ガイド波多重反射エネルギー閉じ込め法による高感度欠陥検出法

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カテゴリ: 第6回
1.緒言
近年、配管の長手方向に長距離伝搬するガイド波 [1][2]を用いた配管の検査技術が注目を集めている。し かし、配管の状態によっては欠陥検出が困難であり、 現状の励起検出効率では不十分であることからガイド 波の励起検出効率の向上が課題となっている。筆者らは、ガイド波用センサーの近傍に反射体を設 置することで励起・検出効率を向上させる方法[3]の研 究を実施している。これまでに、反射体を適切な位置 に設置することにより、欠陥反射の振幅値を概ね2倍 強向上させることに成功している[4]。 - 本報告では、更に欠陥検出感度を向上させる手法と して多重反射エネルギー閉じ込め(Multireflecting Guided wave Energy Trapping; MGET)法を提案する。こ れは検査部位を限定する一方で、大きく欠陥検出感度 を向上させる手法である。ここでは MGET 法の原理確 認と理想的な条件下での欠陥漸増実験を行った結果、 前記の反射体を用いた方法に比べ最大で 5.6 倍、従来 法に比べて 14 倍程度の感度向上が得られたので報告 する。また本手法は磁歪センサー、圧電センサーの 2 種類のセンサーを用いて検証を行った結果、いずれも 概ね同様の結果が得られたが、本報告では、磁歪セン サーで得られた結果を用いて説明をする。 連絡先:西野秀郎、〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町 2-1、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部、電話: 088-656-7357、e-mail:nishino@me.tokushima-u.ac.jp
2.原理及び実験方法
2.1 MGET 法の原理 MGET 法は配管の任意の2ヶ所に反射体を設置し、そ の中にガイド波を励起・伝搬させる。それにより2カ 所の反射体で挟まれた領域で、ガイド波の多重反射が 発生する。領域内に欠陥が存在すると、多重反射に伴 い以下に示す原理で、欠陥信号の振幅が増幅され検出 される。以下詳細に示す - Fig. 1に原理図を、また得られる波形を Fig. 2 に示す。 Fig. 1 と Fig. 2 に示す1~6の伝搬経路と波形は、送信 センサーで励起されたガイド波が受信センサーで検出 されるまでの主要な伝搬波を伝搬時間の短い順に番号 を記載したものである。MGET 法において重要なのは、5と6の伝搬経路で ある。3は、減肉欠陥→左側反射体→右側反射体で検 出されたガイド波と、右側反射体→左側反射体→減肉 欠陥で検出されたガイド波である。これら2 つの経路 は、伝搬経路が異なるだけで、伝搬時間と距離が全く 同じ信号となる。ここで反射体の反射率が 100%で、 ガイド波の伝搬減衰が無いとすれば、減肉欠陥での反 射強度が2倍になって検出されることを意味する。6 についても同様に、伝搬経路が異なるが、伝搬時間が 同じ信号が 3 通り考えられ、減肉欠陥での反射強度が 3 倍になって検出される。さらに反射体の中で多重反 射を繰り返せば、4倍、5倍と多重反射の回数に比例し64て減肉欠陥での反射強度が大きくなる。 - 以上が、反射率を 100 %とした理想的な場合の MGET 法の原理である。ここに反射体での反射回数を n、反射率を R 、減肉欠陥での反射率と透過率を r、t とし、伝搬減衰は比較的小さいのでこれを無視すると、 減肉欠陥での反射波強度Iは、以下の式で表せる。-1反射体 送受信センサー反射体一欠陥ΔΛΠΑ ΠΑΛΙ ΔΛΙΔΙΑFig. 1 Propagation paths of reflection at the reflectors anda defect.-51_234 Propagation time (ms)Fig. 2 Time-domain signal2.2 検証実験方法 - Fig. 3に実験の配置図を示す。今回は原理確認を行う ため、より理想的な状態として、反射率がほぼ 100% である管端に送受信センサーを設置し、実験を行った。 実験には外径 60 mm、肉厚2mm、長さ2m のアルミニ ウムパイプを用いた。なお、アルミニウム T(0, 1)の音 速は実測値で3120 m/s であり、送信するガイド波は6 波の sin 波の前後2波に窓関数(ガウス窓の立ち上がり 部と立ち下がり部)を掛けたものを使用し、周波数は 50 kHz(波長 n=62 mm)とした。また、人工欠陥はセンサー 側の管端から 710 mm の位置にパイプに減肉深さ 0.05 mm ずっ円筒状に漸増させ計測した。20001710Al pipe送信センサー 受信センサー 欠陥Fig. 3 Schematic illustration of the Al pipe,sensors and a defect.3.実験結果 * Fig. 4 と Fig. 5 に欠陥深さ 1.50 mm(断面欠損率 5.17 %)の受信波形とその拡大図を示す。Fig. 4におい て、伝搬時間の増加と共に両方の管端での多重反射信 号が減衰することが確認できる。一方で、Fig.5 よりそ の間の欠陥の信号が伝搬時間とともに増大している様 子が確認できる。