東海再処理施設における換気設備の負圧監視と保全管理
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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
監視装置と回転機器における保全状況について報告する。 - 東海再処理施設では、施設内部を放射線量、放射性 物質による汚染の恐れの度合いにより、低い順にグリ
2. 再処理施設における換気設備の概要 ーン区域、アンバー区域、レッド区域に区分している。 この区分に応じて、グリーン区域からアンバー区域、 12.1 換気設備の構成 アンバー区域からレッド区域へと空気が流れるように 換気設備の概要を図1に示す。換気設備はブロア、 圧力差を設け、負圧管理を行っている。従って、放射 フィルタ、ダクト等で構成され、施設外から施設内に 性物質を施設内へ閉じ込める観点から、核燃料施設に 空気を取り込む系統は給気系統、この取り込んだ空気 おいて、負圧管理は大変重要である。このため、日常。 を主排気筒より排出する系統は排気系統と区分される。 の負圧監視及び機器故障時の復旧等の保全管理を確立また、区分毎に系統分けされたブロアにより空気の流 するとともに、品質保証活動の推進、合理的かつ効率れを作ることで、施設内が負圧に維持される。さらに、 的な負圧監視、経済性を考慮した保全管理が不可欠で施設入口には給気フィルタ、出口側には排気フィルタが設けられている。これらの機器の構成により、施設 本稿では、東海再処理施設の換気設備において、合 内の負圧は、大気圧を基準として、グリーン区域を 理的かつ効率的な負圧監視を可能とした換気設備集中 -10Pa~-50Pa、アンバー区域を-70Pa~-100Pa、レッド区域を-150Pa~-300Pa の範囲で管理している。ある。- 501 -監視装置と回転機器における保全状況について報告位相法 面児袋圧力差を設け、負圧管理を行っている。従って、放射 性物質を施設内へ閉じ込める観点から、核燃料施設に おいて、負圧管理は大変重要である。このため、日常 の負圧監視及び機器故障時の復旧等の保全管理を確立 するとともに、品質保証活動の推進、合理的かつ効率 的な負圧監視、経済性を考慮した保全管理が不可欠である。本稿では、東海再処理施設の換気設備において、合 理的かつ効率的な負圧監視を可能とした換気設備集中 連絡先:堂村 和幸 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 「日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター | e-mail: domura.kazuyuki@jaea.go.jp取り込む系統は給気系統、この取り込んだ空気」 気筒より排出する系統は排気系統と区分される。 区分毎に系統分けされたブロアにより空気の流 また、区分毎に系統分けされたブロアにより空 れを作ることで、施設内が負圧に維持される。さ 施設入口には給気フィルタ、出口側には排気フ が設けられている。これらの機器の構成により 内の負圧は、大気圧を基準として、グリーン - 501 -アンバー系ブロア (C1~C4)主排気筒給気ブロア(A1, A2)そんな排気フィルタ 給気フィルタ | 洗浄塔※1HO 入気・プー※2レッド1系プロア (D1~D3)同品回回回回回給気系統レッド2系ブロア (E1~E3)槽類換気系統よの国※1グリーン区域シー 負圧値(-10Pa?-50Pa)※2アンバー区域 負圧値(-70Pa~-100Pa)グリーン系ブロア イ(B1,B2)凡例コダクト 排気系統----予備系統 |※3レッド区域 負圧値(-150Pa~-300Pa)図1 換気設備概要2.2 停電及び機器故障時の負圧維持機能 - 換気設備は、負圧を確保するため、通年安定した運 転を行う必要がある。しかし、動的機器であるブロア は、運転中に停電または突発的な機器故障により、負 圧の確保に影響を及ぼす可能性がある。このため、東 海再処理施設の換気設備は、施設停電または突発的な 機器故障を想定した以下の制御機構により、負圧が確 保される。(1) 非常用発電機から給電された場合停電が発生した場合、所内に設置された非常用発 電機により給電が行われる。この非常用発電機は給 電容量に限度があることから、安全上重要な機器等 にのみ給電がされる。