デユアルエルボにおける複雑流動構造の解明
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
- 高経年化した原子力発電プラントが増加しつつある 中で、プラントの安全性確保のために確実な保全活動 の実施が必要である。原子力発電プラントにおいて多 く報告されている事故・トラブルの事例は、配管の減 肉である。中でも広範囲に減肉を及ぼし、大規模な配 管事故に繋がる FAC(流れ加速型腐食)がある。FAC は酸化被膜の腐食や溶出が流体の流れの作用によって 促進される現象であり、オリフィス下流など複雑な流 れが生じる場所で多く報告されている。東北電力の女 川原子力発電所で報告された二重曲がり管(デュアル エルボ)での減肉は、その典型例であると考えられる。 発電プラントは複雑な配管系を有しており、曲がり管 も多く用いられているため、FAC の発生箇所を予測し、 適切なメンテナンスを行うために、デュアルエルボに よって生じる複雑な流動構造の解明が必須である。 - 過去の研究で単一曲がり管(シングルエルボ)では、 平均流動場は様々な実験や解析がなされており、須藤 らはエルボ内の流速分布や壁面圧力分布を詳細に示している[1]。また、非定常挙動において Belaidi らは 90° 曲りダクト管での流れについて熱線流速計を用いて実 験しており、流れの非定常挙動や Re数による周期性の 変化など興味深い結果を得ている[2]。また円管におい ては結城らが二次流れの非定常挙動を実験的に得てお り、曲率半径比の変化における変動強度への影響など は非常に重要である[3]。よって、デュアルエルボでも このような複雑な非定常挙動が存在すると予想され、 デュアルエルボで生じた減肉の原因や対策について議 論する上で、これらの複雑な挙動は無視できないもの と言える。しかし、著者の知る限りではデュアルエル ボ内の流動構造についての研究は、村上らによるエル ボ後の流速計測や圧力損失計測[4]だけであり、エルボ 内の流れ方向の正確な流速分布や非定常挙動に関する 報告はなされていない。そこで本研究では、屈折率整 合を用いた PIV(Particle Image Velocimetry)によりデュ アルエルボ内の非定常流れの可視化を行い、流動構造 を把握する。これをシングルエルボの流動構造と比較 することでデュアル接続の影響を考察する。さらにデ ニュアルエルボでの流動構造と減肉箇所との比較を行い、
流れの減肉への影響因子を推測することを目的とする。 2. 実験2.1 実験装置図1に実験装置を示す。実験ループは混合タンク、 循環ポンプ、助走部、試験部から構成されている。流 速の調節はポンプ後のバルブ、およびポンプからタン クに戻るバイパス流路のバルブで行い、図1のBの位 置で超音波流量計を用いて流量および流速を得る。整 流タンクは上流部からデフューザ、多孔板、ハニカム、 レデューサで構成されている。助走区間は試験部流入 時に流れが十分に発達できるように、整流タンク出口 後に 44Dの直管部を設けている。また試験部手前の流 れの発達や整流は可視化により確認済みである。流れ の可視化はパルスレーザーと CCDカメラを用いたPIV 法により行う。パルスレーザーとしてはダイオードレ ーザーを使用し、波長 808nm の赤外線である。一度の 計測で最大 1024 枚のベクトル画像を得ることができ る。試験部はアクリル製で、曲率半径比y (=RID : Re は曲率半径) = 1.5 の 90°エルボ2つと直管部で構成さ れている。試験部は取り外し可能な構造となっており、 これらの組み合わせで複数のデュアルエルボ形状を作 ることが可能である。混合タンクに設置した温度計に より作動流体の温度が測定されている。ポンプにより 発生する熱は、混合タンクの熱交換器により水道水と 熱交換され、これにより温度の調整が行われる。
