αホットセル排気弁の運転中保全手法の確立
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
大洗研究開発センターの照射燃料集合体試験施設 (以下、FMF)は、高速増殖炉の高性能燃料の開発 を目的として、原子炉で照射された燃料要素の様々な 研究をするための核燃料物質使用施設(以下、使用施 設)である。 使用施設では、非密封のプルトニウムやウランなど の核燃料物質の漏えいや作業員の放射線障害を防止 するために、放射線の遮蔽、密封、負圧保持といった 閉じ込め機能を有する気密型ホットセルやグローブ ボックスを設置し、その中で核燃料物質を取り扱う。
FMFでは、原子炉で照射された燃料要素(ウランと プルトニウムの混合酸化物燃料等) の破壊試験を実施 するため、a核種を取り扱う気密型ホットセル(a ホ ットセル)を有している。このaホットセルでは、セル内の負圧を保持するた めに使用している機器などの補修は、核燃料物質の漏 えいを防止し、作業員の被ばく低減に考慮しながら行 う必要がある。本報では、FMFで確立した a ホットセルの核燃料 物質の閉じ込め機能を維持(a ホットセルを運転)し た状態で負圧を調整する排気弁を更新する方法につ いて報告する。2. ホットセルの概要 (1) 当該 a ホットセルの構造と放射線環境FMFの当該a ホットセルでは、照射された燃料/ レットの金相組織観察を行っている。
a ホットセルは、外郭に厚さ 350mmの放射線遮へ い用の鋼板構造を有し、その内部に燃料ピンの切断、 研磨等の試料調整を行うエリアと調整した試料の光 学顕微鏡観察や各種分析を行うエリアの2つに区分 されたステンレスライニング密閉構造である。 - 大きさは、縦 1.7m、横 4.5m、奥行き 1.7mであ る。aホットセルの概略構造図を図1に示す。 - 金相組織観察のための作業や試験機器のメンテナ ンスの際、作業員は、マニプレータ(マジックハンド) を用いて、a ホットセル内の試験機器を遠隔で操作する。金相組織観察等を行っている時の a ホットセル内 部の放射線環境は、放射性核分裂生成物であるセシウ ム 137 等による B-y空間線量当量率は 50mSv/ h以上であり、人が立ち入れる状況ではない。一方で、 aホットセルの外部(操作室)は、前記の a ホットセ ルの閉じ込め機能により、汚染密度及び空間線量当量 率ともにバッググラントレベルであり、作業員の安全 な環境が確保されている。人の体マニプレータa ホットセル・350mm遮へい窓ステンレスライニング A操作室図1 aホットセルの概略構造図(2) a ホットセルの運転条件プルトニウムは、体内に摂取すると高い毒性を示す ことから、a ホットセルで非密封の核燃料物質を取り 扱うにあたっては、以下の条件を満足するように運転 し、核燃料物質の閉じ込め機能を維持(以下、運転条 件の維持)している。 1気密性を保つこと基本性能として1時間につき 0.1セル体積%以下 (負圧 400Pa時)の漏えい率を有し、aホットセル 内への試験資材等の出し入れの際にも内部の雰囲 気が操作室に漏れることのないこと。 2負圧を保持すること原子炉等規制法に基づくFMFの核燃料物質使 用施設等保安規定に従い、a ホットセルの内部の気 圧を操作室に対して常時に負圧に保持すること。負 圧は、400Paを目標に調整している。 一方で、a ホットセルの本体や負圧等を保持するた めの機器の定期点検や修理改造にあたっては、同セル 内の核燃料物質を他の a ホットセルに移動し、汚染の 拡大を防止する入念な除染を行うなどの保安上の措 置(以下、核燃料物質の漏えい防止措置)を予め施し てから前途の運転条件(気密や負圧)を解除する。(3) a ホットセルの負圧保持システム a ホットセルの給排気系統の概略図を図2に示す。窒素系自動制御弁(V-5)窒素系給気~[空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)文 DOP測定口 DOP測定口 (上流側) (下流側)トート定検用系統図2 aホットセル給排気系概略図窒素系給気へ空気系給気排気系統は、鋼管、排気自動制御弁、排気フィルタ (高性能エアフィルタ)、排風機等で構成される。