SUS304 鋼のクリープ変形における強磁性相生成のPhase-field シミュレーション
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
原子炉用構造材料として使用される SUS304 オース デナイト鋼は、500~650°Cにおけるクリープ試験材のゲ ージ部にのみ強磁性相 (a相)が析出することが報告さ れている[1]。ゲージ部において導入されるクリープ転 立は、特に M25C6 炭化物に多数トラップされるため、 その炭化物近傍の転位密度が材料全体のそれに比べて てきいことを我々は実験により明らかにした[2]。この ことから、炭化物周辺に蓄積したクリープ転位のひず メエネルギーがa相析出の駆動力の一部として作用し ていると推測される。この強磁性相の生成を予測する ことにより、将来的に材料の損傷評価技術の開発につ ながることが期待されており、そのためには、時間と ともに増加する欠陥のエネルギーが相変態に及ぼす影 響を明らかにすることが重要である。 本研究では、平衡状態図の熱力学データベースと炭仁物近傍の転位密度に関する実験データを基に、 US304 鋼における各相の析出の駆動力を濃度場と転 立密度場の関数として、Phase-field 計算に取り込むこ こで、SUS304 鋼における強磁性相の生成に及ぼすクリ ープ転位のひずみエネルギーの影響を検討した。
2. 計算手法2.1 Phase-field モデル計算対象組成を SUS304 オーステナイト鋼の基本系 である Fe-18Cr-8Ni-0.05C (mass%) とした。また、計算 温度を 600°Cとし、対象とする相として、この系の 500°Cでの平衡相である相(fcc)、a相(bcc) および M25C6 炭化物を考慮した。以下の表記において、添え字のijは相の種類を表し、x は元素を表す。計算に用いる 失序変数として析出相のモル分率、f(r,t) および Macb(r,) 、を採用した。これらの秩序変数は位置r および時間tの関数である。このとき母相yのモル分 率f(r, 1) は次式にて与えられる。864S,Cr, t) = 1 - Sa (r, l) - Sneaco(r, t). (1) 溝成元素 x のモル濃度 c(r,1)は各相のモル分率の関数 として次式にて定義した。C (r, t) = Eff (r, ther.-2ここで、cies は 600°Cの平衡状態におけるi相中のx元 素のモル濃度であり、熱力学計算ソフト Thermo-Calc Ver. FE-6) により計算される値を用いた。i相の場の時 間発展は、次に示す Cahn-Hilliard 方程式を数値解析す ることによって求めた。0.26ys-3Otここで、Mは界面の易動度であり、本計算では定数と する。Gは系の全自由エネルギーで、化学的自由エ ネルギーGatem と勾配エネルギーEgradの和としてGay = [JGaun (r, t) + Eas(r, ln, (4) にて評価する。本計算では、化学的自由エネルギーを Gehem = {1 ?h(fa) ? h([m23co)}Ghem (x) + h(s)Gamen(c)11 (5) + h( Suzacs)Ghant (C) +WEff;として求めた。ここで、HG) は局所的な人 に対応して 0≦h(1 の値をとる単調増加関数であり、次式で表 される。 * h) = A (10-155 + 6f““). 式(5)中の第四項は、異相間の相分離を保証するポテン シャル項である。勾配エネルギーは、秩序変数 f(r, t) の 勾配を用いて-6Enna = =z(V),とした[3]。ここで、は勾配エネルギー係数である。2.2 相の析出過程の記述Phase-field 計算における相の析出過程は、熱力学デ ータベースを用いて各相の核生成頻度を位置の関数と して計算し、熱活性化過程にて核を導入することによ り記述できる[4,5。核生成速度に対する緩和時間の項5)Phase-field 単位セルあたりの核生成率を無視すると、Phase-field 単位セルあたりの核生成率__j = ZNB* exp(-AGS / kT),-8にて計算される。ここで Z はゼルドヴィッチ係数、N は Phase-field 単位セル中の原子数、Bは頻度因子、k はボルツマン定数、T は絶対温度である。AGはi相 の核形成のための活性化エネルギーである。数値解析 では毎ステップ 0~1 の乱数を生成し、その値がP = 1-exp(-J*ar),より小さい場合に、離散格子内に球状近似した核を導 入する。ただし、atは数値解析における時間増分を表 している。二次元解析を行うにあたり、a相および MasC炭化物 の核形成の活性化エネルギーを、それぞれAGA = Alen + Edis)-10AG = Ace + Eas)-10-11-12s = Glion - Gion + E Whem (com - cy),CockAG23C6 = my?-11とした。ここで、A は定数であり、、は母相と析出相 間の界面エネルギー密度、Gはi相の析出の駆動力、Eatis は材料中に蓄積する転位のひずみエネルギーである。 