Ni 基合金溶接金属/低合金鋼異材溶接部近傍でのSCC 進展・停留挙動

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
軽水炉内にて、Ni 基合金やオーステナイトステンレ ス鋼製部と、低合金鋼(LAS)製原子炉圧力容器を接合す るための溶加材には Ni 基合金溶接金属が用いられて いるが、近年、沸騰水型軽水炉(BWR)・加圧水型軽水 炉(PWR)双方にてNi基合金溶接箇所における応力腐食 割れ(SCC)の発生が複数の原子炉で報告されている。こ こで、下部シュラウドサポート部で製造時の溶接によ り発生した残留応力が比較的高い状態で残ったために、 溶存酸素を含んだ高温水の環境下で SCC を発生した、 敦賀発電所1号機 BWR を例に挙げる。下部シュラウ ドサポートと原子炉圧力容器側の溶接部に発生したき 裂(228 箇所)は、Ni 基合金の取付け溶接金属内および Ni基合金肉盛溶接内を進展するが、LAS 肉盛溶接内に は達していなかった[1]。
これまでに Ni 基合金溶接金属、LAS 各々の SCC 挙 動に関する多数の研究が行われている。しかし、Ni 基合金溶接金属/LAS溶接材のSCC挙動にはあまり注 目されず、その研究機関も限られていた[2][3]。 Ni基合金溶接金属/LAS 溶接部でき裂が確認されて以来、 SCC 感受性を有する溶接金属にて発生するき裂が、 LAS 側へと容易に進展するのか、溶融境界にて停留す るのか、その際の停留に関与する因子(材料・応力・環 境)は何か、という点について関心が高まっている。 また、現状ではき裂は原子炉圧力容器内には達してい ないと報告されているが、原子力発電プラントの高経 年化に伴い、き裂が溶融境界を越えて LAS 内に進展す る可能性を評価する上で、き裂が LAS 内に進展するた めの臨界条件を明らかにしておくことが重要であると 考えられる。 - 一般的な溶接部における組織の模式図をFig. 1 に示 す[4]。溶融境界を挟んだ溶接金属側には、母材は溶融 するが溶加材による溶着金属成分とは混じり合わず、 母材成分のまま凝固する unmixed zone が存在する。一 方母材側には、結晶粒が粗大化し粒界で局部溶融した partially melted zone が存在する。異材継手における unmixed zone ならびに partially melted zone は、成分が 希釈率に応じて多岐にわたる dilution zone と比較して 注目されておらず不明な点が多い。これらは一般的な 溶接部に共通に存在する組織であり、種々の材料系の 溶接継手について SCC 進展・停留挙動との関係を明ら かにする意義は大きい。そこで Ni 基合金溶接金属/低 合金鋼溶融境界近傍の微視組織に着眼し、(1)溶融境界近傍(partially melted zone + unmixed zone)の組織的特徴、 (2)溶接境界近傍におけるき裂進展・停留挙動、を明ら かにすることを目的とするものである。
COMPOSITE REGION UNMIXED ZONEWELD INTERFACEWELD INTERNAPARTIALLY MELTED ZONETRUE HEAT-AFFECTED ZONEUNAFFECTED BASE METALFig. 1 Structural feature near fusion boundary.2. 研究内容及び成果 2.1 溶融境界近傍における組織的特徴 2.1.1. 供試材 -供試材は Ni 基合金溶接金属/LAS の異材溶接試料 を用いた。 Ni 基合金溶接金属は Alloy182 を用い、化学 組成を Table 1 に示す。LAS は圧力容器用調質型マンガ ンモリブデンニッケル鋼を用いた。一般に、LAS の S 含有量の増加に伴いSCC感受性が増大することが知ら れている[5]。 そこで、S 元素含有量が 0.001 wt%のもの (以下、LS 材と表記)と 0.006 wt%のもの(以下、MS 材 と表記)の2種類を用いることとした。LS 材ならびに MS 材の化学組成を Table 2、Table 3 にそれぞれ示す。 溶接条件については各 LS・MS 供試材ごとに、それぞ れ溶接層数が 1 層の単層溶接(SB)および3層の多層溶 接(MB)を作製した。これら2種類の溶接条件を施した 理由として、溶融境界近傍に伝わる入熱量・方向の差 異により、溶融境界近傍の組織変化およびこれによる SCC 感受性の変化などに影響を及ぼす可能性があるた めである。また、溶接時に導入された残留応力を緩和 するという目的で、溶接後熱処理(PWHT)を 615°Cで 25 時間施した。