ブロアは、停電発生と同時に 一旦全停止した後、非常用発電機から給電されると 備えられた制御機構により、常用の運転台数から負 圧を確保するために必要となる運転台数に減少し、 汚染の恐れの度合が高い区域の系統に設置されたブ ロアから順に、自動的に起動する。図2に非常用発 電機からブロアに給電された際のアンバー区域等の 負圧トレンドの一例を示す。この図では、停電発生 後に非常用発電機が運転され、制御機構によるブロ アの順次起動に約 130 秒を要している。しかし、ブ ロアの順次起動の間において、負圧は OPa 近くまで 変動するが、負圧は確保されている。180160_停電発生、非常用発電機運転・・アンバー区域の負圧 グリーン区域の 負圧140負圧(Pa)ブロワ起動時間約130秒306090120150180時間(sec)図2 非常用発電機から給電時の負圧トレンド(2) ブロワが故障停止した場合ブロアは、予備機を含め複数台設置されており、 常用のブロアに故障が発生した際には、自動で予備 機に切り替わる。図3に、レッド系のブロア1台を 意図的に故障停止させた際のアンバー区域等の負圧 トレンドの一例を示す。この図では、負圧はレッド 系ブロアの故障停止から制御機構による予備機起動 までの約 15 秒間においても、最大約 50Pa の変動は あるものの、負圧は確保されている。アンバー区域 の負圧 グリーン区域 の負圧負圧(Pa)レッド系ブロア1台故障約15秒レッド系ブロア予備機起動-105020 30 40 -測定時間(sec) 図3 ブロア1台故障時の負圧トレンド103.負圧管理3.1 換気設備集中監視装置の導入東海再処理施設では、1977 年のホット運転開始 時に負圧管理を要した施設は 6 施設であったが、 現在では 22 施設に増加している。各施設には換気 設備用の制御盤が設置され、換気設備の運転及び 監視を行っている。しかし、施設ごとに換気設備 の運転管理を専門とする運転員(以下「運転員とい う」)を確保するには限度がある。また、通常時の負 圧は、自動制御により安定的に確保されている。502従って、施設ごとに運転員を常駐させる必要がな いことなどから、合理的かつ効率的に負圧監視を 行うため、運転員が一箇所に常駐し、複数の施設 の負圧を監視する換気設備集中監視装置を 1991年 に導入した。図 4 に換気設備集中監視装置のシステム概要を 示す。この図で示す通り、換気設備集中監視装置は、 各施設の負圧状況を一括で集中監視するため、各施 設の制御盤上の情報をコンピュータに取り込み表 示するシステムである。データ収納歴運転員室制御盤排風機運転信号 負圧警報 圧力信号など各施設の制御室換氣設備集中監視裝置プロア伝差圧計アンバー 区域アンバー 区域区城間 再処理施設内の各施設図4 換気設備集中監視装置のシステム概要3.2 換気設備集中監視装置の機能 - 換気設備集中監視装置は、負圧管理に必要な機能を 装備している。図5に機能の一つである換気設備集中 監視装置による負圧トレンドを示す。 A 線はアンバー 区域が安定した負圧状態である。 B 線は、グリーン区 域の負圧であり、±10Pa の範囲で変動が生じている。 これは、B 線の負圧は、屋外とグリーン区域の差圧を 計測しており、屋外に設置された負圧計用ノズルが風 の影響を受けるためである。また、その他の機能とし ては、異常を知らせる警報機能、ブロアの運転及び停 止表示機能などが装備されている。負Pa)00:00 12:00 4:00 16:00 08:00 10:00時刻 図5換気設備集中監視装置による負圧トレンドA:アンバー区域の負圧 B:グリーン区域の負E4. 換気設備の保全管理東海再処理施設では、機器の信頼性を確保するため、 保全の計画 (Plan) 、保全の実施 (Do)、保全の評価 (Check)、保全の改善(Action) の PDCA サイクルを品質 保証に取り入れ、保全の最適化を考慮した活動が求め られている。具体的に、保全の最適化を図るための要 素は、以下の3つであると考えている。 (1) 異常兆候の早期検知 (2)故障後の早期復旧 (3) 保全データの管理と反映4.1 異常兆候の早期検知図6にブロアの構成を示す。ブロアは、軸受の故障、 V ベルトの損傷、モータ故障等により、機能が低下ま たは停止する可能性がある。このため、東海再処理施 設では、日常的に行う巡視点検及び監視に加え、1回/ 年の頻度で定期的なブロアの精密点検を行っている。 