高分子圧電フィルムを用いた円管内壁欠陥の測定とシミュレーション

公開日:
カテゴリ: 第6回
1. 緒言
非破壊検査技術は構造物を長期にわたって安全に 活用するための技術として注目されている.新たな 非破壊検査技術の一つとして,高分子圧電フィルム (PVDF フィルム)を用いた探傷法がある. PVDF フ ィルムは軽量かつ低剛性で,力学的な入力に対する 感度が良く,センサとして期待されている. これま での研究で,勝見ら[1]は背面に欠陥を持つ板材の表 面に PVDF フィルムを貼付し, PVDF フィルム上の 電位分布を測定することで表面ひずみの分布を調べ, 欠陥の検出,およびその形状の同定をおこなった. 知識ら[2]は PVDF フィルムを積層することにより感 度の向上及び等方的な感度を得ることに成功してい る.また山本ら[3]は得られた表面電位分布から特徴 量を抽出し,欠陥深さの同定を試みている.上記の研究では板材における背面欠陥の検出を対 象としていたが,発電所や化学プラント設備などに おいてき裂や減肉などの欠陥よるトラブルが多く発 生していることから,配管内部の欠陥の検出にフィ ルムを応用することが重要な課題となっている. そこで,本研究では円管内壁に存在する減肉の影響に よって円管内壁に生じる変形分布を PVDF フィルム 上の表面電位分布より検出し,さらに減肉の程度を 判定する手法を開発するために,実験およびシミュ レーションを行う.
2. PVDF フィルム表面電位一ひずみ関係 ・ 十分薄い PVDF フィルムが面内で変形する場合を 考えると,平面応力状態とみなすことができる. 以 下では PVDF 内に真電荷が存在しないと仮定し,焦 電性による電位をあらかじめ除いた圧電性による電 圧変化だけに注目する. フィルムの上面の電位Vは文献[4]より次のようにフ ィルム内のひずみ成分で表すことができる.すなわ ち, Fig.1 のようにフィルムの延伸方向に第1軸, 分 極方向(厚さ方向)に第3軸,これらと垂直な方向 に第2軸をとると _V = piS + pzS2(1) ここで, k=1,2 に対して ma_d( cg3E3k - C3AE33 )(2) - (6336 + e) 上式において,応力テンソルとひずみテンソルの添 え字を 11→1, 22→2, 33→3, 23→4, 31→5, 12→6 と変換して, 6 次元空間のベクトルとして表してあ-409る. Sはひずみ,. はひずみ一定での誘電率,cは電 場一定での弾性係数, e は圧電 e 定数を含む3階の テンソル, dはフィルムの厚さである. PVDF フィル ム (呉羽化学)に対しては,単軸引っ張り試験によ り式(1)の係数はすでに求められており,その結果は 次の通りである.Pr = 3.19×10““, P2 = 1.63x104-3両式とも材料表面の任意の方向にフィルムを貼付し た場合,表面の電位差は延伸方向と垂直方向のひず みにそれぞれp, pzをかけて得られることを示して いる。次に積層した PVDF フィルムの表面電位とひずみ の関係を示す. PVDF フィルムを2枚重ねて積層し た場合, フィルムの最上面に現れる表面電位分布は 2 枚のフィルムのそれぞれに現れる表面電位分布を 足し合わせたものに等しい、上のフィルムの分極方 向を下のフィルムの分極方向と一致させ,延伸方向 を下のフィルムから 90°回転させて積層したとき, この積層したフィルムは垂直ひずみに対して等方的 な感度を持つ.すなわち,積層したフィルムの表面 電位一ひずみ関係は次式で表される.V'(0) = V(0)+V(0+ 90°)==(Pi + P2)(S+ Sy)3-axis13-axis 122-axis-axisPolarizationl-axisFig. 1 Coordinate system in PVDF film.PVDF フィルムが単層の場合, PVDF フィルムの貼 付する角度によって感度が異なるが,前述のように フィルムを積層すれば貼付する角度に関係なく同じ 感度で欠陥形状を推定できる.PVDFフィルムをその電極面が接するように構造物 表面に貼り付けて,面上のひずみを測定することを 想定する. PVDFフィルムの平面内のひずみを1軸方 向, 2 軸方向のひずみS, S2で表し, PVDFフィルム は十分に薄く、剛性が低いことからこれらのひずみ は構造物表面のひずみによって拘束されると考えら れる. 構造物表面にx-y座標を設け,x軸方向の垂直 ひずみをS,y軸方向の垂直ひずみをS,せん断ひず みをSと表すとする.このとき,構造物表面のx軸と PVDFフィルムの第1軸(延伸方向)とが角度 日をなす。 場合に, PVDFフィルムの上下面に現れる電位差 V(0)は,次式のように表される[2].V(0) = (Pcos2 0 + P2 sin00S、+(psin2 0 + Pz cos 00S,+ (Pin - Pa) sin 20]sy 上式は角度 8に依存しており,特に 0=0°,90°のと きには, フィルムの上下面に生じる電位差Vはせん断 ひずみの寄与が消えて,次式のように垂直ひずみ S, S,だけで表すことができる. V(0) = piSx + P2S,-53.