転がり軸受加速劣化試験

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
我が国の原子力プラントにおける従来の保全方式は、 時間基準保全(TBM)が主流であり、一定時間ごとの点 検により設備の信頼性や健全性が担保されてきた。しかし、2009 年1月から始まった新検査制度では、 設備・機器の稼働中に状態を把握し、適切で的確な保全 を実施する CBM(状態基準保全)への期待が高まると 同時に、保全技術や状態監視技術の高度化が求められ ている。[1]諸外国の原子力産業および国内の非原子力産業にお いては、既に CBM への移行が積極的に進められてき ており、その結果としてトラブル発生率の低減や高い プラント稼働率が実現されている。プラントの高経年化に伴い、我が国の原子力プラン トには保全の高度化が強く求められており、TBM から CBM、もしくは TBM と CBMをベストミックスさせた 保全方式などが検討されている。
2.目的
今回の研究は、回転機器の状態監視技術として最も 用いられている振動法に、潤滑油診断法と AE 法を加 え、転がり軸受の加速劣化試験のデータを3つのパラ メータで同時に監視し、これまで明らかにされていな かった転がり軸受が健全な状態から破壊に至る過程と 各パラメータの劣化への応答性を確認するとともに、 パラメータの複合化の有効性について検討する。また、試験結果から劣化の判定基準の策定につなが る新規パラメータを検討し、状態監視技術の高度化に 資することを目的とする。3. 実験3.1 転がり軸受加速劣化試験fig.1 は本試験に使用した軸受で、寸法および定格荷 重などの諸元を Table 1 に示す。軸受タイプは深溝玉軸受で、呼び番号 6006CM、内 径 30mm、外径 55mm、幅 13mm、動定格荷重 13.2kN、 静定格荷重 8.3kN である。試験機は、fig.2 に示す転が り摩擦試験機を使用した。試験用の軸受は、試験機の 主軸端部の軸受箱に組み込まれ、主軸はモーターと減fig.1 試験用軸受 Table 1 試験用軸受の諸元軸受タイプ | 深溝玉軸受 呼び番号6006CM 内径 ,mm30 外径 ,mm13 動定格荷重,kN13.2 静定格荷重,kN | 8.3(i)試験部()荷重部 fig.2 転がり摩擦試験機Table 2 試験条件 荷重 ,kNT 荷重1kN 最大面圧 ,GPa | 最大面圧,GPa 長径2a_,mm | 長径2a_,mm 短径26mm 短径26mm 試験油粘度グレード | 試験油粘度グレード回転数 min-1 |回転数 ,min-1 fig.3 接触だ円軸受温度 ,°C 「軸受温度 ,°C,mm55幅速機で結合して回転される。試験条件を Table 2 および fig.3 に示す。試験荷重は、 試験用軸受の動定格荷重の 1.24 倍となる 16.4kN とし た。内輪の最大接触圧力は 4.1GPa で、接触面は fig.3 に示すように楕円形状となり、長径 2a が 8.3mm、短径 2b が 0.4mm となる。試験油は ISO VG10 相当の鉱油を 使用した。転がり軸受の損傷兆候は、振動加速度データを監視 しながら確認し、加速度の実効値が設定値を超えたと き、または損傷音が確認されたときを試験停止とした。 2.2 AEならびに振動の測定方法 AE は、fig.4 に示す測定系によって測定を実施した。 測定系は、AE 変換子、前置増幅器、フィルタ・主増AE変換子AE変換子ピックアップ前置増幅器フィルタ・主増幅器一主軸入力信号 1AEイベントバルス 2AEカウントパルス弁別器fig.5 測定位置パルスカウンターオシロスコープ || コンピューター fig.4 AE 測定系のブロック図幅器、弁別器、パルスカウンター、コンピューター、 オシロスコープから構成されている。AE 変換子は強誘 電体の圧電性を利用して AE 信号を電気信号に変換す るものである。ここで使用した変換子は、PZT(チタ ン酸ジルコン酸鉛) 製であって、300~1,400kHz に共振 点を持たない。一般に、変換子出力が小さいので、信 号の後処理のために増幅される。増幅はノイズ対策を 考慮して前置増幅器と主増幅器の2段階に分けて行う。 バンドパスフィルタが試験機の振動などノイズを除去 するために組み込まれている。弁別器は、入力信号を 包絡線検波し、検波信号のうち振幅が設定した閾値を 超えた信号のみをパルス信号に変換してカウンタに出 力する。オシロスコープは AE 波形の観察、記録に用 いた。振動測定は、周波数 0.005~12kHzの範囲で加速度成 分を検出できる振動計を使用した。これは片振幅の実 効値(3回目の試験は両振幅)を表示し、記録計に出力す る機能を有しており、さらに実効値が設計値を超える か、軸受の損傷音が確認されたときに荷重を外し、同 時に試験機を停止する。