また、過去の保全実績データの分析により、回転機器 類の故障は約 90%が軸受の不具合によるものであり、 その原因の約96%が潤滑不良であることが分かってい る)。そこで、軸受の潤滑状態を把握するため、ショ ックパルス法による診断装置を導入している。この診 断装置は、内部に軸受情報が入力されており、自動的 に軸受診断判定が行われる。図7に、ショックパルス 法による軸受診断判定の概要を示す。この図は、縦軸 に LR値(Low rate of occurrence Range:単位時間当たり の発生数が少なく強いパルス)と HR 値(High rate of occurrence Range: 単位時間当たりの発生数が多く弱い パルス)の差による軸受軌道面の損傷度合、横軸に HR503値による油膜形成の度合を表している。また「良好」、 「注意」等の軸受状態を表す領域を示している。ショッ クパルス法を用いた診断装置では、LR 値、HR 値が表示 され、また軸受状態の領域に相当するレベル(a、b, c) が表示される「21。本診断装置により軸受管理を行った 結果、1 年間の軸受故障の平均発生率が導入前の 9.17 ×10(件/個)に対し、導入後は 2.86 × 10(件/個)と約 1/3 に低減した。ケーケーシングプーリ側軸受 シャフト反プーリ側軸受LANVベルトレール 羽根車一反プーリ側軸受ブロア本体 電動機 プーリー図6 ブロアの構成コトコイル プーリ側軸受-----LRH4---HRAR-HR) 値[B]ショックパルス警戒:c注意:b良好:aHR ( [dB]強 図7 ショックパルス法による軸受診断判定の概要4.2 故障後の早期復旧 - 東海再処理施設では、ブロアを構成する部品の交換 及び異常発生時の原因調査など、復旧に関する作業を 社内で実施することを前提としている。これは、メー カへの外注の際の手続きから復旧までに要する時間を、 可能な限り短縮するためである。このような故障後の 早期復旧を図るため、予備品の確保、要領書の整備、 教育による技術力の向上を進めてきた。その結果、こ れまで外注の場合、1 ヶ月程度を要していた作業が、 社内で作業を行うことにより1週間以内での復旧が可 能となった。4.3 保全データの管理と反映保全の PDCA サイクルを確立するためには、最新の知 見と、これまでの保全実績の反映が重要である。この ため、東海再処理施設では、換気設備に限らず施設設 備の保全実績を収集するシステムとして、1985 年に設備保全管理支援システム TORMASS(Tokai Reprocessing Plant Maintenance Support System)を導入した。本システ ムは、施設設備の保全履歴、点検・検査の周期管理、 図面類等の登録ができ、現在までに施設設備の情報と して約 24,000 件、保全実績データとして約 261,000 件 のデータを入力している「31。TORMASS に入力されたデータは、確率的安全評価、 故障発生率の算出、信頼性評価、高経年化対策・評価 等を行う際の貴重な財産であり、これらの各評価結果 は保全作業へ反映している。TORMASS データ活用の 例として、図8に各系統のブロアの故障分布を示す。 この図は、25年間のブロアの偶発的な故障を対象とし、 故障履歴から累積ハザード法により、縦軸に累積ハザ ード値 H(、横軸に故障発生時間 (hr)をとり、グリー ン系統等の各系統のブロアにおける故障の分布を表し たものである4リ。図 8 から、ブロアは設置した系統、 容量等の形式に関係なく、ほぼ同じ傾向を示しており、 約 100,000 時間前後に故障が分布している。また、こ の図から形状パレメータ(m)*を求めると 2~4 の値と なり、1 より大きいことから、劣化故障によるものと 推定でき、この時期でのブロアの保全作業の必要性を 定量的に示している。 ※ 形状パラメータ(m):分布の形状を表す m>1:故障率が時間とともに減少する、初期故障。 m=1:故障率が時間によって変化しない。 m<1:故障率が時間とともに増加する、劣化故障。101(エイト」グリーン系ブア ▲ 給気系プロアアンバー系プロアレッド2系プロア ロレッド1系プロア ーアンバー系 ーレッド1系 ー - 給気系 ー・レッド2系グリーン系0.10.01100001000001.E+06 時間(h) 図8 各系統ブロアの故障分布5. 