すなわち、クリープ転位のひずみエネルギーをa相析出 の駆動力の一部として導入した。i相の析出の駆動力は、 Thermo-Calc (Ver. FE-6) のデータベースを用いて* E = Glitem - Gomen + 2 - cy _cieg +JUchem(cica - cy),Xc、-12にて評価した。ここで、Generies は 600°Cの平衡状態に おける i 相の自由エネルギーである。転位のひずみエ ネルギーはra - 「sta30)-13にて計算される[6]。ここで、は剛性率を表し、=74 GPa、bはバーガースベクトルの大きさを表し、b= 2.48 ×100m、また ro = 56 および R = 6×10とした。Ar,t) は転位密度であり、クリープ転位が M2sC,炭化物近傍 に密集しているという実験事実から、位置と時間の関 数として-13387,p(r, t) = Po() exp(-B-1),-14cusOI / d ePo(t) = q ( 11, '/' + 4,,-1512_Po(1) = q (11))' + a, ,-15と定義した。n()は炭化物界面における転位密度であ り、B, aおよび an は定数、tはクリープ試験時間、1ヶ はクリープ破断時間、1は M2sC炭化物界面からの距離 である。3.計算条件式(3)の界面の易動度として、数値計算では、無次元、 化した値 M = 0.003 を用いた。また、式(5)のポテンシ ・ャル項の係数を W = 100 Jmor““、式(7)の勾配エネルギ ー係数をq=5×10-1J.m--mor'に設定した。式(8)の核生 成率の計算には ZNS* = 1.5 × 10cell's''、式(10)のa相 の核形成の活性化エネルギー計算には A = 27、= 0.5 Jm2 を用いた。 - 式(14)および(15)の転位密度分布関数内の係数は、 SUS304 鋼の 600°C、172MPaのクリープ試験材の TEM 観察結果に基づいて B = 2.54×10'm'、 a = 1.40×105 m2、ag=1.71×105m2 と決定した。このときの()の 時間変化を Fig. 1 に、炭化物近傍の転位密度分布Ar,t) を Fig. 2 に示す。また、仮に a = 1.30×10m2 とした 場合のの()の時間変化についても Fig. 1 中に示す。 -- 以上の条件のもと、128× 128 グリッドの分割を用いて、周期境界条件のもと、(3)式に基づいて陽解法によ り数値解析しシミュレーションを行った。なお、数値 解析における時間増分を At = 0.1 とした。4.結果と考察二次元 Phase-field シミュレーション結果を Fig.3 に 示す。図中、白色部分が MasC炭化物、灰色部分がa 相を表している。また、時間はシミュレーションにお ける無次元化時間である。このシミュレーションにお ける炭化物およびa相のモル分率変化を、それぞれ Fig. 4およびFig.5に示す。またSUS304 鋼の 600°C、172MPa のクリープ試験材の抽出残渣実験により求めた炭化物 量変化を Fig. 6に示す。Fig. 6 より MasC炭化物の核生 成はごく初期に生じ、その後、モル分率で 0.7%付近ま で増加していることが分かる。Fig. 4 および Fig. 6 の結 果をもとに、シミュレーションにおける無次元化時間Dislocation density at carbide's surface, Po / 10'sm--a = 1.40x105m2 | ------ a = 1.30×105m-210_0.2040.6 0.8 Reduced time, t/tr0.81Fig. 1 Increase in dislocation density at carbide's surfaceduring creep deformation.11.2? t/t,= 0.01 ーー tti = 0.05一 ttr=0.201020050 100 150 Distance from carbide's surface, 1/ nmFig. 2 Distribution function of dislocation density nearcarbide.と実時間の対応付けを行い、th=3000s'とした。一方、 時間とともに炭化物近傍にクリープ転位が増加するた め、Fig.5に示すように、 相が 1~500s' 付近から析出 している。さらに Fig. 5のシミュレーション結果では、 クリープ後期に、a相の量が飽和している。これらの結 果は、およそ tty = 0.1~0.2 において磁性相が確認され、 三次クリープ以降は磁性相の増加はほとんどなくなる388E2005'12005'50nm1500s'==2500s'Fig. 3 Formation of ferromagnetic phase during creepdeformation simulated by phase-field method. All time expressed here are dimensionless time steps.という観察結果と一致する[1]。