Fig. 5 中の1~3に示した各波束の振 幅値は、Peak-to-peak で 25.4 mV, 50.5 mV, 76.3 mV であ り、往復回数の増大と共に2倍、3倍と増幅している ことが分かる。そして、10 ms 付近で最大振幅値を取り、 それ以降は減衰することが確認できる。今回は理想的 な状態として、反射率が 100%に近い管端反射を利用 し、検証実験を行ったため、このような高感度の欠陥 検出が可能となった。しかし、現状で反射体の反射率 は 70%程度であり、多重反射による検出波の減衰が大 きくなることは容易に想像できる。従って、出来るだ け 100%に近い反射体を実現することは、今後の最も 重要な開発課題の一つである。-650.01~HawkwwwWWIMWAM..-0.2 |-0.4110152025Propagation time (ms)Fig. 4 Time-domain signal with a defectev.TUNITEAmplitude (V)ーーーFOOTHを10201525めPropagation time (ms)Fig. 5 Time-domain signal with a defectFig. 6 に断面欠損率を変化させたときの欠陥反射の 振幅値を示す。図中の○、△、口はそれぞれ反射体で の反射回数 0回(Fig. 5 の1の波束の振幅)、4回、8回 のときの振幅値を示す。これらの欠陥反射の振幅値は 反射体での反射回数 0 回の反射波を受信したものに比 べ、それぞれ概ね3倍、5倍の向上が得られた。欠陥 検出限界は、多重反射回数が増えると小さくなる傾向 が確認できる。これは通常の検査に比べ早期段階での 欠陥の発見が見込めることを示唆している。 - Fig. 7に欠陥深さ 1.50 mm 時の反射体での反射回数 に対する欠陥反射の振幅値を示す。この振幅値は反射体での反射回数 0回での欠陥反射の振幅値を1とし正 規化している。■で示したものが実験値である。図中 の実線は式(1)より求めた理論値であり、実験結果より 求めた r=0.032 , t=0.985 , R=0.985 を用いた。この結果、 反射体での反射回数0回での反射波を受信したものに 比べ、最大で5.6倍の感度向上を見込めることを示し た。また、実験値と理論値は概ね一致しているが、反 射体での反射回数 15 回目以降では実験値と理論値に 差異が見られた。これは、センサー部での反射、透過 による干渉の影響を考慮していないため、理論値に比 ベ、振幅が小さくなっていると考えられる。6620PT|日8 15F -A-4100Amplitude (mV)0. 00. 51.0 1.5 2.02.5 3.0 Cross-sectional loss (%) Fig. 6 Signal amplitude due to the defect as a function of the cross-sectional loss. The circles, triangles and squares indicate the results that the number of reflection at reflector is zero,four and eight, respectively.#--Normalized amplitude-0L |||||||||||||||0 4 8 12 16 20 24 28 Number of reflection at the reflectorsFig. 7 Normalized amplitude due to the defect as a function of the number of reflection at the reflectors. Line and dotsindicate theory and experiments, respectively.4.結言本報告以前までに、反射体を設置することにより、欠 陥反射を直接受信した際に振幅値を概ね2倍強向上さ せることに成功している。今回、より欠陥検出感度を 向上させる手法として、多重反射エネルギー閉じ込め 法(MGET 法)を提案し、その原理確認と欠陥検出実験 を行った結果、反射体を用いた方法に比べ最大で 5.6 倍、従来法に比べて 14倍程度の感度向上が見込めるこ とを示せた。本方法は、通常のガイド波法に比べて、 検査範囲を制限するが、検出感度を1桁以上上昇させ ることが可能である。微小欠陥の早期発見が可能にな ると期待している。「謝辞本研究は、経済産業省原子力・安全保安院の平成 20 年度高経年化対策強化基盤整備事業の一部として実施 された。参考文献[1] 非破壊検査誌 特集ガイド波による探傷, 52, 12, (2003) [2] 非破壊検査誌 特集ガイド波による探傷 II, 54, 11,(2005) [3] 近藤,吉田,西野, JSNDI 第14回超音波による非破壊 評価シンポジウム講演論文集,p115 [4] 小倉,近藤、吉田、西野, JJSME 2008年次大会講演論文集(1)p337“ “ガイド波多重反射エネルギー閉じ込め法による高感度欠陥検出法“ “小倉 圭二,Keiji OGURA,西野 秀郎,Hideo NISHINO
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