原子炉熱出力向上後の保全管理に関する考察
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カテゴリ: 第6回
1.緒言
原子炉熱出力向上(以下、出力向上という。)後のプ ラントでは、定格熱出力の増加に伴う主蒸気・冷却材 のプロセス量(温度、圧力、流量、湿り度)の変化、 電気出力の増加による電流の変化等により、関連する 系統の運転状態が変化する(Fig.1)。また、間接的な 影響りとして、雰囲気線量、雰囲気温度など機器の使 用環境も変化する (Fig.2)。これらの運転状態、使用 環境の変化により、経年劣化事象の進展が従来の傾向 と異なる可能性がある。ここでは、このような出力向 上による系統の運転状態、機器の使用環境の変化によ る保全計画への影響について検討する。
* 出力向上を実施する場合、その方法は大別して次の3. 出力向上後のプラント運転状態 2つの方法がある。 (1) 原子炉圧力を従来より高くする方法前節で述べた基本的条件の下に、通常運転時におけ (2) 原子炉圧力を従来と同一の圧力とし、変更しなるプラントの運転状態を定量的に把握するため、ヒー い方法トバランス計算を実施し、プラントの主要系統および 連絡先:青木孝行、〒101-0053 東京都千代田区神田美土 代町 1-1, 日本原子力発電(株)発電管理室,電話: 03-6371-7671, e-mail:takayuki-aoki@japc.co.jp - 511 -ここでは後者の原子炉圧力を変更しない方法、すなわ ち出力向上後も通常の BWR と同様と考えられる条件 を想定して検討する。Table 1 に想定する出力向上の基 本検討条件を示す。原子炉熱出力の増加運転状態の変化 環境の変化 (直接影響)(間接影響) *温度*雰囲気温度 *圧力*雰囲気放射線量率 *流量(流速) *中性子東 *電流 Fig.2 Direct and indirect impact on componentTable 1 Basic conditions for power uprate in this study項目 条件 備考 1|原子炉熱出力 定格値の数%程度の増加 |2|原子炉圧力 従来通り | 約7.03MPa 13|使用燃料従来通り 19×9 ウラン濃縮燃料 「安全確保の考「基本的に変更原子炉トリップ え方 しない。 や工学的安全施設動作設定の考 え方は変更しな51系統構成。主要設備 61運転方法/手順基本的に変更 しない。 基本的に変更 しない。主要機器の運転状態(圧力、温度、流量等) を求める。 ここでは定量的な詳細は省略するが、BWR のヒートバ ランス計算例を踏まえて、主要系統の運転状態および その影響の概要を Table 2 に示す。Table 2-(1) Operating conditions after power uprate(Mechanical systems) 項目影響の内容 原子炉圧力 熱出力の増加に伴い中性子束が増加し中 容器 性子照射量が増加する。圧力を変更しないので、温度も従来と変わらない。主蒸気ノ ズル部の流量(流速)が増加。給水ノズル部の流量(流速)、温度が増加。 2炉内構造物 「熱出力の増加に伴い中性子束が増加しシュラウド等の IASCC が加速されるが、現状 でも既に感受性が発生する照射量。 炉心流量は変わらない。流入する給水の流 量/温度の増加、ボイド率増による炉心部 圧損の増加はあるが、機器への影響は大き くない。主蒸気流量の増加で、柔構造の蒸気乾燥器への振動影響がある。 3 原子炉再循 基本的に圧力、温度、流量は従来と変わら魔系 ない。 14 主蒸気系 RPV出口における主渋気温度、圧力は経求と同一。流量(流速)は出力アップ量に応じ て増加。タービン入口へ向け、温度/圧力 は流速増の圧損分、従来より低下し、蒸気湿り度が増加。 5主タービン タービン入口圧力は従来より低下。主蒸気の飲込み量が増加によりタービン内圧力/温度は増加。 5復水器 主蒸気量の増加に伴い熱負荷が増加。 ただし、ホットウェル圧力/温度は従来通り。 復水給水系流量(流速)は出力アップ量に応じて増加。 (抽気系幻 流速増による圧損に応じて復水給水系ポンプによる昇圧量が従来より増加。給水温 度は、タービン抽気増により上昇。