結言東海再処理施設では、これまで定期的に機器の分解 整備を行う時間基準保全が主流であったが、前述した 換気設備集中監視装置、ショックパルス法による診断 装置の導入、さらには技術員の資質向上による機器故504 -障時の早期復旧、TORMASS の活用により、状態監視保 全への移行が進んでいる。状態監視保全への移行によ り、適切な時期に状況に応じた保全が可能となり、ま たコストが低減化され、保全活動の最適化が着実に進 障時の早期復旧、TORMASS の活用により、状態監視保 全への移行が進んでいる。状態監視保全への移行によ り、適切な時期に状況に応じた保全が可能となり、ま たコストが低減化され、保全活動の最適化が着実に進 んでいる。参考文献 [1] 鋤柄 光二他「東海再処理施設 30 年の歩みと今後の展望 -保全技術管理支援システムの運用-」日本原子力学会(2006年秋の大会) [2] 竹内 謙二他「東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 II -ショックパルス法による設備診断-」日本保全学会(2008 年) [3] 清水 和幸他「東海再処理施設における設備保全管理支援システム(TORMASS)の開発」日本保全学会(2008年) [4] 堂村 和幸他「東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 I -回転機器構成部品の故障解析-」日本保全学会(2008年) 鋤柄 光二他「東海再処理施設 30 年の歩みと今後 の展望 -保全技術管理支援システムの運用-」日 本原子力学会(2006 年秋の大会) 竹内 謙二他「東海再処理施設における回転機器類 の保全技術開発 I -ショックパルス法による設備 堂村 和幸他「東海再処理施設における回転機器類 の保全技術開発 I -回転機器構成部品の故障解析 ―」日本保全学会(2008年)- 505 -“ “東海再処理施設における換気設備の負圧監視と保全管理“ “堂村 和幸,Kazuyuki DOMURA,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,福有 義裕,Yoshihiro FUKUARI,伊波 慎一,Shinichi INAMI
監視装置と回転機器における保全状況について報告する。 - 東海再処理施設では、施設内部を放射線量、放射性 物質による汚染の恐れの度合いにより、低い順にグリ
2. 再処理施設における換気設備の概要 ーン区域、アンバー区域、レッド区域に区分している。 この区分に応じて、グリーン区域からアンバー区域、 12.1 換気設備の構成 アンバー区域からレッド区域へと空気が流れるように 換気設備の概要を図1に示す。換気設備はブロア、 圧力差を設け、負圧管理を行っている。従って、放射 フィルタ、ダクト等で構成され、施設外から施設内に 性物質を施設内へ閉じ込める観点から、核燃料施設に 空気を取り込む系統は給気系統、この取り込んだ空気 おいて、負圧管理は大変重要である。このため、日常。 を主排気筒より排出する系統は排気系統と区分される。 の負圧監視及び機器故障時の復旧等の保全管理を確立また、区分毎に系統分けされたブロアにより空気の流 するとともに、品質保証活動の推進、合理的かつ効率れを作ることで、施設内が負圧に維持される。さらに、 的な負圧監視、経済性を考慮した保全管理が不可欠で施設入口には給気フィルタ、出口側には排気フィルタが設けられている。これらの機器の構成により、施設 本稿では、東海再処理施設の換気設備において、合 内の負圧は、大気圧を基準として、グリーン区域を 理的かつ効率的な負圧監視を可能とした換気設備集中 -10Pa~-50Pa、アンバー区域を-70Pa~-100Pa、レッド区域を-150Pa~-300Pa の範囲で管理している。ある。- 501 -監視装置と回転機器における保全状況について報告位相法 面児袋圧力差を設け、負圧管理を行っている。従って、放射 性物質を施設内へ閉じ込める観点から、核燃料施設に おいて、負圧管理は大変重要である。このため、日常 の負圧監視及び機器故障時の復旧等の保全管理を確立 するとともに、品質保証活動の推進、合理的かつ効率 的な負圧監視、経済性を考慮した保全管理が不可欠である。