Mixing tank300x300x450-3440.5LCooler +CoolerFiltervarez PalerValve2Test sectionCameraTracer injectionRectifying Tank BValve 1Entrance region 44 DEntrancePump Qmax=120L/minLaser図1 実験装置」2.2 屈折率整合 - 可視化実験ではアクリルと同じ屈折率 1.49 の液体を 用いなければ、流入するレーザーが屈折してしまう。 屈折率整合に用いる Nal 水溶液の物性については、西 田らによって濃度と屈折率の関係が実験的に示されて いる[6]。NaI 水溶液の屈折率は濃度変化に強く依存す るため、今回の実験体系で可視化に影響が出ない屈折 率の範囲を求める。ダイオードレーザーにおける屈折率整合の結果、Nal水溶液の屈折率がn = 1.500のとき、 試験部のアクリルエルボでのレーザーの屈折が無くな る。この屈折率を基準に濃度変化させた結果、壁近傍 でも正確な流速を得るための屈折率の条件は 1.498≦n ≦1.501 である。2.3 実験条件と実験方法今回はRe数が約4.3 × 104でのデュアルエルボにおけ る流れの可視化を行う。図2に示すように、1st エルボ 内と 2nd エルボ内を可視化する。流れ方向の可視化は 屈折率の差が影響するため、作動流体には Nal 水溶液 を用いる。断面方向においては 1st エルボから 2nd エル ボへの遷移位置を可視化する。断面方向の二次流れの 可視化は屈折率の差は影響しないため水を用いる。実 験は以下の手順で行う。 1. ヒーターとポンプにより作動流体の温度を 50°Cにし、流体中の気泡を除去するために数時間回す。 2. 熱交換器で実験条件の温度に調節する。 3. Nal水溶液を作動流体として使用する場合は、屈折率計により作動流体の屈折率を測定し、既定の値 からずれがある場合は水溶液濃度の調整により屈 折率を合わせる。このときにレーザーを壁近傍に照射し屈折の有無も測定する。 4. 実験条件の流速に調整し、トレーサー粒子を注入する。 5. レーザーを照射して画像データを取得し、液温および流速を記録する。 6. 画像を解析してベクトル画像を得る。Flow Inlet1stエルポから2nd エルボへの遷移位[1stエル周へ1stエルボ2nd InFlow Outlet
図2 可視化位置
3. 結果と考察 3.1 デュアルエルボにおける流動構造 3.1.1 1st エルボの軸方向の時間平均流動場 - デュアルエルボ内の流速ベクトル分布を図3に示 す。 エルボ入口直後の腹側はレーザーの照射範囲の 制限により、データは得られていない。 1st エルボの-402入口直後ではエルボ腹側で順圧勾配、外側で逆圧力 勾配となり、腹側壁面近傍へ偏流が生じ、20°付近 で腹側に高速域が形成される。その最大流速は 1.18m/s であり、入口平均流速の約1.6倍である。本 実験ではこの位置を境に壁面圧力勾配が逆転してい るが、須藤らの y = 2.0 の結果[1]では 30°の位置で見 られるため、今回の結果は低曲率の影響で上流側へ遷 移したと考えられる。その後は遠心力とそれにより発 生した二次流れによって高速域が外側へと輸送されて いく。このとき同時に腹側には低速域が輸送される。 この付近から壁面の圧力勾配は逆転し、高速域の流速 値は緩和される。0=75°付近では二次流れにより高速 域が管壁に沿って腹側の低速域に輸送され、腹側の流 速が回復される。これにより腹側と管中央の間に低速 域が位置する。これは須藤らが確認した低速くぼみ域 に相当する[1]。実験体系のデュアルエルボは 1st エル ボの外側が 2nd エルボの腹側に繋がっている S 形状の ため、2nd エルボの入口手前で発生する高速域の偏り が影響を与え、90°の位置で最大流速の位置が外側に 存在する。