Table 1 Chemistry composition of Alloy182 weld metal (wt%). c si Mn P s cu Fe Ni Cr Nb | Ta|co| Ti| b.o33b.sus.7ob.ondo.oodb.ollo.98|69.9s13.85 1.6000.100.ollo.60Table 2 Chemistry composition of LAS base material (LS) (wt%).cSi Mn P S Ni Mo Fe No.180.24/1.4g/0.0osyo.001 0.67 0.54 BallTable 3 Chemistry composition of LAS base material (MS) (wt%).csi Mn P S Ni Mo Fe | 0.200.24|1.42|0.001 0.006 0.64 0.54|Bal.2.1.2. 光学顕微鏡による溶融境界近傍の組 「織觀察 - 溶融境界近傍の組織的特徴をミリ ~マイクロメート ルスケールで明らかにするため、光学顕微鏡を用いて 組織観察を行った。観察用試験片の採取部位を Fig. 2 に示す。溶接試料を溶接方向に対してそれぞれ垂直・ 平行に切断した。LAS 側には 5%ナイタルエッチング、 Alloy182 側には 10%シュウ酸電解エッチングを行った [6][7][8]。Fig.3 に垂直方向に切断し、5%ナイタルエッチング、 10%シュウ酸電解エッチングを施した MS 材 MB 部の 光学顕微鏡観察写真を示す。LS・MS 材、各 SB・MB 部および垂直・平行方向切断した試験片の溶融境界近 傍の組織には顕著な差異は見られなかった。Alloy182Welding direction LAS (LS or MS)Single beadMulti beadFig. 2 Extraction part of specimen for observation.376MS・多層(5%ナイタルエッチング)・MS・多層(10%シュウ酸電解エッチング) | LAS| Alloy182LASAlloy182125km125mm50ml50mFig. 3 Optical micrograph of MS material (Multi-bead section cut in perpendicular to the bead).2.1.3. SEM-EDX による溶融境界近傍の組成分 析Alloy182/LAS 溶融境界近傍について、SEM - EDX による組成分析を行った。SEM-EDX 分析領域および 結果を Fig. 4 に示す。LAS では、溶融境界線から LAS 方向へと 25 um 以上離れた領域で組成がほぼ一定であ った。一方 Alloy182 では、溶融境界線より 75~100 um の位置で、Ni 元素は欠乏、Fe 元素は富化しており、100 um 以上離れた領域では組成がほぼ一定であった。EDDINeeeeeeeeC+ Fe + +Mn = 100%Alloy182Alloy 182LASX/Metal, wthNi Lv.Mn150WV 14SOYAGESE 100 m200-300.-2001 ~100 0 100:Distance from the fusion line, umFig. 4 Result of SEM-EDX line analysis near fusion boundary.2.2. き裂進展経路と微視組織の関係 2.2.1. CBB 試験片作製法および試験法Alloy182/LAS 溶融境界近傍でき裂停留をもたらす 要因について考察するため、LAS および Alloy182/ LAS 試験片について高温水中 CBB 試験を行い、LAS および Alloy182 の SCC 感受性、ならびに溶融境界近傍 の SCC 挙動について評価することとした。CBB 試験と は、板状に切り出した試験片を専用の治具を用いて曲げることにより約 1%の定ひずみを与え、人工隙間形成 材としてグラファイトウールと隙間維持のためのスペ ーサーを試験片と治具の間に挟み込み、高温水中に保 持するものである[9]。CBB試験片の採取方向をFig.5 に示す。CBB試験は、 Alloy182/LAS溶接材とLAS材について行うこととし た。Alloy182/LAS 溶接材と LAS 材のそれぞれに LS 材と MS 材を用意したため、計4種類の試験片を用い てCBB 試験を行うものとした。4試験片とも最終的に L35×W8×T2 mm の形状に加工した。 1. 本研究では2段CBB試験用治具を用いて試験を行った。 上記4種類の試験片に加え、グラファイトウール とスペーサーも同時に治具に組み付けた。Alloy182/ LAS溶接材は試験片全体が試験液に接液するものの、 試験面(引張り応力が付与される面)はAlloy182 のみで ある。温度/圧力条件は 288°C/10 MPa、またSCC加 速効果を期待して、水質は超高純度水にNa2SO』を 1.0 ppm添加した。入口側の導電率は約 2.2 μS/cmであった。 溶存酸素濃度(DO)は、水質調整タンク内で人工空気を バブリングすることにより、大気飽和相当である8ppm とした[10][11]。