(6)オンラインメンテナンスの手法と評価

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
2009年1月から施行された新たな検査制度において は、事業者は、保全の有効性評価を行い、「適切な時期 に、適切な方法で」保守するための保全方式の見直し や、プラントごとの特性に応じた最適な保全活動を実 施することで、原子力の安全をより一層向上させるこ とが期待されている。また、運転中の状態監視を活用した保全活動などに より運転中と停止中の保全活動を平準化させ、良質な 技術者の確保や被ばくの低減などを図り、保全の信頼 性をさらに高めることも期待されている。今回の検査制度の改正において、適用可能な新技術 を用いた運転中の検査が義務付けられたが、運転中の 機器の状態監視の積極的な導入により、異常の兆候を 早期に検知することが可能となり、トラブルの低減に つながると考えられている。このため、事業者の保全活動として、運転中保全へ の積極的な取り組みが求められているが、LCO 対象機 器について、現状では保安規定審査内規において予防 保全の実施が「やむを得ない」場合に限られているこ とが制約となっている。現在、原子炉安全小委員会運転管理WGにて、運転 中保全のために単一系統を待機除外した状態の安全性 などについて審議が進められている。本研究では、運転中保全の計画策定手法について検 討を行うとともに、計画の策定及びその妥当性の評価 についてシミュレーションを行い、手法の有効性を検 証する。
2. 運転中保全の実施状況我が国においては、現在、安全最優先を大前提に、 運転中保全として巡回点検、定例試験等の日常点検、 プラント停止前の点検・検査等を実施している。Fig.1 に米国と我が国の保全タスク数の割合を示すが、 我が国では、運転中 20%、停止中 80%であり、定期検 査期間中に保全作業が集中していることがわかる。米国と比較して、我が国において停止中の保全割合 が高いのは、関連法規の違いにもよるが、例えば我が 国では劣化モードの時間依存性、偶発性に関わらず定 期的な分解点検を基調とした時間基準保全が多く適用 されているのに対して、米国では状態基準保全が主流 となっていることによるものと思われる。こうした状況に対しては、総合資源エネルギー調査 会原子力安全・保安部会の「検査の在り方に関する検 討会」において、定期的な分解点検を過度に行うこと が、設備の信頼性低下の要因になりうるという指摘が なされ、運転中の機器の状態監視の導入など、運転中 保全への積極的な取組みが期待されている。【米国】【日本】(関西電力の例)運転中の日常保全」 一人(巡回点検、定例試験等)0.080.12運転中の待機除外に よる保全 (定検前の先行実施等)運転中の日常保全 停止中の保全 (巡回点検、定例試験等) 27% 29%停止中の保全 運転中の待機除外80% による保全0.44Fig.1Ratio of Maintenance Tasks (at Present)3. 運転中保全の計画策定手法運転中保全の計画策定手法は、その目的に応じて多種 多様であるが、例えば、米国においては約 12 週間前から 準備を進めて、1週間毎に系統構成を変更して計画、実施、 評価するプロセスが主流となっている。一方、我が国では前章でも述べたように関連法規の違 いもあり、米国と運転中保全の実施状況が異なっており、 必ずしも米国の事例を直接我が国に適用できるものでは ない。そこで、本研究では、米国の事例を参考にしつつも我 が国の実態に合わせた計画策定手法の1つとして、以下 のとおり手法を検討した。3.1 手法の概要原子力発電施設に対し、運転中保全を実施するに当た っての具体的な手順について検討した。運転中保全を実施する手順として、「計画策定前の初期 設定」、「計画の策定」、「計画の妥当性評価」といったプ ロセスを Fig.2 ([1])に示し、以下に解説する。--初期設定1「 運転中保全実施対象設備の選定---隔離範囲の設定-------隔離範囲の運転中保全作業時間の検討-----初期設定 の見直し-------隔離範囲に対する プラント安全性評価-----ーーーーー・?