核燃料物質使用施設の安全評価の取組み(2)―H20 年度の評価結果と保全経験―

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カテゴリ: 第6回
1.緒言
30 年以上経過しており、独自の手法によりこの5施 大洗研究開発センター燃料材料試験部は、高速増殖 設の安全評価を行うとともに、適切な保全に取組んで 炉の燃料及び材料の開発を行う照射後試験施設とプ。 きた。[1] ルトニウム燃料の研究施設の運転管理を行っている。 平成 20 年度は、これら5施設の全ての保安上重要 照射後試験施設は4施設管理しており、照射燃料集合 な設備(計 372 設備)の継続的な安全性を確認し、施 体試験施設(以下、FMF)、照射燃料試験施設(以 設の状態は良好であった。また、安全評価結果に基づ 下、AGF)、照射材料試験施設及び第2照射材料試 き、適切な保全活動を展開し、上記 372 設備のうちの 験施設(以下、あわせてMMF)である。また、プル 38 設備の補修課題を解消して施設の安全を確保して トニウム燃料の研究施設は燃料研究棟(以下、PFR_いる。 F)である。これらの施設は、運転開始からいずれも 本報では、平成 20 年度の各施設の安全評価結果と保全経験の実例を報告する。
施設の安全評価手法[1]の概要について述べる。 e-mail : amagai.tomio@jaea.go.jpウランやプルトニウムなどを扱う核燃料物質使用- 489 - Keywords: safety review, PSR, Performance Indicator, hot laboratory 1.緒言30 年以上経過しており、独自の手法によりこの 5 施 大洗研究開発センター燃料材料試験部は、高速増殖設の安全評価を行うとともに、適切な保全に取組んで ウム燃料の研究施設の運転管理を行っている。連絡先:雨谷富男、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗施設の安全評価手法[1]の概要について述べる。 - 489施設には、核燃料物質を閉じ込め、放射線障害を防止 するための換気設備や廃液設備といった多種多様な 設備が設置されている。施設の安全評価は、これらを含む施設を構成する設 備の継続的な安全性を確認することにより行う。 設備の継続的な安全性は、以下の手順で確認する。 まず、高経年化により設備が故障に至るリスク因子 (本手法では、補修課題として扱う)を摘出する。 その補修課題について 1補修課題の危険度 2性能劣化監視指標(Performance Indicator: PI)の有効性(故障時期の見極めやすさ) 3法令等遵守への影響度 の3つの要因をそれぞれ数値化する。そして、その組み合わせに応じて AA, A, B, B , C, C, D の安全性ランク (7 ランク:表1、表2参 照)に格付けする。施設の安全評価結果は、確認した各設備の安全性ラ ンクがB以上であることをもって良好とする。C又はC ランクの設備は、評価時点では健全に作 動しているため、直ちに核燃料物質使用施設の安全に 影響を及ぼすことはないものの、継続的な安全確保 (予防保全)の観点から、基本的に当該年度の保全業務 に反映して速やかな対応を図る。* 表1 評価要因と安全性ランクとの関係 安全性 「1補修課題」 2PIの 「1法令等遵守 ランク | の危険度 | 有効性 | への影響度 AA | 補修課題なし | 4点以下 | 関連なし。適用可 4点超え 4点~10点 40 点未満」 適用不可抵触なし 1点1点 適用可4点~10点 40 点以上適用不可 1点抵触有り 関連なし7点以上B -表2 安全性ランクの解釈の概要 安全性 ランク解釈の概要保全が完了し、補修課題が解消。継続的な安全性良好。補修課題の危険度 は極めて低い。 継続的な安全性に問題ないが、PIに応 じた保全を要する。 継続的な安全性に問題ないが、早めの保 全を要する。 補修課題の危険度に十分注視し、PIに 応じた早めの保全を要する。 故障時期の見極めが困難なため、早急に 保全を要する。 コンプライアンス上、最優先で速やかな 保全及び必要な通報連絡を要する。2.2 平成 20 年度の安全評価結果 平成 20 年度における5施設それぞれの設備の継続 的な安全性は、FMF が 49 設備、AGFが 79 設備、 MMFが 151 設備、PERFが 93 設備の計 372 設備 を確認し、いずれにもBランク以上であることが確 認できた。継続的な安全性を確認した 372 設備は、5 施設の全ての保安上重要な設備を網羅している。 平成 20 年度の各施設における設備の安全性ランクの 割合を表3に、全5施設を集計した平成 20 年度の安 全性ランクの割合を図1に示す。