非線形識別手法による回転機音響監視の高度化

公開日:
カテゴリ: 第6回
1. 緒言
新検査プログラムの開始に伴って、状態監視保全 (CBM)の役割はますます大きくなってくる。その際、 振動、温度、油分析といういわゆる3種の神器による 詳細な機器状態の監視手法が焦点となっているが、そ れを補完する活動として、パトロールなどでの音響を 用いた遠隔からの俯瞰的な監視も重要であろう。この 音響による監視は運転員の経験に基づく定性的判断で もあり、その客観化・定量化が可能であれば、より精 度のよい状態監視に寄与できることになる。しかしな がら、遠隔・非接触で計測される音響情報は、複雑な 音響伝播過程を経て、変調・劣化した形で計測される ため、診断に際しての障害となることがしばしばある。 このため、このため、本来の機器状態に関する情報を ・抽出・定量化するための高度な信号処理技術の導入が 欠かせないと考える。
このような背景から、著者は、各種の信号処理法を 組み合わせた音響信号の自動分類問題に取り組んでき た。[1-3] そこでは、音響信号を用いた異常監視性能 は、信号の前処理手法(特徴抽出法)や状態分類手法 に大きく依存し、これらをうまく組み合わせることで 大きく異常検出感度を向上できることが明らかにされ ている。一方で、機器の運転状態や運転環境に依存し て、計測信号の表面的な形が異なってくるため、環境 変化に影響されないロバストな状態監視手法も重要で あることが指摘されている。これらの研究の継続として、本稿では対象とする音 響データベースをさらに拡充し、新たな信号前処理法(特徴抽出法)と状態識別法(分類法)を組み合わせ た監視手法を提案する。さらに、これらの手法の適切 な組み合わせによって、高感度でロバストな異常監視 が可能なことを示す。特徴抽出法では、音声認識分野 での信号処理法であるケプストラム解析などの利用を 試みている。また、状態識別法では、従来提案してき た確率ニューラルネットワーク(PAN) [4] の他に、 Support Vector Data Description(SVDD)[5]を導入し、両者 の識別性能の比較を行った。これらは、1クラス分類 問題として、正常状態のみのデータから識別クラスを 構成し、外れ値(Outlier)や特異値(Novelty)を検出 するという問題を扱っており、今回のような異常監視 問題に適している手法といえる。著者は前報[1-3]で転がり軸受け異常模擬試験装置を 用いて計測したデータでの検証結果を報告しているが、 本報では、同様の試験装置を用いて新たに音響データ の計測を行い、前記の状態識別法の性能評価を行った。 2. 信号処理手法 2.1 特徴抽出法 * 音響信号を用いた状態識別に際しての特徴抽出法と しては、多くの場合、周波数分析により得られる自己 パワースペクトル密度(APSD)が用いられる。類似の 研究分野である音声信号処理分野では、音声認識 (Speech Recognition) や話者認識 (Speaker Recognition) のための特徴抽出として、人間の心理的な認知特性を 反映して、APSD の振幅や周波数を対数変換した特徴 量や、対数 APSD の逆フーリエ変換により求めるケプ ストラムのような特徴量が用いられ、認識性能はこれ
徴量とする。このとき、特徴空間での相関関数はMml染により、16385 次元C ==> x(m):x(m)* いて に点については らの特徴抽出法に大きく依存するといわれている。本 研究では、これらの研究を参考に、以下の特徴抽出法 を用いる。 (a) **APSD(log-APSD)今回の試験では、音響データを 48kHzサンプリング で収集している。一方、今回用いる試験用回転機の基 本周波数が 1400RPM(23Hz)であることを考慮して、 32768 点単位でフーリエ変換すると、△f=1.5Hz分解 能での APSD が得られる。しかしながら、特徴空間の 次元が 16385 次元となり、そのまま識別に用いるには 次元数が大きくなりすぎる問題があり、何らかの次元 縮約の工夫が必要である。振幅軸に関しては、人間の 値獲得性を考慮して対数変換をして利用した。 (b) メルスケール APSD(Melscalse-APSD)メルスケールの周波数軸は、人間の知覚特性を考慮 したスケールとしていくつかの定義が音声認識の分野 でなされているが、ここでは、下記の変換を用いた。m=1127xlog (1+ -今回の場合、このスケール変換により、16385 次元 を 512 次元に縮約して用いている。振幅については、 前項と同様に対数変換して用いる。 (C) ケプストラム(Cepstrum)ケプストラムは、音声認識でよく用いられる特徴抽 出法であるが、音声の観測周波数スペクトル X(w)が、 音源の周波数特性G(w) と声道の周波数特性H(w)の 積で与えられることを考慮し、振幅の対数変換の逆 フーリエ変換として下記のように定義される。c(7) = F''log|X(0) = F log|G(0)\ + F 'log|H(0) (2) ここで、ではケフレンシ(quefrency)と呼ばれるイ ンデクスであるが、これの低ケフレンシ側、即ち、 低次元側のケプストラムは、対数スペクトルの包絡 線に対応しており、微細構造を持つ音源のスペクト ルではなく、声道の伝達特性、即ち、発音に対応す るため、音声認識の精度が向上するとされている。 本稿では、このケプストラムの低ケフレンシ側の 512 点を特徴量として用いる。 (d) 包絡波形の APSD(Overall-APSD) - 回転機の診断では、加速度信号を包絡処理し、その 周波数変換により求めた overall-APSD をしばしば用い る。転がり軸受けでは、基本回転周期 N とその高調波が異常原因の推定に役立つ。この高調波は、軸受け内 の傷の内外輪やボールの接触により発生するため、内 外輪やボールのサイズで与えられから数に関係して与 えられる。この高調波を精度よく求めるため、48kHz サンプリングの生データを、50 点単位で包絡処理し、 そのフーリエ変換により APSD を求めた。この APSD の最大周波数は 480Hz であり、前述の回転機の基本周 波数 23Hz の 20 倍までをカバーしている。 2.2 次元縮約前記の特徴ベクトルは、生波形に比べると大きく時 限が縮約されているが、それでも、512-16835 の大きな 次元となる。この空間での状態識別も可能であるが、 ここでは、状態の可視化のためにいくつかの次元縮約 法を提案する。ここでは、可視化の容易さを考慮して、 2次元空間への縮約で状態の分離可能性を議論する。 (a) 主成分分析による縮約 . 特徴量の次元を IP、学習データとして与えられるサ ンプル数を M として、ta(i,m)、i=1,IP、m=1,M) を特 徴量とする。このとき、特徴空間での相関関数は1MT=2x(m) xm)で与えられ、この固有値解析により IP 個の固有値と固 有ベクトル V を求めることが出来る。このとき、M個 の特徴ベクトルの、k 番目の固有ベクトルへの射影値 (主成分スコア値)はz, (m) = V().x(m)-4となる。主成分分析による方法では、IP 個の固有ベク トルから選んだ少数個(K 次元)の射影データ zx(m)、 (k=1,K)を特徴ベクトルとする。さらに、この中から識 別性能の最も良い二つの固有ベクトルを選ぶことで、 二次元空間での状態表示を行う。 (D) 非線形主成分分析 (KPCA)による縮約Kernel PCA(KPCA)[6]は、主成分分析の非線形空間へ の拡張である。ここでは、x→p(x)という非線形変換を 考えが、この変換関数 P(x)を明示的に定義せず、その 内積のみをカーネル関数として定義する。本報告では、 下記の Gaussian Kernel を用いている。K(x, xj) =< P(x)) P(x,) >= exp(202 )このカーネル空間での相関関数は、(3)式の代わりに、KCA, E) < P(x) -@Cs) >= exp(-..-)このカーネル空間での相関関数は、(3)式の代わりに、424、 > (mal,M)rr-6下記のように定義される。で--< p(x.) (x)) > この固有ベクトルを V とすると、このV は、M 個の非 線形空間でのデータ(s(m))で張られる空間にあるこ とから、次の関係式が成り立つ。 _=< (xm) TV > (m = 1, M) v = 20p(x)m%3D1ここで定義した M 次元ベクトルa は、(5) (7)式より、Μλα = Κα を満たすので、この固有値解析によって固有ベクトル Vが得られる。データ xの非線形空間での値(x)の、k 番目の固有ベクトルへの射影値は、以下のように計算 できる。2. =< 1 ) . (x) >= 20ml““ aw(x,) (x> (9)n%3D1これが、(4)式に相当するカーネル空間でのスコア値で ある。従って、前節と同様の手続きで2次元のスコア 値を選ぶことで状態の可視化が可能になる。線形の主 成分分析では、固有ベクトルの数が、データの属性値 の次元 IP を超えられないが、KPCAでは、学習データ 数 M まで可能になる。