表面電位分布の測定 3.1 表面電位の測定長さ 50[mm], 外半径 20[mm],肉厚 3[mm], ポア ソン比 0.39, ヤング率 3.4[GPa]のアクリル円管に, 模擬欠陥として内壁にそれぞれ深さ 0mm, 1.0mm, 1.5mm, 2.0mm, 2.5mm, の円周方向の減肉欠陥を作 成した5つの試験片を用意する.円管の外面に,円 周方向 50[mm],軸方向 45[mm],厚さ 40[ u m]の等 方的な感度を持つように積層させた PVDF フィルム を貼付した.この円管に軸方向の平均ひずみが 0.2%となるよ うに負荷を加え,アクリルの粘弾性的性質を考慮し て,圧縮後数分間を経過した後で表面電位測定を行 った.焦電性の影響を除き変形だけにより生じた電 位を求めるために,圧縮荷重を与える前後での表面 電位の変化量を求めた.本手法の妥当性を検証するために,汎用有限要素 解析ソフト ANSYS を用いて同じ条件における試験 片表面のひずみ分布を求め,式(7)を用いて電位分布 に換算して実験値と比較,検討をおこなう.V(90°) = P2S + PIS,-410れる. 構造物表面にx-y座標を設け,x軸方向の垂直 ひずみをS,y軸方向の垂直ひずみをS,せん断ひず みをSと表すとする.このとき,構造物表面のx軸と PVDFフィルムの第1軸(延伸方向)とが角度 日をなす 場合に,PVDFフィルムの上下面に現れる電位差 両式とも材料表面の任意の方向にフィルムを貼付し、 た場合,表面の電位差は延伸方向と垂直方向のひず みにそれぞれp, paをかけて得られることを示して次に積層した PVDF フィルムの表面電位とひずみ の関係を示す. PVDF フィルムを2枚重ねて積層し た場合, フィルムの最上面に現れる表面電位分布は 2 枚のフィルムのそれぞれに現れる表面電位分布を 足し合わせたものに等しい、上のフィルムの分極方 向を下のフィルムの分極方向と一致させ,延伸方向 を下のフィルムから 90°回転させて積層したとき, この積層したフィルムは垂直ひずみに対して等方的 な感度を持つすなわち,積層したフィルムの表面 電位一ひずみ関係は次式で表される. PVDF フィルムが単層の場合, PVDF フィル 付する角度によって感度が異なるが,前述の フィルムを積層すれば貼付する角度に関係な 感度で欠陥形状を推定できる.この円管に軸方向の平均ひずみが 0.2%となるよ うに負荷を加え,アクリルの粘弾性的性質を考慮し て,圧縮後数分間を経過した後で表面電位測定を行 った.焦電性の影響を除き変形だけにより生じた電 位を求めるために,圧縮荷重を与える前後での表面 電位の変化量を求めた. 1 本手法の妥当性を検証するために,汎用有限要素 解析ソフト ANSYS を用いて同じ条件における試験察上記の実験によって得られた表面電位分布と,シ ミュレーションにより得られた表面電位分布を以下 の Fig.2, Fig.3 に示す.紙面の都合上今回の実験の 中で最も深い欠陥深さ 2.5mm の試験片の結果と最も 浅い欠陥深さ 1.0mm の結果のみ載せたが,他の深さ でも同様の結果となった.白線が欠陥のおおよその 位置と形状を表す.欠陥部周辺で電位が急激に変化 しており,電位勾配の大きい部分が欠陥の形状を表 すような分布となっている.このことから積層させ ることにより等方的な感度を持たせたフィルムが円 管状構造物内壁に存在する様々な深さの欠陥の検出 や形状の推定に有効であることが分かった.また実 験結果とシミュレーション結果と比較してみると電 3.2 実験およびシミュレーション結果と考2.508-12,00E-10.151.008-15,000-050000-5E+40-0.1-18-2000-2.51E+1TTTTTTTTTTTx(mm)simulation上記の実験によって得られた表面電位分布と,シ ミュレーションにより得られた表面電位分布を以下 の Fig.2, Fig.3 に示す.紙面の都合上今回の実験の 中で最も深い欠陥深さ 2.5mm の試験片の結果と最も 浅い欠陥深さ 1.0mm の結果のみ載せたが,他の深さ でも同様の結果となった.白線が欠陥のおおよその 位置と形状を表す.欠陥部周辺で電位が急激に変化 しており,電位勾配の大きい部分が欠陥の形状を表 すような分布となっている. このことから積層させ ることにより等方的な感度を持たせたフィルムが円 管状構造物内壁に存在する様々な深さの欠陥の検出 や形状の推定に有効であることが分かった.