表3 各施設における設備の安全性ランクの割合 安全性FMF ランクAGF MMF PFRF AA 12.3 39.2 59.6 46.2 * A | 55.1| 3.8 | 11.9 19.4B | 30.6| 55.7 | 26.5 | 34.4 |B| 2.0 1.3| 2.0人 0.0 | | c | 0.0人 0.0人 0.0人 0.0 |0.0人 0.0人 0.0人 0.0 | | D | 0.0人 0.0人 0.0人 0.0 |(単位:%)4900.457B0.014B 35.2%AAA 17.7%図1 全5施設を集計した安全性ランクの割合補修課題改善累積件数施設の安全評価結果は、5 施設ともに施設を構成す 各設備の継続的な安全性が B 以上であり、早めの 全を有する C 及び C ランクや最優先で速やかな保 を要するDランクの設備はなく、良好であった。 - 施設の安全評価結果は、5施設ともに施設を構成す る各設備の継続的な安全性が B 以上であり、早めの 保全を有する C 及び C ランクや最優先で速やかな保 全を要する Dランクの設備はなく、良好であった。62 3 4 5 定期安全評価実施回数図2 補修課題の改善累積件数召1に示す平成 20 年度の全5施設を集計し3.保全経験 13.1 保全計画への反映と適切な保全活動安全の確保のためには、上記の評価に加え、適切な 保全活動の基礎となる保全計画の優先順位付けの信 頼性向上も重要である。そこで、当該設備が故障した 際の影響度(設備機器影響度、最大 1800 点)と、前 途の安全評価で数値化したの補修課題の危険度(最大 100 点)及び2PI の有効性(最大 10 点)から、次式に より総合リスクポイント[1]を算出する。設備機器影響度 = (設備機器影響度/1800+1補 修課題の危険度/100+2PI の有効性の逆数)×100総合リスクポイントは、設備が重要で、補修課題の 危険度が高く、PIの有効性が低い(故障時期が見極 め難い)ほど点数が高く、最大で 300 点となり、高点 数ほど保全優先度が高いことを意味する。この総合リスクポイントに従って信頼性の高い保 全計画を施設毎に策定し、平成 15 年度の試行以来、 安全性ランクが低く、総合リスクポイントが高い設備を中心に予防保全に努めてきた。このような適切な保全活動を展開により、平成 20 年度は5施設合計で 372 設備のうち 38 設備の補修課 題を解消し、本取組みを始めてから累計で110 設備の 予防保全を行ってきた。その他の設備については、PI監視を継続し、的確 な経過措置を施しながら設備を健全に維持している。これまでに補修課題を解消してきた設備 (Bランク も含む)の累積件数(5施設合計)を図2に示す。12011100K■H20年度 日 H19年度 目H18年度 日H17年度 0 H16年度 OH15年度604016°1 2 3 4 5定期安全評価実施回数また、図1に示す平成 20 年度の全5施設を集計し た安全性ランクの割合は、前年度に比べて C ランク が解消されるとともに、A 、B 、Bランクがそれぞ れ約 2%、約 11%、約 1%少なくなり、その分 AA ラン クが約 14%増えている。安全評価結果に基づく適切な 保全活動の効果が認められた。3.2 保全経験の例 平成 20 年度における保全経験の具体例を述べる。 (1) 給気ダンパー駆動シリンダーの更新核燃料物質を使用するグローブボックスは、ステン レス製筐体にアクリル観察窓とネオプレンゴム製の グローブが取り付けられた密閉構造となっている。外 観写真を図3に示す。 また、図4に示すような給気系統と排気系統からな- 491 -る換気設備により、設置室内部の気圧を大気圧よりも 50Pa 程低くし、さらにグローブボックス内部を設置 室の気圧よりも 300Pa程低い負圧状態に保ち、核燃料 物質の漏洩を防止している。設置室とグローブボックスの負圧は、給気ダンパー と排気ダンパーの開度バランスにより一定に調整す る。グローブボックス内の雰囲気は、高性能エアフィ ルタでろ過し、安全に大気に放出する。図3 グローブボックスの外観写真給気系統 →高性能エアフィルタ送風機 給気系統 ⇒非管理区域の 給気ダンパー駆動用圧縮空気 ・・ー・ー・給気ダンパー駆動シリンダー高性能エアフィルタ負庄計グローブ ボックス手動バルブ手動バルブ設置室 (管理区域)駆動用圧縮空気 -排気ダンパー 排気ダンパー駆動シリンダー→ → 排気系統 排風機高性能エアフィルタ図4 グローブボックスの負圧維持系統の概念図給気及び排気ダンパー駆動シリンダーは、それぞれ のダンパーの開度調整を行う役割を果たしているた め、故障すると換気設備が正常に機能せずグローブボ ックスの負圧の保持に重大な影響を与える。ダンパー駆動シリンダーは、ゴム製のダイヤフラム 構造により圧縮空気で作動するため、経年劣化により ダイヤフラムが破損し、作動不能に至る懸念がある。 そこで換気設備のリスク因子(補修課題)の 1 つに給 気及び排気ダンパー駆動シリンダーのダイヤフラム の劣化破損による作動不能(補修課題:同駆動シリン ダーの更新)を摘出した。