しかし低曲率による二次流れの影響も存在 するため、現段階ではエルボ接続による影響であるか は判断できない。| 1stエルボFlow Inlet2ndエルボFlow Outlet図3 デュアルエルボ内の流速ベクトル分布3.1.2 エルボ間の二次流れの時間平均流動場1st エルボから 2ndエルボへの遷移をより詳しく把握 するために、断面方向の流れを把握する必要がある。 ・ 流速ベクトル分布より、曲がり管特有の上下対称な双 子渦を持っ二次流れの発生が確認できる。高速域は管 壁中央に位置し、エルボの腹側から外側に向かって水 平に流れている。最大流速は管中央で 0.35m/s であり、入口平均流速の約 0.5 倍である。高速域は断面内の広 範囲を占めており、二次流れによる軸方向流れの輸送 の強さが確認できる。また、1st エルボ腹側では軸方向 の速度分布で速度回復が見られた箇所に対応するよう に高速域が位置する。このようにエルボを繋げてもシ ングルエルボと同様に上下対称な二次流れが発生する ことが確認された。しかし、須藤らのシングルエルボ 直後 90°における二次流れ[1]と比較すると、双子渦の 位置が異なる。シングルエルボ出口での二次流れの双 子渦はやや腹側に位置するが、今回得られた二次流れ では中心から外側に位置し、2nd エルボの腹側の方へ 移動している。さらに双子渦の形状も扁平になってい る。これらも先ほどと同様に曲率の違いとエルボの相 互作用、どちらの影響か判断できない。3.1.3 2nd エルボ内の軸方向の時間平均流動場2nd エルボ内の流動構造について述べる。軸方向の 速度分布は 2nd エルボ入口で高速域が腹側の方に偏っ て流入する。上流で発生した二次流れによって高速域 がさらに腹側へと輸送され、より偏流が促進される。 2ndエルボ内の高速流の位置はエルボの腹側に位置し、 およそ 0 = 60°の位置で最大流速が 1.49m/s となり、こ れは入口平均流速の約2倍である。1st エルボ内に生じ る流れよりも偏流が激しく、高速域も径方向に狭く、 周方向に広いという特徴を持ち、壁近傍でのみ流れが 速くなっている。遠心力の作用により二次流れは減衰 されるが、2nd エルボ前半では二次流れが強いため、 遠心力により形成される壁面圧力勾配の発生は下流側 へと遷移する。このため、エルボ腹側の順圧勾配の領 域が下流側まで続く。圧力勾配による作用と二次流れ による輸送の相乗効果により、2nd エルボでの偏流は 促進される。60°以降の 2nd エルボ後半では遠心力と 二次流れによる高速域の輸送により、徐々にエルボ外 側の低速域が緩和されていく。しかし、ベクトル方向 からまだ圧力勾配の影響が残っていると確認される。このように 2nd エルボでの流動は入口の流動状態へ の依存度が強い。実機プラントでも入口条件によって 流動構造が変わる可能性があるため、減肉現象が起き たときのエルボ入口流動の条件を明らかにすることも 減肉の影響因子を推定するために重要である。3.2 流れの減肉への影響因子の推測 流れの減肉への影響因子を推測するために、平均流403動場だけでなく式(1)に定義する速度変動強度の分布や 瞬時速度場に着目する必要があり、それらを図4に示 す。減肉の原因が平均流速に依存するものか強い変動 に影響するものかを議論し、今後の減肉発生位置の予 測や減肉緩和技術の開発に展開していく必要がある。 1 1=V/2.1 -) / n + (u, -)/n)2/4 (1) ここで us は瞬時速度、uは平均流速である。しかし、 今回の速度変動強度や渦度はデカルト座標系での値で あり、エルボでの評価に用いるには最適ではない。定 性的な特徴は得られるが、定量的な評価のためにはエ ルボに沿った極座標で計算する必要がある。