AE 変換子および振動ピックアップは、試験軸受が収 まっている軸受ケースの上面にセットし、AE 変換子は 受信面にグリースを塗布しねじで押さえ付け、ピック アップは強力な磁石により密着させた。583.試験結果13.1 試験1回目fig.6 に試験中に測定した試験1回目の軸受温度、油 温、回転数、回転トルクを示す。試験は、荷重 16.4kN 一定で行なっており、それに伴い回転数、回転トルク に変動は確認されなかった。軸受温度は油の冷却によ り 60°C以下で軸受が損傷するまで継続した。今回、動180016001400油温 °C.軸受温度 °C トルク Nm.供給油温 °C回転数 min'一油温 一受温度 ートルク 供給油温 回?設600100200400300 試験時間 minfig.6 測定データ (1回目)美?後OVERALL ーAEイベント(回)実験前AE加速度.G436min. Count/min5.393minMothemotoon100100150200 250 300試験時間, min350400450500|fig.7 AE,振動,摩耗粒子(1回目)()光学顕微鏡写真。(ii)SEM写真(iii)転動体の損傷fig.8 疲労進行期の摩耗粒子監視パラメータとして着目した AE 信号と振動加速度 と静監視パラメータとして着目した摩耗粒子診断の結 果を fig.7 に示す。[2],[3]この結果から確認された点は、疲労の兆候を捉える 点で最も早期に捉えたパラメータは AE 信号であり、 次に摩耗粒子、そして振動加速度の順となったが、振 動加速度の検出は損傷とほぼ同時であった。AE 信号は、 振動加速度が検出される 50 分近く前から検出され始 め、AE カウントレートは振動加速度が検出される直前 まで顕著な増加傾向を示していた。この様子から、軌 道面内部に試験開始と同時に動定格荷重の 1.24 倍にあ たる 16.4kN の荷重を受けたことにより大きな弾性変 形が発生し、転がり運動を繰り返しながらひずみエネ ルギーが蓄積され、試験開始から 380 分経過した付近 で蓄積されたエネルギーが開放され、AE 信号として検 出したものと考えられた。 - AEに次いで状態の変化を検出したのは、静監視パラ メータである摩耗粒子である。摩耗粒子の検出特徴は 2点確認された。始めの1点は、試験開始から64 分後 に採取した試料油中に観察されたなじみ過程で発生す る摩耗粒子が観察された点で、もうひとつの点は、AE 信号が検出されなくなり、振動加速度が検出されるま での間に転がり軌道面の疲労摩耗により発生した摩耗 粒子が増加していることを捉えた点で、試験開始後 436 分に採取した試料油中にこの摩耗粒子が観察された。 * 最後に検出されたのは、動監視パラメータである振 動であるが、試験開始後 442 分で損傷音とともに振動 加速度が 0.1G から 0.4 に増加し、1.5Gとなったためこ の時点で試験機を停止した。試験後、試験軸受を分解して確認した結果、fig.8(iii) に示すように転動体の損傷が確認された。 3.2 試験2回目 - 試験2回目は、初期荷重を 14.2kN とし、AE カウン トレートの増加が確認されてからは 12.2kN に変更し た。Fig.9 に試験中に測定した試験 2回目の軸受温度、 油温、回転数、回転トルクを示す。試験時間 750 分経 過付近で軸受温度、油温、回転トルクが下降している が、これは 740 分から AE カウントレートが増加し、 損傷の兆候と思われたため、荷重を 14.2kN から 12.2kN に変更したためと推定される。試験中での荷重の変更 は、劣化の進行を緩和し、各パラメータで極力多くの データ採取ができるように工夫したものである。しか し、AE 信号が検出されなくなってから、振動加速度が59検出されるまでの時間および進行期から損傷に至るま での時間は、試験1回目とあまり変わらなかった。 尚、劣化進行期における AE 信号、摩耗粒子、振動加 速度の変化は、試験1回目と同様に AE 信号、摩耗粒18001800・軸受 ートルク 一供給油温 一回転数1600160014004001200トルク Nm,供給油温 °C回転数 min'油温 °C.軸受温度 °C, トルク Nm,供給油温 °C回転数 min““600400400軸受温度 ・トルク 供給油温 ・回転数20020080010004 00 600試験時間 min5001500fig.9 測定データ(2回目)1000試験時間 min fig.12 測定データ (3回目)大切」fig.9 測定データ (2回目)美瞭後7000OVERALL AEカウント(回)6000実験前1038min948min加速度.GAEイベント, Count/min758min2004 00600 試験時間, min8001000fig.10 AE,振動,摩耗粒子(2回目)(i)光学顕微鏡写真(ii)SEM FIT(iii)転動体の損傷fig.11 疲労進行期の摩耗粒子子、振動加速度の順に検出された。 