フェーズドアレイシステムによるステンレス鋼溶接部の非破壊評価

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
原子炉構成要素では,溶接箇所におけるき裂形成 に対する対策が重要となり,そのような溶接部位の き裂損傷の評価技術の向上が望まれている.そこで, 経済的・合理的な溶接構造の健全性評価を実現するために,高温条件でかつ多様な配管材料が用いられ ている高経年化原子炉における溶接部位の劣化・損 傷過程をより高精度にシミュレートしうる革新的な、 高精度ハイブリッド非破壊検査技術が必要となる.
上記の理由から,高精度な波形収集が可能なフェ ーズドアレイ超音波探触子を用いて,応力腐食割れ (以降,SCC)や溶接部の形状を発見・画像化する 技術の開発を目的とする.2. 超音波による材質分布測定の原理構造材料内部の不均質性に関する近年の研究によ り,超音波の波形あるいはそのスペクトルを解析す ることによって,材料特性の微細な変化を定量的に 検知できる可能性が示された. Matsumoto[1][2]は, 均質な1次元弾性体についてひずみ波のスペクトル 方程式を導き,材料の非線形性により発生する高周 波倍音を測定することにより高次の弾性定数が測定 できることを示した.その他,層状の不均質構造を 持っ材料についての弾性波の反射・透過問題を解析連絡先:立松展大,〒606-8501 京都府京都市左京区吉 田本町,京都大学エネルギー科学研究科 電話: 075-753-3565 e-mail:tatema@modem.mbox.media.kyoto-u.ac.jpした文献には,村田・松本・柴田[3], 田辺・松本・ 柴田[4], Pedersen, Tretaik,He[5]などがある.さらに, 三浦・大好・原・岡崎[6]は,不均質部の音響インピ ーダンス分布による反射エネルギの変動から,不均 質性の特定化への手掛かりを得ることができること を示している.そして,泉屋・松本・柴田[7]は,入 射波と反射波のスペクトル解析により,音響インピ ーダンスの分布を再現する方法を示した.本論文では,文献[7]の方法を2次元的な不均質の 同定に拡張する.すなわち,組織が2次元的,連続 的に変化する材料について,フェーズドアレイ超音 波探触子によって収集された複数の受信波形のスペ クトル解析を行うことにより,材料定数の一つであ る音響インピーダンスの2次元的分布を求めて,材 料内部の不均質性を評価する理論的方法を提案し, 実験によってその方法の有効性を検証する. 次節で, 参考文献[7]にしたがって,層状の不均質の場合に, 垂直入射波の受信波形の解析によって音響インピー ・ダンスの分布が場所の関数として求められることを 示す.2.1 1次元における材質分布 材質が異なる境界面で弾性波の反射と透過がおき る場合,反射係数 R は次式のように表される. SOR _PG1 - P2C2_a PC + P2C2 式中のPC, Pycnは入射側および透過側の材料の 音響インピーダンスである.文献[7]によると,上-1405式を連続的に材質が変化する場合に拡張し 響インピーダンスの分布を次式から求めるこ きる.Petroy = expl-464(20u]式を連続的に材質が変化する場合に拡張して,音 響インピーダンスの分布を次式から求めることがで きる.Wiktion = 0x0-4642030]12-2ここで,M) - - Silategories-3Flo)および G()は,入射波と反射波のフーリエスペ クトルである。2.2 2次元的に伝ぱする超音波の受信波形と 音響インピーダンスの関係 - 前節で求めた層状材質の音響インピーダンスの分 布を求める方法を,2次元的な分布に拡張する.後 でフェーズドアレイシステムにこの方法をインプリ メントするために、まず材料表面の一直線上の異な る点に送信および受信の探触子があると仮定する. Fig.1 のように,送信探触子から出発した波が,試料 中の点P で反射して,受信探触子に到達すると仮定 する.このとき,点Pの反射率は入射波と反射波の 角度によらず一定とする. 送信波形を10とすると, 受信波形g()は次のように表される.g() = R(x) ft - z(a,b)}-4送信受信Fig. 1 Locus of ultrasonic waveここで, t (a, b)は経路 a+b に沿う波の伝ば時間であ る.まず,伝ば経路に沿って点x以外で,材質の不 連続や傾斜による波の反射はないと仮定する.一方, 同じ送信探触子と受信探触子の組から得られる受信波形には,異なる位置で反射して帰還する波も含ま れている.