基調講演: 状態監視保全定量化の戦略
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カテゴリ: 第6回
1.緒言
* 原子力発電所の安全確保・稼働率向上に、状態監視保 全、つまりプラントを稼動させながら検査評価する保全 手法が重要となっている。発電所の内部で最も故障事象 の多い機器はポンプなど回転機器、部品としてはベアリ ングが挙げられる。ベアリングの余寿命評価はこれまで、 振動計によって加速度信号発生頻度の上昇カーブをフィ ッティングして、破壊までの余寿命を推測する手法で行 われてきた。しかし機器や運転条件によって結果のバラ ツキがあり、重大な被害を起こしうる。ベアリングの劣 化損傷は転動体と内輪・外輪との衝突による金属疲労破 壊であると考えられる。末期のマクロ的損傷は振動法や 摩耗粒子分析で評価できる。軽度劣化の段階的過程での残留応力が把握できれば、劣化の度合いが疲労破壊曲線 (S-N カーブ)と照らし合わせて評価することが可能に なる。この手法が確立すれば、回転機というシステムの 軽度・重度劣化が、ベアリング材料の疲労破壊として捉 えられ、ここまで蓄積されかつ信頼性のある材料データ を活用して、余寿命を評価することができる。我々は中 性子回折法による残留応力測定をJ-PARC において行い、 S-N カーブを利用して AE や振動信号から残留応力を推 定し、ベアリング余寿命評価を行いたいと考えている。 本稿では本保全学会 CMT 分科会技術 WG の概要1]、J-PARC のビームラインを用いた測定法と新しい評価法 構築に向けた戦略を述べる。
2. 日本保全学会 CMT 分科会技術 WG2.1 活動方針 平成 20 年度に引き続き、実機ベアリングの劣化加速試 験を継続し、データ蓄積と分析を推進する。実用計測手 法(振動、AE、油・微粒子分析、サーモグラフィ)のデ ータを同時取得し、破損過程の材料力学的明確化をはか り、余寿命評価の精度を向上させる。また、電磁信号、 電磁超音波、光計測、小型X線源など新手法の、状態監 視保全への導入の方策についても考察していく。 2.2 活動要領 (1)実機ベアリングの劣化加速試験 昨年度同様に、主に(株) トライボテックスの協力を得 て、振動、AE、油・微粒子分析の手法でデータを同時取 得し、破損とそこにいたる材料力学的プロセスを分析す る。今回はサーモグラフィ測定の行い、ベアリングの発 熱状態もオンライン観察し、情報を増やす。さらに、日 本原子力研究開発機構(JAEA) J-PARC (加速器ベース中性 子源)の中性子回折ビームラインに共同利用申請し(成 果公開で使用料無)、ベアリングの玉、内・外輪の劣化部 の残留ひずみ・応力を評価することにチャレンジする。 (2) 劣化モードの識別分析 主に産業技術総合研究所の協力を得て、電磁信号手法等53で、玉、内・外輪の損傷の識別など、内部有効情報のオ ンライン取得を目指す。検討会は、必要に応じて 2,3 ヶ月 に1度のペースで開催する。運営は WG 主査が行う。 (3) 新技術の公募研究2. 既往のベアリング寿命予測法 2.1 慣例的な S-N カーブ我々はベアリングの劣化を、Fig.1 に模式的に示したよ うに、玉、内輪、外輪の衝突による繰り返し疲労破壊と 捉える。Ball BearingTorrerfixOuter race--freakingVibrationAccumulationInner raceMinute stress (cause revolution and rotation of balts)Fig.1 Degradation of bearing as collisional cyclic fatigue金属疲労破壊曲線は S-N カーブと呼ばれ、それぞれ Stress、Number of Cycles を示す。繰返し応力を特定数加 えた際に疲労しない最大応力のことをその繰り返し数に おける疲労強度と言う。S-N カーブはその疲労強度と繰 り返し数の関係を示したものである。関係線図は縦軸に 応力振幅(S)、横軸に繰り返し数(N)の対数を取るのが一般 的で、疲労試験装置に試験体を取り付け、破断するまで 繰返し応力を加えて求めることができる。 Fig.2 に S-N カ ーブの概略図を示す。 [2]Low Cycle Fatigue,S(Stress Amplitude)High Cycle FatiqueBreak Area F-50%Fatiquc HmitUnbreak Area R-50%Sot Time)log N10~10P100TN10-10Fig.2 S-N Curve しかし、ここから求められる耐久性は単純な繰り返し 応力をかけたものに過ぎず、材料形状や温度変化といっ た時間的に不連続な応力がかかることを考慮していない ため、実際に評価する際にはこれらを考慮する必要があ る。 