3.3 試験3回目 3 回目の試験は、試験 2 回目と同様に初期荷重を 4.2kN とし、AE カウントレートの増加が確認されて50015001000 試験時間 minfig.12 測定データ (3回目)美?後4000OVERALL ・AEカウント(回) 実験前」35001539minAEA1443min加速度.G469min. Count/min012月 200400V600 800 1000試験時間, min12001400fig.13 AE,振動,摩耗粒子(3回目)(i)光学顕微鏡写真(ii)SEM写真(iii)転動体の損傷。fig.14 疲労進行期の摩耗粒子から 12.2kN に変更した。但し、試験3回目は劣化進行 目の出現時期を調整するため、荷重を 12.2kN から段階 内に 16.3kN まで変化させた。 3回目も、2回目の試験同様に試験時間は全体的には 正びたが、劣化進行期の継続時間は、試験1回目およ ド2回目と変化はなかった。 試験3回目は、振動加速度の測定周期を進行期後半ニ劣化進行 から段階体的には 回目およ行期後半 レートが 加速度が 子は振動 で疲労摩●兆候を検っら 12.2kN に変更した。但し、試験3回目は劣化進行 月の出現時期を調整するため、荷重を 12.2kN から段階 コに 16.3kN まで変化させた 3回目も、2回目の試験同様に試験時間は全体的には びたが、劣化進行期の継続時間は、試験1回目およ が2回目と変化はなかった。試験 3回目は、振動加速度の測定周期を進行期後半 - 30 秒間隔に変更できたため、AE カウントレートが コウントされなった後ではなく、直前に振動加速度が 二昇を始めていることが確認された。摩耗粒子は振動 ロ速が検出される 20 分前に採取した試料油で疲労摩 毛粒子の増加が確認された。3. 結言DAE は、振動加速度より速い段階で劣化期の兆候を検出した。 5摩耗粒子は、AE や振動では捉え難い、初期摩耗の段階を検出した。 摩耗粒子は、振動法より早い段階で疲労の進展を検 出した。謝辞本研究は、日本保全学会 CMT 分科会の技術ワーキ ・グループの平成 20 年度研究公募に基づき実施され 二。研究にあたっては日本保全学会をはじめ、懇切丁な実験指導をして下さった東京大学上坂教授をはじ 5、CMT 分科会技術ワーキンググループの各位に感謝 二。研究にあたっては日本保全学会をはじめ、懇切丁 な実験指導をして下さった東京大学上坂教授をはじ 、CMT 分科会技術ワーキンググループの各位に感謝 摩耗粒子は、AE や振動では捉え難い、初期摩耗の 段階を検出した。 摩耗粒子は、振動法より早い段階で疲労の進展を検 出した。本研究は、日本保全学会 CMT 分科会の技術ワーキ グループの平成 20 年度研究公募に基づき実施され 。 研究にあたっては日本保全学会をはじめ、懇切丁 な実験指導をして下さった東京大学上坂教授をはじCMT 分科会技術ワーキンググループの各位に感謝 たします。考文献 ] 川畑雅彦, “ 発電設備におけるメンテナンストライボロジービジネス” , トライボロジスト , 49,3(2004), pp206-212. ] 川畑雅彦 潤滑油診断技術の発電設備への適用”, 日本保全学会, 「第一回検査・評価・保全に関する連携講演会」, 2008, pp65-68. ] 赤垣友治,加藤康司,川畑雅彦, フェログラフィー及び発光オイル分析法によるジャーナル軸 受の異常診断に関する研究”, トライボロジスト, Vol.39.11. 1994,979-986, pp47-54たします。==考文献 ] 川畑雅彦, “ 発電設備におけるメンテナンストライボロジービジネス” , トライボロジスト, 49, 1-3(2004), pp206-212. ] 川畑雅彦 潤滑油診断技術の発電設備への適用”, - 日本保全学会,「第一回検査・評価・保全に関する連携講演会」, 2008, pp65-68. 赤垣友治,加藤康司,川畑雅彦, フェログラフ ィー及び発光オイル分析法によるジャーナル軸 受の異常診断に関する研究”, トライボロジスト, Vol.39. 11. 1994, 979-986, pp47-54- 61 -“ “?転がり軸受加速劣化試験“ “川畑 雅彦,Masahiko KAWABATA,佐々木 義憲,Yoshinori SASAKI
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