また実 験結果とシミュレーション結果と比較してみると電 位分布のパターンは同様の結果となっており,特に 欠陥が深いほど実験とシミュレーションが似た結 果となった.experiment2506-1 2001250.00000000000000215Fig.3Electrical potential distribution (1.0mm defect depth).0.15.006-3 5000E+]-5,0000 -1.00E-1-1.50E+1-2E+16-2.50E1TTTTTTTTximr)simulationさらに電位分布の極小値つまり最も大きいひずみ が生じている部分の電位と欠陥深さの関係を求めた。 シミュレーションで得た電位分布の極小値と欠陥深 さの関係をFig.4 に示す.実験は複数回行い各回で得 られた値がばらついているため深さごとに平均を取 り欠陥深さとの関係を Fig.5 に示す.実験とシミュレ ーションの結果はほぼ同様な結果となった.すなわ ち,一定の圧力をかけたとき欠陥の深さが深くなる。 につれて最大のひずみが大きくなり電位の極小値の 絶対値が大きくなるという関係が得られた.この結出店の田わさねじた時定した上で重Fig.2Electrical potential distribution (2.5mm defect depth).さらに電位分布の極小値つまり最も大きいひずみ が生じている部分の電位と欠陥深さの関係を求めた. シミュレーションで得た電位分布の極小値と欠陥深 さの関係を Fig.4 に示す.実験は複数回行い各回で得 られた値がばらついているため深さごとに平均を取 り欠陥深さとの関係を Fig.5 に示す.実験とシミ ーションの結果はほぼ同様な結果となった.す ち,一定の圧力をかけたとき欠陥の深さが深く につれて最大のひずみが大きくなり電位の極小 - 411 -simulation40-20-40potential(vratio of defect depth)試験片に圧縮荷重をかけた場合,試験片に貼付し た積層した PVDF フィルムの表面電位を測定する ことで減肉状の円管内壁欠陥の位置や開口部の形 状の推定が可能であることがわかった.特に欠陥 が深いほど実験とシミュレーションが近い結果とFig.4 Relation between normalized defect depth and minimum voltage (simulation).Fig.5 Relation between normalized defect depth and averaged minimum voltage (experiment).4.結言本研究で得られた結果は以下の通りである.[3] A. Yamamoto and S. Biwa and E. Matsumoto, “Sizingof Back-Surface Flaws by Piezoelectric Highpolymer Film”, The 3D International Conference of Sensing Technology (ICST2008), in press.1) 試験片に圧縮荷重をかけた場合,試験片に貼付し た積層した PVDF フィルムの表面電位を測定する ことで減肉状の円管内壁欠陥の位置や開口部の形 状の推定が可能であることがわかった.特に欠陥 が深いほど実験とシミュレーションが近い結果と なった.[4] E. Matsumoto and Y. Omoto and K. Iguchi and T.Shibata, “Visualization of strain distribution by piezoelectric thin film”, Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics 18, 2000, pp.305-308.2) 圧縮荷重をかけた場合,減肉の深さに比例して電 位分布の極小値が低くなることを示した. この結 果から電位分布を測定することにより減肉の深 さが推定できる可能性があることがわかった.参考文献[1] 勝見圭介、 琵琶志朗、 松本英治、 柴田俊忍、“ 高分子圧電フィルムを用いた静的ひずみ分布 の測定(測定原理および円孔付平板に対する検 討)”、 日本機械学会論文集、Vol.64A,No.617、 1998、 pp.215-220.[2] 知識淳悟、 駒米勇二、 松本英治、“ 積層した 高分子圧電フィルムによる背面欠陥の形状の推 定”、 日本 AEM 学会誌、 Vol.10, No.4、 2002、 pp.372-377. 勝見圭介、 琵琶志朗、 松本英治、 柴田俊忍、 “ 高分子圧電フィルムを用いた静的ひずみ分布 の測定(測定原理および円孔付平板に対する検 討)”、 日本機械学会論文集、 Vol.64A,No.617、experiment10,20 3040 506070-20-40potential(V)~120ratio of defect depth(%)- 412 -“ “高分子圧電フィルムを用いた円管内壁欠陥の測定とシミュレーション“ “髙橋 俊文,Toshibumi TAKAHASHI,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)