本稿では、東海再処理施設の換気設備において、合 理的かつ効率的な負圧監視を可能とした換気設備集中 連絡先:堂村 和幸 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 「日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター | e-mail: domura.kazuyuki@jaea.go.jp取り込む系統は給気系統、この取り込んだ空気」 気筒より排出する系統は排気系統と区分される。 区分毎に系統分けされたブロアにより空気の流 また、区分毎に系統分けされたブロアにより空 れを作ることで、施設内が負圧に維持される。さ 施設入口には給気フィルタ、出口側には排気フ が設けられている。これらの機器の構成により 内の負圧は、大気圧を基準として、グリーン - 501 -アンバー系ブロア (C1~C4)主排気筒給気ブロア(A1, A2)そんな排気フィルタ 給気フィルタ | 洗浄塔※1HO 入気・プー※2レッド1系プロア (D1~D3)同品回回回回回給気系統レッド2系ブロア (E1~E3)槽類換気系統よの国※1グリーン区域シー 負圧値(-10Pa?-50Pa)※2アンバー区域 負圧値(-70Pa~-100Pa)グリーン系ブロア イ(B1,B2)凡例コダクト 排気系統----予備系統 |※3レッド区域 負圧値(-150Pa~-300Pa)図1 換気設備概要2.2 停電及び機器故障時の負圧維持機能 - 換気設備は、負圧を確保するため、通年安定した運 転を行う必要がある。しかし、動的機器であるブロア は、運転中に停電または突発的な機器故障により、負 圧の確保に影響を及ぼす可能性がある。このため、東 海再処理施設の換気設備は、施設停電または突発的な 機器故障を想定した以下の制御機構により、負圧が確 保される。(1) 非常用発電機から給電された場合停電が発生した場合、所内に設置された非常用発 電機により給電が行われる。この非常用発電機は給 電容量に限度があることから、安全上重要な機器等 にのみ給電がされる。ブロアは、停電発生と同時に 一旦全停止した後、非常用発電機から給電されると 備えられた制御機構により、常用の運転台数から負 圧を確保するために必要となる運転台数に減少し、 汚染の恐れの度合が高い区域の系統に設置されたブ ロアから順に、自動的に起動する。図2に非常用発 電機からブロアに給電された際のアンバー区域等の 負圧トレンドの一例を示す。この図では、停電発生 後に非常用発電機が運転され、制御機構によるブロ アの順次起動に約 130 秒を要している。しかし、ブ ロアの順次起動の間において、負圧は OPa 近くまで 変動するが、負圧は確保されている。180160_停電発生、非常用発電機運転・・アンバー区域の負圧 グリーン区域の 負圧140負圧(Pa)ブロワ起動時間約130秒306090120150180時間(sec)図2 非常用発電機から給電時の負圧トレンド(2) ブロワが故障停止した場合ブロアは、予備機を含め複数台設置されており、 常用のブロアに故障が発生した際には、自動で予備 機に切り替わる。図3に、レッド系のブロア1台を 意図的に故障停止させた際のアンバー区域等の負圧 トレンドの一例を示す。この図では、負圧はレッド 系ブロアの故障停止から制御機構による予備機起動 までの約 15 秒間においても、最大約 50Pa の変動は あるものの、負圧は確保されている。アンバー区域 の負圧 グリーン区域 の負圧負圧(Pa)レッド系ブロア1台故障約15秒レッド系ブロア予備機起動-105020 30 40 -測定時間(sec) 図3 ブロア1台故障時の負圧トレンド103.負圧管理3.1 換気設備集中監視装置の導入東海再処理施設では、1977 年のホット運転開始 時に負圧管理を要した施設は 6 施設であったが、 現在では 22 施設に増加している。各施設には換気 設備用の制御盤が設置され、換気設備の運転及び 監視を行っている。しかし、施設ごとに換気設備 の運転管理を専門とする運転員(以下「運転員とい う」)を確保するには限度がある。また、通常時の負 圧は、自動制御により安定的に確保されている。502従って、施設ごとに運転員を常駐させる必要がな いことなどから、合理的かつ効率的に負圧監視を 行うため、運転員が一箇所に常駐し、複数の施設 の負圧を監視する換気設備集中監視装置を 1991年 に導入した。