試験溶液流量は 4.0 g/min、試験時間は 750 時間とした。Alloy182/LAS dissimilar LAS bulkweld specimen specimenFig. 5 Extraction direction of the two kinds of CBB specimens.2.2.2. CBB 試験による割れ感受性Alloy182/LAS 溶接材では、LS・MS 材共に Alloy182 にて SCC が発生・進展し、溶融境界近傍にき裂の先端 が留まっていた。Alloy182/LAS 溶接材において発生 したき裂について、き裂先端位置の観点から3種類に 分類し、Fig.6に示す。具体的には、Type-1 : 溶融境界 まで到達せず、Alloy182 内に留まっているき裂、 Type-2 : 溶融境界直上まで到達し、そこで停留してい るき裂、Type-3 : 先端そのものは溶融境界直上に位置 しているが、LAS 内にて球状の酸化物を生成している377き裂、に分類した。CBB 試験後の LAS 材における断面方向からの観察 結果を Fig.7に示す。 LAS 材では、LS・MS 材共に SCC 発生は確認されなかったが、LS/MS 材間で酸化挙動 に差異が見られた。LS材では、試験面全域に厚さ数 um オーダーの酸化皮膜が生成していることが確認された。 一方 MS 材では、試験面で一様な酸化皮膜の生成は確 認されなかったものの、深さが約 30~50 um の局所的 な酸化が確認された。Type-1 Crack tip at Alloy182Type-2 Crack tip at FL50mmType-3. Oxidized LAS | Alloy182 |LASFig. 6 Three types of SCC cracks found in weld material.LS材MS材250m250μm125m1Oxide layerNon-uniformcorrosion 1254m Fig. 7 Surface oxidation characteristics of the LAS materials.2.2.3. き裂先端位置の統計溶融境界を基準としたき裂先端位置のヒストグラム を Fig. 8に示す。これはき裂深さが 20 um 以上のもの を対象とし、溶融境界線をゼロとして、先端が Alloy182 内に留まっているき裂を負値、酸化が LAS 内に及んで いるき裂を正値として表している。これから、LS・MS」材双方にて、高い割合でき裂先端が溶融境界近傍に位 置しており、特に酸化が LAS 内に及んでいるき裂が突 出していることがわかる。また、LAS 内への酸化深さ は、全て 30 um 以内に収まっていた。12LAS Type-3) FL (Type 2 Aloy1&2 (Type-1)12 CLAS (Type-3)Z FL (Type 2) 2010 -Aoy180(Type-1)Number of cracksNumber of cracksルール20-140-120-100-10-0-10-200Distance from fuam line um-10-120-100-90-60-0-200Distance from fusion Ene um20Fig. 8 Histogram of crack tip position.2.2.4. き裂の反射電子像酸化が LAS 内に及んでいるき裂(Type-3)の反射電子 像をFig. 9 に示す。Alloy182 内にてき裂が溶融境界近 傍に近づくに従い、き裂幅が太くなっていることが確 認できる。これは dilution zone で、組成が LAS 寄りに 遷移することで、粒内の酸化速度が増大したためと考 えられるが、依然としてデンドライト界面における酸 化速度が桁違いに大きかったため、き裂として進展し たものと予想される。しかしLAS に達すると、深さ方 向に酸化が局在化する経路を失うためき裂先端が鈍化 し、停留すると考えられた。よって本研究結果からは、 溶融境界近傍のき裂停留は LAS の SCC 感受性の低さ の観点から説明できると判断された。Alloy 182100mLAS100m10kmFig. 9 Back-scattered electron image of a crack, which reached the LAS (MS, Type-3).3783.結言参考文献(1) CBB 試験結果から LAS 材にて、LS 材では試験面全域に厚さ数 um オーダーの酸化皮膜が、MS 材 では深さが約 30~50 um の局所的な酸化が確認された。 (2) Alloy182/LAS 溶接材では Alloy182 側から SCCの発生・進展が確認され、き裂先端は低合金鋼に達すると鈍化し停留した。 (3) 本研究結果から溶融境界近傍のき裂停留挙動は、低合金鋼の SCC 感受性の観点より説明できると 考察した。