伝熱管検査技術高度化のための磁性粉探傷用蛍光マイクロカプセルの作製

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
近年、原子力発電プラントの高経年化が進んでおり、 プラントの維持管理において非破壊的に伝熱管の欠陥 を検出することが最重要課題となっている。伝熱管の 非破壊検査として、超音波探傷・渦電流探傷・磁性粉 探傷などの超音波や電磁場を用いる方法がある[1, 2]。 - 磁性粉探傷技術(magnetic particle testing, MT)は、磁気 の性質を利用した非破壊検査の一つであり、伝熱管に 磁場を加え伝熱管の欠陥部に生じた漏洩磁場により磁 粉を磁化させ、欠陥部に生じた磁極に磁粉を吸着させ る手法であり、磁粉の磁気模様の有無により欠陥の検 出が行われる。これらの特徴から軽水炉においては、 渦電流探傷検査(Eddy Current Testing, ECT)だけでなく、 MT検査も行われている[3]。ECT検査は電磁誘導を利用するため、伝熱管に接触 することなく、また計測結果が電気信号として得られ るため高速な検査が可能という長所はあるものの、材 料の磁気特性や微小な形状の変化に影響を受けやすい という短所がある。一方、MT検査は複雑な形状および 深さが数μm以上の欠陥でも検出可能という長所はあ るものの、伝熱管内に磁性粉を散布する必要があると いう短所がある。一般に使用されている磁性粉の粒径 は数μmから数十μmと小さく、観察後の伝熱管欠陥内 一部に吸着した磁性粉を取り除くことは困難である。そ のため補修作業を行う際に、残存した磁性粉は不純物 となるおそれがある。一方、カプセルは液体や固体物質を壁膜物質で被覆 したものであるが、被覆しない場合と比べると、多種 多様の性質を持たせることが可能である。またカプセ ルの形状と材質を調整し、内包する物質の組み合わせ により様々な応用が期待されている。現在マイクロカ プセルは医薬品・芳香剤・洗剤・化粧品などの製品と して利用されている。とりわけレーザー慣性核融合の 燃料ターゲットにおいては、極めて高精度な形状をも つマイクロカプセル製造技術が要求されている[4, 5]。 ここでは、この高精度な形状をもつマイクロカプセル 製造技術を利用し、磁性粉を内包したマイクロカプセ ルの作製を試みた。この磁性粉を内包したマイクロカ プセルとMT検査技術を組み合わせることで、極めて効 果的にMT検査を行うことができる。
2. 磁性粉探傷用マイクロカプセル
2.1 作製方法 - 市販されている磁性粉を内包したマイクロカプセル の作製を行った。エマルジョンを安定化させるために、 油相(0相)と水相(W1相)の密度を一致させ、重力の影響 を緩和する方法で作製し(密度整合エマルジョン法) [4, 5]、溶媒散逸過程における0相の壁膜の厚みを一様 にする攪拌工程[6]を経てマイクロカプセルを作製した。 マイクロカプセルの作製手順をFig.1に示す。エマルジ ョンのO相は、重合性の単量体ではなく、高分子を溶解 した有機溶媒が用いられた。これは、溶媒の散逸後に551残留した高分子がカプセル化する手法である[4, 5]。W1 相は磁性粉・界面活性剤・純水であり、W2 相は 5wt%ポリビニルアルコール水溶液である。0相はポリ スチレンをベンゼンと 1,2-ジクロロエタンの混合有機 溶媒に溶解させた溶液である。マイクロカプセルの作 製前に、これら3種類の溶液密度の調整を行う必要が ある。W1 相・W2 相の密度は約 1.05 であるため、0相 の密度も 1.05 に調整するためベンゼンと 1,2-ジクロロ エタンの比率を変化させた。次にW1相(3ml)とO相(4.5ml)をサンプル瓶の中に入 れ、攪拌することによりW1/0エマルジョンを作製した。 溶媒の散逸によりW1/0エマルジョンをカプセル化す るため、このエマルジョンをW2相(500ml)の入った 500ml ビーカ中に滴下し、70°Cで2時間加熱攪拌を行っ た。その後、高分子のカプセル化の確認を行い、W2相 を取り除くための洗浄を行い、一部のマイクロカプセ ルを乾燥させた。はじめました。