2.2 破損確率を含めた S-N カーブ 慣例的な S-N カーブを玉軸受けなどに適用するために は破損確率を加味しなくてはならない。そこで、確率の 概念を S-N カーブに含めたものが P-S-N カーブ (Probabilistic Stress Life Curve)である。特に玉軸受けの寿命-1式で表現されている軸受作用荷重と定格荷重の関係を示 すP-F-L カーブ(Probabilistic Force Life Curve)がもっとも」 進んでいるものと考えられている。寿命計算式はL, = a[i] +7, a = no.9) で表される。ここに Loは基本定格寿命と呼ばれ、信頼度 90 %で 10°回転単位の寿命、yは 100%の信頼度である。 またCとFはそれぞれ基本動定格荷重、動定格荷重を示 し単位は[N]である。玉軸受けにおいてはp=3 を与える。 a, さは信頼性係数、R は信頼度、m=10/9(点接触)であ る。さらに、信頼度係数などを乗じて補正を行う必要が ある。 ? 玉軸受けの寿命評価はこの S-N カーブと呼ばれる金属 疲労曲線を基に行うべきだと考えられる。しかし、S-N カーブは前述したとおり、単純な繰返し応力により描か れているため、材料形状の変化などの要素が含まれてい ないため、寿命回転数に誤差が生じる。その誤差を少な くするための機軸を作成する必要性があると我々は考え ており、以下で記述する方法・戦略を構築したい。 2.3 振動加速度測定分析 最近の実機ベアリングでの状態監視保全は振動計によ る加速度測定法が主である。ここでは設定した閾値を超 える加速度信号の頻度を時間に対してプロットして余寿 命を検討する。Fig.3 のように、信号強度の急速な上昇を 解析関数でフィッティングし、異常信号正常信号比を設 定し、それを超える時点をもって、経験的に余寿命を評 価している」フレーキングの6時間Fig.3 Empirical lifetime evaluation by the accelerationmeasurement しかしこの手法も運転条件に多く依存し、余寿命に大 きな幅は生じることが問題となっている。3. 日本保全学会・トライボテックス合同試験平成 20 年度 CMT 分科会技術WGではここまで原子 力・火力・水力プラントの回転機・軸受の劣化分析に実 「績の豊富な(株) トライボテックス[3]と協力して、公開 で軸受劣化加速試験を実施した。専用の軸受劣化加速試54験機を使用し、振動・AE・油中磨耗粒子分析を行い、結 果を公開して分析・議論するのがベストと判断した。専 用試験機は、駆動モーター、トルクメーター、片支持型 荷重印加装置、各種センサ・計測システムが装填・稼動 している。軸受は深溝玉軸受で外径 55mm、動・静定格 荷重 13.2,8.3kN である。回転数 1,500、横荷重は 16.4kN まで印加可能で、破壊まで 40-72 時間程度で到達可能で ある。ベアリングは、10cm(高さ)x10cm(幅)x8cm(奥 行き)程度の鋼製ケースに装填されてそれにテコ構造に よって横荷重を印加する。潤滑油浸漬用アクリル透明容 器内に設置されている。グリス装着も可能である。ケー スには、振動計、AE センサがとりつけられている。モー ターと反対側軸方向からベアリングのかなりの部分が直 視できる。グリス使用の場合は油液面がないので、観察 はさらに容易になる。さらに油中の微粒子の定期的分析 も行う。今年度横荷重負荷による劣化加速試験を4回行 った。測定系は、振動計、AE センサ、油分析を行った。 結果はスライドで紹介するが、振動計、AE による測定は 開始から破壊まで連続して行い、定期的に油分析も行い、 破壊直前では異常音の取得も行った。結果の1例を Fig.4 に示す。以前からの知見の確認ではあるが、振動・異常 音の前に、AE に有意な信号で出て、その低下後に振動が 有意となり、破壊に至った。油中の磨耗粒子のサイズの 変化がかなり感度高い劣化の指標になりえるかもしれな いことが示唆された。2章で紹介した既往の寿命評価法の問題点は、軸受けを ブラックボックスとして捉え、限られた物理パラメータ を簡略な関数で結びつけようとしているため、内包され た実験条件の影響を大きく受け、数値誤差が甚大となる ことである。本試験では、磨耗粒子という疲労破壊の物 的証拠を運転中に取得できるという大きな利点を確認し た。磨耗粒子の分析で疲労剥離破壊の様子を分析できる。