34Table 2-(2) Operating conditions after power uprate(Electrical systems) 項目影響の内容 1は発電機、出力アップ量に応じて電気出力が増加。 電圧 は変更しないので、電流が増加。 水素冷却系、固定子冷却系の負荷が上昇する も、これら冷却系により各部の温度は設計温度以下に抑制。 2主発電機水は発電機の発電電力の増加に伴い、発熱量が素ガス冷却増加。水素冷却系、固定子冷却系ともに負荷 係および固(除熱量)が上昇。 ■定子冷却系べきと考えら 下記があげここで出力向上特有の変化で、注目すべきと考えら れる設備と変化パラメータを抽出すると、下記があげる。(1) 中世子東増による原子炉圧力容器の中性子照射量増加 (2) 炉内主蒸気流速増による蒸気乾燥器の流れ誘起振動增加 (3) 主蒸気流速増加で圧損増加となり、圧力が低下、主蒸気湿り度増加による主蒸気系配管の減肉増(4) 主蒸気流量増加でタービン内圧力増加、タービン抽気流量(流速)増加による抽気配管減肉増加(5) 復水流量増加、給水流量/温度増加による配管減肉増加 (6) 発電機出力増加に伴う電流増加による絶縁特性低下*以上より、出力向上による経年劣化への影響をまと めると、下記の3つに集約でき、これらが出力向上の 特徴を示していると理解される。 ●中性子束の増加に伴う影響 ●原子炉冷却材流速の増加に伴う影響 ●発電電力(電流)の増加に伴う影響なお、上記のような出力向上の直接的影響のほか、 出力向上の影響には、第2章で述べたように、間接的 な影響がある。この間接影響のうち、放射線量率の増 加による影響は、既設の遮へい設備などによりその影 響は微弱であるが、雰囲気温度の上昇による影響は、 出力向上後に温度上昇のある機器に近接して設置され ている電気制御品や室温が比較的高温の給水加熱器室 などに設置されている電気制御品などに対し、無視で きないものがあると思われる。4. 出力向上による経年劣化への影響検討4.1 出力向上後に想定すべき経年劣化事象 * 出力向上を実施すると、プラントの運転状態は従来 から変化するものの、下記の BWR としての基本的な 条件が踏襲されるのであれば、出力向上後も当該プラ ントは通常の BWRであると考えられる。したがって、 これまで BWR で想定されてきた経年劣化事象の範囲 で経年劣化について考えればよいと考えられる。 (1)プラント安全設計等の基本設計や基本的な運用運転方法を変更しない。(ソフトウェアの基本を変更 しない。) (2)プラントの系統構成を変更せず、主要設備も大幅な改造を実施しない。(ハードウェアの基本を変更512を変更しない。(高温熱源の状しない。) (3)原子炉圧力(温度)を変更しない。(高温熱源の状態を変更しない。)4.2、 出力向上による経年劣化事象への影響前節で述べたように、出力向上後に想定すべき各種 の経年劣化事象は出力向上前に想定している各種の経 年劣化事象に限定して考えればよい。しかしながら、 出力向上後は各系統、機器の運転状態(圧力、温度、) が変わるので、特定の経年劣化事象を加速あるいは減 速させることが考えられる。そこで、以下に主要な経 年劣化事象について「材料」「応力」「環境」の観点から出 力向上の影響を評価した。 (1) 中性子照射脆化(主な影響箇所:RPV 円筒胴) ●材料:通常、RPV は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後も原子炉圧力等の負荷荷重が変わらないので、変化なし。 . . ●環境:圧力/温度は出力向上後も変化なしだが、中性子束、すなわち中性子照射量が増加。以上より、RPV 円筒胴の中性子照射脆化は、出力 向上によって増加する中性子照射量で加速される 可能性がある。 (2) IASCC(主な影響箇所:炉心シュラウド) ●材料:通常、炉心シュラウド等は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後は炉心圧損の増加で負荷荷重がわずかに増加するが、それによる応力増は極わずか。 ●環境:圧力/温度/炉水 DO 濃度等は出力向上後も変化なしだが、中性子束が増加。 以上より、IASCCは、出力向上によって増加する 中性子照射量で加速されるが、既に現状でも炉心 シュラウド等は IASCC 感受性が発生するレベル 以上の中性子照射を受けているので、出力向上の影響はほとんど無いと言える。 (3) IGSCC (主な影響箇所:オーステナイト系鋼材の炉内構造物や配管の溶接部) ●材料:通常、炉内構造物や配管は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:元々、溶接残留応力が支配的な事象であるので、出力向上の影響はほとんど無い。 ●環境:出力向上後も原子炉圧力を変更しないので、炉水温度も不変である。炉水 DO濃度等も変わらない。 以上より、IGSCC は出力向上の影響が無いと言える。(4) 配管減肉(主な影響箇所:排気系配管、給水配管) ●材料:通常、主要配管は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:配管減肉は応力に依存しない。 ●環境:出力向上後は、流速が増加する。また、圧力温度が増加あるいは減少する箇所がある。 以上より、配管滅肉は、出力向上によって変化す る冷却材の流速や温度による影響を受け、加速あ るいは減速される可能性がある3)。 (5) 低サイクル疲労(主な影響箇所:RPV 給水ノズル) ●材料:通常、RPV は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後も原子炉圧力は不変だが、給水温度の上昇で熱負荷が減少。繰り返し回数は出力向上に関係しない。 ●環境:環境疲労は冷却材等の環境条件に影響される現象であるが、出力向上により環境は変化しない。 以上より、低サイクル疲労は出力向上の影響が無いと言える。 (6) 高サイクル疲労(主な影響箇所:蒸気乾燥器、小口径配管) ●材料:通常、蒸気乾燥器等は既設を継続使用 . するので出力向上後も変化なし。 ●応力:原子炉冷却材の流速の増加により、流れ誘起振動で繰り返し応力が増加する可能性がある。 ●環境:環境疲労は冷却材等の環境条件に影響される現象であるが、出力向上により環境は変化しない。 以上より、高サイクル疲労は、出力向上によって 増加する冷却材の流速による影響を受けるので、 注意が必要である]。4.3 出力向上後の経年劣化事象の進展予測 * 通常、経年劣化事象の評価は、技術的理論や過去の4.3513点検データ等を用いて経年劣化事象の進展予測を実施 し、その結果に基づき、必要な保全内容と実施時期を 特定している。一方、出力向上後は、各系統・機器の運 転条件が従来から変化するため、一般にはそれらの機 器における経年劣化事象の進展挙動が変わりため、従 来のデータに基づき、その延長として予測することは 難しくなる。このため、出力向上後において、どのよ うな方法で経年劣化事象の進展を予測するか、以下に 検討した。 (1)経年劣化の進展に出力向上の影響はあるが、経年劣化の進展予測法があり、それを用いて出力向上の影 響を予測することが可能であるもの a. 経年劣化事象の評価式が既に確立され、学協会 で規格化されているものに下記がある。これらは 出力向上後の条件を用いて経年劣化の予測評価 を実施することが可能である。したがって、出力 向上後であっても問題ない。 (例) RPV の中性子照射脆化:JEAC4201 等 (例) RPV の疲労:JSME 設計建設規格による疲れ累積係数の評価 b. 出力向上後に適用できる評価式はあるが、学協 会で規格化されていないものに下記がある。現在 の劣化傾向からの変化の程度が推測可能である もの。(例)炭素鋼配管等の腐食による減肉 これについては、既に評価式 (WATHEC の式、 Sanchez らの式)が提案されているので、これら を用いて出力向上前後の減肉率を評価し、両者の 比と従来の実機点検データから出力向上後の減 肉を予測することは可能である。この予測に対し、 十分な保守性を確保した時点で一度、点検を行い、 実データを採取して、その後の点検時期を決定す る等の方法で十分な安全性を確保できると考えられる。 (2) これまでに実施している経年劣化評価で用いてい る評価条件の保守性、閾値への余裕等が出力向上後 の条件を包含しており、出力向上条件で評価を見直 す必要がないもの a. 劣化事象の評価条件が十分保守的であり、出力 向上後の環境を包絡しているもの (例)ケーブルの絶縁劣化:加速試験条件は出力向上後の環境条件を包絡 b. 事象が顕在化する閾値が明確であり、出力向上・後の環境を考えても閾値を越えないことが明確 であるもの(例)コンクリート構造物の強度低下 c. 