メンテさんしかし、tr? Polystyrene Mized solution of benzene and 1,2-dichloroethane (O phase) ・ dispersed magnetic powder in0.05wt% polyvinyl alcohol (PVA) (W1 phase)VIO emulanstirole in 5t%PVA in 50+ PAWIO IW emulsion heating wioc,70°C,2h (W2 phase) Fig. 1 Procedure of the capsule containing the finemagnetic particles.2.2 作製結果および考察 * マイクロカプセルに内包する磁性粉(0.095wt%、10wt %、20wt%および 50wt%)の割合を変化させてカプセル の作製を試みた。その結果、50wt%の磁性粉をマイク ロカプセルに内包させた場合、球形ではなく砂状に変 形したマイクロカプセルが得られた。O相に含まれる ポリスチレンは、重合によるマイクロカプセル法に比 べて、重合反応中の密度増加および単量体の影響が少 ないため、歪みや気泡の欠陥が生じにくいという長所 があるにもかかわらず、砂状に変形した形状が得られ た。この原因として、0相・W1 相・W2 相の密度不整 合が考えられる。マイクロカプセルの作製過程におい て、重力を緩和した状態で作製する必要があり、0相・ W1 相・W2 相の密度整合は不可欠である[7]。しかし磁 性粉を内包したカプセルの場合、W1相は、沈殿する磁性粉を含有させているため、0相・W1 相・W2 相の 密度整合は容易でない。50wt%の磁性粉を含有させた 場合、加熱攪拌中にエマルジョン内に磁性粉が沈殿し たため、形状が変形したと推察される。0.095wt%、10wt%および 20wt%の磁性粉をマイクロ カプセルに内包させた時、10wt%および 20wt%の磁性 粉マイクロカプセルでは、マイクロカプセル同士の集 合する傾向が認められた。これはマイクロカプセル自 体が磁化体となり集合したと推察した。しかし、0.095 wt%の磁性粉マイクロカプセルの場合、マイクロカプ セルの集合は認められなかった。乾燥後に撮影した直径 100 u m~1mm の 0.095wt%の 磁性粉マイクロカプセルを Fig.2 に示す。Fig.2 のマイ クロカプセル内部にある矢印部分が磁性粉であり、一 カ所に集合していることが確認できる。これは密度の 高い磁性粉が乾燥段階で下部に溜まったためであると 考えられる。また、W1 相と0相の攪拌により 0相に W1 相の微 粒子が分散し、この微粒子の大きさはマイクロカプセ ルの内径となることが確認された[5]。そこで、微粒子 の大きさを制御するため、W1 相とO相の攪拌速度を 変化させた結果、マイクロカプセルの直径もこれに応 じて変化することを確認した。従って、攪拌速度をパ ラメータとすることで、検出対象の欠陥部の大きさに 適したマイクロカプセルを製作することが可能である。100μm Fig.2 Micrograph of the micro capsulecontaining the fine magnetic particles.さらに、MT 検査技術に適応するため、電磁石の上 に 20wt%の磁性粉マイクロカプセルを浮遊させた純水 が入ったシャーレを置き、磁石の強さによるマイクロ カプセルの移動変化についての試験を行った。Fig.3 に 試験の様子を示す。その結果、20wt%の磁性粉マイクロカプセルの場合 電磁石の起磁力が 50~100AT では僅かに引き寄せられ、552,起磁力が 100AT 以上では素早く引き寄せられた。10wt %の磁性粉カプセルの場合、起磁力が 100AT で僅かに 引き寄せられたものの、起磁力が 50~100AT では引き 寄せられなかった。一方、0.095wt%の磁性粉マイクロカプセルの場合、 起磁力が 100AT においてもカプセルは引き寄せられな かった。この磁性粉マイクロカプセルが引き寄せられ なかった理由として 0.095wt%の磁性粉カプセルの場 合、磁性粉の内包量が僅かであったためと考えられる。加電流100ATFig.3 Photo of the micro capsule containing thefine magnetic particles. (when an electric current flows through an electromagnet)試作した磁性粉のマイクロカプセルは、市販の磁性 粉と同等の性能を示した。市販の蛍光磁性粉は粒径分 布に広がりがあるため、微粒子が伝熱管欠陥内部に吸 着した場合、これを完全に取り除くことは困難となる。 