もう1つの材料力学情報として、残留応力の評価があ る。次章で説明するように、わが国の最新先進ビーム技 術がそれを可能にしてくれるかもしれない。+-OVERALL ・・AEイベント() 実験前436minAEイベント,Count/min.*393min1.00100180002303E+26Fig.4 Bearing degradation test at TRIBOTEX Co.4. 残留応力試験4.1 J-PARC BL-19 “TAKUMI““J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex,大強 度陽子加速器施設)は茨城県東海村の日本原子力研究開 発機構(JAEA)内にあり、JAEA と高エネルギー加速器研 究開発機構(KEK)の共同運営されている施設である。 J-PARC は入射器・3 GeV シンクロトロン・50 GeV シン クロトロンからなり、我々が使用しようとしているビー ムラインは3 GeV シンクロトロンにある物質・生命科学 実験施設(MLF)のBL-19 “TAKUMI““である。BI-19は工学 材料回折装置であり、パルス中性子を用いた中性子回折 による応力・ひずみなどを測定できる。“TAKUMIYは最 高分解能 0.2%以下の設計性能を誇っており、ひずみ・応 力測定精度が非常に高い。また、広い格子間距離測定能 力と世界トップクラスの中性子フラックスを有し、実験 ステーションに十分なスペースがあるので、短い測定時 間で多くの部品の自動移動連続測定が可能となり限定さ れたマシンタイムで多くのデータ取得が可能であると考 えている。Fig.5 に TAKUMI 内にある試験環境を示す。 中性子ビームに対して90°方向に2つの検出器を配置して ある。DetectorDetectoreuti on BeamSampleFig.5 Test Stand at J-PARC BL-19 4.2 中性子による残留応力測定 - 金属中の残留応力測定法として、中性子を使った回折 による測定法は、X 線法に比べ、任意の深さのデータが 取得できる大きな利点がある。特に J-PARC MLF BL-19 におけるパルス中性子は幅広いエネルギー分布を持つ中 性子が生成されるため、飛行時間法(Time of Flight 法, ToF 法)により一度に多くの情報を得ることができる。ToF 法 は中性子の飛行距離を固定し、飛行時間の違いを測定す る。これによって中性子速度を割り出し、波長を決める ことができる。今飛行距離を L とし、中性子の運動量p とすれば55で表すことができる。金属結晶格子間距離をdとすれば、 Bragg 回折の法則から、htd = nu(2sin 0)-3で表せる。さらに、無応力状態の格子間距離と測定され た格子間距離から格子ひずみを求め、回折面ごとの格子 ひずみから残留応力を求めることが可能である。Fig.6に J-PARC を利用した中性子回折法の原理を示す。 測定でき る dの違いからひずみを測定でき、応力を求めることが できる。[4]AcceleratorProtond sin TargetNeutron SampleModeratorDetector Fig.6 Principle of Neutron Diffraction Method5. ベアリング余寿命評価新手法の構築我々が提案する新しいベアリングの余寿命評価法は残 留応力の大きさを基準軸として、AE 信号・振動信号など の観測データを評価することにより余寿命を推測する手 法である。この手法を実現し、評価法として有意義なも のにするために以下のような実験を行う。 (1) 加速劣化試験により疲労状態の違うベアリングを作成する (2) J-PARC BL-19 においてベアリングの残留応力を測定する (3) 残留応力の測定結果と加速劣化試験での疲労状態の対比を行う (AE や振動信号と残留応力を結びつける) (4) S-N カーブを活用し、状態監視できる手法であるAE や振動信号の状態から余寿命を推定する (5) 油分析やX線[5]などといった手法で損傷の度合いなどを評価する 以上のプロセスを踏んで余寿命評価手法を構築したいと 考えている。このような手法を確立できれば、AE や振動 といった状態監視できる手法のデータが S-N カーブを用 いて残留応力状態と余寿命を評価できることになる。Fig.7 に我々の提案する評価手法の流れを示す。