速度変動強度を各エルボで比較し、減肉に関して議 論する。2nd エルボの速度変動強度の最大値は 0.9131 で、1st エルボの速度変動強度の最大値は 0.91776 なの でほぼ同じである。高変動の領域を比較すると両者と も前節で見られた高速域に存在する。1st エルボ腹側半 分の領域で速度変動の強い領域が存在する。瞬時場か ら判断してまっすぐであるので慢性的な要素が強い。 また45°以降は壁面から管中央部へと高変動領域が存 在し、壁面に対する影響範囲は狭い分布である。1st エ ルボで減肉は発生しないので、壁面から離れた位置で の高速流や高速度変動は減肉への影響因子ではないと 推測される。一方、2nd エルボ内の速度変動の分布は 先ほどと異なり、腹側壁近傍を覆うように広範囲に存 在する。流速の方向に関しても壁面に沿うような流れ であり、1st エルボと異なり二次流れや圧力勾配の影響 が顕著に現れる。さらに速度変動の強い領域が縞状に 分布している。高 Re 数域での乱れの微細化を考慮する と、減肉形状である間欠的な鮫肌状の亀裂と一致する 可能性は十分あると考えられる。ゆえに、壁面近傍で の高速流や高速度変動は減肉への影響因子であると推 測される。瞬時流動場速度?動強度0.9131* 図4 2nd エルボの瞬時速度場と速度変動強度分布4. 結言今回はデュアルエルボにおける流動構造を可視化し、 エルボ接続の影響や減肉現象への影響因子について議 論した。得られた知見を以下に述べる。 (1)デュアルエルボにおける流動構造 ・1st エルボに関してはシングルエルボでの流動構造と 酷似するものが多かったが、エルボ出口に近づくにつ れて 2nd エルボの影響を受け、接続による流動構造へ の影響が生じることが明らかになった。 ・1st エルボ後の二次流れは管中央の高速域が広く、強 い輸送を生むことが確認された。 ・2nd エルボにおける流速分布は 1st エルボで生じた偏 流がさらに促進され、2nd エルボ腹側の壁近傍に最大 流速が存在し、入口平均流速の2倍以上の流速であっ た。これによりエルボを接続することで、壁面圧力勾 配のピークが下流側へ遷移することも推測される。ま た、流動構造は遠心力の影響よりも上流側の流れの影 響を受けやすく、特に二次流れの影響を顕著に受けた。 (2) 減肉への影響因子 ・減肉発生箇所である 2nd エルボ腹側壁近傍で、速度 変動の強い領域が広範囲に壁近傍を覆うように分布 していた。さらに速度変動の強い領域が縞状に分布し、 減肉形状との関連性を示唆した。これらにより、壁に 沿う高速流と速度変動が減肉への影響因子である可 能性が高いと推定された。 ・1st エルボにおける最大平均流速は入口平均流速の 1.6 倍、2nd エルボにおける最大平均流速は入口平均 流速の2倍になっている。よって、FAC の発生は 2nd エルボの方が可能性が大きくなる。謝辞 本研究は東北電力株式会社殿との共同研究「配管減 肉事象の発生メカニズム研究」の成果の一部であり、 ここに感謝の意を表します。参考文献 [1] 須藤浩三 機論 B 58 巻 548 号(1992-5)p.1015-1021 [2] A.Belaidi Journal of Fluids Engineering, December 1992, Vol.114/585 [3] 結城和久 機論 B70 巻 693 号(2004-5)p.1163-1169 [4] 村上光清 機論 B35 巻 272 号 p.763-773 [5] 西田正浩 日本機械学会第 74期通常総会講演会講 演論文集,Vol.1, pp.266-267,1997404“ “?デュアルエルボにおける複雑流動構造の解明“ “矢内 宏樹,Hiroki YANAI,吉田 和弘,Kazuhiro YOSHIDA,結城 和久,Kazuhisa YUKI,戸田 三朗,Saburo TODA,河上 晃,Akira KAWAKAMI,秋葉 真司,Shinji AKIBA