ダンパー駆動シリンダーの 外観写真を図5に示す。(ダクト内)駆動用圧縮空気の配管驅動ダンパー駆動シリンダー図5 ダンパー駆動シリンダーの外観写真PIには毎日 1 回の給気ダンパーと排気ダンパー の開度バランスの確認と駆動用圧縮空気漏れの聴音 を設定した。このダンパー駆動シリンダーのダイヤフラムの劣 ヒ破損による作動不能をリスク因子とした換気設備 つ継続的な安全性は、1補修課題の危険度:20 点 2PI の有効性:4点1法令等遵守への影響度:1 点 で、安全性ランクはB、継続的な安全性に問題ないが、 I に応じた保全を要するという確認結果となった。 設備機器影響度は 1120 点、総合リスクポイントは 07 点であった。929本件は、予防保全が必要な補修課題であり、設備機 各影響度が高く、安全性ランク B の中では総合リス フポイントが高いため、予備品を予め手配した。設定したPIにより継続監視した結果、給気ダンパ 一駆動シリンダーに極わずかな圧縮空気の吐出音が 検知された。分解点検の結果、ゴム製のダイヤフラムに微細なピ ンホールが認められ、換気設備が作動不良に至る前に 司駆動シリンダーを更新し、補修課題を解消できた。これにより、グローブボックスの負圧は正常に保た て、施設の保安が確保できた。 2)空気圧縮設備のアフタークーラーの更新前記の通り、グローブボックスの負圧の保持には、 圧縮空気を用いる。空気圧縮設備には、蓄圧した空気を除熱するための 水冷式のアフタークーラーが装備されている。図6に空気圧縮設備の概略図とアフタークーラー の外観写真を示す。冷却水No.1アフターアフタークーラー冷却水ストレージタンク|給気圧縮空気の負荷へアフタークーラー圧縮機26 空気圧縮設備の概略図とアフタークーラーの外観写真これまでの運転経験から、10 年程度でアフターク -ラーの外郭のパイプが腐食し、孔食が進行して同パ プの底部に集中してピンホールが生じることが把 できていた。 ピンホールが繋がってクラックに発展ると、著しい冷却水漏れによる流量低下により安全 ■路が作動し、圧縮機が停止して圧縮空気の供給に支 をきたす恐れがあるため、空気圧縮設備のリスク因 -(補修課題)の1つにアフタークーラーの腐食(補修 題:アフタークーラーの更新)を摘出した。 PIには毎日 1 回の外観観察によるピンホールの 見と2年に1回の分解点検による孔食の進行具合の 認を設定した。 このアフタークーラーの腐食をリスク因子とした 気圧縮設備の継続的な安全性は、 1補修課題の危険度:20 点 2PIの有効性:7点3法令等遵守への影響度:1 点 さ、安全性ランクは B、継続的な安全性に問題ないが、 ・I に応じた保全を要するという確認結果となった。 設備機器影響度は 1120 点、総合リスクポイントは ■点であった。 本件は、予防保全が必要な補修課題であり、設備機 影響度が高く、安全性ランク B の中では総合リス ポイントが高いため、予備品を予め手配した。 設定したPIにより継続監視した結果、ピンホール っらの極わずかな冷却水のにじみを発見し、著しい冷 口水漏れによる圧縮機の停止に至る前にアフターク ーラーの更新ができた。これにより圧縮空気は安定し供給され、グローブボックスの負圧は正常に保たれ 二施設の保安が確保できた。.結言 核燃料物質使用施設の特徴を踏まえた独自の手法 よる平成 20 年度の安全評価結果は、FMF、AG 、MMF、PFRFともに施設を構成する各設備の 続的な安全性が B 以上であり、良好であった。 また、安全評価に基づき、保全経験の例に示したよ に適切な保全活動を展開し、平成 20 年度に5施設 計で 38 設備の補修課題を解消し、これまでに累計 110 設備の予防保全を実施して施設の安全を確保 てきた。これにより、平成 20 年度の5施設を集計適切な保全活動が着実に施設の安全確保に寄 た設備の安全性ランクの割合は、前年度に比べてC ンクが解消されるとともにBやBランクが少なく り、一方で補修課題が解消された AA ランクが増え など、適切な保全活動が着実に施設の安全確保に寄 していることが確認できた。 今後も本取組みを継続するとともに、実績を積み重 ながら評価手法等を改善し、施設の安全確保に努め考文献 藤島雅継 他:“核燃料物質使用施設の安全評価 の取組み”日本保全学会第 5 回学術講演会要旨 集、(2008)4“ “核燃料物質使用施設の安全評価の取組み (2)~H20 年度の評価結果と保全経験~“ “雨谷 富男,Tomio AMAGAI,藤島 雅継,Tadatsune FUJISHIMA,水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,坂本 直樹,Naoki SAKAMOTO,大森 雄,Tsuyoshi OHMORI
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