aホットセルの内部は、給気系統の弁を固定で給気 量を一定とし、排気自動制御弁をPID制御すること で排気量を調整し、操作室に対して常時 400Pa程度 の負圧に保持される。 _aホットセルは、試験の目的に応じて内部を窒素雰 囲気に置換するため、給気系統、排気系統ともに空気 系と窒素系の配管と弁を有している。また、排気系統は、定常の試験操作時に使用する定 常系統と定常系統の定期点検時に使用する定検用系 統の2つの系統がある。-485、定常系統も定検用系統も、負圧の調整はa ホットセ ル内の雰囲気に応じて空気系又は窒素系の排気自動 制御弁により行う。(4) 負圧を保持する機器を補修する際の制約 aホットセルの負圧を調整する機器である空気系又 は窒素系の排気自動制御弁を取り外すと、排気配管が 大気開放され運転条件が維持(負圧が保持)できなく なる(図2参照)ことから、核燃料物質の漏えい防止 措置を予め施さなければならない。3. 排気自動制御弁の更新方法の検討 - a ホットセルは昭和53年 12月にホット運転を開始 し、平成15年度まで約25年間連続して運転してきた。 この間、排気系統の排気自動制御弁は、圧縮空気によ る弁駆動部などの弁本体外部の部品の定期的な交換 や作動試験による機能確認を行ってきたが、経年化に より弁本体内部のシール部のゴムの磨耗や変形など が懸念され、作動不良に至ると運転条件の維持(負圧 の保持)が困難となるため更新を検討した。 (1) 負圧の解除を伴う更新方法前項の通り、a ホットセルの負圧を調整する排気自 動制御弁の更新は、負圧を完全に解除することになる ことから、核燃料物質の漏えい防止措置が必要となる。除染は、マニプレータによる遠隔方式により、作業 員が a ホットセル内に入れる放射線環境(空間線量当 量率 5mSv/h程度)まで粗除染した後に、作業員 が防護服を装着して同セル内部に入域し、核燃料物質 が容易に飛散しないレベルまで入念に行うためコス トがかかる他、外部被ばくの低減化、内部被ばく及び 身体汚染防止といった作業安全管理の難易度も高い。 ・ そこで、除染に必要なコストを含めて排気自動制御 弁の更新に必要な期間、予算、発生する放射性廃棄物 量を見積もった。見積もりの結果を表1(負圧を解除 した場合)に示す。表1の通り、負圧を安全に解除するための除染を伴 ったa ホットセルの排気自動制御弁の更新には、長期の作業期間と莫大な予算、除染に伴う大量の放射性廃 棄物の発生が見込まれた。(2) 新しい更新方法の検討次に、作業期間の短縮とコスト低減を目的に、a ホ ットセルの運転条件の維持(負圧の保持)を前提とし た排気自動制御弁の更新手法を検討した。 - a ホットセルの負圧を保持しながら排気自動制御 弁の更新を行うためには、既設の排気系統とは別な排 気系統を確保する必要がある。検討の結果、既設の排 気系統の排気フィルタ筐体前後に設置されている排 気フィルタ捕集効率測定(DOP)用配管に着目した。 このDOP測定口(上流側) バルブに仮設排気配管を 敷設して定検用排気系統に接続し、既設排気フィルタ 上流側の弁を閉止することで a ホットセルの負圧の 保持を可能としつつ、排気自動制御弁の更新を行う方 法を考案した。 仮設排気配管の系統概略図を図3に示す。座素系自動制御井(V-5)窒素系給気[空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)空気無en ~ 11/lomotel 17 | R 1R - canDOP測定口 (上流側)DOP測定口 (下流側):既存配管系統 ...............10.1:仮設配管系統1定検用系統仮設フィルタ品検用系統図3 仮設配管の系統概略図窒素系給気へ空気系給気へこの負圧を保持しながら行う排気自動制御弁の新 しい更新方法により、核燃料物質の漏えい防止措置が 他のa ホットセルへの核燃料物質の移動とマニプレ ータでの遠隔方式による簡易的な a ホットセル内の 除染で済み、作業員が a ホットセル内に入域して行う 入念な除染が不要となるため作業期間やコストの大 幅な低減が可能となる。表1(負圧保持をした場合)に示す通り、この新し い更新方法により、作業期間が 1/3、コストが 60%、 廃棄物が約 1/4 に削減でき、研究への影響も最小限486にできることが分った。