Make bearings had some damagesSome types of stress Measure residual stress of bearingsJ-PARC MLF BL-19 Refer to S-N curveAE signal Oscillation signal Oil analysisEvaluate life timeFig. 7 Strategy of quantitative lifetime evaluation サンプルは損傷試験を行う予定でいるトライボテック ス株式会社において加速劣化試験を行ったベアリングを 使用し、J-PARC での残留応力試験を本年 10 月と来年1 月に予定している。この方法は回転機を用いている他の 産業にも応用できると考えられ、構造物の保全活動に非 常に役に立つと考えている。5.結言(1) ベアリングの既往の余寿命評価について解説した。 2) J-PARCのBL-19 “TAKUMIYを利用した中性子回折法に よる残留応力測定法を検討し、本年 10 月に劣化ベア リングを用いた測定試験を行う予定でいる。 3) 劣化加速試験での AE・振動分析情報、磨耗粒子分析、 1 残留応力測定によって、ベアリング材の疲労破壊 S-Nカーブ取得とそれによる材料科学的寿命表を試みる 4) AE・振動・油分析・中性子・X線の融合により、より 高度な状態監視保全の実現を目指した新しい余寿命 評価法の構築を実現したいと考えている。謝辞本研究はトライボテックス株式会社とJ-PARCのBL-19 のグループとの共同で行われる研究である。参考文献[1] M. Uesaka et al., Proc. of 7th International Conference onNDE on Structural Integrity for Nuclear and PressurizedComponents, (2009) (to be published) [2] 清水茂夫“機械系のための信頼性設計入門” 数理工学社,2006 [3] 川畑雅彦“潤滑油診断技術の発電設備への適用” 1 日本非破壊検査協会, 非破壊検査, Vol58, 1 (2009) [4] 鈴木徹也“中性子回折の材料工学への活用”,電気製鋼, Vol.77, 1, pp.39-44 (2006) [5] 山本智彦他、本講演会予稿56“ “?状態監視保全定量化の戦略 “ “上坂 充,Mitsuru UESAKA,山本 智彦,Tomohiko YAMAMOTO,橋本 英子,Eiko HASHIMOTO,加畑 晶規,Akinori KAHATA
* 原子力発電所の安全確保・稼働率向上に、状態監視保 全、つまりプラントを稼動させながら検査評価する保全 手法が重要となっている。発電所の内部で最も故障事象 の多い機器はポンプなど回転機器、部品としてはベアリ ングが挙げられる。ベアリングの余寿命評価はこれまで、 振動計によって加速度信号発生頻度の上昇カーブをフィ ッティングして、破壊までの余寿命を推測する手法で行 われてきた。しかし機器や運転条件によって結果のバラ ツキがあり、重大な被害を起こしうる。ベアリングの劣 化損傷は転動体と内輪・外輪との衝突による金属疲労破 壊であると考えられる。末期のマクロ的損傷は振動法や 摩耗粒子分析で評価できる。軽度劣化の段階的過程での残留応力が把握できれば、劣化の度合いが疲労破壊曲線 (S-N カーブ)と照らし合わせて評価することが可能に なる。この手法が確立すれば、回転機というシステムの 軽度・重度劣化が、ベアリング材料の疲労破壊として捉 えられ、ここまで蓄積されかつ信頼性のある材料データ を活用して、余寿命を評価することができる。我々は中 性子回折法による残留応力測定をJ-PARC において行い、 S-N カーブを利用して AE や振動信号から残留応力を推 定し、ベアリング余寿命評価を行いたいと考えている。 本稿では本保全学会 CMT 分科会技術 WG の概要1]、J-PARC のビームラインを用いた測定法と新しい評価法 構築に向けた戦略を述べる。
2. 日本保全学会 CMT 分科会技術 WG2.1 活動方針 平成 20 年度に引き続き、実機ベアリングの劣化加速試 験を継続し、データ蓄積と分析を推進する。実用計測手 法(振動、AE、油・微粒子分析、サーモグラフィ)のデ ータを同時取得し、破損過程の材料力学的明確化をはか り、余寿命評価の精度を向上させる。また、電磁信号、 電磁超音波、光計測、小型X線源など新手法の、状態監 視保全への導入の方策についても考察していく。 2.2 活動要領 (1)実機ベアリングの劣化加速試験 昨年度同様に、主に(株) トライボテックスの協力を得 て、振動、AE、油・微粒子分析の手法でデータを同時取 得し、破損とそこにいたる材料力学的プロセスを分析す る。