それらのうち,同じ位相だけ遅れる波形 は t(a,b) = (a',b')(5) を満たす,全ての点から反射して受信探触子に到 達した可能性がある.いいかえれば,式(4)に含まれ る反射係数 R(x)は、式(5)を満たす点x'に配分する必 要がある. もし、媒質において波の速度が一様であ れば,式(5)を満たす点の集合は送信および受信探触 子の位置を焦点とする楕円の周上となる.実際には すべての点が反射係数 R(x)'を持つのではないが,異 なる送信,受信探触子の組から得られるデータも加 味していくと,このような点は淘汰されて,実際の 反射係数に近づいていくことが期待できる.さらに,受信探触子で得られる波形は,探触子間 の距離も。以上の距離を伝ばして受信されたすべて の波の重ね合わせで表現される.すなわち,次のよ うに表される.g()) = [ (x) st - (a,b)ae (6) ここで積分は,送信および受信探触子からの距離の 和a'+bが からしまでの任意の経路に沿って行う. このような経路に沿って,前節の結果を利用して反 射係数と音響インピーダンスの分布の関係を求める ことができる.ただし,入射波と受信波のフーリエ スペクトルを Flo) と da) として,その比の逆フーリ エ変換したものを ho とすると,次の式を得ること ができる。 MOD Stor exp(vor youte = facer) ok - {a,b) (の ここで、積分の下限は。であったが、0 としても0 としの間の点からの情報は受信波形に含まれてい ない(波形の変位が 0) であるのでさしつかえない. 上式の右辺の積分を行うと、 ht) = R(x““). c()(8) ここで, c()は積分経路に沿って送信探触子から時刻 t の位置の点における波の速度で, x““は送信および 受信探触子との距離の和が c()を0からtまで積分し たものとなるような任意の点である.さらに, (8)を 時間で積分すると、次式を得ることができる.Stor = Safar(au) (9)る エリと406送信-10結局、上の経路に沿う任意の点の位置を x()、 探触子の位置を x(0) と して、(2)式の変わりにが得られる。3. 波形合成による材料内部の画像化実験から得られた入射波形と受信波形を2章のよ うにスペクトル解析をし,試験片内部の音響インピ ーダンスの分布を求める. この 32×32 個のデータに, 超音波の拡散性や,探触子の感度,指向性を考慮し た合成法(改良 ALOK 法)で画像化を行う. - 各探触子から出る超音波があらゆる方向に伝ぱす ると仮定し,またそれぞれの探触子もあらゆる方向 からの波を受信できるとする.伝播距離,時間を考 慮し,その時刻における値で可能性がある点を選び 加算平均を行う.そして,ある振動子から斜め方向に入射して欠陥 や底面から反射してくる波も受信波形に含まれてい るが通常超音波の送受信特性には方向依存性がある. このような指向性も考慮にいれれば,各反射点の音 響インピーダンスがより正確になり,合成した分布 がより明瞭になることが期待できる.これら指向性 や放射性などのパラメータを変えることによって, より精度の高い画像を得ることができる.具体的な 計算方法については,紙面の都合上省略する.4. 実験方法試験片は溶接部を有する SUS316 で,寸法が 20mm×166mm×12mm である.溶接部周辺で表面およ び内部で,音響インピーダンスがどのように変化し ているかを調べてみた.15mmFig.2 Sus316 specimenマルチプレクサにより 32CH のフェーズドアレイ 探触子の各2対の探触子に送受信信号を切り替えて、 受信波形を収集した. 16 ミリの遅延材をつけた5MHz と 10MHzの探触子を用いて計測を行った.5. 測定結果 5.1 表面の音響インピーダンス分布まず, 2 章の(1)式を用いて,表面の音響インピー ダンスを計測する.このとき,PC, は遅延材の音響 インピーダンスなので既知であり,反射係数を波形 から求めることによって試験片表面の音響インピー ダンスの値を求めることができる. Fig.3 は周波数が 5MHz の探触子を使い,縦軸が 1mm 刻み,横軸が 0.75mm 刻みである. - Fig.3 の(a)は溶接部に無関係な部分を計測して結 果です. 真ん中に表面の加工の痕跡と思われる音響 インピーダンスの分布が見えました.Fig.3 の(b)はまばらに出ている部分がありますが, 中心部分に変化が見られ,溶接部と判断できるため これは成功したとみなせる.5.2 5MHz での内部の音響インピーダンス分布 1. 次に, 内部の音響インピーダンス分布を計測した. 計測には周波数が 5MHzおよび 10MHzの探触子の2 通りを行った.