[1] 日本原子力発電株式会社: ““敦賀発電所1号機のシュラウドサポート損傷に係る原因と対策について”, (2000). [2] Q.J. Peng, T. Shoji, S. Ritter and H.P. Seifert : Proc. 12thInt. Conf. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, Snowbird,UT, Aug. 15-18, 2005 TMS, (2005) (CD-ROM). [3] H.P. Seifert, S. Ritter, T. Shoji, Q.J. Peng, Y. Takeda,Z.P. Lu: journal of Nuclear Materials, 378, pp. 197-210(2008). [4] W.F. Savage, E.F. Nippes and E.S. Szekeres : WeldingJ., 55(9), pp.260s-268s, (1976). [5] H.P. Seifert, S. Ritter : Journal of Nuclear Materials,372, pp. 114-131 (2008). 「6] 材料技術教育研究会編:組織検査用試料のつくり方一組織の出現一”大河出版, pp. 83 (2008).謝辞1. 本研究の一部は、BWR 7電力からの(社)腐食防食協 会受託研究の一環として実施されたものである。ここ に謝意を表する。 達すると鈍化し停留した。 本研究結果から溶融境界近傍のき裂停留挙動は、 低合金鋼の SCC 感受性の観点より説明できると 日本原子力発電株式会社:““敦賀発電所1号機のシ ュラウドサポート損傷に係る原因と対策につい 372, pp. 114-131 (2008). 材料技術教育研究会編:組織検査用試料のつくり」 方一組織の出現一”大河出版, pp. 83 (2008). 加藤正義:エッチングの基礎化学, Vol.38, No.5, pp.参考文献[1] 日本原子力発電株式会社: ““敦賀発電所1号機のシ 1ュラウドサポート損傷に係る原因と対策について”, (2000). [2] Q.J. Peng, T. Shoji, S. Ritter and H.P. Seifert : Proc.12thInt. Conf. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, Snowbird,UT, Aug. 15-18,2005 TMS, (2005) (CD-ROM). [3] H.P. Seifert, S. Ritter, T. Shoji, Q.J. Peng, Y. Takeda,Z.P. Lu: journal of Nuclear Materials, 378, pp. 197-210(2008). [4] W.F. Savage, E.F. Nippes and E.S. Szekeres : Welding 12 J, 55(9), pp.260s-268s, (1976). [5] H.P. Seifert, S. Ritter : Journal of Nuclear Materials,372, pp. 114-131 (2008). [6] 材料技術教育研究会編:““組織検査用試料のつくり方一組織の出現一”大河出版, pp.83 (2008). [7] 加藤正義:エッチングの基礎化学, Vol.38, No.5, pp.172-179 (1987). [8] ギュンター・ペツォー: ““金属エッチング技術” アグネ, pp. 66-82 (1977). [9] 腐食防食協会:平成 16 年度軽水炉プラント標準化調?”,經濟?業省委託事業成果報告書,No.JSCE S-0504 (2005). [10] 国谷治郎, 管野正義, 正岡功, 佐々木良一 : 防食技術, 32, pp. 649-656(1983). [11] J. Kuniya, I. Masaoka, R. Sasaki, H. Itoh and T.Okazaki : Stress Corrosion Cracking Susceptibility of Low Alloy Steels Used for Reactor Pressure Vessel in High Temperature Oxygenated Water, J. of Pressure Vessel Technology, Vol.107, pp. 430-435 (1985).-379“ “?Ni基合金溶接金属/低合金鋼異材溶接部近傍での SCC 進展・停留挙動“ “石澤 允,Makoto ISHIZAWA,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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