例えば、入力となる特徴ベクト ルが2次元の場合、主成分分析では、二つのスコア値 しか求まらないが、KPCA では、データ数に応じたス コア値を求めることができ、より詳細な状態識別が可 能になる。 (c) Heuristic Search による次元縮約 2.1 節で定義した多次元の特徴ベクトルから、任意の2 軸を選ぶことで、二次元空間での状態可視化ができる。 この 2 軸を、E、F, としたとき、選択した空間での正 常データと異常データの間の Maharanobis 距離を用い て、以下のような評価尺度を定義する。C(F,F)= Dra(F,F)-Dow(FF)-DA(F,F) (10) ここで、DNA(F; FF) は Maharanobis 距離で以下のよ うに定義される。 DA(F, F) = (u_u) - ANI) (2) + END) '(WSD-40)DM(F, F) = (us*2 UNI) (2 ) + 2,' (u880-407)(11) “N' と'A' は、それぞれ、正常と異常のインデクスであり、学習データとして、運転状態の異なる複数 の正常、異常クラスのデータが準備されていること を仮定している。山ととは、それぞれ、各状態の平 均と分散を示す。この(10)式は、特徴空間内で、正 常と異常状態が離れており、また、正常状態同士、 異常状態同士の距離が小さいほど大きくなる。 (10)式を最大化するインデクス(L,j)を見つけること で、運転状態に左右されず、正常と異常のみを識別 する最適な観測量を求めることができる。この最大 化は、500 次元程度の特徴空間から二つのパラメー タを捜すのであれば、全ての組み合わせを探索でき るが、これ以上の次元となると、全組み合わせ探索 は困難となるため、本研究では、Particle Swarm Optimization(PSO)も利用している。これは、ランダ ム探索に近い手法で、必ずしも、最適な解が獲られ ない場合もあるが、大きな空間内で比較的良い結果 が安定して得られる。 2.3 状態識別 - 統計的識別法の多くは、音声認識や文字認識のよう に、学習データとして準備された複数の既知のクラス のどれに該当するかを識別する多クラス分類問題とし て扱われている。一方、今回対象としているような異 常監視では、正常時のデータしかない場合が多く、そ こからの有意な偏差(特異値)を識別するという1ク ラス分類問題として扱う必要がある。場合によって、 少数の異常データの蓄積がある場合、それを用いた識 別アルゴリズムの改良も可能である。ここでは、1 ク ラス分類問題の 2 つの手法の適用を試みその性能を比 較する。 (a) 確率ニューラルネットワーク(PNN)による識別PAN は混合ガウス分布の確率密度関数を識別関数と するもので、以下で定義される[5]。ここで、x, は、j グループに属する(i=1,n)個の特徴ベクトルであり、 平滑化パラメータ oを用いたガウス関数の和で次式の ように識別関数を計算する。> explf(x)=_1_13 [(x-x.ru(2no2)““, 日202200」この確率が、ある閾値以下かどうかで、特徴パターン xがグループ G; に属するかどうかを判断できる。 (b) SVDD による識別 SVDD は、1クラス分類問題として利用されてい る [5] 。本論文で対象としているような異常監視425R,a,5の場合、通常は、正常時のデータしか観測されな いことが多く、そこからの有意な偏差(特異値) を検出することが必要とされる。このための方法 として、特徴空間における正常クラスのデータを 全て包絡する球体を求める方法がある。 N 個の正 * 常データを x, (i=1, 1) 、球体の中心を a、半径をR としたとき、下記の関数を最小化することで最 小の球体(中心a 、半径 ) が得られる。 min R2 + C25(13) st. (x, - a) (x, -a) < R2 + 5,5, 2 0, (i = 1,..N) ここで、球体からの多少のはずれを許容するため スラック変数と」を導入しており、係数 C は、許 容の程度を制御するトレードオフパラメータで ある。これを具体的に解くために、制約条件を考 慮した双対問題に変換するが、これが、特徴ベク トルの内積だけで構成されていることを利用し、 SVDD では、(6) 式のカーネル関数を用いたカーネ ル空間での次字形核問題による最適化を行う。 minara, K(x, x)) - Ea,K(x, x, )(14) st. Osa, sc,Ea, = 1,得られた解のうち、a=0 に対応する x, は球体の 内部に存在し、0
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)