今回はサーモグラフィ測定の行い、ベアリングの発 熱状態もオンライン観察し、情報を増やす。さらに、日 本原子力研究開発機構(JAEA) J-PARC (加速器ベース中性 子源)の中性子回折ビームラインに共同利用申請し(成 果公開で使用料無)、ベアリングの玉、内・外輪の劣化部 の残留ひずみ・応力を評価することにチャレンジする。 (2) 劣化モードの識別分析 主に産業技術総合研究所の協力を得て、電磁信号手法等53で、玉、内・外輪の損傷の識別など、内部有効情報のオ ンライン取得を目指す。検討会は、必要に応じて 2,3 ヶ月 に1度のペースで開催する。運営は WG 主査が行う。 (3) 新技術の公募研究2. 既往のベアリング寿命予測法 2.1 慣例的な S-N カーブ我々はベアリングの劣化を、Fig.1 に模式的に示したよ うに、玉、内輪、外輪の衝突による繰り返し疲労破壊と 捉える。Ball BearingTorrerfixOuter race--freakingVibrationAccumulationInner raceMinute stress (cause revolution and rotation of balts)Fig.1 Degradation of bearing as collisional cyclic fatigue金属疲労破壊曲線は S-N カーブと呼ばれ、それぞれ Stress、Number of Cycles を示す。繰返し応力を特定数加 えた際に疲労しない最大応力のことをその繰り返し数に おける疲労強度と言う。S-N カーブはその疲労強度と繰 り返し数の関係を示したものである。関係線図は縦軸に 応力振幅(S)、横軸に繰り返し数(N)の対数を取るのが一般 的で、疲労試験装置に試験体を取り付け、破断するまで 繰返し応力を加えて求めることができる。 Fig.2 に S-N カ ーブの概略図を示す。 [2]Low Cycle Fatigue,S(Stress Amplitude)High Cycle FatiqueBreak Area F-50%Fatiquc HmitUnbreak Area R-50%Sot Time)log N10~10P100TN10-10Fig.2 S-N Curve しかし、ここから求められる耐久性は単純な繰り返し 応力をかけたものに過ぎず、材料形状や温度変化といっ た時間的に不連続な応力がかかることを考慮していない ため、実際に評価する際にはこれらを考慮する必要があ る。 2.2 破損確率を含めた S-N カーブ 慣例的な S-N カーブを玉軸受けなどに適用するために は破損確率を加味しなくてはならない。そこで、確率の 概念を S-N カーブに含めたものが P-S-N カーブ (Probabilistic Stress Life Curve)である。特に玉軸受けの寿命-1式で表現されている軸受作用荷重と定格荷重の関係を示 すP-F-L カーブ(Probabilistic Force Life Curve)がもっとも」 進んでいるものと考えられている。寿命計算式はL, = a[i] +7, a = no.9) で表される。ここに Loは基本定格寿命と呼ばれ、信頼度 90 %で 10°回転単位の寿命、yは 100%の信頼度である。 またCとFはそれぞれ基本動定格荷重、動定格荷重を示 し単位は[N]である。玉軸受けにおいてはp=3 を与える。 a, さは信頼性係数、R は信頼度、m=10/9(点接触)であ る。さらに、信頼度係数などを乗じて補正を行う必要が ある。 ? 玉軸受けの寿命評価はこの S-N カーブと呼ばれる金属 疲労曲線を基に行うべきだと考えられる。しかし、S-N カーブは前述したとおり、単純な繰返し応力により描か れているため、材料形状の変化などの要素が含まれてい ないため、寿命回転数に誤差が生じる。その誤差を少な くするための機軸を作成する必要性があると我々は考え ており、以下で記述する方法・戦略を構築したい。 2.3 振動加速度測定分析 最近の実機ベアリングでの状態監視保全は振動計によ る加速度測定法が主である。ここでは設定した閾値を超 える加速度信号の頻度を時間に対してプロットして余寿 命を検討する。Fig.3 のように、信号強度の急速な上昇を 解析関数でフィッティングし、異常信号正常信号比を設 定し、それを超える時点をもって、経験的に余寿命を評 価している」フレーキングの6時間Fig.3 Empirical lifetime evaluation by the accelerationmeasurement しかしこの手法も運転条件に多く依存し、余寿命に大 きな幅は生じることが問題となっている。3. 