- 高経年化した原子力発電プラントが増加しつつある 中で、プラントの安全性確保のために確実な保全活動 の実施が必要である。原子力発電プラントにおいて多 く報告されている事故・トラブルの事例は、配管の減 肉である。中でも広範囲に減肉を及ぼし、大規模な配 管事故に繋がる FAC(流れ加速型腐食)がある。FAC は酸化被膜の腐食や溶出が流体の流れの作用によって 促進される現象であり、オリフィス下流など複雑な流 れが生じる場所で多く報告されている。東北電力の女 川原子力発電所で報告された二重曲がり管(デュアル エルボ)での減肉は、その典型例であると考えられる。 発電プラントは複雑な配管系を有しており、曲がり管 も多く用いられているため、FAC の発生箇所を予測し、 適切なメンテナンスを行うために、デュアルエルボに よって生じる複雑な流動構造の解明が必須である。 - 過去の研究で単一曲がり管(シングルエルボ)では、 平均流動場は様々な実験や解析がなされており、須藤 らはエルボ内の流速分布や壁面圧力分布を詳細に示している[1]。また、非定常挙動において Belaidi らは 90° 曲りダクト管での流れについて熱線流速計を用いて実 験しており、流れの非定常挙動や Re数による周期性の 変化など興味深い結果を得ている[2]。また円管におい ては結城らが二次流れの非定常挙動を実験的に得てお り、曲率半径比の変化における変動強度への影響など は非常に重要である[3]。よって、デュアルエルボでも このような複雑な非定常挙動が存在すると予想され、 デュアルエルボで生じた減肉の原因や対策について議 論する上で、これらの複雑な挙動は無視できないもの と言える。しかし、著者の知る限りではデュアルエル ボ内の流動構造についての研究は、村上らによるエル ボ後の流速計測や圧力損失計測[4]だけであり、エルボ 内の流れ方向の正確な流速分布や非定常挙動に関する 報告はなされていない。そこで本研究では、屈折率整 合を用いた PIV(Particle Image Velocimetry)によりデュ アルエルボ内の非定常流れの可視化を行い、流動構造 を把握する。これをシングルエルボの流動構造と比較 することでデュアル接続の影響を考察する。さらにデ ニュアルエルボでの流動構造と減肉箇所との比較を行い、
流れの減肉への影響因子を推測することを目的とする。 2. 実験2.1 実験装置図1に実験装置を示す。実験ループは混合タンク、 循環ポンプ、助走部、試験部から構成されている。流 速の調節はポンプ後のバルブ、およびポンプからタン クに戻るバイパス流路のバルブで行い、図1のBの位 置で超音波流量計を用いて流量および流速を得る。整 流タンクは上流部からデフューザ、多孔板、ハニカム、 レデューサで構成されている。助走区間は試験部流入 時に流れが十分に発達できるように、整流タンク出口 後に 44Dの直管部を設けている。また試験部手前の流 れの発達や整流は可視化により確認済みである。流れ の可視化はパルスレーザーと CCDカメラを用いたPIV 法により行う。パルスレーザーとしてはダイオードレ ーザーを使用し、波長 808nm の赤外線である。一度の 計測で最大 1024 枚のベクトル画像を得ることができ る。試験部はアクリル製で、曲率半径比y (=RID : Re は曲率半径) = 1.5 の 90°エルボ2つと直管部で構成さ れている。試験部は取り外し可能な構造となっており、 これらの組み合わせで複数のデュアルエルボ形状を作 ることが可能である。混合タンクに設置した温度計に より作動流体の温度が測定されている。ポンプにより 発生する熱は、混合タンクの熱交換器により水道水と 熱交換され、これにより温度の調整が行われる。