図 4 に換気設備集中監視装置のシステム概要を 示す。この図で示す通り、換気設備集中監視装置は、 各施設の負圧状況を一括で集中監視するため、各施 設の制御盤上の情報をコンピュータに取り込み表 示するシステムである。データ収納歴運転員室制御盤排風機運転信号 負圧警報 圧力信号など各施設の制御室換氣設備集中監視裝置プロア伝差圧計アンバー 区域アンバー 区域区城間 再処理施設内の各施設図4 換気設備集中監視装置のシステム概要3.2 換気設備集中監視装置の機能 - 換気設備集中監視装置は、負圧管理に必要な機能を 装備している。図5に機能の一つである換気設備集中 監視装置による負圧トレンドを示す。 A 線はアンバー 区域が安定した負圧状態である。 B 線は、グリーン区 域の負圧であり、±10Pa の範囲で変動が生じている。 これは、B 線の負圧は、屋外とグリーン区域の差圧を 計測しており、屋外に設置された負圧計用ノズルが風 の影響を受けるためである。また、その他の機能とし ては、異常を知らせる警報機能、ブロアの運転及び停 止表示機能などが装備されている。負Pa)00:00 12:00 4:00 16:00 08:00 10:00時刻 図5換気設備集中監視装置による負圧トレンドA:アンバー区域の負圧 B:グリーン区域の負E4. 換気設備の保全管理東海再処理施設では、機器の信頼性を確保するため、 保全の計画 (Plan) 、保全の実施 (Do)、保全の評価 (Check)、保全の改善(Action) の PDCA サイクルを品質 保証に取り入れ、保全の最適化を考慮した活動が求め られている。具体的に、保全の最適化を図るための要 素は、以下の3つであると考えている。 (1) 異常兆候の早期検知 (2)故障後の早期復旧 (3) 保全データの管理と反映4.1 異常兆候の早期検知図6にブロアの構成を示す。ブロアは、軸受の故障、 V ベルトの損傷、モータ故障等により、機能が低下ま たは停止する可能性がある。このため、東海再処理施 設では、日常的に行う巡視点検及び監視に加え、1回/ 年の頻度で定期的なブロアの精密点検を行っている。 また、過去の保全実績データの分析により、回転機器 類の故障は約 90%が軸受の不具合によるものであり、 その原因の約96%が潤滑不良であることが分かってい る)。そこで、軸受の潤滑状態を把握するため、ショ ックパルス法による診断装置を導入している。この診 断装置は、内部に軸受情報が入力されており、自動的 に軸受診断判定が行われる。図7に、ショックパルス 法による軸受診断判定の概要を示す。この図は、縦軸 に LR値(Low rate of occurrence Range:単位時間当たり の発生数が少なく強いパルス)と HR 値(High rate of occurrence Range: 単位時間当たりの発生数が多く弱い パルス)の差による軸受軌道面の損傷度合、横軸に HR503値による油膜形成の度合を表している。また「良好」、 「注意」等の軸受状態を表す領域を示している。ショッ クパルス法を用いた診断装置では、LR 値、HR 値が表示 され、また軸受状態の領域に相当するレベル(a、b, c) が表示される「21。本診断装置により軸受管理を行った 結果、1 年間の軸受故障の平均発生率が導入前の 9.17 ×10(件/個)に対し、導入後は 2.86 × 10(件/個)と約 1/3 に低減した。ケーケーシングプーリ側軸受 シャフト反プーリ側軸受LANVベルトレール 羽根車一反プーリ側軸受ブロア本体 電動機 プーリー図6 ブロアの構成コトコイル プーリ側軸受-----LRH4---HRAR-HR) 値[B]ショックパルス警戒:c注意:b良好:aHR ( [dB]強 図7 ショックパルス法による軸受診断判定の概要4.2 故障後の早期復旧 - 東海再処理施設では、ブロアを構成する部品の交換 及び異常発生時の原因調査など、復旧に関する作業を 社内で実施することを前提としている。これは、メー カへの外注の際の手続きから復旧までに要する時間を、 可能な限り短縮するためである。このような故障後の 早期復旧を図るため、予備品の確保、要領書の整備、 教育による技術力の向上を進めてきた。その結果、こ れまで外注の場合、1 ヶ月程度を要していた作業が、 社内で作業を行うことにより1週間以内での復旧が可 能となった。