を利用することは可能であるが,初 期の塑性変形のを回折線幅の変化から評価することは 困難である。同様に各塑性変形させた試験片の硬さの変化を Fig.4 に示す.塑性ひずみの増加とともに硬さも増加するた だし,塑性ひずみ Eが 2%未満では半価幅と同様に顕 著な硬さの明確な増加を示すことは期待できない、硬355、300mm|Trem30011.07SUS316L, P-98N| SUS316L,yFa (400), E.%3D19% | E-371.637 key1500 -0-20 ? HelghtVickers hardness, HvDiffraction angle 20, dogHeight, cpsholeur1000.011000. 11Plastic strain & , %1111.04 . uuuu u m .. 100.10. 20. 30.40.5 0.6 sin(a) sin? y methodFig.4: Relation between plastic strain and Vicker hardness.1750011.07ト SUS316L, yfe (400), =19% |E%3D71.637key | Rotation%3D0.5Hz,-0-20 ? Height宮11.06Diffraction angle 28, degHeight, cps111.04. 10. 50. 60. 70.8 0.91 cos?(b) cos x method. |Fig. 5: Comparison between siny and cos2x method.ついでに。さおよび前述の半価幅の変化から塑性ひずみを予測す るできるのは,塑性ひずみが数%以上の領域である. 3. 2 c03 法高エネルギー放射光X線を用いることで、多数の回 折を利用して残留応力を測定できるほかに,本研究で 発案した透過法による20-c032 x 法が可能となる.従来 の反射法による siny 法と cos-x法とを比較・検討す る。一例として, Y-Fe の 400 回折の結果を Fig. 5 に示 す.. Fig. 5 (a) に示す20-sin'y 線図では、ばらつきが多 く直線性はよくない、この一因は,図 (a)に示すように siny が 0.5 以上で回折強度が得られないことにある. これに対して,Fig. 5 (b) の 20-c032 x 線図はよい直線1日の10 さおよび前述の半価幅の変化から塑性ひずみを予測す るできるのは,塑性ひずみが数%以上の領域である。 3.2 cos x法高エネルギー放射光X線を用いることで,多数の回 折を利用して残留応力を測定できるほかに,本研究で 発案した透過法による20-cos2 .法が可能となる。従来 の反射法による sin'y 法と cos-x法とを比較・検討す る。一例として, Y-Fe の 400 回折の結果を Fig. 5 に示 す..Fig. 5 (a) に示す20-sin' y 線図では、ばらつきが多 く直線性はよくない. この一因は,図 (a) に示すように sinky が 0.5 以上で回折強度が得られないことにある. これに対して, Fig. 5 (6) の 20-c032 x 線図はよい直線 性が得られた, 20-cos-x法は測定方位の格子面内で回 転させることができるので,揺動効果により cos-x 法 の方が十分なピーク強度を得ることができる. - 以上のことから、オーステナイト系ステンレスなど の粗大粒を測定するには cos x 法による回折面内回転 法が有利であることが実証できた、厚さ方向に応力変 化のない材料で,平面応力状態であれば,cos-x法で精 度よく応力を測定できる. 3.3 塑性変形による微視的残留応力 ・ ラボX線で測定した残留応力の変化を求めた Fig. 2 を参考にすると,残留応力の変化が最も明瞭に現れる 塑性ひずみ eのレベルが1~2%である. ep = 1 およ び2%の試験片に対して,各回折面 (nk1) により測定し た残留応力o/ hkl を「MkI) 方位のヤング率 Enx で整理 した結果をFig.6に示す。図中のデータを直線回帰した 結果と Kroner モデルによる機械的ヤング率 Em の値を それぞれ線で示してある. 一様に塑性変形させ除荷した後は、巨視的残留応力転させることができるので,揺動効果により cos-x 法 の方が十分なピーク強度を得ることができる.以上のことから,オーステナイト系ステンレスなど の粗大粒を測定するには cos x 法による回折面内回転 法が有利であることが実証できた厚さ方向に応力変 化のない材料で,平面応力状態であれば,cos-x法で精 度よく応力を測定できる。 3. 3塑性変形による微視的残留応力ラボX線で測定した残留応力の変化を求めた Fig. 2 を参考にすると,残留応力の変化が最も明瞭に現れる 塑性ひずみ のレベルが1~2%である. ep = 1 およ び2%の試験片に対して,各回折面 (nk1) により測定し た残留応力 o/ hkl を [hkI) 方位のヤング率 Enks で整理 した結果をFig.6に示す。図中のデータを直線回帰した 結果と Kroner モデルによる機械的ヤング率Enの値を それぞれ線で示してある. 