なお, Fig.4 以降の図は横軸が試験片 の長さ方向,縦軸が深さ方向を表示している. - Fig.4 の(a)は溶接部を中心に計測した結果である. Fig.4 では下の部分に底面の像が現れている. 溶接部 では超音波の速度が遅くなるため底面の位置が少し ずれて表示されている.色が少し薄くなっている部 分が溶接部の断面形状を表している.この図の左上 に見える部分が切欠きから伸びている SCC と考え られる. Fig.4 の(b)は斜めから見たもので,図の左部 分にある欠陥部分の音響インピーダンスの変化がは っきりと見える. - 次に, Fig.4 の左上にある欠陥部分の詳細な分布を 調べてみると Fig.5 の(a)のようになった. Fig.4 では 底面での音響インピーダンスの変化が激しいため, 欠陥部分にあまり変化がないように見えるが, Fig.5 で詳細に調べてみると激しい変化が出ているのが分 かる. Fig.5 の(b)は別角度からみたもので,欠陥近傍 の音響インピーダンスの分布が明瞭となっている.5.3 10MHz での内部の音響インピーダンス分布次に,周波数が 10MHz の探触子で計測を行った結った結407果を示す.Fig.6 の(a)も溶接部を中心部にして計測したもの えある. Fig.6 のように,10MHz の探触子を使用し た場合の方がより鮮明になることがわかる. 右側の 部分は波形処理の都合で実際にはない像が見えてい る.この部分を無視すると,5MHz の場合と同じよ うな欠陥による音響インピーダンスの変化が見られる.Fig.6 の(b)は別角度からみたものであり、欠陥部分 の変化がより明瞭に見られる.同様に欠陥部分の詳細な情報な分布を調べてみる と Fig.7 のようになった.全体的に波形のバラつき が大きくなり画像が波打っているが,欠陥は明瞭に 見られる.これは,周波数が大きい 10MHz のほうが 遅延材による減衰の影響を大きく受け,波形の収集 精度が低下しているためと思われる.(a) Non-welding part (b) Welding partFig.3 Acoustic impedance of specimen surface(a) Plane view - (b) Bird's eye view Fig.4 Internal acoustic impedance by 5MHz transducer(a) Plane view(b) Bird's eye view Fig.5 Close-up of notch edge by 5MHz transducer(a) Plane view(b) Bird's eye view Fig.6 Internal acoustic impedance by 10MHz transducer(a) Plane view(b) Bird's eye view Fig. 7 Close-up of notch edge by 10MHz transducer6.結言 - フェーズドアレイシステムによって,表面の音響 インピーダンスの分布と断面の2次元的な音響イン ピーダンスの分布を求める方法を示した. - SUS316 曲げ疲労試験片では,き裂先端と溶接部の 形状が明瞭に測定でき, 切欠き部近傍の SCC の像が 確認できた.欠陥の具体的な形状と音響インピーダ ンス分布との対応関係を調べることは今後の課題で ある。参考文献 [1] E.Matsumoto, J. Acoust. Soc. Am., 81-6, (1987), 1713. [2] E.Matsumoto, J.Acoust. Soc. Am., 84-1, (1988), 335. [3] 村田・松本,柴田,機論,57-534, A (1991), 404. [4] 田辺・松本・柴田,機論, 57-544, A (1992), 3045. [5] P.C.Pedersen, O.J. Tretiak and Ping He, J. Acoust. Soc.Am, 72-2, (1982), 327. [6] 三浦・大好・原・岡崎, 機論, 59-561, A (1993), 54. [7] 泉屋亭,松本英治,柴田俊忍,弾性波波形解析による傾斜機能材料内部の不均質の測定, 機械学 会論文集,平成7年11月号, 61A, 591, 93-100 (1995) .408“ “?フェーズドアレイシステムによるステンレス鋼溶接部の非破壊評価“ “立松 展大,Nobuhiro TATEMATSU,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
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