マニピュレータ型ロボットのプラント保全への適用

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カテゴリ: 第6回
1.緒言
原子力発電所では、定期的に各種保全工事を行なっ ている。保全工事の内容は、主として検査と補修であ り、専用工具(例えばカメラや溶接装置)を対象箇所 ヘアクセスさせ、その目的作業を実施する。これらの対象箇所の中には、狭い・水中・放射線量 が高いといった物理的環境条件から、人による作業が 困難又は不可能な場所も多く、人に代わってロボット に作業を行なわせる技術を開発し、実工事で使用して いる。しかし、保全作業の種類や作業対象は多種多様 で、更に今後もこの種類は増えると考えられる。作業 毎にロボットを設計開発していては、製作期間、費用 面で非効率であり、信頼性低下の原因となるため、で きれば共通のロボットで色々な作業を行ないたい。そ のひとつの解決策として、人の腕のように自由度が大 きく、可動範囲が広い多関節マニピュレータ型ロボッ ト(以降マニピュレータと略称する)を専用工具のア クセス手段として応用することが考えられる。本稿では原子力発電所の保全工事で使うための装置 に求められる仕様と、弊社で開発したマニピュレータ の特徴、及び、マニピュレータ型ロボットを応用した 保全工事の適用事例とマニピュレータの適用の有効性 について紹介する。
2. マニピュレータ [1] [2] [3] [8] 2.1 特徴 マニピュレータとは、モータ・ギア・センサからなる 回転リンクを積み上げて配置した構造で、人の腕のよ うな動きが可能なロボットである。マニピュレータの 例として弊社 PA10の鳥瞰図を図1に示す。Mechanical interlaceCoordinate Systeswristsite. YnAxis No. 6 (Hand Pivot)w, (+911Axis No. 7 (Hand Rotation),Axis No.5 Ain Rotationi E,(+)Lowe AtaAxis No. 4 Ara Us/Down Pirot) E, (+)Axis No. 3 arn Relation) S, (+)loper AreAxis No.2 A LH Ars Up/Down Pive!) (Sz (+)ConnectorsAxis No.1 fara left/Right Rotaljona S, (+)Shoulder BoxBase Coordinate Systen図1 多関節マニピュレータ PA10マニピュレータ(PA10)は、以下のような特徴がある。* の 比較的小さなロボットで、広い可動範囲と高いュレ比較的小さなロボットで、広い可動範囲と高い 自由度が得られる。 制御ソフトの変更で、動作を自由に変更できる。 7 軸構成であり冗長自由度を有するため、障害 物回避に有効である。1909/12/17これらのメリットを生かして各方面でマニピュレー3. 保全工事への適用例 タが活躍している。マニピュレータを保全工事へ応用した事例を以下に 2.2 保全工事へのマニピュレータの適用検討紹介する。 1促企T車の作壁 - 田いられるT目1+ +++ 2.2 保全工事へのマニピュレータの適用検討保全工事の作業に用いられる工具は、大きさや形が 様々で、その使い方(動かし方)も異なる。こういっ た作業に、可動範囲や自由度で高い汎用性を有するマ ニピュレータを用いることは、複雑な動作要求に対応 可能であり、保全工事に用いるロボットの共通化を考 えた場合、非常に有効である。また、同一箇所へ多種の作業を行なう場合は、先端 工具と制御ソフトを変えるだけで、全ての作業を同一 ロボットで行なえる利点もある。更には、工事直前に作業の種類が増えた場合や、先 端工具の開発に時間を要し、その大きさや使い方(ア クセス方法)が工事直前まで未定の場合には、汎用性 の高いマニピュレータの採用は特に有効である。2.3 原子力へ適用するための要求仕様 1 原子力発電所の各種保全工事ヘロボットを適用する ためには、使用環境や作業の特徴から、以下の要求を 満たす必要がある。 ・ 人手の作業と同等または、それ以上の精度を有すること ・ 耐放射線性を有すること防滴(除染時に水洗いができること)、防水(水 中の場合)であること 狭隘部への搬入出を考慮し、小型軽量であること。・ マニピュレータと制御装置の接続を一時的に外しても、原点復帰等のイニシャライズ作業無く、瞬時に起動すること。 これら要求仕様を元に、原子力発電所での保全工事 に適用できるマニピュレータを設計・開発した。以下 表1にその主な仕様を示す。