今後、a相の飽和量が 実験的に明らかとなり、本モデルによる三次元計算と の整合がとれれば、組織変化の定量的な再現が可能に なるものと期待される。一方、Fig. 5 には、a = 1.30×10m2 の場合の結果 も白丸として示してある。これは、Fig. 1 に示したよう に、時間とともに蓄積する転位密度量が少ない場合を 仮定した計算である。この条件では、黒丸の結果に比 べ、a相の量が飽和するまでの時間に大きな差異がみら れる。これは、本モデルが、転位のひずみエネルギー を駆動力の一部とする熱活性化過程にてu相が析出す るとしているためと考えられる。このことは、低応力 条件にて Fig. 1 に示した曲線が変化する場合には、そ の応力依存性を正しく評価することが必要であり、さ らにa相析出のしきい応力の存在を考慮することが重 要であることを示唆している。5.結言600°Cにおけるクリープ試験材の実験結果をもとに、 Phase-field 法により SUS304 鋼におけるa相析出過程の 再現を試みた。0,006Mole fraction of M23C6 carbide30001000 2000Time step, t/s'Fig. 4 Change in the mole fraction of M23Co carbidesimulated by phase-field method| ? a =1.40x105m2 | o a = 1.30x105m2Mole fraction of a phase100020003000Time step, t / s'Fig. 5 Change in the mole fraction of a phase simulatedby phase-field method.0.004Mole fraction of M23Co carbide04 10_0.20.8104 0 .6 Reduced time, tltsFig. 6 Change in the mole fraction of M23Co carbide withcreep time.3891) Mac炭化物近傍に蓄積したクリープ転位のひずみエネルギーが、a相析出の駆動力の一部になるとし定式化した。 2) MaxC6 炭化物のモル分率変化の実験結果とシミュレ ーション結果を比較することで、計算時間と実時間の対応付けを行った。 3) a相のモル分率変化について、クリープ後期でa相の量が飽和する過程が再現された。 4) MasC6 炭化物近傍の転位密度関数が変化した場合を 仮定すると、a相の量が飽和するまでの時間に大き な差異が生じる結果が得られた。このことから、転 位密度分布とその変化の応力依存性を正しく評価 する必要があることが示唆された。謝辞本研究は日本原子力研究開発機構・先行基礎工学研 究費および日本学術振興会・科学研究費補助金ならび に日比科学技術振興基金の支援を得て行われた。参考文献 [1] 永江勇二、青砥紀身、“SUS304 鋼の高温損傷による磁気特性および金属組織変化”、材料、Vol. 54、No.2、2005、pp. 116-121. [2] 白木厚寛、塚田祐貴、村田純教、森永正彦、高屋茂、小山敏幸、“SUS304 鋼におけるクリープ歪と強磁 性相の生成”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、水戸、2008、pp.503-504. [3] J. W. Cahn and J. E. Hilliard, “Free Energy of aNonuniform System. I. Interfacial Free Energy”, The Journal of Chemical Physics, Vol. 28, No. 2, 1958, pp.258-267. [4] J. P. Simmons, C. Shen and Y. Wang, “Phase FieldModeling of Simultaneous Nucleation and Growth by Explicitly Incorporating Nucleation Events”, ScriptaMaterialia, Vol. 43, No. 10, 2000, pp. 935-942. [5] J. P. Simmons, Y. When, C. Shen and Y. Z. Wang,“Microstructural development involving nucleation and growth phenomena simulated with the Phase Field method““, Materials Science and Engineering A, Vol.365, 2004, pp. 136-143. [6] 加藤雅治 “入門転位論”、裳華房、2002、pp. 36-49.390“ “?SUS304 鋼のクリープ変形における強磁性相生成のPhase-field シミュレーション“ “塚田 祐貴,Yuhki TSUKADA,白木 厚寛,Atsuhiro SHIRAKI,村田 純教,Yoshinori MURATA,森永 正彦,Masahiko MORINAGA,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,小山 敏幸,Toshiyuki KOYAMA