従来から発生の予測が困難であり、点検で対応 している劣化事象のうち、進展速度が遅いもの (例)炉心シュラウドの応力腐食割れ:点検による発見と維持規格によるき裂の進展評価による管理 (例)再循環系配管の応力腐食割れ:点検による発見と維持規格によるき裂の進展評価による管理」 (3)経年劣化の進展に出力向上の影響があることを否 定はできないものの、その影響程度に有意なものが なく、出力向上後でも従来の予測を踏襲できるもの(例)オイルスナッバー等の機能低下 (4)海外の出力向上のトラブル事例から、小口径配管等の振動による高サイクル疲労が考えられる。このよ うな事象に対しては、出力向上前の点検調査や解析 評価、出力向上運転開始後の監視および補修等の保 全活動で対応する必要がある。5.結言出力向上によって系統、機器の運転状態、使用環境 が変化した場合を想定して、その経年劣化事象への影 響と出力向上運転開始後の経年劣化進展予測方法に ついて検討した。その結果、出力向上を実施するに当 たり、注意すべきポイントが整理された。参考文献 [1] 小野瀬他 “原子炉出力向上が経年劣化に与える影響の評価と対応”、日本保全学会 第5回学術講演会 要旨集、 2008、pp.498 - 499. [2] 各務他 “東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価 (その5)RPV の中性子照射脆化評価一”日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集, [3] 坂東他、“東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価一(その 6)主要配管の減肉評価一”、日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集, [4] 椿 他 “東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価 - (その7)炉内蒸気乾燥器の健全 性評価一”、日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集.514“ “?原子炉熱出力向上後の保全管理に関する考察“ “青木 孝行,Takayuki AOKI
原子炉熱出力向上(以下、出力向上という。)後のプ ラントでは、定格熱出力の増加に伴う主蒸気・冷却材 のプロセス量(温度、圧力、流量、湿り度)の変化、 電気出力の増加による電流の変化等により、関連する 系統の運転状態が変化する(Fig.1)。また、間接的な 影響りとして、雰囲気線量、雰囲気温度など機器の使 用環境も変化する (Fig.2)。これらの運転状態、使用 環境の変化により、経年劣化事象の進展が従来の傾向 と異なる可能性がある。ここでは、このような出力向 上による系統の運転状態、機器の使用環境の変化によ る保全計画への影響について検討する。
* 出力向上を実施する場合、その方法は大別して次の3. 出力向上後のプラント運転状態 2つの方法がある。 (1) 原子炉圧力を従来より高くする方法前節で述べた基本的条件の下に、通常運転時におけ (2) 原子炉圧力を従来と同一の圧力とし、変更しなるプラントの運転状態を定量的に把握するため、ヒー い方法トバランス計算を実施し、プラントの主要系統および 連絡先:青木孝行、〒101-0053 東京都千代田区神田美土 代町 1-1, 日本原子力発電(株)発電管理室,電話: 03-6371-7671, e-mail:takayuki-aoki@japc.co.jp - 511 -ここでは後者の原子炉圧力を変更しない方法、すなわ ち出力向上後も通常の BWR と同様と考えられる条件 を想定して検討する。Table 1 に想定する出力向上の基 本検討条件を示す。原子炉熱出力の増加運転状態の変化 環境の変化 (直接影響)(間接影響) *温度*雰囲気温度 *圧力*雰囲気放射線量率 *流量(流速) *中性子東 *電流 Fig.2 Direct and indirect impact on componentTable 1 Basic conditions for power uprate in this study項目 条件 備考 1|原子炉熱出力 定格値の数%程度の増加 |2|原子炉圧力 従来通り | 約7.03MPa 13|使用燃料従来通り 19×9 ウラン濃縮燃料 「安全確保の考「基本的に変更原子炉トリップ え方 しない。 