Mixing tank300x300x450-3440.5LCooler +CoolerFiltervarez PalerValve2Test sectionCameraTracer injectionRectifying Tank BValve 1Entrance region 44 DEntrancePump Qmax=120L/minLaser図1 実験装置」2.2 屈折率整合 - 可視化実験ではアクリルと同じ屈折率 1.49 の液体を 用いなければ、流入するレーザーが屈折してしまう。 屈折率整合に用いる Nal 水溶液の物性については、西 田らによって濃度と屈折率の関係が実験的に示されて いる[6]。NaI 水溶液の屈折率は濃度変化に強く依存す るため、今回の実験体系で可視化に影響が出ない屈折 率の範囲を求める。ダイオードレーザーにおける屈折率整合の結果、Nal水溶液の屈折率がn = 1.500のとき、 試験部のアクリルエルボでのレーザーの屈折が無くな る。この屈折率を基準に濃度変化させた結果、壁近傍 でも正確な流速を得るための屈折率の条件は 1.498≦n ≦1.501 である。2.3 実験条件と実験方法今回はRe数が約4.3 × 104でのデュアルエルボにおけ る流れの可視化を行う。図2に示すように、1st エルボ 内と 2nd エルボ内を可視化する。流れ方向の可視化は 屈折率の差が影響するため、作動流体には Nal 水溶液 を用いる。断面方向においては 1st エルボから 2nd エル ボへの遷移位置を可視化する。断面方向の二次流れの 可視化は屈折率の差は影響しないため水を用いる。実 験は以下の手順で行う。 1. ヒーターとポンプにより作動流体の温度を 50°Cにし、流体中の気泡を除去するために数時間回す。 2. 熱交換器で実験条件の温度に調節する。 3. Nal水溶液を作動流体として使用する場合は、屈折率計により作動流体の屈折率を測定し、既定の値 からずれがある場合は水溶液濃度の調整により屈 折率を合わせる。このときにレーザーを壁近傍に照射し屈折の有無も測定する。 4. 実験条件の流速に調整し、トレーサー粒子を注入する。 5. レーザーを照射して画像データを取得し、液温および流速を記録する。 6. 画像を解析してベクトル画像を得る。Flow Inlet1stエルポから2nd エルボへの遷移位[1stエル周へ1stエルボ2nd InFlow Outlet
図2 可視化位置
3. 結果と考察 3.1 デュアルエルボにおける流動構造 3.1.1 1st エルボの軸方向の時間平均流動場 - デュアルエルボ内の流速ベクトル分布を図3に示 す。 エルボ入口直後の腹側はレーザーの照射範囲の 制限により、データは得られていない。 1st エルボの-402入口直後ではエルボ腹側で順圧勾配、外側で逆圧力 勾配となり、腹側壁面近傍へ偏流が生じ、20°付近 で腹側に高速域が形成される。その最大流速は 1.18m/s であり、入口平均流速の約1.6倍である。本 実験ではこの位置を境に壁面圧力勾配が逆転してい るが、須藤らの y = 2.0 の結果[1]では 30°の位置で見 られるため、今回の結果は低曲率の影響で上流側へ遷 移したと考えられる。その後は遠心力とそれにより発 生した二次流れによって高速域が外側へと輸送されて いく。このとき同時に腹側には低速域が輸送される。 この付近から壁面の圧力勾配は逆転し、高速域の流速 値は緩和される。0=75°付近では二次流れにより高速 域が管壁に沿って腹側の低速域に輸送され、腹側の流 速が回復される。これにより腹側と管中央の間に低速 域が位置する。これは須藤らが確認した低速くぼみ域 に相当する[1]。実験体系のデュアルエルボは 1st エル ボの外側が 2nd エルボの腹側に繋がっている S 形状の ため、2nd エルボの入口手前で発生する高速域の偏り が影響を与え、90°の位置で最大流速の位置が外側に 存在する。