また、蛍光剤と磁性粉の剥離も生じる。しかし、この 磁性粉マイクロカプセルは大きさの制御が可能である ため、この磁性粉マイクロカプセルを利用することで、 欠陥部の漏洩磁場に集まった磁性粉が伝熱管の欠陥内 部に入り込むことを防ぐことが出来る。また、漏洩磁 場より大きな磁場をかけることで、磁性粉をマイクロ カプセルごと取り除くことが容易となる。加えて、マ イクロカプセルが、磁性粉と蛍光剤を内包することで 両者の剥離を防止する効果をもつ。3. 結言目視観察が容易となる磁性粉マイクロカプセルの作 製を行った。50wt%の磁性粉カプセルの場合、形状は 砂状に変形したが、0.095wt%、10w%および 20wt%磁 性粉のカプセル場合、直径が 100 μ m~1mm の球形の磁 性粉マイクロカプセルが得られた。10wt%および 20wt%の磁性粉マイクロカプセルは、マイクロカプセ ル同士が集合し、起磁力が 100AT の電磁石に引き寄せられた。一方、0.095wt%の磁性粉マイクロカプセルの 場合、マイクロカプセルの集合はなく、また起磁力が 100AT の電磁石に引き寄せられなかった。 - 今後、伝熱管溶接部に生じる応力腐食割れの検出に 本技術を適用するにあたり、ここで示したマイクロカ プセルの粒径に関する特性に加えて、感度の高いマイ クロカプセルを作製するため、磁性粉の包含量の最適 化を行う。さらに目視観察を容易にするため、紫外線 に対する高効率の蛍光特性の付与を行う必要があり、 カプセルの壁膜部分に蛍光色素を含有させる。「謝辞日本原子力研究開発機構FBRプラント工学研究センタ 一保全技術グループ・山口智彦氏に磁性粉探傷技術方 法および伝熱管内壁の検査方法などの有益な討議を頂 きました。参考文献[1] 永井辰之, ““超音波法による欠陥定量化技術““, 非破壊検査, Vol.57, No.3, pp115, (2008). [2] 佐伯郎, ““我が国における渦電流探傷の歴史(3)““, 非破壊検査, Vol.57, No.3, pp133, (2008). [3] press release in Ministry of Economy, Trade and Industry homepage, http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0005042/0/040318genshi.pdf. [4] 長井圭治ら, ““レーザー核融合, レーザープラズマ実 12 験用ターゲットの製作技術と新材料の利用““, J.Plasma Fusion Res., Vol.80, No.7, pp 626, (2004). [5] F. Ito et al., ““Low-Density-Plastic-Foam Capsul ofResorcinol/Formalin and (Phloroglucinol carboxylic Acid)/Formalin Resins for Fast-Ignition Realization Experiment (FIREX) in Laser Fusion Research““, Japanese Journal of Applied Physics, 45, pp L335,(2006). [6] F. Ito et al., ““Optimization of Gelation to Prepare HollowFoam Shell of Resorcinol-Formalin Using a PhaseTransfer Catalyst““, Fusion Science and Technology,49, pp 663, (2006). [7] F. Ito et al., “Resorcinol-Formalin Foam Balls ViaGelation of Emulsion Using Phase-Transfer Catalysts ”,Macromolecular Chemistry and Physics, 206, pp 2171, (2005).553“ “伝熱管検査技術高度化のための磁性粉探傷用蛍光マイクロカプセルの作製“ “伊東 富由美,Fuyumi ITO,西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA
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