また、作業員が a ホットセル内に入域して行う入念 な除染が不要となったことで、作業に係る被ばく量も 1/100 程度低減でき、作業の安全性の飛躍的な向上 も見込める。従って、排気自動制御弁の更新方法は、運転条件の 維持(負圧の保持)を前提とした方法とした。表1 補修方法の比較負圧を解除した場合 | 負圧維持をした場合作業期間約 12 ヶ月約4ヶ月コスト約1億円約4千万円発生廃棄物約5.5m2約1.5m研究への影響「大中被ばく量約10mSv/total約 0.1mSv/total(3) 今後の保守性を改善にするための対策の検討 図1に示すように、a ホットセルには排気自動制御弁 が窒素系と空気系の2台が設けられているが、各々の 排気自動制御弁の前後に排気配管を遮断するための 閉止弁が設けられていない。閉止弁を設置すれば、補 修が必要となった方の排気自動制御弁の前後を閉止 し、他方の排気自動制御弁によりa ホットセルの負圧 を保持することができるため、将来的にも容易に a ホ ットセルの運転条件を維持した状態での保守が可能 となる。これにより、次回の更新では、仮設排気配管 そのものが不要となる。 - よって、排気自動制御弁の更新に際し、空気系統及 び窒素系統の排気自動制御弁の今後の保守性を改善 にするための対策も含める方針とした。 改善後の給排気系統外略図を図4に示す。窒素系自動制御井(V-5)w『東京~品窒素系給気W空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)空気系給気~Iホットセル」LXL定常系統」DOP測定ロ DOP測定口 (上流側) (下流側)Xト>定検用系統図4 改良後の配管系統概略図4. 排気自動制御弁の更新作業 (1)仮設排気配管の敷設と負圧の調整aホットセル排気フィルタ上流側に設けられてい るDOP測定口(上流側)のバルブに 25Aの仮設排 気配管を接続した。DOP測定口(上流側)から排気 すると既設の排気フィルタを介さない系統となり、排 風機等への汚染拡大が懸念されることから、仮設排気 配管の系統にも高性能エアフィルタを設けた。仮設排 気配管は、a ホットセル用とは別の定検用排気系統に 接続した。負圧の調整は、DOP測定口の配管径は25Aであ り、既設の排気系統の配管径(150A)に比べて細く 排気流量が減少して負圧が浅くなる可能性があった ため、給気系統の手動バルブにより給気量を調整し、 更に、DOP測定口のバルブ開閉により排気量の調整 を行うことで、仮設排気配管の系統でもa ホットセル 内の負圧は 400Pa に保持した。(2) 排気の切り替え * 排気の切り替えは、予め仮設排気配管の系統と既設 の排気系統により並行して排気し、負圧を調整しなが らいずれかの系統の元バルブ(仮設排気配管の系統は DOP測定口(上流側)の弁、既設の排気系統は排気 フィルタ上流側の弁)を閉止することで排気の切り替 え中もaホットセルの負圧を保持した。(3) 排気自動制御弁の更新と閉止弁の設置 - 高さ約5mの高所に設置されていた空気系統排気 自動制御弁は、更新後の保守性を考慮して、作業員が 床から手が届く位置に変更した。487排気自動制御弁を排気配管からの遮断し、今後の保 守性を改善にするための前後閉止弁の取り付け位置 も、同様に作業員が床から手が届く位置とした。これ らに伴って、既設の排気系統の配管の取り回しも一部 変更した。排気自動制御弁の更新及び閉止弁の設置にあたっ ては、原子炉等規制法に基づく核燃料物質使用施設の 施設検査を受検した。(4)被ばく及び汚染対策排気自動制御弁の表面線量当量率はバックグラウ ンドレベルであり、外部被ばくによる放射線障害につ いてはそれ程考慮を要する状況ではなかった。しかし、 排気配管や排気自動制御弁の内面に拡散し易い高い 密度の汚染を想定し、作業員の内部被ばくと汚染拡大 防止対策に留意した。 * 作業員の防護相装備は、全面マスク、タイベックス ーツ、ゴム手袋等を着用して内部被ばくと身体汚染防 止を図った。 1. 汚染対策は、更新する排気自動制御弁の近傍を難燃 性の透明酢酸ビニルシートを用いてグリーンハウス (仮設の仕切り部屋)を設置し、周囲から隔離すると ともに、タイベックスーツを同ハウス内で脱装し、身 体汚染検査を行ったのちに操作室に退出するなどし て、操作室への汚染拡大を防止した。 ・ また、排気自動制御弁を排気配管から切り離す際に は、弁のフランジ接続部分をビニルシートで覆うなど して汚染拡大を防止した。(5) 更新作業の結果上記により、平成 16 年 11月から翌 17年2月に かけて a ホットセルの核燃料物質の閉じ込め機能を 維持(aホットセルを運転)した状態で排気自動制御 弁の更新作業をトラブル無く実施し、原子炉等規制法 に基づく核燃料物質使用施設の施設検査に合格し、作 業を完遂した。 適切なタイミングで予防保全したことにより、施設の安全性に影響を与えることなく、保安確保できた。また、核燃料物質の漏えい防止措置を伴う運転条件 を解除した手法に比べ、作業期間が 1/3、コストが 60%、廃棄物発生量が約 1/4 に削減でき、作業に係 る被ばく量も 1/100 以下まで低減し、研究への影響 も最小限に止めることができた。5. 排気弁の運転中保全手法確立の効果DOP測定配管は、a ホットセルの排気をろ過する 高性能エアフィルタの筐体に捕集性能の測定のため に必ず設けられていることから、今回、FMFで確立 した同測定配管を活用して負圧を保持し、a ホットセ ルの運転条件を維持した状態で排気自動制御弁など の機器の保全を行う手法は、同様な a ホットセルの機 器の保全に適用可能である。また、a ホットセルの運転条件を解除(負圧の解除) するための作業員による入念な除染作業は危険度も 高く、それを不要とできる本手法は、作業期間、コス ト、廃棄物発生量、作業安全管理において非常に優れ ている。6.結言 - FMFにおいて、a ホットセルの運転条件を維持し ながら、安全、かつ効率的に排気自動制御弁等の機器 を更新する手法を確立した。本手法により、a ホットセル内の入念な除染を伴う 運転条件を解除した手法に比べ、作業期間が 1/3、 コストが 60%、廃棄物発生量が約 1/4 に削減でき、 作業に係る被ばく量も 1/100 以下まで低減できた。今後も施設の保安確保のために、有効な保全手法 の改善に努める。488“ “?ホットセル排気弁の運転中保全手法の確立“ “水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,櫛田 尚也,Naoya KUSHIDA
大洗研究開発センターの照射燃料集合体試験施設 (以下、FMF)は、高速増殖炉の高性能燃料の開発 を目的として、原子炉で照射された燃料要素の様々な 研究をするための核燃料物質使用施設(以下、使用施 設)である。 使用施設では、非密封のプルトニウムやウランなど の核燃料物質の漏えいや作業員の放射線障害を防止 するために、放射線の遮蔽、密封、負圧保持といった 閉じ込め機能を有する気密型ホットセルやグローブ ボックスを設置し、その中で核燃料物質を取り扱う。
FMFでは、原子炉で照射された燃料要素(ウランと プルトニウムの混合酸化物燃料等) の破壊試験を実施 するため、a核種を取り扱う気密型ホットセル(a ホ ットセル)を有している。このaホットセルでは、セル内の負圧を保持するた めに使用している機器などの補修は、核燃料物質の漏 えいを防止し、作業員の被ばく低減に考慮しながら行 う必要がある。本報では、FMFで確立した a ホットセルの核燃料 物質の閉じ込め機能を維持(a ホットセルを運転)し た状態で負圧を調整する排気弁を更新する方法につ いて報告する。2. ホットセルの概要 (1) 当該 a ホットセルの構造と放射線環境FMFの当該a ホットセルでは、照射された燃料/ レットの金相組織観察を行っている。
a ホットセルは、外郭に厚さ 350mmの放射線遮へ い用の鋼板構造を有し、その内部に燃料ピンの切断、 研磨等の試料調整を行うエリアと調整した試料の光 学顕微鏡観察や各種分析を行うエリアの2つに区分 されたステンレスライニング密閉構造である。 - 大きさは、縦 1.7m、横 4.5m、奥行き 1.7mであ る。aホットセルの概略構造図を図1に示す。 - 金相組織観察のための作業や試験機器のメンテナ ンスの際、作業員は、マニプレータ(マジックハンド) を用いて、a ホットセル内の試験機器を遠隔で操作する。金相組織観察等を行っている時の a ホットセル内 部の放射線環境は、放射性核分裂生成物であるセシウ ム 137 等による B-y空間線量当量率は 50mSv/ h以上であり、人が立ち入れる状況ではない。