原子炉用構造材料として使用される SUS304 オース デナイト鋼は、500~650°Cにおけるクリープ試験材のゲ ージ部にのみ強磁性相 (a相)が析出することが報告さ れている[1]。ゲージ部において導入されるクリープ転 立は、特に M25C6 炭化物に多数トラップされるため、 その炭化物近傍の転位密度が材料全体のそれに比べて てきいことを我々は実験により明らかにした[2]。この ことから、炭化物周辺に蓄積したクリープ転位のひず メエネルギーがa相析出の駆動力の一部として作用し ていると推測される。この強磁性相の生成を予測する ことにより、将来的に材料の損傷評価技術の開発につ ながることが期待されており、そのためには、時間と ともに増加する欠陥のエネルギーが相変態に及ぼす影 響を明らかにすることが重要である。 本研究では、平衡状態図の熱力学データベースと炭仁物近傍の転位密度に関する実験データを基に、 US304 鋼における各相の析出の駆動力を濃度場と転 立密度場の関数として、Phase-field 計算に取り込むこ こで、SUS304 鋼における強磁性相の生成に及ぼすクリ ープ転位のひずみエネルギーの影響を検討した。
2. 計算手法2.1 Phase-field モデル計算対象組成を SUS304 オーステナイト鋼の基本系 である Fe-18Cr-8Ni-0.05C (mass%) とした。また、計算 温度を 600°Cとし、対象とする相として、この系の 500°Cでの平衡相である相(fcc)、a相(bcc) および M25C6 炭化物を考慮した。以下の表記において、添え字のijは相の種類を表し、x は元素を表す。計算に用いる 失序変数として析出相のモル分率、f(r,t) および Macb(r,) 、を採用した。これらの秩序変数は位置r および時間tの関数である。このとき母相yのモル分 率f(r, 1) は次式にて与えられる。864S,Cr, t) = 1 - Sa (r, l) - Sneaco(r, t). (1) 溝成元素 x のモル濃度 c(r,1)は各相のモル分率の関数 として次式にて定義した。C (r, t) = Eff (r, ther.-2ここで、cies は 600°Cの平衡状態におけるi相中のx元 素のモル濃度であり、熱力学計算ソフト Thermo-Calc Ver. FE-6) により計算される値を用いた。i相の場の時 間発展は、次に示す Cahn-Hilliard 方程式を数値解析す ることによって求めた。0.26ys-3Otここで、Mは界面の易動度であり、本計算では定数と する。Gは系の全自由エネルギーで、化学的自由エ ネルギーGatem と勾配エネルギーEgradの和としてGay = [JGaun (r, t) + Eas(r, ln, (4) にて評価する。本計算では、化学的自由エネルギーを Gehem = {1 ?h(fa) ? h([m23co)}Ghem (x) + h(s)Gamen(c)11 (5) + h( Suzacs)Ghant (C) +WEff;として求めた。ここで、HG) は局所的な人 に対応して 0≦h(1 の値をとる単調増加関数であり、次式で表 される。 * h) = A (10-155 + 6f““). 式(5)中の第四項は、異相間の相分離を保証するポテン シャル項である。勾配エネルギーは、秩序変数 f(r, t) の 勾配を用いて-6Enna = =z(V),とした[3]。ここで、は勾配エネルギー係数である。2.2 相の析出過程の記述Phase-field 計算における相の析出過程は、熱力学デ ータベースを用いて各相の核生成頻度を位置の関数と して計算し、熱活性化過程にて核を導入することによ り記述できる[4,5。核生成速度に対する緩和時間の項5)Phase-field 単位セルあたりの核生成率を無視すると、Phase-field 単位セルあたりの核生成率__j = ZNB* exp(-AGS / kT),-8にて計算される。ここで Z はゼルドヴィッチ係数、N は Phase-field 単位セル中の原子数、Bは頻度因子、k はボルツマン定数、T は絶対温度である。AGはi相 の核形成のための活性化エネルギーである。数値解析 では毎ステップ 0~1 の乱数を生成し、その値がP = 1-exp(-J*ar),より小さい場合に、離散格子内に球状近似した核を導 入する。ただし、atは数値解析における時間増分を表 している。二次元解析を行うにあたり、a相および MasC炭化物 の核形成の活性化エネルギーを、それぞれAGA = Alen + Edis)-10AG = Ace + Eas)-10-11-12s = Glion - Gion + E Whem (com - cy),CockAG23C6 = my?-11とした。ここで、A は定数であり、、は母相と析出相 間の界面エネルギー密度、Gはi相の析出の駆動力、Eatis は材料中に蓄積する転位のひずみエネルギーである。 すなわち、クリープ転位のひずみエネルギーをa相析出 の駆動力の一部として導入した。