核燃料物質使用施設の安全評価の取組み(3)―高経年化施設の運転管理の改善―

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
数少ない照射後試験施設として各方面から利用さ 大洗研究開発センター燃料材料試験部の核燃料物 れており、今後も有効活用することが期待されている。 質使用施設 (5 施設)では、高速増殖炉の研究開発を そこで燃料材料試験部では、施設の安全確保のために、 中心とした燃料・材料の照射後試験を実施している。 平成 14 年度から自主的な保安活動として施設の安全これらの施設は、いずれも運転開始から 30 年以上 評価に取組むとともに、その評価結果に基づいて適切 経過しているが、非密封核燃料物質を取り扱える に保全活動を展開し、成果を上げてきた。[1]、[2]また、この活動の中では、次の世代を担うにも取組んできた。しかしながら、運転開始当初から在籍してきた熟練した運転要員の世代交代の時期を迎え、施設固有の保全に係る技術・技能の継承等が喫緊の課題となりつつある。さらに、施設や設備の高経年化が進むことにより、相対的に保全の技術的難易度が上がりつつある。このような状況においても施設の安全確保はゆる がせにはできないことから、高経年化によるリスクを 軽減し、将来的な施設の保安確保を目的とした運転管 理の改善に取組む必要が生じている。本報では、その 運転管理の改善の方策について報告する。
2. リスク増加要因の洗い出し
運転管理の改善策の検討に先立ち、各施設の運転・ 保守に熟練した者を主体として、運転管理、人・体制、 施設・設備の経年化、予算の視点から将来的な施設の 安全確保に及ぼす高経年化によるリスク増加の要因 を洗い出した。図1 に洗い出したリスク増加の要因をフィッシュ ボーン形式で示す。図1の中から抽出したリスク増加の支配的な要因 を以下に示す。 (1) 運転管理 1運転管理業務の体系化(企画化)の遅れ 2設計条件、使用条件、通常操作の逸脱時等についての解説や記録の不足 3運転管理の所掌組織の変更等による運転・保守経験や情報の継承の停滞 4施設間での保守経験等の情報共有化の遅れ (2)人・体制 1設備の設計・設置から運転の立ち上げを経験した熟練した運転要員の定年退職等による減少 2熟練した運転要員の減少による知識、技能の低下のおそれ (3) 施設・設備の経年化1想定外の事象(故障)発生のおそれ (4)予算 1予算措置と保全時期のミスマッチのおそれこれらの要因を排除することが、高経年化によるリ スクを軽減し、将来的な施設の保安確保を目的とした 運転管理の更なる改善につながる。3. 運転管理の改善ポイントの整理 運転管理の改善の方策を検討するために、前項で洗 い出した高経年化によるリスク増加の要因から、運転 管理の改善ポイントを整理した。 (1) 運転管理に係わる情報管理の改善各施設共に 30 年以上が経過して、建屋や設備を設 計し、運転の立ち上げを行ってきた熟練した運転要員 が減少する一方で、設備の高経年化により相対的に保 全の技術的難易度が上がるおそれを念頭に、2. (1)2 通常操作の逸脱時等についての解説や記録の不足、 2. (1)3所掌組織の変更等による運転・保守経験や情 報の継承の停滞、2. (1)の施設間での保守経験等の情 報共有化の遅れ、2. (2)1熟練者の減少、2. (2) 2技術 力の低下のおそれを集約し、運転管理に係わる情報管 理の改善を1つ目のポイントとした。これまでの運転管理で培った知識、技能、技術、経 験を目に見える形に整理し、継承するための本ポイン トは、高経年化施設の運転管理の改善の中核をなすも のである。 (2) リスク因子を抽出する仕組みの改善これまで行ってきた施設の安全評価では、まず設備 が故障にいたるリスク因子を運転管理の経験則に基 づいて抽出してきたが、2. (3)1想定外の事象(故障) 発生を防止するためには、今後生じるであろう、潜在 的なリスク因子の洗い出しに力点を変えていくこと が必要となる。すなわち、この潜在的な補修課題を抽 出する仕組みの改善を2つ目のポイントとした。 (3)保全コストの最適化 - 独立行政法人化により成果を求められる一方、合理 化やコスト削減が強く求められる状況下で、安全確保 と保全コストのベストバランスは、非常に難しい課題 となっている。 - 施設の保全を担う立場からは、安全を損なうことな く、適切かつ的確に予算を投入し、2. (4)の予算措置 と保全時期のミスマッチを回避しなければならない。 そこで、安全確保と保全コストのベストバランスを図496るための保全コストの最適化を3つ目のポイントと した。 (4)運転管理業務の体系化(企画化) 1 施設の安全安定運転を限られた経営資源で継続し ていくために、2.(1) 1運転管理業務の体系化(企画 化)の遅れに配慮し、本運転管理の改善にあたって上 記(1) ~ (3) を体系的に関連づけることを4つ目のポ イントとした。4.