一方で、 aホットセルの外部(操作室)は、前記の a ホットセ ルの閉じ込め機能により、汚染密度及び空間線量当量 率ともにバッググラントレベルであり、作業員の安全 な環境が確保されている。人の体マニプレータa ホットセル・350mm遮へい窓ステンレスライニング A操作室図1 aホットセルの概略構造図(2) a ホットセルの運転条件プルトニウムは、体内に摂取すると高い毒性を示す ことから、a ホットセルで非密封の核燃料物質を取り 扱うにあたっては、以下の条件を満足するように運転 し、核燃料物質の閉じ込め機能を維持(以下、運転条 件の維持)している。 1気密性を保つこと基本性能として1時間につき 0.1セル体積%以下 (負圧 400Pa時)の漏えい率を有し、aホットセル 内への試験資材等の出し入れの際にも内部の雰囲 気が操作室に漏れることのないこと。 2負圧を保持すること原子炉等規制法に基づくFMFの核燃料物質使 用施設等保安規定に従い、a ホットセルの内部の気 圧を操作室に対して常時に負圧に保持すること。負 圧は、400Paを目標に調整している。 一方で、a ホットセルの本体や負圧等を保持するた めの機器の定期点検や修理改造にあたっては、同セル 内の核燃料物質を他の a ホットセルに移動し、汚染の 拡大を防止する入念な除染を行うなどの保安上の措 置(以下、核燃料物質の漏えい防止措置)を予め施し てから前途の運転条件(気密や負圧)を解除する。(3) a ホットセルの負圧保持システム a ホットセルの給排気系統の概略図を図2に示す。窒素系自動制御弁(V-5)窒素系給気~[空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)文 DOP測定口 DOP測定口 (上流側) (下流側)トート定検用系統図2 aホットセル給排気系概略図窒素系給気へ空気系給気排気系統は、鋼管、排気自動制御弁、排気フィルタ (高性能エアフィルタ)、排風機等で構成される。aホットセルの内部は、給気系統の弁を固定で給気 量を一定とし、排気自動制御弁をPID制御すること で排気量を調整し、操作室に対して常時 400Pa程度 の負圧に保持される。 _aホットセルは、試験の目的に応じて内部を窒素雰 囲気に置換するため、給気系統、排気系統ともに空気 系と窒素系の配管と弁を有している。また、排気系統は、定常の試験操作時に使用する定 常系統と定常系統の定期点検時に使用する定検用系 統の2つの系統がある。-485、定常系統も定検用系統も、負圧の調整はa ホットセ ル内の雰囲気に応じて空気系又は窒素系の排気自動 制御弁により行う。(4) 負圧を保持する機器を補修する際の制約 aホットセルの負圧を調整する機器である空気系又 は窒素系の排気自動制御弁を取り外すと、排気配管が 大気開放され運転条件が維持(負圧が保持)できなく なる(図2参照)ことから、核燃料物質の漏えい防止 措置を予め施さなければならない。3. 排気自動制御弁の更新方法の検討 - a ホットセルは昭和53年 12月にホット運転を開始 し、平成15年度まで約25年間連続して運転してきた。 この間、排気系統の排気自動制御弁は、圧縮空気によ る弁駆動部などの弁本体外部の部品の定期的な交換 や作動試験による機能確認を行ってきたが、経年化に より弁本体内部のシール部のゴムの磨耗や変形など が懸念され、作動不良に至ると運転条件の維持(負圧 の保持)が困難となるため更新を検討した。 (1) 負圧の解除を伴う更新方法前項の通り、a ホットセルの負圧を調整する排気自 動制御弁の更新は、負圧を完全に解除することになる ことから、核燃料物質の漏えい防止措置が必要となる。除染は、マニプレータによる遠隔方式により、作業 員が a ホットセル内に入れる放射線環境(空間線量当 量率 5mSv/h程度)まで粗除染した後に、作業員 が防護服を装着して同セル内部に入域し、核燃料物質 が容易に飛散しないレベルまで入念に行うためコス トがかかる他、外部被ばくの低減化、内部被ばく及び 身体汚染防止といった作業安全管理の難易度も高い。 ・ そこで、除染に必要なコストを含めて排気自動制御 弁の更新に必要な期間、予算、発生する放射性廃棄物 量を見積もった。