しかし低曲率による二次流れの影響も存在 するため、現段階ではエルボ接続による影響であるか は判断できない。| 1stエルボFlow Inlet2ndエルボFlow Outlet図3 デュアルエルボ内の流速ベクトル分布3.1.2 エルボ間の二次流れの時間平均流動場1st エルボから 2ndエルボへの遷移をより詳しく把握 するために、断面方向の流れを把握する必要がある。 ・ 流速ベクトル分布より、曲がり管特有の上下対称な双 子渦を持っ二次流れの発生が確認できる。高速域は管 壁中央に位置し、エルボの腹側から外側に向かって水 平に流れている。最大流速は管中央で 0.35m/s であり、入口平均流速の約 0.5 倍である。高速域は断面内の広 範囲を占めており、二次流れによる軸方向流れの輸送 の強さが確認できる。また、1st エルボ腹側では軸方向 の速度分布で速度回復が見られた箇所に対応するよう に高速域が位置する。このようにエルボを繋げてもシ ングルエルボと同様に上下対称な二次流れが発生する ことが確認された。しかし、須藤らのシングルエルボ 直後 90°における二次流れ[1]と比較すると、双子渦の 位置が異なる。シングルエルボ出口での二次流れの双 子渦はやや腹側に位置するが、今回得られた二次流れ では中心から外側に位置し、2nd エルボの腹側の方へ 移動している。さらに双子渦の形状も扁平になってい る。これらも先ほどと同様に曲率の違いとエルボの相 互作用、どちらの影響か判断できない。3.1.3 2nd エルボ内の軸方向の時間平均流動場2nd エルボ内の流動構造について述べる。軸方向の 速度分布は 2nd エルボ入口で高速域が腹側の方に偏っ て流入する。上流で発生した二次流れによって高速域 がさらに腹側へと輸送され、より偏流が促進される。 2ndエルボ内の高速流の位置はエルボの腹側に位置し、 およそ 0 = 60°の位置で最大流速が 1.49m/s となり、こ れは入口平均流速の約2倍である。1st エルボ内に生じ る流れよりも偏流が激しく、高速域も径方向に狭く、 周方向に広いという特徴を持ち、壁近傍でのみ流れが 速くなっている。遠心力の作用により二次流れは減衰 されるが、2nd エルボ前半では二次流れが強いため、 遠心力により形成される壁面圧力勾配の発生は下流側 へと遷移する。このため、エルボ腹側の順圧勾配の領 域が下流側まで続く。圧力勾配による作用と二次流れ による輸送の相乗効果により、2nd エルボでの偏流は 促進される。60°以降の 2nd エルボ後半では遠心力と 二次流れによる高速域の輸送により、徐々にエルボ外 側の低速域が緩和されていく。しかし、ベクトル方向 からまだ圧力勾配の影響が残っていると確認される。このように 2nd エルボでの流動は入口の流動状態へ の依存度が強い。実機プラントでも入口条件によって 流動構造が変わる可能性があるため、減肉現象が起き たときのエルボ入口流動の条件を明らかにすることも 減肉の影響因子を推定するために重要である。3.2 流れの減肉への影響因子の推測 流れの減肉への影響因子を推測するために、平均流403動場だけでなく式(1)に定義する速度変動強度の分布や 瞬時速度場に着目する必要があり、それらを図4に示 す。減肉の原因が平均流速に依存するものか強い変動 に影響するものかを議論し、今後の減肉発生位置の予 測や減肉緩和技術の開発に展開していく必要がある。 1 1=V/2.1 -) / n + (u, -)/n)2/4 (1) ここで us は瞬時速度、uは平均流速である。しかし、 今回の速度変動強度や渦度はデカルト座標系での値で あり、エルボでの評価に用いるには最適ではない。定 性的な特徴は得られるが、定量的な評価のためにはエ ルボに沿った極座標で計算する必要がある。速度変動強度を各エルボで比較し、減肉に関して議 論する。