i相の析出の駆動力は、 Thermo-Calc (Ver. FE-6) のデータベースを用いて* E = Glitem - Gomen + 2 - cy _cieg +JUchem(cica - cy),Xc、-12にて評価した。ここで、Generies は 600°Cの平衡状態に おける i 相の自由エネルギーである。転位のひずみエ ネルギーはra - 「sta30)-13にて計算される[6]。ここで、は剛性率を表し、=74 GPa、bはバーガースベクトルの大きさを表し、b= 2.48 ×100m、また ro = 56 および R = 6×10とした。Ar,t) は転位密度であり、クリープ転位が M2sC,炭化物近傍 に密集しているという実験事実から、位置と時間の関 数として-13387,p(r, t) = Po() exp(-B-1),-14cusOI / d ePo(t) = q ( 11, '/' + 4,,-1512_Po(1) = q (11))' + a, ,-15と定義した。n()は炭化物界面における転位密度であ り、B, aおよび an は定数、tはクリープ試験時間、1ヶ はクリープ破断時間、1は M2sC炭化物界面からの距離 である。3.計算条件式(3)の界面の易動度として、数値計算では、無次元、 化した値 M = 0.003 を用いた。また、式(5)のポテンシ ・ャル項の係数を W = 100 Jmor““、式(7)の勾配エネルギ ー係数をq=5×10-1J.m--mor'に設定した。式(8)の核生 成率の計算には ZNS* = 1.5 × 10cell's''、式(10)のa相 の核形成の活性化エネルギー計算には A = 27、= 0.5 Jm2 を用いた。 - 式(14)および(15)の転位密度分布関数内の係数は、 SUS304 鋼の 600°C、172MPaのクリープ試験材の TEM 観察結果に基づいて B = 2.54×10'm'、 a = 1.40×105 m2、ag=1.71×105m2 と決定した。このときの()の 時間変化を Fig. 1 に、炭化物近傍の転位密度分布Ar,t) を Fig. 2 に示す。また、仮に a = 1.30×10m2 とした 場合のの()の時間変化についても Fig. 1 中に示す。 -- 以上の条件のもと、128× 128 グリッドの分割を用いて、周期境界条件のもと、(3)式に基づいて陽解法によ り数値解析しシミュレーションを行った。なお、数値 解析における時間増分を At = 0.1 とした。4.結果と考察二次元 Phase-field シミュレーション結果を Fig.3 に 示す。図中、白色部分が MasC炭化物、灰色部分がa 相を表している。また、時間はシミュレーションにお ける無次元化時間である。このシミュレーションにお ける炭化物およびa相のモル分率変化を、それぞれ Fig. 4およびFig.5に示す。またSUS304 鋼の 600°C、172MPa のクリープ試験材の抽出残渣実験により求めた炭化物 量変化を Fig. 6に示す。Fig. 6 より MasC炭化物の核生 成はごく初期に生じ、その後、モル分率で 0.7%付近ま で増加していることが分かる。Fig. 4 および Fig. 6 の結 果をもとに、シミュレーションにおける無次元化時間Dislocation density at carbide's surface, Po / 10'sm--a = 1.40x105m2 | ------ a = 1.30×105m-210_0.2040.6 0.8 Reduced time, t/tr0.81Fig. 1 Increase in dislocation density at carbide's surfaceduring creep deformation.11.2? t/t,= 0.01 ーー tti = 0.05一 ttr=0.201020050 100 150 Distance from carbide's surface, 1/ nmFig. 2 Distribution function of dislocation density nearcarbide.と実時間の対応付けを行い、th=3000s'とした。一方、 時間とともに炭化物近傍にクリープ転位が増加するた め、Fig.5に示すように、 相が 1~500s' 付近から析出 している。さらに Fig. 5のシミュレーション結果では、 クリープ後期に、a相の量が飽和している。これらの結 果は、およそ tty = 0.1~0.2 において磁性相が確認され、 三次クリープ以降は磁性相の増加はほとんどなくなる388E2005'12005'50nm1500s'==2500s'Fig. 3 Formation of ferromagnetic phase during creepdeformation simulated by phase-field method. All time expressed here are dimensionless time steps.という観察結果と一致する[1]。今後、a相の飽和量が 実験的に明らかとなり、本モデルによる三次元計算と の整合がとれれば、組織変化の定量的な再現が可能に なるものと期待される。