見積もりの結果を表1(負圧を解除 した場合)に示す。表1の通り、負圧を安全に解除するための除染を伴 ったa ホットセルの排気自動制御弁の更新には、長期の作業期間と莫大な予算、除染に伴う大量の放射性廃 棄物の発生が見込まれた。(2) 新しい更新方法の検討次に、作業期間の短縮とコスト低減を目的に、a ホ ットセルの運転条件の維持(負圧の保持)を前提とし た排気自動制御弁の更新手法を検討した。 - a ホットセルの負圧を保持しながら排気自動制御 弁の更新を行うためには、既設の排気系統とは別な排 気系統を確保する必要がある。検討の結果、既設の排 気系統の排気フィルタ筐体前後に設置されている排 気フィルタ捕集効率測定(DOP)用配管に着目した。 このDOP測定口(上流側) バルブに仮設排気配管を 敷設して定検用排気系統に接続し、既設排気フィルタ 上流側の弁を閉止することで a ホットセルの負圧の 保持を可能としつつ、排気自動制御弁の更新を行う方 法を考案した。 仮設排気配管の系統概略図を図3に示す。座素系自動制御井(V-5)窒素系給気[空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)空気無en ~ 11/lomotel 17 | R 1R - canDOP測定口 (上流側)DOP測定口 (下流側):既存配管系統 ...............10.1:仮設配管系統1定検用系統仮設フィルタ品検用系統図3 仮設配管の系統概略図窒素系給気へ空気系給気へこの負圧を保持しながら行う排気自動制御弁の新 しい更新方法により、核燃料物質の漏えい防止措置が 他のa ホットセルへの核燃料物質の移動とマニプレ ータでの遠隔方式による簡易的な a ホットセル内の 除染で済み、作業員が a ホットセル内に入域して行う 入念な除染が不要となるため作業期間やコストの大 幅な低減が可能となる。表1(負圧保持をした場合)に示す通り、この新し い更新方法により、作業期間が 1/3、コストが 60%、 廃棄物が約 1/4 に削減でき、研究への影響も最小限486にできることが分った。また、作業員が a ホットセル内に入域して行う入念 な除染が不要となったことで、作業に係る被ばく量も 1/100 程度低減でき、作業の安全性の飛躍的な向上 も見込める。従って、排気自動制御弁の更新方法は、運転条件の 維持(負圧の保持)を前提とした方法とした。表1 補修方法の比較負圧を解除した場合 | 負圧維持をした場合作業期間約 12 ヶ月約4ヶ月コスト約1億円約4千万円発生廃棄物約5.5m2約1.5m研究への影響「大中被ばく量約10mSv/total約 0.1mSv/total(3) 今後の保守性を改善にするための対策の検討 図1に示すように、a ホットセルには排気自動制御弁 が窒素系と空気系の2台が設けられているが、各々の 排気自動制御弁の前後に排気配管を遮断するための 閉止弁が設けられていない。閉止弁を設置すれば、補 修が必要となった方の排気自動制御弁の前後を閉止 し、他方の排気自動制御弁によりa ホットセルの負圧 を保持することができるため、将来的にも容易に a ホ ットセルの運転条件を維持した状態での保守が可能 となる。これにより、次回の更新では、仮設排気配管 そのものが不要となる。 - よって、排気自動制御弁の更新に際し、空気系統及 び窒素系統の排気自動制御弁の今後の保守性を改善 にするための対策も含める方針とした。 改善後の給排気系統外略図を図4に示す。窒素系自動制御井(V-5)w『東京~品窒素系給気W空気系自動制御弁 排気フィルタ (V-3)空気系給気~Iホットセル」LXL定常系統」DOP測定ロ DOP測定口 (上流側) (下流側)Xト>定検用系統図4 改良後の配管系統概略図4. 排気自動制御弁の更新作業 (1)仮設排気配管の敷設と負圧の調整aホットセル排気フィルタ上流側に設けられてい るDOP測定口(上流側)のバルブに 25Aの仮設排 気配管を接続した。DOP測定口(上流側)から排気 すると既設の排気フィルタを介さない系統となり、排 風機等への汚染拡大が懸念されることから、仮設排気 配管の系統にも高性能エアフィルタを設けた。仮設排 気配管は、a ホットセル用とは別の定検用排気系統に 接続した。