や工学的安全施設動作設定の考 え方は変更しな51系統構成。主要設備 61運転方法/手順基本的に変更 しない。 基本的に変更 しない。主要機器の運転状態(圧力、温度、流量等) を求める。 ここでは定量的な詳細は省略するが、BWR のヒートバ ランス計算例を踏まえて、主要系統の運転状態および その影響の概要を Table 2 に示す。Table 2-(1) Operating conditions after power uprate(Mechanical systems) 項目影響の内容 原子炉圧力 熱出力の増加に伴い中性子束が増加し中 容器 性子照射量が増加する。圧力を変更しないので、温度も従来と変わらない。主蒸気ノ ズル部の流量(流速)が増加。給水ノズル部の流量(流速)、温度が増加。 2炉内構造物 「熱出力の増加に伴い中性子束が増加しシュラウド等の IASCC が加速されるが、現状 でも既に感受性が発生する照射量。 炉心流量は変わらない。流入する給水の流 量/温度の増加、ボイド率増による炉心部 圧損の増加はあるが、機器への影響は大き くない。主蒸気流量の増加で、柔構造の蒸気乾燥器への振動影響がある。 3 原子炉再循 基本的に圧力、温度、流量は従来と変わら魔系 ない。 14 主蒸気系 RPV出口における主渋気温度、圧力は経求と同一。流量(流速)は出力アップ量に応じ て増加。タービン入口へ向け、温度/圧力 は流速増の圧損分、従来より低下し、蒸気湿り度が増加。 5主タービン タービン入口圧力は従来より低下。主蒸気の飲込み量が増加によりタービン内圧力/温度は増加。 5復水器 主蒸気量の増加に伴い熱負荷が増加。 ただし、ホットウェル圧力/温度は従来通り。 復水給水系流量(流速)は出力アップ量に応じて増加。 (抽気系幻 流速増による圧損に応じて復水給水系ポンプによる昇圧量が従来より増加。給水温 度は、タービン抽気増により上昇。34Table 2-(2) Operating conditions after power uprate(Electrical systems) 項目影響の内容 1は発電機、出力アップ量に応じて電気出力が増加。 電圧 は変更しないので、電流が増加。 水素冷却系、固定子冷却系の負荷が上昇する も、これら冷却系により各部の温度は設計温度以下に抑制。 2主発電機水は発電機の発電電力の増加に伴い、発熱量が素ガス冷却増加。水素冷却系、固定子冷却系ともに負荷 係および固(除熱量)が上昇。 ■定子冷却系べきと考えら 下記があげここで出力向上特有の変化で、注目すべきと考えら れる設備と変化パラメータを抽出すると、下記があげる。(1) 中世子東増による原子炉圧力容器の中性子照射量増加 (2) 炉内主蒸気流速増による蒸気乾燥器の流れ誘起振動增加 (3) 主蒸気流速増加で圧損増加となり、圧力が低下、主蒸気湿り度増加による主蒸気系配管の減肉増(4) 主蒸気流量増加でタービン内圧力増加、タービン抽気流量(流速)増加による抽気配管減肉増加(5) 復水流量増加、給水流量/温度増加による配管減肉増加 (6) 発電機出力増加に伴う電流増加による絶縁特性低下*以上より、出力向上による経年劣化への影響をまと めると、下記の3つに集約でき、これらが出力向上の 特徴を示していると理解される。 ●中性子束の増加に伴う影響 ●原子炉冷却材流速の増加に伴う影響 ●発電電力(電流)の増加に伴う影響なお、上記のような出力向上の直接的影響のほか、 出力向上の影響には、第2章で述べたように、間接的 な影響がある。この間接影響のうち、放射線量率の増 加による影響は、既設の遮へい設備などによりその影 響は微弱であるが、雰囲気温度の上昇による影響は、 出力向上後に温度上昇のある機器に近接して設置され ている電気制御品や室温が比較的高温の給水加熱器室 などに設置されている電気制御品などに対し、無視で きないものがあると思われる。4. 出力向上による経年劣化への影響検討4.1 出力向上後に想定すべき経年劣化事象 * 出力向上を実施すると、プラントの運転状態は従来 から変化するものの、下記の BWR としての基本的な 条件が踏襲されるのであれば、出力向上後も当該プラ ントは通常の BWRであると考えられる。