2nd エルボの速度変動強度の最大値は 0.9131 で、1st エルボの速度変動強度の最大値は 0.91776 なの でほぼ同じである。高変動の領域を比較すると両者と も前節で見られた高速域に存在する。1st エルボ腹側半 分の領域で速度変動の強い領域が存在する。瞬時場か ら判断してまっすぐであるので慢性的な要素が強い。 また45°以降は壁面から管中央部へと高変動領域が存 在し、壁面に対する影響範囲は狭い分布である。1st エ ルボで減肉は発生しないので、壁面から離れた位置で の高速流や高速度変動は減肉への影響因子ではないと 推測される。一方、2nd エルボ内の速度変動の分布は 先ほどと異なり、腹側壁近傍を覆うように広範囲に存 在する。流速の方向に関しても壁面に沿うような流れ であり、1st エルボと異なり二次流れや圧力勾配の影響 が顕著に現れる。さらに速度変動の強い領域が縞状に 分布している。高 Re 数域での乱れの微細化を考慮する と、減肉形状である間欠的な鮫肌状の亀裂と一致する 可能性は十分あると考えられる。ゆえに、壁面近傍で の高速流や高速度変動は減肉への影響因子であると推 測される。瞬時流動場速度?動強度0.9131* 図4 2nd エルボの瞬時速度場と速度変動強度分布4. 結言今回はデュアルエルボにおける流動構造を可視化し、 エルボ接続の影響や減肉現象への影響因子について議 論した。得られた知見を以下に述べる。 (1)デュアルエルボにおける流動構造 ・1st エルボに関してはシングルエルボでの流動構造と 酷似するものが多かったが、エルボ出口に近づくにつ れて 2nd エルボの影響を受け、接続による流動構造へ の影響が生じることが明らかになった。 ・1st エルボ後の二次流れは管中央の高速域が広く、強 い輸送を生むことが確認された。 ・2nd エルボにおける流速分布は 1st エルボで生じた偏 流がさらに促進され、2nd エルボ腹側の壁近傍に最大 流速が存在し、入口平均流速の2倍以上の流速であっ た。これによりエルボを接続することで、壁面圧力勾 配のピークが下流側へ遷移することも推測される。ま た、流動構造は遠心力の影響よりも上流側の流れの影 響を受けやすく、特に二次流れの影響を顕著に受けた。 (2) 減肉への影響因子 ・減肉発生箇所である 2nd エルボ腹側壁近傍で、速度 変動の強い領域が広範囲に壁近傍を覆うように分布 していた。さらに速度変動の強い領域が縞状に分布し、 減肉形状との関連性を示唆した。これらにより、壁に 沿う高速流と速度変動が減肉への影響因子である可 能性が高いと推定された。 ・1st エルボにおける最大平均流速は入口平均流速の 1.6 倍、2nd エルボにおける最大平均流速は入口平均 流速の2倍になっている。よって、FAC の発生は 2nd エルボの方が可能性が大きくなる。謝辞 本研究は東北電力株式会社殿との共同研究「配管減 肉事象の発生メカニズム研究」の成果の一部であり、 ここに感謝の意を表します。参考文献 [1] 須藤浩三 機論 B 58 巻 548 号(1992-5)p.1015-1021 [2] A.Belaidi Journal of Fluids Engineering, December 1992, Vol.114/585 [3] 結城和久 機論 B70 巻 693 号(2004-5)p.1163-1169 [4] 村上光清 機論 B35 巻 272 号 p.763-773 [5] 西田正浩 日本機械学会第 74期通常総会講演会講 演論文集,Vol.1, pp.266-267,1997404“ “?デュアルエルボにおける複雑流動構造の解明“ “矢内 宏樹,Hiroki YANAI,吉田 和弘,Kazuhiro YOSHIDA,結城 和久,Kazuhisa YUKI,戸田 三朗,Saburo TODA,河上 晃,Akira KAWAKAMI,秋葉 真司,Shinji AKIBA