施工程計画実施作業計画是正計画の是正運転中保全実施の事前準備実施Yes予期しない トラブル発生No 運転中保全の実施評価の運転中保全の妥当性評価「計画の是正」が必要「初期設定の見直し」・「計画の一是正」必要性の検討「初期設定の見直し」が必要Fig.2 Procedure of OLM Program PlanningFig.23.2 計画策定前の初期設定* まず、計画の策定前に整理しておく必要のある基礎デ ータを、以下の通り初期設定する。1運転中保全実施可能設備の選定まず、原子力発電施設のうち運転中保全の実施が可能 な設備を選定する必要がある。下記の選定基準により、運転中に保全を実施可能な設 備を選定するフローを Fig.3 ([1]) に示す。【運転中保全実施可能設備の選定基準】 ・設備が原子炉格納容器外にある。 ・設備を隔離しても発電停止に至らない。 ・設備を隔離しても定格出力の維持が可能である。原子力発電施設Yes高放射線、高温・高圧環境 下にある(労働安全性)NoYes設備の隔離により 発電停止に至るしNoYes設備の隔離により、 定格出力の維持が できないNoYes設備がLCO対象。INONo運転中保全が現行においても、「保安規定の変更後、 運転中保全が可能 1 運転中保全が可能Fig.3Flow of Selecting the Facilities that can be got the maintenance by OLM2隔離範囲の設定と保全タスク及び作業量の整理 1. 次に、Fig.3 にてスクリーニングした結果を、Fig.5 ([1]) にて系統図上に明示するため、運転中保全が可能な設備 については、下記の方法により、隔離範囲を設定する。その上で、Fig.4で示す隔離範囲内の機器を抽出し、各 機器に対する保全タスクとその作業量を整理する。【隔離範囲の設定方法】 ・発電継続、被ばく、作業員安全、及び環境への影響を考慮する。 ・隔離範囲の境界は原則手動弁とする。 ・運転中保全実施後の設備の機能試験を考慮する。48LCO対象機器に 1 対する隔離範囲運転中保全が困難LCO対象外機器に 対する隔離範囲Fig.4Example of Identification for the Isolation Sphere at OLM (RHR System)3複数機器を同時に待機除外した時のリスクレベル評価LCO 対象機器の運転中保全を計画する際には、複数の 機器を同時に待機除外した時のリスクレベルを予め評価 しておく必要がある。そのため、リスクマトリクスを作 成し、機器の組合せに応じた炉心損傷確率の増分 (ICCDP :待機除外時間には AOT を使用)を整理する。ここで、2機器を同時に待機除外した場合のリスクレ ベルを整理したリスクマトリクスの例をFig.5 に示す。な お、リスクレベルについては、米国での ICCDP 許容基準 5E-07 との比較において表示した。* 典非常用炉心冷却系 AOT3D10日 高圧注入系 第52条原子炉格機冷却海水系 AOT:10日原子炉補機冷却水系 AOT%3D10日 第73条ディーゼル発電機 AOT = 10日復水タンク AOT:7日6ADEコー・ト潤滑油および始助用空気 AOT%3D348時間非常用直流電源AOT%3D10日 第82条第81条非常用炉心冷却系 原子炉格納容器スプレイ系 AOT:10日 低圧注入系 | AOT%3D10日 第52条 AOT10日 補助給水系」第71条 原子炉格納容器スフレイボンフ「第64条子炉格納容器スプレイポンプロ | 余熱除去ポンプA 余熱除去ポンプB 電動補助給水ポンプA 電動補助給水ポンプB リタービン動補助給水ポンプ高圧注入ポンプA高圧注入ポンプB]jp/G-A燃料貯蔵タンク jccwクーラム jp.a-B燃料貯蔵タンク jp/-A起動空気だめ JCCWP-A 10/0-B起動空気だめ JCCW-B CCWP-BCCWP-C ACCWP-DSWP-A SWP-E SWP-C/G-A jp/G-B水ヒット充電器3 予充電器ーメンテナンス 「高圧注入ポンプ 高圧注入ポンプ日熱除去ポンプの余熱除去ポンプ 原子炉格納容器スプレイポンプA 原子炉格納容器スプレイポンファ電動補助給水ポンプA電動補助給水ポンプ日 タービン動補助給水ポンプ]植水ビット CCWP-A CCWP-BL CCWクーラASCCWP-CL CCWP-D CCWクーラSWP-AL SWP-B1 SWP-C D/G-AD・C-B ICCDP:5×10'以上D/C-A料貯蔵タンク ICCDP:5×10''未満D/G-B燃料貯蔵タンク ICCDP:5×10““未満DIG-A起動空気だめき ■保安規定上、同時の待機除外は手動停止の対象となると考えられるD/C-日記空気だめし」充電器 充電 予備充電器Fig.5 Risk Matrix Preparations3.3 計画策定の手順- 計画の策定にあたっては、被ばく低減、リスク抑制、 力量を備えた作業員の確保、作業輻輳の回避、作業負荷 の平準化等多くの考慮事項があるが、ここでは、リスク 抑制を前提に作業負荷の平準化が図れていることを評価 できる計画策定の手順について検討した。