一様に塑性変形させ除荷した後は、巨視的残留応力SUS316L, Y - Fe 2 = 71.637 key Rotation = 0.5 Hz 1 cos/ method1-5111311・ Residual stress onkl, MPa4200.0631■ 32%422 220あくまでteallerie-300L~140160 180 200 220° 240Young's modulus Enkle GPaFig. 6: Relation between residual microstress of.SUS316L and Young's modulus by Kroner model,は0であるが,測定された残留応力o/hkl はヤング率 の小さい回折面では引張りが生じ、大きい回折面では 圧縮が生じる関係が得られた.各方位の残留応力を概- 356 -Fig. 6: Relation between residual microstress of. SUS316L and Young's modulus by Kroner model, は0であるが,測定された残留応力o/hkl は、ヤング率 の小さい回折面では引張りが生じ、大きい回折面では! 圧縮が生じる関係が得られた.各方位の残留応力を概観すると,巨視的残留応力としては,ほぼバランスして いる,ヤング率の大きい面は回折格子面内の原子密度 が高く,すべりの生じやすい面になる。一方,ヤング率 の小さい面は面内の原子密度が小さく,すべりが生じ にくい面である.具体的には,Fig. 6 の 400 回折はもっ とも軟らかく,かつすべりにくい (100) 面であり,222 回折はもっとも硬くすべりやすい(111)面に相当し、そ れぞれ両極に位置する. . 結晶ごとの残留応力は,微視的残留応力(第2種応力) といわれる [8],機械的なヤング率に近い 311 回折は、 図からわかるように微視的残留応力が生じにくい回折 であり、硬いまたは軟らかな回折面は、粒間ひずみの影 響を受け微視的残留応力が発生しやすい回折面といえ る,弾性係数の小さいソフトな結晶方位はすべりにく いので、弾性で引張変形を吸収する.他方,弾性定数の 大きいハードな結晶方位はすべりやすいので,塑性で 引張変形を吸収する. 1. 結晶弾性異方性を表現するために, Kroner モデルを 用いて結晶方位のヤング率 Enk を計算し、それを機械 的ヤング率Emで除して無次元化した値を原点からの距 離で表し、それを [hk]] の方位で表した弾性曲面を Fig. 7に示す。図中の... a, b,cは結晶の単位格子の軸を表し ている.図(a)に示すように,アルミニウム (AI)は等方 性が高く球形に近い形をしている同様に,オーステナ イト系ステンレス (SUS310)の計算結果をFig.7(b)に示 す。 [111]方位がヤング率が最も大きく,[100]方位が最 も小さいその比は 1.64にもなり、図(a)の AI と比較す ると SUS316は弾性異方性が大きい, Al と SUS316は同Applied strainApplied strainiiiPlastic strainPlastic strain1+Lattice strainApplied strainApplied strainApplied strainHard Mechanical SoftPlastic straPlastic strainLattice strain*20+.0+Lattice st(a) Elastic strain(b) Small plastic strain(c) Large plastic strainFig. 8: Inducing mechanism of residual microstress with plastic deformation..(a) Al(6) SUS316Fig. 7: Elasitic anisotropy.じfcc の結晶系を持つが,弾性異方性は大きく異なる。結晶の弾性異方性を表すものとして弾性異方性パラ メータAがある、立方晶の弾性異方性パラメータ A は、 単結晶のスティフネス ci」 から2044/01/01* CIT-C12 で定義される [9]. AI の C から計算された弾性異方性 パラメータ A の値は 1.23 であるが [10], SUS316 は 3.26 となる [5]. 弾性異方性がない材料では A = 1 とな る、オーステナイト系ステンレスは弾性異方性が大き く、他の材料と比較して塑性変形による微視的残留応 力が生じやすい特徴がある. - 残留応力の回折面依存性が塑性変形により発生する メカニズムについて説明する。弾性域および塑性域に おける格子ひずみと機械的ひずみの関係を Fig. 8 に示 す。 X線で測定されるひずみは格子ひずみ,すなわち弾 性ひずみである. Fig. 8 (a) のように,ハードおよびソ フトな結晶粒がともに弾性変形内であれば、除荷後も357各格子ひずみは生じない.まず,Fig. 8 (6) ではハード な結晶方位を持つ粒で降伏が始まる.その結果、ソフト な結晶方位の粒は, ハードな結晶粒が受け持っていた負 荷応力を負担するので,よりソフトな応力-ひずみ関係 になる.塑性が開始すると機械的ひずみは増加するが, 格子ひずみは弾性ひずみを表すので増加しない。それ が除荷されると,各結晶粒は弾性除荷直線に沿って直線 的に戻るが,力学的バランスを維持しながら戻るので, 機械的格子ひずみが零になるところで除荷が完了する。 