表1 マニピュレータ型ロボット ベース仕様 軸数、7軸 アクチュエーター ACサーボモータ 繰返し位置決め精度 | 0.1 [mm] | 角度センサレゾルバ (絶対角度) 耐放射線性| 集積線量 10°[Gy] 耐環境性| 防滴 IP54(防水 IP67 も可)|3.1 原子炉容器の非破壊検査[7] PWR 型原子力発電所の原子炉容器(以下 RV) 溶接 部の健全性を UT の非破壊検査で確認する検査工事へ マニピュレータを適用した。RV は検査時に水没した状 態であるため、ロボットは完全防水構造とし、スラス タ(プロペラ)推力で RV 内を自由に移動できる水中 自航型台車にマニピュレータを搭載した構造とした。 検査対象箇所の溶接線近傍まで台車で移動後、マニピ ニュレータで検査用先端工具を動かして検査する(図2)。 先端工具は、RV の検査対象箇所毎に複数種類必要であ るが、全ての先端工具をマニピュレータに装着可能で、 順次交換することで RV 溶接線全ての検査を1台のロ ボットで可能とした。複数の大掛かりな装置を使って いた従来に比べて、大幅な検査期間の短縮をこのロボ ットで実現した。水中自航型台車7・マニピュレータあきさが2セット3RV 本体及びノズル内 面溶接線をマニピュ レータ先端に搭載し た検査工具で探傷。RV図2 原子炉容器非破壊検査装置3.2 再処理工場内自動分析マニピュレータ [6] 再処理工場内の分析ボックス内で、ビーカや試験管 を用いて試験体の分析を行なう作業は、試験体が少量 の場合、繊細で正確な作業が要求され、また、化学反 応の待ち時間が多い理由から、ロボットによる自動化1900/12/29が要望されている。ロボットに要求される仕様は、分 析ボックス内に入る大きさで、故障に対するメンテナ ンス性が考慮されていることであり、分割モジュール 設計を取り入れ、故障モジュールのみ交換可能なマニ ピュレータを開発した(図3)。マニピュレータの制御 やメカ部の設計思想は先行ロボットを踏襲しつつ、耐 食性を考慮したオールステンレス仕様とし、MSM'に よる手動操作でモジュール分割及び復旧が可能なよう 設計した。このマニピュレータにより、再処理工場で の 24 時間連続分析作業が可能となった。製ュール化図3 分析用マニピュレータ3.3 原子力防災支援ロボット[4] [5] 11999年に発生したJCO 事故を教訓に、放射線環境下 で事故収束作業支援を行なう作業用ロボットを開発し た(図 4~図 6)。このロボットは、階段や不整地を走 行できる台車に作業用マニピュレータ(先端にツール チェンジャを搭載し、各種工具をワンタッチで取り付 け可能)とカメラマニピュレータを搭載し、遠隔操作 でドア/弁の開閉、配管開孔、現場の状況把握が可能 なロボットである。本ロボットは保全工事とは直接関 係が無いが、この時に開発したマニピュレータ技術が ベースとなり、保全工事の高度化に大きく貢献してい る。3.4 再処理工場内機器の目視検査六ヶ所再処理工場内のセル(コンクリート壁で隔離 された部屋)内タンクや配管等の機器を目視検査する 工事ヘマニピュレータを適用した(図 7、図8)。セルMSM (Master Slave Manipulator) 再処理工場の設備内へのアクセスルートは直径約 200mm、長さ約 800mm の IES ホールのみであり、ここからカメラをセル内へ 送り込み、検査対象機器近傍へカメラを案内する必要 がある。細長いインタベーションホールを通過できる ・ロッド型ロボットの先端にマニピュレータを搭載し、 セル内でカメラを自在に動作させ、機器の目視検査を 可能とした。カメラマニピュレータ作業用マニピュレータ図4 原子力防災支援ロボットと操作卓図5 マニピュレータ操作によるドア開け通過配管開孔工具弁開閉工具図6 配管開孔および弁開閉目視ロボット本体IES ホール連結棒連結部(8本) マニピュレータカメラ最大 約9m““L800図7 再処理工場機器目視検査ロボット1900/12/30目視カメラ(耐放性)IES ホール模擬4軸、 マニピュレータベースとなるマニピュレータを開発した。 保全工事 で用いる専用工具の対象箇所へのアクセス手段と して、このマニピュレータを用いることで、ロボッ トの共通化と共に、高機能で高い信頼性の保全工事 を実現している。 4) 本稿で紹介したマニピュレータ技術をはじめ、様々 なロボット技術を応用し、原子力発電所において、 現在は未着手の領域の保全工事に取り組んで行き たい。更に、放射線環境下全般(再処理施設や核融 合炉、宇宙等)で必要な各種作業のロボット化へも 応用可能であると考えている。