したがって、 これまで BWR で想定されてきた経年劣化事象の範囲 で経年劣化について考えればよいと考えられる。 (1)プラント安全設計等の基本設計や基本的な運用運転方法を変更しない。(ソフトウェアの基本を変更 しない。) (2)プラントの系統構成を変更せず、主要設備も大幅な改造を実施しない。(ハードウェアの基本を変更512を変更しない。(高温熱源の状しない。) (3)原子炉圧力(温度)を変更しない。(高温熱源の状態を変更しない。)4.2、 出力向上による経年劣化事象への影響前節で述べたように、出力向上後に想定すべき各種 の経年劣化事象は出力向上前に想定している各種の経 年劣化事象に限定して考えればよい。しかしながら、 出力向上後は各系統、機器の運転状態(圧力、温度、) が変わるので、特定の経年劣化事象を加速あるいは減 速させることが考えられる。そこで、以下に主要な経 年劣化事象について「材料」「応力」「環境」の観点から出 力向上の影響を評価した。 (1) 中性子照射脆化(主な影響箇所:RPV 円筒胴) ●材料:通常、RPV は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後も原子炉圧力等の負荷荷重が変わらないので、変化なし。 . . ●環境:圧力/温度は出力向上後も変化なしだが、中性子束、すなわち中性子照射量が増加。以上より、RPV 円筒胴の中性子照射脆化は、出力 向上によって増加する中性子照射量で加速される 可能性がある。 (2) IASCC(主な影響箇所:炉心シュラウド) ●材料:通常、炉心シュラウド等は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後は炉心圧損の増加で負荷荷重がわずかに増加するが、それによる応力増は極わずか。 ●環境:圧力/温度/炉水 DO 濃度等は出力向上後も変化なしだが、中性子束が増加。 以上より、IASCCは、出力向上によって増加する 中性子照射量で加速されるが、既に現状でも炉心 シュラウド等は IASCC 感受性が発生するレベル 以上の中性子照射を受けているので、出力向上の影響はほとんど無いと言える。 (3) IGSCC (主な影響箇所:オーステナイト系鋼材の炉内構造物や配管の溶接部) ●材料:通常、炉内構造物や配管は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:元々、溶接残留応力が支配的な事象であるので、出力向上の影響はほとんど無い。 ●環境:出力向上後も原子炉圧力を変更しないので、炉水温度も不変である。炉水 DO濃度等も変わらない。 以上より、IGSCC は出力向上の影響が無いと言える。(4) 配管減肉(主な影響箇所:排気系配管、給水配管) ●材料:通常、主要配管は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:配管減肉は応力に依存しない。 ●環境:出力向上後は、流速が増加する。また、圧力温度が増加あるいは減少する箇所がある。 以上より、配管滅肉は、出力向上によって変化す る冷却材の流速や温度による影響を受け、加速あ るいは減速される可能性がある3)。 (5) 低サイクル疲労(主な影響箇所:RPV 給水ノズル) ●材料:通常、RPV は既設を継続使用するので出力向上後も変化なし。 ●応力:出力向上後も原子炉圧力は不変だが、給水温度の上昇で熱負荷が減少。繰り返し回数は出力向上に関係しない。 ●環境:環境疲労は冷却材等の環境条件に影響される現象であるが、出力向上により環境は変化しない。 以上より、低サイクル疲労は出力向上の影響が無いと言える。 (6) 高サイクル疲労(主な影響箇所:蒸気乾燥器、小口径配管) ●材料:通常、蒸気乾燥器等は既設を継続使用 . するので出力向上後も変化なし。 ●応力:原子炉冷却材の流速の増加により、流れ誘起振動で繰り返し応力が増加する可能性がある。 ●環境:環境疲労は冷却材等の環境条件に影響される現象であるが、出力向上により環境は変化しない。 以上より、高サイクル疲労は、出力向上によって 増加する冷却材の流速による影響を受けるので、 注意が必要である]。4.3 出力向上後の経年劣化事象の進展予測 * 通常、経年劣化事象の評価は、技術的理論や過去の4.3513点検データ等を用いて経年劣化事象の進展予測を実施 し、その結果に基づき、必要な保全内容と実施時期を 特定している。