日本保全学会・トライボテックス合同試験平成 20 年度 CMT 分科会技術WGではここまで原子 力・火力・水力プラントの回転機・軸受の劣化分析に実 「績の豊富な(株) トライボテックス[3]と協力して、公開 で軸受劣化加速試験を実施した。専用の軸受劣化加速試54験機を使用し、振動・AE・油中磨耗粒子分析を行い、結 果を公開して分析・議論するのがベストと判断した。専 用試験機は、駆動モーター、トルクメーター、片支持型 荷重印加装置、各種センサ・計測システムが装填・稼動 している。軸受は深溝玉軸受で外径 55mm、動・静定格 荷重 13.2,8.3kN である。回転数 1,500、横荷重は 16.4kN まで印加可能で、破壊まで 40-72 時間程度で到達可能で ある。ベアリングは、10cm(高さ)x10cm(幅)x8cm(奥 行き)程度の鋼製ケースに装填されてそれにテコ構造に よって横荷重を印加する。潤滑油浸漬用アクリル透明容 器内に設置されている。グリス装着も可能である。ケー スには、振動計、AE センサがとりつけられている。モー ターと反対側軸方向からベアリングのかなりの部分が直 視できる。グリス使用の場合は油液面がないので、観察 はさらに容易になる。さらに油中の微粒子の定期的分析 も行う。今年度横荷重負荷による劣化加速試験を4回行 った。測定系は、振動計、AE センサ、油分析を行った。 結果はスライドで紹介するが、振動計、AE による測定は 開始から破壊まで連続して行い、定期的に油分析も行い、 破壊直前では異常音の取得も行った。結果の1例を Fig.4 に示す。以前からの知見の確認ではあるが、振動・異常 音の前に、AE に有意な信号で出て、その低下後に振動が 有意となり、破壊に至った。油中の磨耗粒子のサイズの 変化がかなり感度高い劣化の指標になりえるかもしれな いことが示唆された。2章で紹介した既往の寿命評価法の問題点は、軸受けを ブラックボックスとして捉え、限られた物理パラメータ を簡略な関数で結びつけようとしているため、内包され た実験条件の影響を大きく受け、数値誤差が甚大となる ことである。本試験では、磨耗粒子という疲労破壊の物 的証拠を運転中に取得できるという大きな利点を確認し た。磨耗粒子の分析で疲労剥離破壊の様子を分析できる。もう1つの材料力学情報として、残留応力の評価があ る。次章で説明するように、わが国の最新先進ビーム技 術がそれを可能にしてくれるかもしれない。+-OVERALL ・・AEイベント() 実験前436minAEイベント,Count/min.*393min1.00100180002303E+26Fig.4 Bearing degradation test at TRIBOTEX Co.4. 残留応力試験4.1 J-PARC BL-19 “TAKUMI““J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex,大強 度陽子加速器施設)は茨城県東海村の日本原子力研究開 発機構(JAEA)内にあり、JAEA と高エネルギー加速器研 究開発機構(KEK)の共同運営されている施設である。 J-PARC は入射器・3 GeV シンクロトロン・50 GeV シン クロトロンからなり、我々が使用しようとしているビー ムラインは3 GeV シンクロトロンにある物質・生命科学 実験施設(MLF)のBL-19 “TAKUMI““である。BI-19は工学 材料回折装置であり、パルス中性子を用いた中性子回折 による応力・ひずみなどを測定できる。“TAKUMIYは最 高分解能 0.2%以下の設計性能を誇っており、ひずみ・応 力測定精度が非常に高い。また、広い格子間距離測定能 力と世界トップクラスの中性子フラックスを有し、実験 ステーションに十分なスペースがあるので、短い測定時 間で多くの部品の自動移動連続測定が可能となり限定さ れたマシンタイムで多くのデータ取得が可能であると考 えている。Fig.5 に TAKUMI 内にある試験環境を示す。 中性子ビームに対して90°方向に2つの検出器を配置して ある。DetectorDetectoreuti on BeamSampleFig.5 Test Stand at J-PARC BL-19 4.2 中性子による残留応力測定 - 金属中の残留応力測定法として、中性子を使った回折 による測定法は、X 線法に比べ、任意の深さのデータが 取得できる大きな利点がある。特に J-PARC MLF BL-19 におけるパルス中性子は幅広いエネルギー分布を持つ中 性子が生成されるため、飛行時間法(Time of Flight 法, ToF 法)により一度に多くの情報を得ることができる。