負圧の調整は、DOP測定口の配管径は25Aであ り、既設の排気系統の配管径(150A)に比べて細く 排気流量が減少して負圧が浅くなる可能性があった ため、給気系統の手動バルブにより給気量を調整し、 更に、DOP測定口のバルブ開閉により排気量の調整 を行うことで、仮設排気配管の系統でもa ホットセル 内の負圧は 400Pa に保持した。(2) 排気の切り替え * 排気の切り替えは、予め仮設排気配管の系統と既設 の排気系統により並行して排気し、負圧を調整しなが らいずれかの系統の元バルブ(仮設排気配管の系統は DOP測定口(上流側)の弁、既設の排気系統は排気 フィルタ上流側の弁)を閉止することで排気の切り替 え中もaホットセルの負圧を保持した。(3) 排気自動制御弁の更新と閉止弁の設置 - 高さ約5mの高所に設置されていた空気系統排気 自動制御弁は、更新後の保守性を考慮して、作業員が 床から手が届く位置に変更した。487排気自動制御弁を排気配管からの遮断し、今後の保 守性を改善にするための前後閉止弁の取り付け位置 も、同様に作業員が床から手が届く位置とした。これ らに伴って、既設の排気系統の配管の取り回しも一部 変更した。排気自動制御弁の更新及び閉止弁の設置にあたっ ては、原子炉等規制法に基づく核燃料物質使用施設の 施設検査を受検した。(4)被ばく及び汚染対策排気自動制御弁の表面線量当量率はバックグラウ ンドレベルであり、外部被ばくによる放射線障害につ いてはそれ程考慮を要する状況ではなかった。しかし、 排気配管や排気自動制御弁の内面に拡散し易い高い 密度の汚染を想定し、作業員の内部被ばくと汚染拡大 防止対策に留意した。 * 作業員の防護相装備は、全面マスク、タイベックス ーツ、ゴム手袋等を着用して内部被ばくと身体汚染防 止を図った。 1. 汚染対策は、更新する排気自動制御弁の近傍を難燃 性の透明酢酸ビニルシートを用いてグリーンハウス (仮設の仕切り部屋)を設置し、周囲から隔離すると ともに、タイベックスーツを同ハウス内で脱装し、身 体汚染検査を行ったのちに操作室に退出するなどし て、操作室への汚染拡大を防止した。 ・ また、排気自動制御弁を排気配管から切り離す際に は、弁のフランジ接続部分をビニルシートで覆うなど して汚染拡大を防止した。(5) 更新作業の結果上記により、平成 16 年 11月から翌 17年2月に かけて a ホットセルの核燃料物質の閉じ込め機能を 維持(aホットセルを運転)した状態で排気自動制御 弁の更新作業をトラブル無く実施し、原子炉等規制法 に基づく核燃料物質使用施設の施設検査に合格し、作 業を完遂した。 適切なタイミングで予防保全したことにより、施設の安全性に影響を与えることなく、保安確保できた。また、核燃料物質の漏えい防止措置を伴う運転条件 を解除した手法に比べ、作業期間が 1/3、コストが 60%、廃棄物発生量が約 1/4 に削減でき、作業に係 る被ばく量も 1/100 以下まで低減し、研究への影響 も最小限に止めることができた。5. 排気弁の運転中保全手法確立の効果DOP測定配管は、a ホットセルの排気をろ過する 高性能エアフィルタの筐体に捕集性能の測定のため に必ず設けられていることから、今回、FMFで確立 した同測定配管を活用して負圧を保持し、a ホットセ ルの運転条件を維持した状態で排気自動制御弁など の機器の保全を行う手法は、同様な a ホットセルの機 器の保全に適用可能である。また、a ホットセルの運転条件を解除(負圧の解除) するための作業員による入念な除染作業は危険度も 高く、それを不要とできる本手法は、作業期間、コス ト、廃棄物発生量、作業安全管理において非常に優れ ている。6.結言 - FMFにおいて、a ホットセルの運転条件を維持し ながら、安全、かつ効率的に排気自動制御弁等の機器 を更新する手法を確立した。本手法により、a ホットセル内の入念な除染を伴う 運転条件を解除した手法に比べ、作業期間が 1/3、 コストが 60%、廃棄物発生量が約 1/4 に削減でき、 作業に係る被ばく量も 1/100 以下まで低減できた。今後も施設の保安確保のために、有効な保全手法 の改善に努める。488“ “?ホットセル排気弁の運転中保全手法の確立“ “水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,櫛田 尚也,Naoya KUSHIDA