(ステップ1) 運転中保全実施サイクルの定義 ・ 運転中保全実施サイクルとして、運転サイクル、OLM サイクル、OLM 実施単位期間による構成を Fig.6 ([1]) のとおり定義する。ここで、OLM 実施 単位期間とは、個々の保全作業を実施するために 同一の系統構成を維持する期間のことをいう。運転サイクルOLM サイクル ,OLM サイクル ,OLM サイクル .OLM サイクル |OLM 実施単位期間 || OLM 実施単位期間 |<>------ ----- <>-----<>----Fig. 6 OLM Program Cycle(ステップ2) OLM サイクルの雛形工程の策定 ・Fig.5 のリスクマトリクスで許容される組合せの範囲 内で、すべての LCO 対象機器の保全作業を1つの OLM サイクルで計画する。この過程で、複数の LCO 対象機器を同時に待機除外する場合の最大リスクを 制限値以下に抑える。(Fig.7) ([1]) ・同時に待機除外する LCO 対象機器の組合せは数多く 存在するが、リスクが最も低く抑えられるように考 慮する。| OLM 実施単位期間 0 :実施計画OLM サイクル | 期間) | 期間2 | ...」 期間2 |隔離範囲(主要機器) ,DA-SIP2B-SIPLCO対象機器3 A-RHRP19A-EDG|2(ICCDP)20B-EDGリスク| 3.65E-08 | 5.65E-080.0000000149制限値リスク期間 OLM サイクル雛形工程 Fig.7 Modeling Image of OLM Cycle4913.4 計画の妥当性評価(ステップ3) OLM サイクルから運転サイクルへの展開。 ・OLM サイクル雛形工程における期間iの実施計画を 他の OLM サイクルの期間 i に分散配置することで、 運転サイクル全体に計画を展開する。これにより、 各 OLM 実施単位期間のリスクはステップ2で評価 した最大リスク以下となる。 ・運転サイクルへの展開にあたっては、LCO 対象外機 器の保全作業も含めて、運転サイクルを通して作業 負荷平準化が図れるように考慮する。(Fig.8) ([1])運転中保全計画の妥当性を評価するための指標を設定 する。ここでは、計画策定の考慮事項であるリスク抑制 を前提に作業負荷の平準化が図れていることを評価する 指標として、「作業負荷平準化指標」と「リスク指標」の 2つを設定する。OLM実施単位期間作業負荷平準化指標(TVI: Task Volume Index)( TV max ? TV min) /TVmax TVmax : 1日あたりの最大作業者数TVhin : 1日あたりの最小作業者数 ※作業負荷平準化の進行度合いを 0~1 の間で数値化。 0に近い程、平準化が進んでいることを示す。0:実施計画運転サイクル| OLM サイクルのOLM サイクル2 | ... || OLM 実施単位期間0:実施計画運転サイクルOLM サイクルON OLM サイクル21A-SIP...|0|||...2B-SIPLCO対象機器3A-RHRPOLM サイクル雛形工程の実施計画 を運転サイクル全体に展開19 A-EDG20B-EDGTT21A-CVP運転サイクルを通して、作業負荷 平準化が図れるように考慮士CO対象外機器40 s/Cリスク ロコ ...制限値 -リスク...一口...期間目標?作業量作業量 |h ...| .|.期間運転サイクル工程」Fig. 8 Deployment Image of OLM Program CycleFig.9 Task Volume Supposition with OLM Introducing- 50 - 運転中保全計画の妥当性を評価するための指標を設定 する。ここでは、計画策定の考慮事項であるリスク抑制 を前提に作業負荷の平準化が図れていることを評価する 指標として、「作業負荷平準化指標」と「リスク指標」の 2つを設定する。 