改善の方策 - 前項で整理した運転管理を改善するためのポイン ト(1)~(4)に対する具体的な方策について述べる。 (1) 運転管理に係わる情報管理の改善の方策 1. 情報管理の改善については、以下の2つの方策を立 案した。 ◎設備毎の運転管理要領等の再整備運転信頼性の向上、適切な操作、通常状態を逸脱 した場合の解説の充実等を狙って、設備毎に運転管 理要領を再整備する。運転管理要領の再整備にあたっては、従来の操作 手順に加えて以下を考慮する。 1)設備毎の設計仕様、機能、シーケンス、運転上 の制約、設置状況等を施工図や電気図面により 確認調査し、その結果を反映する。 2)現行の法や規則、技術情報、品質管理要領等の 新しい知見、情報に照らして設計や操作方法等 が適切であるかどうかを調査確認し、その結果 を反映する。 3)設備毎に状態監視保全基準と時間管理保全基準の明確化を図る。 4) 通常状態を逸脱した場合のトラブルシューティングの充実を図る。 5)通常の操作を誤った場合における設備の挙動等について、できるだけ解説を加える。 6)現状の設備の運用方法等が設計範囲等を逸脱 していないかどうかを確認し、必要に応じて操 作手順や関連する作業マニュアル等を見直す。この設備毎の運転管理要領の再整備は、次の世代 を担う運転要員の育成強化・OJTの場ともなる。 2軽微な保全実績の情報収集方法の改善性能劣化監視指標(Performance Indicator : PI) や 日常点検等に基づき、軽微な補修を行った経験を日 常の保全に生かすために、ローカルネットワークを 活用して各施設からその記録を収集し、データベー スソフトウェアにより一元管理して保守経験の情 報共有を図る。 (2) リスク因子を抽出する仕組みの改善一般には、FMEA (Failure Mode and Effect Analysis) やFTA (Fault Tree Analysis) [3]が広く認知されてい るが、大洗研究開発センターでは作業安全の評価を目 的とした作業リスクアセスメントが導入され、その手 法が現場に根付いていることから、簡便に設備が故障 に至る潜在的なリスク因子を抽出する仕組みとして 応用する。 * 作業リスクアセスメントは、当該作業に潜む危険性 を一定の尺度により数値化し、安全対策の有効性を評 価して作業の実施の可否を判定する手法である。これを応用し、例えば設備を構成するある部品の劣 化の進行(潜在的なリスク因子)を想定し、それにより 設備が故障に至る危険性を数値化して構成部品の重 要性と潜在的なリスク因子の危険性を相対的に比較 できる設備リスクアセスメントの概念を構築する。設備リスクアセスメントにより抽出した潜在的な リスク因子(補修課題)とその対策は、老朽化による これまでに経験の無い事象の発生を可能な限り想定 内とするためのケーススタディとしても活用する。 (3)保全コストの最適化安全確保と保全コストのベストバランスを図り、保 全コストを最適化するために、以下の2つの方策を立 案した。 1設備の保全区分の明確化施設を構成する様々な設備について、保安上の重 要度から予防保全対象設備と、その他の事後保全対 象設備に区分する。497例えば、核燃料物質を安全に閉じ込めるためのホ ットセル内の負圧を維持する給排気設備や停電時 に電源を供給する非常用電源設備などの施設の保 安に直接影響する設備は、予備系統の有無に関わら ず予防保全対象設備とする。一方で、居室の空調設 備など施設の保安に直接影響のない設備について は事後保全設備とする。予防保全対象設備は、これまでと同様に継続的な 安全性の確認対象とし、摘出されたリスク因子(補 修課題) に設定したPIによる性能劣化の監視結果 等に応じて適切に予防保全を図る。事後保全対象設 備は、基本的に故障後に必要に応じて保全する。この保全区分の明確化により、限られた予算を有 効に活用する。 2保全技術の高度化4. (1).1設備毎の運転管理要領等の再整備、同 3)状態監視保全基準と時間管理保全基準の明確化 において、産業界の保全に関する知見や技術を広く 取り入れ、保全技術の高度化を目指す。状態監視保全では、PI の監視技術の向上を図り、 より適切な使用限界の見極めを可能とすることで 保全予算の有効利用と削減を目指す。時間管理保全 では、安全を担保しつつ現行の部品交換間隔等の延 長を図る、また、技術的な根拠に基づいて時間管理 保全を状態監視保全に切り換え、寿命前の適切な時 期に保全するなど、保全作業の効率化と保全間隔の 延長を図り、保全コストの低減につなげる。 (4) 運転管理業務の体系化これまでの運転管理に上記の改善の方策を組み込 み、PDCAサイクルの観点から整理した運転管理業 務の体系を図2に示す。 [Plan] 1合理的に保全を行うために設備を予防保全対象と事後保全対象に区分する。 2予防保全対象設備について、時間管理保全基準と状態監視保全基準を定める。 