図8 目視検査ロボットマニピュレータ蒸気出口ノズル入湿分分離器上部開」し気水分離器3.5 蒸気発生器出入口ノズル保全工事PWR 型原子力発電所の蒸気発生器(以下 SG)の水 室1次系出入口ノズル溶接部の健全性検査及び応力緩 和と、各種補修を行なう工事に、マニピュレータを適 用した(図 8)。 SG 水室内は放射線量が極めて高く、 一人の作業は数分が限度であり、仮に人の作業を想定し た場合は、人海戦術にならざるを得ない。保全工事が 必要な SG の台数を考えると、作業者の被曝は膨大な 量となり、現実問題としてロボット化無しでは保全工 事が成り立たない状況にある。この工事へ適用したロ ボットは、SG 水室内にマニピュレータのベースとなる 旋回支柱とスライドテーブルを設置し、そこヘマニピ ュレータ(先端にはツールチェンジャを搭載)を取り 付ける構造で、保全対象箇所の出入口ノズル部に各種 先端工具をアクセスさせることが可能である。また、 マニピュレータ先端をマンホール(直径 400mm)から 水室外に出すことで、作業者が水室に入らなくても先 端工具を容易に交換でき、作業者の被曝低減に寄与し ている。給水入口ノズル」UT 工具給水リング伝熱管し管群外筒下部胴MIUM管支持板管板> 検査穴水室鏡ピーニング工具4.結言1次冷却材入口ノズル1次冷却材出口ノズル V1) 原子力発電所での各種保全工事に、人に代わって作旋回支柱 業を行なうロボットを開発し、適用してきた。しか し、保全工事の種類は多種多様であり、保全工事ご とに専用ロボットを設計製作することは非効率でスライドテーブル \7・マニピュレータ あり、かつ信頼性低下の原因となるため、ロボットの共通化が要望された。 2) 汎用性の高いロボット(可動範囲・動作自由度)とム、ノズル部 して、多関節マニピュレータ型ロボットが挙げられ SG水室 \ る。制御ソフトの変更により、多種多様な動きを1 台のロボットで実現できることが最大の利点であマンホール り、複雑な動作を作業毎に要求される保全工事のロ溶接線・ピーニング工具(先端工具) ボット化には、非常に有効な解決手段となる。 3) 原子力発電所内での適用を考慮した仕様を検討し、図8 蒸気発生器出入口ノズル保全装置ズル保全装置1900/12/31with a manipulator and a transport robot for nuclear facility emergency preparedness”. Advanced Robotics, Vol. 16、 No.5、PP. 371-375(2002). 今村、磯崎、小華和、中井“原子力防災支援システ ム開発-作業ロボット及び重量物運搬用ロボット の開発一”日本原子力学会秋の大会予稿集 Vol. 2001 参考文献[1] 大西、大西、““可搬式汎用知能アーム オープンロボットの提案一”、1994、日本ロボット学会誌、Vol.12No.8. [2] 大西、““可搬式汎用知能アーム PA-10 のオープンコントローラ”、1998、日本ロボット工業会誌、No.121. [3] OONISHI, “The Open Manipulator System of the MHIPA-10 Robot”、1999、30th ISR 予稿集, [4] ISOZAKI、NAKAI、“Development of a work robotwith a manipulator and a transport robot for nuclear facility emergency preparedness”. Advanced Robotics,Vol. 16、 No.5、PP. 371-375(2002). [5] 今村、磯崎、小華和、中井“原子力防災支援システム開発-作業ロボット及び重量物運搬用ロボット の開発一”日本原子力学会秋の大会予稿集 Vol. 2001第2冊分 311 頁, [6] 柴山・林原・大西“再処理施設における自動分析用ロボットアームの開発” 日本原子力学会1997秋の大会 予稿集 [7] 日本ロボット学会実用化技術賞:大道・本村・深川・西原・小西・谷口・青山・吉岡 “改良型原子炉容 器超音波探傷装置の開発” 日本ロボット学会誌Vol. 12 No3, 1994 [8] 日本ロボット学会実用化技術賞:大西・時岡・大西・弘津・大道・白須 “可搬式汎用知能アームの実用 化” 日本ロボット学会誌 Vol. 18 No1, 2000- 367 -“ “?マニピュレータ型ロボットのプラント保全への適用“ “藤田 淳,Jun FUJITA,大西 献,Ken ONISHI
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