一方、Fig. 5 には、a = 1.30×10m2 の場合の結果 も白丸として示してある。これは、Fig. 1 に示したよう に、時間とともに蓄積する転位密度量が少ない場合を 仮定した計算である。この条件では、黒丸の結果に比 べ、a相の量が飽和するまでの時間に大きな差異がみら れる。これは、本モデルが、転位のひずみエネルギー を駆動力の一部とする熱活性化過程にてu相が析出す るとしているためと考えられる。このことは、低応力 条件にて Fig. 1 に示した曲線が変化する場合には、そ の応力依存性を正しく評価することが必要であり、さ らにa相析出のしきい応力の存在を考慮することが重 要であることを示唆している。5.結言600°Cにおけるクリープ試験材の実験結果をもとに、 Phase-field 法により SUS304 鋼におけるa相析出過程の 再現を試みた。0,006Mole fraction of M23C6 carbide30001000 2000Time step, t/s'Fig. 4 Change in the mole fraction of M23Co carbidesimulated by phase-field method| ? a =1.40x105m2 | o a = 1.30x105m2Mole fraction of a phase100020003000Time step, t / s'Fig. 5 Change in the mole fraction of a phase simulatedby phase-field method.0.004Mole fraction of M23Co carbide04 10_0.20.8104 0 .6 Reduced time, tltsFig. 6 Change in the mole fraction of M23Co carbide withcreep time.3891) Mac炭化物近傍に蓄積したクリープ転位のひずみエネルギーが、a相析出の駆動力の一部になるとし定式化した。 2) MaxC6 炭化物のモル分率変化の実験結果とシミュレ ーション結果を比較することで、計算時間と実時間の対応付けを行った。 3) a相のモル分率変化について、クリープ後期でa相の量が飽和する過程が再現された。 4) MasC6 炭化物近傍の転位密度関数が変化した場合を 仮定すると、a相の量が飽和するまでの時間に大き な差異が生じる結果が得られた。このことから、転 位密度分布とその変化の応力依存性を正しく評価 する必要があることが示唆された。謝辞本研究は日本原子力研究開発機構・先行基礎工学研 究費および日本学術振興会・科学研究費補助金ならび に日比科学技術振興基金の支援を得て行われた。参考文献 [1] 永江勇二、青砥紀身、“SUS304 鋼の高温損傷による磁気特性および金属組織変化”、材料、Vol. 54、No.2、2005、pp. 116-121. [2] 白木厚寛、塚田祐貴、村田純教、森永正彦、高屋茂、小山敏幸、“SUS304 鋼におけるクリープ歪と強磁 性相の生成”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、水戸、2008、pp.503-504. [3] J. W. Cahn and J. E. Hilliard, “Free Energy of aNonuniform System. I. Interfacial Free Energy”, The Journal of Chemical Physics, Vol. 28, No. 2, 1958, pp.258-267. [4] J. P. Simmons, C. Shen and Y. Wang, “Phase FieldModeling of Simultaneous Nucleation and Growth by Explicitly Incorporating Nucleation Events”, ScriptaMaterialia, Vol. 43, No. 10, 2000, pp. 935-942. [5] J. P. Simmons, Y. When, C. Shen and Y. Z. Wang,“Microstructural development involving nucleation and growth phenomena simulated with the Phase Field method““, Materials Science and Engineering A, Vol.365, 2004, pp. 136-143. [6] 加藤雅治 “入門転位論”、裳華房、2002、pp. 36-49.390“ “?SUS304 鋼のクリープ変形における強磁性相生成のPhase-field シミュレーション“ “塚田 祐貴,Yuhki TSUKADA,白木 厚寛,Atsuhiro SHIRAKI,村田 純教,Yoshinori MURATA,森永 正彦,Masahiko MORINAGA,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,小山 敏幸,Toshiyuki KOYAMA