一方、出力向上後は、各系統・機器の運 転条件が従来から変化するため、一般にはそれらの機 器における経年劣化事象の進展挙動が変わりため、従 来のデータに基づき、その延長として予測することは 難しくなる。このため、出力向上後において、どのよ うな方法で経年劣化事象の進展を予測するか、以下に 検討した。 (1)経年劣化の進展に出力向上の影響はあるが、経年劣化の進展予測法があり、それを用いて出力向上の影 響を予測することが可能であるもの a. 経年劣化事象の評価式が既に確立され、学協会 で規格化されているものに下記がある。これらは 出力向上後の条件を用いて経年劣化の予測評価 を実施することが可能である。したがって、出力 向上後であっても問題ない。 (例) RPV の中性子照射脆化:JEAC4201 等 (例) RPV の疲労:JSME 設計建設規格による疲れ累積係数の評価 b. 出力向上後に適用できる評価式はあるが、学協 会で規格化されていないものに下記がある。現在 の劣化傾向からの変化の程度が推測可能である もの。(例)炭素鋼配管等の腐食による減肉 これについては、既に評価式 (WATHEC の式、 Sanchez らの式)が提案されているので、これら を用いて出力向上前後の減肉率を評価し、両者の 比と従来の実機点検データから出力向上後の減 肉を予測することは可能である。この予測に対し、 十分な保守性を確保した時点で一度、点検を行い、 実データを採取して、その後の点検時期を決定す る等の方法で十分な安全性を確保できると考えられる。 (2) これまでに実施している経年劣化評価で用いてい る評価条件の保守性、閾値への余裕等が出力向上後 の条件を包含しており、出力向上条件で評価を見直 す必要がないもの a. 劣化事象の評価条件が十分保守的であり、出力 向上後の環境を包絡しているもの (例)ケーブルの絶縁劣化:加速試験条件は出力向上後の環境条件を包絡 b. 事象が顕在化する閾値が明確であり、出力向上・後の環境を考えても閾値を越えないことが明確 であるもの(例)コンクリート構造物の強度低下 c. 従来から発生の予測が困難であり、点検で対応 している劣化事象のうち、進展速度が遅いもの (例)炉心シュラウドの応力腐食割れ:点検による発見と維持規格によるき裂の進展評価による管理 (例)再循環系配管の応力腐食割れ:点検による発見と維持規格によるき裂の進展評価による管理」 (3)経年劣化の進展に出力向上の影響があることを否 定はできないものの、その影響程度に有意なものが なく、出力向上後でも従来の予測を踏襲できるもの(例)オイルスナッバー等の機能低下 (4)海外の出力向上のトラブル事例から、小口径配管等の振動による高サイクル疲労が考えられる。このよ うな事象に対しては、出力向上前の点検調査や解析 評価、出力向上運転開始後の監視および補修等の保 全活動で対応する必要がある。5.結言出力向上によって系統、機器の運転状態、使用環境 が変化した場合を想定して、その経年劣化事象への影 響と出力向上運転開始後の経年劣化進展予測方法に ついて検討した。その結果、出力向上を実施するに当 たり、注意すべきポイントが整理された。参考文献 [1] 小野瀬他 “原子炉出力向上が経年劣化に与える影響の評価と対応”、日本保全学会 第5回学術講演会 要旨集、 2008、pp.498 - 499. [2] 各務他 “東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価 (その5)RPV の中性子照射脆化評価一”日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集, [3] 坂東他、“東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価一(その 6)主要配管の減肉評価一”、日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集, [4] 椿 他 “東海第二発電所原子炉出力向上計画における技術評価 - (その7)炉内蒸気乾燥器の健全 性評価一”、日本原子力学会 2008 秋の大会予稿集.514“ “?原子炉熱出力向上後の保全管理に関する考察“ “青木 孝行,Takayuki AOKI