その結果, ハードな結晶粒には圧縮, ソフトな結晶粒に は引張りの格子ひずみが残留する.さらに,引張塑性変形が大きくなりソフトな格子面 も塑性変形すると Fig. 8 (C) のようになる. ソフトな結 晶粒も塑性すべりを起こし、格子ひずみ一定のまま壇 性加工が進行する.除荷については Fig. 8 (1) と同じメ カニズムとなる.図 (c) をみてもわかるように,塑性変 形が大きくなっても,回折面依存性による微視的残留応 力は,むやみに大きくならず上限があることも予想で きる.本実験においても,塑性ひずみ p = 1~2%にお いて塑性変形による残留応力の回折面依存性が明瞭に 現れたのは、この理由による.以上のことから,結晶粒間の回折面依存性による残 留応力は,弾性異方性を持つ材料において塑性初期の 弾塑性混在域で発生し,除荷後に微視的残留応力とし て分布する. オーステナイト系ステンレスにおいては, 巨視的残留応力に加えて,微視的残留応力を考慮する ことも大切である。 4.結言SUS316L に引張塑性変形を与え除荷した後に,各結 晶方位ごとの残留応力を評価した,本研究をまとめる と,以下のごとくである。1. 本研究で提案した cos-x 法は,粗大粒をもつオー *ステナイト系ステンレスの残留応力測定に有効であった. 2. 塑性変形を与えた試料の残留応力を多数の回折面 を用いて評価すると,回折面に依存した微視的残留応力が生じた, 3. 塑性による残留応力を Kroner モデルに基づき計算 したヤング率で整理すると,結晶粒間の残留応力の回折面依存性が整理できた, 4. 回折面依存性による残留応力は,弾性異方性を持つ材料において塑性初期の弾塑性混在域で発生し, 除荷後に微視的残留応力として分布する.5. 塑性ひずみ数%以上については,回折線幅および ビッカース硬さとよい対応を示した.謝辞本研究の一部は,平成20年度高経年化対策強化基盤 整備事業の支援を受けた.ここに記して謝意を表する 参考文献 [1] B, Clausen, T. Lorentzen and T. Leffers, ““Selfconsistent model of the plastic deformation of f.c.c. polycrystals and its implications for diffraction measurements of internal stresses““, Acta Metalludica, Vol.46, pp. 3087-3098 (1998). [2] B. Clausen, T. Lorentzen, M.A.M. Brourke and M.R.Daymond, ““Lattice strain evolution during uniaxial tensile loading of strainless steel”, Meterial Science & Engineering, A259, pp. 17-24 (1999). [3] R. Lin Peng, M.Dden, Y.D. Wang and S. Johansson,““Intergranular strains and plastic deformation of an austenitic stainless steel”, Material Science & Engineering, A334, pp. 215-222 (2002). [4] E. Kroner, Berechnung der elastischen Konstantendes Vierkristalls aus den Konstanten des Einkristalls,Zeiteschrift Physik, Vol. 151, pp. 504-518 (1958). [5] H.M. Ledbetter, ““Predicted single-crystal elastic constants of stainless-steel 316““, British Journal of NDT,Vol. 23, pp. 286-287 (1981). [6] http://x-ray.ed.niigata-u.ac.jp/xdatabase/Kroner_model/kroner_c.html [7]T.M. Holden,”Intergranular stress““, J. Neutron - Research, Vol.7, pp. 291-317 (1999). [8] 田中啓介,鈴木賢治,秋庭義明,残留応力のX線評価基礎と応用, p. 187 (2006), 養賢堂. [9]田中啓介,鈴木賢治,秋庭義明,残留応力のX線評価―基礎と応用, p. 257 (2006), 養賢堂. [10] G.N. Kamn and G.A. Alers, ““Low-temerature elasticmoduli of aluminum”, Journal of Physics and Chemistry of Solids, Vol. 35, pp. 327-330 (1964).358“ “オーステナイト系ステンレスの弾性異方性と微視的残留応力“ “鈴木 賢治,Kenji SUZUKI,菖蒲 敬久,Takahisa SHOBU