作業負荷平準化指標(TVI: Task Volume Index) = ( TV max ? TV min) /TVmaxTVmax : 1日あたりの最大作業者数TVin : 1日あたりの最小作業者数 ※作業負荷平準化の進行度合いを 0~1 の間で数行 リスク指標(ACDEPEAK、ACDF vc)ACDEPEAK:炉心損傷頻度の増分最大値 ACDFAvG :炉心損傷頻度の増分平均値 ※各々の保全作業で機器を待機除外する場合のリスク 上昇度合いとして、炉心損傷頻度の増分の最大値及 び平均値を数値化。 ※各々の保全作業で機器を待機除外する場合のリスク 上昇度合いとして、炉心損傷頻度の増分の最大値及 び平均値を数値化。4. 運転中保全計画策定シミュレーション本研究では、3章で示した手法を用いて、PWR モデル プラントを対象に2種類のシミュレーションを実施し、 手法の有効性を検証した。○発電所全体での作業負荷平準化シミュレーション運転中に実施可能な作業を定検中から運転中に段階的 にシフトした場合、発電所全体における作業負荷平準化 の進行度合いについてシミュレーションを実施した。そ の結果を Fig.9 に示す。 ・ 運転中に実施可能な作業を定検中から運転中に段階的 にシフトした場合、発電所全体における作業負荷平準化 の進行度合いについてシミュレーションを実施した。そ の結果を Fig.9に示す。運転中保全拡充後の作業負荷想定運転中シフト前 LCO対象外機器のみ運転中にシフト ーLCO対象機器も含めて運転中にシフト」作者(人)muuuuuuuuuLuLuLuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuumH22111H231H2AMHEIH261H271Haa1ここで、運転中保全の適用範囲を拡大することにより、15. 結言 運転中シフト前」: TVI%3D0.533 LCO 対象外機器のみ運転中にシフト :TVI=0.4021) 運転中保全計画策定手法として、リスクを抑制しつつ LCO 対象機器も含めて運転中にシフト:TVI=0.323作業負荷の平準化を実現する手法を提示した。ここで、運転中保全の適用範囲を拡大することにより、5.結言運転中シフト前1 :TVI%3D0.533 LCO対象外機器のみ運転中にシフト :TVI=0.402 LCO 対象機器も含めて運転中にシフト:TVI=0.323と指標が改善され、作業負荷平準化が進行することを定 量的に確認した。1) 運転中保全計画策定手法として、リスクを抑制しつつ作業負荷の平準化を実現する手法を提示した。 2) PWR モデルプラントを対象に、運転中保全計画の策定、 その妥当性評価のシミュレーションを行い、本手法の 有効性を確認した。 3) 被ばく低減など計画策定の考慮事項で、今回検討しなかったものについては、今後評価すべき事項であり、 引き続き我が国の実態に合わせた手法の開発に取り 組んで参りたい。2LCO 対象系統でのリスク評価シミュレーション以下の LCO 対象系統の各機器を対象に運転中保全計 画を策定し、リスク評価シミュレーションを実施した。参考文献・ 余熱除去系統安全注入系統 原子炉格納容器スプレイ系統 ・ 安全補機室冷却系統補助給水系統 ・ 原子炉補機冷却水系統原子炉補機冷却海水系統 ・ 非常用ディーゼル発電機設備[1]PWR 電力共同研究「OLM 導入による最適保全計画の 立案手法に関する研究」このシミュレーションでは、許容待機除外時間 (AOT) 内での作業という条件で運転中保全の計画を策定した。リスク評価結果を Fig.10 ([1])に示す。 * このシミュレーションでは、許容待機除外時間 (AOIT 内での作業という条件で運転中保全の計画を策定した。 (CDF)0.000001CDFAVG * 1.6E-070.00000088_60.000000640.00000040.00000020OLM サイクル運転サイクルベース CDF 約 1.2E-07(期間)- 作業負荷の平準化を実現する手法を提示した。 2) PWR モデルプラントを対象に、運転中保全計画の策定、 引き続き我が国の実態に合わせた手法の開発に取りロスといったい、- 51 -“ “?オンラインメンテナンスの手法と評価 ~ 保全計画策定手法の開発とシミュレーション結果 ~“ “千種 直樹,Naoki CHIGUSA
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