4.3 保全データの管理と反映保全の PDCA サイクルを確立するためには、最新の知 見と、これまでの保全実績の反映が重要である。この ため、東海再処理施設では、換気設備に限らず施設設 備の保全実績を収集するシステムとして、1985 年に設備保全管理支援システム TORMASS(Tokai Reprocessing Plant Maintenance Support System)を導入した。本システ ムは、施設設備の保全履歴、点検・検査の周期管理、 図面類等の登録ができ、現在までに施設設備の情報と して約 24,000 件、保全実績データとして約 261,000 件 のデータを入力している「31。TORMASS に入力されたデータは、確率的安全評価、 故障発生率の算出、信頼性評価、高経年化対策・評価 等を行う際の貴重な財産であり、これらの各評価結果 は保全作業へ反映している。TORMASS データ活用の 例として、図8に各系統のブロアの故障分布を示す。 この図は、25年間のブロアの偶発的な故障を対象とし、 故障履歴から累積ハザード法により、縦軸に累積ハザ ード値 H(、横軸に故障発生時間 (hr)をとり、グリー ン系統等の各系統のブロアにおける故障の分布を表し たものである4リ。図 8 から、ブロアは設置した系統、 容量等の形式に関係なく、ほぼ同じ傾向を示しており、 約 100,000 時間前後に故障が分布している。また、こ の図から形状パレメータ(m)*を求めると 2~4 の値と なり、1 より大きいことから、劣化故障によるものと 推定でき、この時期でのブロアの保全作業の必要性を 定量的に示している。 ※ 形状パラメータ(m):分布の形状を表す m>1:故障率が時間とともに減少する、初期故障。 m=1:故障率が時間によって変化しない。 m<1:故障率が時間とともに増加する、劣化故障。101(エイト」グリーン系ブア ▲ 給気系プロアアンバー系プロアレッド2系プロア ロレッド1系プロア ーアンバー系 ーレッド1系 ー - 給気系 ー・レッド2系グリーン系0.10.01100001000001.E+06 時間(h) 図8 各系統ブロアの故障分布5. 結言東海再処理施設では、これまで定期的に機器の分解 整備を行う時間基準保全が主流であったが、前述した 換気設備集中監視装置、ショックパルス法による診断 装置の導入、さらには技術員の資質向上による機器故504 -障時の早期復旧、TORMASS の活用により、状態監視保 全への移行が進んでいる。状態監視保全への移行によ り、適切な時期に状況に応じた保全が可能となり、ま たコストが低減化され、保全活動の最適化が着実に進 障時の早期復旧、TORMASS の活用により、状態監視保 全への移行が進んでいる。状態監視保全への移行によ り、適切な時期に状況に応じた保全が可能となり、ま たコストが低減化され、保全活動の最適化が着実に進 んでいる。参考文献 [1] 鋤柄 光二他「東海再処理施設 30 年の歩みと今後の展望 -保全技術管理支援システムの運用-」日本原子力学会(2006年秋の大会) [2] 竹内 謙二他「東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 II -ショックパルス法による設備診断-」日本保全学会(2008 年) [3] 清水 和幸他「東海再処理施設における設備保全管理支援システム(TORMASS)の開発」日本保全学会(2008年) [4] 堂村 和幸他「東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 I -回転機器構成部品の故障解析-」日本保全学会(2008年) 鋤柄 光二他「東海再処理施設 30 年の歩みと今後 の展望 -保全技術管理支援システムの運用-」日 本原子力学会(2006 年秋の大会) 竹内 謙二他「東海再処理施設における回転機器類 の保全技術開発 I -ショックパルス法による設備 堂村 和幸他「東海再処理施設における回転機器類 の保全技術開発 I -回転機器構成部品の故障解析 ―」日本保全学会(2008年)- 505 -“ “東海再処理施設における換気設備の負圧監視と保全管理“ “堂村 和幸,Kazuyuki DOMURA,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,福有 義裕,Yoshihiro FUKUARI,伊波 慎一,Shinichi INAMI