3トラブルを想定内とするために、予防保全対象設備について設備リスクアセスメントを行い、リス ク因子(補修課題)を洗い出す。 4洗い出したリスク因子のうち、最もリスクが高い ものを補修課題として施設・設備の経年劣化(安 全)の評価手法により、当該設備の継続的な安全 性を確認する。 5既存の作業要領等や2等を取り込んで、設備毎に運転管理要領を整備する。 [Do] 1運転管理要領に基づき、当該設備を運転する 2運転や保守の経験を一元的に管理された仕組みによりデータベース化する。 [Check] 1運転管理要領に基づく運転管理実績について、設計・運用レビューを各施設乗り入れにより行い、 その適切性を確認すると共に改善点を摘出する。 2設備毎の時間管理保全基準と状態監視保全基準の適切性を評価する。 [Action] 1設計・運用レビューに基づき、設備のハードや運 転管理要領を改善する。 2保全コストの最適化を念頭に一般の知見・技術を 取り入れて設備毎の時間管理保全基準の適切化と 状態監視保全基準の高度化を図り、運転管理要領に 反映する。5. 改善の実施予定 - 本運転管理の改善は、基本的に重要度(設備機器影 響度) の高い設備について優先的に運転管理要領の再 整備等を進め、今後5年間で運転管理業務体系のPD CAを一通り回すことを目標として実施する。6.結言 - 平成 14 年度から自主的な保安活動として施設の安 全評価に取組んできた実績を踏まえ、さらに進行する 高経年化に対応すべく、将来的な施設安全確保のため に運転管理の改善の方策を具体化した。498本方策に基づき、着実に運転管理の改善を図り、今 後とも施設の保安確保に努める。日本保全学会第6回学術講演会要旨集、(2009). [3] (財)日本科学技術連盟:“信頼性技法実践講座FMEA・FTA テキスト “, 2000 年度版.参考文献 [1] 藤島雅継 他:“核燃料物質使用施設の安全評価の取組み”日本保全学会第 5 回学術講演会要旨集、(2008). [2] 雨谷富男 他:“核燃料物質使用施設の安全評価の取組み(2) H20 年度の評価結果と保全経験”(3)施設・設備(1)運転管理3 電気・ガス・水のライフライン設備の経年劣化6 保全技術に関する他業種等 との交流4施設間での保守経験等の 情報共有化5運転・保守技術や経験等 の文書化2保全の難易度の高さ3運転管理の所掌組織の変 更等による運転保守経験 や情報の継承1 想定外の事象(故障)発生 →-2 設計条件、使用条件、通常操作の逸脱時等についての解説や記録 → 相対的な保全難易度の上昇1 運転管理業務の体系化 (企画化)高経年化による リスクの増加1予算措置と保全時期の ミスマッチ-1 設備の設計・設置から運転の立ち上げを経験した、熟練した運転要 員の定年退職」2研究開発費と施設の運転 保守費のバランス熟練した運転要員の減少による 知識・技能の伝承3 業務量と体制のアンバランス3予算と運転・保守の質のバランス◎運転・保守要員の高齢化5マニュアル化した作業の 中で起こる想定外事象16 電気・機械系専攻職員の不足| (4)予算| (2)人・体制図1 施設の安全確保に係わるリスク増加の要因- 499 -運転管理入出力、効果 4. (3) 0 1設備の保全区分の4. (2)明確化設備リスクアセスメント (リスク因子を抽出する仕組みの改善)予防保全 対象設備事後保全 対象設備経験の無い事象の ケーススタディ施設・設備の経年劣化(安全)の評価信頼性の高い 保全計画の策定Plan4. (1)1 設備毎の運転管理要領の整備トナー--------既存作業マニュアル等の見直し・設計仕様 ・機能 ・設置状況(電源、他設備との関連等) ・状態監視保全の基準 ・時間管理保全の基準 ・保守履歴等の管理 ・トラブルシューティング運転要員の育成Do運転管理の実施 PIによる状態監視一元化された運転 管理経験の蓄積4. (1)1*設計・運用 レビューCheck4. (1)2(軽微な補修報告の収集)状態監視・時間管理保全の評価設備や運用方法の改善状態監視・時間管理 保全の基準の修正Action一般の知見・技術)4. (3)2 状態監視保全技術の高度化 時間管理保全 の最適化保全コストの最適化おれの人たーCheck( 一般の知見・技術)状態監視保全技術」の高度化 時間管理保全 の最適化保全コストの最適化施設の安全確保図2 高経年化施設の運転管理業務の体系入出力、効果 4. (3) 0 設備の保全区分の明確化予防保全 対象設備事後保全 対象設備経験の無い事象の ケーススタディ信頼性の高い 保全計画の策定既存作業マニュアル等の見直し500“ “?核燃料物質使用施設の安全評価の取組み (3) - 高経年化施設の運転管理の改善方策 - “ “雨谷 富男,Tomio AMAGAI,水越 保貴,Yasutaka MIZUKOSHI,坂本 直樹,Naoki SAKAMOTO,大森 雄,Tsuyoshi OHMORI
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