ToF 法 は中性子の飛行距離を固定し、飛行時間の違いを測定す る。これによって中性子速度を割り出し、波長を決める ことができる。今飛行距離を L とし、中性子の運動量p とすれば55で表すことができる。金属結晶格子間距離をdとすれば、 Bragg 回折の法則から、htd = nu(2sin 0)-3で表せる。さらに、無応力状態の格子間距離と測定され た格子間距離から格子ひずみを求め、回折面ごとの格子 ひずみから残留応力を求めることが可能である。Fig.6に J-PARC を利用した中性子回折法の原理を示す。 測定でき る dの違いからひずみを測定でき、応力を求めることが できる。[4]AcceleratorProtond sin TargetNeutron SampleModeratorDetector Fig.6 Principle of Neutron Diffraction Method5. ベアリング余寿命評価新手法の構築我々が提案する新しいベアリングの余寿命評価法は残 留応力の大きさを基準軸として、AE 信号・振動信号など の観測データを評価することにより余寿命を推測する手 法である。この手法を実現し、評価法として有意義なも のにするために以下のような実験を行う。 (1) 加速劣化試験により疲労状態の違うベアリングを作成する (2) J-PARC BL-19 においてベアリングの残留応力を測定する (3) 残留応力の測定結果と加速劣化試験での疲労状態の対比を行う (AE や振動信号と残留応力を結びつける) (4) S-N カーブを活用し、状態監視できる手法であるAE や振動信号の状態から余寿命を推定する (5) 油分析やX線[5]などといった手法で損傷の度合いなどを評価する 以上のプロセスを踏んで余寿命評価手法を構築したいと 考えている。このような手法を確立できれば、AE や振動 といった状態監視できる手法のデータが S-N カーブを用 いて残留応力状態と余寿命を評価できることになる。Fig.7 に我々の提案する評価手法の流れを示す。Make bearings had some damagesSome types of stress Measure residual stress of bearingsJ-PARC MLF BL-19 Refer to S-N curveAE signal Oscillation signal Oil analysisEvaluate life timeFig. 7 Strategy of quantitative lifetime evaluation サンプルは損傷試験を行う予定でいるトライボテック ス株式会社において加速劣化試験を行ったベアリングを 使用し、J-PARC での残留応力試験を本年 10 月と来年1 月に予定している。この方法は回転機を用いている他の 産業にも応用できると考えられ、構造物の保全活動に非 常に役に立つと考えている。5.結言(1) ベアリングの既往の余寿命評価について解説した。 2) J-PARCのBL-19 “TAKUMIYを利用した中性子回折法に よる残留応力測定法を検討し、本年 10 月に劣化ベア リングを用いた測定試験を行う予定でいる。 3) 劣化加速試験での AE・振動分析情報、磨耗粒子分析、 1 残留応力測定によって、ベアリング材の疲労破壊 S-Nカーブ取得とそれによる材料科学的寿命表を試みる 4) AE・振動・油分析・中性子・X線の融合により、より 高度な状態監視保全の実現を目指した新しい余寿命 評価法の構築を実現したいと考えている。謝辞本研究はトライボテックス株式会社とJ-PARCのBL-19 のグループとの共同で行われる研究である。参考文献[1] M. Uesaka et al., Proc. of 7th International Conference onNDE on Structural Integrity for Nuclear and PressurizedComponents, (2009) (to be published) [2] 清水茂夫“機械系のための信頼性設計入門” 数理工学社,2006 [3] 川畑雅彦“潤滑油診断技術の発電設備への適用” 1 日本非破壊検査協会, 非破壊検査, Vol58, 1 (2009) [4] 鈴木徹也“中性子回折の材料工学への活用”,電気製鋼, Vol.77, 1, pp.39-44 (2006) [5] 山本智彦他、本講演会予稿56“ “?状態監視保全定量化の戦略 “ “上坂 充,Mitsuru UESAKA,山本 智彦,Tomohiko YAMAMOTO,橋本 英子,Eiko HASHIMOTO,加畑 晶規,Akinori KAHATA